サラベール山脈(登山2)
『お~い!!シュン、これでこの辺一帯の魔物は一通りは狩れたんじゃないか?』
『………そうだな。また少し先に進むか』
はっきり言わせて貰うと、僕はやり過ぎていると思う。一通りとかのレベルでは無い。周囲には魔物の反応が全く無いのだから………
〔『主よ、主にはそれを言う権利は無いのじゃ』〕
〔『………素材回収の時を思い出して欲しい』〕
〔『これくらいでは、まだまだなのだ。我を使えば、一瞬の出来事で片付くのだ』〕
素材回収の時は大抵一人では行かないし、シヴァを使った時は別問題だと思うんだけどな。
これがゲームの世界だから良い話しだけど、現実の話だった場合は一面が真っ白な銀世界から、真っ赤な血の滴る地獄に早変わりしていた事だろう。彼の言う『一通り』で、それくらいの数の魔物は倒している。
今、僕達は昨日決めた予定通りにサラベール山脈の頂上、もしくは現時点で登れる最高到達点を目指してサラベール山脈の中腹にいる。
既に、僕が最初に降り立った湖よりも高い位置まで来ているのだけど、出現する魔物の強さや数に大きな変化は無い。もう、他には出て来ないのか?それとも………どっちにしても、その事を確認出来るのは、まだまだ先の話になりそうだけどな。
そんな事よりも重要な話は別に有る。二人だけで登っていて、僕が銃を全く使ってない状態になっているのにも関わらず、【noir】のメンバーでパーティーを組んで下った時よりも時間が掛かっていないのは、単純に隣にいる幼馴染みのお陰なんだろう。流石は種族レベルがカンストしているだけは有るよな。
『ところで、さっきから気にはなっているんだけど、アクアが今使っている変わった形の武器は誰かの製作品か?色々と変形と言うか、バリエーションが有るみたいだけど………』
『あぁ、これか?これは【AFI】と言って、フレイに依頼して造って貰ったばかりの三長剣一対の大剣だ。素材もダマスカスを使ってるんだぞ』
『ダマスカス?三長剣一対の大剣?』
さっきまでの戦闘を見ていたので、アクアが何を言いたいかはだいたい分かるけど、フレイさんはいつの間にそんな凶器を生み出してたんだ?
素材となっているダマスカスは【ペンタグラス】周辺で手に入れた新素材………と言うか、既に武器として実用化するまでに至ってたんだな。手に入れた頃は、ダマスカス原石をダマスカス塊にする方法にも悩まされていたはずなのに、本当に恐れ入ります。
それに、その形状と言うか形態(?)バリエーションも今までの戦闘で見ただけでも三パターンが存在している。その三パターンを見ただけで、他にも数パターンが存在するのが分かるのだから、いかに変わった形態をしているかは伝わった事だろう。
『そうだぞ。【AFI】正式名称は、Air・Flame・Ice、それの頭文字を取って【AFI】。全財産+ギルドの仲間に借金してまで手に入れた超の付く一級品だぞ。ちょっと説明してやるから、借金の件はアキラには内緒な。これが、右刀身の火属性【フレイムソード】で、こっちが左刀身の氷属性【アイスソード】、そして最後の刀身軸として中心に有る風属性【エアブレイド】の三種類の属性を持つ長剣にも分離出来る優れものだ』
アクアは、説明しながら数パターンの形態を見せてくれる。
ちなみに、【フレイムソード】と【アイスソード】は片刃の剣で、【エアブレイド】は両刃の剣になっている。当然、その剣の集合体である【AFI】自体も両刃の剣だ。
それにしても、いくら一級品の武器を買う為とは言え、懲りずにまた借金してたんだな。その武器の存在が嬉しくて、うっかり口を滑らせたんだろうけど………しっかりとアキラに報告させて貰うよ。付き合いの長い幼馴染みの責任としてな。
〔『主よ、大丈夫なのじゃ。既に、ワシが雪に連絡しておいたのじゃ。遅かれ早かれ、虎猫の姉さんにも伝わるはずなのじゃ』〕
〔『………もう伝わってる。きっと』〕
〔『白、黒、サンキュ。助かった』〕
まぁ、白にも思うところが有ったんだろうな。白としては、同じファミリアの主として、もっとしっかりして欲しいだけなんだろうけど。
【AFI】攻撃力400〈特殊効果:分離/氷属性/火属性/風属性/合計攻撃力+15%〉
【フレイムソード】攻撃力200〈特殊効果:合体/火属性〉
【アイスソード】攻撃力200〈特殊効果:合体/氷属性〉
【エアブレイド】攻撃力200〈特殊効果:合体/風属性〉
『こっちの二本【フレイムソード】と【アイスソード】だが、形状は刀に近い見た目だけど、武器の分類としては刀では無く長剣になるんだぞ。そして、この三本が合体した状態が【AFI】と言う三属性を兼ね備えた大剣になる。まぁ、合体した状態でも属性は上位属性にはならないらしいが、それは今後の改良点らしいな。それと、まだ完成したばかりで分離と合体に慣れてないが、他にも各々二本が合体したバージョンも有るからな。それは、おいおい見せてやるよ』
今、アクアは完成したばかりって言ったよな。おいおい、分離と合体をあれだけ上手く使いこなしていて、まだ慣らしの段階だったと言うのか?僕としては、そのゲームセンスと戦闘センスに軽く呆れるんだけどな。
それに、合体した状態で現れる攻撃力+15%の特殊効果って破格過ぎではないか?400の攻撃力が、実際は460になるんだろ。この性能だけで、初期の武器を装備するよりも高い攻撃力を得ている。はっきり言って、ちょっとした兵器だよな。
〔『主よ、少し間違っておるのじゃ。合計攻撃力+15%なのじゃ。それに、能力の方はシヴァ様からしてみれば比べるまでもない物なのじゃ』〕
〔『それは、シヴァがファミリア三大王の一角だからだろう。これは、プレイヤーが製作した………かなり特殊だとは思うけど、あくまでも僕達が製作出来る範囲の武器だ。それが、こんな性能を持っているとか、性能の上限が計り知れないぞ。まぁ、それは別に良いんだけど、合計攻撃力+15%と攻撃力+15%って何か違うのか?』〕
〔『勿論なのじゃ。合計攻撃力とは、武器の攻撃力と自分自身の攻撃力を足した物なのじゃ』〕
〔『うん!?と言う事は何か、アクア自身の攻撃力にも+15%されるって事になるのか?』〕
それは確かに、全然意味合いが違ってくるよな。
〔『そうなのじゃ。簡単に言えば、武器を装備しただけで発動する《付与魔法》なのじゃ。本当に恐ろしいのじゃ』〕
まぁ、恐ろしいって言うのは、この場合アクアの武器にではなく、この特殊効果を付ける事の出来たフレイについてなんだろうけど。
まぁ、そんな事よりも………
『ちょっと待て、アクア。性能面は今の説明とステータスを見て大体把握出来たんだけどな。さっき、その【AFI】を左手で片手持ちしてなかったか?僕の記憶だと確か、大剣は両手持ち専用の武器のはずなんだけど………』
僕はキャラメイク時、スキルの選択をする上で自分が使うかも知れない可能性が有った武器の項目だけは、じっくりと読み込んでいる。一つの武器を装備する事で両手が塞がれるのを敬遠して、最初から大剣や槍、大鎌の類いは除外しているからな。間違いは無いだろう。
そして、僕の見間違いでなければ、さっきの戦闘中は分離させずに合体状態の【AFI】を使っている時の空いている右手に【聖犬クラウ・ソラス】(こちらも分類は大剣だったはず)が握られていた。ただ単に力任せに片手持ちをしただけで無く、《二刀流》までも難なくこなすとか、普通に可能なのだろうか?
まぁ、今現在話題の的の一部になっているラウ自身は、自分には関係が無いと言わんばかりのふてぶてしい表情(ラウ自身がブルドックだから、余計にそう見えるのかも知れないのだけど)で、アクアの足下で寄り添うように行儀良くお座りしている。
以前見た時のラウは、アクアの肩にしがみついていて離れない甘えん坊の赤ちゃんと言った感じだったはずだけど、今では何も言わなくても、お座りで待機出来るように躾られているらしい。僕のファミリア達も、この行儀の良さだけは少し見習って貰いたいものだな。
『………心外』
『待つのじゃ、主よ。それは全くもって心外なのじゃ。ワシらも態度はともかく行儀は良いはずなのじゃ』
まぁ、自分達で言うだけあって、確かに普段待機している時の行儀は良いかもな。待機している場所が僕の頭の上で無かったらの話だけど。
別に肩の上で待機するのなら、特に問題は無いんだけど、たまに頭の上に堂々と留まるのだけは止めて欲しいんだよな。態度について自覚が有るのなら、なおさらの事で………
『主よ、その辺りは今後善処するのじゃ。ぷゅっひゅ~~ひゅ~~』
白々しく、吹けもしない口笛を吹く真似をしても、僕に対しては全くの無意味だからな。
『そんなはずはあるまい。我はファミリアの王なのだ。我は紳士なのだ。我は常識も有るのだ。だから、一番高い場所は我の特等席でも問題は無いはずなのだ』
言っている事は理不尽だと思うけど、ファミリアも三匹いたら、二つしか無い僕の肩では一匹分の居場所が余るのも分かる。だから、無下には出来ないんだよな。だからと言って、何も僕に留まる必要は無いのだけどな。
『………今まで通り諦める』
黒の言う通り、諦めてはいるのも事実なんだけど………当の本人達が言うのは何か違う気もするんだよな。
『あぁ、大剣の片手持ちの話だな。それは《二刀流》のスキルを《似闘流》スキルに進化させてあるからだ。これは、近接用の武器なら何でも二本装備出来るようになる《二刀流》スキルに似ているスキルなんだ。だから、大剣の片手持ちも可能だし、斧や槍の同時装備も可能だぞ』
名前そのもの響は似ているのかも知れないけど、性能が似なさ過ぎている。
『そんなスキルも有るんだな』
銃の二丁持ちは《短銃》スキルの進化した影響で有って、特殊なスキルではないからな。何か別の特殊なスキルに進化する事も無いんだろうな。今となっては銃系のスキルを気に入っているから問題は無いけど、ちょっと残念な部分では有るよな。
『それよりもだ。シュン、俺の気のせいかも知れないが、さっきから会話している声が一つ多く無いか?』
『会話の声が一つ多い?えっと………僕、アクア、それにファミリアの白、黒、シヴァ、それに僕には内容の分からないラウの吠え声か………』
僕は。指を折りながら何回か数えてみるけど、何回数えてみても二人と四匹しかいない。この場にはアーちゃんもいるが、アーちゃんは声を発する事は出来ないからな。声の数としては除外しても大丈夫だろう。
『二人とファミリア四匹で合っていると思うけど………』
『そうか、俺の気のせいか………いや、ちょっと待てぃ。四匹ってなんだ?ファミリアは俺のラウとシュンの白、黒の三匹じゃないのか?』
『あっ、あぁ、そう言う事か………まぁ、そこは気にするな。企業秘密だ』
そう言えば、ギルドメンバー以外にシヴァの事を話してないよな。簡単に話せる内容でも無いのだけどな。
『シュンは何か知っているのか?隠し事か?俺にも教え………』
『そうだな。以前の貸しを全返済してくれたらな。教えてやらなくもないぞ』
シヴァに関しては説明が面倒だから、ギルドのメンバー以外には説明する気はない。スルー出来るならスルーするべきだろうな。
『うっ、それを言われると俺は立場的に辛いぞ』
どちらかと言うと、以前の貸しが依然として返ってくる気配の無い僕の方が辛い立場だと思うのだけど。現在、貸しの返済に来たのはファミリアの卵を持ち込んでファミリアの情報を提供してくれた【ワールド】のリツだけだからな。
目の前にいるアクアもだけど、我が姉の方からも一向に返済に来る気配は無い。それに、アクアに対しては以前よりも貸しが増え続けている気もするしな。
『シュン、我は隠し事は嫌いなのだ』
シヴァは、そう言ってホルスターから勝手に飛び出して鯨の姿で僕の頭の上に陣取った。
さっきの今で、よく頭の上に留まれるよな。僕には注意する権限は無いのかも知れないけど、流石に自由過ぎでは無いだろうか?
それに、隠し事が嫌いと言い切るならば、少しは僕達の出会いを思い返して貰いたいものなんだけど。
『シュン、それを言っては我の立つ瀬が無くなるのだ。だから、過去の出来事はさっさと忘れるべきなのだ』
僕としては、有る意味で自業自得だと思うけどな。立つ瀬が無くなるくらいなら、初めからしなければ良いと思う………と言うか、シヴァの言い訳が理不尽過ぎるよな。
『おい、シュン。この空飛ぶ鯨の親子は何なんだ!?昨日もいたのか?と言うか、俺の知らないファミリアは一匹じゃなかったのか?』
アクアは、頭の中では目の前に現れた二匹の鯨が僕のファミリアだと理解しているのだろうけど、体の方は武器を身構えて警戒を怠っていない。この辺りの警戒心は素晴らしいんだよな。
『新しく仲間になった僕のファミリアだ。そんなに警戒しなくても大丈夫だぞ。名前は下が雨鯨のシヴァで上が光鯨のアート、二匹でセットの魔獣器ファミリアだ。ちなみにだが、二匹は親子では無くてペットと飼い主の関係だ。それと上にいるアーちゃんは全く喋れないからな。それ以上の情報は、本当に企業秘密だ。シヴァも良いな。勝手に喋るとしばらくの間は絶対に武器として使わないからな』
シヴァの武器としての威力まではともかく、シヴァの別名と特殊効果の方は事情を知らないギルドメンバー以外に見せられた物では無い。
まぁ、その辺りの事はシヴァ自身も分かっているみたいだけどな。逆に事情を話せば、この幼馴染みは理解するとも思うけど、一から全てを説明するのは手間が掛かり過ぎる。絶対に必要な事では無いのだから、省く事も大事だろう。
特に〈食物連鎖の最下層〉と〈パラサイト・キャリアー〉この二つの不本意な称号達の説明とか、説明したあとのアクアの反応を考えただけでも嫌過ぎるからな。
『それは当たり前なのだ。我はシヴァルヴァーニ・バジェーナと申すのだ。気軽にシヴァ様と呼ぶが良い』
『シュン、何かこいつ凄く偉そうなファミリアだな』
まぁ、実際のところ正体はリヴァイアサンなのだから、偉いのだけどな。その事を知らないアクアから見れば、偉そうに見えるのも仕方が無いのかも知れないよな。
まぁ、正体を知れば、僕よりもアクアの方が馴染みが有ると思うけど、何度も言うが正体を教える気は本当に無いからな。そして、これはフリでは無い。
あっ!もしかして、ラウの行儀が以前に見た時よりも良いのはシヴァの前だからなのか?白も黒もシヴァを呼ぶ時は未だに様付けの敬語だしな。ファミリア同士なら、シヴァの正体を知らなくても威厳が伝わってもおかしくはないよな。
〔『………ストップ、お遊びはここまで。魔物が来た』〕
いや、決して僕は遊んでいた訳では無くて、たまには抗議の一言も………
〔『主よ、今は優先順位が違うじゃ』〕
〔『そうなのだ。だから、早く忘れるのだ』〕
〔『くっ………』〕
『まぁ、そうだな。だが、シヴァの態度と能力だけは完全に比例してるから、我慢してくれ』
今の状況を理解出来ているけど、嫌みの一つくらいは言っても許されるはず。
『いや、我慢って………』
『アクア、お喋りはここまでだ。とうやら、次の客が来たようだぞ。視認で七………いや、八だ。おっ!!どうやら一匹は新種だぞ』
『何!?うぉっし、右側に固まっている兎六匹と新種は俺に任せろ。残りは任せた』
『了解だ』
………と言うか、僕の割り振られたのは離れた位置にいる小さなスノーラビット一匹だけなんだな。そりゃ、確かに僕は紙装甲だし、今日は《短剣技》と《拳技》のスキルレベルがメインで、メイン武器は使ってないのだけども、持ってきていない訳では無いので使う事も出来るんだぞ。だから、そんなに過保護にならなくても、もう少し僕を宛にしてくれても戦えるんだけどな。
僕は、【ソル・ルナ】と【魔氷希】を両手に持ち、一匹だけ離れていた小さなスノーラビットに近付きすれ違いざまに二回切り払う。
『くっ!!』
〔『主よ………』〕
〔『………情けない』〕
〔『はい、はい。白と黒の言う通りですよ。前言は撤回させて頂きますよ』〕
左右に持った武器から放つ二連撃で、小さなスノーラビットすらも倒し切れなかった僕は、背後から放たれた反撃を喰らいそうになる………が、左へのステップを利用して【ソル・ルナ】で受け流し、反対に背後から拳でのカウンターでスノーラビットを葬った。
『流石に、ここまで差があるとは………』
攻撃力の低い銃よりも使えないとは思ってなかったよな。この高さまで登って来る間や、この前【サラベール】を目指して下っている時も一・二撃で削り切れない魔物は多々いたけれど、反撃までされたのは始めてだ。
まぁ、銃で戦った場合は中距離からの連射で魔物自体を近寄らせないし、数撃って倒していたから、反撃は全く縁の無い話だったんだけどな。
それにしても、この状況は無いよな。アキラ達に対して大きく出ていて何だけど、ソロで登山をしていたらヤバかったかもな。もう少し慣れれば、まともに戦えるのだろうか?もしかして………
〔『………武器の性能は全く問題無い。むしろ、武器の方は優秀。そこを疑うのは皆にも失礼!!』〕
〔『黒様、お早いご指摘有り難うございます』〕
武器の事を疑ったのは確かなのだけど、せめて最後まで夢をさ見させて欲しかったところだよな。
まぁ、そうなってくると………問題はプレイヤー自身の身体能力や技術なのだろう。身体能力に関しては《短剣技》のアーツも攻撃と同時に使えれば解決する可能性も有るけど、あくまでも【ソル・ルナ】や【魔氷希】は銃の分類だからな。武器の性能だけで無く、アーツにまでは過剰な期待するのは酷だよな。後者に関しては、日頃の積み重ねと言うか、絶え間無い努力が必要なんだよな。
『うっし、こっちは終わりだ。シュンも大丈夫だったか?』
いや、あの小さなスノーラビット一匹を相手に心配されるのは、情けなくなるのですけど………
それにしても、僕が一匹を倒す間に新種を含めて七匹も倒したんだな。ここまでもそうだったけど、かなりの無双状態だよな。アクア一人だけ僕とは違うゲームをしてるんじゃないのだろうか?
『まぁ、な。新種はどうだったんだ?』
さっき、ちょっとだけ確認しておいた新種の魔物の名前はスノーイベリコ。イベリコ………名前を聞くだけでも美味しそうなん魔物だよな。
『強さはイマイチだったけど、あの豚に似た猪は多分レアポップする魔物だな。ドロップを確認するからちょっと待てよ………どうやらハズレだな。食材系ばっかりだ』
『えっ、食材系?何が有るんだ?』
スノーイベリコと言う名前のレアな魔物の食材系ドロップ………個人的には期待しか出来ないよな。
『気になるのか?スノーイベリコの脚肉とスノーイベリコの肩肉が二つずつ、あと謎なのはスノーイベリコの腸。脚肉や肩肉はともかく、腸は食用としても使い難いだろ』
いやいやいやいや、アクアは完全に間違ってるな………と言うか、それは絶対に当たりのアイテムだろ。
何故なら、その三種類のドロップアイテム達は、全部を余すこと無く使って美味しいソーセージを作って下さいって語っているようなものだからな。それに、脚肉と肩肉が二個ずつ有るのなら、他にも美味しい物が出来る。
『シュン、かなり目が輝いているけど、欲しかったらやるぞ。俺には使う宛も用途も無いからな』
『良いのか?それなら譲ってくれ。でも、僕としてもタダで貰うのは気が引けるからな………あっ、そうだ!鞄の依頼二割引でどうだ?』
『二、二割だと、食材アイテムに………それは、逆に俺の方が良いのか?ただの食材系なんだぞ?食べる以外には用途が無いんだぞ』
アクアは絶対に価値が分かってないな。まぁ、普段から料理をしてないと意外と分からないのかも知れないな。
『美味しい物を美味しく食べる。どの世界でも、それが一番大事な事だろ。アクアのお陰でクリスマスパーティーの料理が二~三品決まったからな。僕にしてみれば感謝しかないな。あっ、そうだった。十二月二十五日【noir】のホームで親しい者達を集めたパーティーをする予定だから、予定を開けておいてくれ。ちなみに、アクアとジュネの不参加を僕は認めないからな』
『おい、十二月二十五日ってイベントの最終日だろ。そんな大事な日にイベントを無視したパーティーをするのか?また勝手に決めやがって………まぁ、いつも通り参加はするけど。勿論、ギルドにいる暇な連中も参加しても良いんだろ?』
いつも通り参加するのなら、わざわざ怒った演技ををオーバーリアクションで演じなくても良いんじゃないかな。
『その辺は大丈夫だ。抜かりなく会場は広いスペースを用意しておくからな。それくらいまでには依頼の鞄も用意出来ると思うからな』
会場には、試作品の実験で使う小さな体育館くらいの部屋、フレイ命名の武道館を使えば問題は無い。参加人数によっては立食形式になるけど、その方がパーティーも色々な人と交流出来て盛り上がるだろうな。
『了解だ。さぁ、どんどん上を目指すぞ』
『こっちも了解だ』
アクアの無双で予定よりも時間が掛かっていないけど、ここから先がどうなっているのかも分からないからな。先を急ぐ方が良いだろうな。
『シュン、かなり登って来たと思うが、何か変わったところは有るか?』
スノーイベリコを倒してから数時間、途中何度も魔物と遭遇しながら、かなり上までは登って来ているはずだ。高さ的に言うなら、そろそろエクスライトの限界高度に到達していても可笑しくは無いよな。
だが、一向に周りの雰囲気も出現する魔物の種類も変わらない。まるで、同じ場所を永遠に歩かされているかのような錯覚も感じ始めている。辺りの風景も真っ白な銀世界に代わり映えのしない樹氷しか存在しないから、余計にそう感じているのかもな。
さらに、個人的に残念な事は、アクアの思った通りスノーイベリコはレアな魔物だったらしく、この数時間は一回も遭遇出来ていない事だ。料理の試作をする為にも、もう少し食材のストックが欲しいところなんだけどな。出来れば山を下るまでに、あと一匹二匹は遭遇したいところだ。
『僕にも、何かが変化したようには見えないな。白と黒は何か分かる?』
『うむ。主よ、先程からこの辺りは暖かい気配がするのじゃ』
『………黒も』
暖かい気配ねぇ………僕には全く違いが分からないんだけどな。
『ちなみに、それはどんな感じなんだ?』
『主よ、それは難しい質問なのじゃ。強いて言うならば、主の側にいるのと近い感じなのじゃ』
僕の側が暖かい気配?ますます分からなくなってきたな。
『なら、答えは簡単だ。その正体を掴む為にも先に進めば良いだけだろ。俺は、ちょっとワクワクして来たぞ』
今の会話のどこにワクワクするポイントが有ったのかを、聞いてみたい気もするけど、あの笑顔のアクアに質問すると話が長くなりそうだから却下だ。絶対に面倒な事になるだろう。
〔『………黒もそう思う』〕
それに、《探索》スキル持ちの白達にもこの先が分からないのなら、僕は逆に不安しかなくなったんだけど………
『うむ。その通りなのじゃ。前に進めば全てが分かる事なのじゃ。幼馴染みくんは主よりも話が分かるのじゃ』
『やっぱり、そうだろ。白はシュンよりも話が分かるな。それと俺の事はアクアで構わないぞ』
勝手に盛り上がっている一人と一匹を他所に、僕と黒は話を進める事にした。
〔『………あの木の根本から何かが見てる』〕
何かが見てるねぇ………黒がその何かを魔物と限定しないところに、妙な違和感と言うか、嫌な感じがするよな。まぁ、この場合は無視をして先に進むと言う選択肢も存在しないのだろうけど………警戒くらいはしておきたい。指し当たったところで、自分自身への〈防御力増大〉の《付与術》くらいは………
〔『黒、どの辺りだ?』〕
能天気な一人と一匹のやり取りを完全に無視して《探索》を続けてくれていたところが、黒の非常に優秀なところだと思う。この辺りのポイントが僕の中で黒の評価が高い理由でも有るんだよな。
しかし、この樹氷だらけの………どこを見ても似たような空間で、よく見付ける事が出来たな。僕は普段と違った環境で、近付いてくる魔物を見付ける事にも苦労していると言うのにな。
〔『………左側の大きな木の下』〕
僕は身体を動かさず、出来るだけ自然に辺り一帯を確認した。
いたっ。確かに何かいるな。多分、あれだよな。僕にも位置の確認は出来たけど、ここからでは遠くてはっきりと姿は見えない。僕は、視線を一ヵ所にを留める事なく周囲を見回し続ける。出来るだけ自然に、違和感なく、辺りを警戒しているふりを装いながら………
〔『我にも確認出来たのだ。でも、あれは………』〕
〔『シヴァ、僕には全く分からないんだけど、何か分かるのか?』〕
〔『うむ………いや、きっと何でも無いのだ。多分、我の気のせいなのだ。仮に我に何かが分かっていたとしても、シュン自身の目で直接確認してみる方が我が説明するよりも早いのだ。シュン、どっちにしても少し警戒を強めた方が良いのだ』〕
まぁ、そうだよな。でも、警戒するにしても距離が有るからな。相手の速度しだいでは………
〔『逃げられるのじゃ。ワシらを放って置いて話しを進めるのは酷いのじゃ』〕
どちらかと言うと、放って置いたのでは無くて、白がアクアとの話しに夢中になってた結果なんだけどな。
『シュン、どうかしたのか?』
『いや、何でもないぞ。ここで少し休んで回復してから先へと進もう』
勿論、お互いHPは全く減ってないが、迫真の演技の為に鞄から取り出したポーションを手渡す。そう言えば、ポーションを使うのって、かなり久しぶりだよな。
〔『おい、アクア。誰かに聞かれているとは思わないけど、念の為にパーティーチャットで話すから聞いてくれ。それと、全く必要ないけど今渡したポーションも飲んどけ』〕
〔『飲んどけって言われても、全く俺のHPは減って無いんだぞ』〕
〔『分かっている。そのポーションを飲む事自体には意味は無い。ただの演出だ。アクアの背後、左側の大きな木の下に何かがいる。向こうもこっちを警戒してるみたいだから、絶対に見るなよ。気付かれたら向こうに逃げられるかも知れない』〕
〔『おい、それはレアか?それとも新種か?』〕
〔『少し距離が離れているから、そこまでは確認出来ないんだよな』〕
〔『それで、どうするんだ?俺はレアや新種なら絶対に倒したいぞ』〕
まぁ、その気持ちは分かるよな。相手が魔物だとするなら、僕がアクアの立場でも新しい素材やレア素材は是が非でも欲しいからな。
〔『そこは思案中だ。アクアはレアや新種なら倒したいか………シヴァ達の反応からすると、あそこに居るのは魔物とは少し違う気がするんだよな』〕
あくまで多分の範囲、もしくは勘だけど………な。
〔『魔物とは違う?それなら、NPCかプレイヤーなのか?』〕
〔『う~ん………』〕
それも違うような気もするんだよな。決定的な根拠は無いけど、強いて言うなら、黒の《探索》に対する反応やシヴァの分かりやすい態度だよな。
〔『白、黒、シヴァ、〈朧〉と〈速度増大〉を使うから、あそこにいるのを捕まえれたり、逃走の妨害って出来ないかな?』〕
そんな能力を持っていないのは分かっているし、ゲームバランス的に、ファミリアが何もかも出来たら問題も有りそうだけど、ダメ元で聞いてみるくらいはしても良いだろう。
〔『主よ、雪なら出来るかも知れないが、ワシらに捕まえるのは無理じゃ』〕
あっ、雪ちゃんは出来るんだな………自分で聞いていて何だけど、それは良いのかな?
〔『うむ。我も捕まえる事は無理なのだ。だが、逃げられないように常に三匹で囲い込むのは可能なのだ』〕
まぁ、簡単に捕まえれるとは思って無かったからな。三匹で囲い込みが出来るだけで良しとしないとダメだろうな。
〔『じゃあ、三匹共お願い出来るかな』〕
僕は、隠れている何かに気付かれないように、こっそりと三匹に〈朧〉と〈速度増大〉を掛ける。僕と、ついでにアクアにも〈速度増大〉だけは掛けておくかな。逃げられた場合、追いかけるにしても必要になるだろうし、仮に追わないと判断した場合でも、頂上を目指す為には無駄にはならないだろう。
三匹は、周囲の風景に溶け込みながら、どんどん標的に近付いて行く。今の僕とアクアに出来る事は、休憩を装い世間話をする事で隠れている何かの注意を引くくらい。
そんな事よりも、《見ない感じ》で全く感じられないところをみると、ギリギリでスキルの効果範囲外なのか?今までの感覚としては余裕を持って範囲内だと思ったんだけど………まぁ、その辺りは雪だらけなので微妙な遠近感の違いかも知れないな。
〔『あ、主よ、大変なのじゃ。急いで来るのじゃ』〕
〔『………ダッチュ』〕
〔『シュン、急ぐのだ』〕
『アクア、向こうで何か有ったみたいだ。急ぐぞ』
『お、おい、シュン、ま、待て、説明………』
『今の状況をいちいち説明してられるか』
白やシヴァはともかく、黒の様子が尋常じゃないんたぞ。絶対に想定外の事が起きている証拠だ。黒が簡単な言葉を噛むくらいの想定外の出来事がな。
装備
武器
【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉
【空気銃】攻撃力0〈特殊効果:風属性・バースト噴射〉×2丁
【火縄銃・短銃】攻撃力400〈特殊効果:なし〉
【アルファガン】攻撃力=魔力〈特殊効果:光属性/レイザー〉
【虹鯨(魔双銃剣ver.)】攻撃力500〈特殊効果:七属性〉
【白竜Lv93】攻撃力0/回復力283〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv92】攻撃力0/回復力282〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv80
《錬想銃士》Lv24
《真魔銃》Lv23《操銃》Lv43《短剣技》Lv48《拳技》Lv15《緩急》Lv12《魔力支援》Lv12《付与術改》Lv31《付与練銃》Lv32《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv51《家守護神》Lv68
サブ
《調合工匠》Lv33《上級鍛冶工匠》Lv8《上級革工匠》Lv7《木工工匠》Lv42《上級鞄工匠》Lv10《細工工匠》Lv46《錬金工匠》Lv45《銃工匠》Lv13《裁縫工匠》Lv16《機械工匠》Lv24《調理師》Lv27《造船工匠》Lv2《合成》Lv53《楽器製作》Lv5《バイリンガル》Lv15
SP 41
称号
〈もたざる者〉〈トラウマニア〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈摂理への反逆者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉〈工匠〉〈呪われし者〉〈主演男優賞?〉〈食物連鎖の最下層〉〈パラサイト・キャリアー〉




