第二十一話 光の先へ
一年二組の生徒たちは一斉に目覚める。そこは淡い青白い光がぼんやりと支配する世界であった。地面も壁も、空も、それぞれの境界すらわからない。しかし暖かくそれでいておぼつかない。
そして皆一様に光の球の姿となっていた。皆戸惑うが悲鳴の一つあげることは出来なかった。声を上げることができないのである。思考はあるが、発声や身動きの類はさっぱりであった。やがてどこからともなく、深みのある男性のような声が辺り一面から鳴り響いた。
貴方たちは図らずも、ある一人の人物の目論見に巻き込まれ元いた世界から切り離されてこのフィリュースへと送られてきました。心中お察しします。
人物はつづけた。
皆さんを元の世界に戻すことは私の力ではどうにもできないのです。しかし、戻る方法が一つ、ただの一つ存在します。それは魔王エッシャザールを滅ぼすことなのです。魔王エッシャザールの創り出した呪いによって皆さんはこちらへと連れてこられました。
エッシャザールはあまりに強大な力を持つ魔王。貴方たちでは直視することすら敵わぬ強大さ。ですから我々が力を与えます。どうか、どうか貴方たちを元の世界へ戻すために魔王を打ち倒すお力添えをしていただきたい。そのために我々が貴方たちを特別な存在へと転生させます。無論、帰還の際にはお戻しいたします。どうか、どうか……
声が消え、光の球となった彼らは、自身の光よりも眩い光をまとい始める。
再びあの声が、薄れゆく感覚の中で心に深く刻まれる一言を残した。
山口功、その男はエッシャザールによって悪魔へと転生し、その手先として働いています……
光の球はいくつかのまとまりに分かれると、四方へと散っていった。それらはやがて光の空間から消え去ると、シラバルサンサの空からゆっくりと地表へ降り立った。山口功の被害者となった彼らは、今神によって特別な力を与えられ、皮肉にも功が望んだ転生を受けた。
フィリュース:神々が創造する空間。