trumpet 星野 桜
私は、期待されていたんだ。
自分も、期待してた。自分に。
だから、絶対にその期待を、"私"を失わないように、必死になってた。
この4年間。私は、自分の人生を、このトランペットにかけると決めたんだ。
だから、私は北原に入学したくなかった。
みんなと同じように東野が良かった。
吹奏楽のエリートの道に進みたかった。
「なんか、混ざらないよねー……音が。入学式の時に思ったけど」
ぼそっと声に出したのは、紗江だった。
「転校したい」
東野に。私の居場所はここじゃないことを証明したい。
「でも、吹部入るんでしょ? 」
「……だって」
私は、プロになりたいもん。
プロはみんな中学時代吹部に入ってるんだし、一応、続けられるまで……ね。
と言いながら音楽室の扉を開ける。
楓がいる。
その隣に───。
なんとなく知ってる人がいる。トランペットの人。
と、立ち上がって、いきなり曲を吹き始めた。
───吸い込まれそう。
なんだろう、この音。不思議な音色。滑らかで、水のように透き通っていた。
「あ、桜と紗江」
楓が言うと、その人はパッと吹くのをやめて、
「えっどの子どの子!?」
大人しそうに見えたけど、にこにここちらに向かってきた。
「桜ちゃんってどの子〜?」
「私です」
思わず手を挙げた。
ぱぁっと顔を輝かせ、
「で、隣が紗江ちゃん?」
「はい」
「私、西宮羽奏! 3年生だよ! 2人とも、もちろんトランペットだよね?」
「───はい!」
思わずいつもの練習の声で返事しちゃった。
だけど。
私はこの人の音色に少しでも近づきたい。
北原で、頑張ってみよう。
2年後。
『パートリーダー会議』
黒板に書き上げた。
私はパートリーダーになった。
トランペットパートは私を含め全員で7人……6人。
今年はとても上手な子が入部した。
香坂凛奈。
そして、なんとなんと副部長にも選ばれた。
「それじゃあ、コンクールへの目標と、それを実現するためにするべきことの意見お願いします」
「はい」
私は、ずっとこの思いを忘れない。
いまはまだ実現できていないけど、ずっと忘れない。
「私は関西大会を目指したいです」
同時に、自由曲のソロの音が聴こえてくる。
凛奈だ。
負けたくない。最後だから。
ソロも、コンクールも。
絶対負けない。
あの大きなホールに、私の音を響かせたい──!