鬼ごっこ
『いよいよ今日だな』
良く寝れたからか?は分からないけど、目覚めと体調はすこぶる良い感じだ。逆に、それが嵐の前の静けさのようで、軽く不安になるぐらいには………まぁ、出来るだけ頑張ってみるかな。
現在の時刻は朝十時過ぎ。クエストの開始までには少し早い気もするけど、僕は早めにログインする事にした。少しでも、ヒナタのクエストを見たいからな。
『うわっ!!かなり減ってるんだな』
時間的には開始から少し経過した程度のはずだけど、参加者の数は事前に聞いていたよりも激減している。えっ~と、ざっと見たところ二十人前後かな?どうやら、ヒナタの考えた選別は順調に成功したみたいだな。
〔『主よ、残りは二十一人なのじゃ』〕
『うえっ~~』
確か、参加者は三百人くらいだったはずだ。まぁ、中には当日になって参加出来なかったプレイヤーや参加自体が冷やかしだったプレイヤーもいるんだろうけど、開始と同時に二百人以上が失格になったんだな。御愁傷様です。
全て自己意識の低さが招いた結果だと思うけど、ちょっと減り過ぎではないのか?とも思うな。まぁ、逆に審査をしやすくなって良かったのかも知れないけどな。
〔『………何かアドバイスを送る?』〕
〔『いや、今回のクエストは三人が頑張って考えたものだからな。僕は口を出さずに見る側もしくはサポートに回るかな』〕
仮に、ヒナタ達の審査に何かしらの間違いや勘違いが有ったとしても、そこは運だと思うからな。その程度の事で、怒る必要も、気にする必要も無いからな。
今日は、ヒナタのクエストの会場用に、オークション会場をレンタルしている。予定では約三百人の参加者がいたので、街の工房では全員を一回で審査出来なかったからだ。基本的には、専用の工房以外で生産する事は出来ないのだけど、簡易工具等を持つ事によって工房以外の場所でも簡単な作業は可能になっている。僕達はやろうと思わないけれど、やろうと思えば、野外での生産作業も可能だ。
当然、今回のクエストのルールの一つとして道具の持ち込み可能とも記載している。まず、この事に気付くかどうかが、コンテストの隠された第一課題になっているんだよな。
工具は、生産系職人の命と言っても過言ではない代物だ。この事に気付かないで、自分自身で工具を用意せずに会場に集まってくるプレイヤーに、【noir】としては最初から用は無い。事前に課題の内容を知らされて無ければ、仕方が無いと同情出来る余地も有るのだけど、今回は《木工》と《造船》スキル取得者が対象だからな。ある程度、審査が厳しくなるのも仕方が無いだろうな。まぁ、多分《造船》スキル取得者は少ないだろうけど………
生産を真面目にやっているプレイヤーにとっては常識的な事なので、大人数の中からその他大勢を選別する事に向いているし、自分で製作しなくても簡易道具なら、どの街でも安く買えるからな。これを真っ先に思い付いたヒナタは、凄いよな。
ちなみに、【noir】ではギルドメンバーが挑戦したり頑張る為への投資は、どんな額になっても僕を含むギルドマスターの三人は厭わない。だが、最初の選別から漏れたプレイヤー達みたいに、最初から何かを与えられるのを待っている時点で【noir】のメンバーには向いてないと思うし、【noir】の事を全く理解出来ていないのだろう。
仮にそう言うプレイヤーが最後まで残っていたとしても、どのみち合格する事は無いだろうな。ヒナタとアキラも、それくらいの正当な評価は下すだろう。まぁ、そんなプレイヤーが真面目に生産を頑張っているプレイヤー相手に最後まで残るとも思えないけどな。
あとは、完全な技術力勝負となる。まぁ、この中に残ったプレイヤーなら誰が仲間に加わっても技術面で問題は無いだろう。遠目から見ていても、技術力に劣る者は少なそうだからな。
残っているメンバーの中には、イベントで知り合ったサラもいる。ここは、是非とも頑張って欲しいところだな。まぁ、いかに知り合いと言っても審査に手心が加わる事だけは無いんだけど。
『ヒナタ、アキラ、頑張れよ』
ステージ上の二人に向かって手を振り、その場を離れる事に。二人も軽く手を振って返事をしてくれるが、審査に集中しているのだろうな。いつもと違って無言だった。
黒の職人さんの声に反応して、僕のいるギャラリーの方へ振り返るプレイヤーもいたけど、ヒナタ達に厳しくチェックされている。
生産に対する姿勢等もチェック項目に有ったのだろうか?残念だけど、今振り返ったプレイヤーは、落ちたかも知れないな。少し悪い事をしたかな………いや、試験の手助けが出来たと前向きに考えようか。そうでもしないと、今からの鬼ごっこに僕の精神が耐えられそうもないのだから。
このクエストのサポートをしているはずのマナさん達が、会場の中では見当たらなかったので、完全な裏方に徹しているのだろう。二人にもヒナタ達のサポートを頑張って貰いたいな。
鬼ごっこ開始まで、残すところ約一時間。早くも、【シュバルツランド】中に設置されていた観客席は満席になりつつある。観客席以外でもクエストを見やすい位置での場所取りがプレイヤー間で繰り広げているらしい。立ち見のプレイヤーが増えていると言う事は、逃げる側の僕にとっては確実に不利になるんだよな。声援で僕の大まかな位置がバレバレになるのだから………
まぁ、そうも言ってられないので、僕はスキルとステータスの最終チェックだ。今回は白と黒が使えないので、いつも以上にシビアに装備するスキルを選ばなくてはならないよな。
今の時間を使って、一人旅で貯まったSPを全て注ぎ込んで《双銃士》を《錬想銃士》に進化させている。身体強化系のスキルの進化が遅れるけど、ジョブの名前的に今の僕にはピッタリだと思う。
ちなみに、進化条件は中級銃スキル三種取得だ。僕の場合は、《真魔銃》・《操銃》・《付与練銃》の三つが該当している。《付与練銃》が、銃スキルに分類されているのは少し違う気もするけど、進化出来るなら僕としては全く問題は無い。
それに、《銃士》系をここまで育ててるプレイヤーは、圧倒的に少なくて珍しい事なのだから、僕専用みたいな感じだよな。
〔『………最初から』〕
まぁ、黒の言う通りで《銃士》や《双銃士》の段階でも、かなり珍しかったんだけど、テンションが下がるから、今はその事を考えないでおこうか。
まぁ、《銃士》のまま成長を続けれたのは、僕が人よりも少しだけ運が良かっただけなんだけどな。
『黒の職人さん、今日のクエストはヨロシクっす。今日は僕も楽しませて貰うっすよ。ところで、準備の方は順調に進んでるっすか?』
チャリさんか、確かイベントの司会だったよな。まだ、開始までに時間が有るけど、準備に余念が無いよな。こう言う姿勢だは、見習いたい。まぁ、面白半分だと思うけど………
〔『………違う。面白全部』〕
黒よ、流石にそれはチャリさんに失礼だと思うな。まぁ、その点は僕としても完全に否定が出来ないところが、痛いところでは有るのだけど。
『そうですね。それなりにと言ったところでしょうか?』
『僕も同じっすね。今日はバッチリ中継と解説をさせて貰うっす。その点は恨みっこ無っすよ』
『???』
中継?解説?カゲロウからは、司会だと聞いていたけど………
『あれ?聞いてないっすか?おかしいっすね。黒の職人さんが、制限時間いっぱいまで一ヶ所の場所に隠れていられないように、【サイク=リング】から、《探索》系のスキル持ちが何人かで、鬼ごっこ開始と同時に黒の職人さんをマークするっすよ。僕は、その情報を元に解説と中継も司会をしながらやるっす』
『えっ………』
それは、全く聞いてないな。多分、カゲロウとしては直前に発表して、僕を驚かせるつもりだったんだろうけど………正直なところ、かなり迷惑なルールが追加されているよな。
事前に聞いていた個人での《探索》系スキルの使用禁止は、内心はかなり助かったと思っていたんだな。だけど、全体を監視する為に専門的なプレイヤー達が《探索》を使うとなると、その方が逆にキツさが増すと思うんだよな。
《探索》系のスキル所持者は全プレイヤーの10%程度だったのに、【サイク=リング】のメンバーからの情報で、全員が《探索》の恩恵を得られるとなると、単純に驚異が十倍になるんだからな。それと同時に、昨日考えていた対策が全て無駄になったんだよな。その事も僕の頭を悩ませる。
ちなみに、昨日考えていた対策とは、神殿内を中心に逃げたり隠れたりする予定だった。街中の逃走エリアを探し回るプレイヤーの盲点発見と内心喜んでいたんだけど、無駄になった………と言うか、ほぼ使えなくなったな。
ルールなので、ある意味では仕方が無いのかも知れないけど、せめて作戦を考えるのに使った時間を返して欲しいところだな。
カゲロウ達とも、それなりに付き合いが長いだけあって、僕の行動パターンが見破られている気がするよな。本当に迷惑な話だ。
二千人対一人の段階で、かなりのハンデ戦だと思っていたのだけど、それの遥か上空を行くルールが有ったんだな。本当に良く考えたと思うよ。そこだけは、尊敬しようかな。
そう言えば………カゲロウは、昨日の会議の時にルールの説明してなかったよな。事前に聞いていたから、敢えて深く確認しなかったのが裏目に出たかもな………いや、そもそも事前にルールを説明しているところからカゲロウの策略だったのかもな。
『大事な事を、教えてくれてありがとうございます。チャリさん、他にも知ってる事は有りますか?』
こんなに親切なチャリさんを、カゲロウと同じ悪ふざけ組だと思っていた過去の自分を過去に戻ってでも殴りたい。二、三発は………
『他にっすか?あぁ、確か、黒の職人さん側にも何か救済措置が有ったはずっすよ。僕には直接関係が無かったので詳しく聞いて無いっすけど』
『救済措置?ですか………』
それが、本当なら少しは助かるのかな。でも、救済処置が必要になるくらいなら、もう少しルールを優しくしてくれても良いんじゃないかな。
『皆さん、お待たせしたっす。そろそろ【noir】加入クエスト第二弾〔黒の職人さんVS初心者プレイヤー 捕まえれるなら捕まえてみろ 捕まえたプレイヤーあなたの勝ちだ鬼ごっこ〕を開催するっすよ』
あの名前を、そのまま使ったんだ…………めちゃくちゃ嫌すぎる。タイトルだけを切り取って聞くと、どれだけ自信過剰の自信家なんだと突っ込みたくなるよな。
ただ、実際のところは、僕の気分を完全に無視して、周りにいる参加プレイヤー?と観覧者達は盛り上がってるけどな。
『ここで、追加ルールを新たに発表するっす。説明者は、このイベントの発案者【noir】のカゲロウくんっす。では、ヨロシクっす』
『俺が、今紹介された責任者のカゲロウです。新たに追加するルールを説明させて貰います。現在発表しているルールのままだと、一人で逃げる黒の職人さんが圧倒的に不利です。鬼ごっこ自体が、そう言うクエストなので、良いと言えば良いのですが、開始と同時に捕まってしまう可能性も有ります。それでは、参加してくれたプレイヤーと見に来てくれたプレイヤーの皆様に悪いですからね』
確かに、今のままだと限界を感じたら、適当に捕まる事を考える可能性が有るからな。
『そこで、【水鉄砲】と【ローブ】を使用します』
あれは、僕が作ってギルドの倉庫に放り混んでいた【水鉄砲】と普通に市販されている緑の【ローブ】だよな。
『まず、この【ローブ】を追い掛けるプレイヤーの皆様に支給します。こっちの【水鉄砲】は黒の職人さんに使って貰います。【水鉄砲】の中には赤い液体を入れています。この赤い液体が、身に付けている【ローブ】に当たったプレイヤーは一発退場になります』
それは、かなり助かるよな。緑一色で統一された【ローブ】は遠くからでも目立つし、一般のプレイヤーとの区別もつく。捕まりそうな時は、水鉄砲で逃げる事も出来るからな。
それに、赤と緑と言う補色の関係を使っているので【水鉄砲】が当たれば、速攻で分かるのも便利だな。だけど、これって………
『それは、逆に《銃士》の黒の職人さんが有利過ぎるだろ』
『『『そうだ、そうだ。卑怯だぞ』』』
スタート会場となる広場から、一斉にクレームとブーイングの嵐が巻き起こる。まぁ、普通はそうなるよな。これは追われる立場の僕でも、内心はラッキーと思ったぐらいだから。
『参加者の皆様、静かにして下さい。大丈夫、皆様のその意見も想定内です。黒の職人さんにも天狐族の固有アーツ〈乱〉や〈朧〉等の撹乱系のアーツやスキルの使用は禁止にします。さらに、黒の職人さんの場所を発見する為に、【サイク=リング】の皆さんが《探索》系のスキルを使って協力してくれます。コールを使わなければ、観覧している観客から位置情報を得るのも自由です。見失った参加者には、この場所で最新の位置情報を随時提供致します』
『お、おぉ、それなら、俺達にとっても良いのか?』
『そうだな。もともと俺達鬼側は《探索》系の所持者が少なかったし、ある意味でお得かもしれん』
『同意』
『これが本当の鬼に情報』
つまらない事を言っているプレイヤーもいるけど、納得は出来たのか?カゲロウを包むクレームの声が小さくなっている。僕としては納得出来ない事が多いけど、多勢に無勢なんだろうな。
『最後に、この二丁の【水鉄砲】に入るのは各三百発分。計六百発しか入りません。各ゲームの休憩時間には補充出来ますが、ゲーム中の補充は一切出来ないルールです。この赤い液体は、俺の作ったステータス減少薬なので、魔法防御系のアーツで防げます。同様に装備している盾や武器で防いだ場合も失格になりません。失格になるのは、あくまでも【ローブ】に当てられた場合です。この【ローブ】の使用ですが、非参加者に迷惑を掛けない為と一般のプレイヤーに紛れ込むのを防ぐ為ですので、ご了承下さい』
なるほどな。これが、救済措置か。全てのルールをトータルすると少しだけ僕に有利になったのかな。まぁ、あくまでも僕の主観的にはだけどな。
いや、それよりも〈朧〉が、使えない方が痛いかも知れない。ピンチの時に〈朧〉を使って一時的に、やり過ごす事も最終手段として考えていたんだけど………まだまだ、研鑽が必要と言う事かな。
でも、【水鉄砲】乱射による失格を恐れて、開始と同時に襲ってくるプレイヤーの数は減るかも知れないから、五分五分なのかもな?
『それでは、そろそろ鬼ごっこを始めるっす。皆さん、くれぐれも攻撃魔法や街の人に迷惑掛けるのは無しっすからね。迷惑は掛けた時点で即失格っす。それも【サイク=リング】の面々は見てるっすよ。まずは、黒の職人さん、スタートして下さいっす。一生懸命逃げるっすよ。五分後に鬼の皆さんが追い掛けるっすからね。頑張れっす。鬼の皆さんは、今の内に【ローブ】を受け取りに来て下さいっす』
いよいよ、僕の番か。精一杯逃げさせて貰おうか。たとえ、新人プレイヤーと言えど油断は出来ない。新人プレイヤー相手に、あっさり捕まるのは恥ずかしいからな。捕まるにしても、それなりに善戦したい。
〔『主よ、頑張るのじゃ』〕
〔『………頑張れ』〕
〔『ありがとな。行ってくる』〕
カゲロウから【水鉄砲】を受け取り、反対に白と黒を手渡して、僕は鬼ごっこのエリアへと駆け出した。
そろそろスタートから五分が経つか?落ち着け、落ち着け、俺。
ブレットがシュンを捕まえようと思ったら、普通に追い掛けているだけでは絶対にダメだ。あの人達に教えられた通り、常に冷静でいて一歩でも先を読まないと………
『それでは、鬼の皆さん。第1stゲームのスタートまで十秒前っす………五秒前………三………二………一………スタートっす。さぁ、皆さん、黒の職人さんを追い掛けて下さいっす。これは早い者勝ちの先手必勝っすよ。こっちも負けずに頑張れっす』
チャリさんの合図と共に、緑一色の鬼達が一斉にエリアに解き放たれる。
いよいよだ。これをクリアすれば、憧れの【noir】に入れる。午前中は、サラも頑張っていたから、俺も負けられない。二人一緒に【noir】に入るんだ。絶対に………な。
だけど、単純に正面から行っても、返り討ちに遇うだけのはずだ。三重、出来れば四重の仕掛けが必要による。そこに、上手く周りの状況を利用出来れば………俺にも十分チャンスが有るはずだ。
そろそろ、五分経過だな。取り敢えずは、《付与術》で僕自身を大幅に補強させて貰おうか。これは、ルールの範疇で全く違反では無いからな。【白竜】と【黒竜】が失われた僕は、手帳の無い警察官と同じ扱いだからな。
それと、早い内に【水鉄砲】のテストは必要だろう。テストをしておかないと、いざと言う時に使えないからな。最初に、見掛けたプレイヤーで試せると良いんだけど。何せ、制限がある以上は無駄撃ちは避けたいからな。
いや、待てよ………最初に有る程度参加者の数を減らすまで、僕の方から一気に攻めれば、それ以降は【水鉄砲】を過剰に警戒するプレイヤーの数多も増えるんじゃないのか?
事前に、クエスト中に【水鉄砲】を使用する事が分かっていたら、白と黒と一緒にもう少しマシな戦略も練れたんだけど、無い物ねだりをしても仕方が無いし………結局は行き当たりばったりの臨機応変で対処するしかないんだろうな。
現実世界で一般に市販されているおもちゃの水鉄砲の射程は長くても約十メートル。僕が《銃製作》で作った【水鉄砲】の射程はテストをしてないので分からないけど、射程ギリギリでは無く、少しでもターゲットに近付き、距離的には十分な余裕を持って射撃したいところだよな。そうなると、どうやって鬼に近付くのかの方が問題になるんだよな。攻撃系のアーツは、使えないから|〈必射〉と〈曲射〉のコンボ《得意技》も使えないんだよな。
普段なら、こう言う時に白達からの有り難いアドバイスが得られるのだけど、今はいない………改めて、白達の有り難みを感じられる。この点だけは、このクエストの発案者に感謝しておきたいな。
おっ、一気に三人か。向こうは、まだ僕を見付けられてないみたいだ。それなら、カモにさせて貰おうか。
僕は、三人の鬼に一気に接近して、左右の【水鉄砲】で三連射を繰り出す。相手に言葉を発する暇さえ与えず、左肩、胸、腹と三人の鬼を順番に仕留めた。
『お疲れ様。もし、次が有ったら頑張って』
感覚的な射程は十メートル弱、一般的な水鉄砲とほとんど変わらないみたいだな。これは、僕にとっては朗報だ。
それに、《付与術》と防具のシリーズボーナスの相性が良過ぎるな。普通に逃げるだけなら、触れられるどころか、射撃を避けられる気もしないからな。
それと、参加人数が多い事が思っていた以上に僕に有利に働いているよな。鬼が数人で纏まってくると、勝者が一人しか生まれないこのクエストでは、お互いがお互いを牽制し合って隙が有り過ぎる………と言う事は、複数の鬼よりも鬼が一人の方を気を付けた方が良いかも知れないな。
まぁ、どっちにしても、背後だけには細心の注意が必要だな。なるべく、逃げる時も壁を背に忍者みたいに逃げたいところだ。そう言う場所を中心に逃げるのも有りかもな。
『『『あぁぁぁぁ』』』
遥か後方で、悲鳴が聞こえてくる。クエスト自体が発表されてからは、かなり時間が経っているのだけど、何の作戦も無しにドーピングを重ねた僕を捕まえられると思ってたのかな?その考えは流石に甘過ぎだと思うな。
開始七分………既に、僕は二百人に近いプレイヤーを仕留めていた。狭くて逃げ道の多い裏通りを選んで移動しているので、一度に十人を越える大人数に襲われる事も無い。平均で三、四人。襲ってきた参加者の中には、魔法防御系のアーツで【水鉄砲】の射撃を防いでいるのにも関わらず、当たったふりをして近付いてくる姑息な演技派プレイヤーや曲がり角で隠れてひたすら待つ待機型のプレイヤーもいたけど、僕も今回は油断せずに警戒心を全開にしているので、誰にも捕まる事は無く、逆に襲ってきた皆さんには退場して貰っている。
『やっと、半分くらい過ぎたか?』
思っていた以上に体力の減少は無いよな。普通なら、短距離を走るペースで七分も走り続けられないからな。ゲームの中とはいえ、有る意味で貴重な体験をしてるよな。トリプルオーの世界なら長、僕は距離の世界新記録更新も夢では無いよな。
それと【水鉄砲】の効果か?序盤に比べて、明らかに捕まえにくるプレイヤーの数が明らかに減ったよな。建物の上から常に監視している【サイク=リング】のメンバーによって、僕の居場所は、完全にバレているはずなんだけどな。多分、色々なところに隠れて、【水鉄砲】の中の赤い水が切れるのを待っているんだろうな。
さてと、これから、どうするかな?
まだ、八百人近くは残っているはずだ。僕から攻め込んで失格者を増やすか?いや、僕から攻めるのは難しいよな。逆に、僕の隙が生まれる可能性の方が高い。かと言って、残り時間が少なくなれば、全員で一斉に攻められる可能性が多いに有る。いや、確実に玉砕覚悟で攻めてくるだろう。一気に攻められれば、弾切れになって、絶対に数で追い込まれるからな。
『主よ、主は考え過ぎなのじゃ』
僕が、走りながらも色々と物思いに耽っていると、この場に居ないはずの白からの突っ込みまで聞こえてきた気がする。確かに、考え過ぎなのかもな。
多分ここが1stゲームの最大の悩みどころだと思う。ゆっくりと落ち着いて考える時間が有れば、最適な対処も思い付くのだろうけど………十数秒毎に、鬼に襲われている現状では、まともに頭も回らないからな。
僕は、移動を続けながらも、出会った鬼は出来る限りは仕留めている。気付かれていない時も有るので、無視しても良いのだけど、路地裏をさまよう鬼達は本気で逃げる時に障害になりそうなので、なるべく排除しておきたいからな。
さて、もう一踏ん張りしますかね。
かなり、早いペースで失格者が出てるみたいだ。流石は、シュンだ。
今のところ、俺が見ている限りでは射撃に無駄は全く無い。たまに、魔法や盾等で弾かれる事も有るが、それも本当に微々たる数だ。やっぱり、実物のシュンは物凄い。
建物の上から全体を見ていると良く分かる。あの人の評価が《鞄製作》としての職人面と謎の多いアーツだけって言うのは、俺はやっぱり納得出来ないぞ。
でも、あの人の本当の凄さは、こう言うところだけでは無いとは思う点は賛成だ。
鬼の方も数人で即席のチームを組んで作戦を考えてるみたいだが、所詮は即席のチームだ。ここぞと言う時に裏切りの方が、真っ先に頭を過って連携が上手くいってない。やはり、ここは不意討ち狙いのチームを囮として利用させて貰うしかないか?
刻々と時間が迫ってくる………焦るな、落ち着け。絶対に、何か有るはずだ。
『うん!?』
今のは何だ?そう言えば、さっきも………でも、これを実行に移すには距離的には微妙に時間が足りないか?
だけど、これはチャンスか?うん。これは俺に残された唯一のチャンスかも知れないぞ。
『う~ん………』
【水鉄砲】の残りが、心許なくなってきたな。倒した鬼の数も四百人は越えていると思うけど………この残量だと、あと百人倒せるか微妙なところだな。
残り時間は五分を切っている。この一分くらいは、鬼に会って無い。残り時間と残っている鬼の数の比率を考えると、それが、逆に怖いんだよな。体力は十分なのだけど、神経の磨り減り具合がなんとも言えないよな。これを、あと三ゲーム続けるなんて、はたして僕に耐える事が出来るのだろうか?
それに、冷静になって考えると、僕が鬼から逃げるのを見ていて観客達は楽しいのだろうか?
『1stゲームも残り三分っす。現在、黒の職人さんは、広場近く南側の路地裏を疾走中っす。おっと、また五人………いえ、六人が失格になったっす。今のところ、黒の職人さんの射撃と回避と作戦が一歩リードと言ったところっすかね。でも、黒の職人さんの表情から見ると精神面はヘロヘロかも知れないっすよ。鬼の皆さんも頑張れっす。あとの三ゲームに参加申請をした皆さんは気が気で無いって感じっすね。おや?また黒の職人さんが、移動したみたいっすね。現在は、広場の裏に潜伏中っすよ。次以降のゲームに参加する皆さん、一生懸命黒の職人さんを応援してあげて下さいっす』
『『『『オォ~~~~!!』』』』
『黒の職人さん、今は頑張れ』
『黒の職人さん、今だけは負けるな』
『黒の職人さ~ん、次の次までは頑張って』
『黒の職人さん、俺だけのものになって』
『『『『えっ?』』』』
実況中継って、こんな感じになってたんだな。次のゲーム以降に参加する参加者なんだろうけど、応援(ただし、一人を除く………)されるのは悪く無いよな。まぁ、完全に私利私欲(ただし、さっき除かれた一人を筆頭に………)が混じっていて溢れてるけどな。
PS.僕はモテたくは有るけど、同性からの好意はご遠慮させて頂きます。
僕は、逃げ易かった路地裏を捨てて、広場まで来ている。一つは、あとのゲームの為にチャリさんの実況中継を聞いて、どんな風に情報を流しているかを知りたかったからだ。思っていたよりも、かなり細かく位置を把握して中継してるよな。どおりで、僕の休む暇が無い訳だな。
もう一つは、別の場所に一回逃げておいて、最後に何回も通り一番逃げ馴れた路地裏で時間を潰す作戦を思い付いたからだ。イベント中に何回も通った事も有って、既に前もって注意する危険なポイントや隠れて襲ってくる不意討ちポイントは把握済みで、確認しながら走る作業がルーティング化されているからな。
今なら、この狭い路地裏が一番不意討ちを喰らわない自信が有る。鬼の戦力を分散させる事が出来れば、ほぼ捕まる事は無いだろう。
千人参加の1stゲームを耐え切れば、僕の完全勝利達成も見えてくる。
それにしても、チャリさんは実況が上手いよな。観客の心をガッチリ掴んでいたからな。IT関係よりも、こう言う表に出る仕事の方が向いている気がするな。
さて、残り時間も減って来たし、周りに注意して、一回も通って無い道を通り、大通りを避けて逃げ馴れた場所に戻ろうかな。チャリさんからの実況中継と観客達の声援で、この場所に鬼が来るのも時間の問題なのだから。
ちなみに、大通りを避けているのは、鬼にとっては隠れる場所が多く有るので隠れ易く、僕にとっては簡単に見付かり易いので、不利でしかないからだ。まぁ、カゲロウ達も僕の性格等を分かっていたから、大通りには設置された観客席が少ないのだろうけどな。
『『『『おぉ~~~~』』』』
広場を横切って逃げる僕の姿が見えただけで歓声が挙がる。これ、位置がバレるので本当に止めて欲しいよな。まぁ、せっかく楽しんでくれているなら声援には応えておこうか。クエストの主催者側の一人として………
右手を高々と空に掲げると、
『『『『いぇ~~い!』』』』
今日一番の歓声が挙がった。横切ったのが一瞬だったので、直接見る事は出来なかったが、盛り上がったのなら幸いだな。発案者のカゲロウも陰ながら喜んでいるだろう。
残り時間が少なくなったからか、僕の進行方向には、うじゃうじゃと緑一色の鬼の集団がいる。今まで、どこに居たんだって聞きたいくらい多いよな。しかも、緑一色なので若干気持ちが悪いし………
まぁ、当然集団で待ち構えている方には逃げず、さっと脇道に逸れる。そして、どんどん路地裏を曲がって逃げる。今日だけで何回も通った道なので、勝手が知れ過ぎているからな。
曲がり角の誰も居ない場所に射撃しながら近付くと、まるで自らが当たりにきたかのようなタイミングで鬼が現れてくる。さっきから、何度もこの繰り返しだ。この鬼達は、本当に考えて行動しているのだろうか?疑問だな。どこかで、全体を見ているカゲロウ達も|人の悪い笑みを浮かべて《笑って》いそうだな。
『うぉっと、あぶなっ』
僕には余計な事を考える余裕は無さそうだな。
僕の目の前に現れた身体強化系のスキルと《拳》や《蹴脚》系のスキルの組み合わせて取得しているプレイヤーの動きは異常だった。なんとか、寸前で【水鉄砲】で、撃退する事が出来たから良いけど、まさか、壁を蹴りながら立体的に上から移動してくるとは思わなかったぞ。そんな移動方法も有りなんだな。
それに、僕が少し油断するタイミングと普通の鬼に馴れる頃を、ひたすら待っていたって感じたよな。かなり、作戦を練っていた事だけは伝わってくる。
『惜しかったな。僕が、審査をするなら合格にしたいぐらいだ』
『ほ、本当ですか?それなら、合格に………』
『それは、カゲロウの判断に任せて有るからな。僕には分からない。じゃあな』
心からの評価だけを言い残して、その場を去る。残り時間が少ないので、同じ場所に留まる訳にはいかないのだから。
それにしても、さっきのは本当に危なかった。警戒するポイントとして上が増えたな。まぁ、この1stゲームで、知る事が出来たのは良かったのかも知れないけどな。
残り一分………
あと少しだ。この鬼の波を抜ければ、安全地帯に逃げれるかな。このままなら、【水鉄砲】の残量も持ちそうだな。出会った鬼に片っ端から【水鉄砲】で射撃しながら、鬼が伸ばしてくる手を掻い潜っていく。
残り三十秒………
早く、早く、早く、時間よ、過ぎてくれ。この十五分間、全く心が休まる時が無かったんだ。これでは、疑心暗鬼になるぞ。次のゲームまでに絶対に休憩時間を貰おう。誰が、何を言おうともな。
残り十秒………
良し、良し、良し、OK大丈夫だ。この角を曲がる事が出来れば、隠れられる場所も追い付かれる場所も無い。絶対にクリア出来る。
良し。右は異常無し。
………四秒、左も大丈夫だ。
………三秒、もう一度右も大丈夫だな。
………二秒、念の為に確認。うん、上にも誰も居ない。背後も追い付いて来れる距離ではない。
………一秒、ふ~~~、やっと終わったな。
『えっ!?』
終了直前に、僕の肩は背後から叩かれた。
それを説明するには、少し前へと時間を遡る事になる。
残り一分。その時に………
もう時間が無いぞ。本当に大丈夫か?今広場にいるらしいあの人は、本当にここをもう一度通るのか?いや、自分自身の観察力、観察に八割以上の時間を費やした自分を信じろ。いや、それも違う。あの人だ、あの人を信じろ。あの人は、絶対に最後まで油断しないはずだ。自分を信じられなくても、あの人だけは信じられる。
だからこそ………だからこそ、もう一度絶対にここ通るはずだ。必ず通る。
残り三十秒………
き、来た。本当に来た。あれは、間違いなくシュンだ。
シュンを信じて、このY字路で待っていて良かった。行動の手順も、ほぼ予想通りだ。予想と違ったのは、待っていたのは俺以外にもいるって事か、潜んでいる場所は違うけど。
しかし、待ち伏せをしていた他の鬼達は、Y字路の入口で一気にシュンさんに襲い掛かる。だが、それを完璧に各々が一発ずつの【水鉄砲】で撃退される。違う、そのやり方では、ダメなんだ。
残り十秒…………
シュンさんが、Y字路の右を確認したぞ。いよいよだ。一瞬が勝負だ。シュンさんが左(俺のいる方向)の確認も終えた。
今だ、行け、躊躇するな。今が千載一遇のチャンスなんだ………
シュンさんが、もう一度右を確認している。頼むから、こっちを向くなよ。
シュンさんが、上を確認している。なっ、に~~今までと違うぞ。大丈夫か?
『えっ!?』
シュンさんが、通って来た道を確認している間に、俺の右手がシュンさんの右肩を捕らえた。本当に制限時間ギリギリだ、でも………
『やっと、捕まえれました。シュン、このゲームは俺の勝ちです』
装備
武器
【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉
【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉
【空気銃】攻撃力0〈特殊効果:風属性・バースト噴射〉×2丁
【火縄銃・短銃】攻撃力400〈特殊効果:なし〉
【アルファガン】攻撃力=魔力〈特殊効果:光属性/レイザー〉
【白竜Lv68】攻撃力0/回復力228〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv68】攻撃力0/回復力228〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv63
《錬想銃士》Lv2
《真魔銃》Lv8《操銃》Lv30《短剣技》Lv33《拳》Lv54《速度強化》Lv100※上限《回避強化》Lv100※上限《魔力回復補助》Lv100※上限《付与術改》Lv11《付与練銃》Lv12《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv35
サブ
《調合工匠》Lv28《上級鍛冶工匠》Lv6《上級革工匠》Lv6《木工工匠》Lv34《上級鞄工匠》Lv8《細工工匠》Lv46《錬金工匠》Lv45《銃工匠》Lv36《裁縫工匠》Lv15《機械工匠》Lv21《調理師》Lv23《造船》Lv17《家守護神》Lv55《合成》Lv50《楽器製作》Lv5《バイリンガル》Lv8
SP 9
称号
〈もたざる者〉〈トラウマニア〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈摂理への反逆者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉〈工匠〉〈呪われし者〉〈主演男優賞?〉




