陽子
(陽子)
園江ちゃんらしき人を深夜、隣町のコンビニで見かけたという噂を聞きました。なぜ隣町なのか、おそらく人目を気にしてのことでしょう。神経質な園江ちゃんらしい選択でした。
園江ちゃんのいなくなった学校で、私は孤独でした。ただ机の木目を見ながら黙々と、菓子パンを頬張っていました。
「相変わらず根暗っぽくてさぁ」
クラスでも派手な部類にカテゴライズされる女の子がマスカラを塗りながら話しています。私は中一のころ、この女の子のグループに自転車のサドルを取られたり、机に生理用品を貼りつけられたり陰湿ないじめを受けたことがあります。園江ちゃんはそんな中、ずっと私の味方をしていてくれたのです。例え世界中が私を迫害しても、園江ちゃんだけは、受け入れてくれるようなそんな気がしたのです。
「話しかけようとしたけど、あんま仲良くないし無理だったよねー」
園江ちゃんは、私を助けてくれました。どんな時も。
今度は、私が園江ちゃんを助けなければいけない、そう思いました。
そして今、私はお父さんに内緒でこっそり家を抜け出して深夜のコンビニにいます。今日が会えないなら明日も来るつもりです。
深夜のコンビニは暗闇の中に浮かび上がってまるで異世界のようでした。まだ中学生なので補導されないかが気がかりでした。私の脳内には園江ちゃんのこととお父さんのことが交互に浮かび上がっていました。
お父さんの悲しむことはしたくない。男手ひとつで懸命に育ててくれたお父さんを、裏切ってはいけない。だから今回のミッションは園江ちゃんに会うこととおまわりさんに見つからないことのふたつでした。
内心ハラハラして数十分が過ぎました。脚が痛いなぁと思っているとコンビニのピロピロとしたチープな音が鳴りました。金髪のジャージ姿の男の人でした。男の人は缶ビールとたこわさを乱暴にひっつかむとレジに行って足早に帰っていきました。また待つと、今度はものすごく厚着をしたおじいちゃんが牛乳を買って出ていきました。次来たのは派手な服装の水商売風の女の人が二人。タイトミニから伸びる細い脚はハイヒールを履いていて、甲高い声で話しながら店内をぐるりと回るとたばこを買って出ていきました。
人の営みとは、こういうものだったのかとぼんやり思いました。私がベッドで動画を見たり漫画を読んだりしている間にも私に干渉しない誰かは自分の人生を過ごしていて、こうして自分の欲しいものをお金と引き換えに手に入れているのでしょう。
たまたま園江ちゃんが学校というつながりから離脱しただけで、ひょっとしたら園江ちゃんもさっきの男の人やおじいちゃんや水商売風の女の人みたいになんともないような顔で生活しているのではないか、と思いました。
だとしたら、すごく悲しい。
悲しいな、と涙が出そうになりました。
再び店内にチープな音が鳴り響きました。蛍光灯の光が瞼にしみるようになってきたのでこの人が園江ちゃんでなかったら今日は帰ろうと思って振り返りました。
そこには見覚えのある園江ちゃんの姿がありました。