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OOO ~Original Objective Online~ 改訂版  作者: 1048
第一章 第一部
7/65

★第一回公式イベント 3

 僕は、アキラのいない月曜日から金曜日までの五日間で、今までのダイス運が嘘だったかのように5~8の目も出るようになっていた。


 ただ、何回振っても9と10の目を出す事は出来なかったのだけど…そこは課題の内容にも恵まれる事で、一人での攻略(ソロプレイ)にしては進んだのではないかと思う。まぁ、僕の得意分野である採集や採掘系が多く出たからだけど。


 討伐系の課題も有るには有ったのだが、レアな魔物や強い魔物を倒す系の課題ではなく、数を討伐する系の課題だったので、時間を掛けながらもヒット&アウェイの繰り返しでクリアしていった。戦闘でもピンチらしいピンチはなく、無事に八十五マスまで辿り着いている。


 まぁ、五日で八十五マスだから、一日平均で十七マス、課題数で三~四。微妙と言われれば、微妙なんだけどな。


 『明日の午後からは、久しぶりにパーティープレイか』

 ホームでいつも通り紅茶を飲みながら、ようやく二人でイベントを進めて行けると思い、思わず一人言と笑みが漏れた。


 『このところは一人で大変そうだったもんな』


 『そうなんだよ。楽しいのは楽しいんだけど、一人だと二人の時ほど…』

 そこまで言って、誰かがホームのリビングにいる事に気付いた。慌てて振り返るとそこには腕を組んで一人佇むアクアがいた。


 『楽しくないかな…って、急に入って来るな。マジで!せめて、あらかじめコールを入れてくれ』

 無言で背後に立たれるとマジでビビるから止めて欲しい。それよりも、思わず漏れた言葉を聞かれるのが恥ずかしい。


 『すまん、それは悪かった。俺がログインしたらシュンもログインしてたから、ホームにいると思ってな。勝手にお邪魔差せて貰った』

 ホームのリビング部分だけは、アキラと僕の両方共にフレンド登録されているプレイヤーは自由に出入り出来るように設定している。


 これによって、いちいち入室の許可を出さなくても良いのは便利な機能なのだが、こうやって無言無音(さりげなく)侵入されて背後に立たれたらビビるんだよな。設定を変えるか?でも、それはそれで面倒臭そうだからな。


 まぁ、知り合い以外は絶対に入れないし、知り合いでも工房や倉庫等のギルドの重要な場所には入れない設定にしてあるので、盗難等の心配は無いのだけど…まぁ、盗難するようなプレイヤーが僕とアキラのフレンドになってはいないと思うけどな。


 『シュンに、ちょっとした相談があって来たんだ。俺が組んでたチームは、今日の午前中になんとか二回目をクリア出来たんだが、明日と明後日は全員…ドームとレナを含めてだが、集まれなくてイベント攻略は終了になった。良かったら、明日と明後日シュンのパーティーに入れてくれないか?』

 僕個人としては全く問題は無いのだけど、問題は登録したメンバー以外とパーティーを組んで攻略しても課題をクリア出来るのか?と言う疑問一点だけだよな。


 『僕は課題がクリア出来るなら、アクアがパーティーに入るのはかまわないぞ。だから、今から…正確にはアキラがログインしてくるまでに、それを試しても良いか?』

 アクアに疑問点を説明してテストしてみる事になった。手持ちのタブレットを起動してダイスを振る。4が出て…


 ・リザード系魔物の五十体討伐


 数の討伐系の課題か、テストとして試すのには効率の良さそうな課題が出たな。


 『これなら試し易くて良いな。取り敢えず、二人で五十体を狩ってみるか?駄目そうなら、ジュネが達みたいに課題によってはパーティーから外しての協力プレイになるかな。アクアは協力プレイでも良いのか?』

 協力プレイが出来るのは、ジュネ達のお陰で検証は不要だからな。


 『イベント中のレベルの上がり易さを考えると、なるべく俺もソロは避けたい。だから、俺は協力プレイでも構わないぞ』

 アクアの目的が、クリアや報酬ではなく、レベル上げがメインならそれでも問題ないかな。


 僕とアクアはゲートで移動して湖の北側でリザード系を狩り始めた。僕としては、素材的に美味しいリザードやリザードマンが多く出て来て欲しいのだが、課題に関係の無いホワイトタイガや課題の対象だとしてもリザード系の最弱魔物で素材としても全く美味しくないリザードラン(走るトカゲ)(見た目は襟巻きトカゲ)の方が多く出てくる。物欲センサーの本領発揮と言うやつなのかも知れないな。


 『今日は、タイガの出が多くないか?』

 前衛で壁役に徹して近付く魔物を間引きながらも、器用に僕に近付く魔物を選別しているアクアが聞いてくる。やっぱり、僕達がやる簡易的な前衛と違って余裕が有るよな。


 『だよな。ちょっと数が多いかも。時間的に夜が明けたからか?』

 僕とアクアが湖の北側に着いた時点で、現実時間で丁度午後八時を過ぎ。トリプルオーの世界では東側から太陽が昇り始めており、出現する魔物も夜とは変わっていた。


 魔物が活発に行動するのは夜時間帯なので、強い魔物は夜の方が圧倒的に出現しやすい。つまり、今は弱い魔物の出現時間帯になっていると言う事だ。多分、その辺りも微妙に関係していると思われる。


 『その可能性は有るな。でも、全く出ない訳じゃないから、狩り続ければ、そのうち終わるだろ。むしろ、二人でなら(レベル上げ的にも)丁度良いくらいだ』


 この会話中も僕達は二体のホワイトタイガと三体のリザードランを倒している。話しながらでも警戒や牽制を怠ったりはしないので、本当に優秀な前衛だと思う。


 僕は…と言うと、後衛から銃と魔法で魔物を狩る。最近は前衛も兼ねていたので、後衛オンリーの戦闘は久しぶりだな。まぁ、慣れ親しんだ戦闘方法なので全く問題は無いのだけど。


 『そう言えば、アクア達はギルド作らないのか?』

 ギルドが有れば色々と便利だと思うし、βからプレイヤーとして仲間や知り合いも多い。それに、アクアを慕うプレイヤーも少なからずいるはずだ。


 『それは、イベントが終わってからだな。金は前に報酬として貰った分が、ほとんど手付かずで残ってるからな。よし、これで終わりだ!〈グランブレイク〉』

 アクアの放った一撃は残っていた全ての魔物を死滅させる程の威力を見せた。


 『どうだ?今ので、かなりの数は狩ったと思うが…』


 『どうだろうな。ホワイトタイガの方が多かったし、ドロップの感じからすると残り二十体くらいじゃないか?』

 言葉通り、ホワイトタイガのドロップだけはかなりの量を回収出来ていた。


 そうだな。イベントが終わったら牙や爪を使って矢でも作るか…フッフッ、どうやら頭の中は既にイベント後の生産活動でいっぱいみたいだ。かなり僕も生産系に染まってきているみたいだな。


 『あと二十体くらいか。じゃあ、また《探索》よろしく』


 アクアに言われるまでもなく、僕はすでに《探索》は始めていた…と言うか、街の外に出たら常に使っている。僕みたいな紙装甲(ペラペラ)の《銃士》は不意討ちにめちゃくちゃ弱いんだぞ。まぁ、《銃士》だけでなく後衛系のプレイヤーのほぼ全てが紙装甲なんだけどな。


 『視認でリザードマン八体だ。左側から来てる。注意しろよ』

 アクアもすでに確認していたようで、戦闘準備は終わっていた。初撃で繰り出された《騎士剣》のアーツ〈スラッシュ〉の連打で駆逐していく。


 〈スラッシュ〉は、威力が低く範囲も狭いが発動が早い事が魅力のアーツだ。それに剣系のアーツでは珍しく、〈グランブレイク〉と同じ範囲攻撃だ。まぁ、範囲攻撃と言っても、自分の前方四十五度くらいに出る三日月状の斬撃なのだけど。


 〈グランブレイク〉は、〈スラッシュ〉と違い溜め時間の長いアーツで、アクアみたいに〈起動破棄〉を覚えていないと使いどころが難しいが、その分威力は高いし自分を中心に百八十度の広範囲に衝撃波の壁を放つ。まぁ、さっきアクアが使った時は〈起動破棄〉を使わずに、完全に溜めきったバージョンだったんだけどな。あまりの威力に死滅した魔物達が可哀想になるくらいには…


 〈スラッシュ〉に巻き込まれて、かろうじて生き残った魔物のほとんどが、僕の銃でもトドメを刺すだけの瀕死状態になっているので美味しく経験値を頂いた。ある意味で後衛の役得だよな。本当にゴチです。


 この調子で後続等も退け、二人で合計二十三~四体くらいの魔物を狩るとタブレットにダイスが表示されていた。


 『この感じだと、パーティーを組んでいても課題攻略には問題が無さそうだな。アクアとパーティーを組むの事自体は良いんだけど、僕達が目指している高難度コースの報酬は、アキラが欲しがっているアイテムだから分けれないぞ。それでも良いのか?勿論、イベント中に集まった素材やアイテムは山分けするけどな』


 『それでOKだ。当然、報酬の方は俺も貰うつもりは無い。アイテムを分配してくれるだけでも俺としては十分だ』

 それならば、交渉成立だな。戦力が増えるに越した事はないからな。納得した僕はタブレットから次のダイスを振った。


 ・真っ(くろ)な魔物を狩る


 7が出て九十六(くろ)マス目に止まった結果がこれだ。九十六で(くろ)、完全なダジャレ系だな。いくらなんでも、課題がアバウト過ぎる気がする。課題の選考基準が全く分からないよな。


 『真っ黒な魔物か、亀やウルフも黒っぽい魔物だが、真っ黒って言うほど黒では無いし…』

 アクアにも心当たりが無いみたいだな。当然、アクアに無いような魔物の知識を僕が持っている訳が無い。


 『う~ん…これは無理だ。何かしらの情報が無いと難しそうだ。ここは俺に任せろ、明日までに調べてくる。知り合いに聞いたり、サイトを回れば手掛かりも有るだろ。今日は、そろそろ良い時間だから、ログアウトするか?明日は何時集合だ?』


 『もう、こんな時間だったか…』

 どうやら、リザード系の狩りに三時間以上費やしていたらしい。


 『明日は、昼過ぎの予定でアキラとホームで待ち合わせてる。あとで念の為にアキラにメールでアクアの事を確認だけしておくな。多分、大丈夫だと思うけど。返事が来たら連絡する』

 それだけ話して二人揃ってトリプルオーの世界からログアウトした。





 ログアウトした直後に携帯が鳴った。


 もしかしたら、ログイン中にも何回か鳴っていたのかも知れないけど、ログイン中の事は分からない。


 電話してきたのは…晶からか。なんてタイミングが良いんだ。それとも、やっぱりどこかで見てるのか?まぁ、冗談だけどな。念の為にと部屋の中だけは見回してみたが、当然いる訳もない。


 「もしもし、駿くん?寝てたかな」


 「大丈夫。今ログアウトしてきたところ。もしかして、何回か架けてくれた?」


 「そっか、良かった。明日の部活がこの前の代わりに急遽休みになったから、私も朝からログイン出来るよって伝えようと思って電話しちゃった。電話は一回目だよ」

 嬉しそうだな。それくらいの内容ならメールでも良さそうだが…まぁ、久し振りに長時間ログインが出来るならテンションが上がっても仕方が無いのかも知れないよな。僕は、今日までにクリアした課題や進んだ状況を伝えて、蒼真の事を話した。


 「うん…別に、それでも(・・・・)良いよ。三人の方が課題()クリアしやすいしね」

 あれ?ちょっと晶の機嫌が悪くなってないか?


 「どうかしたのか?それとも何か有ったのか?」

 夜も遅いし、部活で疲れているのかも知れないな。無理してなかったら良いんだけど…ちょっと心配だよな。


 「ううん、大丈夫。何でもないよ。それで、明日は朝からでも良いの?」


 「晶が大丈夫なら、僕は大丈夫だよ」


 「じゃあ、九時にホームでどうかな?」

 了解と答えて電話を終えた。


 電話が切れる直前に晶の「馬鹿」と言う言葉は、僕に聞こえる事は無かった。それが幸か不幸かは分からないのだが…


 さて、僕もさっきの件を蒼真にメールしてから、寝るとするか。





 僕が朝起きると蒼真から返信が来ていた。内容は…


 「真っ黒な魔物の正体が分かったぞ。夜の時間帯限定で【ヴェール】の近くに出現する黒烏(こくう)って名前の真っ黒なカラスだ」だ。


 夜限定の真っ黒なカラスか…それって、情報が合っていても簡単に見付かるのものなのか?暗闇の夜空に真っ黒なカラス…確かに、真っ黒な魔物にピッタリだとは思うけど、知らなかったら見付ける事は出来なかったと思う。


 今日も今日とていつも通り、掃除や洗濯を済ませてトリプルオーへとログインする。待ち合わせまでは残り三十分。それ(・・)が起きたのは、僕がホームのリビングで優雅に紅茶を飲んでいる時だった。


 〔OOO(トリプルオー)公式運営からの緊急連絡です。イベント終了まで現実時間で約三十三時間、プレイ時間で百時間を迎えました。明日の午後六時で第一回公式イベントは終了となります。今までのすごろくコースは高難度コースを上限としていましたが、百マス目に最高難度(三百マス)コースへの分岐マスを設置させて頂きました。最高難度と言う名前に違わず、課題の難度も報酬の方も格段にランクを上げさせて頂いております。腕に覚えのある皆様方は奮ってご挑戦下さい。それでは、残り短い時間ですが最後までお楽しみ頂ければ幸いです。なお、この最高難度につきましての詳細は広場やゲートにも掲示しておきますので、ご確認下さい。以上、OOO公式運営からの緊急連絡でした。繰り返します。OOO………〕

 最終日を目の前にしてイベントが進展…いや、違う発展したんだ。


 運が良いのか悪いのかは分からないが、今、僕達は九十六マス目にいる。どうしようか?まぁ、これは二人が来てから相談だな。




 九時少し前に二人がログインしてくる。公式から発表された事を話して一緒に広場に向かう事にした。


 『シュンの笑えない冗談では無かったか…それで、どうするんだ?』

 当たり前だ。この場合は僕に冗談を言うメリットが全く無いじゃないか。


 …そんな事よりも、すごろくのクリアランキングが掲載されている掲示板を見て、クリア回数が一番多いパーティーが高難度を既に五回もクリアしている事の方に僕は驚いた。パーティーリーダーはガイアと言うらしいが、多分トッププレイヤー達が集まったパーティーなんだろうな。ガイアか…名前から想像すると屈強そうだからな。


 『う~ん、私としては三人だけで最高難度をクリアするのは難しいと思うんだよ』

 それついては僕も同意見だな…と言うか、僕達だけだと高難度の残り五十四マスをクリア出来るのかも怪しいんだよな。


 『僕も同じだな。分岐前にいて、イベント的にはかなり美味しい状況でチャンスだとは思うけど、予定通り高難度のクリアを目指した方が良いと思う』


 『OK、OK。了解だ。もともと俺は臨時の参加者(飛び入り)だからな。二人の意見に反対する気は無いぞ。本音を言うなら目指して観たいところだが…問題無い』


 僕達は予定通り高難度をクリアを目指して、黒烏を狩りに【ヴェール】にゲートで飛んだ。



 『俺には全く見えないが、シュン達は見えるのか?』


 『いや、僕も見えないけど…魔物の気配は感じるかな』


 『私もシュンと同じかな。右側から鳥系が三~四匹?やっぱり、夜は《探索》スキルの効果や精度が落ちるね』


 『同感だな』

 確か、斥候系のスキルに《暗視》スキルとかも有ったよな?今なら、ちょっと欲しいかもな。


 『じゃあ、前の時と同じで俺が前衛でアキラとシュンが中衛兼遊撃で良いか?』


 『私達は大丈夫。新しく《扇》スキル取得してるから、攻撃の方も期待して良いよ。シュンは先制攻撃をヨロシク』


 個人的には、遊撃こそが《扇》スキルの真価が発揮されるポジションだと思っている。遊撃と言うポジションは前衛でも後衛でもないので、どっちつかずに思われ勝ちだが、逆に言えば前衛と後衛、その両方を兼ね備えている万能と言う事だからな。


 『それは、お任せ下さい。〈必射〉』

 むしろ、先制攻撃ポジションを逃すと僕には出番が無くなりそうだからな。ここで、少しは活躍しておきたいところだな。


 僕は、魔物の注意を引き付けると同時に《付与銃》を使い《付与魔法》を前衛のアクアまで飛ばしていく。《付与魔法》と同時に銃弾も出ているが、ダメージどころか痛みすら全く無いので、銃弾そのものを見てない限りは当たった事が分からないだろう。


 『攻撃力と防御力を強化した。牽制は頼む』

 さらに、援護攻撃を開始する。その合間にアキラを強化する事も忘れない。


 『残念。黒烏ではないみたい。〈蒼水扇〉〈紫雷扇〉』

 アキラが放つ《扇》の属性アーツの連続攻撃(コンボ)だ。水で濡らして雷で感電させる。当然、アキラも〈起動破棄〉は使えるようになっていて、〈起動破棄〉で下がった威力をコンボで補っているらしい。


 『あのコンボ、かなりダメージ高いな。近接攻撃並じゃないのか?』


 『僕達は、普段は一人か二人で戦ってるからな。秘密にしてる攻撃の一つや二つは有ると思うぞ』

 それに、これくらいのダメージが出ないと狩りにならないだろう。


 『悪い、シュン。一体そっちに行ったぞ』

 シェルバードの突進だ。僕は、左手で軽く捌きシェルバードの背後から、《拳》の二連撃と〈急所撃ち〉で撃破する。


 左手で殴る(ジャブ)殴る(ジャブ)、右手の射撃(アーツ)は今の僕に出来る数少ないコンボだ。《拳》と《短銃》での擬似二刀流ってところかな。


 《拳》スキルは、アーツを全く覚えない代わりにMPを消費して腕を強化する事が出来る。勿論、それを攻撃に利用する事も防御に回す事も出来る攻防一体のスキルだ。簡単に言うなら、物理盾要らずってところかな。


 『大丈夫だ。残りも片付けるぞ』

 アクアが先制攻撃で魔物のHPを大幅に削って、僕とアキラが止めを刺す。このローテーションで狩り続けているので、効率がかなり良いな。


 『き、来た、来たよ。多分、あの鳥じゃないかな?黒烏って』

 アキラの視線の先には真っ黒な鳥に見えなくもない塊が飛んでいる。


 きっとそうなのだろう。あれ以上に黒烏と言う名前が似合う鳥はいないだろう。僕は、すかさず〈必射〉で確実にダメージを与えて、注意を引き付け逃がさないようにする。随分と探して、やっと遭えたのだ。この期を逃がす訳にはいかない。だから、距離が有るので限り無く0に近い1だけど、今は必要なのだ。確実なダメージが…


 『頭は抑えた。来るぞ』

 強さが未知数、油断は出来ない。


 推定黒烏は僕達の頭上(高い位置)に陣取り左右の羽根を無数(ランダム)に飛ばしてくる。


 『俺では、まともな攻撃が届かない。攻撃を引き付ける側に回るから攻撃は頼む』

 アキラは〈翠風扇〉、僕は〈ウインドカッター〉と二人の風属性で羽根の軌道を変えながらも推定黒烏を削っていく。羽根の攻撃が無駄だと気付いた推定黒烏は…


 『アクア!』

 空中にいる推定黒烏に対しての攻撃手段が無いアクアにターゲットを絞り、急降下してきた。


 『あぶなっ、悪い、追い討ちは出来なかった』

 アクアはギリギリのところで盾で捌くが、追い討ちまでは入れる事が出来なかった。


 追い討ちを入れれなかった事に対して謝っているが、僕としては、『よく回避出来たよな』てか『凄いな』と言う思うのが先にくるんだけどな。それとも、ゲーマー達もは感覚そのものが違うのか?


 突進攻撃を捌かれた推定黒烏は、再び上昇して急降下してくる。アクアも二回目はタイミングを掴んだのか、上手く盾で捌いたあとに追い討ちをきっちり決め、左の羽根を削ぎ落とした。


 片翼を削がれた推定黒烏は上昇途中でバランスを失い急転直下で地面へと落下した。これが推定黒烏との勝敗がついた瞬間だった。あとは何も出来なくなった推定黒烏を三人でボコる…あまりにも無惨な最後だった。


 『やっぱり、この鳥が黒烏だったね。黒烏の羽根と黒烏の嘴がドロップでゲット出来たよ』

 アキラは、すぐにドロップから名前を確認したようだ。


 続けてダイスを振っていく。再開後、いきなりアキラは9を出した。流石だよ、僕はこの五日間で一回も出なかったのにな。再開後の一発目でそれを出すのだからな。


 ・薬草、毒草を各三種採集しろ


 この課題を見て難しそうな顔をする僕以外の二人。まぁ、その気持ちを分からなくは無いよな。


 『ラッキーだな。これは別々の課題でだけど、昨日と一昨日でクリアした課題だ。ここは任せてくれ。ここからすぐ近くにある森の入口付近でも採集出来るぞ』

 半信半疑の二人を僕が案内して素早く集める事に。


 まずは、薬草、解毒草、解痺草(げひそう)の回復系の薬草類三種。次に毒草類だが、毒草、麻痺草(まひそう)。ここまでは誰にでも、すぐに見付ける事が出来るだろう。これはスキルを取得していなくても普通に採集し続けていれば、その内集める事の出来る素材だからな。


 だが、最後の毒草一つは発見が難しいんだよな。以前に、たまたま見付けて無かったら、今回も悩んだ事だろう。


 『二人が気にしてるのは毒草の三種類目だろ?』


 『あぁ、俺は毒草と麻痺草は二種類しか知らない。他にも何か有るのか?店売りでも見た事が無いんだぞ』


 『私も同じ…シュンくんを疑う訳では無いんだけどね』


 まぁ、一回見付けると二回目からは超が付くほど簡単なのだけど。どこにでも生えてるからな…毒キノコは。


 『はっ?それは毒キノコだろ。もしかして、それも毒草に入るのか?』


 『あぁ、何故かは分からないが毒草の分類に入る。まぁ、ひとえに毒キノコと言っても毒のレベルや種類(タイプ)が豊富だから、適当にキノコを集めるだけでも簡単に毒草三種の課題はクリア出来ると思うぞ。分かっていれば単純だよな』

 タブレットにダイスが表示されているのを見せる。つまりは、課題を、クリアしたと言う事だ。


 『多分、このイベントはプレイヤーに普段使わない色々なスキルに触れたり、取得の参考にして貰う為に様々なパターンの課題を用意しているんだと思う。実際に新しく取得しているプレイヤーもいるからな。でも、頑なに戦闘系のスキル以外を取得したくないプレイヤーの為にもスキルを取得する以外にも色々な抜け道と言うか対処方法が用意されていると思う』

 問題は、その事に気付く事が出来るか出来ないかだけと付け加えておこう。


 それと、もしかしてだけど今回のイベントは次回以降のバージョンアップに対する伏線では無いのだろうか?今回のイベント結果によってはスキルやアイテムに調整が入るかも知れないよな。


 ・111(ゾロ目)のボーナス もう一度ダイスを振る


 『このパターンは二回目?かな。運が良いよね』

 アキラは6を出してマスの目を確認しながら話す。


 『こんなマスも有ったのか?俺達は出た事ないぞ』

 アクア達は、こう言うすごろく要素の強いは出なかったらしい。このイベントの半分を損している気がするな。


 『アクアは、戻る系や進む系は知ってるか?』


 『あぁ。それは知ってる。苦労したんだぞ』

 これは知っていたらしい。だったら、半分も損はしてないかもな。


 アクア達の話では、特に戻る系をよく出したらしい。ご愁傷様です。アキラが続けてダイスを振り、8を出した結果は…


 ・料理アイテムを二十種作成


 『作成って事は、買うのはダメなんだよな。これは《料理》スキルかシュンみたいに《家事》スキルを持って無かったら詰むんじゃないのか?いや、この場合は新規で取得したら良いだけか、流石は高難度コースってところか』


 『個人的にはアクアの意見には同感かな。でも、料理アイテムって考え方によると奥が深いから抜け道も有ると思うよ。丁度良いし、リアルでもお昼だから休憩するか?午後からは、アキラと僕が《料理》でアクアが料理の食材集めかな』


 『そうしようか。じゃあ、また午後からね』

 三人一緒にログアウトした。





 昼御飯は、朝作り置きしていたサンドイッチを食べる。今日は長時間ログインする予定にしている為、簡単に作れるサンドイッチにした。まぁ、三人分をまとめて作り易いってのもあるけどな。


 「あっ!」

 トリプルオーの中で、料理アイテムとしてサンドイッチを作ったら種類を稼げるかもな?そもそもの話、食べる事を出来れば、失敗作や不味い品も可なんじゃないのか?あとで試してみようか。


 「駿、腹が減ったぞ」

 いつも通り蒼真がやってくる。


 「勝手に食べろ。冷蔵庫にサンドイッチが入ってる。飲み物はコーヒーで良いか?」

 返事を待って、確認するまでもなくコーヒーを入れる。それくらいの好みは分かっている。


 「サンキュ、その調子で午後からも頼む」

 僕は、お前の母親でも恋人でもないのだけど…今さら言っても無駄だよな。自分の分は紅茶を入れて飲む。純は既に食べたようで、食べ終わった食器が綺麗に洗ってあった。





 午後はホームに集合だ。僕は、少し早くログインして料理アイテムを作っていた。ジュネの好きなナポリタンやペペロンチーノ等のパスタ系、アクアの好きな唐揚げやフライドポテト等のガッツリ系、簡単に作れて美味しい料理をどんどん作っていく。


 トリプルオーの世界では状態維持付きの倉庫(基本的にどの倉庫にも付いている。神殿でレンタル可能な倉庫を含めて)で保管した場合の料理アイテムは、腐らないし冷めないのは素敵な仕様だよな。勿論、常温で出しっぱなしにした料理アイテムは劣化していき、いずれは食べ物ではなくなる。


 ちなみに、【noir】のホームに設置されている倉庫には料理アイテム専用の食糧庫やそざい別に別れる大型倉庫等の用途別の倉庫が存在している。


 だが、保管しておけば、いつでも温かくて美味しく頂ける。それを、どんだけ食べても太らないのもトリプルオーの魅力の一つだろう。僕達には不要だが現実でダイエットをしたい人には向いているかも知れないよな。少なくとも食べれないと言うストレスとは無縁な話だからな。


 先程思った通りサンドイッチは、中身によって、ハムサンドや玉子サンド等、違うアイテムに分類された。当然効果も微妙に変わっている。まぁ、違うと言ってもHP回復量で1%くらいの誤差だけどな。でも、HPの上限が上がれば上がるほど違いが出るのかも知れないな。


そして、もう一つの思い付き「失敗作も料理アイテムになるのか?」も可能だった。食材の無駄なので、炭みたいに焦がした塩辛過ぎる卵焼きの一回しか試していないけどな。残念な事にHP回復量-1%を記録していた。僕個人としては料理の失敗作は毒だと思う。


 今、僕は《料理》をしているが、実際の感じとしてはアイテムの研究や実験に近いよな。まぁ、楽しいんだけど。


 『お待たせって、かなり作ってるね。あと何種類くらい?』


 『僕は普段からしてるし、基本的に《料理》は好きだからな。あとは七種類くらいかな…アキラは何を作る?僕は、具を変えておにぎりを作って数を稼ごうかと思ってる』


 『じゃあ、私は簡単に数を稼げそうな各種サラダと天ぷらを作ろうかな。天ぷらは多目に作って、色々な料理の付け合わせにも使えるように』

 天ぷらはうどんや蕎麦に凄く合う。考えただけでも凄く美味そうだな。


 『それは美味しそうだな。アキラ、期待してるからな』

 思わず本音が出てしまう。日本人にとって天ぷらは最高で正義。特に鶏肉と椎茸と獅子唐。その三種類だけは絶対に外さないで欲しい。


 調子に乗った僕とアキラが《料理》に集中した結果。種類で言うなら三十種類以上、量に至っては測定不能なくらい出来ていた。アクアの集めてきた食材が豊富だったからでも有るけどな。


 『ちょっとやり過ぎた感は有るかな…でも、こんなに有るのなら、明日イベント終わったら皆で打ち上げでもするか…と言う訳だから、アキラとアクアも知り合いにメールしておいて』

 イベント中はバラバラだったけど、イベント終了を祝って仲間内で打ち上げくらいはしたいからな。


 『了解。メールしとくね。じゃあ、ダイス振るよ』

 出目は10…だから、本当にそんな簡単にダイスの最高値を出さないで下さい。


 ・ビー系からハチミツを十五本ドロップしろ


 ビー系?ハチミツ?魔物には昆虫類もいるのか?と言うか、単位が本ってどういうこと?


 『おっ、これは俺に任せろ』

 アクアは、既に内容を理解したようだ。


 『一体どういう事なんだ?』


 『【ヴェール】の側の滝は分かるよな?それより奥に行った場所に巨大な蜂の巣が有って、そこで蜂モブが出る。それのドロップ素材の中にハチミツも有るんだ。それと、奇妙な事にそのハチミツは瓶に入った状態でドロップされるんだ。戦闘の方もクィーン(・・・・)が出ないように気を付ければ全く問題は無い』

 疑問点を全てアクアが説明してくれた。まぁ、別の新しい疑問が出てきたのだが…


 『クィーンって?』

 アキラも、僕と同じ事が気になったようだな。ただ、聞いたら確実に出てきそうなフラグ的な予感も僕には有る。


 『クィーンは、蜂の巣エリアで出現する蜂モブを全て倒したら出てくるボスモブだ。蜂モブを全部倒さないと絶対に出てこないから、今回はフラグ的な要素を含めて気にしなくても大丈夫だ。蜂モブも毒以外あまり強く無いし、すぐに終わるだろう。ただ、()だけは本当に強力だから注意しろよ』

 それなら、今回はそのクィーンに関しては本当に大丈夫そうだな。かなり毒の部分を強調しているが以前に何かあったのだろうか?まぁ、いちいち掘り返してまで確認しないけど。





 『いつ見ても、この滝は素敵だよね』

 【ヴェール】に移動して滝より奥を目指す。滝の側を通るとアキラはいつも見とれている気がするな。まぁ、僕もそうなんだけど。


 『蜂の巣を視認出来たけど…かなりの数いないか?』

 そして、何よりも僕が想像していた蜂よりもデカイ。


 『ここは、いつもこんな感じだ。準備は良いか?いくぞ』

 アクアは盾を装備せずに二刀流で蜂を切り払っていく。一撃で一殺。一振りで二・三匹を巻き込んで…


 なるほど、アクアの言う通りでHPは高くないようだな。僕も射撃していく一撃で一殺…は出来ないので二撃、三撃していく。ここでも、攻撃力の差を感じるよな。横ではアキラもナイフで一撃一殺をしている。どうやら、僕だけが一撃一殺を出来ないらしい。軽く凹むな。せめて、二撃で確実に倒せていたら少しは僕の心も救われるんだけどな。


 『そろそろ、課題は達成してないか?』

 アクアの声で、ドロップを確認すると十分達成している。


 『OKだ。充分集まったから、さっさと逃げよう』

 一気に【ヴェール】まで待避する。途中まで蜂達も追い掛けてきたが、ある一定のラインを越えれないようで森の奥へと引き返していった。


 ドロップ品にはハチミツ以外にも羽根や針が有り、針には毒性が有ったので弾や矢の改良にも使えそうだ。今度試さなければならないな。


 『アキラ、ダイス頼む』

 あと二十一マス。今日中にあと一、二回は課題をクリアしたい。次は4が出た。


 ・湖を一週する


 内容を聞けだけなら簡単だが、無駄に時間だけが掛かりそうな課題が出た。実際に、じっくり三時間も掛かっている。結して体力的には疲れてないのだけど、有っても無くても良いような課題だった。湖を一周する間に、湖の南東に和風の祠と鳥居を見付けたが、イベントとは関係無さそうな風景的にも場違いなオブジェクトだった。竜を奉っていただけで、お賽銭も入れれなかったし…


 湖を一周する時は戦闘目的では無かったので、倒した魔物の数は知れているが、種類は九種類となかなか豊富だった。特に明記しないが、中にはこんな魔物もいたのかって驚かされた魔物もいたからな。その内、素材として出演する機会も有るだろう。


 今日は、最後の課題に時間が掛かったので、残りは最終日にまわす。例の如くダイスだけは振る。アキラは5を出してマスの確認をしたようだ。


 『ごめんね…今、出すのは少し厳しい感じがするの出したみたい…』


 ・最大MP半減※すごろくを一回クリアまで


 『まぁ、残りのマスは少ないし、何とかなるよ。大丈夫』

 何としてでも乗り切らなければならないだろ。これ稼げそうな理由で詰むようなら、ここまで頑張ってダイスを振ってくれたアキラに申し訳ない。


 『そう言えば、アキラの欲しい報酬って何なんだ?』

 気落ちしているアキラの為にも話題を変えようかな。


 『う~ん、まだ内緒…かな。楽しみにしてて』

 まぁ、明日には分かるから良いんだけど、アキラは続けてダイスを振り7を出した。


 『『『………』』マジか!?』

 三人が同時に固まった。唯一アクアだけが反応を示す事が出来ている。流石にこの内容を理解するのには時間が掛かる。


 …トリプルオー、この世界に()神はいないのだろう。もしいるとするならば、かなりの天の邪鬼的な何かだろうな。課題の内容はすぐに理解出来たし、この魔物が出現する場所も分かっている。だが…


 ・レクトパス討伐


 非情、非情、非情にも、こんなマスが用意されているとは。はっきり言って心が折れました。根元からポッキリと音を立てて容赦なく…


 『まぁ、取り敢えず、今日は終わろうか。明日は早めにお昼を食べて十二時くらいにホームに集まろう。それでは各自解散!』

 今日は、もうプレイを続ける気力がない。それは、三者三様で…


 まぁ、出たものは仕方が無いからな。これを期にトラウマ称号の成長チャンスだと割りきろうかな。





 翌日は、待ち合わせの十二時より早くログインしている。レクトパス討伐の為に、昨日回収した蜂の針を使って銃弾や矢の改良をしたかったからだ。予想通り、今までのレベルより高い毒だ。


 『これを使えば…


【銃弾・毒2】攻撃力+10〈特殊効果:毒Lv2〉


【矢・毒2】攻撃力+15〈特殊効果:毒Lv2〉


 …まぁ、そうなるよな』

 これには予想通りの結果が得られて満足している。これを時間が許す限り量産して…よし、各二十個用意出来た。


 相手がレクトパスだけに、この準備だけでは心持たないが、無いよりは絶対に良いだろう。以前よりレベルもスキルレベルも上がっているけど、以前よりもパーティーの人数は少ないし、何よりもMPが半減している。トラウマ要素的な恐怖も有るので不安が尽きないな。


 『おはよ~』

 少しでも落ち着こうと紅茶を飲んでリラックスしているとアキラがログインしてきた。今のうちに渡しておこうかな。


 『アキラ、昨日の蜂からドロップした針を使って矢を作ったから。使ってくれ』


 『あっ、もう作ったんだ。ありがとう。わっ、毒のレベルも上がってるね』

 さっそく、矢の性能にも気付いたらしいな。


 『そんなところだ。間に合わせになってしまったが、無いよりは良いだろう?』

 アキラは装備を確認しながら頷いている。


 『う~っす。俺の気合いは十分だ』

 アクアも来たようだな。


 『じゃあ、行くか』

 レクトパス討伐&リベンジへ出発だ。目指せ完全勝利。





 レクトパスの出現条件は解明されている。単純に湖の波打ち際でバシャバシャと音を立てて暴れる。シンプルなだけに同じような不意討ちを喰らったプレイヤーも何人もいる。当然、泳ぐ系のスキル保持者でも、レクトパスがいるこの湖を泳ぐような強者プレイヤーは一人も存在していない。


 『アクア、前衛は頼んだ。アキラは〈紫電扇〉で遠距離から攻撃して、僕はアキラを守りながら中衛で遊撃する』

アクアが波打ち際でバシャバシャと音を立てる。しばらくすると、湖の中央付近から巨大な影がゆっくりと近付いて来た。


 『来たぞ。皆、集中だ!』

 僕達は、アクアの声で気を引き締めなおす。〈攻撃力上昇〉〈防御力上昇〉をアクアに、〈攻撃力上昇〉〈回避上昇〉をアキラに、〈魔法攻撃力減少〉〈攻撃力減少〉〈速度減少〉をレクトパスに…《付与銃》を使った事により、すごろくで半減されていたMPがほぼ尽きる。


 『MPがほぼ尽きた。持久戦は不利だ。一気にいこう』

 最大MPの半減が思いのほか効いている。銃でレクトパスの脚を使った攻撃を弾いていく。近付き過ぎた脚は〈零距離射撃〉で吹き飛ばす。何気にアキラが後方で使う〈紫雷扇〉の効果が凄い。レクトパスを一瞬だけだが感電させている。稀に動きまで止めているからな。


『〈ブレイズエッジ〉…この分なら、楽勝じゃないのか?』

 レクトパスの脚も半減して、アクアの最大攻撃系アーツ〈ブレイズエッジ〉も決まり、油断しかけた時だった。


 …脚が復元、さらに、四本の脚が増えた。計十二本。もう、イカよりも脚の数が多い。本当に勘弁してください。


 『はい?』

 言いたい事は分かる…でも、それは、本当に酷くないですか?僕はレクトパスの脚を捌きに捌いて攻撃を避ける。


 『僕が壁役を代わる。二人共、その間に体勢を立て直して』

 前に飛び出し《短銃》と《拳》の擬似二刀流で攻撃を捌いていく。一撃たりとも、まともに貰うわけにはいかない。確実に一撃が致命傷になるだろう。そんな威力を醸し出している…〈回避上昇〉。これで最後のMPも使い切った。あと、僕に出来る事は、ひたすら回避する事だけだ。


 銃で捌く間に〈零距離射撃〉で三本の脚を吹き飛ばす。僕は立ち止まれない。当然、マガジンをリロードする暇も無い。弾の切れた銃は使い捨てるだけだ。あと二丁、残っているのは攻撃力の劣る【ハンドガン】ばかり。ただし、【ハンドガン】には作ったばかりの【銃弾・毒2(切り札)】のマガジンが装填されているけどな。


 《拳》で捌き、一歩一歩確実に近付いていく。背後にいる二人の心が回復する時間を作らなければ…僕は、ひたすらレクトパスの関心を惹き付け続ける。レクトパスの攻撃の隙をついて、頭部に攻撃して毒のスリップダメージも狙っていく。


 若干、本当に若干だが、頭部への攻撃で動きも鈍くなったような気もする。レクトパスが体勢を変えて残り九本の脚の同時攻撃に出てくる。


 『くっ!』

 しまった。これは流石に近付き過ぎた。ここまでくると、捌くのも回避するのも無理だ。


 レクトパスがスミを吐く、僕の視界の大部分は奪われ、その瞬間に足元を掬われた…九本の脚が僕を目掛けてくる。


 『うっ…』

 僕は死に戻りを覚悟し…


 『〈シールドブロー〉だ』

 …た。と同時に目の前に盾で九本の脚をまとめて吹き飛ばすアクアの後ろ姿が微かに見えた。


 『〈紫雷扇〉シュン、大丈夫?』

 アキラの追撃も決まる。どうやらアキラも態勢を立て直せたようだ。続けて〈紫雷扇〉を連続で放っている。


 『二人共、助かった。ありがとう』

 僕も二人の援護に入る。MPが尽きているためアーツは〈零距離射撃〉以外は使えない…だが、そんな事は全く関係が無い。


 ダメージは少ないが、援護は出来る。アクアは装備を二刀流に変えて復元した脚を斬り裂いていく。どんどんと脚の数が減っていく…どうやら復元した脚の耐久性は低いようで、アクアの一撃に耐える事は出来ていない。


 『これがラストだ。〈フルスラッシュ〉』

 ついに、アクアのアーツで今度こそ本当にレクトパスの脚が無くなった。それにより、レクトパスの攻撃方法が激変する。


 視界を潰そうとスミを吐いたあとに、湖水や湖底の岩を吸い込んで吐いてくる。これを言っては元も子もないと思うけど、急に雑魚臭がしだしたよな…もう、レクトパスには勝機が無いのだろう。


 『〈紫雷扇〉』


 『〈ブレイズエッジ〉』


 『〈零距離射撃〉』

 三人で同時にアーツを撃ち込む。レクトパスが二度と動く事は無かった。


 『おっ!これでリベンジ達成か?シュン、どんな気分だ?』

 僕の顔を見たのなら、既に分かっているだろう。


 『そっくり返そう、アクアはどんな気分だ?』


 『最高だな』

 本当に良い笑顔だな。


 『私も最高かも』

 アキラにも笑顔が溢れている


 『だよな。ほら、サンドイッチと紅茶、MPは無理でもHPだけは回復させとこうぜ』

 三人で紅茶とサンドイッチで、ささやかな打ち上げだ。称号もまともに成長したし。名前は相変わらず変だが気分だけは良いな。



称号成長

〈トラウマを乗り越えし者リターンズ〉

二度目のトラウマを乗り越えた者への称号/成長称号



 『多分、最後になるだろうな。アキラさっさとダイス振っちまえ。おい、シュン、これでアキラの欲しい報酬が分かるぞ』

 十分に休憩を取り、MPを回復してからアクアが急かす。後半の言葉はアキラには聞こえないように僕だけに伝えてきた。アクアも気になっているらしいな。


 『急かさないで。じゃあ、振るよ』

 …5か、最後はお約束のようにピッタリとゴールに止まる事が出来た。


 『あとは広場で申請して終わりだな。このイベント、結構楽しめたよな』


 『うん。すごろくなんて小さい時以来だから、結構熱くなったかも』


 『僕も楽しかった。二人共ありがとな』


 三人でお互いを労って、広場に向かう為に【ソルジェンテ】のゲートを目指す。その時だった。




 〔緊急連絡!緊急連絡を申し上げます。たった今、最高難度コースのゴールマスにガイア様のパーティーが到着致しました〕


 『おぉっ!?』

 早いな。流石はランキングトップのパーティーだ。


 〔つきましては、最終イベント【レイドバトル・ツインテールドラゴンの討伐】が十分後に発動致します〕


 『『『はっ!?』』』


 〔場所は【ソルジェンテ】南近辺に存在する鳥居付近。ツインテールドラゴンは、そこから街を目掛けて進撃してきます。その為、イベント終了まで【ソルジェンテ】のゲートを封印させて頂きます。ツインテールドラゴンを討伐しますと今回の公式イベントは強制的に終了となります。報酬の申請がまだのパーティー様はお早めに申請下さい。皆様のご参加を心よりお待ちしております。以上、OOOの運営からの緊急連絡でした〕



 『ぃ~~~~~』

 言葉にならないし、洒落にもならない。鳥居って…あの意味不明な場違いなオブジェクトの場所か、まさかこんな形でイベントに関わってくるとは、思いもよらなかったな。


 『レイド来たぁ~~~~~!俺は絶対に参加するぞ。シュン達はどうするんだ?』

 アクアは、一早く参加を決めたようだ。見た事がないくらい目がキラキラしているからな。言葉で聞かなくても伝わってくるよ。


 『うん。僕も街は守りたいかな。アキラ、【シュバルツランド】まで歩きになって申し訳ないんだけど、報酬の申請をお願いして良いかな?アキラは欲しい物が有るんだよね?』

 僕達の勝手に目的の有るアキラは巻き込めないからな。


 『うん…分かった。出来るだけ早く戻ってくるから、二人共絶対に無理はしないでね』

 僕が、アキラに〈速度上昇〉を掛けると同時に、アキラは【シュバルツランド】を目指して走り出した。


 『じゃあ、行くか。アクア』

 今回のイベントの最後を…街を守る為に。

装備

武器

【デルタシーク】攻撃力30〈特殊効果:なし〉×2丁

【銃弾2】攻撃力+10〈特殊効果:なし〉

【ハンドガン】攻撃力15〈特殊効果:なし〉×2丁

【銃弾・毒2】攻撃力+10〈特殊効果:毒Lv2〉

防具

【ゴーグル】防御力3〈特殊効果:命中補正・微〉

【レザーブレスト】防御力15〈特殊効果:なし〉

【冒険者の服】防御力10〈特殊効果:なし〉

【メタルバングル】攻撃力5/防御力15〈特殊効果:なし〉〈製作ボーナス:軽量化〉

【レザーブーツ】防御力5〈特殊効果:なし〉

【ノワールローブ】防御力15/魔法防御力10〈特殊効果:回避上昇・中〉〈製作ボーナス:速度上昇・中/重量軽減〉

アクセサリー

【ウルフダブルホルスター】防御力5〈特殊効果:速度上昇・微〉〈製作ボーナス:リロード短縮・小〉

【左狼脚ホルスター】防御力2〈特殊効果:回避上昇・微〉〈製作ボーナス:リロード短縮・小〉

【右狼脚ホルスター】防御力2〈特殊効果:回避上昇・微〉〈製作ボーナス:リロード短縮・小〉



《銃士》Lv55

《短銃》Lv60※上限《拳》Lv26《速度強化》Lv42《回避強化》Lv39《風魔法》Lv40《魔力回復補助》Lv43《付与魔法》Lv42《付与銃》Lv15《錬金》Lv14《探索》Lv50※上限


サブ

《調合》Lv14《鍛冶》Lv17《家事》Lv32《革職人》Lv34《木工》Lv12《料理》Lv15《鞄職人》Lv40《細工》Lv10


SP 42


称号

〈もたざる者〉〈トラウマを乗り越えし者リターンズ〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈自然の摂理に逆らう者〉

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