良血馬(サラブレッド) 3
『それで、魔物はどこにいるんだ?こっちか?』
カタログで見ていた通り広い場所だな。
『マスター、そっちでは有りませんです。牛舎の方では無くて、あっちの馬舎の馬房にいますです』
牛舎?馬舎?えっ!?この牧場って、そんなに細分化されている程広いのか?
僕は、放牧の出来る牧草地と家畜を休ませる厩舎的な建物が有るだけだと思っていたんだけど………設備の増築はしたが一回も来てなかったからな。この件が片付いたら落ち着いて見てみる必要が有るかもな。僕が思っていたよりも何倍も広そうだ。
『マスター、あそこです。あそこに居ますです』
視認で一匹か………これだったら、ケイト一人でも大丈夫だったんじゃないのか?
『了解だ。ヒナタ、いくぞ。〈回避上………ちょ、ちょっと待て、ケイト。これは僕の見間違いか?あの魔物、この馬房と言うんだったか?の中で大人しくしているように見えるんだけど………僕の気のせいか?』
ケイトの指差す方向には、確かに魔物はいる。魔物の存在自体は《見ない感じ》でも感じているので間違いは無いだろう。僕が見る限りサイズ的にはギリギリだと思うけど、きっちりと馬房の中には納まっている。
しかし、明らかにこちら側に敵意は示していない。むしろ、友好的な眼差しと言うか、溢れんばかりの好意すら感じるんだけど………そもそも、魔物が街の中、ましてや個人のエリアに入れると言った話は聞いた事が無いよな………何か妙な気がしてきたな。
『はいです。見間違いでは無いですよです』
それに、徐々に近付いて見て分かったのだけど………勿論、警戒は怠っていないのだけど。
『………もしかして、ケンタウルスか?』
僕の中の記憶に新しいケンさんやウルちゃんとの出合いが思い出される。良い思いでたからな。
『δθοιγΨρηζ』
『はいです。私では何と言っているのか分かりませんです』
私ではとケイトは言うけど、相変わらず僕にも何を言っているのかは分からないよな。
確か、これはプレイヤーには分からなかった言葉だったよな………と言うかケンタウルスなら、ケンタウルスだと教えて欲しかった。まぁ、ケンタウルスも魔物には違いないのだけど、ケンさん達との出合いのお陰で、僕の中でケンタウルスは魔物と言う認識では無いんだよな。
『主よ、大変なのじゃ。このケンタウルス、ケン殿の娘さんじゃ』
『はっ!?いやいやいやいやいや、流石にそれは騙されないぞ。だって、このケンタウルスはケンさんよりも大きいんだぞ。流石にそれは有り得ないって』
あの時のウルちゃんは、確実にケンさんよりも二回りは小さかったはずだ。このケンタウルスは小さく見積もってもケンさんと同じか、それ以上にしか見えない。騙すのなら、もう少し上手く騙して欲しい。
『主よ、そこまで言うのなら、自分自身でステータスを確認してみるのじゃ』
『だから、確認してみるまでも…………』
開いた口が塞がらないと言うのは、この事か?
僕は二度見どころか三度見、四度見までしている。普段、僕に驚かされている皆の気持ちが少しは分かったな気がする。まぁ、僕が驚かしているのは故意では無いんだどな。
そんな事よりも、ウルちゃんのステータスの中には、気になるスキルがいくつか存在している。
………と言うか、あれからそんなに時間も経ってないよな。トリプルオーの時間で換算しても三ヶ月は経っていないはずだよな。
『………成長期』
そんな素直に成長期だと言われても、俄には信じれないよな。
『σψωδιζοξφ』
『主よ、やっとワシが嘘を付いてない事を理解出来たみたいじゃな。ケン殿の娘が言うには、この体の大きさは成長期によるものと母親に似たんだそうじゃ』
本当に単なる成長期だったのか?それと母親似?ウルちゃんのお母さんって、どれだけ大きいんだよ?と言うか、この場合はケンさんが小さいだけなのか?娘のウルちゃんでギリギリサイズのこの馬房にはお母さんは絶対に入らないよな。あくまで、僕の想像だけど………
『ここに来たのは、あの時の恩返しをしたいからだそうじゃ。出来ることなら、【noir】に置いて欲しいそうじゃ』
まぁ、体格の件は一旦置いとくとして、あの小さく可愛かったウルちゃんが、こんなに逞しく成長するなんて感慨深いものが有るよな。この感じだと、あの一連のイベントは終わってなかったのかも知れないよな。もしくは、イベントのサイドストーリー的な何かかも知れないけどな。
まぁ、そんな僕の雑念よりも色々と確認したい事も有るのだけど、その前に………
『ケイトはウルちゃんと分かってたのか?』
これだけは、先に確認しておく必要が有るよな。
『それはNoです。馬房を掃除しながら、牧場の規模を確認していましたら、急に外からケンタウルスさんが飛び込んで来ましたです………』
本当にビックリしましたですと続けているが、既に僕の耳には入っていない。
『白、黒、取り敢えず、ウルちゃんとの会話を何とか出来ないか?白達が通訳してくれても良いんだけど、出来る事ならウルちゃんと直接話をしてみたいんだけど』
これからどうするのかを決めるにしても、直接話が出来た方が何かと便利だろうからな。
『主よ、良いスキルが有るのじゃ』
『………《バイリンガル》スキル』
《バイリンガル》?
『《バイリンガル》は《調教士》や《召喚士》には、ほぼ必須スキルなのじゃ。それを取得すれば、魔物とも直接喋る事が可能になるはずじゃ』
………と言われてもな。身近に、そのジョブのプレイヤーはいないし、トリプルオーは存在するスキルの数が判明していないくらい多過ぎて、一人のプレイヤーが全て把握するのは不可能に近いからな。
消費SPは10ポイント。初期から取得出来る事や《調教士》と《召喚士》のほぼ必須スキルと言う事を考えたら、消費SPは少々高目の設定なのかも知れないな。
まぁ、今はSPが残っているし、取得しておけば今後も何かと便利そうなので取得する事自体に異論は無いのだけど、スキルを取得しただけで全ての会話が分かるのであれば、スキルレベルを上げる必要が無い気もするんだけど………はたして、そんなに甘い物なんだろうか?
『Oh~!!マスター、本当に言葉が分かりますです。ウルちゃん、私はケイトと言いますです。覚えていますか?です。お会いするのは今日で二度目なんですよです』
このスキルを取得する事で、相手の言葉を聞き取る事が出来るのは間違い無いみたいだな。これなら、アクアの魔獣器の言葉も理解出来るかも知れないな。ケイトに少しだけ出遅れたが、僕も《バイリンガル》を取得する。決して、ケイトを実験台にした訳では無い。
『そう言う事か、なるほどな』
《バイリンガル》は、こう言う風になっているんだな。
《バイリンガル》は、1レベル毎に選択した一言語を理解出来る仕様になっている。つまり、多くの魔物や召喚獣等の言葉を理解する為にはスキルレベルを上げる必要が有る。これなら、スキルレベルを上げずにスキルを有効利用する事は出来なさそうだな。まぁ、一つの言語しか必要が無かったなら、レベル上げの必要は無いのだけどな。
………と言う事で、僕は数多いリストの中から魔物のケンタウルスを選択した。
『名前、ケイトって言うんだね。勿論、覚えてるよ。あの時は、本当に有り難う。言葉が通じるって良いよね。やっと、ウルの言葉でお礼を伝える事が出来たよ』
『僕はシュンだ』
『うん。シュンも有り難う』
『ウルちゃん、始めに少し聞いて良いかな?』
ウルちゃんが、頷くのを確認して………
『ケンさんは元気にしてるのか?それと、ウルちゃんが【noir】………ここに居る事は知っているのか?』
せっかく、クィーンから解放されて奇跡的に一緒に暮らせるようになったのに、また離れ離れになるのは問題が有るような気がする。身体は成長したのかも知れないけど、心の成長は別物のはずだからな。
『主よ、それは………』
『それは大丈夫。パパも元気にしてるよ。ここに来たのは、ウルの意思。それと、ケンタウルス族の成人の儀って感じかな』
白の言葉を遮るようにウルちゃんが割り込んできた。白が言いかけた事も気になるけど、今は………
『成人の儀?』
聞き慣れないフレーズだよな、人間で言う成人式みたいなものか?
『そう。成人の儀。ケンタウルス族は大人になると家族の元を巣立って、自分自身の力で新しい家族を見付けないとダメって掟が有るの。ウルの場合は色々事情が有って少し遅くなっちゃったけど。年齢的に言って、かなり前に成人の儀終わってるんだよね。ウル、召喚獣でも家畜でも何でもするから、ここに置いて、お願い!!』
その色々な事情が分かる僕達としては、何とも言えない感じだな。
………と言う事は、ウルちゃんは成人の儀でケンさんのもとを巣立って、新しい仲間として僕達を選んだって事になるんだよな。
ただ、召喚獣と言われても、【noir】には《召喚士》はおろか、《召喚》スキルの取得者も居ない。上位の魔物種であるケンタウルスを、いくら牧場が有るからと言っても家畜にするのは論外だよな………と言うか、ウルちゃんは家畜の意味が分かっているのだろうか?人間で例えるなら奴隷とまでは言わないけど、それに近い感じになるよな。
さて、どうしたものかな。取り敢えず………
〔『白、さっき言いかけてた事は何なんだ?』〕
〔『主よ、それはプライベートな事なのじゃと言いたかったのじゃ』〕
そう言う事か………それなら、問題は無さそうだな。
『マスター、私が世話をしますです。《召喚》や《調教》スキルも取得しますです。お願いしますです』
スキルの取得は自由だし、仲間が《召喚》スキルを使うところも見てみたいかもな。それに、僕は仲間のやりたい事を否定する気は全く無い。そもそも否定については真っ先に僕がされるべきと言う自覚は有るからな。
『まぁ、牧場長のケイトが言うなら、別に良いぞ。ただし、ウルちゃんは、その馬房からは出てギルドホームの中に住んでくれ。まだまだホームの部屋は余っているし、必要が有るなら増設すれば良いからな。あと露天風呂も有るから自由に使ってくれよな』
それに、親が広大な牧場を営んでいるケイトに任せておけば、悪いようにはならないだろう。
ケイトがウルちゃんと召喚獣契約もするのも楽しみだよな。
そもそもの話、牧場内での出来事は牧場長であるケイトに決定権が有る。同様に畑はカゲロウ、造船所はヒナタ、僕を含む三人のギルドマスターはホーム。まぁ、施設の増設に関しては、僕しかしてないんだけどな………もっと、自由に増設してくれても良いんだけどな。むしろ、積極的に増設して僕を驚かして欲しい気もするな。
取り敢えず、こっちは片付いたよな。残るは、雪ちゃんか………アキラは進化したって言っていたけど、僕は雪ちゃんの進化した姿が想像出来ないんだよな。
………と言うか、あっちはあっちで大変そうだな。
牧場内での出来事を片付けて、慌ててリビングに戻った僕を待っていたのは、全く想像すらしていなかった事態だった………
『………』
『主よ、悠長に固まっている場合では無いのじゃ』
そう言われてもだな。この状況を理解するのに少なからず時間が欲しいのは、僕だけでは無いだろう………
『………シュン、どう言う状況か分かる?』
『この声、そっちがアキラなのか?』
僕は、声を発したアキラの方に向き直る………と言う事は反対の………
『こっちのアキラは………もしかして、雪ちゃんなのか?』
一瞬、《忍者》にジョブチェンジしたアキラの分身かとも思ったんだけどな。それでも、事前に雪ちゃんが進化したと言う話を聞いていなかったら、《忍者》一択だったんだろうな。
『シュンお兄ちゃん、大正解なの』
そう言って、雪ちゃんは変身を解き、いつもの………皆の知っている雪ちゃんの姿に戻った。まぁ、これを変身と言って良いのかは分からないのだけどな。
リビングで僕を待っていた二人のアキラは、寸分変わらずにアキラだった。それなりに付き合いの長い僕でさえ、二人が発した声以外に違いを見出だす事が出来なかった。何故なら、《見ない感じ》で判別出来ないだけでなく、僕やフレイの製作した世界に一つだけの装備さえも、完璧に同じなのだから………
『すまん。二人共、僕の頭ではキャパがオーバーしたようなんだけど、順を追ってゆっくり最初から説明してくれるかな?』
『うん。私も分かっている事は、シュンとあまり変わらないと思うんだけど………私が雪ちゃんにおやつを持って行った時には、もう私の姿だったんだ。最初は私も夢とか幻も疑ったんだけど………』
アキラも、まだ半信半疑と言った様子だな。
『主と虎猫の姉さんよ、これは雪の努力の結果なのじゃ』
雪ちゃんではなく、白が自信満々に答えた。
いつの間にか、さりげなく僕から離れて雪ちゃんの頭の上に陣取っている。まぁ、普段アキラよりも雪ちゃんと一緒に居る時間の長い白が理由を知っていてもおかしくないよな。
『白は知っていたのか?』
当人である雪ちゃんに直接聞いても良かったのだけど、雪ちゃんはいつものようにニコニコ笑っているだけで、答える素振りすら見せていない。どうやら、僕達が驚いているのが嬉しいようだ。
『当たり前なのじゃ。ワシは雪といつも一緒におるのじゃ。かなり前になるのじゃが、雪がワシと黒に主や虎猫の姉さん達と一緒に冒険がしたいと言い出したのじゃ』
『………それで、秘密特訓』
白と黒にそう言われて、雪ちゃんの方を振り替えると恥ずかしそうに俯いている。それよりも、白だけでなくて黒も知っていたんだな。どうりで二匹共がアキラが雪ちゃんの事で慌ていた時に、全く動揺せずに落ち着いていたはずだよな。
雪ちゃんが僕達と一緒に冒険したい事については、確かに身に覚えは有る。雪ちゃんがギルドに入ってからは、街の外への冒険は勿論、街の中へ連れて出る事すらほとんどしていない。たまに買い物等に連れて行く事は有っても、周囲にバレてパニックになるのを怖れて近場で短時間に留めているからな。
雪ちゃんのスキル構成なら、ギルドメンバー以外にバレる可能性は低いと頭では理解しているのだけど、僕の《見ない感じ》みたいに変わったスキルも存在するので、万が一の可能性を怖れていた。雪ちゃんを晒し者にしたくなかったからこその措置だったのだけど、まだ幼い雪ちゃんに対しては結果的に苦しめていたのかも知れないよな。
『そうだったのか?』
『そうなの。雪も、あの時みたいにシュンお兄ちゃん達と一緒に………』
あの時と言うのは、多分夏の肝試しイベントの時だよな。僕とフレイと途中から一緒になった雪ちゃんの三人で走った。怖かったけど楽しくもあった。あの夏の一時………
『………相談されて黒達も一緒に特訓』
『そうなのじゃ。ワシと黒と雪とで、雪も一緒に冒険出来るように特訓したのじゃ。幸いな事に、このホームは広さだけは無駄に有るからのじゃ』
特訓する場所には、困らなかったと言う事か………
『その通りなのじゃ』
白と黒が言うには、雪ちゃんのこの変身は《|複写『コピー』》と言うレアスキルらしい。全てを欺く為のスキルで〈朧〉等のアーツとは違い、姿だけでなくステータスも欺ける。まぁ、ついさっき《見ない感じ》も完全に欺かれたからな。触れたりすれば、また違った結果は生まれたのだろうけど、生憎普通の男子高校生である僕には、気軽に女子に触れる勇気は持ち合わせてないからな。
そして、もっとも大きな違いは欺くだけでなく《複写》によって変身した物と同じ能力が使える事だろう。簡単に言えば、ファミリアを使っての即席の分身とでも言えば分かり易いのかも知れないな。
ただし、この強力なスキルには、当然制限やリスクも有る。制限と言うのは、最後に利き手とは逆の手、雪ちゃんの場合は左手で触った物にしか《複写》出来ない事と自分のスキルレベルよりも強い物への《複写》では《複写》していられる時間が大幅に短縮されるらしい。
確かに、日常生活を含めて考えると、常に強い物を記憶しておく事は難しいよな。それに、利き手と逆の手を使わないようにするのも無理が有るからな。
そして、リスクと言うのは《複写》解除後三十分は次の《複写》が出来ず、その間はHPとMP以外は元になるステータスよりも上昇していたステータス分が減少する。これはマイナスになっても適用されるらしい。使い方によっては、切り札以上の切り札になるレアスキルの為に非常に重いリスクだよな。
さっきのアキラの《複写》は、実際のところ制限時間的にはギリギリだったらしい。僕に見せる為だったとは言え、よくやるよな………従ってアキラを《複写》していた今の雪ちゃんのステータスは、ほぼマイナスを記録しており、かなり厳しい状態になっている。
………と言うか、白と黒は雪ちゃんに、よくこのスキルを覚えさせようと思ったよな。もともと覚える事の出来る力は有ったんだろうけど、僕なら他の道を探しそうだからな。
強力なスキルでは有るが、普通のプレイヤーには使いづらい気もする。自分よりも強い物を《複写》するのはリスクが高いので、必然的に自分よりも弱い物への《複写》が増えるだろう。しかし、実際のところは、わざわざ自分よりも弱い物に《複写》する必要は無い気がするからな。まぁ、天狐族の固有アーツと組み合わせれば、一緒に行動はしやすくなるかな。
雪ちゃんが、進化と言うよりは成長した事で、他にも《憑依》と《悪寒》等の幽霊特有のスキルも習得していた。これも白と黒との特訓の賜物なのだろうな。僕達に隠れて特訓していた事には頭が下がるな。
《憑依》では、以前に僕が作ったクマのぬいぐるみを媒体に自在に動いて見せてくれた。この《憑依》スキルの対象は人型だけにとどまらず、無機物ならどんな形状の物でも全てが対象になる。まだスキルレベルが低い為に大きな物は無理らしいが、今のレベルでも50センチくらいの物なら可能らしい。
《悪寒》は、ステータス減少の効果が有るスキルで、減少系の《付与魔法》と似たような効果を得られるらしい。僕の《付与術》とは違い、範囲にも効果が有るようなので《付与陣》と言った感じだろう。
今までから出来た《浮遊》やデフォルトの壁や地面の通り抜けを含めると、十分な戦力になるはずだ。あくまで戦力だけを見るならだけどな。
『雪ちゃんも一緒に闘えるのは分かったんだけど、雪ちゃんのHPはどうなるんだ?ステータスを見ても0のままだよな』
幽霊だけに………
『主よ、雪もファミリアじゃ。扱いはワシらと同じなのじゃ』
『いや、ちょっと待って。以前に白から魔獣器の扱いは聞いた事が有るが、普通のファミリアの扱いは聞いた事は無かったと思うんだけど………』
『………言ってない』
『そうじゃったか?年齢のせいか、ワシも最近は物忘れが酷いのじゃ。魔獣器以外のファミリアには主達と同様にHPが有るのじゃ。これが0になれば、また石に………いやファミリアの卵の状態に戻るのじゃ』
ちなみに、ファミリアの卵の状態に戻っても時間を掛ければファミリアに戻す事が可能らしい。成長したスキルレベルやステータスはそのままだが、元に戻すには相応の時間が掛かる為、戦闘で見殺しにする主人は少ないだろうな………
………と言うか、物忘れを年齢のせいにしているけど、白はそんな年齢では無いよな。おじいちゃんみたいな話し方はともかく、まだ産まれて間もないはずなのだから。
『だから、最初から0の雪ちゃんの場合はどうなるんだ?』
『う~む、雪のHPは0じゃが、攻撃を喰らう事が無いからのう、多分倒される事は無いと思うのじゃ』
つまりは、特殊過ぎて分からないって事だよな。確かに、雪ちゃんは攻撃を受け流すと言うか、自分の意思で通過させる事が出来る。ほぼ無敵の状態だからな。不要な心配だったかも知れないな。
『………個人契約が必要』
『黒ちゃん、白ちゃん、それってどういう事?』
『おっと、忘れるところだったのじゃ。雪の主人は、今現在はギルド【noir】になっておるのじゃが、冒険の為に街の外へ連れて出る場合は個人との契約が必要になるのじゃ』
そのルールが有るなら、雪ちゃん自身が【noir】と再契約した時点で、どのみち街の外へ出れなかったって事では無いのだろうか?
〔『主よ、それを言うのは野暮と言うものじゃ』〕
急に《心話》を使って話してきたが、僕自身も思っていた事なのでスルーさせて貰おうか。
『それなら、私が雪ちゃんと契約するよ。私はファミリア持ちじゃないし、確か一人につき一回だけなんだよね?』
『魔獣器を作る以外は、そうなるのかな。アキラ、本当に良いのか?まだ契約自体はしていない僕が契約しても良いんだぞ』
元を正せば、無意識の内とは言え、僕が連れてきたんだからな。責任は有るだろう。
『大丈夫だよ。雪ちゃんも私で良いかな?』
アキラの質問に、雪ちゃんは嬉しそうに頷く。それと同時に、雪ちゃんのステータスに表示されている主人の名前が【noir】からアキラへと変わっていく。ファミリアの再々契約が行われた瞬間だ。
『アキラお姉ちゃん、有り難う。雪、もっともっと頑張るの』
やっぱり素直で可愛いよな。白と黒も見習って欲しいものだな。
〔『………今の黒も十分可愛い』〕
そこは、外見の問題じゃなくて、内面の問題なんだよな。黒や白の場合は、可愛いと言うよりも良い性格をしているって方がしっくりくるからな。
『そうだ。アキラ、今SPに余裕は有る?10ポイント有ったら良いんだけど』
『最近、生産系のスキルが伸びてるから、今SPには余裕が有るかな。それが、どうかしたの?』
『もし良かったら、《バイリンガル》スキルを取得して言語選択でケンタウルスを選んでおいて欲しいかな。多分、後悔はしないと思うから』
『ちょっとよく分からないけど、あとで取得しとくね』
最初から言葉が通じれば、驚きも最小限でおさまるだろうからな。
さて、色々と複雑なトラブルが有ったけど、アキラの装備製作の続きをする前に《機械製作》を成長させた方が良さそうだよな。経験値の入らない状態は無駄になる。僕は《機械製作》を上位の《機械職人》スキルに成長させた。
〔パンパカパーン!!おめでとうございます。ただいまのスキル成長で、シュン様はシークレットクエスト【十個の生産系スキルを職人クラスに成長させる】を達成致しましたので、称号〈工匠〉を贈呈させて頂きます。つきましては、全ての職人クラスの生産系スキルの名称が工匠へと変更されます。工匠クラスの生産系スキルでの製作品には今まで以上のボーナスが付きますのでご確認下さい。本当におめでとうございました。以上、運営からお知らせでした〕
new称号
〈工匠〉
多くの生産スキルを学んだ者への称号
取得条件/十個の生産系スキルを職人クラスまで成長させる
スキルの成長と共に運営からの音声案内がくる。いつもの運営からの連絡と違い、シークレットクエストなるものを達成した僕だけにしか聞こえて無かったようだ。ただ、最初のパンパカパーンが楽器音では無く、口ラッパだった事に妙な腹立たしさは有るけどな。
いまいち理解出来ていないのだけど、称号の欄には〈工匠〉が増えているし、スキル名の職人の部分が全て工匠に変わっている。しかし、スキルの成長度合いや経験値等に変化は無い。結果的にボーナスが増えるだけみたいなので少し得した気がするよな。
まぁ、〈工匠〉で新しく得られるボーナス内容のリストが複数の???になっていて《見ない感じ》でも分からないのが気になるところだな。まぁ、何かを作ってみれば違いも分かる事だけどな。どうやら、僕はちょっとワクワクしてきたらしい。
まぁ、まずは扇の【八重桜】を合体させる弓の試作品を製作する事で様子見かな。
【折り畳み式試作ショートボウ】攻撃力70〈特殊効果:可変/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中/重量軽減・中〉
リツの試作弓を参考に、アキラに合わせた弓を製作してみた。形状が長弓とショートボウと言う部分以外に大きな違いは無い………と完成するまでは思っていたのだけど、製作された弓の目立たない場所に小さな四角で囲まれた匠の文字と僕の名前がローマ字の筆記体で刻まれている。当然、僕自身が入れる訳ではないので、自動で刻まれる仕様のようだ。
『うわっ………』
《見ない感じ》で確認すると銘打ちと言う自動発動キャンセル不可機能らしい。これって、よく高級な包丁に入っているやつだよな。かなり嫌なんですけど………今まで以上の製作ボーナスってこれなのか?
これは、ボーナスと言う名前の新手のイジメだと思うぞ。運営さん、そこのところはどう思ってるんですか?一回マジで問い詰めたくなるぞ。
『主よ、どうやらそれはボーナスとは違うようじゃ。ボーナス内容の一つが開放されておるのじゃ』
白に言われてリストを確認してみると、さっきまでは???ばかりのボーナス内容が一ヶ所だけ表示されている。
『増殖?だと………』
増殖と言う種類のボーナスが開放されているけど、武器自体のステータスには変化は無い。増殖、増える………か。
『………倉庫』
『倉庫?おいおい、それってまさか………』
黒の言葉に従って倉庫の在庫を確認すると、僕が手に持っている【折り畳み式試作ショートボウ】と同じ物がニューアイテムとして存在していた。鞄を通して取り出してみると、全く同じ弓が右手と左手に存在している。しかも、素材は一つ分しか減っていない。さっき、雪ちゃんの《複写》スキルを見ていても、俄には信じれないのだけど、これも現実みたいだな。まぁ、現実と言ってもトリプルオーの中の話だけどな。
………と言う事はだ。工匠ボーナスが何種類存在するのかは分からないけど、その何種類かのボーナスの中からランダムで選ばれるって事になるのか?
増殖の能力だけでも桁違いに凄いのだけど、これクラスのボーナスが他にも有るんだよな。流石に、テンションの急上昇を止める事が出来ない。何か他にも試してみたいよな。
適当に《機械製作》でネジやナット等を作っていく。在庫の補充を兼ねて、他のボーナスの確認がしたかったからだ。思っていた通り、新たに成長促進と倍化のボーナスが発現した。やはりランダムだったな。何が起こるか分からないと言うのも楽しいよな。
成長促進は、製作する事によって獲得出来るスキル経験値の上昇補正らしい。これは製作物に付く効果では無く、製作者自身に付くボーナスだ。
倍化は製作物に付くボーナスで、特殊効果と製作ボーナスの能力が二倍になるらしい。属性等の特殊効果によっては、倍になっても意味の無い物も有るのだけど、かなり嬉しいボーナスだよな。
かなりの量を作ったが新たに発現したのは、この二種類だった。まぁ、ほとんどの製作物に増殖と成長促進のボーナスが発動したみたいで在庫の量が大変な事になっている。僕が凄いと思って気に入っている増殖なのだが、工匠ボーナスとしては最低ランクなのかも知れないな。
さらに、もう一つ分かった事が有る。残念ながら、銘打ちは機能で有ってボーナスでは無かったと言う事だ。なので、今製作した全てのアイテムに僕の名前が入っている。まぁ、ネジとかの消耗品は、パッと見ても分からないくらい小さな文字なのは救いだけどな。まるで、大手メーカーのロゴみたいだよな。
………と言うか、慣れって恐いな。製作する物全てに銘打ちされている為、最初程嫌がっていない僕がいるからな。気持ち的には、かなり不本意だけど………
工匠ボーナスで一頻りの時間を楽しみ色々と満足した僕は、いよいよリツとアキラの弓の本番に取り掛かる。僕がバタバタしている間にリツからメールの返事も着ている。
メールには、お任せしますの六文字しか書いてなかったが、僕を信頼して任せてくれた限りは頑張らして貰おうかな。あらかじめ用意していた部品を使って、組み立て、微調整、製作ボーナスの選択を素早く行っていく。
普段、製作ボーナスは装備に合わせて僕が適当に選んでいるが、依頼者に頼まれて付ける場合も有る。今回の場合は後者だ。まぁ、ボーナスは素材に依存するので、理想通りにいかない場合も有るのだけど、なるべく理想に近い物には仕上げたいからな。
いつもの事だけど、事前に試作品を製作しているので二回目の製作は楽だよな。名前はリツから頼まれていた………
【星天弓】攻撃力120〈特殊効果:可変/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中/重量軽減・大/速度上昇・中〉※呪
名前の元ネタは、他のゲームに出てきた弓らしいのだけど、あまりゲームをしない僕には全く分からない事だ。試作品よりも良い素材を使った事と《細工》による後加工のお陰で、威力や見た目もかなり素敵になっているのだけど………気になる点が一点有るんだよな。多分、祝福と見間違えただけだと思うのだけど………
『………良い事だけとは限らない』
『えっ!?えっ~~~~!!』
はい。調子に乗りました。すいません。思い過ごしでした。心の底辺から謝ります。〈工匠〉で上がりに上がっていた僕のテンションは一気にマイナスまで急降下だ。
何故、ランダムボーナスの段階で、この可能性に全く気付かなかった事で、数分前テンションが上がりまくっていた僕を本気で恨みたくなるよな。
工匠ボーナスによって、新しくもたらされたのは呪。通常、呪系の装備は隠しステータスによって、装備してみるまでは効果が分からない。ただし、一度でも装備すればステータスに呪が表示される仕様になっている………らしいのだけど、僕は《見ない感じ》によって呪の存在だけでなく、その効果までが筒抜けになっている。あらかじめ分かる事が幸せかどうかと言うのは、全く別の問題なんだけどな………
今回【星天弓】の場合は、攻撃力は二倍になるが、装備を外しても一度死ぬまで解けない継続した混乱。
本当に危険極まりない代物だな。
………と言うか、僕自身は呪装備を見た事自体が初めてだからな。今までは、知らずに装備してしまったガイアの体験談を聞いた事が有るだけだったからな。その時のガイアには混乱は無かったみたいだけど、ダメージ三倍の効果が有ったらしい。勿論、ダメージ三倍と言うのは与えるダメージではなく、受けるダメージの方だけどな。
これは、性能的には申し分無いけど、絶対に商品にしてはならない。直接呪われたプレイヤーを見てみたいと言う邪な考えも浮かばなくは無いけど。アクアならともかく、女の子のリツを実験台には出来ないよな。
『あれっ!?………』
そう言えば、さっき見た通常の製作ボーナスの中に………
同じ弓を作り直して、工匠にランクアップした事で新しく付ける事が出来るようになった製作ボーナスを確認する。ちなみに、今回作り直した弓は、幸いな事に呪われる事は無かった。
『やっぱり、有ったな』
この効果を付ければ、面白い事が出来るかもな。
装備
武器
【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉
【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉
【白竜Lv54】攻撃力0/回復力204〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv54】攻撃力0/回復力204〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールホルスターズ】防御力20〈特殊効果:速度上昇・大〉〈製作ボーナス:武器修復・中〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv57
《双銃士》Lv75
《魔銃》Lv74《操銃》Lv19《短剣技》Lv24《拳》Lv45《速度強化》Lv98《回避強化》Lv98《魔力回復補助》Lv99《付与術》Lv69《付与銃》Lv74《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv21
サブ
《調合工匠》Lv28《鍛冶工匠》Lv50※上限《上級革工匠》Lv6《木工工匠》Lv34《上級鞄工匠》Lv8《細工工匠》Lv42《錬金工匠》Lv39《銃工匠》Lv28《裁縫工匠》Lv15《機械工匠》Lv12《調理師》Lv3《造船》Lv15《家守護神》Lv39《合成》Lv42《楽器製作》Lv5《バイリンガル》Lv2
SP 29
new称号
〈呪われし者〉
呪われた装備を作り、人の運命を変える者への称号
取得条件/呪われた装備を作る
称号
〈もたざる者〉〈トラウマプレゼンター〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈摂理への反逆者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉〈工匠〉〈呪われし者〉




