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OOO ~Original Objective Online~ 改訂版  作者: 1048
第一章 第五部
44/65

三人寄れば文殊の知恵・・・

『アキラ、依頼されてた弓が出来たぞ。ちょっとした説明が有るんだけど、少し時間は有るか?』

僕は《鍛冶工匠》を《上級鍛冶工匠》に進化させた事も有り、順調にアキラとリツの依頼品を製作し終わっている。あれ以降は、特に呪われた装備が出来上がる事も新しい工匠ボーナスが現れる事も無く順調に製作を進める事が出来てた。


『大丈夫だよ。雪ちゃん、ちょっと待っててね』


『ごめんな。少し時間が掛かると思うから、ちょっと白達と遊んでてくれるか』


『うん。雪待ってるの。向こう行こう、白ちゃん、黒ちゃん』

雪ちゃんは、慣れた感じで白と黒を両肩に止めて中庭に出て行く。またスキルの特訓でもするのかもしれないな。まぁ、僕の方も街の外に出て狩りをする予定も無いので、白と黒がいなくても問題無いからな。むしろ、この後も続けて生産をするので、静かになるのは良いかも知れないよな。


『それで、これが依頼の品だ』



八重の弓(やえのゆみ)】攻撃力120〈特殊効果:可変/分離/八属性選択/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中/重量軽減・大/速度上昇・中/攻撃力上昇〉



『わぁ~~!!何、この弓の色、綺麗~』


『気に入ってくれたみたいで良かったよ。この【八重の弓】は桜をモチーフにしていて、ベースとなる可変可能な【桜弓(おうきゅう)】と【八重桜(やえざくら)】と言う扇の二つの武器に分離出来るようになっているんだ。扇の方は属性を選択して属性アーツを補助的に強化も出来るようにしてあるから、アキラ自身が色々と試してみてくれると嬉しいかな』

製作者である僕自身が弓も扇も使えない為、テスト自体が出来てない。実際に使ってみると、僕が思いも付かなかった使用方法を思い付きそうだからな。


『桜………だから、ピンクから白へのグラデーションになってたんだね。うんうん、この分離機能も素敵かも。シュン、ありがとね』

思っていた通り、アキラにはピンクと白のグラデーションも似合うな。この分なら大切に使ってくれそうで良かったな。


ちなみに【桜弓】だが、僕のスキルが《上級鍛冶職人》になった事も有り、射撃と同時に桜の花弁が一枚散るお洒落なエフェクトが出るようになっている。まさか、ここまでエフェクトの設定が細かく個別に選べるとは思ってなかったんだけどな。


『あと、その弓はリツみたいに魔弓に出来ないから、もう一つ面白いオプションが有ってな。これなんだけど………』



桜花筒(おうかづつ)

〈特殊効果:矢速強化/音声認識〉〈製作ボーナス:倉庫直通〉



『新しい矢筒かな?これ、底に穴も空いてるみたいだし、今の物よりも長さが短かいし、矢の本数自体も入らなそうだけど………でも、色は綺麗だよね』

なんとか、矢筒の色だけを誉めてくれたけど、顔は微妙そうだな。まぁ、少し細長い腕輪にしか見えない【桜花筒(これ)】だけを見たなら不安になるのも分かるけどな。


『あれ?おっかしいな~、気に入ってくれたのは色だけか?ちょっと、【八重の弓】借りても良いか?』

そろそろネタばらしをしても良い頃かもな。


『………うん』


『これは、【八重の弓】の矢をつがえる場所に、こう言う風に組み込むんだよ』

アキラに手渡された【八重の弓】に【桜花筒】を組み込む。これはあくまでも、《鞄製作》と《木工》で製作した少し特殊な木製の鞄(・・・・・・・・・)の為、弓に組み込んでも弓自体の性能は変わらない。これ自体を《合成》すれば可能だと思うけど、これは分離出来る事に価値が有るので、《合成》はしていない。まぁ、あらかじめ【桜花筒】を組み込んだ状態で装備すれば良いだけだからな。


ちなみに、今回アキラの為に製作した可変可能な弓の【桜弓】の形状は、アーチェリーの遠距離種目で使われているコンポジットボウの折り畳み式で、折り畳んだ状態でも【桜花筒】を組み込めるように工夫されている。まぁ、この形状に辿り着くまでには試、作品で小さな廃品(ゴミ)(増殖の機能で勝手に増えた分も含む)の山を築ける程度には苦労もしているのだけどな。


『ほら、これを持って矢を射るように弓を構えてリロードって言ってみて』


『えっ!?う、うん。いくよ………リロード。えっ、何で?矢が?』


『それは、倉庫直通機能を用いた簡易版のオートリロード機能だな。リロード()に反応して、倉庫から空洞状態の矢筒の中に一本の矢が現れる仕組みだ。矢筒自体を空洞にしてあるから、その状態で矢を射る事も可能だな。リツの魔弓には叶わないけど、矢をつがえる手間を格段に省けるはずだぞ』


『うそっ!!こんなの見た事も聞いた事も無いよ』


『まぁ、木製の鞄は僕だけのオリジナルだからな。一応?その矢筒は分類的には鞄なんだよな。だから、今のところ僕しか作れないと思う』


『そっか………シュン、本当にありがとう。大切にするね』

まぁ、たとえ壊れても倉庫の中に増殖の効果で増えた全く同じ予備が有るけどな。


『おう。代金の方はメールで伝えた通りだから、適当に【noir】の金庫にでも入れといて』


『うん。値段が安過ぎる気もするけど、お言葉に甘えさせて貰うね。じゃあ、雪ちゃんを待たせてるから、行くね』


『あっ!!ちょっと待って、もう一つ有るんだよ。これ、なんて言うか、その………魔獣器では無いんだけど、アクセサリー。この前、ヒナタに渡した時にアキラも欲しそうにしてたから、新しく作ってみた。個人的には上手く出来たと思ってるんだけど………まぁ、良かったら使ってくれ。これはプレゼントだから、お金は要らないからな』

裏庭で待たせている雪ちゃんを迎えにいく為に振り返ったアキラを呼び止めて、再び振り返させる。魔獣器の時は、悪い事をしたからな。依頼以外の品をプレゼントしておきたい。



水鏡の指環(みかがみのゆびわ)】魔法防御力10〈特殊効果:火属性無効〉〈製作ボーナス:回避上昇・中〉



『えっ!?これ、指環!?私に?良いの?』


『まぁ、アキラをイメージして作ったからな。貰ってもらえるなら、僕も嬉しいかな』


『ありがとう。良かったら、シュンが填めてくれる?』

これも弓と同じように何回も失敗したかいが有ったな。本当は、機能的にもブレスレットを作りたかったのだが………僕がデザインするとブレスレット(アクセサリー)と言うよりも、無骨過ぎる腕輪と言った方がしっくりくる防具が出来上がってしまったからな。


流石に、この仕上がりで『アクセサリーです』と言い切る事が出来ないからな。僕やアクアが装備するなら問題は無いけど、その対象が女の子だと大問題だからな。


まぁ、アキラ自身も指環を喜んでくれているみたいだから、結果オーライみたいだな。


それに火属性無効と言う、火属性の攻撃を全て無効化する新しい特殊効果も出来た。生産系の職人としては、かなり良い感じだと思う。これは、暇を見付けて属性対策の為に全属性分を作っておきたいところだな。


『おお、良いぞ。うん!?左手?利き手に付けるのは邪魔にならないか?反対の右手が色々と便利だと思うぞ』

アキラの場合は左手で扇を持つし、弓を引く時にも左手を使っている。小振りの指環とは言え、邪魔になると思うんだけどな。やっぱり、ブレスレットの方が良かったかもな………


『大丈夫。左手で………ううん、私は左手()良いの。それと、出来る事なら薬指が良いんだけど………ダメかな?』

左手の薬指?まぁ、指の中では一番使用度が低いから、邪魔にはならないかも知れないけど………


『ダメじゃないけど、左手の薬指に何か特別な意味が有るのか?』


『えっ!?シュン、知らないの?えっ~と、あの、その………あっ!!確か、チャンスを引き寄せるって言う意味が込められてたような気がする………かな。やっぱりダメかな?』

アキラの態度が、物凄く取って付けた感が否めない気がするけど、ただでさえ強運のアキラが、今以上にチャンスを引き寄せる事に果たして意味が有るのかが僕には分からないよな。それなら、どちらかと言うと僕に必要な気がするよな。


僕に填める事を頼んだアキラ自身は、耳の先まで顔を真っ赤にしている。そんなに恥ずかしいのだったら、自分で填めた方が良いんじゃないのかな。まぁ、頼まれた限りは填めるんだけどな。


『いや、別に良いぞ。薬指だな、了解だ。どうだ?填めてみてた感触は?』


『うん。ありがとう。どう?似合ってるかな?』

小振りの青いクリスタルを基調にした【水鏡の指環】はアキラの白く長い指を一層に引き立てている。


『お、おぅ。良く似合ってと思う』

アキラの勢いに負ける形で答えてしまったが、話した内容は僕の本心だ。製作者の僕が言うのも何だが、本当に良く似合っていると思う。





『あの~お二人でお楽しみのところ、申し訳有りませんが………』


『『うわっ!?』』


『リ、リツ。いつからから、いつから見てたの?』

本当に、一体いつから居たのだろうか?白と黒がいない僕は、背後にいたリツの存在に全く気付かなかった。


『う~んと、『指環!?私に?良いの?』のところからです』

かなり前から居たようだな。あの一連の流れを見られていたのは、少し恥ずかしい気がするな。まぁ、【桜花筒】の存在を知られてないみたいだから、別に良いけどな。


『リツ、忘れて。いや、訂正。今すぐに忘れなさい。お願いします』

ただし、僕以上にアキラの方が恥ずかしがっているみたいだな。その慌てぶりは、若干見ていられないかもな………僕も人の事は言えないのかもだけどな。


アキラに、お願いと言う名前の命令をされながら、追っかけ回されているリツが少し可愛そうに思えてくるよな。


『わ、私は、シュンに呼ばれて来ただけなのに、この仕打ちは流石に酷いですよ~~!!シュンも見てないで助けて下さい』

そう言えば、確かに呼んでたな………まぁ、ドンマイ。僕(そして)リツ。


『依頼の品は出来てるぞ。ほら、これだ』


『ふむふむ、ふむふむ。いや~今回も完璧な仕上がりですね』

手渡した弓を色々な角度から吟味して答えてくる。持った感触も問題なさそうなので何よりだな。


『報酬は、いつも通りお店の方に渡しておきますね。ありがとうございました』


『ちょっと待て、リツ。それは預かっていた魔化石を組み込んだ成功品だ』


『成功品?はい、それで私の依頼は合ってますよね』


『いや、確かにそれで合ってるんだけど………たまたま出来た呪われた(・・・・)失敗品も有るんだ。まぁ、当然こっちの方は魔弓では無いけどな。どうする?』


『呪われた装備ですか………』

僕は、呪われた装備と呪われた場合のメリット。デメリットも一緒にリツに説明していく。


『これが、本当に呪われた物ですか?見た目に違いは分からないんですけど………』

ジト目で僕の方を見てくるが、これは間違い無く呪われた逸品だ。見た目は同じで、呪の事はステータスにも表示されていないのだから、リツが疑うのも納得出来るけどな。


『………って言うか、【ワールド(そっち)】のガイアも呪は体験済みだろ?僕よりもリツの方が詳しいはずだよな』


『ガイアが呪われた時は、私はその場に居なかったものですから………』

僕達に聞こえないような小声で、『本当に惜しい事をしました』と続けている。


『でも、その効果ですと、攻撃力二倍って言う呪の効果は魅力ですが、結果的にはガイア達に迷惑を掛ける可能性が高いので、私は使えませんね』


『まぁ、そうだな。そこで、役立つのが【精神の腕輪】だ。この腕輪には混乱対策が僕に出来る限り詰め込まれている』

呪い自体に対策を施す事も考えたけど、出来れば呪いの効果の一つ………攻撃力二倍の効果は活用したかったからな。



【精神の腕輪】〈特殊効果:耐乱/防乱〉〈製作ボーナス:防乱/超耐乱〉



『なるほど、かなりメタってますね』


『メタ?そんなに金属は使って無いと思うけど………』

金属も少しは使っているが、この腕輪は御神木をメイン素材にしてクリスタルを装飾としてあしらっている。金属を使っているのはクリスタル周りの飾りだけのはずだ。


前回のイベントで採掘した僕の分のクリスタルは、アキラとリツの試作等の為に、ほぼ全てをダメにしてしまったからな。まぁ、あとで解体して少しでも多く回収する予定だけどな。


『シュン、違うよ。リツの言ったメタるって言うのは、メタル(金属)の事では無くて、簡単に言うと専門の対策を練る事だよ』

それはゲーム用語か?それなら、確かに【精神の腕輪】は混乱に対してメタっているよな。


ちなみに、この腕輪のベースになっているのはアキラの為に作ろうとしたブレスレットだ。デザインが上手くいかなったので無骨な腕輪として再利用されている。まぁ、他の失敗作にも様々な耐性を盛り込んで、この場合メタってと言うのか………ショップ【noir】の方で販売しているけどな。


『なるほどな。僕は弓を装備出来ないからテスト自体はしていないけど、これだけ混乱対策を詰め込んで有るから、大丈夫だと思うぞ。使ってみるか?使用してみた結果だけ教えてくれれば、呪いの弓と腕輪はサービスするぞ』

僕は、これで得られる報酬よりも、遥かに結果が知りたい。これが成功すれば、製作物に呪いの利点だけを利用出来るからな。


『う~~ん。取り敢えず、預からせて貰おうかな。テストするかしないかは、ガイア達と相談して決めるよ』


『了解だ。色々と悪いけど頼むな』


これで、三つ終わったか。王の依頼を兼ねた遠出まで残りは二つつか………今のところ、ケイト達から加入の件の手伝いは頼まれてないからな。さて、次はどっちにするかな、正確に言うなら、どっちが暇かな?だけど………





『カゲロウ、今ちょっと良いか?』


『ギルマスか………今はダメだ。う~ん、一時間後なら空いてるぞ』


『了解だ。じゃあ、一時間後に神殿の前で待ち合わせだ。種と苗買いに行くぞ』


『おう、分かった。ギルマス、絶対に遅刻するなよ』

カゲロウにコールを入れて、手短に予定を組んでいく。カゲロウ相手だと僕主体で予定を決めれるから、男同士(同性)と言うのは楽だよな。


それにしても、忙しそうだったな。加入の件関連か?必要なら僕達も手伝った方が良いかも知れないな。まぁ、さりげなくだけど………


『う~ん、一時間か』

このまま【シュバルツランド】の街ブラで時間を潰しても良いんだけど………


この時間なら、ヒナタは造船所にいるよな。どのみち船の改造許可を頼むつもりだからな………直接出向いて少しは誠意を見せるとするか。最悪、カゲロウとの待ち合わせまでの良い時間つぶしにもなるだろう。


ゲートで造船所に転移してヒナタを探す。造船所のドック内には、停泊しているライトニング以外にも二隻の作りかけの船が有った。手前の一隻は、多分だけど王の依頼分だよな。もう一隻は………何処の依頼だ?ガイア達の船は、ちょっと前に進水式終わっているはずだよな。僕は行かないかったけど、案内状を兼ねた招待メールも届いてたからな。


『お~い。ヒナタ、いるのか?』

軽快な金槌の音が響いているので、造船所に誰かが居るのは間違い無いだろう。だが………金槌の音も気配も一人じゃない?よな。


この場に白と黒が居れば、《探索》スキルを使って確認して貰うんだけど、ホームに置いてきているので今は諦めるしかない。


『は~い、いますよ。赤い船の上です』

手前に停泊している赤い船の上から、ヒナタの声が聞こえてくる。金槌の音がする方向とは逆なので、ヒナタ以外にも誰か居るのは確定したな。


赤い船は、ライトニングの約二倍くらいのサイズだ。ライトニングでもガイア達の三十六人以上乗れる船の倍近くは有る。いかに、この赤い船が大きいか分かる事だろう。あくまでも僕個人の推定だが、この造船所内で作れる最大サイズになるだろう。


まぁ、赤い船は王の依頼品なので、用途としては国で運用する物になる。だから、大きい方が便利なんだろうな。


『シュンさん、何か私に用ですか?』


『あぁ、ちょっとライトニングの改造許可が欲しくてな』


『………改造ですか?ちなみに、質問するんですが、今回はどんな感じですか?』

勝手に【アーツの書・浮遊】を《合成》した過去が有るからな………簡単には許可を出してくれないと思っていたけど、ここまで警戒されるとは思わなかったよな。


『王の依頼を兼ねて、ちょっと海に出ようと思ってな。移動時間を利用して生産活動をする為に簡易の工房の設置と《機械製作》等で作る便利なアイテムを《合成》させて貰おうかなって思ったんだけど………やっぱり、ダメか?』


『その程度でしたら、大丈夫ですよ。シュンさんの事ですから、また変わった【アーツの書】を《合成》したり、《銃製作》で作った大砲とかを乗せるとか言い出すのかと思いました。このライトニングに、さりげなくゲートを登載していた事に気付いた時は本当に驚きましたからね』

先に釘を刺される形になってしまったな。当然、この船に大砲等の武装を積み込むつもりは無かったけど、ケイトから預かっている【アーツの書・潜水】くらいは《合成》するつもりだったんだが………


それにしても、船に登載したゲートが既にバレているとは思わなかったな。まぁ、ゲート自体はホームに有る物と同じ物だから、見付けられたのならゲートの存在には気付くと思うけど、皆の驚く顔が見たくて、見付け難い場所に隠すように設置して有ったんだけどな。本当に残念だ。


『その辺は、必要に応じて徐々に追加と言ったところだな。それと、他にも誰か来ているのか?さっきから金槌の音が聞こえているんだけど………』

今言った改造をやる気は有るのか?と言う驚いた目を向けられているが………取り敢えず、この場での完全否定はしないでおこうか。【アーツの書・潜水】を預かった時にも言われた事だけど、ケイト自身が海の中の移動を楽しみにしているからな。この理由が建前なら、ヒナタもダメとは言わないだろうし………


『はい。トウリョウさんのお弟子さん達が、向こうで船を造っています。アキラには伝えてたんですけど、少し前にトウリョウさんに頼まれまして、素材等の運搬を手伝って貰う代わりに空きスペースを貸してます。ダメだったでしょうか?』

確か………【カーペントリ】の造船所は一隻しか作れない小さな物だったよな。多分、依頼の増加と共に造船所が手狭になって来たんだろうな。


まぁ、いつも僕達が手伝える訳では無いからな。ヒナタ一人で重い素材や船の部品を運ぶ事を思ったら、空きスペースをシリアイニ貸すくらいは何の問題は無いけど、流石にこの大きさの船を一人で造る事には無理が無いか?


『気にしなくても、大丈夫だぞ。それで、ヒナタの造っている船の方は順調なのか?空いてる時なら僕も手伝うぞ。スキルのレベル上げにもなるしな』


『そうですね。もう少し先の工程に進んだら、私だけでは無理が有りますので、シュンさんとカゲロウにお願いしようと思ってました』

ヒナタはお願いと言っているけど、この場合のカゲロウには拒否権は存在していないのだろうな。


『そうか、いつでもメールしてくれ。予定は調節するから』

まぁ、一人で無理をしていた訳では無いみたいなので良かったかな。僕も一人でコツコツと製作する楽しさは分からなくもないからな。まぁ、これは【noir】のメンバー全員に言える事なんだけど、生産に没頭すると時間が経つのも、自分自身が疲れているのも忘れる。特にフレイとか、フレイとか、フレイとか………





『ギルマス、遅いぞ』


僕が待ち合わせ時間前に、待ち合わせ場所に指定した神殿の前に着いた時には、既にカゲロウが待っていた。しかも、かなりのご立腹のようだけど………僕は何かしたのだろうか?


『悪い………と言うか、まだ約束の時間までには十分あると思うけど』


『ギルマスなら、早めに待ってると思って、かなり早く来てたんだよ。あの時間から、もう一回作業するには時間が微妙だったし』

うん!?それって完全に冤罪もしくは八つ当たりじゃないのかな?まぁ、確かにいつもよりは遅いと思うけどな。


しかも、生産が思うように上手くいってないようで、イライラしているのも伝わってくる。気持ちは分からなくもないけど、人に当たるのはどうかと思うな。僕は気にしないタイプだから良いけど………他の人相手にもイライラを見せるようなら、早めに注意は必要かもな。これは、ギルマスたる僕の役目だろう。


『まぁ、種と苗代、その他必要経費は僕のポケットマネーで奢らせて貰うから、それで許せ。ところで、カゲロウは何を育てる予定なんだ?』


『俺は、実験用にポーションの素材になる薬草類の種を数種。それと、出来ればMPポーション系の素材や製作方法等の情報を手に入れたい』

聞き慣れない言葉が出てきたな。


『MPポーションと言うのは、魔力回復薬の事か?』


『そうだぞ。俺は作り方は分からないが、最近は回復力の低い市販品以外でも回復力の高いプレイヤー品が露店で売られ始めたからな。ネイルさんのところも研究してるみたいだけど、俺と同じで全く結果が出てないんだ』

カゲロウの《調合》する薬品は、ショップ【noir】でも販売個数、リピート率共に上位を記録している。


そのカゲロウが製作出来なくて、ほぼメンバー全員がカゲロウと同じ《上級調合職人》以上になっているネイルさんの【プレパレート】でも全く結果を出せていないMPポーションを製作したプレイヤーがいるのか。それも、市販の魔力回復薬すらも上回る………そのMPポーションを作ったプレイヤーはかなり凄い奴みたいだな。


もしかして、カゲロウのイライラの原因はこれか?それなら、多少は多目にみて上げても良いかもな。


ちなみに、カゲロウの薬品は試作品を試供品として売っている物が多い為、単価が安く優れている物が多い。個数的には売れているが、売り上げ金としては僕とフレイには大きく届いていない。


僕の鞄は、販売個数を制限しているので数は売れていないけど、店舗に並べる度に消えていく。最近では店舗に並べる金曜の夜中には、ちょっとした列が出来ているくらいだからな。


フレイの武器や防具は全てがオーダーメイドの為、売りたくても数が作れないので販売個数が伸びていない現状だ。


一つの製品としての売り上げ一位はヒナタの作る船で、他の追随を許さないくらいの大差で君臨しているし、アキラの作る服にも、コアなファンがいたりする。現状で【le noir(ショップ)】的に貢献が少ないのはケイトになるのだけど、牧場と《酪農》スキルを得たケイトが、これからどうなるのかは誰にも分からない。僕的には、かなり楽しみで見物だったりもするんだよな。それに、新鮮な牛乳とかチーズを作れたのなら、僕はミルクティーやピザと言った品々を作らずにはいられないからな。


『僕自身が、白と黒のお陰で最近は回復アイテムを使ったり買ったりする事が無かったから、アイテム市場の事は知らなかったな』


『ギルマスは存在そのものが異常だ(怪しい)からな。それで、ギルマスが買うのは、やっぱり紅茶関係か?』

自覚は有るけど、他人から言われるのは何か複雑な気分になるよな………


『一応、そうなるかな。ケイトが今後作るであろう牛乳に負けないくらいの茶葉は作りたいからな。それと野菜や果物類の苗とかだな』


『野菜の苗?【八百屋・生野菜】の野菜に不満でも有るのか?ホームの冷蔵庫が簡単に埋まるくらいだから、俺はてっきりギルマス達は気に入っている物だとおもっていたぞ』

【八百屋・生野菜】は、【noir】がかなり贔屓にしている八百屋で店主NPCのサラダさんとも親しい。当然、この店以外で野菜を買わないくらいには品質と味にも信頼を置いている。


『勿論、【生野菜】の野菜達に何か不満が有る訳では無いんだけど、自分の力で野菜作って、その野菜を自分で収穫して料理するとか………《料理》をする者としては魅力的じゃないか?』


『結局はそれか、ギルマスは多趣味過ぎるぞ。そんなに、生産系を取得してる奴、他には絶対にいないぞ』

カゲロウに言われなくても、自分で取得したスキルを見れば言われた事にも納得出来る。まぁ、シークレットクエストを攻略して〈工匠〉の称号を得れるぐらいだからな。


多分、戦闘系のスキルよりも生産系のスキルが多いプレイヤーは少ないだろう。大抵の生産系のプレイヤーは二~三種を専門に扱っているので、生産系スキルの数が戦闘系スキルの数を上回る事は無い。だが、同じトリプルオーと言う世界を楽しむなら、僕は少しの妥協もしたくないからな。


『もう、そこは無視してくれると助かるかな。それよりも、カゲロウは《農業》スキルは取得したのか?』

ただし、そんな僕も《農業》スキルの取得には、躊躇しているのだけどな………


『当然、取得済だぞ。でも、このスキルを取得した感じから言わせてもらうとだな。《料理》系のスキルと扱いが似ているから、多分《家事》系のスキルでも育てる事は出来ると思うぞ。《農業》スキルと同じ補正が有るかは分からないけど………って、まさか、ギルマスも取得したのか?』


『いや、それはまだだ。大絶賛検討中と言ったところだな』

カゲロウからの視線が痛いな………これは、本当に取得していないのだけどな。あれは明らかに疑っている目をしている。だけど、本当に今の僕はSPに余裕が無いんだよ。現状では進化しそうなスキルが後方に控え過ぎていて、最近ちょっとSPが心許なくなっているからな。


まぁ、《家事》系のスキルでも可能であるならば、しばらくは《家守護神》で様子見が正解かもしれないな。





カゲロウと多種多様の種と苗を買ってホームに帰った。残念な事にカゲロウの欲しがっていたMPポーションの製作情報だけは得られなかった。代わりにと言っは何だけど、たまたま露店で噂のMPポーションの現物を見付けて、サンプル用にと数本を確保する事だけは出来たんだけどな。


『これが、噂のMPポーションか………確かに市販の物よりは良さそうだな』

市販の物が回復力10%前後で、今手にしている物が20%前後と言ったところだろう。


ちなみに、今言った回復力に前後が付いている理由は、市販の物でもプレイヤーの製作品でも優劣が有り、1~3%(若干)だが性能に誤差が有る。1~3%(若干)と言っても、ボス戦などの緊急時には、数%の差が大きな差になって現れたりもするのでバカには出来ないけどな。


『あぁ、実際のところ、使う側からしたら10%の差はデカイと思うぞ』

確かに、10%と言えば中位魔法と上位魔法くらいの差は有るからな………


『うん!?』

もしかして、これって………


『おい、カゲロウ。今、余分なポーションを数本持っているか?』


『売り物の在庫なら有るけど、どうかしたのか?』


『いや、このMPポーションの製造方法が分かったかも知れない………』

工房に移動し、ただのポーションに自分の魔力を加えて《練金》してみる。


『出来みたいだな。これでどうだ?ほら』

アイテムのステータスはMP回復力15%………僕のMP消費も15%ってところだな。


《練金》のこう言う使い方は知らなかったな。僕の周りでは、粗悪(・・)な鉱石複数個を普通(・・)上質(・・)の鉱石に変えたり、複数の小さな宝石を集めて一個の大きな宝石に変えたり、加工に失敗した鉱石を元の素材に戻す時に使う事が多い。まぁ、僕個人としては銃弾の作成にも使ったりもするんだけどな。


《練金》スキルが練金術と言う意味なら、こう言う物質変換的な使い方が本来の使い方なのかも知れないよな。スキルレベル自体は採掘や生産で少過程で少しずつ上がっていたので、レベル上げを集中的にする必要も無かったから、特に気にもしてなかったよな。


『出来たって!?マジかよ?うぉぉ~~~、マジだ!!………俺が悩んでいた答えは《練金》だったって事か?それなら、俺やネイルさん達が作れないのも納得だ』

カゲロウは、僕が投げ渡したMPポーションを受け取り、アイテムのステータスを細かく確認しているみ。


謎が解けて嬉しいのは分かるが、少しは製作に成功した僕を誉めてくれても良いんじゃないのか?否定されるかも知れないけど、僕は誉められて伸びるタイプだと思うぞ………


『みたいだな。僕は《見ない感じ》のお陰で、MPポーションを触っていたら何となく分かったんだけど………この製作方法が正解だとするなら、《調合》系の職人がいくら頑張っても作れない訳だよな。MP回復力とMPの消費量からみると、《練金》時に込めたMPの割合が回復力になるみたいだな。まぁ、全力で魔力を込めて15%だったから、込められる魔力にも上限は有ると思うんだけどな』

それに、この場に白と黒が居たら、竜の力の恩恵でMPが回復してしまうからな。検証する面では居なくて良かったかもな。お陰で、ある程度正確なデータが取れた気がする。


実際のところ、このアイテムはMPポーションと言うよりも、MPを保存する簡易MPタンクと言った感じだよな。


『………うん!?違う。ちょっと待て、ギルマス。これはMPポーションと違うぞ。全く別のアイテムだ』


『はっ!?よくステータスを見たのか?ちゃんとMPは回復するだろ』

MPが回復するのにMPポーションじゃないなら、一体何だって言うんだ?あっ!?簡易MPタンクか………それなら納得だな。


『あぁ、ギルマスの言う通りでMPも回復するな。ギルマスこそ、ステータスを全部確認したのか?』

そう言われると全く自信は無いな。MPが回復する事は確認したけど、その他の事までは見てなかったかも知れない………いや、はっきり言おう。見てなかった。


『見てないかも知れないけど、たいした問題では無いんだろ?』


『大有り。しかも、大問題だ。俺が渡したポーションのHP回復力は20%だったはすだ。だが、ギルマスが《練金》を加えたポーションはHP・MP回復力が15%になってるだぞ。これはMPポーションじゃない、それ以上の万能系のポーションだ。名前は………そうだな。ここでは仮にカゲロウポーションEXとしておく』


『ちょっと待て!!それの名前は、あとで冷静かつ情熱的に考えよう。それよりもだ、そのポーションはHPとMPの両方が回復する効果が有ると言う事か?』

カゲロウのネーミングセンスには、僕以上に前科が有るからな。はい、そうですかと放って置く事は出来ない。価値の有るアイテムに変な名前が付いていたら、名前を見ただけで笑ってしまい戦闘でまともに使えなくなってしまうからな。


『あぁ、そうだ。これは試した方が早そうだぜ。先に謝っておくが、すまないギルマス。ちょっと我慢してくれよ』

カゲロウは武器、正確に言うなら鈍器を片手に持ち、僕を殴りつけてくる。


【noir】のエリア内は、メンバーのみ攻撃する事が可能な設定にして有る。作った武器の試し切りをその場でしたいと言うフレイからのお願いなのだけど………まさか、僕自身が再びやられる側になるとは思ってなかったな。


『痛っ!!』

紙装甲の僕に対しての一撃は、軽く殴られたとしても流石に効く。軽く殴られたにも関わらず、HPが一割減少。今後は体力系の強化も必要になってくるかもな………


普段通りに白と黒が居れば、気にならくらいの攻撃なのだけど………と言うか、この場合は白と黒いつもありがとうが正解だな。本当に感謝してます。


『悪いな。ギルマスはMPが減ってたからな。テストに利用させて貰った。今のでHPも減ったから、丁度良いだろ。試しに、カゲロウポーションEXを飲んでみろよ』

少しギルマスに対する敬意が無さ過ぎる気もするけど、丁度良いと思う事には完全に同意出来る。それに、僕自身がアクアに対してやっている事と大きく変わらない。これは、因果応報なのだろう。これからは、僕もアクアに少し優しくしてやろうかな。因果応報の為に………


ただ、それとは別に、ポーションの名前が決定事項になりつつ有るのが気になるところだ。こればかりは、皆と協力しても断固阻止させて貰うからな。


『………いただきます』

ゴクッ、ゴク、ゴク。


ポーションが一気に僕の体に吸収されていく。一気に飲んだ為に味わう暇も無かったけどな。まぁ、ポーション自体を飲む事が久し振り過ぎて、元の味は思い出せないから、比べられないのだけど。


ちなみに、ポーションは身体に振り掛けて使用した場合にも効果は有るけど、飲んだ場合よりも回復力が減少する。その為、生産職人としては、緊急時を除いては味わう(飲む)方法をオススメしている。


『………本当みたいだな。HP・MP(両方)とも回復しているぞ』


『ステータスで理解してたけど、これは凄いぞ。でも、これでMPポーションの謎は振り出しに戻ったって事か………』

嬉しいのが半面、残念なのが半面、何とも微妙な顔をしているカゲロウ。


《見ない感じ》を使っても、MP回復オンリーのポーションの製作方法は勿論の事、MPポーションの素材すら分かっていない………こうなってくると製作者が上手く隠蔽している可能性も有るよな。上手く隠蔽する系のスキルも有るかも知れないのだからな。でも、そうなってくると、手探りで製作を繰り返すしか無いんだよな。


案外、このMPポーション製作に成功したプレイヤーも偶然なのかも知れないよな。それか、気が付かないだけで、もの凄く単純な方法で製作出来るのかもな。


まぁ、乳鉢と乳棒でゴリゴリするのが………特に、あの音が苦手な僕には縁の無い話なんだけどな。

装備

武器

【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉

【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉

【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉

【白竜Lv54】攻撃力0/回復力204〈特殊効果:身体回復/光属性〉

【黒竜Lv54】攻撃力0/回復力204〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉

防具

【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40

〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉

アクセサリー

【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉

【ノワールホルスターズ】防御力20〈特殊効果:速度上昇・大〉〈製作ボーナス:武器修復・中〉

【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉



天狐族Lv57

《双銃士》Lv75

《魔銃》Lv74《操銃》Lv19《短剣技》Lv24《拳》Lv45《速度強化》Lv98《回避強化》Lv98《魔力回復補助》Lv99《付与術》Lv69《付与銃》Lv74《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv23


サブ

《調合工匠》Lv28《上級鍛冶工匠》Lv3《上級革工匠》Lv6《木工工匠》Lv34《上級鞄工匠》Lv8《細工工匠》Lv42《錬金工匠》Lv40《銃工匠》Lv28《裁縫工匠》Lv15《機械工匠》Lv12《調理師》Lv3《造船》Lv15《家守護神》Lv39《合成》Lv42《楽器製作》Lv5《バイリンガル》Lv2


SP 17


称号

〈もたざる者〉〈トラウマプレゼンター〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈摂理への反逆者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉〈工匠〉〈呪われし者〉

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