★第一回公式イベント 1
僕達の中間テストの裏で大々的に行われていたトリプルオーのバージョンアップ期間も終わり、やっとログイン出来るようになった。
バージョンアップ期間終了共にバージョンアップの内容に付いて必死に調べていた蒼真に聞いた話では、やはり初期支給品の鞄は装備と同様に使用停止になったらしい。勿論ログインの制限を越えたプレイヤーに関してだけどな。だから、僕達の頑張りは無駄では無かったようだ。
…と言うか、この話を聞いた時、蒼真はテスト勉強期間にそんな事もしてたんだな…と僕達は若干呆れていたのは、ここだけの話だ。中間テストで本当に追試になっても知らないからな。まぁ、露店の借りの分だけは手伝うのだけど…
『さてと、どうなってるのかな?』
今までとの細かい違いも一つの楽しみだよな。それに、トリプルオー初の公式イベントの方も楽しみなんだよな。バージョンアップ後に出来るようになった事等の詳細は、神殿前の広場に掲示されているらしいのでログイン直後に行って確認しようかな。
『あれっ?おかしいな。ここって…』
ログインして来た時は必ず神殿に着くはずなのだが…僕はこの前アキラと一緒に買ったホームに着いている。それに、振り返るとホームには絶対無かったはずの見慣れない場違い(ホームの雰囲気が台無し)なゲートらしき物まで出来ている。
『あっ!』
そう言えば、あまり気にしてなかったバージョンアップの情報に「ホームにゲート機能追加」と言うのが有ったような気がする。これの事か?
うん。これは、かなり便利になったよな。台無しにされた雰囲気を除けばだけど…まぁ、毎回神殿から始めなくても良いのは、ホームを持つ者だけの特権だな。ホームの雰囲気は増改築で何とかしようかな。本当にホームを買って良かったな。
『ほぇっ?えっ、えっ~~~~~!』
タイミング良くアキラがログインして来た。勿論、僕にアキラを驚かせるつもりは全く無かったのだけど、まじまじと新しく出来ていたゲートを観察していた僕は、結果的にログインして来たアキラの真正面にいた為、アキラを本気で驚かせる事になってしまったらしい。
『そんなに驚かなくても大丈夫だ。ここは僕達二人のホームだから、それとも僕がいるのが嫌だったかな?』
冗談っぽく訊ねてみたが、ここで『うん』とか『はい』とか『勿論』とか言われると僕の心のHPは光の粒へと霧散していく事だろう…
『えっ?違う違う、それだけは絶対に違うから。シュンがいるのは嬉しいけど、心の準備が出来てない時は驚くよ。でも何で?』
うんうん、良かった。うん?ちょっと待てよ…と言う事は僕に会うのは心の準備が必要なのだろうか?まぁ、深く考えても仕方が無いのだけど、多分聞いても教えてくれないだろうし…
アキラは、まだ理解が追い付いてないらしい。まぁ、ログインして来て目の前に僕がいたら驚くのは分かるけどな。
『多分、これはバージョンアップ項目の一つ「ホームにゲート機能追加」の恩恵だと思う』
だから、このホームのゲートを使えるのは、今のところ僕とアキラの二人だけだな。今後増える事になるかは分からないけど、今現在このホーム内に入る事の出来るプレイヤーは、僕達にゲスト認証されている露店の時に協力してくれた仲間達だけなのだから。
『取り敢えず、ここにいても仕方が無いから、バージョンアップの内容とイベント内容の確認しに行こうと思うんだけど、アキラも一緒に行く?』
『そうだね。それが今日の目的だったし』
アキラを誘って広場へ向かった広場には、かなりの人がいた。まぁ、鞄を売っていた露店の時程ではないのだけど。
そして、その人混みの中心には、今までは無かった真新しい掲示板が出来ていて、その前に多くのプレイヤーが群がっている。
第一回公式イベントの詳細
六月一日より十五日間の期間限定イベントになります。
一組は一人~六人のパーティーで事前登録が必要です。
全三百マスのすごろく大会※難易度による分岐が有ります。
マスには…
・○○の討伐
・●●の入手
・すごろく的な内容
…等の大小様々な課題がございます。なお、イベントに参加される皆様は、期間中に限りスキルレベルが上がりやすくなっており、期間限定レアモブの討伐やレアアイテムの獲得も可能になっております。
すごろく大会と書いて有りますが、実際にマスの上を歩くようなアナログ的なすごろくではなく、すごろくマップが表示される〈タブレット型端末〉をイベント専用アイテムとして参加パーティーに支給します。
また、すごろくのクリア報酬は、一回クリアに付き一パーティーで一つとなっており、当然の事ですが難易度によって報酬の内容も変化致します。
なお、期間中は何度でも参加可能ですが、課題の途中でリタイアした場合は以降のイベント参加は出来ませんのでご注意下さい。
最後になりましたが、イベント報酬は期間中に起こしたレアな依頼の内容、すごろく内容での活躍具合で運営側が判断しまして、二十パーティー様にレアなアイテムを一つずつ贈らして頂きます。
『すごろくか…これって、運の要素が強すぎないかな?…と言うか、運営の意地悪なところがここでも発揮されてる気がするな』
僕は掲示板の内容を確認して独り言を呟いていた。
『そうだよね。どうしようか?内容からすると六人パーティーは難しいかも知れないよね』
完全に自分に言い聞かせる為だけの独り言だったつもりが、しっかりと隣にいるアキラには聞かれてたようだ。
でも、アキラが言うように問題はその辺りなんだよな。パーティーの人数が多ければ多いほど、最後に貰える報酬でもめる可能性は高くなるけど、逆に人数を減らすと討伐系の依頼を引き当てた時にクリアするのが難しくなる。本気で攻略するのには、その辺りを絶妙なバランスを取ってパーティーを構成する必要が有るだろう。
他にも僕が気になっているのが、すごろくのマスで出てくる「●●の入手」だ。魔物のレアドロップなら、いかにレアドロップでも根気よく時間を掛けて魔物を倒し続ければ、いずれは手に入る可能性が有る。なので、それ自体はまだ良い方だと思うけど、レアな自然素材の採取や採掘系の課題なら、はっきり言ってプレイヤーの取得しているスキルによってはクリア前に詰む可能性が高いよな。アキラの発言には、その辺も含まれている気がする。
周りのプレイヤー達を見回すと、クリア報酬やイベント報酬に目が眩んでいるのが大半で、その辺りの事を思い付いているプレイヤーは少なそうだ。若干、苦い顔をしているプレイヤーも見受けられるのでゼロでは無いのだけど…その点から見てもアキラは非常に優秀な友人だよな。
『う~ん、本当にどうしようかな?イベント自体には第一回目だから参加自体はしてみたいけど、報酬の方は…そこまでして欲しくは無いかなって感じかな。アキラ、取り敢えずは一度ホームに戻らないかな?』
アキラが頷くのを確認して、二人でホームに戻る。これ以上この話を、この場でするのは雰囲気的にも情報の面でも避けた方が良さそうなのだから。
『この前の鞄の件といい、運営側は本当にちょっとした意地悪が好きだよな…』
僕はホームに戻ってすぐに第一声で本音を漏らした。付き合いは短いが、この程度の本音を話せるくらいにはアキラと仲良くなっている
この前の一件と今回の一件は普通に楽しく遊ぶなら困ると言えば困る。だが、色々面でこれからのトリプルオー自体を楽しむ為に必要な事なら、ゲームの難度が跳ね上がるだけで困らないと言えば困らない事だからな。
さっき思いついたイベントの盲点という名の本質では無いかと個人的には思っている事をアキラに話自体は。やはりアキラも同じような事を思っていたらしい。まぁ、生産系のスキルを取得しているプレイヤーの方が、この本質には気付きやすい内容でもあるのだけど…
『今回のイベントは、ソロで行動した方が良いと思うんだけど…アキラ、良かったら僕とパーティー組んでくれないか?僕達は二人の方がクリア出来そうだ。報酬は、さっきも言ったが僕は要らない。仮にクリア出来たとしたら、アキラが貰ってほしい』
一つ一つ最悪の事を考えながら話した。それをアキラは黙って聞いている。
『私は、最初からシュンとパーティー組むつもり。例え、シュンが嫌だって言ってもね。勿論、言わせないけどね(笑)。報酬の方は私も特に要らないかな…それに、報酬の件は今決めなくても、貰った報酬の内容によって、そのアイテムを必要な方が貰うで良いんじゃないかな?』
笑いながら話すアキラ。
確かにそうだよな。アキラの意見も一理有るな。アキラに短銃は要らないし、僕に短剣は必要ないのだから。報酬はアキラの言う通り適材適所で良いだろう。
そんな会話をしてイベントへの対策を練っているとアクアからコールが来た。
『シュン、広場の掲示板はもう見たか?公式イベントの報酬楽しみだな。きっとレアだぞ。それと、今はホームいるのか?俺も行って良いか?』
『あぁ、ホームにいる…来るだけなら別に構わないぞ』
アクア…こいつもアレだけのヒントを貰いながら、全く不安要素に気付いて無さそうだな。
まぁ、アクアに限ってはリタイアすると言う発想は無いのだろうけどな。やっぱり、懸念事項を説明してやった方が良いんだろうな。アクアとパーティーを組むことになるだろうプレイヤー達の為にも…
アキラにも、アクアが広場にいた多くのプレイヤーと同じように公式イベントの本質に気付かず、浮かれている事を伝えた。
『私、本当にアクアのパーティー抜けて正解だったのかも…レナとドームには悪いけどね』
溜め息をつきながら呟いていた。僕も同じ立場ならそう思うよ。幼馴染みじゃなかったら、率先して助けようと思わないくらいに…な。
『あっ、そうだ。話しは変わるけど、シュンはトリプルオーの情報系サイトにアップされてた動画はもう見た?』
急に変わった話しに、戸惑いつつも…
『いや、あまり情報サイトは見ないからな。何がアップされてたんだ?』
情報サイトで攻略情報を見てゲームを進める行為は、自分の力で知ると言う些細な楽しみを失ってしまう気がして、何となく勿体無く感じてしまう。
トリプルオーの世界は、普段ゲームをしない僕がはまり込んでしまう素敵な世界なのだ。どんな小さな事でも出来る限りは、自分の目で見て体験して理解したいからな。
『この前のシュンがPVPで相手を吹き飛した動画がアップされてたよ。シュンの顔は黒のフードとゴーグルで隠れて分からないんだけど、あの場で実際に見てたプレイヤーも多いから、映ってるのが鞄を作っていた【黒の職人さん】って話題になってるみたい。実際に書き込みしてる人もいるのかなみたいだし』
僕が陰で【黒の職人さん】と呼ばれて密かに有名になっているのは知っていた。それもサイトを見ない理由の一つだったからな。やっぱり〈零距離射撃〉は、そんなにインパクトが有るアーツなのだろうか?
『そんなに目立ってるのか?それなら、装備品をイベントまでに新調して外見を変えなければ…』
地味な見た目が逆に目立って仕方が無い可能性が有る。
只でさえ黒髪黒目の天狐族を、僕は僕以外で見た事がないのに…と言うか、トリプルオーのプレイヤーで黒髪黒目のプレイヤー自体が少ないからな。黒髪だけとか黒目だけとかはそれなりにいるけど、黒髪黒目の両方を兼ね備えるプレイヤーは圧倒的に珍しい。さらに付け加えると《銃士》と言う僕の立場が拍車をかけているからな。
『スキルレベルも上がってるから、私達の使う分の皮製装備は自作出来るよね。自分で製作した物の方が品質も良いし』
アキラも乗り気みたいで良かったかな。
素材は鞄の時の残りが倉庫に余りまくっているし…イベント対策も兼ねて自分達で製作しても良いかもな。二人だけでイベントのクリアを目指すのなら、防御力の底上げは最も重要なポイントになるだろう。
『お~い、シュン。いるか?俺だ。アクアだ』
アクアが着いたらしい。ホームの近くにいたアキラが迎え入れてくれた。
『あの、どうでも良い事だけど、お前ら…最近いつも一緒にいないか?』
『そうか?』
そんな事は無いと思うけどな。その証拠に僕の隣にいるアキラも顔を全力で否定してるし、何故かは分からないが微妙に顔が紅くなっているけど…
『悪い、野暮だった。それで、イベントの事だが、シュン達はどんな報酬だと思う?』
楽しそうに話してくるが、僕達としたらそれが逆に可哀想に思えて仕方が無いんだよな。
『『………』』
『おい、何で二人共顔を見合わせて無言なんだ?俺は何か変な事でも言ったか?』
アクアに問われて、僕がアキラと考えていた事を話し、今回のイベントは二人で参加する事を告げる。
この前の通称鞄事件が有ったので、アクアも絶対的に否定は出来ないようだ…と言うか、鞄事件の時はアクアの方が先に気付いたんだけどな。やっぱり、レア報酬と言う魅力な言葉の響きには勝てなかったのだろうか?
『確かに…あの掲示板の書き方なら、その可能性を否定できない。むしろ、疑い始めると俺もその方向しか考えられなくなるぞ。そうなると、その場限りの即席パーティーでイベント攻略は危険すぎる。いや、人数的にも…』
やっと冷静に戻ったらしいアクアはイベントの後略方法を模索しだした。浮かれてせえいなければ、βからのプレイヤーの経験と情報、知識は伊達じゃないはずだ。
『どうするんだ?良かったら、一緒に…』
何かを決意してホームを去ろうとするアクアの去り際に聞いてみる。
『いや、まず俺はドームとレナに声かけてみる。今日はありがとな』
まぁ、それが無難だよね。ドームとレナの二人とアクアの連携が繰り出す安定感は、ソロで狩りをしていた僕とは比べるまでもないくらい違うからな。そこにアキラが加わるとさらに安定していたんだけど…まぁ、今回は無理なんだよな。
『じゃあ、私達はイベントの登録からだね。そのあと、しばらくの間はイベントの準備と装備の強化かな』
『了解した。二人で分担して手早く終わらせるか』
結局、申請方法が不明なギルドや店舗、工房の設置や改修はイベント後に回す事になった。
広場で少し並んでイベントの登録を二人で済まし、イベント専用アイテムを受け取った。どうやら、このアイテムはイベントまでは使えないみたいで、今の時点では全く動く気配は無い。
担当していたNPCの話ではイベントの参加証の代わりらしい。鞄に入れておくので無くさないから良いけど、イベント専用のアイテムはイベント開始時に渡してくれた方が嬉しかったよな。正直に言うと少し邪魔だからな。
ここで、僕はアキラと別れて一人で《鍛冶》の工房を目指す。僕は《調合》と《鍛冶》工房へ依頼品の回収と仮で試作品鞄を渡していた二人にオリジナルの鞄を渡しに行くと言う用事も有るからだ。アキラはアキラで、足りない素材等の買い出しで露店等を回るらしい。。
『フレイさん、いますか?』
『おるで。どちら様ですか?おやっ、シュン君か。この前は大変やったみたいやな。お疲れさん。ウチも動画を見させて貰ったで』
『あっ、それはですね…』
『勿論、分かっとる。黒の職人さんの正体が自分なんは秘密なんやろ。ウチの口は固いから安心しとき。そや、依頼の品も出来てるで、持ってきよ』
『色々と気を使わせて申し訳ありません。そしてありがとうございます。取りに来るのが、遅くなってすみませんでした。それと、フレイさん用の鞄を新しく作ったので試してみて下さい』
鉄塊等のアイテムを受け取り、フレイさん専用に作った鞄を渡した。
『またまた、えげつない性能の鞄やな。これなら本当に倉庫要らずやわ。でも、これは職人的には大助かりや。ありがとな』
鞄を受け取り満面の笑顔を見せるフレイさん。
顔の表情を見ただけではっきり分かるくらい満足。それだけで製作した会があるかな。この際、《鍜冶》の工房にいる他の職人の目は気にしないでおこう。それに…
『それと、ホームも買ったんで、近いうちに店舗も開く予定ですから、良かったら遊びに来て下さい』
初対面や二度目ましての人達が良い鞄が欲しのであれば、そのうち開く予定の店舗の方に来て欲しい。
『おっ!ホーム買ったんか。それなら、アレはどないや?』
フレイさんが工房入り口にいるNPCを背中越しに親指で指差す。
フレイさんの話では、各工房の受付にいるNPCに話すとマイホームに工房を設置したり、接着した工房を改修出来るそうだ。当然、お金がいくら有っても取得しているスキルランク相当の設備しか設置は出来ないみたいだがな。
その事をフレイさんが知っていたのは簡単な理由で、フレイさんもマイ工房を持つ為に日々節約生活の真っ最中だかららしい。
まぁ、このあとも工房を回るのだから…工房を設置するのは一石二鳥だよな。そう思った僕は、すぐさまアキラにコールを入れた。
『アキラ、今は大丈夫?今《鍜冶》の工房で知ったんだけど、工房の受付にいるNPCに話すとホームに工房の設置や改修出が来るみたいなんだ。工房を回るついでに色々設置しても良い?かな』
『あっ、そうなんだ。前から決めてた事だから、それも良いんじゃない。それなら《革製作》の工房の方は私が回ろうか?』
『じゃあ、そっちはお願いして良い?僕はこのあと《錬金》と《調合》の工房にも寄って行くから。終わったらホームに戻るよ』
短いコールが終わる。アキラは、話が早くて助かるよな。
『それで、シュン君は、どんなホームを買ったんや?』
フレイさんに聞かれて、ホームの規模を説明する。流石はフレイさんだよな。内容を聞いて『シュン君、それ面白いやん』だけで済ませてしまった。フレイさんは人の器がデカさが並みじゃないと思う。
僕はNPCに工房の設置を頼み、次を目指す。
やって来た《錬金》の工房では、お金に物を言わせて足りない素材を大量に購入し、ここでも工房の設置を頼み、《調合》の工房を目指した。
『シュン君、いらっしゃい。グッドタイミングだよ』
《調合》の工房には、慌ただしく作業に追われるネイルさんがいた。
『忙しそうな時にすみません。遅くなりましが依頼されていた鞄です。あと、依頼してた薬品をついでに頂きに来ました』
『本当に丁度良かったよ。僕達、ここにいる皆でなんだけど、《調合》専門ギルド【プレパレート】を作ったんだよ。一応、皆の推薦も有って僕がギルドマスターなんだ。それで、今日は今からお引っ越しなんだよ。だから、慌ただしくバタバタしていて本当にごめんね。そして、次からはギルドホームの方に来てね。場所は…』
それは、確かにグッドタイミングだったな。
このタイミングを逃していたら、なかなか会えなかったかも知れない。まぁ、フレンド登録をしてあるので、永遠に全く会えなくなる事は無いんだろうけどな。
それにしても…今聞いたその場所は、僕達のホームのご近所さんではなかろうか?
『すみません、この場所の近くに広い土地付きの大きなプレイヤー用のホームが有りませんでしたか?』
『うん、有るよ。大きなホームが一つ。でも、よく知ってたね。僕達のギルドはアレの斜め前だよ』
やっぱりか、住所的に近所だとは思ったけど、流石に斜め前とは思わなかったな。まぁ、これはこれで幸運なのかも知れないな。
『それ、僕達のホームなんですよ。近い内にギルドの申請もするので、またヨロシクお願いします』
『シュン君、僕はかなり驚いたよ。でも、近くなのは僕も嬉しいかな。あっ!そうだ。ギルドの申請は、トリプルオー内である程度の実績とお金があれば神殿で簡単に登録出来るよ』
なるほどな。それは良い事を教えて貰ったな。僕の知り合いのプレイヤーさん、特に職人さん関係は優しく親切な人が多い気がするな。
《調合》工房の去り際には、当然ここでもホームへの工房の設置を依頼した。
『シュン!』
《調合》の工房を出たタイミングでアキラを呼び止められる。
本当に、アキラはタイミングが良い。まさか、どこかで見てた訳ではないよね。まぁ、これは冗談だけど、あんまり偶然が続くと疑いたくもなるんだよな。普通の人としては…
『『ギルドの…』』
やっぱり、単純にタイミングが良いだけみたいだな。
『『ふっ、ははっ』』
イベントが終わってからにしようと決めていたギルドの申請を、二人が同時に言いだした事が妙に面白くて二人で吹き出した。お互い気が合うのが本当に楽しい。
そして、お互いに次の言葉を確認するまでもなく二人で神殿へと向かった。
ギルド申請証
ギルド【noir】
ギルドマスター【アキラ】・【シュン】※五十音順
ギルドメンバー【なし】
ギルド登録【支援系ギルド・生産系ギルド】※五十音順
ホーム【有】
これで、僕達のギルド【noir】が承認された。僕達は二人共が〈大商人〉の称号持ちだったので、ギルド開設と同時に二人共を同格のギルドマスターとして登録する事も出来たのは良かったと思う。
二人だけのギルドで一人がギルドマスター、もう一人がサブマスターか平メンバーと言うのは微妙なだ感じだからな。
ここまで来たら、予定があと一つ二つ増えても同じと言うことで、ギルドホームに併設して店舗の開設とホームの拡張や増設も同時に終わらせてしまう。当初の予定が狂いまくった結果だが…まぁ、予定が狂いまくったと言っても元を遡ると最初の目的に戻っただけなんだけどな。神殿で店舗の開設が可能な為、一石二鳥…三鳥となるはずなのだったのだが…
店舗開設クエスト
クエスト詳細 露店で百万フォルムを売り上げろ
クリア済み
急にクエストが発生して、発生したと同時に完了もしてしまった。どうやら、このクエストは過去の実績もプレイ履歴によって採用されるタイプのクエストだったらしい。まぁ、結果的には一石三鳥だったな。
店舗登録証
店舗名【le noir】
オーナー【アキラ】・【シュン】※五十音順
営業時間【不定期】
ここでも〈大商人〉称号が大活躍である。店員としてNPCを雇えるそうだ。まぁ、今は店舗で販売する商品が無いので、NPCの登録自体は後日になるけど、進んで利用したい機能だな。
かなり待たせてしまったが、これでアキラへの鞄事件の報酬も完了だ。まぁ、実際のところ半分くらいは、僕自身への報酬でも有ったので、これとは別に個人的なプレゼントでも贈った方が良いかも知れないな。
僕達が全ての登録を済ませてホームに戻った時には、その場所はログインしてきた時のホームとは全く別の建物…いや、これはもう一つの世界と言った方が正しいだろう。
『うん?本当にここなのか?』
明らかに原型を留めてないんですけど…
『シュン、私達のホームは間違いなくこの場所で合ってるよね?本当に間違いないよね』
アキラに二度同じよう事を聞かれるが、僕もYESと答える事が出来ない。かと言って住所的にはNoとも言えないんだよな。
取り敢えず、僕達が中に入る事が出来たら【noir】のホームだと自分自身に言い聞かせて入ってみる事に…
『あっ、入れた。これって一応ただいまになるのか?』
だが、意を決して入ってみた中は、外で見たよりもさらに変貌を遂げていた世界だった。
本当にホームの原型は何処に行ったんだ?ちょっとした面影すら感じさせられないんだけどな。まぁ、最初のホームはそれほど物が無かったのも確かなんだけど、それでもな…唯一の面影が場違いなゲートとか、笑えるんですけど。苦笑い的な意味で…
工房部分は《革製作》系の設備だけが中級クラスで、他は初級クラスの設備なのだが、街の中にある各々の工房よりも遥かに豪華だ…と言うか設備そのものが真新しい事も有り、清潔感が充満している。決して街の工房が汚いと言う訳では無いのだけど…まぁ、自分達の物だと言う若干の贔屓目で見てるところも有るんだろうな。
各工房の受付にいたNPCに聞いた話では、現時点で設置する事の出来ない上級クラスの工房増設は、様々な条件を満たしてから出現するクエスト等を攻略しないと設置出来ないらしい。ここまでくると、他にも残っている生産系スキル…主だったところで《木工》《細工》《裁縫》《料理》を取得して工房やキッチンを増設したくなるよな。他にも生産系スキルは複数存在するが、マイナーな物や把握出来てない物も有るからな。全部を取得するのは難しいだろうな。
まぁ、自分のマイホームを大きくするのは、ある意味で男のロマンだよね。隣にいるアキラが大きくなり過ぎたホームにかなり驚いているので、今のところは内緒にしておこうかな。反対はされないと思うけど、不要な動揺はさせるだろうから。
『う~ん…商品が無いのに店舗部分がちょっと豪華過ぎないか?』
それに、開店もしていないショップ【le noir】の豪華さには、僕も若干引いているのだから、人の事は言えないよな。
店舗として新設する時にカタログから選ぶのを間違えたかも知れないな。現状、売る予定の物が鞄しか存在していないのにも関わらず、商品を並べる陳列棚が左右の両壁一面に用意されている。まぁ、これでも選べる店舗のランクとしては真ん中くらいなのだけど。
『そうだね。〈大商人〉の称号はギルドを運営したり商売をする上では凄く便利なんだと思うけど、ちょっと調子に乗った私達では少しも余しちゃいそうだよね』
その自覚は僕にも有る。
続けてホームのリビングエリアに入る。二人だけのギルド【noir】のホームには、三十人以上が軽く入れて。ゆったりと出来るリビングスペースと来客用の接客スペースが有るでのだが、今は何も無い。まずは色々と落ち着かせる為にも、ゆっくりとお茶がしたい気分だな。
『アキラに改めてお願いがある』
『えっ、急に何?どうしたの?』
『僕は《家事》スキルを取得していて、ここにティーセットと紅茶が有るから、家具は無いから立ち飲みになるけど、休憩って言う名目でお茶たにしたいんだけど…』
その発言でアキラが目を輝かせた。
トリプルオーの世界では、料理を食べてもポーションと同じ効果と《付与魔法》や専門のアイテムに劣る微々たるステータス上昇効果しかないので、基本的に食事をする必要は無い…のだが、料理にはちゃんとした味が有るので美味しい物を体重の増加を気にせず食べる事が出来る。当然、《料理》スキルを取得していれば自分好みの料理を調理する事も可能になっている。
勿論、市場や野菜、肉等の専門的な商店も有り、食料素材も豊富だ。まぁ、食事に美味しい以外の有用性が無いので完全な趣味スキル扱いらしいのだけど。紅茶を愛する僕には魅力的なスキルの一つなんだよな。
『じゃあ、私は紅茶に合いそうなお茶請けを何か買ってくるね』
アキラは、勢いよくホームを飛び出して行った。
アキラが楽しそうな笑顔を見ると、僕もますます楽しくなるよな。今度は、家具や食器を買いに行きたいな。さしあたって今は、二人の新たな門出に相応しい美味しい紅茶でも淹れさせて貰おうかな。心を込めて…
『あ~あ、これはやっちゃったかな』
紅茶の準備をして、アキラを待つ間に裏庭に出て来たのだが、この結果にはドン引きだよな。
僕が見たその場所は、小さな児童公園が二つは入るくらいの大きさの芝が一面に生えている綺麗な庭が有る。ついでに設置しても良いかなと思って、ホームに帰る途中で寄った《木工》の工房で裏庭も拡張してきたのだが、完全にやり過ぎだったようだ。
まぁ、やってしまったものは後悔しても仕方が無いのだけど…今回は気持ち良く紅茶を飲めるから良しとするかな。芝生の上なら立ち飲みじゃなくて座って飲めるし。結果オーライだろう。
お茶請けに美味しそうなクッキーを買って帰ってきたアキラとお茶にする。アキラも裏庭を見た時は若干…いや、普通に引いていたが、紅茶の良い薫りと緑一色の芝の魅力には白旗を振るしかなかった。
『今、外に出て思ったんだけど、ギルドや店舗の看板を作った方が良いかも。持ち主である私達でも軽く戸惑うくらいだから、私達以外のプレイヤーは絶対に戸惑うよ』
確かに、大きくなり過ぎたホームは分かりにくい。場所を知ってる僕達でさえ戸惑って一発では分からなかったのだから、初めての人には絶対に分からないだろう。
その事は、店舗を運営するにあたって致命的だからな。それに、これはさりげなく目標を達成するチャンスかも知れないな。
『作るとなると《鍛冶》は僕が持ってるから…あとは木材も使いたいから《木工》がいるのかな?まぁ、SPが余ってるから僕が取得して作ってみるよ』
『えっ!良いの?』
『うん。大丈夫、テーブルや家具にも拘りたいから任せて。あと他にも《料理》スキルを取得する予定。こんなに凄いホームだからな。キッチンもそれなりに良い物を増設したい。何よりも、またアキラとこうやってお菓子と紅茶を楽しみたいからな』
『そっ、そっか、じ、じゃあ《料理》は私も取るよ。お茶菓子くらいは私も作れた方が良いかなって思うし…シュンにも食べて貰いたいから』
何でアキラは動揺してるんだ?それに、最後の方が聞き取れなかったんだけどな。別に恥ずかしがらなくても、美味しそうにお菓子を食べるのは普通だと思うんだけどな。まぁ、女の子としてはお菓子を食べる事にも気を使うものかも知れないけどな。
『それと、私もスキル系でシュンに相談があるんだけど、二人でイベントに挑むなら、私も遠距離攻撃の出来る武器スキルを取得した方が良いと思うんだ。斥候系や身体教科書系は充実してるんだけど、攻撃系のスキルが《短剣》と《投擲》だけだから、少し先行きが不安なんだよね』
現状、ギルドメンバー兼パーティーメンバーは二人だけなので、有った方が良いかもな…そうなると、逆に僕も近距離スキルを取るか?もともとサブ武器は欲しいと思っていたところだから丁度良いタイミングかもな。
『その方が良いかもね。それなら、僕も近距離攻撃スキルを取得するよ。アキラのオススメで何か良いの有る?』
近距離が得意なアキラの意見を参考にした方が良いんだろうな。
『《銃士》でメインになる《短銃》スキルと併用になると難しいよね。βの頃の情報も少ないし…例えば、近接攻撃系の武器スキルから選ぶなら、防御もできる《爪》、武器をつかわないスキルなら《拳》か《蹴脚》とか格闘系はどうかな?』
格闘系のスキルか…両手に武器を追加で持たなくてもすむのは助かるかもな。それに…
『その《拳》って言うのは、自分のMPを使って攻撃力を上げる系のスキルなのかな?』
『それは、どうなんだろう?多分、アーツによるとは思うけど、ごめん。その辺は詳しくは分からないかな』
『なるほどね』
アキラが薦めてくれた事も有るが、個人的にも《拳》で決まりかなとも思う。メインが銃と《付与魔法》の僕は、銃を持つ手を出来るだけ空けておきたいからだ。武器を持たずに足を使う《蹴脚》と言う選択肢も有るけど、銃を使うなら、戦闘中の体幹と言うか体軸のバランスを重視しておきたいからな。なるべく射撃時は地面に足を着けていたい。
『シュン、聞いてる?相談の最初は私の遠距離スキルの事だったはずだよ。話が脱線してるし、今は他の事考えてるでしょ』
『ごめん、ごめん』
完全に僕の思考は《拳》スキルでいっぱいだったな。反省が必要だな。
『もう、それで私の遠距離攻撃スキルの話なんだけど、一つは私のジョブ《盗賊》と相性の良い《弓》スキル。もう一つは私が取得している《投擲》スキルと組み合わせられて、近距離・遠距離攻撃も対応出来る《扇》スキルにしようと思うの。属性攻撃も出来るみたいだし、どうかな?』
属性攻撃という意味では、僕の《風魔法》しかない現状、反対する理由がないよな。
『うん。アキラが決めたのなら僕も賛成だよ。今の話を聞いた感じだと、その二つは状況によって使い分けが面白そうだしね。あっ、僕は《拳》にするよ。多分、レベルが上げればMPを使った攻撃またはアーツを防御に応用する事も可能だと思うし』
これで、アキラと僕で前衛と後衛の入れ替えも可能になった。戦闘のバリエーションが増えるよな。休憩もしやすくなるだろうし。
『あっ、それと今日の残り時間はスキル取得と装備を整えて、スキル取得で増えた分の設備を増やそうか、あとは時間が余ったらだけど自作するまでの間に合わせの家具や食器を買いに行かないか?』
『うん、それは素敵だね。でも、まずはギルドの加入条件決めてた方が良いかも…後々、もめるのは嫌だからね』
二人で話合って、ギルド【noir】の加入条件は「生産スキル持ちで、他人を陰から支援するの事が負担にならない、誰に対しても威張らない人」に決まった。当然、僕達二人共が認めなければ加入自体を不可能にしている。まぁ、二人だけの超零細ギルド【noir】に入りたがる変わり者は少ないと思うけどな。
スキルと装備を整えて、ホームの空きスペースに《木工》の設備と《料理》のキッチンを増設した。初期付属のキッチンが使い難かった事も有り、キッチンだけは金に厭目を使わず使い易く最高品質の物をアキラが選んでいる。まぁ、お金の方は余り過ぎているので、こう言う価値の有る贅沢には賛成だけどな。
結局、買い物には二人で出掛けたのだが、家具や食器の選択はアキラに任せた。ここは、アキラの女子的なセンスに期待だな。
翌日からイベント前日までは、狩りを中心に新しいスキルのレベル上げや二人パーティーでの連繋を練習していた。イベントまでに出来る限りの準備もやってきたつもりだ。
今は、アクアからコールが有り、家具や内装が整ったホームで紅茶を飲みながら待っている。
『すまん、シュン。ホームの位置が分からなくなった。俺の記憶だと、この辺だったと思うんだが…』
『あぁ…やっぱりか、すまない。その辺りで見た目が一番凄い建物に金属で縁をあしらった小さな木の板に【noir】って彫られている看板が見えないか?その隣には【le noir】っていう店舗も隣接されてるし、斜め前に《調合》ギルドの【プレパレート】も有るんだけど…分かるかな?』
『…やっぱり、ここがそうなのか?俺としては一夜城を見た戦国時代の武士の気持ちが分かるぜ』
アクアが、なんとも言えない顔で入ってきた。
『シュン、これはやり過ぎだ。流石に、これは…無しだろ』
『そうか?最初は戸惑うかも知れないけどな。工房も設置してあるし、この大きさに慣れると結構便利だぞ』
入って来ていきなり酷い事を言うアクアにも紅茶を出した。
『言っても無駄だったか、それはもういい。俺が来たのは、シュン達がどんな準備したのかが気になったからだ。生産系の職人プレイヤーの立場から見て、どんな対策を用意しておいた方が良いのかを聞きたくてな』
『他の職人プレイヤーから見れば、僕達はまだまだ駆け出しのひょっ子なんだけど…まぁ、良っか。一応、僕達としては、どんな内容の課題が出ても対応出来るようにしてるつもりなんだけど…多分、強モブ討伐とか出たら僕達二人だけだと確実に詰むな。採取や採掘や生産系課題は、生産系のスキルが大体は揃ってるから、自己完結で何とかなると思ってる。僕達は報酬に興味が無いから、イベント全体をゆっくりまったり楽しむだけの予定だ』
『なるほど、俺達が生産系の課題を引き当てたら依頼しても良いのか?』
『僕達の進行の妨げにならない程度なら協力するよ』
まぁ、どっちにしても出目次第になるのだろうけど。
そのあとは、全く実の無い話しをして時間を潰していた。取り敢えず、お互いのチームで一日すごろくをやってみて情報を交換しようという事になった。
六月一日午前十一時、イベント開始の一時間前だが、かなりのプレイヤーがログインして広場でイベント開始の時を待っていた。
当然、その中には僕とアキラもいる。それと、今回のイベントに関しては意外では無いのかも知れないが、ソロ参加であろうプレイヤー達もちらほらと見受けられる。ちょっと無謀じゃないのかなとも思うけど。
僕とアキラは事前の話し合いで、一番難易度の低いコースを一回クリアしてみようと決めている。僕達が喋りながら待っていると…
〔皆様、大変長らくお待たせ致しました。第一回OOO公式イベントを開始致します。皆様、お手元に受付時にお渡ししたタブレットをご用意下さい〕
どこからともなくアナウンスが入った。
〔今から説明させて頂きます。イベント開始時刻になりましたら、支給しておりますタブレット上にダイスが表示されます。ダイスに触れて頂ければ、あとは自動的に進んで行きます。出目の課題をクリアすれば、またダイスが表示されます。タブレット上に次のダイスが表示されない限りは、課題のクリア条件が達成されていない、もしくは課題に対する皆様の理解や解釈が間違っていると思って下さい。次に分岐点についてですが、分岐点にあたるマス目を通過する場合は、難易度等の特殊な解説が入ります。皆様の力と勇気と知恵を駆使して頑張って下さい。それでは、時間まで五分を切りましたね。もうしばらくお待ち下さい〕
さらりと、とんでも無い事を聞いた気がするよな。クリア条件の部分がかなり曖昧に思えてきた。
『あっ、シュン。ダイス表示されたよ』
そうこうしている内に、開始時間が訪れた。
どうやら、使用するダイスは十面ダイス。運が良ければ最大で10マス以上の前進か、これなら案外早く攻略出来るかも知れないよな。
『アキラ、一番最初は振っていいよ』
『良いの?了解。任せて…やったね!』
緊張の第一投。アキラがタブレットに触れる。ちょっとドキドキしている僕を後目に…あっさりと7の目とアキラの笑顔とVサインの三点が飛び出した。数字的にも気分的にも幸先が良さそうだな。
僕達は五マス目の分岐点で低難度を選んで、さらに前進させる。
・北の森で薬草を十本採集せよ
数を集めるだけの収集系課題だ。僕達の最初の課題としては無難なところかな。
二人で北の森を目指す。他にも多くのパーティーが北を目指している。他人の課題も気になるところだが、今は置いておく事にしよう。僕達は普段から採集に使っている穴場ポイントで採集を始めた。この辺りは生産系職人に一日の長が有るかな。
僕の持つ《調合》スキルのお陰で、どの草が薬草なのかすぐに分かる。周囲には手当たり次第に草取りしているプレイヤー達もいるな。やっぱり、こう言うのを見るとスキルの種類で詰む可能性が否定出来無いんだよな。
十本の薬草はすぐ採集出来た。次のダイスは僕が振る。
『2か…悪い』
アキラは笑顔で大丈夫と言ってくれるが、十面ダイスの期待値は5か6、二回振れば10以上は欲しいところだからな。不可抗力とは言え、アキラのプラスを僕がマイナスにしてしまった訳で、何故か申し訳なく思えてしまう。
・湖畔の街を目指せ
『湖畔の街…新しい街か』
『えっ~と、確か名前は【ソルジェンテ】だったよね』
僕もアキラも、まだ行った事がない街だ。低難度だけあって課題の内容が楽だな。
一度でも行った街は、ゲート登録する事で行ったり来たりが簡単に出来るようになる。イベント後に行く予定だったので、丁度良かったのかもな。
今僕達がいる北の森からは【シュバルツランド】を通っても結構な距離が有るが、ゲートの使えない僕達は徒歩で目的地目指さなければならない。目的地の近くの湖には成長したトラウマの元凶がいるので、極力湖の側には近付かないようにするけどな。
湖からは離れていたが、近くの森で多くの虎型の魔物に見付かってしまった。二人共が湖ばかり警戒していたので気付くのが遅れたみたいだ。
『視認で六、気配のみ七。多分、ホワイトタイガだと思う。弓と銃で削ってから接近しよう』
僕の言葉でアキラは、弓をかまえて矢を放って行く。
『〈フレイムアロー〉』
近くにいたホワイトタイガはアキラの火属性弓アーツで生き耐える。
ホワイトタイガは今回のバージョンアップで増えた魔物らしく、初期の魔物に比べては基本的な能力面では強いが、動きは単調だ。所詮は連繋の練習代になっていた何度も狩られた雑魚魔物だからな。数だけはいたので何回か増援を喰らったが、二人の新しいスキルやアーツの餌食となる。
昨日までの狩りで、この類いの魔物は狩りまくっており、アキラと僕が入れ替わりで前衛をして、連繋を特に意識して心掛けている。
今回、僕があ左腕に装備している真新しい籠手は合金製の【メタルバングル】と言い、フレイさんに素材を渡して作って貰った逸品だ。名目上は腕に装備する防具だが、若干の攻撃力と言ったオマケも有るし、何よりも丈夫で軽いのが最高だな。
【メタルバングル】攻撃力5/防御力15〈特殊効果:なし〉〈製作ボーナス:軽量化〉
アキラの《弓》スキルは、アキラの持つ聞こえの悪い《暗殺》スキルとの相性が良いらしく、急所にも良く当たる為、僕の攻撃力の低さを補ってくれている。
属性攻撃の恩恵も大きいようで、意外な活躍を見せているのが、アキラが新取得した《扇》スキルだ。これも【メタルバングル】同様にフレイさんに特注で作って貰っている。開いた状態は普通の扇だが、閉じた状態でナイフのような形状になり《短剣》と《暗殺》スキルも使えるかなり特殊な製作武器だ。攻撃力は低いが戦闘の補助的には十分に魅力的だった。
結局、二人して狩りに夢中になっていた。この前に来た時もそうだけど、単純に連繋が繋がると楽しくなるのだ。その結果、【ソルジェンテ】に着くのに余計な時間が掛かってしまったのだけど…
【ソルジェンテ】に着き、ゲートの登録も済まして、アキラが次のダイスを振る…6が出た。出目は平均より少し上だが期待値通りの結果だ。そして、ラッキーな事に…
・ホワイトタイガの討伐※ドロップ三種の回収
先程の戦闘でホワイトタイガのドロップは、レアを含めて六種類全てを回収していた。その為、すぐにダイスが表示される。僕の番で出目は1…また小さい出目か、軽く泣きたくなるな。
『かなり、足を引っ張ってるよな。ごめん』
『大丈夫、大丈夫。すごろくなんだから、そんな時もあるよ』
若干、凹んでいたのだがマスの内容を確認をしてテンションが少しだけ戻った。それにしても、すごろくっぽいマスが早々に出たな。アキラも嬉しそうだ。出たマスはなんと…
・一マス戻る
一マス戻っても先程の課題はクリア済みなので、またダイスが振れる。今度はアキラが振り…8が出た。
『う~ん、これから振るダイスはアキラが振った方が良いかもな…』
事実が重いだけに、二人共自然と下手くそな苦笑いにしかならなかった。
・宝石を三種類採掘せよ
『やっぱり有ったね。無理難題系の課題』
生産系スキルの取得者なら、楽な内容だと思うけど、取得してない場合は詰む可能性が有るし、詰まなくても時間が大幅にロスされる事だろう。
『内容は宝石の採掘課題か…アクアマリンとアメジスト、二種類の場所は分かるんだけど、あと一種類が分からないな。アキラは何か知ってる?』
『それ以外だとトパーズが南の門を出てすぐの東の絶壁で採掘出来たはずだよ。前に情報系サイトで見た気がする』
そんな街の近くの場所に採掘ポイントが有ったのか?それだと、わざわざ川まで採掘に行かなくても採掘出来るんだよな。後悔はしないけど、近くの場所と遠くの場所で苦労に見合う成果の差だけは有って欲しい。そこは運営さんに切に願おう。
ゲートを利用して一気に戻り、すぐに東の絶壁を目指す。すでに何人かが採掘しているので僕も採掘始める。
う~ん、鉄鋼石しか出ないな。何人かは宝石を掘り出しているので全く出ない訳では無いはずだけど…
これは、多分単純に僕の運が悪いだけなのだろう。今日ほど〈もたざる者〉の称号を疎ましく思う事はないな。最近、僕がとんでもない事に巻き込まれているのは、一番最初に獲得したこの称号のせいだと内心思っている…と言うか、この称号のせいにでもしないと、僕自身がやってられないからな。
『アキラ、ちなみにこの壁だと宝石はどの辺りから出そうだと思う?』
まぁ、こう言う時は神頼みが一番だろう。幸運の女神頼みがな。勿論、ビギナーズラックでも受け付けてますよ。
『何?急に…分からないけどココとかココはどう?』
アキラに言われた箇所を物は試しと掘ってみた。
あ~ぁ、本当にやってられないな。トパーズに水晶?だって、何故いきなり新規で二種類も出るんだ?僕が掘った数十回は何だったんだ?確率的におかしくないかな?
しかも一つは、アキラの情報にも無かった宝石だぞ。アキラに『やったね』とか凄いねとか言われると…逆に辛いんだけどな。まぁ、そこは開き直って川でのポイントは最初からアキラに選んで貰おうかな。
川ではアメジスト、アクアマリン、オパールが出た。運営さん、これはやり過ぎではないですか?僕の心がぐちゃぐちゃに潰れますよ。擦り切れますよ。小間切れになりますよ。
ここまでに合計二十三マス進んでいる。なかなか良いペースだと思う。低難度は五十マスなので約半分くらいは進んでいる事になるのだから。ちなみに、中難度は百マス、高難度は百五十マスになっているらしい。
『アキラ、振ってくれ。僕には運が無い』
一つ思い付いた事が有る。僕は運が悪いのではなくて、僕には幸運そのものが無いのだろう。多分、ステータスに運の表記が有れば、限りなく僕は0に近くてアキラはMAXに近いのだろう。どちらも、ある意味で呪われている。単なる思い付きにしても、嫌な内容だよな。
また、アキラがダイスを振りまた7を出す。
・最大MP半減※すごろくを一回クリアするまで
また、すごろく…今度はデジタル系か。でも、これは少しゲームっぽい要素も混じっている気もするけど、地味にきつくないか?低難度コースで能力半減系の課題とか。まぁ、残りは二十マスだし、時間を消費せずにダイスを連続で振れる事はラッキーだと割りきろうかな。
また、アキラに振って貰い、今度は9が出た。これは、僕の運が悪いのでは無くて、5以下の出目を出してないアキラの運が凄過ぎなのだろう。もう、そう言う事にしておきます。いや、そう言う事にさせて下さい。
・南の川でレアモブを討伐
『やっぱりと言うか、何て言うかこれは微妙だよね』
この課題を引いてしまったアキラが微妙な表情している。
『まぁ、これは仕方が無いんじゃないかな。この課題については、ある程度予測していた事だし、場所の移動と言う時間のロスも手間も無いからね』
『そうなんだけどね。タイミングがね。狙い過ぎと言うか…何て言うか…』
ある意味でお約束のようなステータス減少後の戦闘。しかも、川で一回も見た事の無いレアモブ。運営さん、本当にダイスの操作はしてませんか?僕は軽く疑ってますよ。
しかし、川のレアモブは、以前にアクア達とアキラがパーティーを組んでいた頃に倒していた首長亀と言う魔物で、川亀と言う魔物を倒していたら出てくわしたらしい。首長亀は特にこれと言った能力も強さも無いが、首にしかダメージが出ないので戦闘方法に面倒なところが有るらしい。
川で狩りをしながら、空いた時間にアキラに選んで貰った場所を採掘していく。出現する魔物は以前に倒した事の有る水精霊ばかりで、首長亀はおろか川亀にすら全く出会えてない。
だが、ここで出現する水系の魔物には、《扇》の雷属性アーツ〈紫雷扇〉が良く効くので狩り自体はアキラ主体で手早く終わっていた。
僕の方は《拳》のスキルレベルが上がって分かった事だが、どうやら《拳》スキルにも属性攻撃が無いようだ。まぁ、属性攻撃と言うよりもアーツ自体が無いみたいだけど…だが、以前に予想していた通り攻撃にMPを使って強化する事も出来るので、ダメージの通りは〈零距離射撃〉や近距離での射撃を含まない銃よりも遥かに良いのだけどな。
しばらく川で戦っていたが川亀は全く出てこない。僕は少し休憩しようとアキラに提案した。アキラも〈紫雷扇〉の多様でMPが枯渇してきているからな。適度な休憩は必要だろう。
『アキラ、お疲れさま』
休憩と同時に予め作っておいたアイスティを差し出す。僕の作ったMP回復促進・小の効果を持つ数少ない食糧アイテムの一つだ。MP自体は回復出来ないが回復する速度を促進させる効果が有る。まぁ、回復量よりも今は気持ちの問題だけどな。
『シュン、ありがとう』
アキラは手渡した紅茶を美味しそうに飲んでくれた。僕も今の内にステータスの確認でもしておこうか。
《短銃》と《付与魔法》スキルが共にレベル30を越えましたので派生スキル《付与銃》が発生しています。
《付与銃》 《付与魔法》を銃で打ち出す。ただし銃弾が必要。攻撃力なし/SP 15必要
どうやら、新しくスキルが発生したらしい。遠距離対象に《付与魔法》が使えるのは大きいよな。僕は全く迷わず《付与銃》を取得する。
同時に《付与魔法》のアーツもいくつか増えていた。《付与銃》と言う遠距離《付与魔法》を得たと同時に対象への減少系の《付与魔法》を得る。一気に戦力アップした気分だなと僕は嬉しく思った。
少しの休憩を挟み、また狩りを再開する…が、相変わらず水精霊しか出て来ない。
『また、視認で水精霊十体…それとは別に、かなり大きい水精霊?が一体来るよ』
何か不確定な魔物が出たらしい。こんな時は二人共が《探索》スキル持ちなので助かるよな。ギルド加入条件に《探索》スキルの取得を増やしても良いかも知れないな。
大きな水精霊は、小さな水精霊に比べてかなり速度が速かった。不思議な事だけど…
僕はアキラに〈速度上昇〉と〈回避上昇〉を掛けて、大きな水精霊には新しく覚えていたばかりの〈速度減少〉と〈防御力減少〉を掛ける。
『アキラ、水精霊の数を減らして。大きいヤツは僕が注意を引き付ける』
『分かったよ。でも、気を付けてね』
アキラの方は〈紫雷扇〉の連発で水精霊を無双していく。
アキラに小さな水精霊を全て任せて、僕は銃で牽制しながら大きな水精霊に〈ウィンドカッター〉を放っていく。相手の攻撃はMPを使った〈拳〉で防御。よしっ、十分に捌けるな。
しかし、今まで頼りにしていた僕の最強の切り札である〈零距離射撃〉で、全くダメージが通らないのが辛いところだな。近距離で殴り続けてはいるがダメージが出ないので、はっきり言って詰んでいる。勿論、僕が一人で戦っていたらの話だがな。
『〈紫雷扇〉シュン、大丈夫?』
『助かったよ。小さな水精霊達は…もう、倒したみたいだね』
周りを確認して小さな水精霊がいない事に気付いた。
アキラと《扇》は本当に相性が良いようだ。二人になれば、残っている大きな水精霊も敵ではない。《付与魔法》をかけて、アキラの〈紫雷扇〉等の属性系の攻撃で一気に削り倒した。
ドロップで魔物の名前も確認出来た。水晶霊、水精霊系のレアモブだったらしく、さっさと次へ進めと言わんばかりにダイスがタブレットに表示されている。
次は6が出て…
・北の森でベリツリーの樹木の回収
採集系の課題だな。看板作りの為に《木工》を取得したので、採集した木材の鑑定もその場で出来るようになっている。久々に僕も役に立てるかな。
北の森で採集しに来たのだか、それらしい木が見当たらない。適当に刈り取ってみても、やっぱり違うな。そうなると…
『もっと奥の方か?』
『どうだろう?私は鑑定出来ないから、ごめんね』
『そこは大丈夫。まぁ、これも適材適所ってやつだな』
アキラはその分、警戒して周辺の観察をしてくれているので僕が安全に木を調べられるのだから。それに足りないスキルに関しては補い合う事が仲間の証だと僕は思う。
『シュン、五十メートルくらい先に樹木系の魔物がいる。どうしよっか?』
樹木系の魔物と聞いて、僕の中でとある考えが思い浮かんだ。確か、今回の課題って今までと違って採集や伐採では無く、回収って書いて有ったよな?もう一度タブレットを確認してから、アキラにも見せた。
『えっ!?もしかして、そうなの?でも、本当にドロップだとしたら、取り敢えずあの魔物は狩ってみる?』
アキラも僕の言いたい内容を把握したようだ。
『じゃあ、私が前で牽制していくから、《風魔法》で攻撃をお願い』
樹木系の魔物は、弱点属性の火や雷を使うと燃える。まぁ、どんなに燃やしたとしても山火事にはならないのだけど。
勿論、燃やしてしまうと素材を回収しても現実と同じように炭になっていて使い物にならない。なので、今では樹木系の魔物相手にする時は風系のアーツや魔法で切り裂く方法が効果的な倒し方になっている。
僕は、確実に一本一本枝を落としていき対象を絶命させていく。討伐する方法として《風魔法》を使った事で、副産物と言う名のドロップもたんまりと回収出来た。
僕達が思った通り、この魔物がベリツリーだったようで、その事もドロップを見た事で判明した。これからは、この手の課題には注意が必要だよな。あそこで、何も気付かずにこの魔物と闘わずにスルーしていたら確実に詰んでいただろう。
『あと五マスだし最後かも知れないから、シュンがダイスを振ってみて』
アキラにお世辞のような一言を言われるけど、僕としてみれば1か2しかでる気がしないんだけどな。
ダイスを振る…タブレット上をコロコロと転がり2が出る。
『またか…』
分かってた、分かってた事ですが、僕の心の中では涙が止まりませんよ。もうオーバーフローしそうです。僕の心の器はそんなに大きくないんですよ。分かってますか?運営さん。
凹みまくる僕とは対照的に出たマスを確認したアキラは妙にニコニコしている。
『やっと、ゴールだね』
『えっ!?』
アキラが、何を言ってるのか分からない。僕がタブレットに表示されたマスを覗き込むと…
・三マス進む
『あっ、あぁ、そう言う事か』
ようやく僕も納得する事が出来た。
ニマス進んだあとに三マス進むと合計五マス進めて丁度ゴールに止まれるのだ。僕は最後の最後でようやくラッキーにありつけたらしい。ちょっとだけだが嬉しくなってきたな。ゴールのマスは…
・広場に戻り、報酬を選ぶ
『初日で一回目のゴール出来たのは良かったね。時間的にも報酬を貰ったら今日はログアウトかな』
アキラの意見に納得。賛成多数(この場には僕とアキラの二人しかいないけど……)。当然反対意見は無い。二人共が疲れているからな。
広場に着くと、既に数パーティーが列を作っていた。ランキングが出ており、一番クリアが速かったパーティーは、なんと二時間でクリアしていた。おいおい、とんでもなく神がかったプレイヤーがいるみたいだな。
低難度の報酬は…
・レア素材三個
・限定武器
・限定アクセサリー
・生産道具初級三種セット
上記の中から一つらしい。アキラは、レア素材三個を選んだ。まぁ、この中なら僕もそれを選ぶかな。仮に貰えた素材が僕達で使えなかったとしても誰かに依頼して作って貰えば良いだけからな。その他にも売ると言う選択肢も有る。まぁ、生産系取得者の僕達にとっては有り得ない事だけどな。
限定武器や限定アクセサリーは僕達が装備出来るか分からないし、必要な初級の生産道具はすでに持っているので、アキラ的には消去法だったらしいけどな。それでもって、報酬の方はイベント後にまとめて支給されるようだ。でも、この報酬内容から推測すると運営側は、プレイヤーに何かしらの生産系スキルを取得させようとしてないか?僕の思い過ごしだと良いのだけど…
今日は、そこでアキラと別れた。よっぽど疲れていたのか、アキラは、すぐにログアウトしていった。明日は日曜日で朝からログインして中難度の攻略を目指す予定になっている。僕は、少しでも新しい情報が欲しいので、今日採集や回収した素材を加工しながら、アクアからの連絡を待っていた。
木材関連の素材や《木工》スキルの使いどころが、今まで看板だけと少なかったので、素材はかなりの量が倉庫に残っている。作りたい物も出来たし、試作品でも作ってみようかな。
《革製作》や《鞄製作》の縫う工程とは違い、《木工》で使うような技術はリアルでもやった事がない技術だ。始めて作った試作品は形にすらならないゴミだ。まぁ、最初が難しいのはどの生産系スキルと変わらないと思うので地道にいこうかな。
…どうやら、かなり集中していたみたいだな。あれから二時間も経過していた。一息ついて紅茶を飲んでいるとアクア達三人がやって来た。
『ホームが変わったとアクアに聞いてだが、これは凄いな』
『だよね~』
ドームとレナにもアクアと同じような事を言われるが、もう馴れたよ…
『そっちは、どうだったんだ?こっちは低難度を一回クリアした…まぁ、結局はアキラのダイス運のおかげだけどな』
僕達は、お互いが出したたマスや課題の内容、報酬等の情報を出していく。
『そっちは、もう一回クリアしたんだな。凄いな。俺達は他に生産を取っている知り合いのプレイヤー三人と六人パーティーを組んで、中難度の攻略を目指したが、全然ダメだったぞ』
ドームが言うには、素材の採集系で詰まったらしい。三十マス目には、高難度との分岐点も有ったらしいが、パーティーの満場一致で中難度に進んだらしい。
『う~ん…それ、どんな課題が出たのか聞いてもいいか?』
時間も掛かりそうなので皆にも紅茶を出していく。
『あぁ、問題無いぞ。課題は〈東の絶壁でロックボーン原石の回収〉だ。採掘出来るプレイヤーが、長時間頑張ったが全く出なかった』
やっぱり、回収系の課題か…
『一つ確認するけど、その課題は回収って書いてあるんだよな』
『それは間違いない。俺とレナも確認している』
『じゃあ、多分だけど、その課題にあるロックボーン原石はロックボーンと言う魔物のドロップアイテムだと思うぞ。本当に採掘なら採掘って課題になるはずだ。僕達も対象は樹木だったけど似たような課題が有ったからな。だから、多分バージョンアップで増えた魔物かイベント限定の魔物じゃないかな?』
三人揃って無言で『マジで!?』って顔されても困るんだけど、早めに気付いた僕達としては、気付いて欲しい部類の課題だ。
『もし良かったら、他に出た課題を教えてくれ。僕達も明日は中難度を目指す予定だからな。それと、討伐系の魔物の強さはどうだった?』
アクア達は三十八マス現在、まだ強モブの討伐課題は出てきてないらしい。面倒な課題で言えば、ロックバードを五十体討伐等の課題は有ったらしい。確かに、五十体討伐等は僕達二人には、ちょっとキツいかもな。
アクアが聞いた他のパーティーの話しらしいが、クリア寸前のマスでふりだしに戻るが有ったらしい。まぁ、すごろくならお約束だよね。そこは、やっぱり。
まぁ、僕達は僕達らしく地道に一歩一歩いこうか。まだ日にちは有るのだから。
装備
武器
【デルタシーク】攻撃力30〈特殊効果:なし〉×2丁
【ハンドガン】攻撃力15〈特殊効果:なし〉×2丁
【銃弾2】攻撃力+10〈特殊効果:なし〉
防具
【ゴーグル】防御力3〈特殊効果:命中補正・微〉
【レザーブレスト】防御力15〈特殊効果:なし〉
【冒険者の服】防御力10〈特殊効果:なし〉
【メタルバングル】攻撃力5/防御力15〈特殊効果:なし〉〈製作ボーナス:軽量化〉
【レザーブーツ】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ローブマント】防御力10〈特殊効果:なし〉
アクセサリー
【ウルフダブルホルスター】防御力5〈特殊効果:速度上昇・微〉〈製作ボーナス:リロード短縮・小〉
【左狼脚ホルスター】防御力2〈特殊効果:回避上昇・微〉〈製作ボーナス:リロード短縮・小〉
【右狼脚ホルスター】防御力2〈特殊効果:回避上昇・微〉〈製作ボーナス:リロード短縮・小〉
《銃士》Lv41
《短銃》Lv51《拳》Lv15《速度強化》Lv35《回避強化》Lv32《風魔法》Lv34《魔力回復補助》Lv35《付与魔法》Lv33《付与銃》Lv5《錬金》Lv11《探索》Lv42
サブ
《調合》Lv9《鍛冶》Lv10《家事》Lv25《革職人》Lv32《木工》Lv8《料理》Lv3《鞄職人》Lv39
SP 25
new魔法
〈攻撃力減少〉
習得条件/《付与魔法》スキルLv30
〈魔法攻撃力減少〉
習得条件/《付与魔法》スキルLv30
〈速度減少〉
習得条件/《付与魔法》スキルLv30
称号
〈もたざる者〉〈改めてトラウマを得た者〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉