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第一話 ゲスの転生



 フヒヒ……

今に見てろ……

いずれ俺も異世界に転生してイケメンチート能力持ちになって、ハーレム築いてやるんだ……

見てろよ……



 邪な企みが世界を変えようとしていることに、いまだ誰も気づいてはいなかった。

 県立大桜高校の一年二組に、これから起こる大事件の首謀者となる男がいた。男の名は山口功(やまぐち こう)。普通の太ったオタクメガネだったがその内に秘めたるは性根腐った人間の恥で、いじめられたこともないのにクラスのリア充たちを逆恨みするどうしようもない奴だった。ましてや向こうは優しく接してくれているというのに。

 そんな彼の最近のブームは流行にのっとり異世界転生ものであった。いくつもの転生系ラノベを読み漁った彼は、いつしか自分も突然神によって選ばれ異世界に転生して現代知識で無双することになると思い込み始めていたのだ。成績はクラスで下のほうのくせに。

 到底選ばれないような人間である彼は、あろうことか自分で転生しようと動き始めたのだ。何という行動力、それを勉学や交友に使えばよかったのに。

 ひとまず彼は図書館で古代の魔法に関連した本を探し始めた。せめて市の図書館で探せばよかったのに、彼の頭では学校の図書館にそんな本があるという結論に達してしまっていた。しかし、それがなんの偶然か、明らかに学校にあるに似つかわしくない古めかしい装丁の本を見つけてしまったのである。親切にも日本語で記されたそれには、悪魔の呼び出し方や秘薬の作り方など怪しいにもほどがある品物の数々について四百ページにもわたって記載されていたのだった。そして彼の探していた転生術も、そこにあった。

「最高だ。これさえあれば俺も主人公に……フヒッ」

 こうして待望の異世界への転生方法を手に入れた彼は、一人転生の準備に取り掛かり始めた。

こうして彼は異世界転生し、最強の能力を手に入れハーレムを作ることとなる……



はずだった。



 ただ自分一人が転生乃至転移すれば主人公たちのようになれる可能性は万が一にでもあったであろうが、彼はあろうことか余計な考えを抱いていたのだった。それが彼の計画を失敗に追い込むとは知らずに……つくづくどうしようもない人間であった。

 そうして間違った方向に努力した彼は、あれやこれやを集めて遂に行動を計画に移す決定を下す。それを行うのは火曜日、一年二組の教室だった。

 いち早く登校し準備をし終えた彼は、内心ほくそえんでいた。その顔は近年稀にみる邪悪さであったという。

(さあ、早く皆来いよ……俺様の逆襲撃が始まるぜえ……)だから何もされていないというに。

 八時半、0時間目の朝補習と朝礼が終わり、もうすぐ1時間目の数学が始まろうとしていた。このクラスは全部で三十八人。数学の木村が来れば三十九人。残念ながらというべきなのだろうか、それとも幸運なことにというべきなのだろうか、一人、星野という女子が欠席していた。

(全員を巻き込めなかったのは残念だが、決行は今日しかない!木村が入ってきたその瞬間が運命の逆転の時よお!)

 完全に悪役の顔となっている功は、仕掛けの最後のパーツ、つまり異世界転生のための装置のスイッチを手に今か今かと待ち構えていた。どこからこの底知れぬ自信はくるのだろうか。

 八時四十分、始業のチャイムが鳴って1分ほど遅れて木村が小走りで教室に入ってきた。禿げた頭が蛍光灯を照り返す。

(もらったあああ!!!)

 叫ばないのは、小心者の現れである。失敗したときに恥をかくのを防ぐためであった。

彼は右手に隠し持っていた生卵を握りつぶした。



 世界がはじけたようだった。

 三十八人の人間が教室から光の渦に飲まれ、流されていく。遂にやってしまった。彼は自分だけでなくクラス全員を転生に巻き込んだのだ。全ては見下すために……

「わっ、わーーーっ!」

「なんだあ!」

「おわっ!!なんだよお!」

「キャーー!!」

「ええええ!!!」

 皆突然の出来事にパニックを起こしていた。教室も机も黒板も、床も外の景色も姿を消した。無重力のような空間に放り出された彼らはどこが地なのかもわからず四方に浮遊していた、ただ一人を除いて。

「はーっはっはっは!やった!やったぞーーーー!」

 功は狂喜の雄たけびを上げた。本当に成功したのだ。これから華々しい異世界生活が始まると思うと、彼は冷静ではいられなかった。

「や、山口い!何喜んでんだよ!」

 気づいた岸本が声を上げた。

「ま、まさかこれお前が何かやったのか!え?山口!」

 木村がチョークを振り上げて怒鳴っていた。

「ああそうさ!俺がやったんだぜ!これからお前ら全員俺の下になるんだよ!はーっはっはっはっはは!」

「ざけんな!お前何やったんだよ!意味わかんねえ!」

「みーんな異世界に転生すんだよ!ざまあ!!」

「クソが!なにふざけたこと言ってんだ!」

 相田が振りかぶった拳が功の腹にヒットした。油断していた彼はえづきながらも、彼をにらみつけ、言い放った。

「相田あ、お前は絶対に奴隷以下の扱いにしてやるよお……」

 そのうちに向こうに一際明るい光が見えた。もうそろそろ出口のようだ。もうすぐ神の前か何かに出されて最強のステータスを与えられるに違いない、いやそう決まっているのだ。先頭に流れていた集団が光の向こうに消えた。すぐに功たちも光に近づく。

「よっしゃああ!」

 だが、光の渦からネットのようなものが伸びてきて、光に消える直前に功を捉えて引っ張っていった。

「ひょ?」

 相田たちが唖然とした表情で光に消えていくのを見送りながら、彼もまた茫然としていた。

「はあああ?なんで!なんで!何?何が起きたんだよ!ああ!?」

 今起きていることが理解できない彼は、ただただ叫ぶことしかできなかった。



貴様のような汚い心の持ち主をこちらに入れてやるほど、我々はお人よしではないぞ



 どこからか、声が聞こえた。神々しいはずのそれには計り知れぬ怒りが込められているようで、功は背筋を凍らせた。優しい声なのに、どうしてこんなに恐ろしく感じるのだろうか。



 薄汚い怪物め、貴様のようなものはあちらに行くのが相応しかろう……

 


声の主がそう言うと、光の渦に穴が開き、もう一つの通路が現れた。だがその向こうにはこちらのように真っ白な光ではなく、禍々しい闇が渦巻いていた。

「ちょ待っ」

 最後まで言い終える時間すら与えられずに、クラス丸ごと転生の犯人は闇の中に吸い込まれていった……

彼に待ち受ける運命とは、いったい……

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