clarinet 鷹馬 莉音
中学校に上がってから、なにも変わることはない、と思っていた。
なのに、なのに……
───君がいない。
中学校、一緒だと思ってた。
もちろん彼女もそう思ってただろう。
いつも地味な私と仲良くしてくれた、たった1人の私の友達。
彼女は、入学式にはいなかった。
入学直前に彼女の親の転勤で引っ越したそうだ。
どうしよう。君がいないと、私は1人になってしまう。
彼女と一緒に、私は吹奏楽部に入ろうと言っていた。
そんなオロオロした私に、声をかけてきたのは明るい女の子だった。
「あ、えっ……と」
「あなた、どこ小?! 初めてだよね! 会ったの!」
「えっと、東野小、です……」
「あたし、松井 美琴! みんなみこってゆってる!あなたは?」
「あ、鷹馬 莉音、です……」
「じゃ、莉音だね! よろしくね!」
「あ、よろしくお願いします……」
美琴……。
なんだか変になりそうだった。
私、美琴さんの友達になっていいのかな。
「あの、友達になってもらってもいいですか……?」
と言うと、彼女はきょとんとした顔で、
「へ? あたしたちもう友達じゃね?」
と、笑って言った。
どうやら彼女は友達か友達ではないかのラインが曖昧なようだ。
「ねぇ、莉音は部活何入るの?」
「え、っと、一応、吹奏楽部かな……」
「あ! 私もだよ! クラリネットやりたいんだぁー!」
2年後。
「リレーします! B♭durでします!」
「「はい!」」
私は、みこちゃんと一緒にクラリネットをすることになった。
みこちゃんはバスクラ担当だけどね……。
でも、やっぱり吹奏楽って楽しい。
曖昧な理由で入った人でも、最後にはみんなの心が1つになれる。
この夏、関西へ行く。
去年の先輩を、絶対超えて見せる。
最後に、笑って引退できるように────。
もう大丈夫だよと言いたい。彼女に。
不思議。どうして一緒なんだろう。
彼女の名前は、美琴。
美琴。もう、私は大丈夫。
コンクールで会えたらいいね。
絶対に負けないから────!