半神の半身 3
『ヒナタ、サラ、すまない。白と黒を含めた四匹と先に話をしなければならない事が出来たから、少しだけティータイムを延長して待っていてくれないかな?あとで他の皆にも全て話すんだけど………ヒナタには別の話も有るからな』
早々にヒナタへの謝罪とライトニングの修理をお願いをしたいところだけど、どうやら先に話を終わらせておかなければならない事が出来たからな。その謝罪の元凶となる二匹を含めて………
『わ、私だけに別の話ですか?だ、大丈夫ですよ。私達は少し休憩してから続きに戻りますので、また呼んでくれて構いません。ねっ、サラちゃん』
うん!?緊張してるのか?普段とテンションが違う気もするけど………もしかして、シヴァ様達の威厳が伝わったのか?いや、それも変だよな。今は0エフェクトだからな。
『はい。私も大丈夫です』
『お主達よ、我の事はあとでも良いのだぞ』
『あとで良い訳あるか!!そもそもの話、何でここに居るんだ?どうやってここまで来た?』
ログインして来た時には、見える範囲内に居なかったはずだ。仮に、今と同じ様に僕の背後を取っていたとしても、ギルドのメンバー以外はゲートは使えないはずだからな。
『主よ、主自身のステータスを見るのじゃ』
『ステータス?えっ!?』
まさか!?うっわ~!!またか………
new称号
〈パラサイト・キャリアー〉
ファミリアや魔物に取り疲れた者への称号
取得条件/個人の意思に反してファミリアや魔物から自分勝手に主従契約を結ばれる
※一度取り疲れた場合は個人の意思では取り外せません
〈パラサイト・キャリアー〉………パラサイト、もしかして寄生なのか!?仮にもファミリアの三大王の一角が単なる称号に寄生虫扱いされるとか有っても良いのか?まぁ、僕からしてみれば完全に寄生虫扱いなんだけどな。
しかも、「つかれた」の部分が疲れたになってるし………ネタか?ネタ系の称号なのか?僕は、どうしてこんな変わった称号ばかりを得るんだ?それに、もう一つ言わせて貰えるなら、注釈の部分にも納得しきれない物が有るぞ。
『それは、お主の持っておる〈もたざる者〉の称号の恩恵だ』
しかも、また自分勝手に心の声まで返事をされるパターンだし………お~い、僕のプライベートよ。お前は一体どこへ行ったんだい?
『〈もたざる者〉ですか?』
この称号は、《見破》や《見ない感じ》のスキルでも内容の全てが把握しきれなかった称号だよな。僕の周りには他に持っている人もいないので、検証の方法も無かったからな。
それに、情報系のサイトにも載ってないところを見ると、ほとんど取得者はいないのだろうな。まぁ、取得条件からして特殊過ぎるんだけど………
〈もたざる者〉
初めての戦闘で仲間も、攻略する手段も、心構えすらも、何かも持ってなかった者への称号
簡単に言うと全てを持ってない、ぼっち具合と運の悪さだけが際立つ称号。最初の戦闘で負けた時に得た、ある意味で最も忘れられない思い出の称号だよな。
『うむ。その称号の元の称号名は〈もたざる者〉ではない』
『???』
どう言う事だ?称号名が違う?そんな事は聞いた事が無いぞ。そもそも、そんな事は有り得るのか?
『昔の名前は………確か、〈もたざる者は与えられる〉だったな。我の前の主人も持っておったわ。他にも古き強者達ならば、知っているのかもな』
ますます、分からん。〈もたざる者は与えられる〉と言う事は…………何も持ってないから、助けてくれると言う事か?
今まで、ろくでもない物を獲得してきたり、信じられない引きを見せたのは、単純に運が悪かったのでは無くて………やっぱり、この称号の仕業も関係しているのか?それなら、もう立派な呪いだと思うんだけど、この称号………どんだけ過保護なんだろう?
それと、シヴァ様古の言うき強者達と言うのは………もしかして、βテスターの事か?それなら、名前が変わったと言うのも納得出来るよな。ジュネ達からも、β版との微妙な違いは色々と聞いているからな。
………と言うか、それならシヴァ様の言った恩恵と言うのは微妙に間違ってないか?どう考えてもマイナス要素の方が強いよな。目立ちたくない僕的には、恩恵と言うよりも弊害と言うの方が合ってるからな。
〔『………自意識過剰』〕
〔『主よ、主の運の悪さは特別じゃ。シヴァ様の言う事も正しいのじゃろうが、全てが称号のせいでは無いのじゃ』〕
まぁ、現実でも運が悪いからな。確かに、全部が全部称号の仕業では無いかもな。それでも、僕としては全てを疑いたくはなるよな。
『うむ。考え方的には、そうなるな』
さっきから、シヴァ様は心の声だけで無く、白達と同じように僕の思考まで読んで答えてくれるよな。これも、《神の眼》のスキルの力の一端なのか?
〔『それは違うぞ。既に、お主を我の主人に逆認定しておるから《心話》を使わせて貰っておるだけだ。いかに、我が三大王の一角と言っても、スキルだけで他人の心の声はともかく、思考までは分かりはせん』〕
アクアの言っていたファミリアの契約と言うのは、どこへ行ったんだ?白と黒の時は、僕が造ったからと言われればギリギリ納得も出来る。だけど、今回は絶対に納得出来ない。絶対に納得してやらないからな。
〔『主よ、ファミリアの王は、全てにおいて特別なのじゃ。個人主導の契約など恐れ多いのじゃ』〕
う~ん、全く面等な事になったよな。
『取り敢えず、納得は出来ませんが分かった事にはしておきますけど………目立つ行動やギルドのホーム内………先程、僕が一度転送で訪れた場所の事なんですけど、そこ以外で《魔獣化》するのは絶対に無しにして下さい。このルールが守れないなら、絶対に相手にしません。シヴァ様の方が自分勝手な契約を結んで、僕を主と認めてもです』
『うむ。それは、仕方の無い事だろう。お主は、我自身が選び我の主人となったからな。既に我自身には断る事は出来ないのだ。それで、我は何の武器になれば良いのだ?』
そう言えば、決まった姿は剣だが、何にでもなれるんだったよな。まぁ、僕が扱えるのは短銃か短剣だから………そのどっちかか、もしくはそのどっちもだな。
『ほう。お主は、そう言う武器を好むのだな。良いだろう。アーちゃん』
その言葉で二匹は武器の姿へと変化していく。事前に聞いてはいたが本当に何にでもなれるんだな。
【虹鯨(魔双銃剣ver.)】攻撃力500〈特殊効果:七属性(火・水・風・土・雷・氷・光)〉
※二十四時間につき一分間のみ使用可
スキル《魔武器化》《魔獣化》《神の眼》《変身》《幸運》《心話》《可変》※ユニーク
『うっわ………』
極悪。流石はファミリアの王と言うだけは有るとんでもない能力だな。武器自体は虹色の輝きを放つ銃剣と言ったところだけど、攻撃力や属性は今まで見た他の種類を含めた中でも最強の部類だよな。剣よりも強い最弱武器って一体何?
それに、《幸運》って何?運の悪い僕には全く縁の無さそうなスキルだけど………使う事が出来る気がしないから、確認しなくても良いかな。むしろ、僕としては自ら進んで確認したくないよな。
まぁ、その反面面倒な制限も有るみたいだけど、それも当然だろうな。
『う~む………攻撃力が低い。お主、この武器はイマイチだな。それにしても、お主は変わった武器をつかうのだな』
おいおい、これで攻撃力が低いのか?これが、もし剣の状態ならどれくらいの攻撃力になるんだよ。
『それならば、軽く試してみるか?アーちゃん』
【虹鯨(カリバーンver.)】攻撃力1500〈特殊効果:七属性〉
※二十四時間につき一分間のみ使用可
スキル《魔武器化》《魔獣化》《神の眼》《変身》《幸運》《心話》《可変》※ユニーク
あぁ、分かった。僕は全てを理解した。これ………絶対に使ってはダメなヤツだ。ゲームバランスとか、その他諸々な意味でも………と言うよりも、絶対に人に見せられない。
『え~と、もう良いです。シヴァ様、虹鯨の状態に戻ってくれますか?それと、さっきのルールに二つ追加します。一つは、僕の思考を《心話》で読むのはある程度は仕方が無い事だと思いますけど、勝手に答えるのと突っ込みを入れるの禁止します。もう一つは、僕の呼び方の件ですけど、お主は止めて下さい。シュンで良いですから』
『うむ。分かったのだ。それならば、主となるシュン自身も我に対しての敬語と様付けは止めるのだ』
まぁ、敬語とか使っていたら、高貴な存在がギルドメンバー以外にバレるかも知れないよな。極力バレない様に努力しようとは思うけど、咄嗟に出てしまう可能性を何とかしたいからな。普段から普通に喋るのは良い作戦かもな。
『分かった。それは、努力させて貰います。それと、今決めたルール以外は自由にして良いからな』
敬語が所々混ざってしまったけど、慣れるまでの間は仕方が無いだろうな。
『………主らしい』
そこは、軽く流すべきだと思うよな。白と黒にも専用のルールを作った方が良いのかもな?
『主よ、それは遠慮したいのじゃ』
まぁ、今更では有るんだけどな。礼儀くらいは教えた方が良いかも知れないな。
『ヒナタ、お待たせ。少し時間良いか?』
『は、はい、大丈夫です。サラちゃんは、こっちは気にせずに作業を進めていて下さい』
少し待たせ過ぎたみたいだな。僕達の話が思っていたよりも長くなったので、ヒナタ達は《造船》作業に戻っている。何回も手を止めさせて悪い事をしたかもな。それもこれも全てはシヴァ達のせいなのだけど………
『忙しそうなところ、本当に悪いな』
さてと、どうやって切り出せばヒナタのダメージが少なくなるかな。
『大丈夫です。そ、それで、と、特別な話って何ですか?』
うん?別の話が、いつのまにか特別な話へと、すり替わっているような気もするけど………まぁ、ニュアンス的には変わらないよな?
『あぁ、あとで皆にも話すんだけど、ちょっとトラブルに巻き込まれてな………』
『えっ、皆にも話す?えっ、トラブルですか?』
何故か急にテンションが下がって残念そうな表情になったけど、このまま話を続けても大丈夫なのかな?
〔『………相変わらず』〕
〔『黒よ、こう言う時の主に期待しては絶対にダメなのじゃ』〕
黒達は何の事を言っているんだ?よく分からないよな。まぁ、それよりも今は謝罪が先だからな。
『うん。僕は、王の依頼で船旅してたのはヒナタも知ってるよな。さっき見たと思うけど………船旅の途中で、この二匹の鯨の小さい方が巨大化した姿にライトニングごと食べられてだな。何て言ったら良いのか、今も迷っているんだけど………メインマストが折れたんだ。ヒナタがライトニングを大切にしてるのを知っているのに、傷付けて本当にすまない』
『全て我が悪いのだ。シュンは何も悪くないのだ』
また土下座ならぬ土下寝をして謝っている。僕は、一度見て分かっているので伝わっているけど、案の定ヒナタには………全く伝わってないみたいだな。
『えっ!?食べられた?………それで、シュンさんは、白ちゃんと黒ちゃんは大丈夫だったんですか?』
ヒナタは、一瞬だけ険しい顔をしたが、すぐに僕達の事を心配してくれた。やっぱり、ヒナタはヒナタだな。正直に話して良かったな。
『あぁ、ライトニングが身を呈して僕達を守ってくれたからな。僕達は無傷なんだ。だから、どうしてもライトニングを元の姿に戻してやりたいんだ』
上手く話せないけど、ヒナタに僕の気持ちは伝わっただろうか?こう言う時に、口下手な自分が嫌になる。
『そうですか………そうなると、ライトニングの状態を詳しく見てみないと分かりませんが、元の姿に戻すのは多分ダメですね』
ヒナタは、少し考えて険しい顔で結論を出してくる。
『えっ!?無理なのか?』
僕の思いは伝わらなかった?それとも、かなり怒ってるのか?いや、僕は怒られても仕方が無い事をしているので、怒られるのは当然だけど………元に戻す事をヒナタに拒否されるとは思ってもみなかった。
〔『主よ、この場合は多分ライトニングを元通りには直せないと言う事ではないかの』〕
〔『えっ!?』〕
〔『………メインマストは船の命』〕
〔『あぁ………』〕
確かに、その可能性も有るのか。ライトニング、本当にすまない。
『ダメです。一生懸命シュンさん達を守ったライトニングを元の姿に戻すなんて出来ませんよ。当然の事ですが、元よりも良くしてあげないとダメですよ。た・だ・し、シュンさん達にも素材集めや改良に協力して貰いますよ』
ヒナタは、一本だけ立てた人差し指を左右に振りながら答え、険しい顔から一転して天使のような表情を見せる。
『なるほど、そう言う事か。勿論、僕が手伝うのは当たり前だ。僕に出来る事なら何でも協力する。それに、僕も修理をしたい。いや、違うな。むしろ僕が修理しないといけないんだ』
『はい。一緒に頑張りましょう。シュンさんが、思わせ振りな態度を取るので、私も少し意地悪をしたくなっちゃいました。そこはごめんなさい』
思わせ振りな態度?僕がか?そんな事したかな?まぁ、説明が下手で分かりにくかったかも知れないから、それでかもな。
『ヒナタ嬢よ、主に何かを期待しても無駄なのじゃ。代わりに謝るのじゃ。すまないのじゃ』
『そうでしたね。白ちゃん、ありがとうございます』
何か不本意な気もするけど………さらに何かを話すと墓穴を掘りそうな気がするから、ここは沈黙が正解かな。
『じゃあ、私は一度船の状態を見に行きますね』
『頼む。僕は、ホームに他のメンバーを集めておくから、確認が終わったら来てくれ』
『分かりました。サラちゃんの事は、お願いしますね』
『少し待つのだ。お嬢さん、我も連れていくのだ。何も無いよりは役に立つであろう』
シヴァも責任を感じているんだろうけど、かなり不安だよな。シヴァには悪いけど、まだまだ信用が足りない。さっき、ルールを決めたばかりなのに主人の許可無く、自由に判断しているぐらいだからな。
それに、一番の問題は、当のヒナタが困っているからなんだけどな。
〔『白、シヴァの事を、お願い出来るかな?』〕
〔『主よ、了解じゃ。シヴァ様の事は、ワシに任せておくのじゃ。』〕
白に任せておけば悪いようにはならないだろうからな。
『ヒナタ、連れて行ってあげてくれるかな。念の為に、白も付けるから』
それだけで、僕の意図は伝わったらしい。二匹と一人でゲートに向かって行った。
僕が、サラと共にホームに戻った時には、ホームにいたはずのレナとジュネは既にいなかった。その代わりと言うか、リビングでフレイが休憩していたので、僕が思っていたよりも時間が経っているのかも知れないな。
『シュン、お帰り。ちょっと聞きたい事が有るんだけど………さっき背中にいたのは?』
やっぱり、アキラが言いたかったのも背中だったんだな。本当に迷惑な話だな。
『その件について少し説明をするから、ここに居ない他のメンバーも集められるかな?ちょっと長くなりそうだから、用事が有ったら先に済ませて来るように伝えてくれると助かるんだけど』
アキラがカゲロウ、フレイがケイト、サラがブレッドへ連絡を取り出す。勿論、僕もヒナタに連絡を入れる。
『なんや、シュン、また新しい厄介事かいな』
その通り、フレイの言う通りなんだけど………またとか付けられて、さも僕がトラブルを持ち込むのは当たり前な感じで言われるのは、本当に不本意なんだよな。取り敢えず、フレイ。そのニコニコ笑顔を止めないか?
僕自身が悪い訳では無くて、称号〈もたざる者〉のせいなのだからな。
『まぁ、簡単に言うとそう言う事になるな。ちょっと面倒な事になったかな。た・だ・し、絶対に驚く事は間違いないぞ』
ちょっと話を盛ってみたけど、決して誇張過ぎる事は無いから、問題は無いだろう。
『ほんま、自分と一緒におったら飽きへんな。下手なイベントよりもワクワクするわ。改めて言うんやけど、ギルド誘ってくれてありがとうな。そやそや、ケイトには連絡ついたで、十五分後には戻ってくるそうや』
『本当にそうだよね。あっ、カゲロウとブレッドは一緒にいたみたい。すぐに戻って来るって』
サラもアキラの隣で頷いているので、同じ結果だったんだろうな。
『僕的には、かなり不本意な結果なんだけどな。ヒナタも十五分後でOKだそうだ。時間が掛かる話だから紅茶淹れるけど、何かリクエスト有る?』
まぁ、ヒナタの場合は、ライトニングからゲートで移動してくるだけだから、一番時間の都合は付け易いんだろうけどな。それよりも、今一番大事な事はライトニングの壊れ方が修理が出来るような壊れ方だと望む事だけど。
『………と言う事だ。色々と信じられない事も有ると思うけど、今話した事は全て事実なんだ。まぁ、このシヴァを見たら、皆も否定は出来ないと思うけどな』
昨日有った出来事やシヴァの事を皆に話した。
流石に、この話は色々と規格外の事を体験してきた【noir】の古参メンバーですら唖然としている。まぁ、実際に体験した僕自身がいまだに信じる事が出来ないからな。体験していない皆が信じれなくても、無理は無いんだろうけど………
『うむ、我がシュンの話に有った虹鯨のシヴァルヴァーニ・バジェーナと言う、これでもファミリアの王の一角をしておる。気軽にシヴァと気軽に呼んでくれ。親しみを込めて、シヴァちゃんやシーちゃんでも我は良いぞ。それと、我の上に乗っておるのが光鯨のアートだ。我みたいに話す事は出来ぬが、我同様によろしく頼む。ちなみに、我からアーちゃんが離れれば、我は雨鯨、アーちゃんは光鯨となるのだ』
シヴァ自らの自己紹介が加わった事により、先程までの唖然とした表情から、呆然とした表情に変わった。まぁ、虹のエフェクトがいきなり雨に変わったりしてるからな。
『シュン、シュンの仲間は全てこうなのか?我を見ただけで驚かれると、流石の我も色々と傷付くのだが………』
『いや、これは軽くトラウマレベルの出来事だと僕も思うな。これでも、僕の仲間は他のプレイヤーよりも驚く事に一定の耐性が付いてるからマシな方だと思うけどな。シヴァは、自分の特異性を本気で自覚した方が良いぞ』
『シュンは、そんなに驚いてなかったではないか?』
『いやいやいやいや、僕も十分に驚いてました。ただ、あの時は驚きよりも怒りの方が上に来ていただけだ』
そうでは無かったら、フリーズくらいはしていただろうな。今の皆と同じように………な。
『まぁ、こうなると各自が理解して戻ってくるまで、しばらく待つしかないな。白、黒、シヴァ、紅茶と茶菓子のお代わりはいるか?』
今回の茶菓子はマフィン。トリプルオーの中では、初めて焼いてみたが上手くいって良かったよな。最近は焼き菓子系が多いから、次は冷たい系のゼリーやプリンでも作ろうかな。濃い目の紅茶にも合いそうだからな。
『………図太い』
『主よ、誠に言い難い事じゃが、ワシも主が皆と同じように固まる事は、今後は無いと思うのじゃ』
それは、完全に買い被り過ぎだな。色々と濃い経験を短い間に積んだから、他の人より多少は図太いのかも知れないけど、あくまでも多少の範囲内だからな。驚くような出来事に巻き込まれでもしたら、確実に驚く。これだけは断言出来るな。
『………ウォージャム』
『くっ………』
いきなり核心を突いた名前を出してくるよな。あの時はあの時で、十分に驚いていたと思うけど、フリーズはしなかったかもな。
それにしても、僕が思い出したくないトラウマで一気に僕の心のライフゲージまで抉ってくるよな。驚かないとしても、僕の心の耐久性は高くないんだけど。
『あっ!!』
この自家製茶葉は上手くいってるよな。これなら、もう少し蒸らし時間を多くしても良い薫りが立つかも知れないな。
『………本当に図太い』
あれ?もしかして、僕が図太いと言われるのは、こう言うところに大きな要因があるのか?
『それは、大いに有るんやないか。それと、ウチにも紅茶のおかわりや』
一番早く戻って来れたのはフレイか………と言うか、フレイにまで心を読まれるとは思ってなかったな。
『顔に出てたか?』
フレイのカップに、新しく淹れた紅茶のおかわりを注ぐ。
『おもいっきり出てたと思うで、ウチにも簡単に分かるくらいやから、よっぽどやろな。ウチもシュンが図太いと思うのに一票や。おっ、紅茶、ありがとうな。このマフィンも最高やで、また作ったってな』
そんなに図太いのだろうか?少し考えを改めた方が良いかも知れないな。
横でこちらを見ながらニヤニヤと笑っているファミリア達は、当然無視するけど。あまりにも酷いと今食べている茶菓子の没収も考えなければならないかもな。
僕が、そう思った瞬間にニヤニヤしていた顔は真面目な表情に変わり、僕の手の届かない範囲に移動を始める。本当に現金な奴らだよな。当然、真面目な表情に変わってもマフィンを食べる手は止まらない。まぁ、マフィンを気に入ってくれたのは良かったけどな。
でも、僕が図太いのなら、白達も同様だと思うんだけどな。
『シュン、ウチもその通りやと思うで』
本当に僕の考えは分かり易いみたいだな。本当に考えを改める必要が有るようだな。
そろそろ大丈夫かな?冷静を取り戻したには程遠いけど、なんとか話を先に進めれそうだな。
〔『うむ。我の《神の眼》にも伝わっているぞ。皆、我を受け入れてくれたようだ。本当にありがたいのだ』〕
まぁ、【noir】は変わってるからな。僕を………
〔『シュンは人の事を言えぬのだ。シュンが一番変わっておろう』〕
………含めてだけどな。
〔『だから、思った事に突っ込みを入れるのは禁止だって言っただろ』〕
これだと、迂闊に考え事も出来ない………と言うか、突っ込みが早過ぎるんだよな。
『それで、シュン。私達は何をしたら良いの?』
『あぁ、すまない。船の改良を少し手伝って欲しいんだ。ここからの説明は………ヒナタ、お願い出来るかな?』
ここは、やっぱり【noir】の《造船》部門の責任者に任せるのがベストだろう。
『はい。分かりました。先程、壊れたライトニングの状態を見てきたのですが、メインマストと帆だけでなく、サブマストの二本も交換が必要です。素材が揃っていて、修理する場所が造船所なら一日も有れば私一人でも悠々と修理可能な状態ですが、今ライトニングが在る場所が何も無い小さな無人島なので、足場を組んだりするのだけでも数日は掛かりそうです。今、時間に余裕の有る方は居ますか?』
僕を含めて六人と三匹が手を挙げる。挙げなかったのは………
『ごめんなさいです。私はイベントの責任者ですので、今はお手伝い出来ませんです』
ケイトだけだが、今はイベント中なので仕方が無いだろうな。
『大丈夫だ。ケイトがイベントの責任者として頑張っているのは皆が知ってるぞ。ケイトの分は俺が頑張るから気にするな』
お~!!カゲロウが、なかなか気の効くセリフを喋ったな。格好良いな。だが、言いながら照れていると心の声まで伝わってしまうから、そこは気を付けた方が良いかもな。
『カゲロウ、ありがとうです』
『それでは、私が担当を決めさせて貰っても良いですか?』
皆が一斉に頷く。サラとブレッドも一緒に頷いてくれたのは嬉しいよな。
『それでは………まず、アキラに帆の新調をお願いします、フレイには《鍜冶》で作って貰いたい物が有りますので、あとでリストを渡します』
『OK。《裁縫》系は任せて』
『ウチも了解や』
『カゲロウとシュンさんには【ペンタグラス】周辺の森で素材の収集と船を直す為の足場作りを、サラちゃんは造船所で部品を作る私のサポートをお願いします』
僕には端から拒否する気は無いからな。ヒナタの指示に無言で頷いた。
『分かった。任せろ』
『私もOKです』
『残ったブレッドくんですが、ケイトのイベントの手伝いをお願いします』
『分かりました』
うん。このメンバーなら、この人選で間違いは無いだろうな。
『僕も問題は無いけど、【ペンタグラス】周辺の森を指定するのは、何か特別な理由でも有るのか?』
この森と言うのは、アメリカサーバーのイベントで通った森の事だよな。ヒナタ達は前に素材の採取に行ったみたいだがレアな素材でも有ったのか?目的の素材が有るなら、確認だけはしておきたいところだな。
『はい。あとでリストを渡しますが、シュンさん達には魔物からのドロップ素材を集めて欲しいんです。少しレアな素材も有りますので大変かも知れませんが………』
なるほどな。レア素材か………ループ採取が狙いだな。確かに、それなら僕が誰かとペアで行くのがベストだろうな。中でも《木工》と《調合》持ちで前衛系のカゲロウをパートナーにする事で時間を短縮する事も出来る。良い采配だな。
〔『白、黒、頼むぞ』〕
〔『主よ、任せるのじゃ』〕
〔『………頑張る』〕
実際のところは、カゲロウの役はサラかブレッドに任せて、カゲロウが《造船》に回った方がヒナタ的には良いんだろうけど、サラ達は【ペンタグラス】へのゲート登録が出来てないから仕方が無いよな。
『了解だ。それなら任せてくれ。それとは別に、少し気になったんだけど、サラは《造船》スキルをどうやって取得したんだ?』
あのイベントは三人用だったからな………と言うか、一ギルド一回しか発動しないタイプのイベントだと思うし、現にトウリョウのところも、三人しか取得出来てなかったはずだからな。
『私は、ヒナタさんに教わりましたよ』
『???』
ヒナタに教わった?スキルって人に教える事が出来たのか?
『そう言えば、これは言ってませんでしたね。少し前なるんですが、私は《造船》スキルを《造船職人》に進化させる事が出来ました。《造船職人》スキルは、他のスキルと違って少し特殊でして、進化させたボーナスで《造船》スキルを新に三人に教える事が出来るんです。勿論、《木工職人》スキルの所持は必要ですけどね。ちなみに、私が一番最初に進化させる事が出来ましたが、トウリョウさんとカゲロウも進化させていますよ』
そう言う事か………確かに、あのイベントは、全員起こせる類いの物では無いからな。いくら、《造船》スキルが欲しくても、条件的に手に入れられないプレイヤーもいただろうからな。スキルを教える事が出来るなら、ギルド未所属でも取得出来る可能性は有るよな。今考えると、あのおじいちゃんも《造船職人》スキル持ちだったのかも知れないな。
『ありがとう。お陰で僕の謎も一つ解けた。僕も早めに進化させて《造船》を普及するよ』
少しでも多く普及して船が増えていけば、僕が頑張っている書類配達クエスト自体が必要無くなるかも知れないからのだから。
『カゲロウ、今手に入った素材は当たりか?』
『残念、ハズレだ。この素材は、そんなに簡単に出ないぞ』
『………そうか』
『………天然物欲センサー』
酷い言われようだな。
『主よ、主の運では欲しい物の狙った回収は難しいのじゃ』
それは、判っているのだがけど、ヒナタに頼まれた素材は是が非でも手に入れなければならない。ライトニングの為にもな。
僕とカゲロウが、【ペンタグラス】近くの森まで来て狙っている素材は、ヘビーツリーと言う木系の魔物のレアドロップであるヘビーウッド(ライト)。通常のドロップはヘビーウッドと言う非常に丈夫だが、それに比例して凄く重い木材なのだけど、レアドロップのヘビーウッド(ライト)になると、特徴である丈夫さだけを引き継いだ物凄く軽い木材なる。
ただし、見た目も名前も全く一緒なので、鞄から取り出して手に持ってみないと分からない非常に面倒な仕様になっている。
すでに通常のヘビーウッドの方は五十本以上は集まっているのだけど、本命のヘビーウッド(ライト)の方は一本も出ていない。これを、五本も集めるとか………いつになったら終われるのか。
今現在、ライトニングのマストとして使っている素材は、軽さとしなる事だけは一流の御神巨木、これもレア素材で風を受ける分には申し分の無い性能だったのだけど、強度に問題が有った。このことは、カゲロウの実験で既に分かっているからな。確かに、新しく作り直すのなら、新たな素材で補強しておきたい部分では有る。だけど………全く出ないんだよな。
『黒、次の魔物頼めるかな』
僕達は、なるべく連繋の取り易い広い場所で狩りを続けている。ヘビーツリーを探すのは《探索》スキル持ちの黒に任せてある。ループ採取で、魔物を回復しながら狩っているので新規の魔物を探さなくても良さそうなものなのだけど、ヘビーツリー自体が弱い魔物なので、偶然出るカゲロウのクリティカルで一瞬で狩られてしまうからだ。普段は嬉しいクリティカルだが、こう言う時のクリティカルは、マジ迷惑だな。
一応、対策として弱い武器を持って、減少系の《付与術》を僕とカゲロウに掛けて戦っているのだけど、気休め程度の効果しか無いみたいだかな。
〔『シュン、そんな事をするよりも数を狩った方が効率が良いのだ』〕
まぁ、ループ系は採取や採掘が出来るので生産スキルレベルは上がるけど、魔物自体の数は倒さないので、戦闘スキルレベルは上がらないからな。普通に見たら効率は悪そうだよな。
〔『今回は、狩りが目的では無いからな。欲しいのは、レア素材だけなんだよ』〕
〔『ならば、我を使ってみれば良いのだ。我には制限時間は有るが、我の持つ《幸運》スキルは確実に貴重なアイテムを落とさせる事が出来るスキルだからな。我も黒達同様にシュンの役に立ちたいのだ』〕
名前を見て気になっていたスキルだけど、そんな効果が有ったんだな………と言うか、そんな便利なスキルが有ったのなら、僕達が狩りを始めた時に教えて欲しかったな。まぁ、このタイミング以外なら絶対に使わなかった可能性は高いんだけど………
〔『………やっぱり、図太い』〕
あぁ、そうだな。たった今、僕も本当にその通りだと自覚したところだよ。残念ながらな………
装備
武器
【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉
【空気銃】攻撃力0〈特殊効果:風属性・バースト噴射〉×2丁
【火縄銃・短銃】攻撃力400〈特殊効果:なし〉
【アルファガン】攻撃力=魔力〈特殊効果:光属性/レイザー〉
【虹鯨(魔双銃剣ver.)】攻撃力500〈特殊効果:七属性〉
【白竜Lv82】攻撃力0/回復力262〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv82】攻撃力0/回復力262〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv70
《錬想銃士》Lv12
《真魔銃》Lv16《操銃》Lv37《短剣技》Lv40《拳》Lv60※上限《速度強化》Lv100※上限《回避強化》Lv100※上限《魔力回復補助》Lv100※上限《付与術改》Lv18《付与練銃》Lv19《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv45
サブ
《調合工匠》Lv30《上級鍛冶工匠》Lv6《上級革工匠》Lv6《木工工匠》Lv36《上級鞄工匠》Lv8《細工工匠》Lv46《錬金工匠》Lv45《銃工匠》Lv36《裁縫工匠》Lv15《機械工匠》Lv21《調理師》Lv25《造船》Lv17《家守護神》Lv60《合成》Lv50《楽器製作》Lv5《バイリンガル》Lv10
SP 32
称号
〈もたざる者〉〈トラウマニア〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈摂理への反逆者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉〈工匠〉〈呪われし者〉〈主演男優賞?〉〈食物連鎖の最下層〉〈パラサイト・キャリアー〉




