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第百二十八話 海よりの使者

 戦争に応じるにあたり、マヨルドロッタ城も部隊の再編を急いでいた。いくらサイカロスといえども、組織的な行動をとらねば旧世界人たちにだって破れるだろう。高潔なる者としては、そんな無様な敗北など晒すことはできなかったし、皇帝陛下の顔に泥を塗るという行為にもつながることになる。

 以前のミンガナス戦線の時とは異なり、マヨルドロッタ軍はより一層の力を入れた軍備を行っていたのは、この戦争には確実にピレイマによる介入が為されるという予測が立てられていたためだった。

 普段は互いに暗黙の了解の内にそれぞれの争いごとには手を出さずにいたのだが、今回は違う。あまりに巨大な戦争であるために、さすがのピレイマでも見逃すことはできなかったのだ。いや、そもそもニフェリアルとしては、この戦いはピレイマの差し金によるものと疑っていたからだった。

 部隊再編の報せはすぐさま全軍に伝えられ、当然ながらそれはヘクゼダスの耳にも届くこととなる。

 ヘクゼダスに、サイカ、ガイウスト、ジューヴァルナスそしてヘクゼダスと面識のないエグゼバという甲殻類のような殻で全身を覆っている大型のサイカロスは、城の第二庭園の一角に集っていた。

「俺たちまた突撃部隊なのか?」

 ヘクゼダスは、前回の戦争で自分が配属されていた部隊のことを挙げサイカとガイウストにそう尋ねると、サイカは横に首を振って新たな配属先を教えてくれた。

「ここにいるものは皆第三師団第一大隊の第二強襲小隊配属さ」

「……んー、強襲ってことは……つまり……あー」

 言葉に詰まる彼に、ジューヴァルナスが答えを教えてやる。

「損害を恐れずに突撃をかける部隊だ」

「それ、突撃部隊の時とどう変わるんだ?」

 もっともな問いかけであるが、誰も答えられないということは無く続けてジューヴァルナスが彼の問いに答える。

「やることは大体同じようなものだ。だが今回は部隊の規模が違う。お前たちは以前は二百十二体で構成された連隊だったが、今回は違う。我々五名だけだ、だから小隊だといった」

「えっ五、五!?これだけ!!」

 まさかここにいるたったこれだけの人数で大勢の人間の相手をしなければならないというのか!ヘクゼダスは信じられないとばかりに茫然として口を間抜けに開け放ったまま立ち尽くしていた。

 固まってしまった彼を放っておいて、他の四体は戦いについて話に花を咲かせ始めた。

「本当ならよ、強え奴とやり合いたかったんだが、中々そういう骨のある奴ぁいねえからな。それでもその分数こなせるなら、それでも構わねえよ」

 いつもはテンションの低いガイウストも、戦いとなれば饒舌とまではいかないものの、声量も上がり声に期待を良く込めた調子で話し始める。彼の浮足立った様子から、今回の戦いに彼が如何に期待を寄せているかはよく理解できたが、特に前回は彼としては実に納得のいかないつまらぬ締めであったために、今回のようにより戦いに参加できる部隊編成をとても喜んでいた。

「フフフ、君はとても楽しそうだ。でも、私も実を言うと……ね」

 サイカも乗り気のようだ。サイカロスとして持ち前の、そして変な人間によって固められてしまった屈辱の憂さ晴らしのための殺戮本能が彼女を駆り立てる。しなやかで長く、金属の鎧すら握りつぶしてしまえるほど逞しい下半身が、地面をしなりながら叩く。

「お前たちとは共に戦ったことはないが、面白い戦いとなりそうだな。本当に」

 ジューヴァルナスも、四本の腕で何かしらのジェスチャーをしながらほほ笑んだ。ジューヴァルナスの戦い方をヘクゼダス達はまだ知らない、いったいどのような戦いを見せてくれるのだろうか。

 ジューヴァルナスの種族、リルテニャンは呪術を得意とする一族で、あまり武闘派というわけではない。それもそのはず、彼らは皆一様に女性のようにしなやかで細い華奢な体つきをしており、そしてまた同じように四本の腕を持つ。

 サイカロスの中でもとりわけ呪術の扱いに優れた彼らの操る術は、同じ術でも他種族が使うものとはシフスの量も大きく異なり、威力や効果は力にある者によっては上級のサイカロスのそれを上回ることもあるという程だ。それを知っていただけに、サイカやガイウストは同時に彼の戦いを見られることを楽しみにもしていた。だがもう一体、気になっていた奴がいた。それは当然、エグゼバであった。このサイカロスは二体の知り合いではなく、ジューヴァルナスも良く知らない。完全に初対面なのだ。まるで人間のように気まずい時間が流れたが、それを払拭するためにサイカが口を開いた。

「エグゼバだったかな。君はどうもこのあたりのサイカロスではないね?」

 そう判断したのは彼の見た目からだった。エグゼバやトットットのように海産物系の見た目をしたサイカロスは、海からしばらくはなれたマヨルドロッタ城にはあまり所属していないのは、やはり彼らの得意とする戦場ではないからだ。この城他、水辺が少ない場所にいる魚や甲殻類の容姿をとったサイカロスは大概水辺近くの拠点からの異動組である。

 彼女の言う通りマヨルドロッタ城に元からいたのではないエグゼバは、首がないため体ごと頷いて見せるとかなり低い声で唸るように答えた。

「確かに。俺はゲルマドゥ海のセルテ=オルトリンカーン海底要塞から一週前に連れてこられた。陸地はあまり得意ではないが、重要なとっておきとして俺が必要だそうだ」

「とっておき?」

「お前が?」

 彼の言葉に、皆が疑問を抱いた。この中では唯一の非人型で、一番大きなヘクゼダスよりもさらに横も縦も大きい、まさに異形ならではといった姿をしている。威圧感はたっぷりだ。だが、それでもとっておきと呼ぶには些か力不足に思えて仕方がなかった。

「ああ、そうだ。今はまだ言えぬが、俺は力をもっている。我が一族でも限られた者にのみ与えられる力を」

「なるほどねえ」

 そう彼が言うのならそうなのだろう、あっけなく皆は納得してしまった。その理由は、本当にそういう存在がこの世界には沢山いるのを目にしてきたからだ。それに、わざわざこちらに選抜で駆り出されるくらいなのだから、生半可な力をもってはいまい。

「見たいなあ」

 いつの間にか我に返っていたヘクゼダスは、いったいこの甲殻類のサイカロスがどんな秘密兵器を抱えているのだろうかと一人夢想していた。

「んで?」

 ガイウストは話を断ち切るように声を上げた。四体が彼に注目すると、彼はにやりと口角を上げて誰ともなしにこう尋ねた。

「俺たちはどう暴れるんだ?」

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