第十四話 勇者討伐
「しっかしこりゃ襲われそうで怖いな」
いやに湿った地面を踏みしめながら、ヘクゼダスはぼやいた。すっかり自分が襲う側だということを失念してしまっている。周囲を不安そうにあわただしく見まわしながら恐る恐る歩く悪魔は、他人が見れば相当滑稽な光景に映っただろう。
「でもなあ、戦えっつってもなんかスキルとかあるわけでもないし……多分」
これまでの戦闘訓練の中で、白兵戦の類のことは簡単に教えてもらったのだが魔法や特殊能力のようなものは一切教わることはなかった。口から火を吐いたり即死呪文を使えたりとかしないものだろうかと、自分に尋ねるが、答えが返ってくるはずもなく。なんとなく彼は立ち止まり、左腕を伸ばすと手のひらを正面に突き付けた。
「ハッ!」
突然の彼の発声に驚いたクウェリントンがビクッとし振り返り、少しだけにらみつけると再び歩き出した。手のひらからは炎の玉一つ出はしなかった。もしかすると自分は魔力を目にすることしかできないのだろうか。こんな凶悪な見た目をしておきながら戦闘向けの悪魔じゃないと?そんなはずはないと己に言い聞かせながら彼はクウェリントンたちの後を追った。歩きながらも彼はいろいろ試してみたのだが、うんともすんとも彼の体は言わなかった。
「憂鬱だぜ……あ?」
前方を行くクウェリントンが立ち止まり、一点を見つめている。何事かと彼は忍び足で彼の後ろについた。クウェリントンの視線の先を目を凝らしてみてみると、目的のものが森の中を歩いていくのが見えた。
それはまさに勇者のキャラバンといった様子だった。五人組の彼らは勇者らしき剣を携えた青年を中心に、ローブをまとった背の高い男、屈強な鎧を身にまとった騎士、見るからにこ狡そうな小男、そしてなんというかセクシーな美女。一行は談笑しながら道なき道を歩いていた。
「うわーマジかよおいおいおい」
どうして自分はあの中じゃなくてこっちなのだろうと、落ち込んだ。が、すぐに開き直った。
(よく見たらほぼ男じゃん。俺が欲しかったのは俺以外女のハーレムチームなんだよねえ。セクシー魔女に剣士、魔法使いに天)
刹那、クウェリントンの手から雷が放たれ、まっすぐキャラバンに向かっていくとローブの男に命中した。
「ええ!うっそもう始めんの!?」
予想外の不意打ちによって、彼にとって望まぬタイミングでの戦闘が始まってしまった。
「卑怯な魔物め!」
勇者が剣を抜き怒りを露わにこちらへ走ってきた。雷を食らった男は案外大丈夫らしく、少しよろめきながらも杖から炎の玉を生成させていた。
(もしかして魔法耐性ありのローブか?)
ありうる。いかにもご加護がありますといった見た目の装飾をしたローブだ。しかしこうなるとあれは魔法使いか。魔法使いの男は女から回復魔法らしきものを受けながら火球を放ってきた。
「あっぶね!」
ヘクゼダスを狙ったそれは、すんでのところで上体をそらして躱されたため、霧を突き破って上空で弾けた。爆風が周囲の霧を薙ぎ払い、木々を大きく揺らした。その威力に彼は茫然としていた。
「あっぶねー……くらってたら木っ端微塵だぜ」
彼が正面に向き直ると、クウェリントンと勇者が爪と剣を交えて鍔迫り合いをしていた。またヴィシュマスは体の一部を騎士に向かって投げ飛ばしていた。騎士の鎧にあたると当たった個所から鎧の金属が腐食し始めていた。そろそろ自分も何かしないとと思い、彼は一番近くにいた魔法使いにむかって走っていった。
「うおおお!!!」
恐怖を叫びでごまかしながら彼は右腕を振りかざして迫った。
「アリュール!」
魔法使いが何やら唱えると、幾つもの氷のつぶてが彼の周りに現れ、まっすぐヘクゼダスに向かって飛来した。
「ぎゃああーー!」
咄嗟に手で庇ったものの、何発も命中し驚いて声を上げてしまう。だが驚いたのは魔法使いも同じようだった。
「馬鹿な!アリュールが弾かれた!?」
「え?」
恐る恐る自分の体を眺めわたすと、確かに鋭利な氷の刃を食らったはずなのに、かすり傷一つついていなかった。
「そうか……」
自分の能力の一つ、それはきっとこの防御力の高さなのだろう。これなら経験の低さを、攻撃を受けられる体で耐えることでカバーできるはずだ。耐えている間に体当たりなんなりすればいい。彼は少しだけ自信を持つと、改めて魔法使いめがけて走り出した。
その直後であった、彼の膝に刺すように激しい痛みが走ったのは……




