平安京を包んだ恐怖、鵺
平安時代頃だったか、鵺という妖怪が平安京で暴れ回った、その妖怪の容姿は猿の顔、狸の胴体
虎の手足に蛇の尾を持っていたと言われている正体が分からない妖怪だ、その妖怪は天皇の命を受けた
源頼政によって射殺されたと言う伝承がある。しかし、青と空の言う話を信じるのならその伝承は誤りだ
実際は暴れ回っていた分けでは無く、子供と戯れていただけらしい、しかし、今目の前にいる
鵺は伝承通りに暴れ回っていたとしても不思議じゃ無い。
「あはは!さぁ!私と遊ぼうよ!」
俺達は鵺との戦いを始める事にしたが、青の頼みで、最初は青1人で戦うことになった。
今の自分が何処まで通用するか試したいからだそうだ。
「行きますよ!あなたを戻してみせる!」ダ!
「無駄だ!人間に媚びることしか出来ぬ妖狐族に俺を倒すことは出来ない!」
鵺の性格や口調は一言一言で何度も変わっている、だからどの性格がこいつの本当の性格なのかが
全く分からない。しかし、青の話だと優しい性格らしいが今のこいつはその性格を一度も出していない。
「はぁ!」ブン!
「くく、当たる物か!」シュン!
鵺は青の攻撃をすんなり回避した、それだけ高い身体能力を誇っているのだろう。
しかし、青も負けていない、避けられた直後にすぐさま2発目を放った。
「てりゃ!」ブン!
「あはは!でも当たらないよ?」シュン!
青の2発目もすんなり回避された、まるで次が何処に来るのかが分ってるかの様な回避だ
「くっ!」バ!
2発目を回避された青は急いで間合いを取った。しかし、鵺は追撃をしようとはしていない
青には隙がちらほらあったし鵺が追撃を仕掛けていたら青もダメージは受けていたはずだ。
しかし鵺はそれをしようとしなかった。
「鵺様、なんで攻撃してこないんですか?」
「そうねぇ、あなたの動きを見てみたかったからかな?」
鵺は狂気の入った笑みを見せた、その笑顔は俺達を硬直させる位の何かを感じた。
こいつはやばい、それは皆感じた事だろう。
「えへへ、でも、そろそろ行動しようかな?あなたの底も見えたし、そうだなぁ、この攻撃を避けたら
少しは本気を出そうかなぁ、まぁ、無理だろうけどね、キャハハ!」
鵺の周りに影のような何かが現れた、その影は鵺を包むと地面に消えた、そして、その場から鵺が姿を
消していた。俺達は全員で周囲を探したが全く見つからない、しかし、その直後だった。
「くく、死ねよ、妖怪の恥さらしが」スゥ
「な!?」
鵺は青の背後に現れた、そして、その手元には大きな鎌が握られている。
その鎌は光すら飲み込んでるような黒だった。
「お前の記憶、意思、心、希望も、絶望さえも許さない、お前の全てをいただく!永久に暗闇を
生きることだな、ゴミ屑が」ブン!
鵺の鎌が青に向かって振り下ろされた。しかし、青はやけに冷静だ、そうだな、信じてみるか
なんたってあいつは俺の式神だ、自分の相棒を信じられずにどうする?
「では、私はあなたの絶望をいただきますか」ズドン!
「な!?」ドガン!
青は鵺の一瞬の隙を突き、一瞬で拳を叩き込んだ、流石の鵺もこれは予想外だったようで
直撃し、すごい勢いで壁に突っ込んだ。
「鵺様、完全に不意を突いたと思って油断しましたね?」
「・・・くく!あはは!きゃはは!キャハハ!まさか攻撃を受けるとはね!アハハ!馬鹿にしてたよ。
所詮は単体じゃあ、何も出来ない妖狐族だと思ってね!」
「見直しました?」
「ああ!もうお前を妖狐族とは思わない!だから、全力で行くよ!」ぶあ!
鵺が手を振りかざすと嫌な風が吹き始めた。
「昔、源頼政だっけか?あの糞のせいであたしは射貫かれた、まぁ、所詮は人間だ、殺そうと思えば
いつでも殺せた、まぁ、殺す価値も無い人間だったからあたしはそいつを殺さずにここに戻った。
これからぶっ放すのはあの待ちを吹き飛ばすほどの攻撃、さぁ、あんたは耐えられるかな?」
その言葉が偽りじゃ無いことぐらい明白だった、明らかにヤバい何かが集まってきている。
真っ黒く、周りの光を呑み込むほどの黒い闇だった。
「さぁ!あんたらも光も見えない漆黒の闇に落ちな!呑み込まれろ!」ギュン!
「龍治様!あの技を!お願いします!」
「分った!焼き払ってくれよ!豪の技!下弦焔!」
「行きますよ!私の全身全霊の一撃!いっけぇ!!!」ボボボン!バン!!
青が放った下弦焔は今までの中で最も強烈な火力であった、その炎は漆黒の闇を照らし、焼き払った
「くく、あははは!まさか、ここまでとはね、ふふ、くく、完敗だ、これが妖狐族か」ズオン!
その炎は鵺を包みこみ、少しして消えた、そして、鵺は炎の中で倒れていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、ぬ、鵺様!大丈夫ですか!?」
「あはは、いやぁー、負けた負けた、ここまで完璧に負けたらむしろ清々しいね」
鵺の表情はさっきまでの狂気染みた表情とは打って変わって、清々しいほどの笑顔だった。
俺が思うに、この笑顔が本当のこいつなんだろう。しばらくして鵺が動けるようになり
何故ああなっていたのかの理由を聞くことにした。
「何故あんな風に暴走してたんですか?」
「うーん、それが分らないんだ、変な男に会ったのは覚えてるんだけどね」
「変な男?どんな容姿でしたか?」
「うーん、覚えてないな」
鵺は今までの事をすっかり忘れていたようだ、変な男についての事も。
会ったというのは覚えていても、いつ、何処で、どんな容姿だったかはさっぱり分らないそうだ。
「ところで鵺様、あなたは人間を恨んでますか?」
「そうだね、恨んでるよ、まぁ、一部の人間だけだけどね」
「なんで、人間を恨んでないんですか?射貫かれたのに」
もしも、俺が鵺の立場だったとしたら、俺は人間を許さないだろう。
それだけ、人間は鵺に酷いことをした、誤解で射貫いたんだからな。
「まぁ、簡単な事だ、人間が好きだからかな、確かにあたしは拒絶されて居た、実際平安京に
行ったのもそこをぐちゃぐちゃに壊したかったからだ、でも、1人の子供があたしを見て
怖がるどころか喜んだ。人間状態だったからかもしれないけどね」
鵺は懐かしそうに過去を語り始めた。鵺という妖怪が何故、全ての人を恨まず
何故、頼政を許したのか、それが非常に気になる、そして俺達は静かにその話を聞くことにした。
「でも、その時は腕を別の動物の腕に変えて見せたんだ、これで追い払うためにね。
でも、その子供はもっと喜んだんだ、驚いたよ、でも、嬉しかった、私を見ても怯えない人間の子供
そんな子供に、いや、人間に初めて会ったんだ、それであたしはその街を壊すのをやめたんだ。
それからは街の子供に色んな芸を見せて、ワイワイやってね、あの時は本当に楽しかった」
子供は好奇心が旺盛だからな、だからどんな物でも受け入れて、そして大きくなる。
多分、大人達はそれを恐れたんだろう、未知は大人には恐怖だからな。
「でも、大人達はあたしを恐れたんだ、そして子供達をあたしの元に来させないようにした
それでも子供達はあたしに会いに来たんだ、そして、あたしは芸を披露し続けた。
でも国のお偉いさんはそれを止めたかったんだろうね、頼政とか言う人間をあたしにぶつけて来た
まぁ、あたしは素直に倒されてやった、下手に抵抗して周りの子供達に被害を出したくなかったからね」
大人は未知を恐れる、未知を拒絶してその未知を常識にするのを嫌がる物だろう。
それは昔から変わってなかったようだな。ふ、ある意味では大人よりも子供の方が賢いか。
自分の今までが全てだと思ってる大人よりも、未知に積極的に挑む、そんな子供の方が何にでもなれる。
「そして、あたしはここに戻ってきた、でも後悔もしてない、今更頼政に復讐する気も無い
あたしは、今でも人間が好きだからね、特に、あんたらみたいに未知を恐れない馬鹿はね」
「俺と小雪のことか?でも残念だな、小雪は妖怪を嫌ってるぞ?」チラッ
「そうなのか?」
俺が後ろをチラッと見ると、ミアが腹減ったと良いながら小雪を追いかけ回している姿が見えた。
なんか、タイミングがすごいな。
「きゃーー!!食べないでぇ~!」
「待てぇ~あっさりご飯~!」
「嫌~~!!」
「ふふ、楽しそうじゃ無いか、あたしも嫌いじゃ無いよ、あんな関係」
「はは、楽しそうねぇ、ま、そう見えなくも無いか」
結局強敵との戦闘後もこんな感じか、まぁ、俺達らしいが、さて、鵺も倒したし。
今度こそ紅を止めるために頑張るかな。
「ほう、勝ったのう」
「あぁ、実力は確かなようだな」
「あぁ、妾が見込んだ通りじゃ、これなら任せられるの」
「そうだな、儂らはあいつらの旅を傍観するとするか」




