一人旅 2
『兄ちゃん、困ってるのか?だったら、アタシが手伝ってやろうか?勿論、タダじゃないけどな』
途中から尾行されてたから注意はしていたけど、絡まれてしまったな………と言うか、こうやって姿を出して絡んでくるなら、もっと最初からやれば良いと思うんだけどな。
〔『主よ、多分主が一人になるのを待っておったのじゃ』〕
〔『うん?』〕
僕は、この旅に出てからずっと一人(ただし、白と黒は除く)だと思うんだけど………
〔『………周りの人』〕
〔『あっ!!なるほどな。他のプレイヤーがいなくなるのを待ってたのか。それなら、今から起こるであろう事は、あまり良くない事かな?』〕
〔『主よ、どう見てもそんな感じには見えないのじゃ』〕
まぁ、そんな感じだよな。余裕が有るような喋りだけど、態度が伴ってないからな。さて、どうしようかな?まぁ、話だけは聞いてみても良いかな。
〔『………主、楽しんでる』〕
まぁ、新しい土地だからな。ちょっと浮かれているのも確かかも知れないな。
『ちなみに、何を手伝ってくれるんだ?』
『兄ちゃんが、行きたがっている向こう側に渡してやるよ』
この尾行者、意外に状況を良く状況を見ているんだな。ちょっとだけ考えを改める必要が有るかもな。
『いや、渡るだけなら自分で出来るから結構だぞ』
『えっ!?兄ちゃん、自分で渡れるのか?』
『あぁ、出来る。君も出来るんだろう?同じ事だよ。だから、気にしなくても良いぞ』
『ちょっと待って、タイム、タイムだ』
まだ、何か有るのか?本当に面倒なのに絡まれたのかもな。まぁ、悪い奴では無さそうだけどな。ポーカーフェイスが全く出来てないから………
それと、今の話とはあまり関係の無い事だけど、タイムの発音が流暢だよな。流石はアメリカ人だな。
『アタシはゼニス・キーダ。アタシは兄ちゃんが港に着いた時から見てたんだけど、兄ちゃんはアメリカサーバーの人間と違うよね?』
そんなに前から尾行されてたのか?それには、気付かなかったな。次からは十分注意しよう。それだけでも、話した価値は有ったかもな。
………と言うか、ちょっと待てよ。じゃあ、わざと途中で尾行している事に気付かせたのか?もしかして、僕の事を観察しながら、僕の能力を探っていた?
〔『主よ、人は見かけによらないものなのじゃ』〕
まぁ、それはそうだろうな。
それと、嘘もついてないみたいだな。ジョブは《訓練士》。《調教士》の上位系か?種族は人間の女でメイン武器が鞭か………鞭を武器に選択するのは珍しいな。《革製作》等の生産系も取得しているところを見ると、装備している鞭は自分で作った物かもな。
〔『主よ、多分珍しい事に関しては相手も主には言われたくないのじゃ』〕
まぁ、僕も不人気不遇武器の銃使いだからな。まぁ、僕自身はそう思ってないんだけど、要はどのジョブも武器も使い方次第なんだろうな。
全体的にレベルもそれなりに高いし、スキルの幅も広く応用が効きそうだが、どのギルドにも所属していないソロプレイヤーみたいだな。人間で《訓練士》に鞭とか、ロールが徹底してる気もするよな。聞いただけで、サーカスの猛獣使いを思い出すので、僕としては嫌いじゃないけどな。
それにしても、ソロプレイヤーが僕に何の用だ?ソロと言う事はギルドの勧誘でも無いはずだからな。
『仮にそうだとしたも、その事がゼニス・キーダさんに関係有るのかな?』
『アタシの事はゼニスで良いよ。もし、良かったらアタシを雇わないか?』
『雇う?』
『そうだ。何も知らない土地で、ソロは危険だと思うよ』
そう言う事か………僕にパーティーを組めって事かな?
多分、ソロはソロ同士で協力しよう的な話だな。しかも、上から目線でな。
うん。これで大体の話は読めたかな。
『いや、今のところ、【ペンタグラス】の外に出る予定は無いから、僕はソロでも大丈夫だ。もし必要になったとしても、ギルドの仲間を呼ぶからな。じゃあ、用件がそれだけなら、もう行くぞ』
仮にソロで街の外に出たとしても、他の街との位置関係が分からないだけで、魔物に関しては《見ない感じ》と白と黒の《探索》と竜の力が有るから大丈夫だからな。
〔『主よ、今挙げた三つの内、二つはワシらの力なのじゃ。協力を求めているのは主も同じなのじゃ』〕
冷静に考えると、このゼニスと僕のやってる事は変わらないかも知れないよな。
『あっ!!待って。ヘルプ、プリーズ。アタシを助けて下さい』
最初から、そう言って欲しいな。アメリカ人と言うのは、皆がこんな感じで回りくどいのか?いや、ケイトは違うよな。ゼニスが特別なのかも知れないな。
〔『主よ、どうするのじゃ?』〕
〔『………悪意は無い』〕
まぁ、そうだろうな。嘘をつけるタイプじゃないからな。取り敢えず、話だけは聞いてみるかな。
『内容によるな。取り敢えず、話してみてよ』
『もし、良かったらイベントの攻略を手伝ってくれないか?今回のイベント報酬が私には絶対必要なんだ。でも、そのイベントは二人での参加が条件で、アタシには仲間がいない。組んでくれる人もいない。だから、兄ちゃんだけが頼りだ。海を渡って来れるなら、それなりに強いんだろ?だから、頼むよ』
それなりにレベルが高く、応用が効きそうなスキルも持っているのにも関わらず、組んでくれる人がいないってのは一体どう言う事だ?ステータスにも問題無さそうだよな。
全く知らない僕に話しかけれるぐらいだから、人見知りでも無いよな。何かとんでもない事をしでかしてフレンドすらいないのか?それとも、性格に難が有るのか?
〔『………性格は違うと思う』〕
まぁ、こんなに分かり易い、裏も表も無さそうな奴だからな。これが全てえんぎで、もし本当に性格が悪いとするなら、極悪だよな。
『答えを出す前に、一つだけ質問だ。どうして、組んでくれる人がいないんだ?』
手伝う、手伝わない、どっちに転んでも、これだけは聞いておいた方が良いよな。あとで、変な事に巻き込まれるのだけは御免だからな。
〔『主よ、多分じゃが、お人好しが過ぎる主には断る事自体が無理なのじゃ』〕
〔『………同意』〕
最近、本当に僕の扱いが悪いよな。まぁ、気心が知れてるだけかも知れないけどな。
『………それは、アタシが《訓練士》だから』
『《訓練士》だと、何か問題なのか?』
『そっちのサーバーだと、どうか分からないけど、アメリカサーバーでは、《訓練士》………《調教士》系は不人気で不遇職なんだ。周りからは、自分で戦わないバカ呼ばわりで………私は、ちゃんと自分の力でも戦えるのに………仲間になってくれる人もいない』
不遇職か………なるほどな。僕にも、その経験が有るから気持ちは分かるな。不遇職ってだけで微妙に視線が痛いんだよな。
僕の場合は、早い段階で二つ名の方が有名になったけど、そうじゃなかったら、キツかっただろうな。それにしても、それだけで誰にも相手にされないと言うのは変な気もするけど………
『自己紹介が遅くなったけど、僕はシュン。日本サーバーから来た。日本サーバーでは《調教士》系は不遇とまでは言われてないな。僕は、日本サーバーで一番不人気の《銃士》なんだけど、アメリカサーバーでの人気はどうなんだ?』
銃社会アメリカだからな。日本みたいに不人気と言う事は無いだろうな。《調教士》系が不人気なら、もしかして期待出来るのではないのか?
『兄ちゃん、《銃士》なのか!?《銃士》は、こっちでも一番人気が無いぞ。一部で現実でも使える銃をファンタジーにまで持ち込むなって問題になったんだ。多分、理由の一つとして、最初にオープンした日本サーバーで不遇職扱いされてたのも大きいと思うけど』
おい、海を渡っても《銃士》は不遇扱いなのか?銃の使用が問題になるとか、凄くアメリカらしい問題だとは思うけど………僕は、それなりに結果を出してきたはずだぞ。僕自身が目立つのは嫌だが、そろそろ《銃士》に対する状況が改善してくれても良いんじゃないのか?
日本での地位向上は諦めるとしても、せめて銃社会アメリカでは、それなりの地位を用意して欲しかったよな。その期待も有って、一番最初の目的地に【ペンタグラス】を選んだと言うのも有るんだぞ。運営さん、心の底からお願いしますよ。《銃士》にも明るい未来を………
〔『………公私混同』〕
それは否定しないけどな。トリプルオー自体が、もともと僕の私的な活動だ。
『分かった。《銃士》の僕で良ければ協力する。二人で不遇職の凄さってやつを見せてやろうぜ。それで、イベントの詳細と何の報酬が欲しいんだ?僕の報酬は城に入れるようにしてくれるだけでも良いぞ』
〔『主よ、予想通り、主には無理だったのじゃ』〕
〔『仕方が無いだろ。そんなに言う白だったら断れるのか?』〕
〔『愚問なのじゃ。ワシに女の子からの誘いを断れる訳が無いのじゃ』〕
それは、同じ事だと思うぞ。この面子の中なら、黒しか断れないだろう。いや、冷たそうに見えて実は優しい黒だからな。断るのは無理かもな。
『本当か?本当に良いのか?Thanks兄ちゃん。城の件はアタシに任せろ。中までキッチリ案内するぞ。参加する予定のイベントはタイムアタックだ。制限時間内にクリアしたなら、クリア報酬として海外サーバーへの遠征権が貰える。実際に行ったプレイヤーはまだいないけどな』
城の中まで案内するってのも気になるが、それよりも………
『海外サーバーへの遠征権って何だ?僕はそんなの持って無いけど、【ペンタグラス】まで来れたぞ』
『そうなのか?それは分からないけど、こっちでは必要なんだよ。船はクエスト攻略で貰えるけど、二百海里までしか出れないんだ。日本では違うのか?』
日本サーバーとアメリカサーバーでは、クエストの内容だけで無く、色々なモノの在り方が違うようだな。と言うか、二百海里とか、微妙な現実の条約をトリプルオーの世界に持ち込むなよな。せっかくのファンタジーが台無しだよ。まったく………
それにしても、アメリカサーバーでは船がクエストで貰えるところが、羨まし過ぎるよな。ライトニングを手に入れるまでに、これでも僕は結構苦労したんだよ。
それに、遠征権………パスポートみたいな物かな?これもアメリカらしいと言えば、らしいけどな。例えゲーム内でも出入国審査とかは厳しそうだし、亡命してくる移民を受け入れないイメージも有るからな。日本には遠征権が無くて本当に良かったな。
それと、上位入賞では無く、制限時間内にクリアすれば良いだけのイベントなら、僕でも頑張れば何とかなるかな。
『日本とは違うみたいだな。反対に船を手に入れて海に出るのには苦労したぞ。自分で船を作って、その後でレイドボスを倒す必要が有ったからな。それにしても、何で遠征権が欲しいんだ?』
『そっちはそっちで大変なんだな。日本に行った、アタシのたった一人の友達に会いに行きたいだけだ』
まぁ、こっちで誰にも相手にされなかったら、トリプルオーの中とは言え、別れた友達に会いたくなるのも分かるよな。現実なら距離の壁が有っても、トリプルオーの中だと会いたい時に会えるからな。こう言う理由が有るのなら、余計にこのイベント攻略を頑張らせて貰おうかな。支援系ギルドのギルドマスターとしてもな。まぁ、海外のイベントに参加するのも楽しそうだからな。
〔『主よ、ワシはそっちが本音だと思うのじゃ』〕
そんな事は決して無い………と、僕は思いたい。
〔『………時差』〕
『あっ!!悪いゼニス。時差の事を考えて無かった。アメリカのイベントなら、ログイン時間が合わないかも』
〔『黒、教えてくれて助かったぞ。ありがとな』〕
『日本となら、時差は十七~十八時間くらいだよね。この時間に明日もログイン出来るなら大丈夫。アタシが通う大学の講義は、午後からだから問題は無いよ。それに、今回のイベントはタイムアタック。イベント期間中は二時間毎にスタートしているんだ。二人いれば、いつの時間帯でも参加出来る。そうじゃないと、わざわざ誘う訳が無いでしょ。バカじゃないんだから』
それなら良かったんだが、なんか遠回しにバカにされた気分だな。
ゼニスが大学生と言う事は、僕よりも年上なんだよな。全く年上には見えなかったな。敬語使った方が良かったか………と言うか、《バイリンガル》越しに聞くと、僕の言葉はどう言う風に聞こえてるんだろうな?でも、英語には敬語と言う概念が無いはずだし………ゼニスの《バイリンガル》で変換された英語は、それなりに聞こえるてるから、多分問題は無いと思うんだけどな。
『日本では、今まで無かったんだけど、タイムアタックと言うのは、具体的にどんなイベントなんだ?』
『街をスタートして、途中に有るチェックポイントからイベント用のアイテムを受け取ってくるレース系のイベント。チェックポイントには必ず二人で辿り着かないとダメで、街には、どちらか一人でも辿り着ければ良いんだ』
まるで、オリエンテーリングみたいな競技だな。制限時間が有ると言う事は、多分魔物も出るしトラップとかも有るんだろうな。
それなら、基本は土地勘が有るゼニスがコースマネジメントをして、僕は後方からアシストとフォローと言った、いつもの感じがベストかな。
『了解だ。イベント参加は明日で良いんだよな?そろそろ、ログアウトしたいからな』
『OK。明日は日本時間で夜九時に広場のクロノ像の前に集合出来る?あっ、クロノ像の場所は分かるよね?』
クロノ・ショック・ニームの像か………場所に問題が無くも無いけど、時間的には大丈夫だな。
『僕は大丈夫だけど、ゼニスは朝かなり早いだろ?大丈夫か?』
『アタシは早寝早起きだから、平気』
その早寝早起きは、寝るのも起きるのも凄く早い気がするんだけど、僕の気のせいだろうか?
まぁ、取り敢えず今日はログアウトだ。細かい事は、明日考えれば良いかな。
「聞いたか?昨日のアナウンス。俺とドームにレナは、もう定期船に乗り込んだぞ。他にも一緒に乗り込んヤツが数人いたが一番………いや、誰かが渡ったみたいだから、それでも二番乗りだ。今日の夜には着くからな。新しい土地に、新しい魔物。あぁ、楽しみだ。あっ、忘れてた。おはよう、駿、純」
家に来るなり、真っ先にその話題が来るのか………少しは落ち着いて欲しいものだよな。朝の挨拶よりも先にトリプルオーの話題が来るとは、呆れても何も言えないな。
「おはよ。定期船って【ペンタグラス】行きのか?」
「そうだぞ。駿達は行かないのか?もう既に定期船に乗っている俺達の後にはなるけどな」
あんなに喜んでいるのに、わざわざ真実を教えて水を差す事も無いかな。しかし、定期船の運航は昨日始まったばかりだと言うのに手を出すのが早いな。
まぁ、着いたら。真っ先に言葉の壁にブチ当たるだろうけどな。それはそれで面白いかも知れないな。それを自分自身の目で見る事が出来ないのは少し残念だけどな。
「私達は、今度遠征」
「僕達は、どうだろうな?各々がイベントの準備で忙しいみたいだからな。しばらくは、定期船を使わないと思うぞ」
うん。嘘は言ってないよな。皆がイベントの準備で忙しいのも、定期船を使って移動をしないのも、本当の事だからな。
【noir】のメンバーなら、【ペンタグラス】の港に停泊中のライトニングのゲートを使えば、一瞬で着くからな。わざわざ定期船を使う事は無いだろう。
昨日、ログアウトする前に皆にメールで、今日中には、ゲートで移動して【ペンタグラス】のゲート登録だけは済ますように伝えてある。まぁ、ヒナタ以外は、僕が【ペンタグラス】に着いた事よりも、ライトニングにゲートが付いてる事に驚いてるかも知れないけどな。
それと、晶達には僕が【ペンタグラス】に既に着いている事は、口止めしといた方が良いかもな。この状況でバレると面倒な事が増えそうな気がするからな。
「そう言えば、定期船の運賃って一体いくらするんだ?」
「かなり、高額」
「一回、一人百万フォルムだ。定期船の中にも専用の露店とかも有って結構楽しいぞ」
「一人、百万フォルムか………」
それは、本当に高いな。その金額が有れば、小さな店舗なら購入する事も出来るよな。現実ならファーストクラスの飛行機並だよな。まぁ、一度行けばゲートで移動出来るから、簡単には行けないようにしてるんだろうけど、ボッタクリ価格に感じるのは僕だけなのか?
『遅いな………』
約束の時間からは、既に十五分経過している。寝坊か?それとも時間にルーズなだけか?昨日、フレンド登録をしなかった事が悔やまれるな。あまりに遅れるなら帰らせて貰おうかな………
いや、帰る前に軽く説教くらいはした方が良いかもな。
『兄ちゃん、遅くなって、ゴメン』
『やっと来たか、あんまり遅い………って、おい!?どうした?ボロボロじゃないか。大丈夫なのか?』
声に反応して振り返ると、汗だくで今にも装備が全壊しそうな状態のゼニスがいた。そんなにボロボロになるとは、どんな魔物と戦闘をしてたんだ?HPの方は減ってないみたいだから、回服薬は持ってたんだと思うけど………今からのイベント大丈夫なのか?
『あっ、うん。ちょっと街の外で絡まれて。あっ、装備を変えるから少し待って』
絡まれた?一体、誰に?装備が全壊近くまでボロボロになるのは、ちょっと絡まれたでは済まない話だよな。仲間外れは聞いていたけど、流石にこれはやり過ぎだろ?明らかにイジメのレベルだぞ。
『おい、誰にやられたんだ?』
『兄ちゃん、アタシは一人でも大丈夫だから。気にしないで』
明らかに作り笑いだな。昨日の協力をすると僕が言った時に見せた笑顔とは全然違うからな。そもそもの話、一人で大丈夫では無かったから、僕を尾行してまでイベントに誘ったんだんだよな。
『ゼニス!!』
〔『主よ、落ち着くのじゃ』〕
〔『………顔が恐い』〕
『あっ、うん………大手ギルド【ハウンド】のヤツら。気に入らないプレイヤーの邪魔したり、嫌がらせするんだ。規模が大きいし、強いプレイヤーも多い………特に最強クラスのギルドマスター、グレタフが手に終えない。だから、誰も逆らえないんだ。今日もイベントの邪魔や妨害をするつもりみたい。さっきも、街の門前で待ち伏せされて、なんとか逃げてきたけど………兄ちゃん、アタシからお願いしておいてなんだけど、イベント参加の件は無かった事にして。アタシから誘ったのに本当にゴメン。でも、兄ちゃんはちゃんと城に送るから、心配しないで良いよ。兄ちゃんが協力してくれるって言った時は、本当に嬉しかったんだから。本当にありがとう』
また、作り笑いか………大手ギルド【ハウンド】と、そのギルドマスターのグレタフか、最低最悪のギルドみたいだな。
もしかして、ゼニスが仲間外れにされてるのは、こいつらが原因なのか?こんなのが日常茶飯事なら、他のサーバーに逃げたくもなるわな。むしろ、よくここまでトリプルオーを続けてこれたよな。僕なら絶対に辞めてるいる自信が有る。
それに、不遇職って言うだけで仲間外れにされるのは変だと思っていたんだ。僕も同じ不遇職と言う境遇だけど、普通に出会ったネイルさんやフレイは優しくしてくれたからな。いくら、国外のサーバーと言っても、優しいプレイヤーが皆無と言う事は無いだろうからな。
〔『主よ、今回はワシも許せないのじゃ』〕
〔『………黒も同じ。協力する』〕
〔『あぁ、頼む』〕
放って置く事は出来ないよな。皆に優しくされてきた僕が、ゼニスをこのままの状態で放って置く事は出来ない。絶対に………
『ゼニス、お前はバカか?参加するに決まってるだろうが、イベントだぞ。楽しまなきゃ、ダメだ』
『えっ、兄ちゃん?ダメだ。兄ちゃんまで狙われるよ』
『ゼニス、僕はシュンだと名乗っただろう。いつになったら、仲間の名前を覚えるんだ』
今の一連の流れは、ちょっとクサかったか?
〔『主よ、そこが主の良さなのじゃ』〕
〔『………よっ、この演技派』〕
黒、台詞だけ聞くと一応は誉めてくれているのだろうけど、棒読みは頂けないな。
『兄ちゃ………シュン兄ちゃん。ありがとう』
まぁ、ゼニスに笑顔が戻るなら、僕が恥ずかしいくらい想いをするくらいは、どうでも良い事だけどな。
『シュンで良いぞ。それに僕は、まだ15才だからな。年下だぞ』
『うん?アタシも15才だよ』
ゼニスが首を傾げているかが………大学生だったよな?
『えっ!?大学生だよな?』
『アタシ、ジュニアスクールの時に飛び級してるから』
天才だ。ここにリアルな天才がいるぞ。昨日は、心の中でバカにして申し訳ありませんでした。それにしても、リアルで飛び級とか初めて聞いたぞ。どうりで年上には見えなかったんだな。
『ゼニスは凄いんだな』
ゼニスは恥ずかしそうに照れている。この調子なら、イベントへの影響も無さそうだな。
『それと、イベントなんだけど、事前登録してなくても、今から飛び入りする事は可能なのか?』
『スタート時間までに登録出来れば大丈夫………だけど、どうかした?』
それならば、少し【ハウンド】対策を取らして貰おうかな。目には目を、歯には歯を、邪魔物には邪魔物を………と言うやつだな。
今、ログインしているのは、カゲロウとアキラとフレイか………あっ!!そうだ。アイツらもいたな。時間的に何人が【ペンタグラス】まで来れるか分からないけど、全員にメールだな。僕は絶対にゼニスに遠征権を獲得して貰いたいからな。
『おい、シュン来たぞ』
最初に現れたのはアクア達。丁度、定期船が着く時間だったのが不幸中の幸いだったよな。
『悪いな。ドームとレナもありがとう。本当に助かるよ。それと、この娘がメールで話したゼニスだ。ゼニス、彼らは僕の仲間達だ。右からアクア、レナ、ドームだ。皆、良い奴ばかりだから安心しろよ』
『えっ、えっ、でも、迷惑が掛かる………』
今更、迷惑が掛かるとか言っているけど、昨日、僕を誘った時は、その事を考えていなかったのだろうか?いつかその機会が有ればの話だけど、聞いてみたいものだな。
『私はレナです。そんな奴は、私も絶対に許せませんからね。ゼニスちゃん、頑張りましょうね』
レナのやる気が過去最高じゃないか?他人の為に怒れるのは美徳だよな。これなら、男の僕から見ても格好良いドームが惚れるのも納得出来る。
『ドームだ。俺もレナと同意見だから、シュンもゼニスも気にするな。ついでに、俺としてはシュンに今までの借りを返させて貰うぞ』
『最後に俺がアクアだ。ヨロシクな。楽しそうなイベントの誘いに感謝するぜ………って言っても、日本語だと伝わらないよな。それよりもだ。シュン、お前が【ペンタグラス】に一番目に着いたプレイヤーだったんだな。港に入った時にライトニングが有って驚いたぞ。これを隠していた事については、あとでジュネと一緒に説教だからな。それとは別に一つ質問が有るんだが、シュンって英語を話せたっけ?』
説教だけは勘弁して頂きたいものだ。僕は、昨日嘘を全くついていないんだからな。
『いや、今も話す事は出来ないぞ。これは《バイリンガル》スキルの効果だ。取得すれば、色んな言語が話せるようになるぞ。勿論、魔物や………もしかしたら、アクアの魔獣器とも話せるぞ。意外に取得しておくと便利だから、お勧めだぞ』
『マジか!?それなら俺も取得する。おぉ、おう。なるほど、こうして、こうか?』
レナとドームが今の会話を聞いても取得しないところを見ると、二人は英語を話せるんだろうな。ゼニスにも今の会話が分かってるみたいだし、分かっていて英語で話してたんだろうな。流石は尊敬出来る社会人の二人だ。
『ゼニスちゃん、分かる?アクアだ。改めてヨロシクな』
『シュン、助っ人は俺達三人だけか?一緒に船に乗ってたプレイヤーに何人か知り合いもいたんだが、念の為に声を掛けようか?』
ドームは、冷静に状況が把握出来てるみたいだな。今のままでイベントに挑むなら、結果的に一人足りないからな。
『大丈夫。そろそろ追加の助っ人達も来るはずだ………おっ!!丁度、来たみたいだな』
船からアキラ、カゲロウ、フレイの順に降りてくる。こちらも時間通りだな。
『なっ、何で?一体どう言う事だ?どうやって、【ペンタグラス】に?』
『ちょっと前に、ライトニングを【noir】の第三ホームとして申請したからな。その時に、追加でゲートを登載する事帰る出来たんだよ。だから、【noir】のホームに入る事が出来て、ライトニングに乗った事が有るプレイヤーなら、定期船に乗らなくてもライトニングが有る場所に来れる。アクア達にも教えても良かったんだけど………定期船に乗ったって聞いたからな。一応、空気を読んだ結果なんだけど………』
『………シュン、今度からは空気を読まないでくれ。あとから知る方が、何て言うか辛い』
ドームとレナの表情もアクアと変わらないな。こうなる気がしたから、僕としては言いたく無かったんだよな。
『お待たせや。シュンは、何処におっても迷惑なやっちゃのう。損な話なら、遠慮せんとウチらにも一口咬ませんかいな。そして、そこにおる自分がゼニスやろ。よろしゅうな、ウチはフレイや』
僕のメール通り、事前に《バイリンガル》で英語を取得してるようだな。もう、イベントの開始まで時間が無いから、話が早くて助かるよな。
『カゲロウです。俺達に任せろ。ギルマスは、あんな感じだが本当に頼りになるから、安心して』
カゲロウ、それ僕にも聞こえてるんですけど………
『最後に私がアキラです。日本に来たら、私達のギルドホームにも遊びに来てね。その為にも今日はクリアしなきゃだね』
『み、皆さん、ありがとうございます』
めっちゃ泣いてるな。仲間がいっぱいで嬉しいんだろうな。男としては、期待には応えないとな。
『大丈夫だ。困った時はお互い様だ。そうだろ?シュン』
『そうだな。ゼニス、その代わり僕達の誰かが困った時は、今度はゼニスが助けてくれよな』
たまに、良い事を言うんだよな。この幼馴染みは………
『うん、うん………本当に、ありがとう』
さて、これで準備は完了だ。あとはイベントをクリアするだけだな。
スタートまで残すところ十分と少々。既にペアの割り振りは終わっている。既に決まっていた僕とゼニスのペアと、アキラとフレイ、カゲロウとアクア、ドームとレナの三つのペアだ。コースは全長七キロで、三キロ地点に有るチェックポイントでイベント用のアイテムを受け取れるらしい。それを回収して、一時間以内に街に戻ってくるタイムアタックレースだ。
トラップや魔物は当たり前で、イベント参加者に対しては、妨害もペナルティ無しらしい。このイベントはタイムアタックレースなので、クリア報酬の遠征権以外にもクリアタイムの早い順に一位から十位までにレアな順位報酬、十一位から五十位までに通常の順位報酬が出るらしい。その為、期間内なら何回も挑戦可能で、二個以上の名前を五十位までにランクインさせているプレイヤーもいるらしい。
特に、大手ギルド【ハウンド】は、順位報酬の独占が狙いらしく、現時点で一位から十位まで全てを占めており、十位までに入りそうなプレイヤーや気に入らないプレイヤーの妨害やPKをギルド単位で繰り返しているようだ。僕達が参加するレースにもギルドメンバーを七チームも送り込んでいるらしい。
PKをしても、トリプルオーではメリットが無いのに、そこまでして人の邪魔をしたいのか?本当に救いようが無いギルドだな。
ちなみに、ギルド【ハウンド】のメンバーは、装備のどこかに青一色でデザインされたギルドマークが入っているので、他のプレイヤーとの見分けがしやすい。
その為、僕達の作戦はと言うと………
『皆、聞いてくれ。ゼニスには分からないように日本語で話すぞ。俺達の目的はシュンとゼニスを生かす事だ。【ハウンド】の妨害からゼニス達を守る事が第一だ。今回、俺達のクリアは二の次で良いんだからな。そこだけは間違えるなよ、分かったな』
『それと、これは僕から………ここにいる皆には必要が無いと思うけど《付与術》の全掛け。今から三十分は持つと思う』
全員に《付与術》を掛けていく。二度とゼニスをイジメようとは思わなくなるように、周りが引くくらいの圧倒的な強さも見せ付けなければならないからな。
その後、僕達は各々のスタート地点に散らばった。
『シュン、アクアはさっき何を話してたんだ?』
『妨害に負けずに頑張るぞって言ったんだよ。ゼニスも僕と一緒に頑張ろうな』
皆、本当にすまない。感謝するぞ。
『うん。あっ!!ア、アイツが何で?』
『ゼニス、どうかしたのか?』
急にゼニスの顔が青ざめる。
『あそこに、【ハウンド】のギルマスがいる。普段はこんなイベントに出て来ないのに………』
あいつか………身体がデカくて、いかにも力が強そうな雰囲気を醸し出しているのがグレタフか。
でも、何であんなキャラエディットにしたのか?が疑問になる程度には不気味だな。僕も人の事が言える程、イケメンでは無いけど、アレよりは絶対にマシだよな。
それともアメリカでは、あんな顔が人気なのか?それなら、僕は日本に産まれただけで幸せだと思えるな。
まぁ、ゼニスが言うように、レベルとステータスは自分が最強と勘違いするくらいには他のプレイヤーと比べても高いよな。あくまでも、数ヶ月遅れの割にはだけど………
向こうもゼニスに気付いたらしい。こっちを見てニヤニヤしてるからな。なんか生理的に気持ち悪いな。
『おい、ゼニス、一人のお前が、この場所に何の様だ?まさか、ボッチがこのイベントに出るとは言わないよな。それは無いよな。このイベントは二人限定。いつもボッチのお前が出れる訳が無いからな。そうだろ?俺の言っている意味が分かるよな』
ヤバい………これは、顔立ち以上に性格が生理的に受け付けないな。
『………うっ』
ゼニスは小刻みに震えて脅えていた。
頑張ろうと言う気持ちとは裏腹に体が拒絶してるんだな。一体どれだけイジメれば、こんな事になるんだよ………
〔『主よ、わしが許可するのじゃ。目の前の汚物をぶっ潰すのじゃ』〕
〔『………今からPVPで殺る?』〕
黒から物騒な言葉が飛び出て来たし、やけにやる気に溢れているよな。違う意味での殺る気………今からのイベントで空回りしなきゃ良いけどな。それに………
〔『まぁ、今はまだその時じゃないからな。それについても、僕に考えが有るから心配無用だ』〕
どうやら、僕達以外の日本のメンバーも同じ気持ちのようだな。遠目からでも《見ない感じ》越しに、怒気が伝わってくる。
『悪いな。いつも、うちのゼニスがお世話になってるみたいで、今日は、ゆっくりと僕達の背中を眺めてくれて良いからな』
『何だ?お前は?フッハハハッ。おい、お前はまさか《銃士》なのか?フッハハハッ、分かった、分かったぞ。お前がゼニスのパートナーか?おいおい、冗談は止めてくれ。お前達は俺を笑い死にさせる気か?それなら、確かにお前達が最強だ。フッハハハッ。ゼニス、お前にはお似合いだ。良く似合っているよ。フッハハハッ』
今すぐにでも、ぶっ飛ばしたいところだけど、ここは我慢だ。我慢。あと数分もすれば………僕よ、冷静になれ。あと、離れて見ているアキラとフレイ、頼むから少し怒気を抑えて欲しいよな。何故かは分からないけど、言われた本人の僕よりも怒っているからな。
仲間達には、何が有ってもレース途中までは、僕達を知らないフリをしてと伝えている。事前に伝えていなければ、この場所が戦場になった事だろう。スタート前に【ハウンド】から挑発くらいは有ると読んでの事だったけど、こんなアホな挑発が来るとは思っては無かったよな。挑発を受ける役がアクアだったのなら、我慢するのは無理だったろうな。
『だ、黙れ。アタシの事は何を言っても良いけど、シュンを悪く言うな』
さっきまで震えていたのに、いや、まだ震えているな。それでも僕の為に、勇気を振り絞ってくれたんだな。ゼニス、ありがとな。
『フッハハハッ。お前、まだ俺達に逆らうのか?一人で何も出来ないくせにボッチのお前が、フッハハハッ。面白い。本当に面白いぞ。無事にゴール出来ると思うなよ』
こいつは、分かっているのだろうか?今、完全にフラグを踏んだ事を、それも大惨敗と言う名の………
〔お待たせ致しました。第三回公式イベント第四十六レースを開始します。皆様、用意は良いですか?〕
いよいよ始まるみたいだな。今回の装備は【白竜】と【黒竜】の二丁持ち。グレタフはクズだが、イベント中に僕が倒して終わりではダメだ。あくまでも、このレースはゼニスが大差で勝たなければならないからな。
〔『白、黒、本当に頼むぞ』〕
〔『主よ、ワシらに全てを任せておくのじゃ』〕
〔『………頼りにして良い』〕
本当に頼りになる二匹だよ。本当に、僕には勿体無いくらいだよな。
〔それではいきます。Ready Go〕
装備
武器
【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉
【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉
【空気銃】攻撃力0〈特殊効果:風属性・バースト噴射〉×2丁
【火縄銃・短銃】攻撃力400〈特殊効果:なし〉
【アルファガン】攻撃力=魔力〈特殊効果:光属性/レイザー〉
【白竜Lv60】攻撃力0/回復力220〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv60】攻撃力0/回復力220〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv60
《双銃士》Lv79
《真魔銃》Lv3《操銃》Lv24《短剣技》Lv26《拳》Lv50《速度強化》Lv100※上限《回避強化》Lv100※上限《魔力回復補助》Lv100※上限《付与術改》Lv3《付与練銃》Lv3《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv26
サブ
《調合工匠》Lv28《上級鍛冶工匠》Lv3《上級革工匠》Lv6《木工工匠》Lv34《上級鞄工匠》Lv8《細工工匠》Lv42《錬金工匠》Lv40《銃工匠》Lv36《裁縫工匠》Lv15《機械工匠》Lv19《調理師》Lv20《造船》Lv17《家守護神》Lv52《合成》Lv48《楽器製作》Lv5《バイリンガル》Lv4
SP 9
称号
〈もたざる者〉〈トラウマニア〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈摂理への反逆者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉〈工匠〉〈呪われし者〉




