サラベール山脈(登山3)
僕は、黒達の居る場所を目指して走り続けている。
………あと五十メートル。
………二十メートル、もう少しだ。
頼む、頼むから無事でいてくれ。何故、あの時の僕は白達だけで行かせたんだ。こうなる可能性も十分に考えられたはずなのに………
『………って、あれ?』
あそこに浮かんでいる白、黒、それにシヴァは無事そうだな。どう見ても全くの無傷………と言うか、危害を受けた形跡すら無い。
そして、白達の側にいるのが僕達を見ていた目の正体だろうか?
十メートル、九メートル………もう、既にかなりの距離まで近付いているはずだけど、何故《見ない感じ》に全く反応が無いんだ?
僕の視界は確実にNPCらしき人物を捉えている。この状態で全くステータスが視えないはずは無い。仮に、ステータスを隠蔽する系のスキルが有ったとしても名前くらいは見えるはずだ。
『おい、皆は大丈夫なのか?』
『主よ、ワシらは大丈夫なのじゃ。じゃが、この方はワシらを見て気を失ない、既に虫の息なのじゃ』
この方?今、白が変な言い回しをしたような………と言うか、この人物はプレイヤーだったのか?
見た目は僕達よりも年下だよな。まぁ、サラとブレッドと言った前例も有るので、この中の人の年齢までは分からないのだけど。
だが、種族の方は………全く見た事が無いな。ヨーロッパサーバーだけで存在する限定種族とか?かな。僕は知らないけど、そう言うのも存在すると言う噂程は聞いた事が有るので、アクアならそう言う情報も分かるかも知れないな。
………と言うか、いつ気を失ったんだ?さっきまでは、絶対にこっちを見て僕達の様子を探っていたはずだ。こんなボロボロの状態でも気配を出来るだけ消して、慎重に………もしかして、これは気絶の演技か?
もし、気を失った事が演技だとするのなら、この人物に僕の〈主演男優賞?〉の称号を譲りたいものだ。是が非にでも………
『主よ、こんな時に何を勘違いしておるのじゃ。ワシはさっき、ワシらを見て気を失ったと言ったのじゃ。そんな事よりも………』
『………まずは回復』
『が優先なのだ。他の事は、そのあとで考えるのだ』
三匹のファミリアによる流れるような一連のやり取り。こう言う時だけは妙に息が合っている。
『だな』
確かに、まずは回復が最優先だろう。すぐに死ぬ事は無いだろうけど、この人の残りHPに遊んでいる余裕も全く無いのも事実からな。
僕は、空飛ぶ白を手に取り、目の前にいる人物に、二回、三回と射撃をした。
『う~ん………』
HPが全快するまでに三回か、かなりHPの高い種族みたいだな。前衛系のトッププレイヤーであるアクアですら、HPが残り一桁からでも今の【白竜】で二回も射撃すれば全快になる。それだけでも、三回目が必要だったこの人のHPはかなり高い事の証明になるんだよな。まぁ、その他のステータスの関係も有るから一概には言えないんだけどな。
『………あっ!?』
そう言えば、何故僕は名前も分からないこのプレイヤーの残りHPが分かったんだ?
《見ない感じ》の能力か?いや、違うな。何故かは分からないけど、《見ない感じ》は全く反応してない………いや、正確にはそれも違うのか?《見ない感じ》は反応しているけど、分かるのはHPとMPだけって言う方が正しいのか?
それも、普段のように細かい部分の数値までが一目で分かるのでは無くて、多分そうなんだろうなと言った感覚レベルで感じられるような些細なもの。かなりの確率で、このプレイヤーのスキルに関係しているのだろう。それか、今回に限っては無いと思うけど、例の如くの単純な僕のスキルレベル不足かだな。
『ハァハァ………や、やっと、追いついたぞ。シュン、お前………は、速すぎだ。少しは、後ろから追いかける俺の身にも、ハァハァ、なって欲しい、ハァハァ、ぞ』
息も切れ切れで、僕のあとを必死に追い付いてきたアクアを尻目に、僕はこの名も知れぬプレイヤーの観察を続けている。
『おい、シュン、俺を無視するな。ハァハァ、それと、俺にも分かるように説明を………って、何だ?こいつは?』
『今の時点で分かるのは、僕達を見ていた目の正体と言う事だな。それと、今にも死にそうなくらいのダメージを受けていたから、アクアが来るまでに回復だけは施したけど、意識の方は戻る気配も無い事かな』
自分で言っておいてあれだけど、この人物がプレイヤーだとするなら、死に戻りをせずに意識だけを失うと言うのも変な感じだよな。
〔『………主も湖で気を失った』〕
………あっ、あぁ、そんな事も過去に有ったよな。思い出したくもない過去の一つなので完全に記憶の奥底に封印していんだけどな。簡単に抉ってくるよな。
そう言えば、あの時も僕の隣にはアクアがいたよな。もしかして、まだ息の切れているアクアが僕の疫病神なのだろうか?うん。きっと、そうだな。そう言う事にしておこう。何と言っても、それで僕の気分が全てが丸く収まるのだから。
〔『………現実逃避は良くない』〕
〔『主よ、無駄な抵抗は見苦しいのじゃ。主自身が巻き込み体質なのじゃ。他の者は主に巻き込まれた結果なのじゃ』〕
〔『いや、それは………』〕
流石に、巻き込み体質と言うのは僕のキャパシティでは許容しきれないんだけどな。許容はしきれないけど、過去の例からみても反論も出来ないんだよな。
『いや、そう言う事じゃない。ダメージの方は防具の損傷を見れば、どんな攻撃を受けたのか大体想像は出来る。俺が知りたいのは、こいつはプレイヤーなのか?それともNPCか?そもそも、こいつの種族は何なんだ?って事だ』
それは、僕も気になっているところだけど、アクアが知らない種族の事を僕が知っている訳は無いよな。でも………と言う事はだ。ヨーロッパサーバー限定種族が存在しているとかでも無いのか。
う~ん、困ったよな。今のところは全く手掛かりが無いからな。分かっているのは、非常に高いHPと防具と呼ぶのも気が引けるような薄い服(ただし、服の原型は留めていない………まぁ、形状や材質から推測すると薄くて丈夫な武道着?系と言ったところかな)と性別が男の三点くらいだからな。ほぼ謎だらけと言った方が正しい。
『残念ながら、僕のスキルでも全て判別不能だな。取り敢えず、この人の意識が戻るのをここで待つか、この人を無視して先へと進むか、あまりお薦めは出来ないけど、その両方の三択と言ったところかな』
最低限の回復は施したから、個人的には放置プレイも有りかもな。
『そうか………ちなみに、三番目のその両方って言うのは?』
『それは簡単なのじゃ。どちらかの背中にこの人を背負って先へ進んで意識が戻れば、その時に事情聴取すると言う事じゃ』
『まぁ、大体は白の言う通りだな。背負ったり抱えたりする役は、この場合は近接戦闘向きでは無い僕になるんだけどな』
この両方の良いところ取りを選択した場合、戦闘面を考えるなら、僕がこの人を背負いながら《付与術》や回復でアクアを援護するしか策は無いだろう。そこが、あまりお薦めできない理由の一つでも有るのだけど………
ちなみに、逆の場合は全滅こそしないけど、全てにおいて時間が掛かり過ぎるので、僕の頭の中の時点で既に却下されている。
『いや、それは避けた方が良いだろう。こいつのやられようは尋常じゃないぞ。動くなら、確実な情報を得てから二人での方が安全だろう』
珍しくまともな意見が出たな。普段なら二つ返事で登山継続の選択肢を選んでいるところだよな。もしかして、ようやくアクアも成長したのか?
『………この方の意識が戻りそう』
『う、うぅん………うっ、こ、ここは?』
『えっと、ここは【サラベール】の街から山を数時間登ったところです。覚えてられますか?』
まだ、意識がはっきりとしない全てが謎の人物に対して、柔らかな口調と態度で答える。当然、既に二人共が武器を鞄の中にしまっている。
『さ、【サラベール】………はっ!?皆は?郷の皆は無事なのですか?あの化け物達は?』
今の一言の中に不穏なワードがいくつも混じっていた気がするな。でも、彼が何を言いたいのかは、僕達には全く伝わっていない。
『主よ、まずは落ち着かせるの先なのじゃ』
まぁ、普通はそうなるか。このままだと簡単な会話すら無理そうだからな。そうなると、ここは………
『少し落ち着いて下さい。ここは大丈夫です。ここには僕達以外には誰もいません。近くには魔物も………』
『主よ、近くには魔物もいないのじゃ』
『………だそうです。あっ、そうだ。温かい紅茶でも飲みますか?』
紅茶の出番だろう。紅茶普及の絶好のチャンスとも言うけどな。
僕は、わざとらしい一言を添えて鞄からティーセットを取り出し、常備している温かい紅茶を一杯注いだ。そして、疲れも取れるように少し砂糖を多目に入れて手渡した。
意識を取り戻した謎の人物はティーカップを受け取り、自分自身を落ち着かせるようにゆっくりと口をつける。
余談だが、このティーセットのティーポットは鞄の中に入れてなくても、中身が溢れず冷めないように製作段階で中身の状態維持の製作ボーナスを選んでいる。さらに特殊効果で容量拡大・大も付けれているので、滅多な事では中身はなくならないだろう。
僕は他の製作ボーナスや特殊効果は完全に無視して、この二種類の効果だけを限界まで高めた完全に趣味にメタった物を複数個作り上げて常備していた。まぁ、その分最初に紅茶を用意した時は、なかなか中身がいっぱいにならなくて地獄だったのだけど………
ちなみに、どこでも紅茶を飲みたいの一心だけで、このティーポットを作り上げている事を、当のシュン本人はギルドメンバーやファミリア達にも秘密にしているのだが、サラとブレッド以外にはダンジョン内でこのティーポットを含むティーセット(テーブルとイスも含む)を見せた瞬間に即行でバレている。その事に対して、シュン本人が隠そうとしている事にも一瞬で気が付いた皆は、慈愛に満ちた優しさで一致団結して気付かないふりをしているのは、ここだけの話だ。なので、当然やらかしたシュン本人は全く気付いていない。
『相変わらずと言うか、シュンらしいと言うか………お前はいつもそんな物を持ち歩いてるのか?』
『主にとっては当たり前の事なのじゃ。今や、ワシらにとっても紅茶での休憩時間は当たり前なのじゃ』
若干引いているアクア、僕以上に堂々と宣言している白。
『………黒にも一杯』
そんなやり取りを完全に無視して、ふてぶてしく紅茶を要求する黒。
うん!?………ちょっと待てよ。
『今は却下だな………と言うか、さっきから白と黒は普通に話してないか?』
このやり取りでシヴァは全く絡んでこないけど、白も黒も《心話》を使ってない気がする。
『主よ、ワシらは《心話》を使ってないのじゃ。普通に聞こえるのは当然なのじゃ』
いや、そんなに自信満々で答えられても、ファミリアの存在を隠している僕としては困るのだけどな。
以前に交わした、目の前に他のプレイヤーがいる時は《心話》を使わない約束はどこへ行ったんだろうか?
『………この方は、プレイヤーじゃない』
『えっ、じゃあ、NPCか?』
『主よ、その判断を下すのは難しいのじゃ』
『はいっ?』
遠回しに言われても、言いたい事は全く伝わらないんだけどな。
えっと………今の白と黒の言い分を要約すると、この人はプレイヤーでは無いけど、通常のNPCとも言い切れないって事になるのか?自分で言ってて何だけど、全く意味が分からないよな。
可能性があるとするなら、ケンタウルスのケンさんやウルちゃんみたいに分類としては魔物のNPCって事になりそうだけど………いや、でも普通に会話出来ているのなら、僕が《バイリンガル》で取得した言語の中に有る言葉だよな。海外でも使える主要な言語は取得しているけど、魔物の言葉はケンタウルスしか取得していない。まさか………こんな見た目でもケンタウルス種なのか?
いや、それは絶対に無いだろう。
『シュン、残念なのだが、それらの考えも全てが的外れなのだ。この方は………』
『そこからは、私が話します。飲み物ありがとうございました。温かくて、甘くて、とても美味しかったです。出来れば………』
やっと口を開いたシヴァを、話題の中心である謎の人物?が引き止めた。
『そうですか。それは良かった。良かったら、もう一杯いかがですか?』
『ありがとうございます。頂きます』
返事よりも先に空になったティーカップを差し出してきた。
僕は、そのティーカップに新しい紅茶を注ぐ。中身はかなり熱いと思うのだけど、謎の人物は新しく注がれた紅茶は先程とはうって変わって一気に飲み干した。
もはや、僕にとっては、この人物がプレイヤーでもNPCでも魔物でも関係が無い。僕の出す紅茶を気に入ってくれたのだから、その時点で友達扱いだ。
そして、そこに絶対的な紅茶普及のチャンスが訪れるのなら、それに全力投球するのが僕だよな。差し詰め今は、もう一杯美味しい紅茶を飲んで貰いたいからな。背後から現在進行形でアクアや白達に白い目で見られていても、そこはお構い無しだ。
『よろしければ、もう一杯………』
だが、僕の薦めは、四本指の掌一つで遮られる。
『落ち着いたのは結構だが、かなり焦ってたんじゃないのか?えっ~と………』
『すみません。申し遅れました。私はラーダ、こう見えても【飛竜の郷】を管理する一族の者です。お願いします。どうか、私達を助けて下さい』
ラーダと名乗った四本指の謎の人物は、質問してきたアクアにすぐさま詰め寄った。
『ちょっと待て、分かったから落ち着けって。そして、少し離れろ。俺はアクアで、こっちはシュン。そっちも大変なのかも知れないが、理由が分からないと助けようもない』
ラーダさんに腕を掴まれたアクアが慌てて身をひるがえす。あの一瞬でアクアの間合いに入り込むとは、その瞬発力は油断ならないみたいだな。
理由が分からないと助けられないと言ったアクアだが、【飛竜の郷】と言う言葉に反応していたから、断ると言う選択肢は無いだろうな。長年連れ添ってきた幼馴染みの考えている事くらい、僕は手に取るように分かるからな。
〔『主よ、ワシらは長年連れ添っておらぬのじゃが、主の考えは手に取るように分かるのじゃ』〕
〔『………黒も』〕
〔『我もなのだ』〕
いや、僕としてはそれとこれとは根本的なところで違うと思うけどな。
『申し訳ございませんでした』
少し離れて深々と頭を下げるラーダ。
『それで、どう言う事なんですか?』
僕はと言うと、一連の展開が早過ぎてこの相槌を入れるので精一杯だな。
『詳しい事は、これを見て頂ければ、分かるはずです』
手渡された紙には………
連続クエスト・ドラゴンの報復EX【飛竜の郷の救出】
………と、だけが書かれていた。僕が読み終えると同時に注釈の部分が浮かび上がってくる。
※なお、このクエストは世界で一度しか発動しない特殊なクエストになります。このクエストの結果次第で今後の世界の運命が大きく変わりますのでご注意下さい。
『マジか!?』
こんなクエストの発動方法も有るのか?
それに、連続クエスト・ドラゴンの報復………確か、マザードラゴンやドラゴンゾンビと戦った一連のクエストの事だよな。あれは、僕がドラゴンゾンビを倒した事で終了したはずだ。
それが秘密裏に続いていて、しかもEXって………謎の人物ことラーダさんを助けた僕の善意が仇になって帰ってきた感じがするよな。さらに、クエストの結果次第で今後の世界が変わるとか、僕個人には荷が重過ぎる話だな。
『シュン、そんなに慌ててどうした?その紙に何が書いて有るんだ?俺にも見せてくれ』
一言も発せずに、僕はアクアにも紙を見せる。
『おいおい、これはマジか!?シュン、やったな。やったぞ。俺達が世界で一度の超超超レアクエストをGETだぞ。ドーム達に怒られながらもシュンに付いてきて良かった。日頃の行いか?俺達はついてるぞ。おぉっし、やるぞ~』
いや、このクエストについて何も知らないアクアなら、そうなるのかも知れないけど、ドラゴンゾンビの強さを知っている僕としては、アクアみたいに素直に喜べないんだけどな。
それに、ドーム達に怒られていたのは初耳なんだけど………知らない内にドームやレナから恨まれてないよね僕。
それと、日頃の行いだけは否定させてもらいたい。絶対にアクアよりも僕の方が日頃の行いだけは良いはずだからな。
『ラーダって言ったか、俺達は………』
『おい、アクア、ま………』
『参加するぞ。いや、俺達二人が【飛竜の郷】を助ける』
『ありがとうございます。詳しい説明は、走りながらでも宜しいですか?私は、すぐにでも【飛竜の郷】に戻らねば………』
既に、走り出したラーダさんを追ってアクアも走り出している。一度突っ走り出したアクアを止められる者は、この場にはいない。
〔連続クエスト・ドラゴンの報復EX【飛竜の郷の救出】がアクア様、シュン様の二名によって受諾されました。クエストの終了まで、コールやメールならびにゲートの使用は、ログアウトは出来ません〕
これは、僕とアクアだけに聞こえているだろうのか?それなら救われるけど、他のプレイヤー達にも聞こえていたなら、失敗した時には精神的にかなり辛いものが有る。しかも、コールとメールが使えないらしいので確かめる事も出来ない。
少し遅かった。あと一声が間に合わなかった。そして、何よりも僕を巻き込まないで欲しかった。アクアは以前から全く成長していなかった。今の僕に瀕死のダメージ(死に戻りでも僕は全く構わない。寧ろ死に戻っていたい)が出ても良いから、過去に戻って数分前のアクアに対して成長したと少しでも思った愚かな僕を数発殴らせて欲しいものだ。
『主よ、手遅れなのじゃ。もう、このクエストを頑張るしかないのじゃ。これ以上、バカを放って置くと、次は何をしでかすか分からないのじゃ』
『………ラーダとバカを追う』
今、白も黒もバカと言う言葉の読みにアクアを使っているような感じがするけど、気のせいだろうか………まぁ、僕も白達同様に使いたいけどな。
僕は、前を行くアクア達を人並みに(今のところかあまりやる気が湧いてこないので普段のように早くないけど)追い掛けながら、このクエストについて考えているのだけど、【飛竜の郷の救出】の郷の救出と言う部分が把握しずらいよな。この場合の救出と言う表現が曖昧すぎる気がするな。飛竜の郷を襲う化け物達の討伐やラーダさんの同胞の救出なら、内容も理解しやすいし、分かりやすいとも思うのだけど………
走行中に念の為に確認してみたけど、コールもメール機能も使えなくなっている。勿論、ログアウトも………唯一と言うか、ファミリアのスキルである《心話》は使えるみたいだけど、今は特に必要が無いからな。
これだと、本当にクエストを終了するまではゲートも使えないのだろう。仲間達に連絡が出来ないから追加での増援も見込めないし、こっちは試せていないけど本当にゲートも使えないのなら、死に戻りを繰り返して攻略する事(確か、アクア達がゾンビプレイって言ってたかな)も不可能だよな。こうなると全てを諦めて、クエストに全力を注ぐしかないよな。
結果的に僕を巻き込んだアクアがどうなろうと知った事では無いけど、ラーダさんは僕の紅茶を気に入ってくれたからな。紅茶を普及した相手が困っているのなら、助けたい。それについては、ラーダがプレイヤーでもNPCでも魔物でも関係は無いからな。
『………その理由が主らしい』
僕は、本気で走り出してすぐに前を走っていたアクアとラーダさんに追い付いた。
そこでラーダさんから聞いた説明を要約すると、ラーダさんが私用で【飛竜の郷】を留守にしている間に、【飛竜の郷】は幾度となく化け物達に襲われたらしい。郷に住む飛竜達は他の管理者の手によって、間一髪のところで郷の外へと逃がす事には成功したようだが、同じ郷に住む他の管理者達とは音信不通になっているらしい。数日前に、その時に逃げた一匹の飛竜の羽に括り付けられていた手紙によってラーダさんは【飛竜の郷】の現状を知り、サラベール山脈の山頂付近に有る【飛竜の郷】へ戻るところで大きなドラゴンに襲われて、あの僕達と出会った木の下で倒れていたらしい。
そして、最後に付け加えられたラーダさんの話では、大きなドラゴンに襲われてから何日かは経過しているらしい。そうなってくると、飛竜以外の生存者は絶望的かも知れないよな。
ただ、ラーダさんが言うには【飛竜の郷】は普段から強固な《結界》に覆われており、外から発見する事は勿論、中に入る事も難しいと言う話なんだけどな。そうなると………化け物達は、どうやって【飛竜の郷】を見付けて中へと入れたんだ?と言う疑問も浮かんでくるんだよな。
ちなみに、その飛竜の羽に括り付けられていた手紙と言うのが、僕達の見せられたクエストの依頼書でも有るらしい。だが、僕達にはラーダが受け取った手紙としての内容は全く見えなかったんだよな。僕達に見えたのはクエストについてだけだ。これは、ある種の演出になるのだろうか?
まぁ、結果として僕の登山の目的でも有ったサラベール山脈の頂上付近に行けるのだから、一石二鳥(結果の報酬次第では三鳥)なのかも知れないけどな。
〔『主よ、少し現金過ぎる気がするのじゃ』〕
あっ、他の人に聞かれたくない事は《心話》で話すんだな。僕としては助かるんだけどな。
〔『いや、少しでも色んな気分を上げないとプレッシャーでテンションを維持できない可能性が高いからな』〕
〔『………黒には分かる。主、頑張る』〕
それとは別に、クエストを請けた事でラーダさんのステータスが《見ない感じ》で視えるようにもなっていて、白達が言いたかった事が理解出来ている。まぁ、僕としては、ラーダさんのステータスが分かった事で逆に不安になった部分も有るんだけどな。
ラーダ
竜人族Lv60(ユニーク種)※上限
《育成師》Lv20《武芸者》Lv20
称号
〈飛竜の管理者〉〈変身〉〈タブルジョブ〉〈ファミリア〉〈飼い主〉
白達が言っていた僕に似た感じの温かさと言うのは、多分ラーダさんの称号に有る〈飼い主〉の事だろう。僕の〈やや飼い主〉よりも成長した称号なので、その効果を及ぼす範囲が広くても当然だろうな。
それに、ジョブを二種類持つ事の出来る〈タブルジョブ〉やユニーク種らしい竜人族………しかも、種族レベルは上限に達している強者。このクエストを受諾してないと一生詳細を知る事は無かっただろうな。まぁ、どうやっても、今の僕にはラーダが所持しているスキルだけは分からないみたいだけどな。
ラーダさんのステータスには驚かされてばかりいる僕だけど、一番驚いたのは、ラーダ自身がファミリアでも有ると同時にファミリアの主でも有る事だよな。シヴァがNPCと言い切れなかったのも少し理解出来るよな。
普通のNPCがジョブを持っていない事を踏まえて考えると、ラーダはプレイヤーとNPCとファミリアの三つを足して二で割ったようなハイブリッドな扱いになるのだろう。
それと、【飛竜の郷】にいる管理者達がラーダさんと同じ竜人族とするなら、それを壊滅させた化け物達と言うのは、僕達二人だけの手に負えない事は確実だろう。
『あの小高い崖を越えれば、【飛竜の郷】に着きます。気を付けて下さい。事前の打合せ通り、シュンさんは生存者に回復をお願いします。アクアさんは私と共に周囲の警戒をしつつ、生存者を探して下さい』
あれから一時間、出会った魔物を全て無視して、ほぼ一直線で【飛竜の郷】を目指して山道を走ってきている。
周囲の景色も、森林限界を越えたからか、樹氷は存在せずゴツゴツした岩やそれを覆うような分厚い氷塊と所々にぽっかりと空いているクレパス、何年にも渡って降り積もったであろう雪の地面。当然、その雪の地面も硬く凍り付いているので、歩みを進める度に足を取られる事は無いけどな。まぁ、雪面対策の出来ていないアクアが何回か滑って転びそうにはなっているのだけど………持ち前のバランス感覚で転ぶには至っていない。
多分、現実の八千メートル級の山々を想定したエリアなんだろう。ここがトリプルオーの補正が無い状態だったら、こんなところまでこんな格好では絶対に来れてはいない。まぁ、救われたのは全く吹雪いていないので視界が良好な事と事前に防寒対策を施していた点だろうな。今思うと湖に降り立った時の僕達の行動には感謝しかない。
………と言うか、ラーダさんを発見した時、数百メートルの距離で息を切らしていたアクアが、この一時間は全く息を切らさず、若干楽しそうな笑顔でこの険しい山道を走っているところをみると、自分の気分次第で体力までが変化する不思議生物みたいだな。
『主よ、バカの体力が凄いのじゃ。主も見習うのじゃ』
それは、アクアをバカにしているのか、本当に尊敬しているのかが分かりにくいよな。それに、見習うと言われても、僕は本当に疲れてはいないんだよな。まぁ、それは白と黒のお陰でも有るのだけど………
『………バカらしい』
『なぁ、シュン。白と黒が俺の事をバカと書いてアクアと読んだ気がするけど、俺の気のせいか?』
相変わらず、こう言う時の勘だけは鋭いよな。本当にゲームバカなのだけど………
『白と黒に限って、そんな事は絶対に無い。多分、ゲームバカの気のせいだ。それよりも、そろそろ崖を越えるぞ』
この険しい雪の世界とも、あと少しでお別れかと思うと、それだけで幸せに感じるな。
『そ、そんな………【飛竜の郷】の《結界》が………』
『うっ………』
『これは………・・・。ラーダ、さっさと生存者を探すぞ。どこかに生きている者もいるかも知れない』
ラーダさんを気遣かって、聞こえないように喋ったのかも知れないけど、はっきりと僕にはアクアの『ひでぇ』と言う言葉が聞こえていた。
僕達の目の前に現れた【飛竜の郷】だった場所からは、息吹と言うものが全く感じられない。何者かが生きていたであろう痕跡………肉が焼けた臭いや肉の腐った臭いが、ところかしこから漂っている。
様々な建物だったであろう物も基礎部分から崩壊していたり、ここだけ赤い雪が降っていたかのような真っ赤に染まった雪に押し潰されて埋もれている場所も有る。五感の内、嗅覚と視覚で感じられるリアルな死。ラーダさんの言う通り、ここが襲われた事は間違いないのだろう。
アクアの言葉を借りる訳では無いけど、本当に酷い惨状だよな。ゲームの中の一つのイベントと言えど、決して許せるものでは無い。ある意味で、運営側が一回しか発動しないイベントと決めたのも納得出来るな。仮に、これが何回も起きる系のイベントで報酬が魅力的だったとしても、僕が二度目を請ける事は無いだろう。
反射的に反吐が出そうなくらい気分が悪い光景なのだけど、目の前の惨劇が現実離れしているせいか、逆に頭の中だけは平静でいられるのは有り難い。
だが………臭いはしても、死体は見える範囲では見当たらない。ラーダさんの同胞の分も、襲ってきた化け物達の分もな。
それに、明らかに建物は………
『主よ、そんな事よりも、今は生存者を探すのじゃ。ただし、その気持ちは鎮めるのじゃ。本当に怒りたいのはラーダなのじゃ』
『………急ぐ。冷静に』
まぁ、平静でいられるのは頭の中だけみたいで、身体から溢れ出る怒りを抑え込む事は出来て無いみたいだけど………付き合いの長い白と黒には分かるんだろうな。
白と黒の言う通り、ラーダさん自身が怒りを表に出していない状況で他人の僕が一番怒りを表に出すのは、見ている方が引く可能性が高いからな。
『分かった。白と黒は、《探索》を頼む。シヴァはアクア達に付いていって色々とフォローしてやってくれ。いざとなったら、全力でアクア達を助けてやってくれても構わない。それと生存者を見付けたら、すぐに連絡をくれ』
死体が無い………つまり、少しでも可能性が有るのなら、それが最優先だからな。
『分かったのだ。全て我に任せておくのだ』
『誰か、いませんか?いたら返事をして下さい。誰か、誰かいませんか?』
何度も繰り返し呼んでいるが、全く反応が無い。
『白、黒、そっちはどうだ?』
『主よ、こちらも全く反応は無いのじゃ』
『………黒の方も何も見付からない』
ラーダ達と別れて、しばらく捜索しているけど、敵味方を含めて誰も見付かっていない。勿論、死体も………まぁ、死体は既に消えて無くなっているかも知れないけどな。この鼻に残る不必要な臭いだけを強烈に残して。
シヴァからの連絡も無いところを見ると、向こうも同じような結果なんだろう。まぁ、喜ばしい結果では無いのだけど………
ただ、捜索中に全く何も分かってない訳ではない。【飛竜の郷】に雪が降っていなかったからか、僕達が訪れる寸前まで《結界》が作用していたのかは分からないけど、足跡や痕跡が多く残されている。四本指の………
『主よ、その四本指の足跡は、まさか………』
『………多分違う?』
『僕も黒と同意見だな。大きさ的にも指や爪痕の形状的にもラーダやラーダと同じ管理者達のものでは無いと思う。ラーダの手足多少形が変わっていても、僕達の手足を四本指にしただけと変わらない大きさだからな。これは、親指と言うのか、一番太い指が他の三本に対して反対側を向いているから、完全な別物だな』
これは、どちらかと言うと、【サラベール】を襲ったマザードラゴン達の足跡とそっくりな気が………
仮に、そうだとすると、このクエストの真の目的は………
〔『シュン、こっちに生存者がいたのだ。急ぐのだ。時間が無いのだ。この者が言うには唯一の生存者らしいのだ』〕
唯一か………いや、この場合は一人でも生きていた事を喜ぶべきかも知れないな。
〔『シヴァ、場所は?』〕
〔『【飛竜の郷】の外なのだ。我が別れた場所から北西の方向なのだ』〕
僕は場所を聞くと同時に走り出す。走りだすと同時に二丁の【空気銃】を手に取り一気に噴射させて宙を舞った。白と黒の二匹の竜を従えて。
〔『すぐに行く。それまでなんとかして………』〕
限界高度を越えているせいか、いつもみたいな高さで飛ぶ事は出来ないみたいだけど、シヴァ達がいるのが【飛竜の郷】の外なら、少しでも上から探す方が早いだろう。
『主よ、最初からこうすれば良かったのじゃ』
まぁ、そうなんだけど………頭の中も平静を保てているようで、少なからず動揺はしていたみたいだな。
『………あれで動揺しない主は、黒達の好きな主では無い』
ヤバイな。こう言う状況じゃなかったら、涙くらいは出ていただろうな。
でも、何で【飛竜の郷】の外なんだ?どうして、アクア達にはそれが分かったんだ?
『いたのじゃ。主よ、あそこなのじゃ』
僕の前を飛ぶ白が、いち早くアクア達を見付けた。僕のいる上空からは、はっきりと見る事が出来る。【飛竜の郷】から延びる三つの足跡と赤色の点々と共に………
なるほどな。あれが有ったから、生存者を発見出来たんだな。でも、それにしてはテンションが変じゃないか?
〔『シヴァ、何があった?』〕
〔『シュンよ、我らは一足遅かったのだ。今しがた息を引き取られたのだ』〕
『何?』
僕がシヴァから連絡を受けて、まだ二分も経っていない。と思う事は二分前までは確実に生きていた………それなら、まだ間に合うのか?
プレイヤーに対してなら当然可能だ。NPCに対しては不可能、ファミリアは不明。だけど、NPCよりもプレイヤーに近い特殊な扱いなら………
僕は、アクア達の目の前に向かって一気に急降下していく。
『………主』
『分かっている。黒は僕の鞄からカゲロウポーションEXを取り出してくれ』
カゲロウポーションEXはHPとMPが回復する万能系ポーションの試作品………名前は凄く不本意な事だけど、カゲロウが仮で付けた名前が、そのままアイテムに定着してしまったからな。今さら変更は出来ない。
僕は黒から受け取ったカゲロウポーションEXを一気に飲みほして、地面へと降り立った。
『アクア、ラーダ、そこを退け』
そして、降り立つと同時に二丁の【空気銃】を【白竜】と【黒竜】に持ち変えてもいる。
『えっ!?』
『シュン、やっと来たか。だが、少しばかり遅い。残念だが………もう手遅れだ』
その判断は、まだ早い。目の前に死体が有り、これから僕がやることを身内であるアクアだけには見られたくなかったけど、そんな事をいっていられる状況では無い。
『そうです。そのお気持ちだけで十分です。最後に同胞とも会う事が出来て、最後の声も聞けました。それも全てはアクアさんとシュンさんのお陰ですよ。本当にありがとうございました』
涙を堪えながら必死で笑顔を作ろうとしているラーダさん。その気持ちだけは頂戴しておくからな。
『大丈夫だ。僕を………いや、白の力を信じろ。だから、そこを退け~!!』
僕の気迫が勝ったのか、僕達の気持ちが伝わったのかは分からないけど、二人と一匹が同時に左右へと散った。
〔『主よ、ワシも全力を尽くすのじゃ』〕
〔『………命懸け』〕
『アクア、ここからは他言無用だからな。白頼む!!《蘇生》』
僕は、さっきまでアクア達が固まって囲っていた場所の中心に向けて【白竜】のトリガーを引いた。僕が《蘇生》を放った場所は白く輝く閃光を飛散させている。
『うぐっ!!』
二度目だと言うのに、前回よりも持っていかれるHPやMPが多い気が………
『なっ!!《蘇………』
僕の体に意識が有ったのはここまでだった。
〔『主よ、気付いたかの?』〕
〔『白か、ここは?何が、どうなったんだ?』〕
意識は有る………と言うか、意識しかないと言った方が正しいのか?何も知らない見えないし、感じない。身体の感覚が全く無いからな。
〔『主よ、大丈夫じゃ。全て上手くいっておるのじゃ。すでにラーダの同胞の《蘇生》は成功しておるのじゃ』〕
〔『そうか。それなら良かったよ。それでここは?』〕
【飛竜の郷】では無いみたいだし、神殿でも無いよな。
〔『………ここは主の心の中』〕
〔『僕の心?』〕
〔『そうなのじゃ。主は力を使い過ぎたのじゃ』〕
まぁ、確かに持っていかれる力は半端無かったからな。
〔『じゃあ、これは死に戻りとは違うのか?』〕
〔『安心しても良いじゃ。死と言うよりも身体が仮死状態と言った方が近いのじゃ。すぐに戻れるのじゃ。その前に、《蘇生》スキルについて説明しておく事が出来たのじゃ』〕
ラーダさんの同胞が無事で、僕自身もすぐに戻れるのなら問題は無いな。身体の感覚は全く無いけど、僕は頷いた。そして、それは白達にも伝わったようだ。
〔『以前に《蘇生》スキルは慣れれば消費が減ると、ワシは言ったのじゃが、例外も有るようなのじゃ』〕
〔『例外?』〕
〔『………基本的に《蘇生》スキルは主達みたいな人間に対してだけのもの』〕
僕達みたいな人間………プレイヤーの事かな?
………なるほどな。だから、プレイヤー以外に使ったので消費が大きくて僕が仮死状態になっているのか。
〔『その通りなのじゃ。それに、たまたまラーダさんの同胞が普通のNPCでは無かった事とたまたま早い段階で処置出来た事で、今回の《蘇生》は成功したのじゃ。普通なら、まず成功はしてないのじゃ。成功させる前に主の方が絶対に死ぬのじゃ。だから………もう無茶は止めて欲しいのじゃ。《蘇生》の事をほぼ把握出来ていないワシが言うのも可笑しな話になるのじゃが………』〕
〔『………奇蹟』〕
奇蹟か………言葉にすると妙な話だけど、そうなんだろうな。まぁ、今回のような事はそうそう有るものじゃないだろうけど………僕の事だから、また似たような状況に遭遇すれば使ってしまうんだろうな。
〔『………主らしい』〕
〔『主よ、それはワシも主らしいと思うのじゃ。だから、ワシらは心配なのじゃ』〕
『………ュン、シ………、起き………』
アクアの声が聞こえてくる。
あの場で白と黒に一言謝りたかったけど、時間切れみたいだな。まぁ、僕の気持ちは伝わっているだろう。それに、もし伝わってなかったのなら、あとで謝れば良いだけだからな。
『アクア、うるさい。僕の方は大丈夫だ。少し疲れて寝むっていただけだ。それと、今回は一切説明に応じる気は無いからな』
『うっ………』
やっぱり、僕の心配よりも《蘇生》スキルの方が気になっていたのか。幼馴染みじゃなかったら、とっくの昔に友達は止めているだろう。
それよりも、ラーダさんの同胞を助けてもクエストが終了しないと言う事は………まだ、生存者がいるか、僕が密かに思っている第三の答えになるのかも知れないな。
『アクア、クエストを終わらせるぞ』
『はっ!?何を言っているんだ?クエストはお前が終わらせたんだろ』
『ラーダの同胞を助けたのは、クエストと無関係と言う事は無いだろうけど、オプションみたいなものだと思うぞ。あくまでも、このクエストは【飛竜の郷の救出】だからな。多分、あのボロボロになった【飛竜の郷】を復興させる事が最終目標だな』
『だったら、ここを壊した化け物達を倒す方が先じゃないのか?』
まぁ、そうなんだけど。その必要は無いと言うか………
『えっと、ラーダさんの同胞さん。会話は大丈夫?』
その答えは、多分ラーダさんの同胞に聞けば………
『あっ、はい。大丈夫です。私を助けて頂いたみたいで、本当にありがとうございます。申し遅れました。私はナーガと申します』
ナーガさんか、ラーダさんよりも少し年下って感じだな。
『まず、確認させてくれるかな?ナーガさんが【飛竜の郷】にいた人物で唯一の生き残りで間違いは無いのかな?』
黙って頷くラーダを確認して、僕は話を進める。もし、他にも生き残りがいるのなら、先に治療や回復を優先したかっただけで、一人だけ生き延びたナーガを責めたりナーガに辛い事を思い出させたい訳では無いのだから。
『【飛竜の郷】を襲ったのはマザードラゴンだったんじゃないかな?』
もし、僕の想像通り、【飛竜の郷】を襲ったのがマザードラゴンだったとするのなら、僕の疑問は一気に解決する。【飛竜の郷】の《結界》が破られた件だけを残して………
一つ目は、一日一時間の制限付きマザードラゴンが、それ以外の時間を過ごしていた場所。幾度となく襲われていたと手紙を読んだラーダも言っていたからな。
二つ目は、あれだけの能力を持つラーダさんの同胞達が倒された理由も、相手が無限にベビーを産むマザードラゴンなら仕方が無いだろう。ラーダさんの同胞達には僕達みたいな死に戻りは無いのだからな。まぁ、僕としては、このイベントでは大きな戦闘が無さそうな事が救いなんだけどな。
三つ目は、【飛竜の郷】の破壊具合の差。最大二週間(トリプルオーの中なら六週間になるのかな)の差が有れば、破壊具合に差が有っても不思議では無いだろう。それに、雪の積もり方の差も納得出来るからな。
四つ目は、あまり考えたくないのだけど、漂っていた臭いの違いだな。詳しい説明は省略形したいけど………簡単に説明するなら、焼けた肉と腐った肉の臭いの違いだな。
そして、最後は………これが連続クエスト ドラゴンの報復EXになった理由だ。一連のクエストが一つに繋がっていると考えれば、【飛竜の郷】が崩壊したのはマザードラゴンを倒すのに時間が掛かったペナルティーなんだろうな。
『えっ?』
アクアは、何がなんだか分からないと一気に表情を見せているが、僕の知った事ではない。
『あのドラゴンをご存じなんですか?はい。貴方の仰る通りで郷を襲ったのは緑色の大きなドラゴンでした。様々な色の小さなドラゴン達を率いて、ここ数日は現れていませんが、この数週間毎日毎日………』
ここ数日は現れていない。間違い無さそうだな。
『やっぱりか………それなら、決まりだな。そして、そのドラゴンは既に倒されているから、もう襲われる心配しなくても良いかな』
『ええ~~!!本当ですか?本当にあのドラゴンが倒されたんですか?』
『あぁ、【サラベール】の街の人達が一生懸命頑張ったからな。時間は掛かったけど討伐に成功しているな』
ここで真実を伝える必要は無いな。仮に僕が真実を伝えたとしても、失った過去は戻らない。
『おい、シュン、俺にも詳しく………』
『僕は説明に応じる気は無いと言ったはずだぞ。知りたかったら、自分で調べろ。【サラベール】で色々と聞けば分かるから事だからな』
『うっ、分かった』
『じゃあ、さっさとここを片付けようか。他の同胞達の墓や最低限の居住スペースを建てるくらいは、僕達も手伝うからな』
《木工》と《造船》スキルが有れば、ちょっとした建物くらいは建てれるだろう。ヒナタみたいに完璧なのは無理だけど………今後の為にも予行演習が出来ると思えば良いだけだなのだから。
装備
武器
【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉
【空気銃】攻撃力0〈特殊効果:風属性・バースト噴射〉×2丁
【火縄銃・短銃】攻撃力400〈特殊効果:なし〉
【アルファガン】攻撃力=魔力〈特殊効果:光属性/レイザー〉
【虹鯨(魔双銃剣ver.)】攻撃力500〈特殊効果:七属性〉
【白竜Lv93】攻撃力0/回復力283〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv92】攻撃力0/回復力282〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv80
《錬想銃士》Lv24
《真魔銃》Lv23《操銃》Lv43《短剣技》Lv48《拳技》Lv15《緩急》Lv12《魔力支援》Lv12《付与術改》Lv31《付与練銃》Lv32《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv51《家守護神》Lv68
サブ
《調合工匠》Lv33《上級鍛冶工匠》Lv8《上級革工匠》Lv7《木工工匠》Lv42《上級鞄工匠》Lv10《細工工匠》Lv46《錬金工匠》Lv45《銃工匠》Lv13《裁縫工匠》Lv16《機械工匠》Lv24《調理師》Lv27《造船工匠》Lv2《合成》Lv53《楽器製作》Lv5《バイリンガル》Lv15
SP 41
称号
〈もたざる者〉〈トラウマニア〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈摂理への反逆者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉〈工匠〉〈呪われし者〉〈主演男優賞?〉〈食物連鎖の最下層〉〈パラサイト・キャリアー〉




