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OOO ~Original Objective Online~ 改訂版  作者: 1048
第一章 第六部
54/65

半神の半身 1

あのドタバタの新人加入劇から一週間が経過している。ホームの方では、相変わらずバタバタとした日常が続いているらしい。そんな調子で、ケイトのクエストで加入する予定の仲間にも続くのなら、それ以降の加入については真剣に考えないといけないのかも知れないな。


実際に、あのあとの数時間は大変だった………


サラとブレットに対して、僕達が色々な事を説明する度に、二人の理解の範疇をサラリと越えてくるらしく、一回一回フリーズしていたからだ。その都度、中断と言う名の小休止を取らざる得ない状況に僕達は追い込まれていた。


まぁ、船を持っているギルドは他に有っても、その持ち船が空に浮く、ましてや空中を軽々と移動出来るとは誰も思わないからな。改めて(久々に)noir(僕達)】の特異性をまじまじと感じさせられたな。


当然、あの日だけで、全ての説明を終える事は出来ずに、今日に至っているらしい。


僕を騙していた………もとい、隠し事をしていた事への責任を感じている教育係に任命された二人以外のメンバーも、説明やサポートを率先的に協力してくれているので、僕はこんな風に一人で優雅な船旅を続けられていると言う訳だ。


僕が、船旅を続けている間に【シュバルツランド】では、ケイトの新人加入クエストと十月の終り~十一月初頭を利用しての公式イベント、ハロWin(ウィン)も同時開催されている。


このハロWin(イベント)期間中は、【シュバルツランド】周辺に出現する魔物の全てがハロウィン仕様になっていて、イベント限定のアイテムやハロウィン用のネタ装備をドロップしてくれる限定イベントらしい。この期間でしか手に入らないアイテムが多いので多くのプレイヤーに人気が出ている。


僕も非常に楽しそうなイベントだと思うけど、【noir】としては、ケイトのクエスト期間と被っているのでクエストの方を優先している。まぁ、このイベントの特性上、適当に狩りに行くだけでも参加出来るので、暇を見付けて各々が個人的には楽しむらしい。イベントの報酬が珍しい素材系なら、僕を含めた皆のやる気も違うんだろうけど………残念ながら、今回ドロップする素材系は普段と変わらない物らしい。それに、ネタ装備くらいなら、自作しようと思えば可能なのが【noir】の生産系だからな。なので、意欲が微妙に低くても仕方が無いだろう。


アクアやジュネのギルドは、イベントのランキング上位を目指して日々研鑽しているようだ。今回のイベントは単純に数を狩る個人単位での勝負なので、範囲魔法で一気に殲滅可能なジュネ達の方がイベントを有利に進めているらしい。


その為、食事の度に僕は半強制的に蒼真から、その日に起きた愚痴を聞かされている役に任命されている。一回一回は大した事が無いのだけど、それが毎日続くとなると疲れるんだよな………と言うか微妙に飽きてくるよな。現に、話している内容は毎日ほぼ変わっていない。目の前の獲物を取られただとか、上位のランキングが全く入れ替わらないだとか………


そんな感じで皆が【シュバルツランド】で頑張ってくれている期間を使って、僕が目指しているのはヨーロッパのサーバータウン【サラベール】。この一週間の間に、既にアフリカ大陸的な【ガリンペイロ】には到達している。


地図で見るなら、今は【ガリンペイロ】と【サラベール】の中間くらいだろうか。地図通りなら二日~三日程度で、最寄りの港町には着きそうだよな。まぁ、【サラベール】の近くに港町が有ればの話だけど………





少し前に寄った【ガリンペイロ】は、現実世界での位置的で言えば、アフリカ大陸(形は全然違う)のほぼ真ん中………若干、東よりに位置してるのかな。近くに港街は勿論、【アクアパレス】みたいな水路や川も無いので、最短距離にあたる岸に船を着けて徒歩で街を目指す事になった。


たまたま(だと思うけど)、僕の通ったルートには小さな街すら無かったので、途中でログアウトする事すら出来ずに一気に【ガリンペイロ(目的地)】を目指さなければならなかった。まぁ、【空気銃】を使って(空を飛んで)山脈や渓谷(ところどころ)でショートカットさせて貰ったから、思っていたよりも時間は掛からなかったんだけど。普通に歩いていたら、絶対に辿り着けていないよな。


そうやって、辿り着いた【ガリンペイロ】の街自体は、今までに見た街とは完全に別物だった。今までの街は地上に作られていたのだが、【ガリンペイロ】は大きな縦穴の底に街が有ったのだ。


あの時は、遠目からは全く確認する事が出来ず、近距離まで近付く事によって、やっとその存在を見付ける事が出来たんだからな。


驚くべきは大穴の底に有る街にも関わらず、街の下の方まで太陽の光が届いており、かなり明るく暖かい街になっている。


街の側面には、大きな鉱洞ダンジョンが複数隣接していて、ほとんどの露店や店舗が、その鉱洞の恩恵を受けた採掘関係の店で構成されていた。逆に採取や畑関係の店は全く存在してないので、ポーション等のアイテムが他の街の約二倍の価格に設定されていたんだけどな。まぁ、反対に鉱石や宝石類は信じられないくらい激安だったんだけどな。


多分、この街はフレイにとっては天国なんだろうな。惜しむべきは、船が近くに無いので【ガリンペイロ】をゲート登録をさせてやれない事なんだけど。


まぁ、その代わりと言っては何だけど、お土産だけはガッツリ買わせて貰っている。珍しい鉱石や金属加工のレシピ、さらに【ガリンペイロ】には、他の街には存在しない武器のレシピ(・・・・・・)まで存在した。ここまで来るのが大変なので、それくらいの恩恵は有っても良いのだろう。


まぁ、流石に銃のレシピまでは無かったけど、《鍜冶》スキルのレベルが不足している僕には、読む事の出来ない武器のレシピも有ったので、お土産を受け取る側は喜んでくれる事だろう。他にもフレイの喜びそうな物が色々と有ったから余計にな。


だけど、この【ガリンペイロ】を見て一番驚いた事は別に有った。大穴の内側の壁沿いに螺旋階段が下まで続いており、それを下らないと街に入れない仕様になっていた事だった。その数、合計千百九十二段。語呂合わせで、()()()()になっているのは、偶然なのだろうか?機会が有れば、この街の王様に歴史を聞いてみたいところだな。


機会が有ればと言うのは、今回の訪問で王様に会うことが出来ていないからだ。まぁ、預かったていた書類は、大臣(王様代理)に渡しているので、依頼としての問題は全く無いんだけど、少し残念だよな。


僕個人としては【ガリンペイロ(この街)】も、【アクアパレス】とは違った意味で存在感が強く忘れる事は出来ないだろう。





『主よ、ここは、全く釣れないのじゃ』


『釣りには、そう言う時も有るからかな』

………と言うか、釣りはそう言う時(釣れない時間)の方が圧倒的に多い。この前の白と黒(二匹)釣れ過ぎていただけ(ビギナーズラック)なんだよな。ひたすら、魚が釣れるのを待つ僕の忍耐を少しは見習って欲しい。こう言う耐える時間を楽しむ事も含めて、釣りなんだぞ。


『そうは言うがの、既に二時間なのじゃ。黒()、飽きておるのじゃ』

()って事は、白()と言う事だよな。まぁ、確かに二時間も釣れなかったら、そろそろ潮時なのかも知らないけど………そうだな。今日は、早めに切り上げて生産でもしようか。その方が幾分か雰囲気は良くなるだろうし………


『………主の、掛かっている』


『マジか!?』

つ、遂に僕の時代が来たのか?


苦節する事、数週間。その間に数回開催された一人と二匹で争われる釣り勝負は………全く良いところが無く、僕の完敗。


全く釣れてない(坊主)と言う事は無いけど、白と黒よりも先に釣れた事は無い。まして、小さな鯵よりも大きなサイズの魚が釣れた事はない。その僕に、ようやく初勝利が見えてきたのか。


『主よ、期待してはダメなのじゃ。きっとウォージャム(魚じゃ無)なのじゃ』

ま、まさかな。二度は無いよな。ここでは必要無いですよ。今度こそ、本当に信じてるぞ。切実に………な。


『………秋刀魚(さんま)


『白、残念だったな。今度こそ、僕の勝ちのようだな』

秋刀魚か、リアルでは少し時期()が過ぎた感じはするけど、今年の秋は食べ損ねたからな。美味しい焼き魚になって貰おうかな。付け合わせに大根おろしとすだちを添えれば、炊きたてのご飯に合うご馳走に早変わりする事だろう。


秋刀魚を釣り上げようとした瞬間、リールから(ライン)が一気に出ていく。


『えっ!?何んだ?どうした?』

現在進行形でラインが出続けているので、ラインが切れた訳でも、魚がバレても無いはずだけど………さっきまでの引きとは全然違っている。一体どう言う事だ?


その時、遠くの方で小さな魚影が跳ねた。


『ぐぬぬぬぬっ………』

悔しそうな白の歯を食い縛る音が響き渡る。


『………鰹になった』

今、黒は鰹と言ったのか?


………と言う事は、僕の竿に掛かった秋刀魚が、泳がせ釣りの餌の代わりになったと言う事なのか?


そんな事を考えていると、僕の目の前を鰹の群れが横切っていく。


それにしても、秋刀魚が鰹にランクアップするとは、嬉しい誤算だ。


『白、黒、鰹って魚は、刺身()でも旨いし、タタキ(炙って)も旨いんだぞ。絶対に釣り上げるからな。楽しみにしとけよ』

今までの釣果が、一気にチャラになるくらいの獲物だからな。絶対に逃してなるものか。少しずつ、少しずつだが、ラインが巻き上がっていく。小さく見えた魚影も徐々に大きくなってきて、はっきりと確認出来ている。


もう少しだな。


残り四十メートル………三十五メートル………三十メートル………


『………早く逃がす』


『えっ!?何で!?ここまで来て………ふっ、分かったぞ。黒も、白と同じで悔しいんだな。絶こんな大物を対に逃がしてたまるものか~~』

既に、僕の口は鰹の口になっているからな。


絶対に逃がしたくない。その気持ちに呼応するようにリールを巻く僕の手が一気に加速していく。どんな理由が有ろうとも釣り上げてみせる。


残りは、既に二十メートルを切っている。


『主よ、早く黒の言う通りにするのじゃ。今すぐにその釣竿を捨てるのじゃ』


『うん!?』

黒だけじゃなくて、完全に敗北を悟って諦めていた白までが焦り出したな。しかも、焦り方が尋常では無い気もする………何か有るのか?


『………残念、もう遅い。手遅れ』


十メートル………


『だから、何っ?』

僕には、二匹が一体何の事を話しているのか分からない。まぁ、そんな事よりも………


『鰹GETだ!!』

念願の大物。そして、祝!僕の初勝利だな。


さて、どうやって食べようかな。さっきも話したけど、刺身にタタキ………それに、竜田揚げや煮付けでも良いよな。ヤバイな。想像しただけで、めっちゃくちゃお腹が減ってきたぞ。


『………食べられるのは』

おっ、黒は何かリクエストでも有るのか?


『うむ。ワシらの方なのじゃ』

白の言葉ともに、船の周りの海の色が暗くなっていく。


『はっ!?どう言う事だ?』


『主よ、これが食物連鎖(自然の摂理)なのじゃ』

ますます、意味がわからない。分かるように説明して欲し………


『あっ!!あ~ぁ』

白、黒、すまない。たった今、全てが理解出来たよ。これは忠告を無視した僕が完全に悪いな。ただ、出来る事なら、もう少し分かりやすく教えて欲しかったな。


僕が、全てを理解したのとほぼ同時に、僕達は船ごと海面から現れた巨大な鯨に飲み込まれたのであった。





『………う、ぅん、ここは?』

僕が気が付いた場所は、何度も見慣れた神殿の天井ではなく、薄暗い洞窟?らしき場所の中だった。ここはどこだ?えっ~と、何が起きたんだっけ?思い出せ、思い出せ………


『えっ~と、確か………』

船で移動中の恒例になっている釣り大会をしていて、秋刀魚を釣ろうとしたら、その秋刀魚が鰹にランクアップして、その鰹を釣り上げた直後に下から現れた鯨に………


『そうだ!』

パクッて食べられたんだよな。白に言わせれば、食物連鎖………


………と言う事は、僕は死んだのか?いや、それも違うな。それなら、死に戻りで神殿に戻っているはずだだからな。それに、その事を裏付けるように、ステータスを見ても死んだ回数は変わってないのだから。


『うん!?』

新しい称号が増えている………またか、こんな称号なら、増えて欲しくなかったんだけどな。



new称号

〈食物連鎖の最下層〉

自らの身体を食べられた者への称号

取得条件/何かに食べられる



う~ん………かなり、不本意な称号だよな。明らかに僕の下に鰹と秋刀魚がいても良いんだけどな。せめて、下層に留めておいて欲しかったところだな。


………と言うか、僕並に変わった称号を持つプレイヤーって他にもいるんだろうか?ちょっとと言うか、かなり気になるところだよな。まぁ、こんな事を考えていると、いつも通り背後から白と黒の突っ込みが………


『あれ?来ない?と言うか………白、黒、いないのか?』


『お~い、白~、黒~、何処だ?無事なのか?』

辺りを見渡しても、声を掛けても、白と黒らしき姿は見付けられない。《心話》も出来ない。はぐれたのか?いや、はぐれただけなら良いんだけど、二匹共無事なんだろうな………


そう言えば、一緒に食べられたはずの船も無いよな。


僕の周りには、船の残害(欠片)すら見付からないので、船は無事の可能性が高いはずだ。むしろ、白達も船と一緒なんじゃないのか?それなら、少しは安心出来るのか?


そう言えば、あの船が無かったら………僕は、ゲートによる転送どころか、この場所からログアウトする事すら出来ないんじゃないのか?


う~ん………もしかして、僕が思っていたよりも遥かにヤバイ状況なのかも知れないな。


時間が経つ事で徐々に冷静になってくるが、状況は一向に好転しない。まぁ、この場所から動いてないので、好転のしようもないんだけどな。


少しは余計な事を考えるくらい脳も動いてきたみたいだな。そろそろ、動くか?問題は、どっちに進むかなんだよな。


僕が気が付いたこの場所が広かったので、最初は全く気付かなかったけど、良く見ると洞窟?の壁が、ぶよぶよと動いている。


気持ち悪くなるしテンションも下がるので、なるべく考えたくは無いけど、多分この洞窟?みたいな場所は、鯨の腹の中なのだろう………つまり、片方は出()で、もう片方は胃になるんだよな。間違えて胃の方向に進むと、せっかく生き残ったのに胃液()で溶けて死ぬ可能性も有るのかな。


いや、待てよ。船………ましてや、白と黒が残っているなら置いて出ると言う選択肢が僕には無いのだから、先に胃の方向に進んでおいた方が効率は良いのかも知れないよな。出口に向かって、白と黒と再会出来なかったり、舟が無かった場合は逆方向に戻る可能性も大いに有るのだから。


冷静になるにつれて、様々な事が理解出来てくる。この場所では、コールや《心話》等の通信系は使えないし、鞄の共有機能も切れている。多分、この場所は隔離された特殊なエリアと言う設定なのだろう。それと、かなり酷い仕様だと思うけど、魔法を全く使う事が出来ない。素早く移動する為に、〈速度増大〉の《付与術》を使ってみたけど、全く効果が無かったからな。ここに来たのが《魔術師》等の魔法メインのプレイヤーだったら、詰んでるんじゃないか。まぁ、死に戻りと言う選択が出来る分だけは、僕よりもマシだと思うけどな。





『さてと………』

風の流れからすると、出口の反対側は………こっちか?こう言う時は、見えなくても感じる事の出来る《見ない感じ》は本当に便利なんだよな。


暗くて先が見えないので辺りや足下をじっくりと確認しながら、少しずつ進んで行く。気持ちが悪いので食道()を手探りで進む事はしない。こう言う時に、先を見る事の出来る《探索》系のスキルが無い事が本当に悔やまれるよな。まぁ、さっきの事も有るからな。五十歩百歩(どっちもどっち)かも知れないけど………


『うぉっと、マジか!?』

少し進んだところで液体系(スライム状)の魔物と二度と会いたくないと思っていたウォージャムに出くわした。しかも、先制攻撃のオマケ付きで。まぁ、ギリギリで避けれたけど………


ここは、鯨の体内?のはずだよな。その中にも魔物が出現するのか?そもそも、僕が感じている事が既に大きな間違いで、ここは鯨の体内では無いのか?


僕は【雷光風】による射撃で、近付いてくるウォージャムを狩り始める。船上で初めて出会った時は一切戦闘する必要が無かったけど、あの時にステータスを把握する事が出来ていたのは救いだったみたいだな。


ウォージャムはステータスで確認していた通り、強かったのだけど、弱点を把握して行動パターンが読める上に、戦場が狭くウォージャムの良さが出せる場所では無かった事も有って、銃弾を一発も撃ち漏らす事なくウォージャムを狩る事が出来いる。これが、初遭遇だったとすれば僕の勝ち目は薄かっただろう。


だが、わざわざこんな場所でトラウマの相手を出してくるところが、トリプルオーの運営の意地悪なところだよな。


もう一匹の出現した液体系の魔物は、全く知らなかったけど、倒せるレベルだったのも救いだったな。倒した魔物達がドロップしたアイテムで、今まで僕が感じていた疑惑が確信へと変った。


手に入れたのは、()の血と()髭。鯨の血は液体系のアイテムで、スリップダメージ無効の効果が有るらしい生産系の素材だな。


鯨髭は、竜髭の類似素材でランク的には一つか二つ下の素材みたいだな。まぁ、それでも十分レア素材だ。と言うか、あのイベント報酬の竜髭が特殊過ぎるんだよな。


………と言う事は、やっぱりここは鯨の体内になるんだよな。それと今の戦闘で、もう一つ分かった事が有る。僕の手元には【白竜】と【黒竜】の二丁は無いのだが、竜の力の効果がしっかりと発揮されている。つまり、それは装備状態が継続中になっていると言う事を現しており、少なくとも二匹は最悪の状況に至ってないと言う事になる。《心話》が使えなかったので不安だったのだけど………取り敢えずは、一安心と言ったところだな。


そのあとも、僕は魔物を倒しながら奥へ奥へと進んで行った。進むにつれて、徐々に道も細くなり魔物の数も増えて、鯨の腹の中も暗くなっていくのだが………かなり先に小さな灯りらしきものが見えた。


『うん!?』

今、その灯りらしきものが動かなかったか?


魔物以外にも何かいる?それとも………(はや)る心を押さえながら、一歩一歩を慎重に(あゆみ)を進める。


僕が小さな灯りを見付けてから、どれくらい歩いて、どれくらいの魔物を狩ったのだろうか?ようやく辿り着いた灯り元には、二つの小さな影と話声が………


『………と言う事なのじゃ(・・)

聞き慣れた声に、聞き慣れた語尾。やっと出会えたな。


『白か?無事なのか?』


『おぉ、主なのかの?ワシは大丈夫なのじゃ。主は無事じゃったのかの?』

まだ、はっきりとした姿は見えないけど、そこにいるのが確実に白だと分かり、安堵の心が広がっていく。まぁ、それは僕と再会出来た白も同様みたいだけど。


『僕は大丈夫だ。黒はどうだ?』


『主よ、ここにおられるのは黒では無いのじゃ。この方は、雨鯨(あまくじら)のシヴァルヴァーニ・バジェーナ様じゃ。ワシらが今いる、この光鯨(こうげい)(ぬし)様でもあるのじゃ』


『はっ!?えっ、何?じゃあ、黒は?黒はどうしたんだ?』

色々と理解が追い付かなくなっているし、聞きたい事も多々有るのだけど、それよりも黒の安否が先だ。


『黒は、大丈夫なのじゃ。もう少し先で船と一緒におるのじゃ。それと、船も無傷(無事)なのじゃ』

それは、二重の意味で安心したな。この場にいるよりも、船の中の方が幾分かマシだからな。それと同時に、黒と船の無事が分かった事で、僕の心の緊張も解れていく。


これで、船に設置して有るゲートから転送して脱出する事もログアウトする事も出来るので、最悪の状況から抜け出せたな。それにしても、僕が振り落とされて気絶する衝撃でも無傷とは、かなり丈夫な作りになっているみたいだな。改めて、普段から整備してくれているヒナタに感謝だな。


『ところで、白は、その雨鯨さんで良かったかな?と何をしてたんだ?』

名前の方は長過ぎて一回で覚えるのは無理だったけど、かろうじで雨鯨のフレーズだけは聞き逃さなくて助かったな。


『主よ、こちらにおられるのは雨鯨のシヴァルヴァーニ・バジェーナ(さ・ま)じゃ。この方は、ファミリアの三大王(トライアングル)の一角で、海の統治者にして海の偉大なる父。通称、海王(リヴァイアサン)海神(ポセイドン)とも呼ばれておる偉いお方なのじゃ』


『はい!?』

おいおい、ちょっと待てよ。リヴァイアサン、ポセイドン?だって………ゲームを、ほとんどやらない僕でも知ってるくらい有名な幻獣神とか、それこそ神の類いだったはずだ。


それとファミリアの三大王とか聞きなれない名称も言ってたよな。何で、そんな有名で偉大な方が、こんな薄暗い鯨の………しかも、腹の中にいるんだ。


(われ)の名前は無駄に長いから、シヴァでよいぞ』

白と共に近付いて来てくれた事で、二匹の姿を確認する事が出来た。


う~ん、なんて言うかな。長い格式張った名前とは裏腹に、かなりフレンドリーな王様みたいだな。


それと、シヴァ様は見た目が鯨にもかかわらず、白と同様に空中に浮かんでいる。いくら王様だと言っても、鯨が空を飛ぶのは有りなのだろうか?それに、雨鯨の名前の由来なのか?シヴァ様は、身体の周りにドーナツ状の雨のエフェクトを纏っている。


『主よ、勘違いして失礼な事を色々と思っておるようじゃが、シヴァ様は大きさ(姿)を自由に変える事が出来るのじゃ。本来のお姿は今の約百倍と言ったところじゃ。それに、ファミリアの王様の中の王様じゃぞ。ワシらに出来る事が出来ないはずが無いのじゃ』

確かに、仮にも王と名乗る者が、下位の者よりも性能が低い訳は無いよな。


でも、百倍と言う事は、この鯨………確か、光鯨と言ったか?よりも小さいよな。まぁ、僕達から見ると、かなり大きい事には違いないけど。


『それで?』


『シヴァ様は、探し物が有るらしいのじゃ』


『探し物?それは鯨の腹の中(ここ)に有るの物なのか?』


『うむ。この場所は…………』


『ここからは、我自らが説明しよう。ここは、我の大事にしておるペットの光鯨のアート(アーちゃん)の身体の中だ』

身体の巨大さからは、想像も出来ない名前をしている。多分、工芸(・・)光鯨(・・)の読み方繋がりなんだろうけど、この場で突っ込むのは止めておこうか。


まぁ、ネーミングセンスに関しては、僕は人の事を言えないんだけどな。シヴァ様のセンスも僕同様に皆無(残念)だと思う。


『お主達は、アーちゃんの食事時間に、たまたま巻き込まれたのだ。その点は、すまなかったと思う。しかし、全員が無事だったのだから、まぁ、許せ』

まぁ、何かのイベントの一種だと思うし、船と白達が無事なら怒る事でも無いだろう。ただし、無事では無かった場合、ファミリアの王(シヴァ様)のペットと言えど、無事で済ませる気は無いからな。戦って勝てないにしても、間違いなく渾身の一撃くらいは入れさせて貰っているだろう。仮に、それで僕自身が死んだとしても全く後悔は無いのだから。


『それは、僕の運が悪かったと思う事にしますので大丈夫です。それで、シヴァ様の探し物と言うのは?具体的に………』

半分は、本当の事だからな。それに、あまり黒を待たせるのも可哀想だからな。少し巻き目でシヴァ様の要件を済ませるしかないかな。


『うむ。我は、我の半身の半身(・・・)を探しておるのだ』


『半身の半身………ですか?』


『そうだ。永らく我の半身を深海の神殿で管理しておったのだが、数百年前の聖戦で半分に砕けてしまったのだ。それを、神殿の奥に大切に奉っておったのだが、ちょっとした事からアーちゃんのお腹に入ってしまったのだ』

ちょっとした事ねぇ………きっと、アーちゃんが間違って食べたんだろうな。本当にそれが大切な物だとするなら、管理の仕方を疑ってしまうけどな。


『なるほど………それで、姿を小さくてして、自らが探しに来たと言う事ですか?』


『その通りだ。お主は、なかなか話が分かるのだ』

王様自らが、探しに来ると言う事は、ちょっとした事の理由は、シヴァ様自身に有るのかも知れないな。


『主よ、お願いが有るのじゃ』

多分、この流れからすると探すのを手伝いたいと言う事だろうな。


『良いぞ。奥に用が有るのは僕達も同じだからな』

まぁ、わざわざお願いの内容を聞く必要を感じないくらいには、付き合いが長いからな。


『かたじけない。恩に着る』

まぁ、あくまでも船を見付けるついでだからな。





アーちゃんの中は、相変わらず一本道なので程無くして船まで辿り着く事が出来た。シヴァ様が一緒に居たからか?船までの道程は、さっきまでウジャウジャ出てきていた魔物が一切出てこなかったので、白の情報よりも早く着くことが出来ている。流石は、リヴァイアサン(海の神様)の威厳だな。味方なら恩恵が半端じゃない。


ちなみに、白の《探索》スキルで、足下や先が分かるのも楽に進めた大きな理由の一つだ。先が分かるの事へのアドバンテージの大きさを改めて感じているからな。


事前に白から聞いていた通り、黒と船は全くの無傷だった。船は、柔らかい場所に引っ掛かって止まっており、酸の海()まで届いていなかった事が、無傷の大きな理由だろう。


再会した時の黒が、普段と違って感情を剥き出して僕に抱き付いてきた事が印象的だった。あの時の黒の顔を、僕は生涯忘れる事は無いな。


ちょっと待てよ………と言う事は、気絶していた僕が一番ダメージが大きかったと言う事か?それはそれで、ショックだよな。


竜の力のお陰で気絶から回復した時には全快していたから気付かなかったけど、食べられた時には一瞬で気絶するくらい強烈なダメージが有ったんだろうな。まぁ、この内容は絶対に思い出したくないけどな。


『ここにも、何も無いようだな。白、黒、何か有ったか?』

シヴァ様に半身の形状を聞いたのだけど、何度聞いても神々しい物だの一点張りで、あまり的を得ない答えしか返ってこないからな。探し物の捜索は難航している。


『………何も無い』


『ワシにも、見付からぬのじゃ』


『我の方もだ』

そうか………これ以上奥に進むと、確実に胃液ゾーンに入りそうなんだよな。まぁ、雰囲気的にはそこが怪しいポイントでも有るんだけど。


光鯨が普通の鯨と生態が同じなら、食べたあとは消化と排出が待っている。(そこ)で見付からなかった場合の事は………考えるのも嫌だからな。


『じゃあ、覚悟を決めて進んでるか』

船を動かないように固定して、更に奥へと進んで行く。





僕達一行は、しばらくして胃に辿り着いたのだけど、そこで僕達を待っていたのは、全てを溶かしてしまいそうな強烈な胃酸の海と一瞬でも気を抜くと気絶してしまいそうな悪臭の霧。僕達と一緒に食べられたであろう僕が釣り上げた鰹は、もう跡形も残っていないからな。


僕も、白達も、船も、ここまで飲み込まれてなくて本当に良かったと思う。


『おぉ!?我の半身の反応が有るのだ。ここから近いぞ』

おいおい、ここをさらに奥に進むのか?正気の沙汰では無いぞ。流石はファミリアの王と言ったところか。


僕は、鞄から適当な素材を取り出して、酸の海に放り投げてみる。放り投げられた素材は、胃液に触れる前に一瞬で蒸発していった。おいおい、これは本当にシャレにならないよな。触れてから溶け出すならともかく、触れる前に溶けて無くなるとなると、触れる事は勿論、近付き過ぎる事も出来ないからな。


『あそこだ。あそこで光っておるのが、我の半身の半身だ』

シヴァ様が器用に尾ビレで指す方向には、微かに光り輝く物が酸の海の中心に有る小島らしき物に刺さっているように見える。確かに、あの輝きは見ようによっては神々しく感じるかも知れないな。


それよりも、僕としてはこの酸の海の中で無事に存在している方が不思議だよな。かなりとんでもない代物みたいだな。


『どうしますか?』

答えは、分かっているのだけど、僕の身体()の為に聞かずにはいられないからな。


『主よ、ここが主の見せ場なのじゃ』


『………黒も応援してる。ここからずっと離れたところで』

想像通りの回答を有り難う。まぁ、やっぱりそうなるんだよな。薄々は感じていたよ。


僕は、装備を【空気銃】に持ち変えて、ゆっくりと空中を進んで行く。酸の海は、僕が近付くと、ところどころで火山の噴火みたいに噴き上がって僕を襲ってくる。


『これは、本当にヤバイな』

なかなかの状況だよな。満足に近付く事さえも出来ない。勢いに任せて捨て身で突っ込もうか?最悪、鞄の中にさえ入れる事が出来れば、死に戻りを経験しても、ゲートを使って再びここに転送して(戻って)来れるからな。


『今じゃ。黒よ、《結界》を張るのじゃ』

僕を見送った二匹の竜が、僕の進行に合わせて《結界》スキルを展開する。


『おい!!それは、何だ?』

《結界》スキルと言ったか?いつの間に使えるようになったんだ?


『主よ、説明はあとなのじゃ。早く進むのじゃ』

《結界》を張るのと同時に、僕を襲っていた酸の火山を遮断していく。あまりの酸の威力に結界は三秒程度しか形を保てていないが、白と黒が交互に《結界》を展開する事で、僕の進む道をキープしてくれている。まぁ、遮断出来ているのは酸の波だけで、気絶しそうな悪臭の方は全く遮断出来て無いんだけどな。まぁ、ここでそんな贅沢を言うのは間違っているのだろうな。


ここまで、白と黒の二匹にお膳立てされたら、必ず手に入れて戻るしかないよな。


………もう少し………もう少しだ。


『よしっ!!OKだ。逃げるぞ』

一刻も早く、この場を離れたい。僕が刺さっていた物を引き抜き、一気にその場を離れようとした時に、それは………起きた。


引き抜いたと同時に僕の視界が揺れる。同時に酸の海の激しさが急激に増して、徐々に胃酸の水位が上がってきている気がする。


『いや、違う』

揺れているのは、僕の視界では無くて、アーちゃんの方か?


『お主達、アーちゃんが元の大きさに戻る。すぐに逃げるのだ』


『『『ほえっ!?』』』


僕達が、シヴァ様の言葉の本当の意味を理解するのは、脱出したあとの事だった。

装備

武器

【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉

【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉

【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉

【空気銃】攻撃力0〈特殊効果:風属性・バースト噴射〉×2丁

【火縄銃・短銃】攻撃力400〈特殊効果:なし〉

【アルファガン】攻撃力=魔力〈特殊効果:光属性/レイザー〉

【白竜Lv70】攻撃力0/回復力240〈特殊効果:身体回復/光属性〉

【黒竜Lv70】攻撃力0/回復力240〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉

防具

【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40

〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉

アクセサリー

【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉

【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉



天狐族Lv64

《錬想銃士》Lv4

《真魔銃》Lv11《操銃》Lv32《短剣技》Lv34《拳》Lv55《速度強化》Lv100※上限《回避強化》Lv100※上限《魔力回復補助》Lv100※上限《付与術改》Lv11《付与練銃》Lv12《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv37


サブ

《調合工匠》Lv28《上級鍛冶工匠》Lv6《上級革工匠》Lv6《木工工匠》Lv34《上級鞄工匠》Lv8《細工工匠》Lv46《錬金工匠》Lv45《銃工匠》Lv36《裁縫工匠》Lv15《機械工匠》Lv21《調理師》Lv24《造船》Lv17《家守護神》Lv56《合成》Lv50《楽器製作》Lv5《バイリンガル》Lv8


SP 13


称号

〈もたざる者〉〈トラウマニア〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈摂理への反逆者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉〈工匠〉〈呪われし者〉〈主演男優賞?〉〈食物連鎖の最下層〉

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