サラベール山脈(ブレイクタイム)
僕がお気に入りのソファーに座る頃には、ギルドメンバー全員が一言も喋らずに僕が話始めるのを待っていた。若干数名は、スキルの事よりも新作スイーツの苺のタルトタタンに釘付けだが………
『皆、本当にすまない。流石に少し待たせ過ぎたよな?あのレイドバトルに参加したアキラ達が何を疑問に思って、僕に何を聞きたいかは分かってるつもりなのだけど、僕はどこから話した方が分かり易いのかな?』
あの場にいたアキラ達には、白の《蘇生》スキルとそのあとに使ったカゲロウ印のイオン水の説明だけで事足りると思うけど、あの場に居なかったフレイ、カゲロウ、ケイトには、それだけでは伝わらないだろう。
『そやな………ウチらはシュン達がレイドバトル二連戦に絡んだ大まかな経緯までは、アキラに聞いてるからな。一戦目のマザードラゴン戦も大概やと思うけど、シュンだからで納得も出来る。そやから、二戦目のドラゴンゾンビの最後からでどないや?』
なるほどな。僕がティータイムの準備をしている間に、ある程度の概要説明は終わってると言うことかな。ちょっとした手間だが、省けて助かったかもな。この点もアキラに感謝だな。
当然、最初から全てを説明する予定でフレイ達を集めているので、説明するのが面倒とか、説明する気が端から無いとか言う訳では無いが、省ける事ならそれに越した事はないからな。
『カゲロウとケイトも、それで大丈夫なのか?』
『私も、特に問題有りませんです。それよりも、この苺のタルトタタンが美味し過ぎますです』
『俺も同じで問題無いぞ』
二人共、この件については、あまり興味が無いようだな。
まぁ、何が有ったのかを実際に見てないのだから、興味が薄くても仕方が無いのかも知れないけど。それとも、他に興味の有る事でも有るのか?………と言うか、ケイトに至っては完全に興味はスイーツだけの気がするよな。まぁ、新作スイーツを気に入ってくれたのなら、僕としては嬉しいんだけどな。
それでも、ケイトはともかく、カゲロウはある意味で当事者(ただし、本人に自覚は全くない)だからな。このまま逃亡させる気は無いし、させる気も無い。どうにかしてでも巻き込んで説明に加わって貰う予定だ。
まぁ、現時点のカゲロウは全く知らない事なので油断してるのも仕方の無い事だけど………あれについては、誰しもが予想は出来るはずも無いからな。僕自身も半分は冗談だったからな。
〔『………(モグモグ)黒と白は(モグモグ)予想通り』〕
食べるか話すかのどちらかにして欲しいんだけどな。
『じゃあ、ドラゴンゾンビ戦に参戦してからだな。まず、ドラゴンゾンビが名前の通りゾンビ系と言う事で、僕達はブレッドからの提案を受けて、回復系のアーツや魔法で攻める事にしたんだ。その時には、既に地元のプレイヤー達も回復魔法主体の戦法に変わってたからな。そこにいる白の回復能力は皆も知ってるだろう?』
皆が、こちらを無視して飲み食いを続ける白をチラッと見てから一斉に頷いたので、僕は話を続けた。
本音を言うと、あの出来事に関しては白が主犯なのだから、もう少し僕に協力的でも良いと思うのだけどな。
〔『主よ、その事に関しては(モグモグ)全くの誤解なのじゃ。あの一連の出来事の主犯は主自身なのじゃ(ゴクゴク)。それに、ワシらがした事は(モグモグ)主に比べると些細な事なのじゃ。どんなに悪くてもワシらは共犯者どまりなの(ゴクゴク)じゃ』〕
〔『………モグモグ。モグモグ、モグモグゴクゴク』〕
ついに、完全に喋らずに会話しだしたな………と言うか、この状態でも完全に相手の話す事が伝わる《心話》が凄いよな。
〔『白、黒、僕の前で、そんな主張をしても無駄だ。そして、そろそろ食べるのを止めろ。それに、アキラ達から見れば、僕達は一蓮托生だからな。誰一人として見逃してくれるはずは無いぞ。そして、当然の事だけど………そこで我関せずと食べ続けているファミリアの王様もだからな』〕
〔『モグモグ!!(ゴクゴク)今回に限っては、完全に我は無関係なのだ。変な言い掛かりは止めて欲しいのだ(モグモグ)』〕
〔『………』〕
今の説明では省かれている事だけど、フレイに大概とまで言わしめたマザードラゴン戦での功労者は完全にシヴァなんだけどな。
まぁ、良いか。そうやって冗談を言ってられるのも今の内だと思うから、話を先へと進めさせて貰おうかな。
『ただ、ここからが重要な話だ。僕も悪目立ちすのは嫌だから、当分の間はギルド内だけのオフレコで頼みたいのだけど………』
知り合ってから長くない期間だが、ここにいる【noir】のメンバーが、何も言わなくても仲間のスキル構成や性能を他人に話さない事を信じられるくらいの付き合いと信頼は有るのだけど、事が事だけに念を押しておきたい。特に、フレイとアキラは現実世界でも普段から付き合いの有るジュネやアクアには、世間話的な感覚でポロっと話しかねないからな。
僕的には、色々と悪目立ちをしない為に公開しても良い情報は数多く有るのだけど、アクアやジュネ、ガイア達に止められている。まぁ、こう言う時はβからの先駆者達の意見を無下にしない方が良いと思うから素直に従わせて貰っているんだけどな。
僕は、皆が頷くのを確認して続きを話始める。
『白には、回復と状態異常回復の他に《吸収》や《結界》のスキルも有る。まぁ、これらは最初から取得していた訳ではなくて、レベルが上がった事で追加されたスキルなんだけどな』
『《吸収》に、《結界》やて………』
また、皆が一斉に白を見る。今回は白だけでなく黒やシヴァを見る者もいる。まぁ、当の本人達は知らぬ存ぜぬと言った感じで飲み食いを続けているけど、いつまでその態度がもつのか気になるところでも有るよな。
どちらにしても、僕のファミリア達には、ちょっとした教育は必要かも知れないな。
『まぁ、それらのスキルの事はひとまず置いといてだな。白に最近追加されたスキルが………』
『ちょ、ちょっと待ちいや、シュン。この流れから言って………それって、まさか?いや、いや、いや、それはアカンやろ。なんぼなんでも………』
今のフレイの一言で皆が一斉に唾を飲み込んだのが分かる。それに、少しだけ空気も変わったか?
『多分、フレイの………いや、皆の想像通り《蘇生》だ』
『『『『『『『………』』』』』』』
うわぁ~、この固まる感じも久しぶりだよな。まぁ、声を出して驚かなかったところだけは、皆も進化してるのかも知れないけどな。
このまま続けて一気に話を進めたいところだが、この調子だとしばらくは無理かな。今の内に紅茶のおかわりでも淹れなおしてくるかな。
『白、黒、シヴァ、紅茶のおかわりはいるよな?』
『勿論、欲しいのじゃ。既にワシらの他紅茶は空なのじゃ。ついでに、お茶菓子も有るとワシらはさらに嬉しいのじゃ』
他の二匹も同じみたいだな。紅茶が空になっていてもスイーツを食べる手を止める気配は無いみたいだけどな。一体、その小さな身体のどこにそんな容量が有るんだ?
『了解だ。少し待ってて』
『シュン、お待たせや。今度はこっちが待たせてもうて悪かったな。ようやく皆も思考が追い付いたみたいや。話を続けてくれるか?』
あれから五分か、思ったよりも早かったかも知れないな。
《蘇生》を使った現場にいた仲間達は一分程度で戻って来たのだが、現場にいなかった者達の中で一番早く戻って来たフレイで三分弱。一番戻って来るのが遅かったカゲロウで、現実逃避を終えるのに五分も掛かっている。まぁ、《調合》系の職人達が我先にと目指していた事を真っ先にスキルで達成。しかも、プレイヤーでは無い魔獣器に達成されたのだから、現実逃避が長くなっても仕方の無い事かも知れないけどな。
『了解。そこからは皆も既に分かったと思うけど、僕はドラゴンゾンビ相手に《蘇生》を使ったんだよ。白が言うには《蘇生》スキルは使用条件が厳しくて、滅多に戦闘中では使えないみたいだけどな。まぁ、試し撃ちの相手となったドラゴンゾンビも、流石はチェーンクエストの最後を任されたレイドボスと言った感じで《蘇生》一発では倒しきれなかったんだけどな』
『シュン、そこだよ。そこ!もしかしたら、シュンがドラゴンゾンビ戦で《蘇生》………もしくは、それに準じるスキルを使ったのかも知れないなって、あの場にいた私達も思ってはいたんだ。事前の打ち合わせで、他のゲームではそう言う事も出来るって話も出てからね。でも、本当に最初に見た時は全然信じられなかったんだよ。それでも、私達は現場で一部始終見てたし、シュンにも少なからずの自信が有ったみたいだから………でも、そのあとの出来事は一体何だったの?』
『ちょ、ちょっと待ちいや、アキラ。ちょっと落ち着こか。そのあとって一体何の事や?今の話のオチは、シュンがトリプルオー初の《蘇生》スキルを使ったところで終わりとちゃうんか?』
『いや、フレイ、ちょっと待って。決してあの出来事はオチでは無………』
僕の意見は、フレイとアキラに軽く一瞥しただけでサッと流される。
『うん。この話しには、まだ続きが有るんだよ。さっき、シュンも言ってた事だけど、《蘇生》スキルだけではドラゴンゾンビを倒せなかったんだよね。そのあとにシュンが………』
『また何か面白い事でも、しでかしたんやな?シュンの話を聞いて、てっきり《蘇生》スキルを連発して終わったもんやと思ってたんやけど………シュン、最後に一体何をやらかしたんや?このフレイ姉さんに包み隠さず全部話しとき』
同じ年齢なんだから、姉さんは変だとは思うのだけど………何故か、フレイには姉さんと言うフレーズが妙に似合うよな………と、こんな時でも僕が真っ先に思い付くのは、どうでも良い事なんだよな。
〔『モグモグ、モグモグ』〕
〔『………モグモグ』〕
〔『モグモグ』〕
三匹のファミリアによる流れるような一つの突っ込み。これが言葉によるものだったなら、一部の関西人からは拍手喝采だったであろう。だが、現実は………
〔『食べながら突っ込むのは、そろそろ本当に止めようか。怒僕もるよ』〕
そんなに甘くはない。
〔『『『ごちそうさまでした』』』〕
始めて三匹のファミリアが揃った気がするな。これからは躾の為にも定期的に怒る事を考えないと駄目なのかも知れないな。
そんなやり取りが陰でなされているとは知らない皆は、フレイの一言でアキラとフレイの二人に集まっていた視線が一斉に僕の方に向く。
『まぁ、最初から皆に隠す気は無いから、僕も全部を話すつもりだったけどな。あっ!その前に白の《蘇生》スキルについてなんだけど、さっきも言ったけどMP消費の関係で連発は出来ない。一度でも使えば、逆に僕の方が瀕死になるからな。だから、よっぽどの緊急時以外は期待しないでくれ。じゃあ、話を戻すけど、僕が使ったアイテムはコレだ』
僕は、鞄からカゲロウ印のイオン水を人数分を取り出して一人一人に手渡していく。
フレイと製作者のカゲロウは、僕が鞄から取り出した瞬間に、そのアイテムがカゲロウ印のイオン水だと気付いた様子だけど、ひたすら沈黙を貫いている。
他の皆に気を使っているのか?それとも………カゲロウ印のイオン水を取り出した理由が分からないから、僕からの説明を待っているのか?あるいは、その全部かな?
『今、皆に渡したアイテムは、カゲロウ印のイオン水と言ってカゲロウが《調合》で製作したアイテムだ。これの通常の効果は………僕じゃなくて、製作者のカゲロウか、その製作依頼者のフレイに説明して貰った方が良いかな?』
僕の予定していた流れよりもカゲロウの登場が若干早いのだが、確実にカゲロウを流れに巻き込めそうだから結果往来だよな。
『………それは、俺が作った物だから、ギルマスの鞄から出た瞬間に分かってはいた。だが、これの効果って言われても、コイツはちょっと変わっただけのアルカリ性のイオン水で、特別な作り方もしてない物だぞ。強いて言うなら………準備段階で素材として使った自作したポーションを煮沸消毒したくらいか?』
『そやで。カゲロウ印のイオン水は、ウチが《鍛冶》用に作って貰った《鍛冶》用のサポートアイテムのはずや。勿論、《鍛冶》用に使った時の出来はウチが保証するで、焼き入れの出来が目に見えて違うからな』
まぁ、製作者とその依頼者が言うのなら、それもまた一つの真実なのだろう。
それに、実際に僕も《鍛冶》で使った事も有るからな。カゲロウ印のイオン水は見た目の出来栄えだけでなく、強度の面でも普通の水で製作した時より一段階は上昇するので、今となっては《鍛冶》をする時には手放せない必須のアイテムとなっているのも確かな話だ。
『まぁ、普通はそうだよな。でも、製作者とそれを実際に使用した事の有る者なら、このアイテムに付いている属性は知ってるよな?』
『ただの光属性だぞ』
『おいおい、カゲロウどうしたんだ?生産系の職人がこれをただの光属性と言うのか?生産系の職人………特に《鍛冶》や《裁縫》《木工》系の職人目線で言わせて貰えば、ただの光属性には極大の上昇効果は付かないと思うけどな』
『えっ!?シュン、これって光属性・極大の効果付きなの?』
アキラの言葉に無言で頷き返事をすると、皆がもう一度しっかりとカゲロウ印のイオン水の効果を自分の目で確認している。既に、カゲロウだけでなく、最初は興味が薄かったケイトも興味津々と言った感じで。
まぁ、基本的に職人しかいない僕達のギルドで、その効果や価値を知らない者はいない。まぁ、《調合》メインのカゲロウは除くのだけど。
トリプルオーの世界に存在する製作物単体の効果で極大の上昇効果を得ている物は数少ない………いや、現時点ではほとんど存在しないと言う方が正しいだろうな。【noir】のメンバーが作った装備でも、そのほぼ全てがセットボーナスやシリーズボーナスを利用して現時点では最高である極大の効果を得ているのだから。
『《調合》メインのカゲロウはともかく、フレイは気付いてたんだろう?』
『ウチか?勿論、その効果の事は気付いてたんやけどな………これは、単なる消費アイテムの事やからな。あまり気にしてなかったちゅうんが本音や。普通なら消費アイテムの効果と装備品の効果って、どう考えても別口やろ』
まぁ、そうなんだろうな。普通なら、消費アイテムが発する簡易的な効果と装備品が持つ持続的な効果では同じ効果と言っても意味合いや価値が全く違うからな。
いくら、他のゲームには詳しくない僕でも、他のゲームにも詳しい者達がフレイの意見にウンウンと頷いているところを見ると、そう言う物なんだろうな………とは理解してしまうよな。
『それで、シュン。これを使ったら、どんな結果になったんや?』
まぁ、ここから先を聞くと、もっと驚く事になるんだろうな。実際に見ていない三人は、特に………
『まぁ、結論だけ言えば《蘇生》スキルに耐えて残っていた部分の骨が全て消失した。《蘇生》スキルと違って、直接目で確認出来た分、インパクトは段違いだったけどな。あの時、一連の出来事を動画で撮影しておいたら、もっと分かりやすく説明出来て良かったんだけど、残念ながら撮ってない………って、おい、フレイ!?聞いてるのか?』
『『『『『………』』』』』
五人からは一切の返事が無い。再び現実逃避の時間が訪れたらしいな。
『シュン、実際に見てた私とヒナタも改めて驚いてるからね。見てないフレイ達は、すぐには戻って来ないと思うよ。それに、ほら!!サラとブレッドも、まだ【noir】って言うか、シュンの行動に慣れてないからか一緒にフリーズしてるしね』
【noir】に慣れてないと言うのは分かるけど、僕個人の行動に慣れてないと言うのは、流石にどうかと思うぞ。それに、運に関してはアキラの強運の方がどうかしてると僕は思う。まぁ、僕には改めて口に出して言う勇気は無いのだけど。
〔『………これが日頃の行いの差』〕
黒よ、そんな簡単に身も蓋もない事は言わないで欲しいんだけどな。まぁ、僕自身にも自覚は有るから否定はしないけど、最近僕に対して少し厳しくないかな。それとも、さっき僕が怒ったからか?
『でも、シュンさん、これで書類配達のクエストは残り一ヵ所ですよね?』
『そうだな。あと一ヵ所、やっと終わりが見えてきたよ』
『ですよね。そこで、ちょっと相談が有るんですが、最後の一ヵ所は私達に任せて貰えませんか?』
うん!?どう言う事だ?
このクエスト自体は僕個人ではなく、【noir】として受け持っているので、最後の一ヵ所をヒナタ達に任せるくらいは問題は無い。それに、以前から考えている進めたい計画を実行に移す時間も出来るので、僕としては出来る事なら、お願いしたいところだけど………一体、急にどうしたんだろうか?
『あっ、シュンさん、そんなに不思議な顔をしないで下さい。え~っとですね。私達も助けて貰うばかりでなくて、たまには【noir】の役に立ちたいんです。それと、こっちが本音と言いますか………サラちゃんとも話してたんですけど、私達も船での冒険がしてみたいんです』
なるほどな。そう言う事か………確かに、ライトニングの完成後は僕が使い続けてたし、エクスライトに改良してからは完全に僕しか使ってなかったからな。たまに他のメンバーが気分転換するのも良いだろうな。だから、そんな理由なら何の問題も無い。
『分かった。ちょっと僕もやりたい事が有るからな。最後の一ヵ所はヒナタ達に任せるよ。一緒に連れていく人選を含めてね。それと、場所の方も街で確認して分かっているから、エクスライトも明日中に【サラベール】近郊の港に運んでおくな。明後日ゲートから移動してくれ』
僕の言葉に安堵の表情を見せるヒナタとサラの二人。だが………
『でも………たった一つ、これだけ言わせて貰うけど、ヒナタ達は今でも十分に【noir】には欠かせない人物なんだからな。そこだけは、絶対に間違えないでくれよ』
この部分だけは、絶対に否定しておかないとな。
『『は、はい。ありがとうございます』』
『じゃあ、ヒナタ達はしばらくは船旅なんだね。私は今日手に入った素材で生産かな。丁度、部活が忙しくなるから、合間をみながらになるけどね。レイドバトルでも色々手に入ったし、依頼もされたから頑張るね。ヒナタ達も完成を楽しみにしててね。あっ!!そう言えば、色々と動揺し過ぎて忘れてたけど、皆はレイドバトルで、どんな素材が手に入ったの?』
そう言われてみると、僕も紅茶を楽しんでいてドロップと戦利品の確認はしてなかったよな。かなりの量が手に入っているとは思うけど………
『うっ!?』
これは、手を付ける気がしなくなるな。
〔『我が本気を出せば、これくらいの事は朝飯前なのだ』〕
まぁ、その代わりと言うか、運動後の朝飯は半端無く食べてたみたいだけどな。
………と言う事はだ。やっぱり、これは本当の事なんだな。出来れば、妄想か夢であって欲しかったけど。そうも言っていられないらしいな。
『シュンさん、どうかしましたか?』
『あぁ、ちょっと軽く現実逃避したくなるくらい気を失いそうになっただけだから………』
その発言を聞いたアキラが、わりと本気で心配してくる。
『シュン、それは本当に大丈夫なの?』
少し悪い事をしたかもな。
『まぁ、大丈夫だと思う。もし良かったら、皆も共通倉庫を見てくれれば、僕が何が言いたいかがすぐに伝わると思うんだけど………』
百聞は一見に如かずって言う諺も有るくらいだからな。これは、絶対に見て貰った方が早いだろうな。
『凄く珍しい物でも有りますか?確かに、私の獲得した素材よりは、レア度も高いし数も多いとも思いますけど………』
『だよね~。シュンが改めて驚くほど珍しい物は無いと思うけど、あれだけ大暴れしたんだから、色とりどりのベビードラゴンのレア素材が大量に有るのも………』
シヴァの持つ《幸運》の事を知っている僕を含めたギルドメンバー達が、いまさらレア素材が多く(正確にはレア素材だけ)倉庫に入っているだけでは声をあげてまで驚いたりはしない。
『えっ!?』
だが、今回は少し事情が違う。
『アキラ、どうかしましたか?』
『うん。私も気付いちゃったんだけど………シュン、もしかして倉庫の中身自体が問題じゃなくて、問題が有るのは倉庫の表記の方なのかな?』
『表記ですか………えっ!?MAX?えっ!?え~~~!!』
やっぱり、この結果には驚くよな。
僕が作った鞄には、戦利品や素材を回収したら倉庫に直接収納される倉庫直通の特殊効果が付けてある。ある程度は、個人的な設定でアイテムを個人倉庫と共通倉庫で仕分ける事が出来るようにもしてあるのけど、この場合は全て共通倉庫に送る仕様にしてあるのが裏目に出たよな。まぁ、正確に言うのなら、全部は送れていないのだけど………
『うん。僕の鞄や個人の倉庫の方にも、獲得した素材や戦利品の少なくない量がオーバーフローしてる』
『オーバー………フロー………。いやいやいや、共通倉庫の容量は確か六桁まで、正確には999999個まで保管出来るように増築してましたよね。元から結構な量は入ってましたけど、それがMAXになるって………』
本当にそうだよな。倉庫を設置した僕も、まさかこの倉庫がいっぱいになる時が来るとは思ってなかったからな。
この共通倉庫は、種類は関係無く個数で管理されている。一種類の上限も決めていないので、ポーションだけで999999個埋める事も可能だ。まぁ、そんな奴はいないだろうけどな。
『まぁ、今回の戦利品だけで、いっぱいになった訳ではないけどな。共通倉庫は皆の製作したアイテムも保管しているし、普段から低レベルの初心者相手には、相場よりもお得な価格で素材の買い取りしてるだろう。あれも大きいんだと思う』
実際に、ほとんど価値の無い素材でも有る程度の価格で買い取る事の効果は大きく、初心者を卒業してからもクエスト等で依頼された素材以外の余った物を普段から慣れした親しんだ【by buy】に卸してくれるプレイヤーは多い。
まぁ、カゲロウの作る消耗品やフレイの新作武器を買うついでに余っている素材を売っていくと言うのも有るんだと思うけどな。そして、ある意味で、トリプルオーの中では最も価値の有るブランドの一つとして僕の鞄が有る。定期的に、そこそこの数を作って店に置いて有るのだが、次に確認した時には、ほぼ完売しているからな。特に新製品になればなる程、売れ方が怪しい………
〔『主よ、目の前の事実から目を背けてはダメなのじゃ。それらは大きな理由では無いのじゃ』〕
〔『………右に同じ。主が犯人』〕
〔『くっ!!それは分かってる。分かってはいるんだけどな』〕
でも、実際のところは白達の言う通りで、僕が《機械製作》で作った材料等が〈工匠〉の効果で大量生産時に、ほぼ倍に増殖している事が最も大きな要因だろう。一つ一つの見た目が小さい分、実際に倉庫を見た時に空きが有るように感じていたが、気付かない内に数と言う面からみると倉庫の許容量圧迫してたんだな。
『近い内に倉庫の中身を使う予定も有るし、暇をみて倉庫自体の改築もしておくよ』
まぁ、共通倉庫の大部分を占めているのは、その為に用意していた材料だからな。そろそろ使ってやらないと駄目だろう。
『じゃあ、シュンもホームで生産がメインになるの?』
『ヒナタが書類配達を引き継いでくれるなら、そうなるかな。でも、サラベール山脈の中腹辺りでも魅力的な素材が有ったから、本格的な生産作業に入る前に一度サラベール山脈を頂上まで登る予定だけどな』
皆には内緒にしているけど、本音を言うとエクスライトの限界高度よりも上の世界が、どうなっているのかが気になっているだけなんだけど。まぁ、どこまで行けるかは分からないけどな。
『一人で?私達も手伝おうか?』
『う~ん、そうだな。あの辺りは特に気を付けないといけない魔物もいなさそうだから、取り敢えずは一人で頑張ってみるよ。アキラは、皆の為にも生産と部活を頑張って。あとは、いつも通り皆をまとめてくれると助かるかな』
『了解。毎日はログイン出来ないと思うけど、人手が必要なら呼んでね』
ある程度話も纏まったかな。そろそろ、フレイ達も戻って来てくれると助かるんだけどな。
『なぁ、ギルマス、一つ聞いても良いか?』
おっ!!今度はカゲロウが一番か、なかなか良いタイミングで戻ってきたな。
『何でも良いぞ。分かるかどうかは聞いてみないと分からないけどな』
『気になってたんだが、この倉庫の中に有るレシピ集・初級って何だ?』
『えっ!?そっち?聞きたい事って、カゲロウ印のイオン水の事ではないんだな………と言うか、レシピ集・初級って何?』
『いやいや、それは、俺が聞いてるんだ。取り敢えず、今後検証する必要が有るみたいだから、カゲロウ印のイオン水の事は置いておいてくれると色々と助かる。でも、レシピ集をギルマスが知らないなら………』
『でも、シュン、そのレシピ集・初級って、さっきは気付かなかったけど、倉庫の並び的にはレイドバトルの報酬っぽいよ。見た感じとしてはマザードラゴンの討伐報酬ってところかな?』
今回のレイド報酬のほとんどがベビードラゴン(赤)の爪や各部分別でのドラゴンゾンビの骨と言った名前なので、名前にドラゴンと付かないレシピ集を、職人の僕達が見落としても仕方ないかも知れないな。
『あっ!!僕の鞄の中にもレシピ集・中級って言うのが有るな。こっちは順番的にドラゴンゾンビの討伐報酬かな?』
『そこで、悩んでても仕方が無いやろ。結果的に中を見てみる方が早いで、この場合は』
どこから聞いてたかは分からないが、フレイ達も戻って来たらしい。
『まぁ、そうだよな………サラ《執筆》取得してたよね。一応、本みたいだから初級の方の確認をお願いしても良いかな?僕は中級の方を開いて見てみるから』
アイテム自体の性能は分からないけど、調べる物が本で有る限りは《執筆》取得者の意見を聞く方が早いだろうな。
『は、はい。分かりました………これは、読めない部分も多く有りますけど、《木工》と《調合》と《執筆》の簡単なレシピみたいですね。大体は皆さんに教えて貰った内容や技術と変わりませんよ。中級の方はどうですか?』
《木工》と《調合》と《執筆》?変な組み合わせだよな。内容が簡単なのは、レシピ集の種類が初級と言う事で納得も出来るんだけど………
記載されている項目が謎だよな。《木工》と《調合》は複合スキル《合成》系で分からなくもないけど、そこに《執筆》が加わるとなると、さっぱりだな。加工や製作に必要な素材関係の本か?
『|僕の方中級は、読めないところの方が少ないかな。大部分は読めるな。ほとんど生産スキルで使えるレシピや加工方法が乗ってるけど、初級と違って《執筆》は載ってないな。見た目は薄いけど、内容自体はかなり濃いみたいだな。おっ!新種の金属の精製方法も載ってるみたいだな。ほら、フレイ見てみろよ』
僕がレシピ集の《鍛冶》のページを開いてフレイに渡すと、フレイは一瞬で目の色を変えてレシピ集に釘付けになり、パラパラとページを捲りだす。
『フレイ?』
『シュン、ちょっ待ち!!』
これは、ダメだな。完全にディープな職人の世界に入ってる。
『なるほど、なるほどや。まだ、ちょっとしか読めてへんけど価値の付けられない代物やわ。加工方法の一つに注目してみても、ウチの盲点がいっぱいやったわ』
『例えば?どんなのが有るの?』
内容に興味津々と言った感じで、僕の聞きたい事を代わりにアキラが聞いてくれる。まぁ、周りを見る限り、それを聞きたかったのは僕とアキラだけでは無さそうだけどな。
『そやな………ウチは、今まで金属が硬くなるにつれて火の温度を上げれるだけ上げてたんやけど、中には低い方が効率の良いのも有るみたいやわ………と言うか、シュン、これには《鍛冶》と《錬金》と《細工》しか載ってへんやん。どう見ても半分以上が白紙やで』
『えっ!?』
どう言う事だ?フレイが僕に白紙だと見せているページには、《裁縫》のレシピが載っているよう見える。いや、はっきりと見えている。
『主よ、どうやらこのレシピ集と言うものは、読み手を選ぶ類いの物なのじゃ』
読み手を選ぶ?
『シュン、私にはフレイが白紙と言って見せてるページに《裁縫》のレシピが見えるんだけど、私の気のせいかな?』
やっぱり、このページに《裁縫》のレシピが見えるのは僕だけでは無かったみたいだな。
『あぁ、なるほどな。そう言う事か。読み手を選ぶと言うのは、所持してるスキル………多分だけどスキルレベルにも依存してるってところかな』
『………その通り』
やはりか。と言うか、黒も分かっていたのなら、ストレートに教えて欲しかったんだけどな。でも、生産系のスキルを取得してないと中身が見えない訳だから、レシピ集は生産系の職人専用アイテムって事だよな。
簡単に言うなら、【アーツの書】や【スキルの書】系のアイテムの職人専用バージョン。しかも、見る専門のアイテムなので使っても無くならない永久保存版仕様か、かなりお得なアイテムみたいだな。
それに、初級や中級の種類訳が有るなら、上級やその上のレシピ集も有るかも知れない。是が非でも手に入れたいところだけど………まぁ、中級を獲得したのがレイドバトルの報酬なら、それ以上の種類となると、何をしたら貰えるのか考える方が嫌だけどな。
『じゃあ、この二冊のレシピ集は、誰でも見れるようにリビングに置いておくから、自由に使ってよ。ギルド以外でも見たい知り合いの職人がいるなら見せても良からな』
基本的に【noir】のリビングは、一度でも入った事が有るプレイヤーは、自由に出入り出来る仕様になっている。なので、こう言う時は便利だよな。まぁ、逆に言うと一度目は必ずギルドメンバー誰かしらの許可がいるって事になるんだけどな。
『おい、シュン!!いくらなんでもこんな貴重品を誰もいないかも知れへんリビングに放置してギルドメンバー以外にも解放するとか、ウチは有りえへんと思うで』
『まぁ、そう言う考え方も有ると思うけど、レシピ集の中身は自分のスキルレベルによって見る事の出来る範囲が変わるから、本当に自分の力で努力してるプレイヤー以外には使えないと思うからな。そう言うプレイヤーは僕だけじゃなくて皆も好きだろう?それに、一応このホームにはアイテム持ち出し禁止とイタズラ防止機能が備え付けて有るから、盗難に関しても大丈夫じゃないかな』
生産系の職人以外が情報だけを持ち出すのは不可能だ。どんなに頑張って見ようとしても白紙にしか見えないのだから。もっとも、普通の戦闘系のプレイヤーには無用の産物なんだけどな。
『確かに、冷静に考えるとそれもそうやな。【noir】に入れるプレイヤーなら、その点も大丈夫やろな。それに、ウチもシュン同様に頑張ってる職人は好きやからな』
実際には、他の職人にもレシピ集を解放したら、どんな凄いアイテムや変わったアイテムが産まれてくるのかを考えると、ワクワクする事を止められないし、僕以外に変わった物を作って目立つ人物が現れるのは個人的に大歓迎だからな。まぁ、これ関しては絶対に秘密だけどな。
〔『………やっぱり、主はぶれない』〕
装備
武器
【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉
【空気銃】攻撃力0〈特殊効果:風属性・バースト噴射〉×2丁
【火縄銃・短銃】攻撃力400〈特殊効果:なし〉
【アルファガン】攻撃力=魔力〈特殊効果:光属性/レイザー〉
【虹鯨(魔双銃剣ver.)】攻撃力500〈特殊効果:七属性〉
【白竜Lv90】攻撃力0/回復力280〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv88】攻撃力0/回復力268〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv79
《錬想銃士》Lv22
《真魔銃》Lv23《操銃》Lv43《短剣技》Lv44《拳技》Lv10《緩急》Lv9《魔力支援》Lv10《付与術改》Lv30《付与練銃》Lv31《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv50《家守護神》Lv66
サブ
《調合工匠》Lv33《上級鍛冶工匠》Lv8《上級革工匠》Lv7《木工工匠》Lv42《上級鞄工匠》Lv10《細工工匠》Lv46《錬金工匠》Lv45《銃工匠》Lv36《裁縫工匠》Lv16《機械工匠》Lv24《調理師》Lv27《造船工匠》Lv2《合成》Lv53《楽器製作》Lv5《バイリンガル》Lv15
SP 38
称号
〈もたざる者〉〈トラウマニア〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈摂理への反逆者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉〈工匠〉〈呪われし者〉〈主演男優賞?〉〈食物連鎖の最下層〉〈パラサイト・キャリアー〉




