半神の半身 2
『お主達、アーちゃんが元の大きさに戻るぞ。すぐに逃げるのだ』
『『『ほえっ!?』』』
ちょっと待て、元の大きさに戻ると言うのは、どう言う事だ?ファミリア達の王であるシヴァ様が逃げろと言うくらいだから………
『一体どう言う事でし………』
『この振動が止まるのを待っている時間は無いのだ』
シヴァ様の言う通り、しばらくアーちゃんの揺れは止まりそうもない。シヴァ様の冷静な態度から推測すると………もしかして、シヴァ様はこうなる事を前もって知ってたのか?
『主よ、急ぐのじゃ』
僕達は、先に逃げているシヴァ様の背を追いかける。
『………船』
『ダメだ。アーちゃんの腹の中では、魔法が使えない。ライトニングは置いて行くぞ』
クソッ!!自分で言っておいてなんだけど嫌になるな。しかし、この状況では本当に諦めるしか選択肢は無い。
ヒナタとライトニングには悪いけど、水の無い場所での船は大荷物にしかならない。船は鞄に入らない物だし、誰にも持ち運ぶ事が出来ないのだから。
皆で作り上げた大切な物を置いて行くしかないのは、悔しくて悲しいけど………白達の命には代えられない。
すまない。ライトニング………
『主は、おバカなのかの?魔法は使えなくても魔力は使えたのじゃ。主も、魔銃を使っておったのじゃ』
『あっ!!』
確かに僕は魔銃は使ってたよな。それなら、魔力で船を動かせるって言う事になるのか?
なぜ、僕は船を見付けた時に動作の確認をしておかなかったんだ。過去に戻れるのなら、数十分前の僕を軽く問い詰めたいところだ。ぶっつけ本番になるが、船をこのまま見捨てるよりは数倍マシだからな。ギリギリの状況でも賭けに出る価値は有るよな。
それに、もし仮に失敗したとしても、僕が死に戻るだけでシヴァ様の依頼はクリア出来てるからな。最悪の状況にはならないはずだ。
『黒、白、ナイスだ!!急いで船に乗り込め。すぐに発進させるぞ。シヴァ様も良か………』
脱出案を思い浮かべ先行しているはずのシヴァ様もお誘いするが、当のシヴァ様は誰よりも早く、ちゃっかりと船に乗り込んで僕達を待っていた。魔力でこの船が飛ぶ事までも分かってたのか?
これは、本当にあとで問い詰める必要が有りそうだよな。例えファミリアの王とは言え、こうなる事を事前に知っていて僕達に黙っていたとするのなら、簡単に許される事では無い。むしろ、軽い罰を与えるくらいなら、王様相手とは言え逆に許される行為だろう。
船に乗り込んで、僕は全魔力を船の動力部に注ぎ込んでいく。
頼む、頼む、頼む。
『動け~!!』
その瞬間、船の魔動力エンジンは僕の願いに呼応したかのように光り輝いた。空飛ぶ船は、迫りくる食道や追い縋る胃液よりも遥かに速く加速していく。近寄ってくる魔物を体当たりで軽く蹴散らしながら………
『………速い』
『主よ、この速度は今までで一番速いのじゃ』
『うむ。これは、見事だ』
まぁ、そうだろうな。僕の魔力を限界寸前まで注ぎ込んでいるし、ヒナタが一生懸命作った渾身の力作だからな。これくらいの力は見せて貰いたいところだな。
『………手遅れ』
『主よ、口の方は無理じゃ。既に口は閉じかけておるのじゃ。このままでは、間に合わないのじゃ』
と言う事は………想像はしていただけで、絶対に行きたく無い方向が頭の片隅をよぎる。その門を通るのは倫理的にどうなんだろう………
そんなやり取りをしている間にも、アーちゃんの身体は、どんどん縮んでいく。既にこの場所も船一隻通るのがギリギリな感じになっている。
さっきから魔物が見当たらない………と言う事は、体内にいた魔物達もほぼ全滅している。こんな緊急自体じゃなかったら、素材の回収に行きたいぐらいだな。
『くっ!!』
こうなったら、背に腹は変えられない。僕が、船の進路を変えようとした時………
『お主達、何をしておる。上だ、上を目指すのだ』
上?だと………
『あぁ、そうか………』
なるほどな。アーちゃんも鯨の一種だったな。それなら、当然、上部には鯨特有のアレが有るはずだよな。僕は、なぜ気付かなかったんだろう………
船の先端を上に向け、一気に加速して外を目指す。状況的にも躊躇している余裕は無さそうだ。
メインマストとギルドマーク入りの帆等を犠牲にして、ライトニングは大空に翔びたった。
三時間前までは、この青空の下で釣りを楽しんでいたはずなんだけどな。鯨の体内で起きたのは、たった三時間の出来事だったけど、この海と空の青色だけの景色が妙に懐かしく感じるよな。それだけ光鯨の中を長く感じたんだろうな。精神的な体感時間は、その何倍も有った気がするのだから。
今、僕達がいるのは、どことも分からない海にポツンと浮かぶ小島。光鯨に食べられる前に僕達が進んでいた場所は、いつでもログアウト出来るように、船を停泊出来る小島が群生している名も知らない諸島付近。周りに他の島が無い時点で、明らかに進んでいた進路とは違う場所だよな。
そんな事よりも………
『ライトニング、傷付けて悪かったな。それと、一度はお前の事を諦めて本当にすまなかった』
それが、どんなに酷い事か分かっているから、僕を許してくれとは言わないけど、なるべく早く綺麗な船体に治してやるからな。それと、僕達………いや、違うな。白と黒を守ってくれて本当にありがとう。
鯨の上部に必ず有る事を思い出した潮吹き穴からの脱出を試みた結果、僕が想像していたよりも潮吹き穴が小さくなっていた事でメインマストを犠牲にしてしまっている。
その時に、派手な音を響かせながら折れたマストと帆が、船体全体を覆うように被さって守ってくれたようにも感じている………と言うのは、僕の単なる勝手な思い過ごしなんだろうか?まぁ、真実は、関係無いよな。僕達は、そう信じているのだから。
マストを犠牲にした代わりにと言うか、逃げる時に船の体当たりで残されていた大量の魔物の命を狩っている。それと、何故かは分からないけど、その時僕が装備していたスキルにも経験値がガッポリと入っているようだ。
『おぉ~~!!お主達も全員無事か。良かった、誠に良かった』
その声に反応して振り返ると、シヴァ様が笑顔で空中に浮いている。
僕の傍らには、白と黒が寄り添っている。既に確認済みだが、白と黒に怪我は無い。確かに、そこだけは良かったと思う。
〔『主よ、その気持ちはワシも一緒じゃ。じゃが、少し落ち着くのじゃ。もう少し冷静になるのじゃ。相手が相手なのじゃ、主も黒も短気はいかんのじゃ』〕
〔『………無理。黒も我慢の限界』〕
僕も、黒の意見に同意だな。ファミリアの三大王とか、僕には全く関係が無いからな。それに悪い事は悪いと言える大人に僕はなりたい。
白と黒も僕と気持ちは同じらしい。さっきまで、尊敬と羨望の眼差しで見ていたシヴァ様を、二匹は鋭い目付きで睨みつけている。まぁ、心の中に秘めたる想いは別として、白の方は僕達を宥める側に回ってくれているけどな。それが無かったら、間違いなく既に手を出していただろうな。その代わりと言ってはなんだけど、口は存分に出させて貰うとするか。
『おい、シヴァ、ちょっと待て。ちょっとこっちへ来い。全員無事で良かったと言ったのか?これは、一度は諦めかけた僕の台詞では無いけどな。お前には、僕達の仲間がボロボロになっているのが見えないのか?お前の目は節穴か?それとも単なる飾りなのか?』
『お主は、我を相手に何を言っているのだ?全員無事。しかも、どう見ても全くの無傷ではないか。我の《神の眼》で、はっきりと視えておるぞ』
さっきから度々感じている密かに全てを覗かれたような違和感は、そのスキルの力か?《神の眼》………《見ない感じ》では、その片鱗すらも分からないけどな。
流石に、《神の眼》と言うだけは有るんだな。僕達よりも遥かに視えている事が多いのだろう。船の事や僕達のステータスやスキル構成。もしかしたら、僕達の性格まで分かっていて白に声をかけたのかも知れないよな。もし、そうだとしたら………到底許せるものではない。
『これが全くの無傷だと?お前の目は本当に節穴なのか?そのスキルと頭は本当に飾りなのか?お前を………いや、僕達を守りきって傷付いた僕達の仲間の姿をよく見ろ!!』
『だから、何の事を………うぁぁぁぁ』
僕が怒鳴った事や白と黒が傷付いた船とそのマストを労う姿を見て、ようやくシヴァ様は僕の言っている事が理解出来たらしい。
シヴァ様の身体の周りを覆っている雨のエフェクトは小雨から豪雨と化し、当人の顔も血の気が引いている感じがする。まるで、人が号泣しているみたいだからな。
ちょっと言い過ぎたかな?いや、僕の事なら多少酷いことを言われても気にしないのだけど、今回は大切な仲間が傷付いているんだ。これくらいは、言わせて貰わないとダメだ。
『すまなかった。我が全般的に間違っておった。許してくれ』
突然、着地して甲板に頭を擦りつけて謝罪してくる。
最初は、シヴァ様が何をしているのか全く分からなかったのだが………多分、土下座のつもりなんだろうな。ただ、鯨がやっているので、見た目は全く土下座に見えなくて、寝そべっている風にしか見えないんだけど………と言うか、仮にも王と名の付いているファミリアに、そこまでは望んでないんだけど………
それに、いつの間にか元の姿に戻ったのであろうアーちゃんも、シヴァ様の側で一緒に謝っている。最初の見た目が半端無かっただけに、小さくなったアーちゃんはより一層貧相に感じてしまうな。
『主よ、それは流石に怖いもの知らずなのじゃ』
えっ!?それってどう言う意味でしょうか?白さん、白さんの目を含めて、ちょっと怖いんですけど。
『………天誅』
黒さんも、本当に怖いから悪ノリは止めて下さいよ。さっきまでは、二匹共僕側だったじゃないですか。手のひらを返すような事は止めて下さいよ。
『分かってくれたなら、もう良いです。シヴァ様、頭を上げて。それと、これが回収したアイテムです』
僕は、鞄の中から先程手に入れた光り輝く物を取り出してシヴァ様に手渡した。白と黒にも見放された僕としては少しでも早く話題を変えたいからな。
『本当に、色々とすまなかった。ありがとう』
半身の半身を受け取って………まぁ、受け取ると言っても、シヴァ様の周りに浮いているだけだけどな。それよりも………
『うん?あれ、ちょっと待って………』
あの時は、慌てていて全く確認する暇も無かったけど、その半身の半身って、妙に見た事が有る模様やデザインをしているんだけど………
〔『………似てる』〕
〔『うむ。主よ、確かに良く似ておるのじゃ。何と言うか、主の持つアレとくっつきそうな形をおておるのじゃ』〕
〔『やっぱり、そんな感じだよな』〕
『分かっておる。当然、礼の方は渡すつもりだ』
『いや、そんな事はどうでも良いんです。お礼が欲しくて、お手伝いをした訳では有りませんから。それに、依頼を受けたのは白達ですからね。もし、お礼をするつもりなら白達と傷付いたこの船にして下さい。それよりも、僕が気になっているのは、その手に持っているアイテムなんですけど、どう見ても剣の切っ先ですよね?』
『そうだが、どうかしたのか?この半身の半身と言うのは、数百年前の聖戦で半分に砕けてしまった我の神器の欠片だ。同時に我自身の器となる物でも有るからな。返せと言われても、おいそれと返す事は難しいぞ』
我自身の器?もしかしたら、ファミリアの王も魔獣器なのかも知れないな。
『全く根拠は有りませんし、確信は持てませんけど………もしかしたら、その残りの半分を僕は持っているかも知れないんですけど………』
『な、な、な、なんですと~!一体どう言う事だ?我にも分かるように説明してくれ』
説明してくれと僕に言われても困るんだけどな。シヴァ様の言う半身の半身の断面や模様が僕の持っているイベントの報酬で貰った【カリバーン】と似ているだけなんだよな。まぁ、取り敢えずは鞄の中から取り出してみたら分かるかな。
『いや、この折れた剣なんですけど、断面とか形状とか妙に似てないですか?』
僕的には、そっくりだと思うんだけどな。雰囲気とかも含めてな。
それは、シヴァ様に折れた剣を渡した瞬間に起きた。折れた剣とシヴァ様の半身の半身が、光り輝きながら共鳴して空中に浮かび一つの球状へと変化する。最早、お互いに最初に有った剣の原型は留めていない。
『うむ。お主の言う通りのようだ。お主の持っておった折れた剣は、我の半身の半身の行方不明になっていた片割れだ。そこで、よく見ておるのだ。数百年ぶりに我の半身が元の姿に戻るところを』
この神聖な雰囲気で、言葉にするのは空気が読めてないので避けるけど、心の中では思わせて貰おうかな。
提供した僕が言うのもなんだけど………この場合、僕がハーフマラソンで苦労して手に入れた折れた剣は、どうなるのだろうか?記憶には残り過ぎる程残っているけど、記録として残らないのは少し寂しい気がするんだけどな。僕にとっては、数百年ぶりの半身の姿よりも、そっちの方が気になるところなんだよな。
〔『主よ、本当にそれは空気が読めてないのじゃ』〕
〔『だから、心の中では思わせて貰うと前置きをしておいただろう』〕
そこは、突っ込まないで欲しい。
〔『………ここは男らしく、潔く諦める』〕
やっぱり、そうなるのかな。まぁ、元の持ち主が現れたのだから、その当人に返却するのは仕方が無い事かも知れないけど、少し惜しい気がするんだよな。
そんなどうでも良い事を考えている内に、光り輝く球は輝きを増しシヴァ様の側にいたアーちゃんと一つになっていく。
『はっえ!?』
光り輝く球と一つになったアーちゃんは、先程までの貧相な姿とは違い、全身を光輝く桁違いなエフェクトを纏っている。
確かに、この姿なら、光鯨と言われても納得出来るくらいの神々しさは有るな。僕達を飲み込んだ時ならともかく、さっきまでの縮んだ状態のアーちゃんでは、かなりの名前負けした貧相な鯨だったからな。
『うむ。そして、これが我が半身にして、最愛の神器。アーちゃんの真の姿だ』
シヴァ様の一言と共にアーちゃんが姿を変える。アーちゃんも魔獣器だったんだな。
えっ~と、折れた剣の姿は何処に言ったんだろうか?シヴァ様の側に現れたそれは、明らかに原型を留めていない。
アーちゃんの中で見付けた半身の半身にしろ、イベント報酬の折れた剣にしろ、どちらも剣としての形状を辛うじて保っていたのだけど、今シヴァ様の側に有るのは、どこから見ても剣の鞘でしか無いからな。そもそも、半身の半身はアーちゃんの中に有ったよな………と言う事は、半身の半身状態を食べたのは、自分で自分を食べたって事になるんじゃないのか?その辺りはどうなるのだろうか?そこを詳しく知りたいと思うのは僕だけなんだろうか………
それに自分を食べた事で巨大化って………あっ~、なんだが良く分からなくなってきたな。まだ、頭の中が混乱しているのか?
『主よ、その辺りは深く考えても絶対に無駄なのじゃ』
そう言われてもな………卵が先か鶏が先かみたいな妙な謎が残るのは、後々気持ち悪いだろ。それに他にも僕は色々と納得出来ない事も有るんだからな。
剣の鞘に変化していたアーちゃんは、既に元の光り輝く光鯨の姿に戻ってシヴァ様の上に乗っかっている。そう言えば、アクアのところのブルドックもアクアの肩にしがみついてたよな。う~ん、どこのファミリアも主人の上に乗りたがるものなのか?僕達は、乗り物では無いんだけどな。
『………ぐ、偶然』
完全に動揺している黒の偶然と言う一言だけで片付けて良いものかは微妙だけど………まぁ、僕としては今更肩や頭の上に白や黒が乗らなくなるのも寂しいからな。
『これだけ世話になったお主達には、全てを説明書するのが筋と言う物なのだろうな。正確に言うとアーちゃんは、我のペットでは無いのだ。我とアーちゃんは二対一魂。即ち、我が死ねばアーちゃんも死ぬ。反対にアーちゃんが死ぬば我も死ぬのだ。誕生より永い年月が経った事も有り、こうして雨鯨と光鯨に別れる事も出来るのだが、元を辿れば一匹の虹鯨と言う種族なのだ。お主のファミリアが、雨鯨の事をファミリアの三大王と言っておったが、それは間違いだ。正しくは、我の今の姿がファミリアの三大王の一角なのだ。お主達のお陰で、この姿に戻る事も出来たのだ。本当に感謝するぞ』
アーちゃんを背中に乗せているシヴァ様の周りの雨は、いつの間にかアーちゃんの光と相まって七色に発光する虹となっている。端から見れば単なるおんぶバッタ………もとい、鯨on鯨なのだけど、神々しさだけは先程までとは段違いなんだよな。まぁ、シヴァ様単体なら、さっきまでの状態でも十分に凄かったんだけどな。
『そうですか。では、二つだけ質問しても良いですか?』
『お主達なら、構わぬ。どんな質問にでも答えよう』
『では、何故鞘の姿になれるアーちゃんの欠片が、折れた剣の形状だったのですか?もう一つはアーちゃんが自分自身を食べて巨大化していた理由をお聞きしたいんですけど?』
最初から、折れた剣ではなく壊れた鞘なら納得出来るのだけど、明らかに別物に変わっているからな。
『先程、お主のファミリアが言っておったが、我は姿を自由に変える事が出来る。欠けたアーちゃんが折れた剣の形をしておったのは、聖戦の時に我の主だった者が大小二つの剣の使い手だったと言う事と我の武器状態の記憶の残骸のような物だ。聖戦時に小さい方の剣が三つに砕けた事が今回の件の発端なのだ。その内の二つ、アーちゃんの心とその剣の切っ先は回収出来たのだが、同時に剣の束の部分は行方不明になってしまったのだ。既に分かっておろうが我自身も魔獣器の一種なのだ。だが、他の魔獣器とは違い、その形状は一つでは無いのだ。主の意思によって姿を変える事くらいは軽々と出来る。勿論、今お主達に見せている虹鯨の姿と武器状態の【カリバーン】が本来の姿には違いないのだがな。ちなみにだが、我が剣でアーちゃんが鞘の二対一式だ。それと、アーちゃんが自分自身を食べて巨大化していた理由は、半身の半身の力が中途半端過ぎて、上手く制御が出来なかったからなのだ』
なるほどな。そこは、流石に王を名乗るだけ有って、その能力も過去の設定もゴージャスと言う事かな。
〔『それで、白と黒はどこまで知ってたんだ?』〕
〔『………全て初耳』〕
〔『主よ、ワシも黒と同じで初めて聞いたのじゃ。ワシらは、ずっと雨鯨様が三大王の一角はだと思っていたのじゃ』〕
まぁ、その表情を見ると嘘では無さそうだから、仕方が無いのかな。
『さて、改めてお礼の話をするのだが、この傷付けてしまった船は勿論、我を助けてくれた白と黒にも渡すつもりだ。それと、お主にもだ』
まぁ、【カリバーン】の代わりに、ファミリアの三大王との出会いの思い出に何か貰えるのなら、貰っても良いかもな。皆への土産話とヒナタへ説明する時の手助けにもなりそうだからな。
『そうだのう、お主には………そうだ。お主は、我の主になる気は無いか?海に住んでいると、我に相応しい者に出会う機会も少ないのでな』
『………はっいぃぃ!?』
『我は、お主の仲間を思う態度に感化された。それに、我に意見する者など久しく会ってないわ。お主なら、我の二代目の主と認めても良いと思ってな』
話に付いていく事は出来ないけど、これだけは分かる。僕は、さっきの前言を撤回したい。
『丁重にお断りさせて頂きます。ファミリアの三大王の主になるなんて、僕には荷が重いです。それに、僕には白と黒と言う二匹の信頼出来るパートナーがいますので、今回は縁が無かったと言う事で………』
これが、何かのレアイベントだとしても、ファミリア三大王の主になるとか、これ以上悪目立ちする気は僕には無いからな。
僕の本来の目的は、目立たず静かに気の行くままにトリプルオーを楽しみたいだけなのだから。色々な意味で既に手遅れかも知れないけど………その為の努力だけは怠りたくは無い。
『我を欲しがる者は数多くおったが、我の誘いを断ったのは、お主で二人目なのだ。我は、ますますお主が欲しくなったわ』
あれ?失敗したのか?今のは逆効果だったみたいだな。さらに興味を持たれた気がするな。
〔『白、黒、助けてくれ。ヘルプだ。ヘルプ』〕
〔『………残念』〕
〔『主よ、今のシヴァ様のお言葉は、さっきまでとは違って王としての発言じゃ。ワシらでも、王への反論は無理なのじゃ。それに、ワシらは主と違って怖い物知らずでは無いのじゃ』〕
今更、怖い物知らずとか言われても、白達と違って僕はファミリアの王の怖さが分からないからな。
今回は、味方が全くいないみたいだけど、このまま流されてファミリアの王様をホームに連れて帰った場合の皆の反応が怖いよな。
『取り敢えず、僕が主になるのは無理ですから。それは諦めて下さい』
強い否定。強い意志。今、僕が頼れるのは我が身に宿る精神力。味方がいないのなら、もう強い否定一択しか選択肢が無いからな。それに、しばらく時間を空ければ、諦めてくれるだろうな。
僕は、その一言だけを残してログアウトした。
「ふっ~~~」
最後のあれは、一体何だったんだ?ファミリアの………しかも、王自からが自身の主を勧誘するとか有りなのか?一応、どさくさに紛れて逃げる事には成功したけど、しばらくの間はログインしたくないよな。
でも、船の修理も有るし、あの場所の把握と【サラベール】への移動、またはホームへの帰還。それと………一番の問題であるヒナタへの謝罪も有る。謝るなら早い方が良いだろうから、明日にはログインして謝らないとダメだろう。そっちの方も考えただけで頭が痛くなるな。
白達にも悪い事したかもな。結果的にシヴァ様を押し付ける形になったからな。明日ログインしたら、謝らないとな。
でも、取り敢えず、今日は早く寝て嫌な事は全てを忘れようか。せめて、今日の夜だけは僕に良い夢を………
翌日、ログインすると船のゲートの前には誰も居なかった。辺りを見渡してもシヴァ様の姿もアーちゃんの姿も無い。
『ふ~~~良かった』
どうやら、シヴァ様達はどこかに行ったみたいだな。まぁ、ほぼ一日(ゲーム内時間で三日)は経っているから、当然と言えば当然だろうけど………取り敢えずは、ログアウト作戦は成功したみたいだな。
早く寝た事で、良い夢を見る事が出来て心身共にリラックス出来たのも良かったのかもな。昨日とは違って、かなり落ち着けてるのも大きいかもな。
ホルスターには、白と黒の反応も有るので二匹共に無事だったらしい。いつもなら竜の姿で僕を出迎えてくれるところだが、出て来ないところを見ると軽く機嫌を損ねたかも知れないな。こっちも、あとで謝らないとな。
美味しい紅茶に大量の茶菓子を添えてやれば、簡単に機嫌は治るだろう。まぁ、ホームでヒナタに謝罪して修理の依頼をするのが最優先なんだけどな。少しでも早くライトニングを元に戻してあげたいからな。
『あっ、シュン、お帰り。【ガリンペイロ】には着いたの?』
『アキラ、ただいま。【ガリンペイロ】には着いたけど………ちょっとしたトラブルでな。うん!?今日はジュネとレナも一緒なんだな』
『うん。【ウィザード】と【双魔燈】にも新人が入ったみたいだから三ギルド新人交流会を企画中』
なるほどな。【ウィザード】と【双魔燈】は、どうしても僕繋がりで関わり合いが増えるから、交流会は良いアイディアだな。
その内、生産組合の【プレパレート】と【カーペントリ】と【サイク=リング】の三ギルド。あとは、戦闘系の【ワールド】くらいは紹介しておきたいよな。
『そう言う事で、お邪魔してます』
『お邪魔中、シュンも入る?』
『いや、僕の事は気にしなくて良いから、三人で続けて。アキラ、工房にヒナタいる?』
『ヒナタ?ホームでは見てないから、今日も造船所じゃないかな?ここのところは毎日サラと一緒に頑張っているみたいだよ』
『そうか………』
それは、知りたくなかった事実だな。毎日忙しくしているところに、さらに仕事を増やすとか………最低の行為だな。まぁ、狩りに出ているヒナタを探す為に、フィールドを駆けずり回る事になるよりは、ゲートで転送すれば良いだけだから、遥かにマシなのだけど。
『ありがとう。ジュネとレナもゆっくりしていってくれ、じゃあな。転送【蒼の洞窟】』
僕は、ゲートの音声認識を使って移動する。
『えっ、シュン、ちょっと待って。せな………』
アキラは、最後に何を言いたかったんだ?聞こえたのは『せな』まで、僕の知り合いにセナと言うプレイヤーはいないよな。フレンドリストで確認しても、それらしい名前もギルド名も存在しない。他に有りそうな可能性は………違うな。もしかしてと思い出した、倉庫を整理してみたけど、レアアイテムやレア素材とも違うらしい。
転送してきた造船所のキッチンで紅茶と茶菓子を仕込みながら少し考えていたが、これと言った答えは思い付かない。そんなに気になるなら、コールかメールで確認すれば良いのだろうけど、アキラがコールして来ないところをみると特に急ぎ等の案件では無いんだろうな。まぁ、ホームに戻った時にでも話せば良いくらいの話なのだろう。
造船所の奥に進むと、少し前まで作っていた【ワールド】の船とは違う船の製作を進めるヒナタとサラの姿があった。
ちなみに、今日は【カーペントリ】の面々は居ないみたいだな。作っていた船が造船所内に無いところをみると、試走に出ているのも知れないな。
そう言えば、サラは《造船》スキルをどうやって取得したんだろうな?ヒナタの側で手伝うサラの姿は、明らかにスキル取得者の動きに見えるからな。
『二人共、お疲れ様。新作の紅茶を淹れたから、少し休憩しないか?』
『シュンさん、お帰りなさい。サラちゃん、少し休憩にして紅茶をご馳走になろうか』
『はい。わかりました』
ヒナタとサラの返事を待つ前に、既に僕はティータイムの準備を始めている。ヒナタが断らないだろう事は分かっているけど、今回だけはどうしても断らせる訳にはいかないからな。
鞄の中から折り畳み式のテーブルとイスを三人分出して、真っ白なテーブルクロスを広げていく。ヨーロッパ貴族の昼下がりのように………
当然、ティーカップは五つ。そろそろ白と黒にも機嫌を治して貰いたいからな。茶菓子には、白と黒が大好きなチョコクッキーを用意して。これで、完全にご機嫌を取る体勢は整ったな。
『白、黒、賄賂とまでいかないけど、このクッキーで許してくれないか?』
『主よ、このクッキーは美味しいのじゃ。それと、ワシと黒は全く怒ってないのじゃ。とっても甘いのじゃ』
会話が、お菓子に対しての感想の間に挟まれている。まぁ、白達の分には、白と黒のお気に入りのハチミツ入り紅茶だからな。ビーから手に入れてたハチミツの在庫も減ってきているから、そろそろ補充が必要だな。
『………黒も。おかわり』
賄賂は無事に成功したみたいだな。その証拠に、白達の言葉とは裏腹に少し淀んでいた雰囲気も一気に改善されているからな。まぁ、そう言う事も想定してあるからな。クッキーも紅茶も、まだまだ準備して有るので、たまには奮発しても良いだろう。
『『いただきます』』
ヒナタとサラも席に着いて紅茶へと手を伸ばす。
真っ先に謝らないといけないところだけど、ひとまずは僕も紅茶を楽しもうかな。
『あれ!?』
五つ淹れたはずのティーカップが一つ足りない。出し損ねたか?いや、違うな。鞄の中の在庫数も五つ減っているからな。さっき、鞄の在庫は確認したばかりだから、これは間違い無いよな。
『えっと………』
ヒナタ、サラ、白、黒。ヒナタ、サラ、白、黒。
何回数えても四つだよな。まぁ、少し数が合わないのは気持ち悪いけど、紅茶が冷めるのも嫌だからな。
もう一つ別のティーカップを用意してティーポットから紅茶を注ぐ。
『主よ、紅茶のおかわりなのじゃ』
早いな。僕としては、もう少し薫りも楽しんで貰いたいのだけど、今日は多くを語るまい。
そして、白だけでなく黒もさりげなくティーカップを出している。まぁ、謝罪も兼ねているので、好きに飲んでくれたら良いんだけどな。二匹の空のティーカップに、紅茶を注ぐ。そして、ティーポットをテーブルの真ん中に置いて…………
『次からは、自分で淹れてくれ』
やっと、一息つけれるな。謝罪が控えてるから、唇は湿らせておきたい。
『あれ!?』
おかしい。絶対に変だ。今、自分用に淹れたはずのティーカップが消えた。
『どうかしましたか?』
『いや、さっきから僕の分のティーカップが無くなっている気がするんだよな』
『???』
あれ?サラのリアクションが薄いよな。もしかして、僕の方が変なのか?
『あの~、シュンさん、私もさっきから気になってはいたんですが、背中にいるのは一体何ですか?』
背中?いる?
ここで、さっきのアキラの言葉が頭の中を過る。アキラが言いかけた言葉もせなかだったのでは?と言う事。どうやら、僕の背中に何かがいるらしい………この場合は、あまり良い予感がしないよな。
これが本当に僕の想像通りなら、ログインした時から今までずっと白と黒が大人しかった理由とも辻褄が合うんだよな。
僕は、恐る恐る振り返ると、そこには………誰も居ない。
『あれ!?』
ヒナタに騙されたか?
『シュンさん、今は上です。上』
なるほど、僕が振り返るタイミングで上へと逃げたんだな。今の内に確認して置きたいような………これから先も確認したくないような………そんな気分の僕は、今度は勢いよく上を見上げた。
『なんだ。つまらん。もうバレてしまったわ』
そこには、二度と会いたく無いと思った雨鯨と光鯨の二匹がいた。
『………やっぱりか』
どうやっても、この二匹から僕は逃げられない運命らしいな。
装備
武器
【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉
【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉
【空気銃】攻撃力0〈特殊効果:風属性・バースト噴射〉×2丁
【火縄銃・短銃】攻撃力400〈特殊効果:なし〉
【アルファガン】攻撃力=魔力〈特殊効果:光属性/レイザー〉
【白竜Lv80】攻撃力0/回復力260〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv80】攻撃力0/回復力260〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv69
《錬想銃士》Lv8
《真魔銃》Lv14《操銃》Lv35《短剣技》Lv38《拳》Lv58《速度強化》Lv100※上限《回避強化》Lv100※上限《魔力回復補助》Lv100※上限《付与術改》Lv16《付与練銃》Lv17《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv43
サブ
《調合工匠》Lv28《上級鍛冶工匠》Lv6《上級革工匠》Lv6《木工工匠》Lv34《上級鞄工匠》Lv8《細工工匠》Lv46《錬金工匠》Lv45《銃工匠》Lv36《裁縫工匠》Lv15《機械工匠》Lv21《調理師》Lv25《造船》Lv17《家守護神》Lv58《合成》Lv50《楽器製作》Lv5《バイリンガル》Lv10
SP 20
称号
〈もたざる者〉〈トラウマニア〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈摂理への反逆者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉〈工匠〉〈呪われし者〉〈主演男優賞?〉〈食物連鎖の最下層〉
new称号
〈パラサイト・キャリアー〉
ファミリアに取り疲れた者への称号
取得条件/個人の意思に反してファミリアや魔物から自分勝手に主従契約を結ばれる




