表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/388

第百十七話 真打は敢えて遅れて

「メナース!援護頼む!」

「わかった!」

 食い気味に、メナースは返事をする。時間を稼いで見せようとしてほんの一瞬しか持たなかった。今度こそ自分は本当に死んでしまう、その恐怖の沼に伸ばした手の指先まで沈もうとしていたところを、ジェイラスという縄が手をしっかりと縛り付け引き上げてくれた。熱いものが目頭を濡らすのを彼女は拭って杖を構える。

「ハルファータ・クラセン!」

 ところどころが金属板のように鋭く固まった刃が入り混じる小型の竜巻が一つ、生成されると同時に彼女の杖の動きに合わせてヴァーロに襲い掛かった。通常の生き物であれば、体中をズタズタに引き裂かれて瀕死の状態となるその凶悪な魔法も、ヴァーロの鎧のように固まった堅牢な外皮には、効果という効果は見られない。だが一瞬の足止めはできた、ヴァーロが立ち止まったところを見計らって、ハルファータの術が消滅すると同時に彼は雷を纏った穂先を突き立てる。

「はああーっ!!」

 確かな一撃、だが穂先はガリガリと外皮を滑って流され、地面に突き刺さってかけていた術は消えてしまった。

「なんって硬さだよこいつ!」

 すぐに槍を抜くとそのステップを利用して彼は一旦後ずさりし距離を取る。この硬さは生半可な攻撃では通らないだろう。しかし、彼の使える技にはこんな硬さのものを貫ける技は無かった。

「やばいぜメナース、なんかいい技あるか?」

「こっちの台詞……」

 どうやら勝ち目はなさそうだ。しかし、だからと言って諦めて殺されるわけにはいかない、少しでも可能性が残されているならば、絶対に生き延びなければならない。だがどうやって?

 そう考えている間も、敵は彼らに作戦を練る時間を与えてはくれない。ヴァーロが繰り出した突きは空気を切り裂き、拳圧に煽られそうになるほどだ。その鎧すら砕きかねない拳を紙一重で躱したジェイラスは、返す刀もとい槍の石突でがら空きとなった脇腹を突きつつ転がって再び距離をとるものの、やはり効いてはいないようだった。

 ジェイラスは距離感にかなりの注意を割いている。こういう懐にとにかく潜り込もうとしてくる相手は、槍使いには常に間合いを取らなければならないという面倒な点がある。普通の相手なら、同じようにこちらの懐に潜り込もうとする前に軽く敵の腕の攻撃範囲外から突いて殺すことが出来るが、ヴァーロのようにそんなことお構いなしに突っ込んでこられると、非常に面倒なことこの上ない。槍は接近戦においての圧倒的リーチが最大の長所であるが、それが同時に最大の短所となる武器だ。ただ懐に入られるだけなら、ある程度腕の立つ者なら薙ぎ払って相手を転倒させその間に一歩下がってそこを突くことで対処できるだろう。そうでないものはあっという間に何もできずにやられる。

 そして、このヴァーロは槍の上級者だろうと何だろうと薙ぎ払いは効かないだろうし、範囲外からの攻撃も硬い皮膚が通さない。対処の仕方が避けるくらいしか思いつかないほど理解不能な相手であった。

 はっきり言って、こいつは倒せない。恐らく、その後ろの偉そうなやつはもっと強いのだろう。後ろで指揮しているような奴は口ばかりの雑魚かべらぼうに強いかの両極端なのは世の常であり、きっとあいつは後者だろう。イェルヴェルーニウががいれば、どうにかなるのかもしれないが、今はヘクゼダスの延命に意識を集中してもらわなければならない。

「食らえっ!!」

 ジェイラスは地面をわざと抉るように足を蹴り上げると、舞い上がった砂がヴァーロの顔面に被り目に砂の入ったヴァーロは目を瞑って怒りの呻き声を上げ腕を乱暴に振り回す。

「ゾイフォンデ!ラスタード!リギ=フルテマイア!」

 この隙に乗じてメナースは次々と連続で魔法を繰り出しヴァーロの膝目がけて重点的にぶつけていった。

「グモオオーーッ!」

 まるで野獣のような叫びを上げてヴァーロは片膝をつく。流石に膝を集中砲火されると効くようだ。メナースもヴァーロは物理攻撃をとにかく弾くことを理解していたためここは非物理系のエネルギー創造系の魔法のみを用いたのだ。

「ほーう、ヴァーロに片膝をつかせたか」

 その様子を後方から見物していたザガーリィは、ヴァーロに軽くすりつぶされてしまうだろうと踏んでいたジェイラスたちが思っていたよりも粘り、それどころか膝をつかせたことに少しだけ驚いて見せたが、その彼の表情を当の彼らには見る余裕などなかった。

「許さねえ」

 ヴァーロの口から太い恨みがましい声が漏れ出、ジェイラスとメナースは驚く。

「喋った!」

 そりゃ喋る。単に彼がかなり無口なだけである。ヴァーロはひざを痛めているにも関わらず立ち上がると、右手を強く握りしめ思い切りジェイラス目がけて突き出した。すると拳圧というレベルをはるかに凌駕した勢いで衝撃波がまっすぐジェイラス目がけて飛ぶと、距離としては三メートル以上は離れていたために回避しなければならないことに気づかなかった彼はもろにその攻撃を食らって吹き飛ばされた。

「ぐうっ!?」

 鎧越しに、体の一点を押しつぶさんばかりの重みが彼の体を貫通した。

「ごべえっ!!」

 地面に叩きつけられたジェイラスは、口から血を吐きながらうごめき、立ち上がろうと腕に力を込めたくとも、激しい痛みによって体が言うことを聞いてはくれなかった。

「ジェイラース!」

 半狂乱になりながらメナースは戦いを放棄しジェイラスの下へと駆け寄ると、彼の鎧の損傷具合を見て目を疑った。衝撃波の直撃を受けた胴当ては、丁度ヴァーロの握った拳の形に大きくへこまされており、その周囲では厚い金属板であるにも拘らず鎧の内側が見えるまでに裂け割れ目が何本も走っていた。彼の鎧の胴当ては、かつて彼がとある戦列騎士を救った際に残念ながら酷い重傷でその後死んでしまった一人の騎士が最期に譲ってくれたものだった。出自は不明だが、ノルの見立てでは希少金属ベデレンマを配合してあるとても強固な合金ではないかとのことであったが、現に鎧は修復不能なまでに破壊されてしまっていた。

「じぇ、ジェ、ジェイラ…スっ……無事?今回復させるから」

 メナースは彼を仰向けにすると回復魔法をかけ始めた。シフスを既に多く使ってしまっており効率は良いとは言えなかったが、それでも彼の内出血を止められるまでには回復させられた。だが、やはり再び槍を手に取って戦うというのは厳しいようだ。

「う……ろ」

「何?」

 ジェイラスが何かを伝えようと腕を上げようとしているが、呻き声では聞き取れず彼女は彼の口元に耳を近づけてはっきりと聞き取ろうとしてようやく彼が伝えようとしていたことが分かった。

「う、し……ろ」

「えっ」

 次の瞬間、メナースの目に映ったのは残像を残しながら迫るヴァーロの拳であった。



 打ち上げられたメナースは、血を吐きながら宙を舞った。怒りを込めた彼の一撃は、防御魔法がまだ若干残っていた彼女の体を破壊し、何本もの骨を折り、そして砕き内臓を潰しそれでも形を保っていた体は落下すると、ヴァーロの頭部に生えた太い角に貫かれた。

 目を見開き、口や鼻、そして貫かれた胸から大量の血を流しているメナースはもう既に打ち上げられた時に既に命を落としており、本来ならば不要であった自らの角に突き刺すという行為はまるで獲物の尊厳を凌辱し、戦果として周囲へ誇示する行為にも見られる。

「オオオオーーーーーッ!!!」

 勝ち誇るヴァーロの雄たけびが森をざわめかせる。

 ジェイラスは、まだろくに動かせない腕を持ち上げ目の前の地面へと滴るメナースの黒く変色してしまった腕から零れ落ちる血へと指を伸ばしながら、静かに涙を流した。自分がヘクゼダスを助けに行かなければ、仲間たちが傷つき命を落とすことなんてなかったのに、と。

 次は自分の番だろう、仲間の仇もとれない不甲斐なさと薄れゆく意識の中で彼が目にしたのは、ヴァーロの半身が吹き飛ぶ光景であった。



――やれやれ、三番乗りのようですね……私としたことが――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ