良血馬(サラブレッド) 4
『やっと、捕まえれました。シュン、俺の勝ちです』
肩を叩かれた事で、僕が振り返ると見覚えの有る青髪のエルフが、そこにはいた。
『えっ!?何で、どうして?』
何が起きたのか、全く理解する事が出来ない。落ち着け、落ち着くんだ、僕。そして………何が有ったのかを思い出すんだ。
さっきまで、僕の周りには鬼どころか、誰一人として居なかったはずだ。少なくとも、Y字路で確認した時には、人影は見当たらなかったよな。ここまでは、絶対に間違いは無い。
次に僕が進んで来た方向だけど、何人かの鬼は追い掛けて来ていたのは確かだ。だが、その方向は僕が直接確認しながタイムアップを向かえようとしていたので、その方向から捕まる………まして、背後に回り込まれて肩を叩かれる事は絶対に無いはずだ。ここまでも問題は無いだろう。
そうなると、さっきの鬼みたいに上からか………いや、それも違うか、あの時の経験を生かして、タイムアップ直前に上も念入りに確認した。もしかして、見逃していただろうか………いや、建物と空以外は視界には無かった。絶対に近付ける範囲に緑一色の人影は居なかったのも断言出来るだろう。
いくら考えても、何が起こったのかが分からない状態で、僕を見上げるブレッドの勝ち誇った顔を見るのは、ちょっと悔しいな。鬼ごっこのルール上、負けても仕方が無いと思ってはいたけど、実際に負けるとなると、やっぱり悔しいんだよな。
『まだ、何が起きたのか分からない?じゃあ、ヒントだ。シュンは、何回この場所を通ったと思う?』
何回通った?このY字路は、大通りに繋がる左の路地と路地裏の中心部に向かう右の路地、僕が進んで来た路地も路地裏にしては十分な広さが有る。
それに、この辺りは全体的に見通しが良い通りになっているので、鬼側からすれば逆に隠れる場所が少ないからな。それなりの回数は利用したと思うけど………全部で六回くらいか?
『多分、五回か六回だと思うけど………』
『残念。俺が知っているだけでも、今通ったのを合わせて九回目だ』
『九回!?』
僕は、そんなにこの場所を通ってたのか………と言うか、ブレッドはそれを全部見ていたのか?
『そう。そして、シュンはこの場所を通る時は常に右、左、右、背後の順に確認して右の路地を進んでいるんだ。ただ、最後だけは何故か、上も確認してたけど………この事は分かる?』
そう言われてみれば、進行方向の右、次にその反対側の左、それからもう一度進行方向の右、最後に背後の順に確認していたかも知れないな。でも、これは無意識と言うよりも鬼が出てきやすい方向を重点的に見た結果だ。
進行方向も、左側は見通しが良いけど路地自体は短かく先に進むと広い大通りにも繋がっているので、大通りでの待ち伏せを警戒して進行方向の選択肢からは除外している。背後は、常に何人かの鬼が追い掛けてきているので、その道を戻ると言うのは自殺行為になりかねないから、こちらも同じく進行方向から除外していたよな。
………と言う事は、必然的に見通しが悪くても進んだ先の逃げ道の多い右側を好んで選んで進んでいたのかも知れない………と言うか、逃げる側が選択肢を増やすのは当然の事だよな。
『ブレッド、降参、降参だ。あの時、何が起こったのかを僕に教えてくれないか?』
僕の近くに隠れられる場所は無かったと思うし、後ろから追い付かれたと言うのも本当に考え難いんだよな。
『シュンが、Y字路を通る時に決まり事が有ったのは、さっき話した通りなんだよ』
そこまでは、何とか理解出来るんだよな。
『俺は、鬼ごっこ開始直後から建物の上でシュンを追いながら動きを見て行動パターンだけをひたすら探っていたんだ。そしたら、この場所を訪れた時だけ、僅かに隙みたいなものを見せている気がした。それで、この場所をシュンが再び通るのに賭けて待ってたんだ』
開始直後からと言う事は、ゲームの最初は捕まえる事を捨てて、見る事に徹していたって事だよな。一人しか勝者がでない状況では、かなり大胆な采配………いや、戦略だよな。
『でも、あそこの近くには隠れる事の出来る場所は無かっただろう?』
『路地には、隠れる場所は無いから、この先の大通りで待っていたんだ。ここの確認だけは、何回見ても目視で一回だけと他に比べると本当に若干甘めだったから………』
大通りで待っていた?だと………終了前に、僕は撹乱も兼ねて広場の方に一旦離れたから、再びこの路地を通るかどうかも分からないと言うのにか?
それに、あの場所には自信が有ったから、確認は若干甘めだったのかも知れないけど………確認した時に残り時間は、三秒くらいだったよな。
『それでも、三秒でここまで来るにはギリギリじゃないのか?』
その辺りの確認だけは、慎重にしているからな。
『うん。間に合うかどうかは、本当に賭けだったよ。でも、ずっとシュンの背中を見てたから、大きな賭けにでも出ないと俺にはシュンを捕まえれないと感じたんだ。それでも、俺が《速度強化》スキルと《条件反射》スキルの《反射神経》を取得してなかったり、シュンが最後に上を確認してくれてなければ、絶対に間に合わなかったと思う。その点は本当に運が良かったよ』
僕が、立体式に移動してきたプレイヤーにビビって、最後に上を確認したのが裏目に出たのか。でも、直前に壁を蹴って移動するの見てるからな。確認するなと言うのも無理な話だからな。それが無くても、さっきまでの十五分間は疑心暗鬼全開の連続だったのだからな。
それにしても、身体強化系にも複合スキルが有ったんだな。《速度強化》と《回避強化》にも有るのか?ちょっと気になるよな。その為にも、早目にSPを貯めなければならないな。
『そうか………うん。完全に僕の敗けみたいだな。皆も待っていると思うし、広場に戻ろうか』
『お疲れ様っす。頑張ってくれた黒の職人さんと勝者の方に、今一度大きな拍手を』
チャリさんの一言で、広場に現れた僕達二人に温かい拍手と冷めたブーイングが木霊している。
ちょっと空気が重くないか?どちらかと言うと、若干ブーイングの方が多い気がするな。ブーイングの大半は、多分このあとの三ゲームに参加しようとしていたプレイヤー達だよな。まぁ、事前に決めているルールだから、そこは嘆いても仕方が無いんだけど。
『凄いブーイングの量っすね。まだ、参加出来てなかった皆さん、納得がいかなったっすか?』
『最後、あまりにもあっさりと簡単に捕まり過ぎだぞ』
『『『そ~だ!そ~だ!良い事言った』』』
『最後は、やる気が有ったのか?』
名も知らない誰かから放たれた無責任で無情な一言で、一気にブーイングの勢いが勝っていく。直前に多少の変更は有ったけど、ルールとしては皆に公平だったからな。それに、最後は完全にブレッドの一つのゲームを通しての戦略が僕の想像を上をいっているからな。
『黒の職人さんは、勝者の名前を知っていたし、これは八百長じゃないのか?』
えっ!?そこを疑うの?
『『『『出来レース、出来レース…………』』』』
しかも、会場を巻き込んでの出来レースコール。こう言う事をしている時点で【noir】のメンバーには向いてないんだけどな。
それとも、僕の疲労感は全く伝わってないのか?体力的には、疲れていないように見えるけど、精神的にかなり疲れているんだぞ。まぁ、最後の最後、時間切れ寸前に捕まるとか、多少は演出と感じてしまうのも分かるんだけど………それでもな。もう少し、僕に優しく出来ないのだろうか?
分かっているのかな?分かっているんだよね?僕も人の子なんだよ。人間不振になっちゃうんだよ。
『このクエストは、出来レースや八百長では全く無いんすけどね。う~ん………この調子では、収まりがつきそうも無いっすからね。皆さんは、どうしたいっすか?』
『え、延長戦だ』
『『『『『おぉぉぉぉぉ~~!!』』』』』
『うん。それも良いっすね。観客の皆さんも盛り上がっているみたいですし………カゲロウくん、特別ルールの延長戦の開催はどうっすか?』
司会としては、会場を盛り上げたり、静めたり、雰囲気をコントロールする為には正しい選択だと思うけど………チャリさん、僕の意見は無視ですか?そこのカゲロウも指で小さくOKとかしないで下さい。
『それでは、クエストの発案者兼責任者からもOKとの了承が出ましたので、今から延長戦を行うっすよ!!』
『『『『『うぉぉぉぉぉ~~!!』』』』』
会場全体を巻き込んでいたブーイングが一気に歓声へと変わる。こうなったら、僕に拒否する権利が有ったとしても、誰からも認められないんだろうな。まぁ、もともと四回やる予定だったから、予定通りと思えば済む話なんだけど………後半になればなる程、鬼も色々な事に馴れてきて僕を捕まえ易くなるだけだと思うんだよな。
『それでは、延長戦のルールを発表するっす。そうっすね。延長戦っすから、参加出来なかった残り三ゲームの参加者全員で十五分限りのラストゲームでどうっすかね。勿論、延長戦と言う事も有るっすから、黒の職人さんにも全力を尽くして貰うつもりっす。黒の職人さんには、使用禁止にしていた装備の使用を認めるっすよ。その他のルールは、鬼ごっこと同じっす。三十分後にゲームを開始するので、皆さん準備よろしくっす』
おいおい、考あまりえたくない事だけど………今、完全に打合せ無しで延長戦のルールを発表したよな。しかも、追加ルール付きで、これはチャリさんのオリジナルルールか?
それに、使用禁止の装備って言うのは白と黒の事だよな。あの二丁が使えるなら、絶対に僕の敗けは無いぞ。チャリさんは、【白竜】と【黒竜】がファミリアだと言うのは知らないはずだよな。それなのに、全力を出す為にって………咄嗟に思い付いたルールにしては色々と出来過ぎてないか?
『まさか………』
ここまでが、カゲロウの考えたオリジナルのシナリオだったのか?いや、流石にそれは考え過ぎだよな。でも、もし、そうだとするなら………一体どこからどこまでがシナリオだったんだろう。考えただけで怖くなるな。
カゲロウから【白竜】と【黒竜】を渡されて全力を惜しみなく出せるようになった僕は、鬼に捕まるどころか、ほとんどの鬼に出会う事なく移動して、仕方が無く出会った鬼に対しても、気付かれる間も無く一瞬で殲滅すると言う圧倒的な実力差で延長戦を終了させた。
1stゲームとのあまりの違いに、再度1stゲームの八百長を疑うプレイヤーもいたが、1stゲームの敗者達と全てを監視していた【サイク=リング】のメンバーによって、チャリさんの解説だけでは伝わりきらなかった生のゲーム内容や僕の動きが伝えられた事で、ブーイングや八百長疑惑は一気に沈黙した。
まぁ、実際の敗者達が認めたのなら、それ以上の追及は難しいからな。
『うわっ!?一体これは何?』
閉会式等を終えて、ギルドホームに入った僕とブレッドを待っていたのは、アキラとフレイと新しく【noir】のメンバーになったのであろうサラ。そして、土下座をしていて全く微動だにしないカゲロウ、ヒナタ、ケイト。
『ギルマス、すまなかった』
『マスター、ごめんなさいです』
『シュンさん、すみませんでした』
この三人に、僕の不在の間に一体何が有ったんだろう?僕って、何かされていたかな?
〔『白と黒には分かる?』〕
〔『主よ、ワシには分からないのじゃ』〕
〔『………ノーコメント』〕
『………』
しばらく思いあたる事を考えてみたけど、三人に謝られる事なんか思い付かないよな。カゲロウ単独なら、鬼ごっこだと思うんだけど、三人だからな。
ある程度、この状況に反応出来ている僕は良いけど、僕の隣にいるブレッドとアキラの隣にいるサラには、僕以上に状況が伝わっていないようだ。まぁ、それもそのはずか、僕とケイト以外とは全く付き合いが無いのだから。
〔『主よ、取り敢えず、三人の土下座を止めさせてはどうかのう』〕
『あっ、そうだね。理由を聞く前に土下座を止めて、ソファーに座ってくれるかな。新人達の歓迎も兼ねて僕が紅茶でも淹れるから。少し落ち着いて欲しいかな』
ちょっと、動揺して考え過ぎていたみたいだな。
この場にいたアキラとフレイが止めないと言う事は、かなりの事件なんだろうけど。僕自身を落ち着かせる為にも、まずは紅茶を淹れよう。それと、ついでに二人の歓迎を兼ねてとっておきも出させて貰おうかな。
ケイトに頼んでいた、とっておきを回収する為に外に出ると、隣の畑に、一週間前はまだ小さかった紅茶の木が完全に収穫出来るようになっている。僕がいない間にカゲロウが水やり等の世話をしてくれてたんだろうな。せっかくだから、この新茶葉を使わせて貰おうか。この時点で、僕としてはカゲロウ達三人が何をしでかしていても許せるんだけどな。
通常なら、発酵と乾燥をさせないと茶葉としては使えないのだが、ここはファンタジーの世界トリプルオーの中だからな。調理用の簡易発酵機や簡易乾燥機がキッチンに設置されている。まぁ、最初から設置されているのではなくて、僕の趣味で増設しているのだけど、今まで設置しただけで料理に使う機会は全く無かったから、ちょっと使うのが楽しみだよな。
茶葉の新芽だけを採取して、早速試してみるか。
乾燥させて、揉み混んでから発酵させて、もう一度乾燥させる。工程をこなす度に茶葉から良い薫りがしてくる。細かく分けると他にも工程は有るのだけど、これ以上は知識だけの技術素人の僕には無理だからな。まぁ、いつかは茶葉から紅茶を作ってみたくて勉強していて良かったよな。また一つ夢が叶った気がする。
『あっ!そうだ』
次は機械に頼らずに茶葉を加工してみようか。明日から、またしばらくの間は船での移動が待っているからな。船で海風を利用して茶葉を乾燥させても面白いかもな。新しい出会いが有るかも知れないのだから。
皆に、自家製茶葉を使った色々な意味で出来立ての紅茶を配り終えて、やっと皆が落ち着いて話をする雰囲気になった。本来なら、新人二人の歓迎会や自己紹介が先だと思うけど、カゲロウ達三人のテンションが普通じゃないからな。まず先に、この状況の改善を試みた方が良いだろうな。
〔『………と言う事でだ。白と黒は、しばらくの間は静かにしててくれよな。あとで、白と黒の自己紹介の時間も取るから、自分達の自己紹介を考えていてくれ。大人しくしていたら、あとで紅茶と最高の茶菓子をセットで出す事も約束するから』〕
〔『………了解』〕
〔『楽しみなのじゃ』〕
『味は、どうだ?一応、これは僕手製の自家製茶葉を使った紅茶なんだけど………』
個人的には市販の茶葉よりも、味のインパクトも有り、薫りが強く出ていて美味しいと思うんだけどな。
『うん。紅茶は今日も最高に美味しいよ。シュン、そろそろカゲロウ達の話も聞いて上げたら?』
まぁ、そうなんだけどな。いざ、話を聞くにしても何から聞いて良いのか分からないから、困っているんだけどな。
『ギルマス、今日は本当にすまなかった』
『それなんだけど………僕も紅茶を淹れながら、ずっと考えてたんだけどな。僕としては三人に謝られる理由が思い当たらないんだよな』
いくら考えても、分からないものは分からないからな。当人達に聞くしか方法が無い。
『ギルマス、本当に分からないのか?今日のクエストの事なんだぞ』
『???』
鬼ごっこの事?ますます、分からなくなったな。カゲロウのクエストで三人に謝られる理由が無いんだけどな。まぁ、カゲロウは別として………
『何から説明したら、分かり易いのかも分からないが………俺達三人は、このクエストでクリアする者………簡単に言うと、ギルマスを捕まえられる者が出るとは、思って無かったんだ』
『『はっ!?』』
このカゲロウの発言には、僕だけでなくブレットも驚きを隠せていない。まぁ、そうだろうな。自分がクリアしたクエストの真実がクエストの発案者から暴露されているのだから………
『本当に想定外の出来事だったんだ。新人プレイヤー達にどんなに大きなハンデを与えても、新人プレイヤー達がどんなに束になっても、ギルマスが捕まるとは全くこれっぽっちも思ってなかったんだ』
今ので余計に分からなくなってきたな。鬼ごっこのルールでは、最初に捕まえたプレイヤーが勝者にして【noir】への加入を得られるはずだったよな。
確かに、ケイトやヒナタのクエストやカゲロウ達が【noir】に加わった以前のクエストとは、加入条件が少し異なっているなとは感じていたけど、カゲロウが一生懸命考えたクエストだから、反対する気は無かったんだけどな。僕は、途中で何か大きな間違いをしでかしたのだろうか?
『シュンさん、本当にすみませんでした。カゲロウが考えた事になっている鬼ごっこは、本当は私達三人で考えたクエストなんです。本当はクリアするプレイヤーを加入させるのでは無くて、どんな状況になっても臨機応変に状況に対処する対応力と内面的な性格を見るクエストだったんです』
『そうなのです。このクエストを採点していたのは、カゲロウだけでは有りませんです。私とヒナタは途中からですけど、隠れて採点に加わってましたです』
なるほどな。だから、ゲーム開始直前にルールの追加が有ったり、《探索》スキルの使用禁止にしたのにも関わらず、僕の位置を中継するとか矛盾した行動に出たんだな。僕が一ヶ所に留まっていたら、全く審査自体が出来ないのだからな。
『シュン、すまんな。それな、実はウチらも知ってたんやわ。ウチとアキラも裏では審査員してたんや。だから、本当はウチらも同罪なんや』
『ごめんね。シュンに秘密にする事を言い出したのは、私なんだ』
なるほどな。僕以外は、最初から全部知っていたんだな。逆に、その方が納得がいく。どおりで、誰も何も言わなかったはずだよな。
〔『………と言う事はだ。当然、カゲロウに買収されていた共犯者として、白と黒も全部知ってたんだろ?』〕
〔『主よ、すまなかったのじゃ。当初の予定では、事前に主にも説明する予定だったのじゃが、【ペンタグラス】の件が有ったからのう。主には、秘密にする事になったのじゃ。主は、人を騙すのに決定的に向いてないのじゃ』〕
〔『………不向き』〕
〔『なるほどな。そう言う理由が有った訳か』〕
まぁ、あの時は周りが僕を知らないプレイヤーばかりだったから、ゼニスを騙す事とゼニスを目立たせる為に過剰な演出に拘ったところも有るからな。多少、調子に乗り過ぎたところも有ったのかもな。確かに、あの芝居を見ていたカゲロウ達が僕の演技力を警戒しても仕方が無いかもな。うん。きっとそうだな。決して、演技力が無い訳では無いのだろう。
〔『主よ、自分で自分を慰めているところ、本当に申し訳ないのじゃが、主の演技は物凄く残念なのじゃ』〕
そこは分かっていても、さりげなく流すのが優しさだと思うんだけどな。
それに、今回は僕の事を知っているプレイヤーが多いからな。確かに、事前に全部知っていたら、僕の演技レベルではバレた可能性は高いよな。僕の行動にリアリティーが無くなるからな。これは、決して白に言われたからでは無く、僕自身で自覚している事だ。
実際に、鬼ごっこ中はカゲロウの事を少し恨んでいたから、反骨心で頑張れたと言う面も大いに有るからな。それが無かったら、諦めると言う選択肢を真っ先に実行してたかも知れないのも事実なんだよな。
良いように捉えるなら、敵を欺くには味方からなのだろう。
………と言うか、白と黒を使用禁止にされた段階で、かなり僕としては限界だったんだぞ。僕が捕まると思ってなかったとか、ちょっと僕の評価が高くなり過ぎてないかな。1stゲームを最後の方まで逃げ切れたのは、鬼が【水鉄砲】を警戒してくれたのと、鬼同士がお互いを警戒して足を引っ張りあってたからだ。そう言う、ちょっとした運が今日の僕は良かっただけで、僕の実力では無いからな。
『一応、ギルマスにも細かいルールが決まった段階で説明しようかと思ってたんだが………』
『あぁ、僕に気を使わなくても大丈夫だぞ。こう言う事だろ?事前に全部知らせていたら、僕の演技力が信用出来なかったんだろ。今、白達に色々と聞いた。むしろ、その方が有り難かったかな。確かに、僕が事前に知っていたら、序盤から本気で鬼達に【水鉄砲】を撃てなくて、全員に平等では無い気がするからな』
多分、事前に知っていたら、どの鬼にもある程度のチャンスを与えようとしていただろう。そのせいで、捕まる事は無かったかも知れないけど、リアリティーには欠けていただろうな。
白達と聞いて、サラとブレッドが不思議そうな顔をしているけど、今は無視だ。あとで、絶対に分かる事だからな。
『だから、それはもう良いよ。だけど、【サイク=リング】は、どこまで知ってたんだ?多分、あの流れだと延長戦の事も事前に打合せしてたんだろ?』
僕の事はもう良いけど、チャリさん達に迷惑を掛けていたら、話は別だからな。
『やっぱり、延長戦の件はバレてたのか。正直に言うと、ギルマスの言う通りだ。万が一、本当に万が一の場合用に延長戦の打合せはしてあった。それと、チャリさん達には、今話した事は教えてないから、普通に鬼ごっこがクエストだと思っているはずだぞ』
『シュン、本当にごめんね。私を含めて皆を許して下さい』
『まぁ、本来なら怒って然る場面なのかも知れないけど、納得がいったからな。全然、気にしなくて良いぞ………と言うか、最初から怒ってないからな。それに、真実も皆が言わなかったら、僕自身は分かってないし。そんな事よりも、紅茶の味はどう?皆の意見を聞かせて欲しい』
僕にとっては、理由が分かった鬼ごっこの事よりも、自家製茶葉の味の方が絶対に大事だからな。
『とってもシュンらしいと思うんだけど。たまには、怒っても良いんだからね』
今回の場合は、本当に怒る理由が無いだけなんだけどな。
『あの~、お取り込み中に、すいません。今のを踏まえて、俺の合格は?どうなるんですか?』
『あぁ、それね。クエストの本当の内容が分かったとしても、一度出た合格が取り消される事は無い。この辺りは現実の入試と一緒だな。多分、クエストの真実を踏まえて僕の意見を述べさせて貰うと、ブレッドは僕を捕まえきれてなくても、ブレットの考えて実行した作戦だけで合格だったんだろ?どうだ?カゲロウ』
僕自身が作戦を聞いて見事だと思ったからな。これで、合格にならなかったら、誰も合格にはならないだろうな。
『あぁ、そうだぞ。流石にギルマスは良く分かっている。ブレッドくんは合格だ。あの戦略とそれを実行する能力は十分に評価出来ているし、その他の行動も良かったからな』
ブレッドは安堵の表情を見せているな。僕達が話している間、彼は一人で不安だったんだろうな。
『まぁ、僕としては他にも一人だけ合格にしても良いプレイヤーがいたんだけどな』
あの壁移動は衝撃的だったからな。もう少し我慢してタイミングを見計らっていたら、僕は確実に捕まえられていたはずだ。あの時に僕が捕まらなかったのは、単に運が良かっただけなのだから。
『多分、ギルマスが言っているのは、壁移動をしていたプレイヤーの事だろう?』
『そうだ。やっぱり、合格なのか?』
『Noです。あのプレイヤーは、失格になったあとで街やNPCの皆さんに迷惑を掛けていましたです。あのプレイヤーを合格させるのはNo Thank youです』
確かに、それが事実なら最初から【noir】には縁が無かったかな。
それにしても、気になったプレイヤーは、失格後まで審査していたんだな。この感じだと、クエスト中に見掛けなかったアキラ達は隠れて失格者側の審査してたかも知れないな。
どおりで、【サイク=リング】のプレイヤーにクエスト進行の助っ人を頼む程、人に困ってたはずだよな。
このクエストは僕が知らないだけで、かなり大掛かりなクエストだったらしい。表向きの体裁は、鬼ごっことなっているけど、裏でやっていた内容は、以前のクエストの面接に近いものが有るからな。
『じゃあ、話も終わったみたいだし、新人の歓迎会を兼ねて簡単な自己紹介をしようか。まずは新人二人から』
『俺から、いきむす』
あっ!!噛んだな。他の皆も同時に反応している。ブレッド自身も自覚が有るのだろうな。顔が真っ赤になっている。髪の毛が青いから余計に目立つよな。
『これからは、同じギルドの仲間になるんだ。緊張しなくても良いんだぞ。ここはギルマスを始め、皆が良い人ばかりだからな』
早速、カゲロウに先輩としての自覚が芽生えたみたいだな。それでこそ、ギルドメンバーを増やしたかいが有ると言うものだ。
『はい。俺は、ブレッド。エルフの《準騎士》です。生産系は《調合》です。よろしくお願いします』
カゲロウが選んだ新人が《調合》持ちなのは、丁度良かった。教育係はカゲロウに決定で良いだろう。まぁ、そう言うのも知ってていたから合格にしたのかも知れないけどな。
『私は、サラと言います。午前中のクエストで評価されて【noir】に入る事が出来ました』
サラは、ヒナタのクエストで他の参加者が【noir】のマークや黒の職人さんをモチーフに取り入れて、どう見ても【noir】に媚びたとしか言い表せない面を作っていく中で、ただ一人だけ周りの雰囲気に流される事無く、一風変わったひょっとこのお面を一心不乱に彫り上げたらしい。
出来上がったお面を僕も見せて貰ったけど、二枚の板を繋ぎ合わせて彫っているのにも関わらず、繋いだ形跡が分からないくらい丁寧な仕上げがして有った。これを小学四年生が作ったのだから、末恐ろしい才能だよな。
審査していたのはヒナタとアキラの二人だけだったけど、今となっては満場一致でサラの合格が決まっている。まぁ、アレを見せられて反対の意見は出ないとも思うけどな。個人的にも一つ欲しいくらいだからな。
敢えて、僕が評価をするとしたら、出来上がったお面では無く、周りに流されずに自分自身が彫りたい物を一心不乱に彫り上げたところだけどな。
『ケイトさんと同じ《回復師》です。同じと言っても私はジョブチェンジしたばかりですけどね。取得している生産系は《木工》です。私とブレッドは、以前からケイトさんに色々とお世話になっておりました。そのケイトさんの自慢の【noir】に入れて本当に良かったです。皆さん、ヨロシクお願いします』
二人が自己紹介を終えたところで、誰からともなく拍手が巻き起こる。それと同時に、アキラが【ノワールの証】を二人に配る。サラが10番で、ブレッドが11番だ。
ちなみに、雪ちゃんの次の9番は最近加入(まぁ、召喚獣契約を加入と言っても良いのかは分からないけどな)したウルちゃんに渡されている。今日も今日とて、家畜達の世話に大忙しみたいだけど、ギルドの先輩である雪ちゃんとも仲良くなっており、毎日を楽しく過ごせているらしい。まぁ、ギルドマスターの僕としては嬉しい限りだな。
『今、配ったのが、ギルドメンバーの証だからな。それが有れば、ホーム内の施設は自由に使える。個人用の倉庫と共通の倉庫の件は、あとで教育係に聞いてくれ。オリジナルの鞄は加入祝いで僕が製作してプレゼントするから、あとで好きなデザイン等をリクエストしてくれても良いからな』
【ノワールの証】の説明をして、僕達も順番に自己紹介をしていく。二人が、ずっと入りたかった【noir】のメンバーの事は、わざわざこちらから紹介しなくても知っていたみたいだけど。
ちなみに、ハーフマラソンの時に僕に気付かなかったのは普段と格好が違い過ぎたかららしい。
『あの~、すみません。一つ良いですか?』
『どうかした?分からない事でも有ったの?』
『はい。皆さんは、全員で六人ですよね。私とブレッドを入れても八人だと思うのですが、【ノワールの証】の番号が………他にもギルドメンバーさんがいるのですか?』
普通は気付くよな。まぁ、順番に説明しようと思っていた事だから、ある意味では丁度良かったけどな。
『【noir】は秘密にしている事が、他のギルドよりも多くてな。アキラは、マナさん達を。白と黒は、雪ちゃんとウルちゃんを呼んできてくれるかな?』
『了解なのじゃ。黒は、ウル殿を頼むのじゃ』
白と黒と呼ばれた銃が、急に喋りだし竜の姿になって飛び去って行くのを見ていた二人は、目を点にして口をポカーンと空けている。
まだまだ、この辺りは秘密にしている事としては序の口なのだけど………二匹が戻って来るまでに正気には戻らないだろうな。まぁ、戻ってきても結果は同じだけどな。
しばらくして、マナさん達を連れたアキラが戻ってきた。サラとブレッドも、店舗を受け持っている二人の顔は見知っていたので、正気に戻っている。少し驚いていたが、白達の衝撃程では無かったらしい。
『………連れて来た』
『『えっ!!』』
二人は、急にリビングに現れた魔物に身構えている。
『驚かないで下さいです。彼女はウルちゃんと言いますです。私と最近召喚獣契約を結んだケンタウルスさんになりますです』
『ηβεΨξζ』
『ウルちゃんがヨロシクと言ってるぞ。【noir】では生産系スキルの取得は必須だが、《バイリンガル》スキルも必須だからな。SPが余ってたら、早めに習得して欲しい。詳しい事は、あとでケイトにでも聞いてくれ』
『わ、分かりました』
サラの方が、先に正気に戻ったな。やっぱり、女の子の方が肝が座っているのかも知れないな。
『主よ、お待たせなのじゃ。雪よ、自己紹介をするのじゃ』
『雪は、幽霊の雪だよ。仲良くしてね』
あっ!!ダメだ。今度は、完全にフリーズしているな。見た目は、僕らと変わらないが中身は、小学生だからな。処理が追い付かなくても仕方が無いだろう。いや、逆に小学生の方が喜びそうな内容だと思うけどな。
『雪ちゃん、新作の紅茶とシュンのお土産食べる?勿論、白ちゃんと黒ちゃん、ウルちゃんの分も用意してあるから。ゆっくりしててね』
しばらくの間、精神が戻って来ないだろうからな。ゆっくりティータイムだ。
『シュンお兄ちゃん、アキラお姉ちゃん、ありがとなの』
今は、色々有り過ぎてフリーズしているけど、雪ちゃんに慣れたら癒される事は間違いなしだ。何と言っても、雪ちゃんは【noir】自慢の無敵のアイドルで、皆の妹なのだから。
『じゃあ、今の内に今後の話をしておくか。カゲロウがブレッド、ヒナタがサラの教育係をしてくれ。まぁ、教育係と言ってもギルド内で分からない事を教えたり、一緒に狩りに行ったりするだけだからな。別段、普段の行動と何かを変える必要は無いぞ。自分で納得出来る行動をしてくれたら良いからな。それでも、困った時は僕達三人を頼ってくれても良いからな。それと、これはクエストお疲れ様のプレゼントだ。ヒナタには、以前にリクエストされていた指環だ』
船の工房で、時間を掛けて頑張ったから結構良いものが出来たんだよな。僕は、アキラにしたように指に填めてあげる。
【雷天の指環】魔法防御力10〈特殊効果:雷属性無効〉〈製作ボーナス:速度上昇・中〉
『ありがとうございます。大切にします』
少しだけ、顔を赤くして喜んでくれている。これは作ったかいが有ったよな。
『カゲロウには、僕がケイトに頼んで用意してもらった。自然乾燥させた特製の家畜達の糞だ』
『か、家畜の糞!?まさか、クエストの仕返しか?』
まぁ、名前だけ聞いたら引くよな。食事中のテーブルの上に出す物でも無いからな。
『違う、違う。MP回復薬を作る為だ。ポーションを作る為の薬草に家畜の糞を肥料として使えば、MPポーション用の薬草になる可能性が有るらしい』
『えっ、そんな単純な方法だったのか!?』
言葉だけを聞くと単純な事だけど、これだけの条件が揃うと言う事が難しいからな。
『僕も聞いた時は驚いたからな。それから、カゲロウ用に作っていたアクセサリーだ。ケイトとフレイの分も指環出来てるからな。今日は、陰からお疲れ様って事でプレゼントだ』
【銀狼の誓い】防御力25〈特殊効果:光属性〉〈製作ボーナス:防御力上昇・中〉《成長進化》
『ギルマス、これって………』
『気付いたか?ヒナタと同じでファミリアの卵を《合成》してある。それは、遅くなったけど僕達三人からだ。成長したら、見せてくれよな』
ブローチ型の形状で、どこにでも自由に装備出来るように工夫されている。早速、盾に装備しているところを見ると喜んでくれたのかな。
ちなみに、盾に装備しても魔獣器になる事はない。あくまでも【銀狼の誓い】は盾とは別の装備だからな。
【火月の指環】魔法防御力10〈特殊効果:火属性無効〉〈製作ボーナス:攻撃力上昇・中〉
【土星の指環】魔法防御力10〈特殊効果:土属性無効〉〈製作ボーナス:魔法攻撃力上昇・中〉
『ありがとな。この指環をウチは一生大切にするで』
『私も一生大切にしますです』
二人にもヒナタと同様に指環を填めていく。填められている二人共に恥ずかしそうに喜んでいるけど、僕の方は四人目ともなると、かなり馴れてきたよな。まぁ、それが良い事か悪い事なのかは分からないのだけど………
『シュン、私の分は?』
アキラが、振り向いて物欲しそうな目でこちらを見ている。何かを与えますか?普通のゲームなら、こんな文章がスクロールしてそうだよな。
この流れでプレゼントを渡していくなら、絶対にアキラの分も必要になる。完全に失敗したよな。疲れて過ぎていて、完全に失念してたぞ。この雰囲気………単純に忘れてましたでは通じそうもない気がする………仕方が無いな。
『悪い。アキラの分は大絶賛製作中だ。少し遅くなると思うけど楽しみにしててくれ』
これで、この場は大丈夫だろう。
『うん。楽しみにしてるね』
おい、白と黒………それにフレイ、そんな冷たい目で僕を見ないで欲しいな。せっかく、アキラは全く気付いて無いのだから。これは、僕の命に関わる事なんだぞ。アキラにバレる前に止めなさい。
不幸中の幸いで、次の予定は船での移動。時間だけは余るほど有るからな。じっくりと良い贈り物を作らせて貰おうかな。
装備
武器
【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉
【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉
【空気銃】攻撃力0〈特殊効果:風属性・バースト噴射〉×2丁
【火縄銃・短銃】攻撃力400〈特殊効果:なし〉
【アルファガン】攻撃力=魔力〈特殊効果:光属性/レイザー〉
【白竜Lv68】攻撃力0/回復力228〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv68】攻撃力0/回復力228〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv63
《錬想銃士》Lv2
《真魔銃》Lv8《操銃》Lv30《短剣技》Lv33《拳》Lv54《速度強化》Lv100※上限《回避強化》Lv100※上限《魔力回復補助》Lv100※上限《付与術改》Lv11《付与練銃》Lv12《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv35
サブ
《調合工匠》Lv28《上級鍛冶工匠》Lv6《上級革工匠》Lv6《木工工匠》Lv34《上級鞄工匠》Lv8《細工工匠》Lv46《錬金工匠》Lv45《銃工匠》Lv36《裁縫工匠》Lv15《機械工匠》Lv21《調理師》Lv24《造船》Lv17《家守護神》Lv56《合成》Lv50《楽器製作》Lv5《バイリンガル》Lv8
SP 9
称号
〈もたざる者〉〈トラウマニア〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈摂理への反逆者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉〈工匠〉〈呪われし者〉〈主演男優賞?〉




