tenor sax 狩絵 聖香
あ。
サックス。あれ、誰だろう。
めっちゃ上手。小学校の頃からやってたのかな?
あたしは小学校の頃から吹奏楽団に入ってて、テナーサックスをやっていた。
正直、練習と勉強が両立できなくて、やめようと思っていた。
それに、1つ下の茉莉花ちゃんもいないし。
よく一緒に練習したなぁ……。
あ、考えるのはやめよう。
帰ろ帰ろ。
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よし、勉強しよう。
カリカリ……。
なんでこんなに進まないんだろ。
あ、いつも音楽かけながらやってたっけ。
あたしはイヤホンを取り出し、
気付いたら小6の時にやってたあの曲が流れていた。
無意識に指を動かしていた。
やっぱり、サックスやりたいんだ。
あたしはカバンから入部届けを取り出し、
『女子テニス部』という文字を消して、
『吹奏楽部』と書き直した。
2年後。
あたしは、パートリーダーになった。
勉強と部活も両立できてる。
こんなに楽器が楽しいと思ったのは、吹奏楽団に入った時以来だ。
でも、サックス希望の人があたしだけなんてびっくり。
意外と少なかったな。
「そこ! もっと倍音きいて」
「「はい!」」
今年は1年生が3人もいる。
マリアちゃんもフランスでテナーをやっていたらしい。
だから、時々言われるんだよね。
「テナーうるさい!」
ほら、また言われた。
はいはい。すみません。
今年、最後のコンクールは、関西大会。
そして、笑顔で引退すること、そして、
先輩の背中をしっかり後輩にみせる。
あの時、吹奏楽をやめていなくてよかった。
もしやめていたら、今頃後悔しているから。
あたしは、過去の自分に向かって微笑んだ。