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OOO ~Original Objective Online~ 改訂版  作者: 1048
第一章 第六部
61/65

サラベール山脈(ドラゴンゾンビ)

『ド、ドラゴンゾンビだと』


『ぜ、全員、こ、攻撃だ。ドラゴンゾンビを攻撃しろ~急げ』


『うぉぉ~~喰らえ!〈フレイムロード〉』

とっさに反応出来たプレイヤーから、上級と思われる威力の火属性魔法が放たれる。


『こっちもだ。続けて行くぞ!!〈ストームサンダー〉』

その魔法を追うように風雷属性の魔法が追い討ちをかけた。


名前も知らない二人の《魔術士》と思われるプレイヤー達の攻撃を皮切りに、見た事もない色とりどりの様々な魔法がドラゴンゾンビに向けて放たれていく。


だが、しかし、放たれた様々な魔法は一つとしてドラゴンゾンビのHPを削る事は無かった。魔法を放ったプレイヤー達の阿鼻叫喚と共に一つ残らずドラゴンゾンビの己の(HP)として吸収されている。一見、ゾンビに対して最も効果の有りそうな光属性の魔法までもが吸収されている。


『やっぱり………か』

《見ない感じ》で確認すると、《魔法吸収》と言う名のスキルを持っている事が確認出来た。


魔力(MP)吸収》では無くて、《魔法(・・)吸収》。この二つのスキルの違いは、魔法を吸収した時に回復するのがHPかMPの違いだよな。《魔力吸収(前者)》は魔法を喰らう事でダメージそのものは受けるけど、魔法を放つ為に消費された分のMPを吸収してMPを回復する事が出来て、《魔法吸収(後者)》は本来受けるはずのダメージそのものをHPへと反転させてHPを回復する方法だ。


まぁ、この場合は《魔法反射(・・)》スキルでは無いだけ良かったと思う方が良さそうだよな。


それにしても、先程までと打って変わって、レイドバトル対しての統率が全く取れて無い気がするな。


これも、ドラゴンゾンビ(レイドボス)再登場(リポップ)と同時に、ギリギリと疑わしきところでもレイドバトルを纏めていた(?)レイドリーダーのヘンデルが倒された影響なのか?


もしかしたら、ヘンデルのギルド(ところ)二番手、三番手(サブマスター達)が育ってないのかも知れないな。まぁ、あの時ヘンデルと一緒に倒された可能性も有るのだけど………


こう言う時こそ落ち着いて行動しないといけないと思うんだけどな。まぁ、急に目の前にあんな化け物が現れたらパニックになるのも仕方が無いと思うけど。実際のところ、僕も少し離れた場所で全体を見る事が出来てなかったら、焦っていたのは確実だろう。目の前に巨大な骨の塊が動き出すとか絶対に無理な話だからな。


『だ、ダメだ。魔法系は光属性まで全て吸収されるぞ。物理でなぐ………』


『うぎゃぁ~~』

うわぁ~アレは酷いな。確実にトラウマ系の称号が贈呈(プレゼント)されている事だろう。他人事ですが御愁傷様です…………


魔法を放ったプレイヤーの一人は、皆へのアドバイスを最後まで言い切る事なくドラゴンゾンビに食べられてしまう。多分だけど、物理で殴れ的な脳筋発言をしたかったのだろう。


僕には、食べられたプレイヤーの最後のアドバイスが、残された皆に届いたかどうかは分からないけど、ヨーロッパのプレイヤー達は攻撃方法を物理攻撃主体へと変更している………のだが、それでもまだ効率の方は、あまり良さそうでは無い。


マザードラゴンとドラゴンゾンビの攻撃面での大きな違いは、範囲ブレス攻撃が無くなって、近付いたプレイヤーの丸飲みする一撃死(即死系)?と思われる攻撃と体を構成している骨を不規則(ランダム)でブーメランのように飛ばしてくる攻撃が増えたくらいかな。


骨のブーメランは、己自身の一部分を自由自在に飛ばしてくるので、近距離で発動した場合の回避は不可能に近い………が、《回復士》や《魔術師》系の防御力が僕と同じ紙装甲のプレイヤーが小さな骨の欠片の直撃を喰らってもピンピンしていたり、腕などを構成する大きな部分の骨全体を直撃した前衛のプレイヤーが瀕死になっているところを見ると、骨ブーメランの被ダメージは大きさや部位等に比例して威力が上昇するタイプの攻撃らしい。


………と言う事は、発動の予兆の分かり難い骨ブーメランの回避は諦めて、受けるダメージをいかに減らしていくかの方向で考えれば良いとすれば、普通に考えて注意しなければならないのは近距離攻撃の喰らえば最後の即死系?の丸飲みの方になるのだろうけど、こっちの方もドラゴンゾンビから一定の距離を保ち離れて闘う僕とすれば、直撃を喰らう心配は無いだろうな。


さて、そうなると一番の問題は僕()が参戦するのか、しないのかの二択になるよな。


書類配達のクエスト自体は、マザードラゴン討伐を終えたところで4/4()に進んでいるのは確認出来ている。僕個人としては、この状況を放置して去ると言う選択肢は後味が悪くなりそうなんだよな。ドラゴンゾンビの討伐に失敗して、イベントが3/4からやり直しになったら可哀想だとは思うからな。まぁ、仮にイベントを3/4からでもやり直せるのなら、失敗した時点でクエスト終了になるよりはマシだとも思うけどな。


ただ………放置して去ると言う選択肢は無いと心の中では思っているのだけど、その事を皆にも望むのは違う気もする僕もいるのは事実なんだよな。


『シュン、どうするの?』

やっぱり、アキラも同じような事を思ってたみたいだな。まぁ、参加は各自の判断に任せて、話だけは促してみるかな。


『どうするの?って言われてもな………僕個人としては、このレイドバトルにも参加する方が良さそうだなとは思ってる。このまま帰って、帰ったあとでイベント失敗を聞くのも後味が悪そうだし………ただ、ドラゴンゾンビとどう闘えば効果的なのかが全く分からないんだよな。取り敢えず、僕は離れて回復に回って全体の様子を見ようかと思っているけど』

正直、高威力の魔法を吸収されて、物理が効きづらい相手に対して、ただでさえ攻撃力の低い僕が、どう戦って良いのかが分からない。


シヴァを使えば、一分間限定(一度きり)一撃必殺(ヒット)離脱(アウェイ)でHPを削ると言う選択肢も有るのだろうけど、さっき使用したばかりで次に使用可能になるまでは約一日掛かるシヴァを使う作戦は問題外だからな。


あと、出来る事が有るとすれば、高い回避率と高い自己回復力(生存率)を利用したヘイト集め(囮役)くらいの物だろうけど………そんな事をしなくても、明らかにドラゴンゾンビは僕の方を目指して進んで来ているからな。まぁ、多分と言うか………これって絶対にベビードラゴンを倒し過ぎてヘイトを集めた過ぎたせいなんだよな。なので、囮役は遠慮したいよな。


『それでは、私とサラちゃんも回復や支援に回ります』

ヒナタがサラとアイコンタクトで自分達の担当を決めていく。サラもヒナタの発言に黙って頷いているので問題は無いらしい。


『じゃあ、私は弓と扇での遊撃かな』

僕達の防御力なら、ドラゴンゾンビに接近するのは致命的だからな。中距離からの遊撃を選んだアキラの判断は正解だろうな。初めは皆を巻き込むのはどうかと思ったけど、どうやら【noir】のメンバーは揃いも揃ってお人好しの集まりらしいな。


〔『………この場合、一番のお人好しの主には言われたくないと思う』〕


〔『黒よ、違うのじゃ。主の場合はお人好しでは無くて、要領と運が悪いだけなのじゃ』〕

この黒と白の意見はスルーさせて貰おうかな。僕としてはどちらかと言うとお人好しだと思いたいけどな。


『では、必然的に俺はアキラさんのフォローに行き………あっ~~~!!ちょっと、ちょっと待って下さい。相手がゾンビなら逆に回復魔法の方が効くんじゃないですか?』


『『『あ~~~ぁ!』』』


『えっ、な、何!?どう言う事だ!?全く分からないんだけと………頼む、僕にも分かるように説明してくれないかな』

ブレッドを含めた四人は納得したような顔をしているのだけど、僕にだけは全く伝わっては来ない。


『シュン、普通のゲームならアンデット(ゾンビ)系に回復魔法が効果的って言うのは一種のお約束(セオリー)なんだよ。ほら、向こうの人達も気付いたみたい。回復魔法でダメージ与えてるよ』

確かに、僕達が相談している間にも、ヨーロッパのプレイヤー達もタンクを壁にして回復魔法が使えるプレイヤーを中心に遠距離で攻めるプランに変更している。物理攻撃よりもダメージの通りが良かったのか、前衛系のプレイヤーの方が率先して援護(フォロー)に回っているよな。


『なぁ、それって、回復アイテムでも効果が出るのかな?』


『多分だけど、大丈夫だと思うよ。ゲームによっては蘇生系(・・・)のアイテムで相手を即死させたりも出来るからね。あとは………トリプルオーには無いけど、聖水等の聖属性系アイテムとかで固定ダメージをあたえるのが定番かな』

蘇生系のアイテムで即死か………確かに聖と言う属性は無いけど、聖水みたいな効果を持つアレ(・・)なら効果有るかもな。まぁ、そんな不確かなアイテムを試すよりも、まずは………


〔『白、黒、どうだ?出来ると思うか?』〕


〔『………多分、大丈夫』〕


〔『主よ、結果は試してみる事でしか分からないのじゃ。ただし、少しワシの方は時間が掛かると思うのじゃ。それよりも主が以前に製作した【銀玉鉄砲】を使ってみてはどうなのじゃ?』〕


〔『確か、アンデットに即死の特殊効果だったかな?残念だけど、【銀玉鉄砲】専用の銀弾が無い。こんな事が起こるとは思ってなかったから、銀弾の製作をしてないからな』〕

確かに【銀玉鉄砲】かな使えたのなら、これほど楽な相手はいないのだろうな。こんな事になると分かっていたなら、銀弾の準備を最優先で進めておいたんだけど、これが後の祭(あとのまつり)と言うやつだな。


〔『………準備不足』〕


〔『ごもっともな話です』〕


〔『………是非、次までに準備しておいて欲しい』〕


〔『了解致しました』〕

僕としては、次があって欲しくないのだけど 準備をしておくことには賛成だからな。


白に頼るのは結構ギャンブル要素が強いと思う。失敗した場合は、せっかく与えたダメージが振り出しに戻りかねない。まぁ、同じ試すなら駄目で元々と諦めのつく内に行動した方が、トータル的な被害は少なくて済むかな。


僕達が、離れた場所で話し合っている間にも、また一人、二人とドラゴンゾンビの餌食になっている。


『それなら、今回は僕が攻めに回るよ。ヒナタとサラは予定通り遠目からタンク達への支援や回復に回ってくれ。アキラとブレッドは、悪いけど僕の援護を頼めるかな?』


『それは、良いけど………一人で大丈夫なの?』


『まぁ、やってみないと分からないけど………何とかするよ。じゃあ、戦闘後の打ち上げを楽しみにして頑張りましょうか。行くぞ!!』





まずは、【白竜】が効くのかどうかは試してみる事が先決だよな。これに効果が無かったら、これからやる事全てが無意味になる事が約束されている。


僕は、ドラゴンゾンビに向けて遠目から【白竜】を射撃した。その結果は………《吸収》スキルの方は全く効果が無かったけど、通常の回復射撃の方は少しだけ、本当に少しだけだがダメージが有る事が確認出来た。これなら本当に行けるかもな。


〔『アキラ、ブレッド、聞こえてる?』〕


〔『私は大丈夫だよ』〕


〔『俺も聞こえてますけど………今、パーティーチャットを使う必要有るんですか?』〕

ブレッドは、僕とアキラへの攻撃を受け流しながら、訝しげな表情を向けてくる。


ちなみに、一緒にいるアキラは弓で攻撃しながら、僕達へ向けられてくるドラゴンゾンビの攻撃を扇のアーツで相殺してくれている。


〔『ちょっと試してみたい事が有るんだけど、周囲に話を聞かれると少し面倒な事になりそうだからな。それに、なにぶん初めて試す事だから、どれくらい準備に時間が掛かるかも分からないし、どんな結果になるかも分からない。だから、頼む。アキラとブレッド、少しの間で良いから僕を守ってくれ』〕


〔『分かったよ。シュンも無理しないでね』〕

いつもの事だけど、こう言う時に理由を聞かれないのは助かるよな。


〔『………まさか、俺がシュンに頼られるとは思わなかったです。ここは、俺達に任せて下さい。俺は死んでもドラゴンゾンビの攻撃をシュンまで通しません。その代わり、あとで説明して下さい』〕

正直に言うとブレッドに死なれても困るのだが………ここは、ブレッドの心意気と言うか男気を尊重させて貰うとするかな。


〔『了解した。二人共任せたぞ』〕


僕は、防御を二人に任せて【白竜】のレアスキルを行使する為の準備に入る。


〔『白、それで、僕は具体的に何をしたら良いんだ?』〕


〔『主よ、簡単な事じゃ。HPとMPが全快した状態で主の意思(・・・・)を込めてワシを射撃するだけじゃ。あとの事は全てワシに任せておけば良いのじゃ』〕

そんな単純な事だけなのか?HPもMPも、あと数秒程で全快になるからな。思っていたよりも準備に時間が掛からないんだな。もしかして、かなり便利に使えるんじゃないのか?


〔『ただしじゃ、主が消費するのはMPが全部とHPが半分じゃ』〕

すみません。現実は、そんなに甘くなかったです。消費が半端無い。これでは、滅多な事では使え無いないよな。


〔『主よ、そこは慣れじゃ。経験を積んでワシがスキルに慣れれば主の消費も減るはずなのじゃ』〕

慣れか………まぁ、慣れれば消費が減る可能性が有る事が分かっただけでも朗報だな。まぁ、今後使う機会が有っても僕が使うかどうかは分からないけどな。


それよりも、今一番重要な事は射撃を外せば僕の方が瀕死でピンチになるって事なんだよな。MPを全部使うとするなら、MPを使う攻撃(〈必射〉)を同時に使えないと言う事だよな………と言う事はだ。絶対に外さない為にもギリギリまで近付く必要も有るけど、HPも全快状態がスキルの発動条件の一部なら、相手の攻撃も一撃も喰らえないと言う事になるんだよな。こっちは、幸いな事に白の〈簡易結界〉を一回分は使う事が出来るので、万が一の保険にはなるだろう。


まぁ、本来の使い方をするなら、両方共を気にしなくても良い事なんだけど、今回は………な。


こう言う時に、シヴァが使えれば少しは楽になるんだが………まぁ、無い物ねだりは止めておいて、覚悟を決めるとするかな。


〔『アキラ、ブレッド、準備完了だ。五秒前からカウントするから、あとはヨロシク頼むよ』〕

目の前にいる二人が、こちらを振り向かずパーティチャットでの返事も無くドラゴンゾンビを見据えたまま無言で頷いた。


〔『行くぞ。五………四………三………二………一………Go!!』〕


僕は、カウントダウンの終了と同時にタンク勢を飛び越えてドラゴンゾンビとの距離を一気に詰める。今ので二十メートルくらいは稼げたが、ドラゴンゾンビに近付くに連れて僕を目掛けての多彩な骨のブーメランが襲い掛かってくる。しかし、《付与術》と装備で強化された僕の速度には追いついて来ない。これなら………最接近、もしくはそれに近いところまで行けるか?


僕が、若干の余裕を感じた時に変化は起きた。


『シュン、危ない!!』

僕に油断は全く無かったとは言わないけど、その攻撃の発想は頭に無かったな。


僕の目の前には、ドラゴンゾンビの頭部全て(・・・・)を使った骨のブーメランが大きな口を開けて襲い掛かって来た。丸飲み+骨ブーメランの合体攻撃(サプライズアタック)


ドラゴンゾンビの頭部が近付いてくるにつれて、走馬灯のように全ての動きがスローに感じる。


この作戦は、完全に失敗(ダメ)な案だったのだろうか?まぁ、一人でレイドボスに向かって行く(特攻)とか、僕のキャラに合ってないのは間違い無いよな。仮に、丸飲みされなかったとしても、このサイズの骨ブーメランを僕が喰らえば即死は免れないだろう。何かしらの方法を模索する余地も無いくらいに………


だが………それは、僕にドラゴンゾンビと正面から闘って倒す(・・・・・)と言う確固たる意志が有った場合の話だけどな。僕が今から行うのは単純に【白竜】のトリガーを引くだけ。それだけで白の《蘇生(・・)》スキルを発動する。なので、今の間合いからでも十分に間に合う。正確に言うのならトリガーを引く一秒程の時間が有れば良い。


そして………それは、本体部分に当てさえすれば発動するスキル。おあつらえ向きに、僕自身が近寄らなくても本体のメイン部分である頭部の方から迎えに来てくれると言う有り難い(破格の)サービス付きだからな。このチャンスを逃す手は無いだろう………と言うか逃したら、僕自身が終わりなのだから。


何から何まで初めてづくしで、結果がどうなるのかは全く分からないのだけど。ここまで頑張ったんだ。悪いようにはならないだろう。


〔『白、頼んだぞ』〕

僕は、ドラゴンゾンビの頭部に丸飲みされる瞬間に全ての魔力を込めて【白竜】のトリガーを引いた。





『スコーピオ、ご苦労様。今回も助かったよ。それと、いつも面倒事をお願いしてごめんね』

そういう言ったレオは、スコーピオから差し出されたマザードラゴンから回収してきた金色の鱗を受け取った。相変わらず、スコーピオの方は一切言葉を発しないし、表情の方にも変化が無い。本当に生きているかどうかも分からない程に………


『それでは、遂に完成するのですか?』


『うん。これで龍の逆鱗も十一個目。このレシピに載っている素材は全部集まったからね。アクエリアス用の魔()器も完成するよ』


『レオ、ありがとうございます』


『まぁ、アクエリアス(今回)の分は製作するのに少しだけ時間が掛かると思うから、すぐに完成には至らないけどね。なるべく早く仕上げ………おっと、どうやら向こうも終わったみたいだね。最後は意外な決着………いや、彼にしてみればそうでもないのかな』


『………レオは、彼が何をしたのか分かるのか?』

驚きの表情を隠しきれないタウラスが、不可思議な謎でも解明したかのような楽しげな表情をしているレオに問いかける。


レオは、一瞬沈黙したのち、舐めていた棒付きチュッ○チャ○スをバリボリと音を立てて噛み砕いてから答えた。


『うん。一部始終を見ていなかったから詳しい結果までは分からないけど、大まかになら予想がつくね。ドラゴンゾンビの最後は、彼が………正確には彼の持つ魔獣器のスキル、《蘇生》のせいだね』

レオの発した聞き慣れない単語に三人は耳を疑っている。唯一、反応する事が出来たのは………


『そ、《蘇生》!?それは、このゲームでは、まだ発見されてないスキルはずでは?ピスケスからの報告にも無かったはずですよ。それに魔獣器?私達の持つ魔霊器(・・・)とは違うのですか?』

レオに質問を返せたアクエリアスだけだった。


『うん。それは、アクエリアスの言う通りなんだけど、単純に彼が秘匿していただけなんだろうね。あそこにいる彼の仲間達以外は《蘇生(起きた出来事)》にすら気付いてないみたいだけどね。それに、流石は彼が選んだ仲間達だけは有るよね。一緒にいる何人かは、彼が《蘇生》を使った事には気付いてるみたいだからね』


『そんな事が………』


『それと最後の質問の答えだけど、彼らの持つ魔獣器は日本サーバーでキャラメイクしたプレイヤーのみが獲得出来る専用品(レアアイテム)。逆に、僕達の持つ魔霊器はヨーロッパサーバー(こっち)の専用品。当然、アメリカサーバーや中国サーバーにも似たような武器は存在するけど、今現在の獲得者はいないみたいだね。まぁ、僕としては、龍の逆鱗(必要な素材)は必要な数が集まったから、このクエストがいつ終わっても問題無かったけどね。せっかく、素材回収の為にクエストを起こして長引かせてたいたんだから、しっかりと元は取らないとね』

その言葉を聞いたレオ以外の普段は全く表情を変えないスコーピオを含む三人は、最後まで驚きの表情を隠しきれなかった。


その三人が驚いている対象には、遠くから見ていただけで全てを理解し、ほぼ全てのプレイヤーが知らないであろう情報まで持っていたレオ自身も含まれているのだが、遂に当のレオ本人が知る事は無かった。





僕がトリガーを引いた瞬間、僕とドラゴンゾンビを中心に辺り一面を真っ白な光の雨が覆い隠す。目が眩むくらいに眩しい光量を放っているのにも関わらず、僕の視界が失われる事は無い。まぁ、真っ白な光に覆い隠されているので、辺りは何も見えていないのと変わらないけどな。


その間、体感時間で十数秒(実際には、もっと短いのかもしれないけど)だったろうか。目の前が元の視界に戻った時には、ドラゴンゾンビは既に半分以上の身体()を消失している、誰が見てもはっきりと分かるぐらいな状態(瀕死)だった。


『な、なんだったんだ。あれは………』


『………アイツは、ま、魔王か』


『えっ、魔王………アイツが?《銃士》だぞ』


『だからだよ。俺はあんな《銃士》は知らない』


『あ、悪夢か』

先程と同じ会話が繰り返される。まるで既視感(デジャビュ)のように………


『やっぱり悪夢か、起きろ俺』

まぁ、まるっきり同じと言う訳でも無さそうだけどな。


………と言うか、身体を半分以上を失うような致命的な一撃を喰らっても生きてるんだな。その事の方が驚きだよ。


そして、最後の力を振り絞り、僕に向けて爪を振りかざしてくる。


このしぶとさだけは逆に尊敬出来るかも知れないな。まぁ、僕としては最初に思い付いたアイテムのテストも出来るので一石二鳥なのだけど………


『ドラゴンゾンビ、これが本当の終わりだ』

まぁ、それに関しては、このアイテムに効果が有った時の話だけど。効果が無かった場合は、僕がただ単に恥ずかしいだけの痛いヤツになるだけだ。


僕は、瀕死のドラゴンゾンビに鞄から取り出したカゲロウ印のイオン水を振りかけた。その瞬間、ドラゴンゾンビの残っていた身体は、カゲロウ印のイオン水が振りかかった場所から順次消失していく。


〔『うわっ~~~流石に、この演出は酷いな』〕


〔『主よ、主が勝手にした事なのじゃ。この件に関しては、ワシらは全く関係無いのじゃ。むしろ、ワシらも被害者なのじゃ』〕

僕も、その事は十分に理解している。


カゲロウ印のイオン水が品質向上の性能しかないのにも関わらず、光属性それも現時点で最高の極大の上昇効果を持っていたので、アキラの言う聖水の代わりになってダメージを与えられるのでは………と半ば冗談半分で思っていたのだけど、想像以上の結果だったな。だから、この場合は僕も被害者側の人間になるのではなかろうか。


………と言うか、《蘇生》スキルよりも効果が有りそうに見えるのは、自分の目で消失の過程を確認出来たか、出来てないかの違いだけなのか?


自分で仕出かした事だけど、若干………いや、かなり引いているよな。まぁ、あとでこの結果だけは生産者であるカゲロウに伝えておこうか。本来、カゲロウが考えている用途とは全く違うから驚くとは思うけど、この機会に一般にも売り出したら、かなりの売り上げを叩き出す気もするからな。ギルドマスターとしては、それも有りかもな。


『な、何が起きたんだ?おい、そこのお前、一体何をしたんだ』


その言葉に振り返ってみると、先程まで疑惑の声をあげていたプレイヤー達を中心とした多くの目が僕に向いているのが分かる。そして、そのプレイヤー達の歩みが一歩一歩確実に僕に近付いて来ている事も………


今の出来事を最初から順を追って説明しても良いんだけど、僕自身も完全に理解している訳では無いからな。分からない事まで仮説で補って説明するのは面倒だよな。ここは、また〈朧〉を使って逃げさせて貰おうかな。ゼニスの時に経験が有るから、失敗する事も無いだろうからな。


〔『皆、聞こえてるかな?僕は、この場から〈朧〉を使って逃げようと思ってる。あとでホームで合流しよう』〕

一方的な業務連絡?的な伝言だけを入れて、この場所からの脱出作業に入る。まぁ、脱出作業と言っても〈朧〉を使って、それなりの演出をして逃げるだけなんだけどな。


それにしても、色々有り過ぎて疲れ過ぎたよな。最初は単なる書類配達クエストを進展させる為だったんだけどな。気付けばレイドバトル乱入にまで発展してるんだからな。生半可な報酬では割りに合わないだろう。クエスト達成時には、それ相応の報酬を吟味させて貰おうか。今の段階でも【シュバルツランド】の王様には覚悟を決めておいて貰いたいな。


あっ、そうだ!!取り敢えずは、ホームに着いたら、一番最初に紅茶を飲もう。そろそろ、前回仕込んだ分が良い感じで仕上がっているはずだからな。あとの事は、それからでも良いよな。


〔『………無責任』〕


〔『主よ、ワシも酷いと思うのじゃ』〕


『おい、無視をするな。そこの黒一色のお前の事だ。何か言ったらどうな………あっ、おい、ちょっと待て、何をする気だ?あっ、いや、すまない。調子に乗った俺が悪かった。だから命だけは………き、消えた!!おい、消えたぞ。どこだ?どこへ行った?皆、探せ!!探すんだ』

驚かせて悪いとは思うけど。僕としては毎回毎回説明に付き合ってられないんだよ。時間は、かなり掛かると思うけど自分達の手で検証と確認を頑張って貰いたいとこだよな。多分、それがゲームの楽しみかたの一つだと思うし、きっと為せば成るから………


僕がその場から消えたあとで、虚しく繰り返し響く『探せ』の言葉だけが寂しく木霊していた。





『あ~~~!良い薫りだ。これだよ、これ。マイホーム、マイソファー、マイティーカップ、そしてオリジナルの新紅茶。やっぱり、僕にとってのトリプルオーは、これが無かったら始まらないよな。ありがとう、紅茶』

一仕事終えたあとの一杯。疲れたあとの一杯。まさに至福の一時(ひととき)だな。


ゲートを使ってホームに戻って来た僕は、何よりも先に紅茶を味わっている。まぁ、いつも通りの事なんだけど。


『主よ、ワシもそれには同意するのじゃ』


『シュン、我は茶菓子を所望するのだ。今日は甘い物を希望するのだ』


『………同意』

三者三様に紅茶で喜んでくれるのは嬉しいよな。


『まぁ、焦るなよ。茶菓子は、他の皆が戻って来てからだ』

紅茶の一杯くらいなら良いだろうけど、打ち上げ(祝勝会)をするなら、最低限レイドバトルに参加した全員が参加する事が望ましいからな。まぁ、時間的に小学生組は少し厳しいかも知れないけど………幸いな事に明日は休みだ。紅茶の一杯を飲んで少し楽しむくらい遅くなっても許されるだろうな。


『………皆戻って来た。黒は無関係と先に言わせて貰う』

無関係?黒は何が言いたいんだ?


『皆、おかえり。今日は、ありがとう。紅茶でも………』


『シュン!!その場に正座』


『は、はい』

有無を言わせない雰囲気を醸し出すアキラ。


『私達は、あのあとが大変だったんだからね。私達が一緒に居たのを見てたプレイヤー達に囲まれて、質問攻めにあって………あっ!!取り敢えず、暖かい紅茶と美味しいお茶菓子四人分。やっと解放されたんだよ』

そのアキラの後に控えるヒナタ、ブレッド、サラも激しく同意して頷いている。黒が言いたかったのはこの事か………


『本当に、すみませんでした。はい。分かりました。すぐにご用意させて頂きます。少々お待ち下さい』

そこまでは、頭が回ってなかったよな。


確かに、あの状況で僕だけが消えると、ペンタグラスの時と違って残っていたアキラ達に質問が集中するのも当然の結果だよな。全ては僕の考えが至らなかった事で招いた結果。それを、アキラ達に押し付ける形になったのは失敗だよな。かなり悪い事をしてしまったな。


でも正直、正座の時間が一瞬で終わったのは救いだったかな。本当に紅茶様には感謝しか有りませんな。現実でもトリプルオーの中でも正座は痺れる。特にトリプルオーの中では、微弱な麻痺のバッドステータスと言うおまけまで付くのだからな。これも現実的と同じように慣れれば大丈夫の類いなんだろうけど、そこまでリアルにする必要は有るのか?僕は正座の痺れに慣れる気がしないからな。


以前に、ケイトが日本の文化体験と称して、フレイ達に教わってトリプルオーの中で正座体験をした事が有るのだが、五分くらいで足が痺れて十分間完治不可の微弱な麻痺のバッドステータスを受けてしまった経験が有る。それが、判明して以降の簡単な罰として【noir】では正座が使われている。慣れていない者には辛い所業だからと言う理由で、フレイが発案して採用されている。まぁ、罰を喰らうのは大概は僕を始めとした男組になるのだけど。


〔『主よ、見栄を張るでは無いのじゃ。罰を喰らうのは男組ではなく、ほとんど主だけなのじゃ』〕

そこは、見栄ではなくて、微々たるプライドの問題だよ。プライドの………


〔『………それが見栄』〕

もう僕には返す言葉も無いよ。


まぁ、皆にはお詫びとして素敵なお茶菓子(スイーツ)を一緒に用意させて貰おうかな。え~っと………確か、果樹園に美味しそうな苺が出来ていたから、それは使いたいよな。となると、ショートケーキ?いや、それでは普通過ぎて特別感が全く無いし、同じ作るにしても楽しくないからな。う~ん……… 


『そうだ!!』

苺のコンポートタルトでも作ろうか。


苺のコンポートタルトの見た目は、苺で作るタルトタタンってところだな。普通のタルトタタンはリンゴで作るスイーツの事を指すのだけど………旨ければ、呼び方(細かい事)は気にしなくても良いよな。実際に以前テレビで見た時に美味しそうだと思ったからな。まぁ、作るのに少々時間が掛かるのが難点だけど、ここは現実と違って色々とショートカットも出来るし、大した問題では無いだろうな。


ついでに、一緒に出す紅茶もエクスライトの上で作った最新作を淹れてみるか、今回の紅茶はさっぱりとした風味なので苺との相性も良さそうだからな。





『………』


『シュンさん、遅いですね』


『そうだね。いつもなら紅茶だけは、すぐに出て来るのに………私、ちょっと見てくるよ』


ちなみに、アキラ達の名誉の為に断っておくが、普段ならアキラもヒナタも紅茶が出てくるのに、多少の時間が掛かっても待てるだけの忍耐は有る。たまたま今がレイドバトル二連戦とヨーロッパのプレイヤーからの質問攻めによって感情度が下がりに下がっているので少しの時間が非常に長く感じているだけだ。さらに、駄目押しとして、目の前で三組四匹のファミリアが紅茶を美味しそうに飲むところを見させられて、キッチンからの漂ってくる美味しそうな匂いに耐えるという罰ゲームに近い所業を喰らって、いくら短時間とは言っても耐え忍ぶのは難しい事だろう。


『あっ、俺が行ってきますよ。アキラさんは、ゆっくり休んでて下さい』


そこは、アキラとヒナタだけに限った事ではなく、同じ事を経験しているサラとブレッドも同様なのだけど………むしろ、小学生の二人の方が良く耐えていると思われる。


『シュン、手伝いに来ました。それで、今は何を作っているんですか?』


『おっ、ブレッドか、丁度良いところに来たな。今作っているのは新作スイーツだ。もう少しで完成するぞ。ブレッド、悪いんだが、そこに有るティーポットとティーカップを運んでくれるか?運び終わったら、マナさん達にも渡してくれると助かる』


『それは、良いんですが………マナさん達の分を含めても数が多くないですか?』


『もう少しで戻って来るフレイ達の分も有るからな。ブレッド達には悪いんだけど、さっきの出来事の説明は一回で終わらせたいし、説明には僕以外の当事者(もう一人の犯人)の回答も必要になると思うからな。それと、どうせ皆が集まるのなら、ついでに会議も終わらせようと思ってな。あっ、そうだった。ブレッド達は時間大丈夫か?』

皆が揃うのであれば、明日の会議を前倒しにしても問題は無いだろう。


『もう一人の犯人!?えっと、俺とサラは大丈夫です。アキラさん達は分からないけど………』


『アキラ達の事なら、気にしなくても大丈夫だぞ』

フレイ達にはメールで確認済だし、アキラとヒナタの今日のログアウト時間は聞いていて、まだまだ余裕が有る事も知っている。まぁ、予定の有る無しについては確認していなけど………どのみち、このあとで今後の予定の相談とドロップの確認はするつもりだったからな。これを、一緒にまとめても問題無いだろう。


『それなら、分かりました。皆の我慢も限界に近いので急いで下さい』


『了解した』


装備

武器

【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉

【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉

【空気銃】攻撃力0〈特殊効果:風属性・バースト噴射〉×2丁

【火縄銃・短銃】攻撃力400〈特殊効果:なし〉

【アルファガン】攻撃力=魔力〈特殊効果:光属性/レイザー〉

【虹鯨(魔双銃剣ver.)】攻撃力500〈特殊効果:七属性〉

【白竜Lv90】攻撃力0/回復力280〈特殊効果:身体回復/光属性〉

【黒竜Lv88】攻撃力0/回復力264〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉

防具

【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40

〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉

アクセサリー

【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉

【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉



天狐族Lv79

《錬想銃士》Lv22

《真魔銃》Lv23《操銃》Lv43《短剣技》Lv44《拳技》Lv10《緩急》Lv9《魔力支援》Lv10《付与術改》Lv30《付与練銃》Lv31《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv50《家守護神》Lv65


サブ

《調合工匠》Lv33《上級鍛冶工匠》Lv8《上級革工匠》Lv7《木工工匠》Lv42《上級鞄工匠》Lv10《細工工匠》Lv46《錬金工匠》Lv45《銃工匠》Lv36《裁縫工匠》Lv16《機械工匠》Lv24《調理師》Lv26《造船工匠》Lv2《合成》Lv53《楽器製作》Lv5《バイリンガル》Lv15


SP 38


称号

〈もたざる者〉〈トラウマニア〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈摂理への反逆者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉〈工匠〉〈呪われし者〉〈主演男優賞?〉〈食物連鎖の最下層〉〈パラサイト・キャリアー〉

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