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OOO ~Original Objective Online~ 改訂版  作者: 1048
第一章 第四部
40/65

第三回公式イベント 8

ハーフマラソン(このイベント)中の共闘を約束したエルフの二人組は、普段は二人だけのパーティーもしくは二人が心の中だけで勝手に師匠と読んでいる人を加えた三人で狩りをしているらしく、僕が思っていたよりも、パーティー戦闘に………いや、トリプルオーと言うゲームに慣れていた。


特に、《回復師》のサラは《水魔法》と《土魔法》の上位《流水魔法》と《地土魔法(ちどまほう)》、さらにその二つの魔法からなる複合スキルの《泥魔法》も取得しており、回復だけでなく小規模ながら範囲系の特殊阻害魔法もこなした。


僕やブレッドが発見した魔物が、こっちに近付いてくる前に足元を泥沼に変化させて行動を制限している。実際に使っているのを見てみると、事前に説明で聞いたよりも便利だと思う。どう見ても、ちょっとした簡易トラップと言った感じだよな。


《準騎士》のブレッドの方は、普段はサラ達のパーティーで前衛をしているらしい。その道の大先輩にあたるアクアに言わせれば、筋は悪くないらしいけど、近接系のプレイヤーとの戦闘経験が少ないので連携面で若干の遅れが有るようだ。


まぁ、アクアと行動を共にする事で、徐々に動きが良くなっているのみたいなので、解決は時間(経験)の問題だよな。僕だけじゃなく、アクアの目から見ても優秀のようだからな。


『皆、何にも気付かないフリをして聞いてくれ。約七十メートル先、木の上と木の陰に二人ずつ隠れて狙ってる。うん!?これ………って、多分さっき俺とサラを襲ってきた奴らだ』


『僕の方も確認出来た。木の上に《盗賊》が二人、木の陰は《盾騎士(シールドナイト)》と《準騎士》が一人ずつだな。どっちのペアも、僕達にとってもプラス得点みたいだな。僕は倒しても良いけど………ブレッドとサラはどうだ?』

瀕死のプレイヤーを相手に、隠れて不意討ちや追い討ちを狙ってるハイエナプレイヤー達だ。逆に倒してしまっても問題は無いだろう。それに、アクアの意見を鵜呑みにする訳ではないけど、ブレッド達が今後もトリプルオーを楽しむ為にも、リベンジの機会は必要だろう。


『俺は、リベンジしたい』

チラッとだけサラを見て答えた。これで、三票か………決まりだろうな。


『私は………安全第一で行きたいんですけど』

まぁ、その気持ちも分かるかな。この言葉がすぐ出てくるくらいには、襲われた時に怖い思いをしたんだろうな。


〔『主よ、ワシと黒もフォローをするのじゃ』〕


〔『………頑張る』〕

実際のところ、白と黒の協力が有れば、サラに無理をさせなくても済むからな。


〔『分かった。だったら、白と黒はサラとブレッドのHPだけを気に掛けてくれ。あとは僕とアクアで何とかする』〕


『よし!!じゃあ、作戦を言うぞ。サラは、合図と同時に木の陰に隠れている二人に対して〈泥魔法〉を放ってくれ。そのあとは回復と周囲の警戒優先で後方待機。シュンは、木の上の二人に牽制と遊撃。可能なら、一人は倒してくれ。ブレッドと俺は、〈泥魔法〉で拘束された二人に追撃だ。一人で一人を相手にするぞ』

アクアが作戦を立て、指示していくが………さりげなく、僕の負担多い気がするよな。まぁ、サラの安全面に気を使えているし、さりげなく下にいる二人の中で強い方を自分の相手として選んでるから良しとするかな。


それに、あのレベルとスキル構成なら、僕達の内の誰が誰の相手をしても問題は無さそうだからな。ただし、不意打ちでは無い事が条件だけど。不意打ちを喰らえば、サラとブレッドだと少し部が悪そうだからな。


木の上に隠れているのが、アーツ以外の遠距離攻撃方法を持ってない《盗賊》とか、問題外だと思う。僕は武器を【雷光風】に持ち変えてアクアの合図を待った。


その間にも、一歩一歩(徐々)に敵との距離が縮まって行く………サラの方は《泥魔法》の詠唱を終えて待機状態にしている。このパーティー(チーム)での戦闘方法にも慣れてきたようだな。


『行くぞ。(さん)………(にぃ~)………(いち)………Go(ゴー)!!』


『〈マッドスペース〉。後はお願いします』

木の陰に隠れてた二人のプレイヤーは、サラの〈マッドスペース〉で泥沼とかした地面に両足をとられている。これは、何度見てもかなりの初見殺しだよな………発動したら最後、回避方法が思い付かない。僕の場合だと発動する前に回避するか、発動した場合は【黒竜】で《相殺》するかのどちらかになるだろうな。


能力が強い為、発動していられる時間は短いらしいけど、相手を倒すには十分な時間だと思う。それに、最初の〈マッドスペース〉の効果が切れる前に、次の〈マッドスペース〉を連続して放てば全く問題が無いからな。これは、僕も負けてられないな………


『〈曲射〉、〈必射〉、〈速度上昇〉』


『おい、シュン、何で敵に………』

足をとられて、その場から動けなくなっているプレイヤー達の攻撃を交わして反撃を繰り出しながらも、戦闘全体を(僕の子とまで)把握してるのは、流石リーダーって感じだけど、少しだけ想像力が残念だな………


僕が狙った《盗賊》の片方は、〈曲射〉と〈必射〉のコンボによって、無防備の背後から不意討ちの一撃を喰らう。背後からの一撃は、完全に無警戒だったようで、喰らった直後にバランスを崩して木から落ちていく………そして、〈速度上昇〉の《付与術》の効果で落下速度と共に威力も上昇していき………


ドス~~~ン!!


結果、僕自身が想像していた通りになったのだけど、一撃死(即死)とは………ここまでは、流石に想定してなかったよな。追い討ち用にと、密かに準備していたアーツが無駄になったな。以前にも経験が有る事だけど、フィールドを絡めた攻撃と言うのは意外に威力が高いんだよな。


これは、僕も注意した方が良さそうだな。例えば、トラップ系の落とし穴が有ったら、それに引っ掛かるだけで、神殿送り(死に戻り)になりかねないからな。と言うか………


『しまった!!アクア、すまん。もう一人を見失った』

あまりの出来事に完全に見失った。《見ない感じ》の効果を避けるとは、意外に油断できない相手だったみたいだな。


〔『………違う』〕


『えっ!?』

違うって、どう言う事だ?


〔『主よ、主は片方を倒したのじゃ。当然、もう一人は退場になったのじゃ。それと、声が漏れておるのじゃ』〕


〔『………要注意!!』〕


〔『あっ!!なるほど』〕

ルールの事が、すっかり頭から抜けてたな………と言う事は、アクアとブレッドも一人ずつを相手にしなくても良かったのか。完全に作戦ミスだな。


泥沼に足をとられた相手も、遠距離アーツ等で最後の抵抗を見せていたが、動けなくなったプレイヤーに負ける程アクアもブレッドも弱くはない。最後は、僕の《付与術》の援護も有り、ブレッドの方がアクアよりも先に相手を倒す事に成功した。アクアは急に目の前から消えたプレイヤーに驚いていたけど、冷静になるとルールを思い出したようだった。まぁ、結局は圧勝でリベンジ達成だな。


『おい、シュン、見ろよ。ポイントが一気に増えてるぞ』


『おぉ~~、本当だな』

どうやら、プレイヤー同士でのポイント争いは、勝った方が総取りになるらしい。これなら、この四人組がプレイヤーを狙ってきたのも分かる気がするな。まぁ、理由が分かっても僕達から他のプレイヤーを襲う気は無いけどな。


それに、このポイントなら、こいつらの犠牲になったプレイヤーも多かったんだろうな………改めて、御愁傷様です。仇は僕達が取ったからな。その代わり、ポイントは有効利用させて貰います。





『二人とも凄いぞ。それで本当に無所属なのか?良かったら、俺達のギルド【双魔燈】に入らないか?二人なら歓迎するぞ』

こう言う小まめな勧誘活動が、アクアのギルドを大きくしてるんだろうな。【noir】よりも、あとで出来たのにも関わらず、既に所属人数だけは四倍以上になっている。そのやり方を決して見習おうと言う気は僕に無いけど、好感は持てるよな。


『アクア、ごめん。誘ってくれるのは素直に嬉しい。でも、俺達は入りたい………目標のギルドが有るんだよ』

即答で拒否されたな。そう言うのは自由だから仕方が無いと思うけど、打相変わらず打ち解けるのが早いんだな。


『お誘いは本当に有り難いんですけど、ブレッドの言う通りで………私達がトリプルオーを始めた時に親切にしてくれた人が………あっ!!さっきも話した私達が勝手に師匠と思っているプレイヤーさんが所属しているギルドなんですけどね。あっ!!その人とは今でも交流が有って一緒に狩りに言ったりもしてるんですよ』


『交流が有るなら、何でそのギルドに入らないんだ?あっ!!言いたくなかったら、無理に言わなくて良いぞ』

確かにな。僕もアクアと同じで、今も交流が有るなら加入すれば良いと思うのだけど………


『それが、そう簡単にいかない大きな問題が有るんだよ………』

ブレッドとサラはアイコンタクトで何か話をしている。もしかしたら、会話の陰でパーティーチャットを使ってるかも知れないな。


ブレッド達は僕達と共闘をしているが、パーティーを組んでいる訳では無い。一応イベントの制限でパーティーの制限が二人と決められているので、パーティーを組む事は出来ていない。その為、パーティーチャットを使い隠れて話をされたら、その内容は僕達に伝わらないからな。


『そのギルドなんですが、現在はメンバーを募集してないんですよ。私達がトリプルオーを始めた時には、既に募集が終わってました。それに、そのギルドに入る為の加入条件も有るみたいですし………』

今現在は募集していないのなら、仕方が無いよな。再び募集を開始まで待つしかないからな。


『へ~~、そんなに条件が厳しいギルドも有るんだな。俺のところは来る者は拒まずだぞ』


『はぁ~っ!?アクアは良く知ってる有名ギルドの事だぞ』

うん!?何か、だんだんと雲行きが怪しくなって来た気がするよな。


〔『………黒も』〕

黒も同じ意見のようだな………と言うか、凄くデジャブを感じるんだけど………


〔『主よ、一つしか無いのじゃ』〕

………でも、そうなると、心の中の師匠って言うのは誰なんだ?


『シュンさんと同じ《銃士》………あの有名な黒の職人さんがギルドマスターをしている【noir】って言うギルドです。そのギルドのケイトと言うプレイヤーが知り合いなんです。ご存知無いですか?そのケイトにアットホームなギルドって聞いて、憧れてるんです』

やっぱり、【noir(うち)】の事だったか………それにしても、この二人はケイトと知り合いだったんだな。


ケイトは、当たり前のように人助けをしてるから、僕よりも知り合いが多い事にはゼンゼン驚かないけど、そこまで情報が有って僕の正体に気付かない事には驚きだな。でも、これでアクアの事を知っていた理由が分かったな。


『はっはっ、ブレッド達が言ってたのは【noir】の事だったのか、それなら………』


〔『おい、アクア、絶対に喋るなよ』〕


〔『何でだ?隠す事でも無いだろ』〕


〔『この二人だけなら、最悪の場合は話しても構わないけどな。イベントは広場のモニターで中継してるからな。僕は絶対に正体がバレたくない。その為に姿を隠せるこんな格好までしてるんだぞ』〕


〔『なるほど、色々と良く考えているんだな。いまだに、黒の職人さんの正体を探しているプレイヤーもいるからな。当然と言えば当然か。シュンが警戒するのも仕方が無い事か。分かった、シュンは俺のギルド所属って事にするぞ』〕


〔『えっ!?ちょっと待て、今さらっと凄い事言わなかったか?』〕


〔『何だ、俺のギルド所属ってそんなに嫌なのか?』〕


〔『いや、僕が気になったのは、その前の『黒の職人さんの正体を探しているプレイヤーもいる』って事の方だ』〕


〔『あぁ、そっちな。今でもたまにホームの前で張り込みしてるプレイヤーを見掛けるぞ』〕

そんなプレイヤーいるんだな。流石に、それは知らなかったけど嫌すぎる………これからは、普段から警戒を強めた方が良いかもな。


『………そ、それなら、仕方が無いか。友達の俺が言うのも何だが、あのギルドはギルマスが変わってるからな。紹介してやりたいが、それも難しいからな』

確かに、自分でも変わっていると言う自覚は有るけど………僕は、アクア(お前)だけには言われたくないぞ。


『やっぱりそうなんですね。私が見た情報サイトにも《銃士》の変人ギルマスって書いて有りましたから………』

ブレッドとサラは、何でそんな人のギルドにケイトは所属しているだろうと真剣な討論まで始めた。


………と言うか、誰が書いたかは分からないけど、変人ギルマスって言うのは酷過ぎると思うな。一人でいたら泣いていたかも知れないぞ。


〔『主よ、落ち込む必要は無いのじゃ。ワシらは、主の良さを重々知っておるのじゃ』〕

白の言葉(フォロー)は有り難いのだけど………その優しさに余計凹むよな。


おい、アクア、おかしいのを我慢しているのは分かるけど、こっちを見ながら笑いを堪えるな。あとで、僕もサイトのチェックするか………不本意だけどな。


『そろそろ、休憩は終わりだ。残り一時間を切るからぞ。ラストスパートだ』

正直に言うと、もう僕にはこの雰囲気を耐える事が出来ません。


『そうだな。プレイヤーもポイントになる魔物も減って来てるからな………ここからは休憩無しだな』


『分かった。俺も頑張るぞ』


『私もです』

ブレッドとサラも、さらなるヤル気を見せている。ここまでに手に入った素材やドロップだけでも、僕としては十分にハーフマラソンに参加した意味が有るだろう。まぁ、最後まで生き残れなかったら全て水の泡(無意味)なんだけどな………



ズドォォオ~~~~~ン



ズドォォオ~~~ン


ズドォォオ~~ン

ズドォォオ~ン



空が一瞬光って、乾いた音が数回響き渡る。今度は、僕自身が落雷をハッキリと確認出来た。今回も運良く、休憩の為に手頃な洞穴にいて難を逃れたけど………確かに、あの落雷を喰らったとしたら一瞬で焦げてリタイアになるだろうな。それ程の威力を放つ雷属性の上位魔法の〈ヴォルティモア〉


普段は非常に便利なスキルの一つなのだが、こう言う時に《見ない感じ》で能力(ステータス)がほぼ全て把握出来てしまうのは嫌だな。威力を知らない方が気楽に戦えそうだ。


そして、奴が落雷の魔物みたいだな、名前は………雷鳥、レイドバトル用のボスのようだな。


『アレです。私達が見たのは、あの魔物です』



〔運営からの緊急連絡です。残っている十一パーティー二十二名の皆様。ハーフマラソン終了まで残り一時間を切りました。只今をもちまして、制限時間の解除と全てのプレイヤー様を得点対象から解除させて頂きます。五分後に開始される現在エリアに現れているレイドボス・雷鳥(らいちょう)の討伐を以て、ハーフマラソンの終了(ゴール)とさせて頂きます。皆様のご健闘を願っております。以上、運営からの緊急連絡でした〕


無情にも、無人島全域に運営からのアナウンスが木霊していく。当然、あちこちで絶望にも似た悲鳴や戦闘狂達の歓喜の声が聞こえてくる。皆、意外と近い場所にいたんだな。


それにしても、二十二人でレイドボスと戦うのか………また、運営のいつもの意地悪が始まったな。確かに、簡単には素材やドロップの持ち帰りは出来ないと思っていたが、ここまでキツい条件になるとは思って無かったな。最悪は制限時間いっぱいを逃げ切る予定だったんだけどな。


近くにいるプレイヤー同士で集るのが得策かも知れないけど、今回は無理だろうな。さっきまで、プレイヤー同士で戦っていたプレイヤー達もいるだろうし、レイドバトル自体に参加しない他力本願なプレイヤーもいるだろうからな。


『また、エグい内容だな。どうする?』

………と言われてもな。イベントを終了させる為には、誰かが雷鳥を倒さないとダメだからな。僕も参戦するのは決定しているけど………


『私、あの落雷は耐えれないですよ』

確かに、《回復師》………それも魔力に特化してHPや防御の低い種族のエルフが、防具無しで耐えれる代物では無い。それを言うと………


『多分、俺も喰らえば即死だ』

当然、同じエルフのブレッドもだよな。まぁ、僕もまともな防具が無いこの状況なので即死だろうな。まぁ、直撃だけを喰らわなければ、問題無いけどな。


『僕も同じだな。喰らえばリタイアだろうな。それに、あのルールは生きているみたいだから、片方が倒れればもう片方もリタイアになるんだろうな』


『このルール、ここに来て益々ウザいな』

その意見には多いに賛同する。どのプレイヤーもパートナーがいる事で積極性が失われている気がする。それとも………これも運営側の狙いの一つなのだろうか?


『取り敢えず、ここで共闘は終了になるかな』


『まぁ、そうなるか。ブレッド、サラ、ありがとな。いつでも【双魔燈】のホームに遊びに来てくれ』


『アクア達は、戦いに行くのか?』


『一応、俺は戦闘系ギルドのギルマスだからな。こんな美味しそうな状況は無視する事は出来ないぞ』

僕のギルドは生産販売や陰からのさりげないサポート等の目立たない系がメインだけど………まぁ、ここはアクアの意見と同じだな。勝つにしても、負けるにしても、僕達は後悔をしたくないからな。だから、精一杯戦おうと思う。


『大丈夫なんですか?倒せるんですか?』


『さぁ、そこまでは分からないけど、大丈夫では無いだろうな。このレイドバトルは強制じゃないみたいだから、無理に参加しなくても良いと思うぞ。それから、僕も街で有ったら声くらいは掛けてくれよな。じゃあ、またな』

僕は、既に駆け出しているアクアの背を追った。その場にブレッドとサラの二人だけを残して………





『雷鳥、近くで見ると一段とデカイな』

流石はレイドボス。佇む雰囲気が半端な大きさじゃない。それに、雷鳥の身体には放電のエフェクト?が起こっている。あれは、エフェクトだよな?流石に、あれに当たって感電するとかは勘弁して貰いたいところだな。


『そうだな。一応全種の《付与術》は掛けておいたけど、気休めだと思ってくれ。はっきり言うが、全く対処の仕方が思い付かないからな。回避・防御と攻撃を(なな)(さん)、いや(はち)()くらいの感覚で行くぞ』

既に、移動の時間を使って《付与術》を僕とアクアの二人に掛けている。理由は、単純に戦闘開始後に《付与術》を使う余裕が有るか分からなかったからだけどな。


『おう、サンキュ。気休めでも俺には十分だ。俺が壁と囮になるから攻撃はシュンに任せるぞ』

僕の攻撃力は低いが、遠距離攻撃がアーツしかないアクアよりは、戦術面では遥かにマシだろうな。


『了解だ』

取り敢えずは、【ソル・ルナ】で〈リング・イン〉から〈零距離射撃〉を絡めた十連射で雷鳥の出方を観察だな。全てに〈零距離射撃〉は発動しないと思うけど、運が良ければ三~四発は狙えると思うからな。


《見ない感じ》で見る限り、雷鳥は物理攻撃に耐性が有るみたいだけど、防御力はそんなに高く無い。初手の様子見としては最高の一手だと思う。


『アクア、行くぞ。〈リング・………〉。あぶなっ!!』

僕の攻撃よりも、先に雷鳥から電撃が飛んでくる。〈ヴォルティモア〉みたいに一撃必殺の強力な魔法では無いが、発動速度と貫通力に勝っている〈スパーク〉の乱れ撃ち。喰らえば、感電によるスリップダメージくらいは覚悟した方が良さそうだな。


〔『主よ、黒の出番じゃ』〕


〔『………黒が《相殺》する』〕


〔『なるほど。黒、全面的に任せる』〕

ホルスターから【黒竜】を取り出し、白と黒の《探索》や僕の《見ない感じ》で把握した場所に射撃して魔法を打ち消していく。見なくても感じる事が出来る為………


『〈リング・イン〉』

今度こそ、本命の攻撃(〈リング・イン〉)の射撃に集中出来る。なるべくタイミングを合わせ、ランダムに回転している銃が雷鳥に近付いた時にのみだけ射撃を続けていく。


〔『主よ、ダメージの通りが悪いのじゃ』〕

今までは必殺級の一撃だった〈零距離射撃〉で、ダメージが思っていたよりも出ていない。ボスの物理耐性持ちって反則だな。取り敢えず、マガジンが空になるまでは撃ちきるかな。


アクアが、遠距離アーツで雷鳥の動きを制限してくれているのが、助かるな。


〔『………増援到着』〕

周囲を確認するとハーフマラソンに参加していた他のプレイヤー達による遠距離アーツや雷属性に相性良い《土魔法》での攻撃が始まっていた。


どうやら、僕達の攻撃が参戦に二の足を踏んでいたプレイヤーの心を動かしたみたいだな。ダメージは出なかったが、〈リング・イン〉の見た目(インパクト)はハデだからな。皆の勇気を奮い立たせるには十分だったらしい。これで、少し余裕が生まれるか?


〔『主よ、主が援護と回復に回った方が良さそうじゃ』〕

〈リング・イン〉に〈零距離射撃〉を絡めてもダメージが少ないからな。その方が、良いかもな。


『アクア、僕が援護に回る。ポジションチェンジだ』


『了解だ。それと俺にも回復頼む』

装備を【白竜】と【黒竜】に変えて、アクアと消耗の激しいプレイヤーに射撃していく。ここでも白や黒が事前に消耗の激しいプレイヤーを教えてくれるので、僕は雷鳥の魔法を《相殺》する事だけに集中出来ている。


『うぉ~~~~!!黒の職人さん。ありがとうございま~す』

【白竜】と【黒竜】の能力を見ただけで、僕の正体に気付くとは………まぁ、知り合いでは無いので、今回は返事はしないけどな。


それよりも、徐々に〈スパーク〉の速度と言うか放たれるまでの間隔が早くなってないか?時間が経つにつれて《相殺》出来る魔法の数が減っている気がするんだけど………僕の気のせいか?


〔『………雷鳥の特殊スキル』〕

黒に教えられて、雷鳥のステータスを再度確認する。今度は注意深く、より慎重に………


〔『これか………《霊鳥の心》』〕

《霊鳥の心》は自身のHPの減少に伴って、魔法の威力が三段階で上昇すると言う魔物限定の特殊スキルらしい。


現在は二段階目………と言う事は、もう一段階強くなるって事だよな。ボスに相応しい迷惑なスキルだ。それに、もう一段階強くなったら、〈スパーク〉を《相殺》で捌けなくなりそうだな。


〔『………甘い』〕


〔『主よ、もっとよく《雷鳥の心》について考えるのじゃ』〕

《雷鳥の心》について考える?もう一段階魔法が強化されるだけだよな。強力なスキルだと思うけど、それ以外に………うん?待てよ。


魔法が強化………と言う事は、あの魔法も強化されるのか?開幕に放って以来使って来ないけど………あれが強化された状態とか絶対に考えたく無いぞ。


〔『黒の《相殺》は?』〕


〔『………あの威力は無理』〕


〔『主よ、ワシらのスキルも、そこまで万能では無いのじゃ』〕

まぁ、流石に過ぎた願いだよな。あれが《相殺》出来るなら、本当に無敵だからな。


『皆、プレイヤー同士の距離を置いて、なるべく離れるんだ。魔法の威力が上昇している。雷鳥(ボス)が、いつ〈ヴォルティモア〉(落雷)を放ってくるか分からない。気を付けろ』

周りにいるプレイヤーに注意を促しながら、仲間には〈魔法防御力上昇〉を、雷鳥には〈魔法攻撃力減少〉を放っていくが、雷鳥に対して放った僕の《付与術》は雷鳥に当たる直前にかき消された。やっぱり、減少系の《付与術》が簡単に効く程、甘くは無かったか。





『くそっ!!』

やっぱり強いな。戦闘開始当初十六人が参加していたレイドバトルは、僕の《相殺》と回復が間に合わず、二人が倒されてる。そして、ハーフマラソンのルールによってパートナーの二人も消えていった。合計四人、残りは十二人か………


一番最初に、僕以外で回復をメインにしていた唯一のプレイヤーのパートナーが、あっさりと倒された事が失敗だったよな。まぁ、真っ先に突っ込んで行って、速攻で返り討ちに有ったプレイヤーのフォローまでは誰であっても無理なんだけど。それなので、今は僕一人で回復をして戦場を回している。


普段なら竜の力の恩恵でHPもMPも常時回復状態なのだが、HPとMPの回復を十一人分を一人でフル回転で行っている為、回復速度よりも消費の方が若干勝っておりMPの減少に歯止めが利かない。


〔『主よ、明らかにオーバーワークなのじゃ』〕

それも分かっているけど、回復の手を止める訳にはいかない。僕が回復を止めた時点で、このイベントは終了になるだろう。


『後方からいきます。〈ウォータヒーリング〉』

僕の後方から回復魔法が放たれる。わざわざ振り向かなくても、その声だけで誰か放ったのかは分かったけど、思わず彼女の方へと振り向いてしまった。


『サラ、ありがとう。助かった。でも、良いのか?』

それに、お礼は相手の顔を見て言いたいからな。


『はい。大丈夫です。私達も皆さんと一緒に頑張ります』


『助かる。それじゃあ、サラは右側のプレイヤーの回復を優先してくれ。ブレッドはサラのフォロー優先だ。攻撃の事は、考えなくて良いからな』

さっきの二の舞だけは、避けなければならないからな。


『分かった。任せてくれ』

回復の出来る戦力が増えるのは正直助かるな。


『シュン、このままでは無理だ。雷鳥を地面に落とす方法は何か無いのか?』

僕達プレイヤーが、悠々自適に空を飛ぶ雷鳥に攻撃を当てる為には、遠距離攻撃か遠距離攻撃魔法が必要になる。だが、基本的に攻撃は離れれば離れる程、威力は下がる傾向に有る。これは、別に銃に限った事では無い。必然的に威力の高い攻撃(アーツ)は近距離攻撃になるからな。まぁ、中には詠唱の長い魔法等の例外も有るんだけどな。


『一応、落とす方法の宛は、有る事は有るんだけどな………今は僕自身が行動に移る余裕が無い』


『有るのか!?どんな方法なんだ?』


『本人を前にすると言い難いけど、簡単に言うとアクアのトラウマ………』


『あ、あれか………』

急激にアクアのテンションが下がるのが分かった。幼馴染みの僕が、それを理解するのに《見ない感じ》を使う必要ない。


『………で、どれくらいの時間が有れば、可能なんだ?』

これは一回も試した事が無いから、正確な事は分からないからな。アレは発射するだけでも時間が掛かる。さらに、もう一つ別の工程が必要だから、それを合わせて合計で二十秒くらいか?それに、僕のMPが全回復する時間を入れて………三十秒は掛かるか?


『おそらく三十秒前後は最低でも必要だな。ただし、その間は回復も《相殺》も一切出来ない』

今、僕は話ながらも【白竜】での回復と【黒竜】での《相殺》を続けている。どう考えても、今の現状で僕が三十秒もの時間を戦線離脱するのは無理だろ………


『は~い。は~い。黒の職人さん、は~~い。俺達が、その時間を稼ぎま~~す。もし、耐えられたら………違うか、耐えれなくてもお店でオマケして下さ~~い』

さっき、僕の正体に気付いたプレイヤーが犠牲を買って出てくれる。そのプレイヤーの背後に控えているプレイヤーも頷いている。多分だけど、パーティーの仲間かな?


『心得た。頑張ってくれたら、二人には最高の鞄を用意する。当然、材料費くらいのお金は貰うけど、精一杯オマケはさせて貰う』

僕達の後ろの方でブレッドとサラが、僕の正体に気付いて驚いているけど、今は構ってる余裕は無いよな。


『サラ、今から僕が二連続でアーツを放つ。その二番目のアーツを放ったら、五秒数えてから雷鳥の真下に広範囲で〈マッドスペース〉を頼めるか?』


『えっ!?はい。だ、大丈夫です』


『今は、僕の正体の事は気にするな。そんなに緊張しなくても、今まで通りで大丈夫だからな。それどころか何が起こっても驚かずに魔法を頼むぞ。タイミングが全てだからな』


『わ、分かりました』

僕の正体を知った事で緊張はしているけど、意思のこもった目をしているから大丈夫かな。


『皆、時間稼ぎは頼んだ。ここは任せます』

僕は皆に雷鳥を任せて、戦場から少しだけ距離を取る。


〔『白、黒、しばらく任せる。本当に回避が必要な時だけ指示してくれ』〕

白と黒に戦況の確認とその他諸々を託して、装備を念の為に持ち込んでいた、アクアのトラウマの元凶となった【アルファガン】と可変出来る魔銃【魔氷牙・魔氷希】に変える。ここまでおよそ八秒、問題はここからだ。まずは…………


『〈リング・イン〉』

左手の【魔氷牙・魔氷希】で雷鳥の動き制限する為に射撃を繰り返していく。次の一手は発動までの時間が掛かる。MPの消費は激しいけど、僕の出番は雷鳥を落とすまでだろうからな。あとの事は近接攻撃が得意な皆さんに任せれば良い…………


雷鳥の動きを制限する事が、雷鳥の攻撃を制限する事にも繋がっている。微妙にだけど皆の援護になっているよな。


『〈リング・イン〉。サラ、頼むぞ』

続けて、右手の【アルファガン】で〈リング・イン〉を放ち連射していくが、一向に空中に浮かぶ【アルファガン】からは発射されない。残り十秒………


皆、【魔氷牙・魔氷希】でのアーツの発動を見ているだけに、雷鳥の周りを回って一向に変化の無い【アルファガン】を見て、不安を体から醸し出している………勿論、これから起こることを正しく理解している僕とアクア以外だけど………


『いきます。〈マッドスペース〉』

雷鳥の真下には、広範囲に及ぶ泥の沼地が広がっていく………が【アルファガン】からは、まだ何も発射されない。


アレ?失敗だったか?僕が皆に頼んだ三十秒まで残り………3………2………1………0………


『皆、すまない。失敗し……


空中にいる雷鳥の周りをランダムで周回していた【アルファガン】から一筋のレーザーが発射されて、雷鳥を中心にレーザーの刃が一回転した。


ブッツン!!


………てなかったな。落ちてくるぞ。皆、気を付けろ』


レーザーの刃が一回転したと同時に雷鳥は斜めに真っ二つになっている。上手い具合に羽を挟んで二つに分かれた為に雷鳥は、二度と飛ぶ事は出来ないだろう状態になっている。


現実の世界なら、生きているのも不思議なくらいの状況だ。だが、凶悪かつ悲惨な見た目に反してダメージの方は意外に低い【アルファガン】の一撃。そんなにダメージが低いのなら、再び動く事が出来るのかと聞かれれば、答えは即答でNOと言えるだろう。


アクアの時にも経験しているので分かっている事だが、頭が付いている本体にあたる部分は動かせるけど、切り離された部分は動かす事は出来ない。まぁ、いくらトリプルオーがゲームと言っても、そんな状態で動けたら、ファンタジーでは無くてホラーだけどな。


………と言うか、アクアと僕以外の全員がドン引きだな。まぁ、その気持ちは僕達も経験しているので分からなくは無いけど。初見で驚かないプレイヤーはいないだろう。


〔『主よ、落雷が来るのじゃ』〕


『まだ戦闘中だ。気を抜くな。〈ヴォルティモア〉が来るぞ』

全く回復が追い付いていない僕の残り少ないなけなしのMPを使って、〈魔法防御力上昇〉の《付与術》を生存している数名に対して《付与銃》で射撃していく。時間稼ぎを買って出てくれたプレイヤー達もギリギリのところで生存してくれているのが妙に嬉しかった。


ズドォォオ~~~~ン


『『『『『『『えっ~~!?』』』』』』』

雷鳥の放った最強状態に強化された渾身の一撃は、辺り一帯を炭だらけの真っ黒な世界へと変えた。そしてそれは、皆を正気に戻すのに十分だった。


そして、正気に戻った(我に返った)プレイヤー達は、泥沼によって身動きの取れない半身の雷鳥に向けて一斉にアーツを放っていた。





〔皆様、お疲れ様でした。たった今、レイドボス・雷鳥の討伐を確認出来ましたので、十二時間魔裸存(ハーフマラソン)終了(ゴール)とさせて頂きます。順位の発表や報酬の譲渡は、集計等に時間が掛かる為に後日とさせて頂きます。最後まで残っている七パーティー・十四名様には特別報酬として、イベント中に入手したアイテムや素材はお持ち帰り下さい。なお、レイドボス・雷鳥にはドロップアイテムは存在しませんのでご了承下さい〕


順位発表は後日か………まぁ、僕にはケイヴキングのレアドロップと採掘した素材がたっぷり有るから、順位は何位でも良いけどな。


『白、黒、お疲れ様。色々助かった。ありがとな』


それにしても、流石に十二時間耐久は疲れたよな。今着信したメールによると、ホームで打ち上げの準備もしているらしいけど………今日はメールだけ返信して、ログアウトさせて貰おうかな。これ以上は、僕の身体が持ちそうも無いからな。


おやすみなさい。送信………

装備

武器

【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉

【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉

【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉

【白竜Lv50】攻撃力0/回復力200〈特殊効果:身体回復/光属性〉

【黒竜Lv50】攻撃力0/回復力200〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉

防具

【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40

〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉

アクセサリー

【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉

【ノワールホルスターズ】防御力20〈特殊効果:速度上昇・大〉〈製作ボーナス:武器修復・中〉

【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉



天狐族Lv54

《双銃士》Lv75

《魔銃》Lv74《操銃》Lv19《短剣技》Lv24《拳》Lv45《速度強化》Lv98《回避強化》Lv98《魔力回復補助》Lv99《付与術》Lv69《付与銃》Lv74《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv16


サブ

《調合職人》Lv28《鍛冶職人》Lv44《上級革職人》Lv4《木工職人》Lv34《上級鞄職人》Lv5《細工職人》Lv33《錬金職人》Lv33《銃職人》Lv28《裁縫職人》Lv12《機械製作》Lv27《調理師》L33《造船》Lv15《家守護神》Lv33《合成》Lv31《楽器製作》Lv5


SP 46


称号

〈もたざる者〉〈トラウマプレゼンター〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈自然の摂理に逆らう者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉

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