baritone sax 浅野 友梨
あーあ。
パーカッションになれなかった。
私、あいつに負けたんだ────。
あたし、浅野 友梨は、小学校から仲の悪かった"あいつ"と、なぜかおなじ吹奏楽部に入った。
さかのぼること3日前……
「ねぇ、友梨、第一希望なににした?」
「あたし? あたしはねぇ、」
と、指差したのはキラキラと光るドラムだった。
「「パーカッション」」
は? 誰かおなじこと言った?
と、あたしとおなじ方向を指差していたのは、大っ嫌いな"あいつ"だった。
「はぁぁぁあ!? なんであんたがいるんだよ!」
「それはこっちのセリフよ!」
今年の打楽器の募集人数は1名。
仮に第一希望があたしとあいつだけだったとしても、こいつかあたし、どちらかしかなれない。
もー!っぜーったい負けないんだから!
2年後。
「───ってなわけで、いまにいたるのよ」
「へぇー! そうなんですか!」
と、後輩である亜利沙ちゃんが目をキラキラさせる。
あたしは自分の首からぶら下がっている楽器を撫でた。
バリサク。それがあたしの相棒。
バリサクって決まった時、重いし、音もでないから、正直向いてないのかなって思った。
だけど、音が出た時、すっごく嬉しかった。
そして、ずっと隣にいた"あいつ"は、もういない。
あのとき、ものすごく後悔した。
あいつは、空気に耐えられなくなってやめちやった。
本当は続けたかったはずなのに。
あたしは、あいつの分までコンクールで悔いのない演奏をする。
そして、あいつとあたしで関西へ行くんだ。