出会い
こんです。今回のは序章なので、始まるのは次回からです。
群馬県警察捜査一課課長、佐々木紀行≪ささき のりゆき≫は、デスクトップに映った今月の予定表を目を細めながら見つめていた。今日の日付の下の欄には、『人事異動、今日到着』と黒く書かれている。今日は捜査一課に一人配属される日であり、佐々木は珍しく身だしなみを整えていた。 配属される刑事は女性であり、20代前半の新米らしい。女性との関わりのない人生、約40年を送ってきたザ・童貞佐々木の脳内では、可憐な女性刑事が後ろをテトテトとくっついて来るという、現実にかけ離れた妄想が浮かんでいる。
「…、…の、…あの〜」
「あ……あぁ、すまない」
声をかけられハッとして下に向けていたにやけていた顔を上げる。声をする方に顔を向けると、そこにはスーツを着た見覚えのない白髪の女性が立っていた。前髪がかかった目の下には隈もできて、目つきもかなりに悪い。
「……君が今日配属された……若林鈴≪わかばやし すず≫君……?」
先ほどまで佐々木の脳内でテトテトくっついていた女性刑事のイメージは崩れ去り、そんな佐々木の脳内妄想など知らない鈴は敬礼をする。
「はい、この捜査一課に配属された若林鈴です。よろしくお願いします、佐々木課長」
声もよく聞くとかなりハスキーで、身長も高い。
明らか、つい先日まで学校でガラス10枚バッドで割ってきました、と言って来ても納得のいく容姿だ。いつの間にか、可憐女性刑事など塵とかしていた。
「なんて考えていたのが懐かしいよ」
「……え、何か言いましたか?」
「いや、なんでもない…」
資料室の中、鈴が捜査一課に配属されてから早2年、変わったことといえば、鈴が眼鏡をかけたことと髪型をポニーテールにしたこと、そして仕事場で友達ができたことぐらいだった。佐々木の童貞っぷりも変わらない。
「ああ、そうだ若」
「なんでしょう」
『若』というのは鈴の愛称のようなもので、鈴の上司からはほとんどそう呼ばれている。
「今日、新しい子が捜査一課に配属されるんだけど、君の部下として、しばらく調査に協力して貰うから」
「はい……ってはあ?!」
手に持っていた大量のファイルを床に落として、佐々木の言葉に耳を疑う。
「言わなかったか?昨日から来てたんだけど……」
「いやいやいや!知らないんですけど?!ていうか私、初めて会う人と話せないの、知ってますよね!」
「そうだったか?まあ、なんとかなるだろう」
このような佐々木の適当なところも変わっていない。だが、楽観的な思考の佐々木と裏腹に、鈴は床に落としたファイルの様に床に崩れている。
「無理……、私のコミュ障力は異常なんですよ?美容院にも一人でいけないし……」
鈴の落胆っぷりは、周りを暗くして上からスポットライトでも浴びせられるほどだった。
「ほら、立て。お前のデスクの隣にいるから、挨拶しとけ」
「……うぃーす……」
資料室の床に散らばったファイルをまとめて渋々部屋を出る。
昔から友達が少なく、コミュニケーションの経験など皆無だった。おまけに白髪や目つきの悪さで、周りの人からも距離を置かれる様になっていた。
鈴のデスクは見た目に反して、かなり整頓されている。なので、鈴の見た目だけで判断している輩は、鈴のデスクが見つからず、資料が運ばれる事がないという。
「……部下っつわれてもなぁ、あんの佐々木の野郎、次適当な事言ってきたらただじゃおかな……」
「若林さん…ですよね」
後ろからいきなり声をかけられ、2年前の佐々木の数十倍の驚き様で、声の発信源をの方を振り向く。こちらの驚き様に、逆に声をかけた青年らしき人物も驚いた様だ。青年はかなり身長が低く、中学生にも間違えられそうだ。
「すいません。驚かせてしまったようで…」
「へぇ?!あぁ、そそんな事ないですヨ?!」
否定なのか肯定なのか微妙な言葉を吐きつつ、状況を整理する。きっとこの青年が佐々木の言っていた、鈴の部下になる刑事なのだろう。
「え、えぇ…と、君が新しくきた子…かな」
いつもと口調が全く違うが、青年に尋ねる。
「はい!若林さんの部下となります。早乙女流星≪さおとめ りゅうせい≫です!」
直視できないくらい、純粋そうな瞳と笑顔が眩しい。ドロッドロの鈴の脳内とは比べものにならないくらい、美しいのだろう。
「若!!」
「? はい!なんだ佐々木……課長」
いつも以上に焦った表情で話しかける佐々木は、いつもの適当という言葉をそのまま人にした様な人物とは全く違った。
「事件だ。近くの商店街で通り魔が現れた」
いつも怠けていたツケが回ってきたのか、重大な役目を任され、パトカーの音が嘲笑う人の声にしか聞こえなかった。
観覧ありがとうございました。楽しんでいただけたら幸いです。




