第三回公式イベント 7
『………ュン、………シュン、そろ………起きろ』
『う、うぅん………』
何だ?蒼真の声が聞こえる気がするけど………もう、朝か?
〔『主よ、いい加減寝るのをやめて起きるのじゃ。今は悠々と寝ぼけておる場合ではないのじゃ』〕
〔『………また寝てた。サボタージュ』〕
うん!?今の残念な喋り方は、白と黒だよな。じゃあ、ここは夢の中か?いや、違うよな………と言う事は、トリプルオーの中か?えっ~と、何が有ったんだ?思い出せ、僕………
『ア、アクアか?ここは?』
僕は、気絶していたのか?
えっ~と、確かアクアがレクトパスに池に引きずり込まれて、それを追う形で僕も池の渦の中に………
ダメだ。池の渦に飛び込んだあとの記憶が全く無いな。
『池の中。正確には違うか、ここは池の底だ。上を見上げてみろよ。かなり神秘的で綺麗だぞ。まさにファンタジーだ』
どうやら、アクアも無事だったみたいだけど………レクトパスに不意に引きずり込まれたアクアが気絶無しで、それを追い掛けて自ら飛び込んだ僕が気絶と言うのは何故だ?はっきり言って割りに合わないのだけど。
〔『主よ、それが身体能力の差と言うものじゃ』〕
僕自身が、紙装甲(今日は普段以上に………)なのは自覚しているから、触れないで欲しかったな。
まぁ、そんな事よりも、池の底が綺麗?と言うのはどう言う事だ。
僕が辺り一帯を見回すと、足元には海底や湖底のような砂地が広がっていて、遥か上空………まぁ、この場合は上空と言う表現が正解なのかは微妙だけど、水面越しに青空や雲が見える幻想的な空間が広がっている。
普通、水の中なら息をすれば空気の泡がポコッポコッと出来そうなものだが、ここには何故かは分からないけど空気が有るようで、そんな事には全くならなかった。反対に水の泡が湖底から上空へと向かって浮かび上がっているくらいだからな。これは、ゲームじゃないと味わえない不思議な感覚だと思う。この点はトリプルオー製作者に賛辞を送りたいな。
水の中に飛び込んだ事で、確実に全身がずぶ濡れになっているはずなのだけど、装備している物の方は全く濡れてない。この点は不幸中の幸いだったかもな。まぁ、その代わりと言うか、僕の髪の毛や尻尾はビッショビショなんだけどな。
どうやら、この程度の事が考えられるくらいには落ち着けたみたいだな。そのお陰で大体の状況が把握出来てきたな。
〔『………おはよう』〕
〔『あぁ………おはよう』〕
白と黒からすれば同じかも知れないけど、僕は決して寝ていた訳では無いんだけど。
『それで、僕はどれくらいの間気絶してたんだ?』
今更ながら、あの高さから落ちてよく無事だったよな。僕もアクアも………今、冷静になって考えると、ある意味で気絶していたのは正解だった気もするな。
アクアが言うには、レクトパスに引きずり込まれながらも水中で戦っていたらしい。そして、アクアが気付いた時には、もう池の底に着いていたようだ。この状況を無視して戦闘を続けるとか、どれだけ戦闘に夢中になっていたんだろう?この戦闘狂は………
『そうだな………だいたい十五分くらいじゃないか?それと、俺を助ける為に飛び込んで来てくれたんだろ?遅くなったけど、ありがとな』
『それは、別に良いんだ。それよりも、ここは空気が有るよな』
正確には水の中にも関わらず、底の部分には水が無くて、天井にあたる部分に分厚い水の層が出来ている。さらには、レクトパスや魚型の魔物が周遊しているのも見える。まるで水族館の中に有るアクリルで出来た通路みたいだな。
『俺にも何故かは解らないが、そうみたいだな。きっと、特殊なエリアなんだろ。こう言う仕様はいくら考えていも無駄だから、俺は稀に落ちてくるレクトパスとか雑魚モブを狩りながら、この辺りを調べてたんだ………そうだ!!あっちに面白い物が有るぞ』
背後の岩場に向かって指を指しているが、そんな事よりも、僕が一番気になるのは…………
『ちょっと待て、上にいるレクトパス達は落ちてくるのか?』
その中で助けに来て気絶している僕を放置して、辺り一帯を調べに行くとか普通は有り得ないだろ。
『まぁ、その、なんだ。無事で良かったな。シュン』
何も詫びる事無く、シュンの側に落ちて来たのはレクトパスが二匹だけと言っているが、こんな広い場所で十五分の間に二匹が近距離に落ちてくるのは、なかなかの高確率だと思うぞ。まぁ、鞄の中のドロップを確認するかぎりは、倒してくれたみたいだけど、それとこれとは別の話だからな。
二度とアクアを助けに行くものかと、心の中で密かに誓った。助けられる本人がこんな調子なら、助けに向かう僕の身はいくつ有って足りないからな。
『もういい………それで、面白い物と言うのは何なんだ?』
『付いてきたら分かる。行くぞ』
まぁ、いつまでもこの場所にいる訳にはいかないからな。付いていくけど………お前のその楽しそうな表情を見ると、幼馴染みの僕としては、あまり良い予感はしないんだけどな。
『おい、これはどう言う事だ?』
『どう言う事だと言われてもな。見たまんまなんだが………』
アクアに連れられて来た場所。そこには、テレビのバラエティー番組等の序盤で見掛ける………参加者のふるい落しを兼ねた○と×が書かれた扉(ただし取手は付いてない)が有った。これは、どう考えても選択肢が一つしかないよな。
『さっき、見付けた時も軽く調べてみたんだが………どうやら、お約束のようで、どちらかに飛び込まないとダメみたいだな』
アクアが言うには、扉への武器やアーツでの攻撃は無効化されるらしいので、試していない主だった手段の中で残っているのは………どちらかを選択して飛び込む事らしい。
だが、問題は扉の先には何が有るのだろうか?と言う事だな。バラエティーのお約束なら、不正解の方には泥や白い粉や落とし穴、正解の方にはスポンジ等の身体を守る為の柔らかい素材が用意されているはずだけど、今はトリプルオーのイベント中だ。何が用意されていても、おかしくないよな。不正解の方に魔物の大群とか………
僕も触ってみたりしたのだけど、《見ない感じ》でもこの扉の先までは把握出来ないようになっている。
『それで、ここをクリアする為の○×の問題は見付かっているのか?』
『一通り調べた時は、それらしい物は見付からなかっ………あれ?有った。おっかしいな。さっきまでは、こんな紙切れは無かったんだが』
アクアが言うには、僕が気絶している間に確認した時には何も無かった場所に、問題が書かれた紙が置かれているらしい。
問題が書かれた紙切れ自体が、白く発光して遠くから見ても目立っているので、探していて見損なったと言う可能性は低いだろうな。パーティーの二人が揃ってないと出現しないとか、何か特別な条件でも有るのだろう。取り敢えず、僕が池に飛び込んだ事は正解だったみたいだな。まぁ、本音を言うと、そう思い込まないとやってられないからだけど………
問題
あなた達は、現在湖の湖底部分にいます。今まで獲得したポイントを放棄して一瞬で戻りますか?○か×でお答え下さい。
『『はっ!?』』
これって、もうクイズじゃないじゃん。ただの意思確認になってるよな。まぁ、クイズだと思ったのは、僕達の勝手な思い込みなのだけど、なんか調子が狂うよな。それにしても、これで×を選んで粉だらけになったりすると、洒落にならないよな………いや、有る意味でシャレにはなるのか?
〔『主よ、ここはふざけている場合では無いのじゃ』〕
〔『………真面目に考えて』〕
僕としても、決してふざけている訳ではないのだけど………
『ここにいつまでいても無駄だからな。シュン、ポイント放棄して上に戻ろうぜ。悩んでいても時間の無駄だし、まだ獲得したポイントも少ないから、残り時間から考えても簡単に取り返せるだろ。俺が言うのもなんだが、このトラップ早い時間帯で引っ掛かって良かったよな』
まぁ、概ねアクアの言う通りなんだけど………
〔『………浅はか』〕
僕も黒に同意見だな。危機管理が甘いよな。
『いや、問題は戻った先が地上とは書いてないところだな。ポイントを放棄して戻ったら、リタイアの可能性も有るんじゃないか?』
『マジか!?でも、いかにも有りそうな話だぞ』
まぁ、いつまでも悩んでいられないのはアクアの言う通りなんだが、もう少しだけで良いので考える事に挑戦して欲しいものだ………
『それなら、ここは×だな。ダメだった時は別の場所を探せばいいだけだ』
今の状況だと、それが妥当だろうな。最悪の場合は、制限時間いっぱいまでレクトパスの落下を待って狩り続ければ良いだけだからな。この場合、レクトパスも得点になる魔物と言うところが幸いだな。
僕とアクアは、覚悟を決めて×の扉に二人揃って飛び込んだ。
『………くそっ!!完全に騙された』
僕達が覚悟を決めて飛び込んだ×の扉の先には、何も無かった。そして、それは反対側の○のの方でも同じだった。僕達の覚悟と無駄な考察に用いた時間を返して欲しい。
『俺もだ。泥くらいは、覚悟してたんだが………イテッ!!おい、シュン、ここ見えない壁が有るぞ』
頭をぶつけたアクアが、見えない壁をコツンコツンとノックしている。
『何!?』
全く見えないので仕方が無いけど、それにしても派手に頭をぶつけたよな。アクア本人は平静を装っているつもりかも知れないが、〈見ない感じ〉の前では無力だったな。HPも少しだけ減っているし、おでこも赤くなっている。多分、反射的な言葉では無くて本当に痛かったのだろう。
確かにアクアの言う通りで、○と×のエリアを隔てる見えない透明な壁が有る。直接視認目する事は出来ないが、手や足で触れる事は出来た。これを知らない人が見たら、かなり上手いパントマイムに見えそうだよな。まぁ、この場には僕とアクアしかいないからな。それはそれで滑稽なんだけど。
そして、○の方の先には螺旋階段が見えている。確かに、その螺旋階段を昇れば、一瞬は言い過ぎだと思うけど地上には早く戻れそうだな。えっと、それで×の方は………
『………おい、シュン、こっちの方は全く先が見えないぞ』
『あぁ、僕も見えている』
僕も気付いてはいたけど、改めて声に出されると悲しいものが有るな。念の為に確認もしてみたけど、僕達が入ってきた×の扉の方にも透明な壁が出来ていて、元の池の底にも戻る事が出来くなっている。これは、素直に○に飛び込んだ方が良かったかも知れないな。
『取り敢えず、先に進むか』
まぁ、こうなったからには前に進むしかないんだけど、その前に………
『アクア、少しだけ待ってくれ。この見えない壁からも素材が採掘出来そうだから、少し採掘しておきたい』
〔『主よ、場を弁えた方が良いのじゃ』〕
〔『いやいや、職人の端くれとしては未知の素材が採掘出来そうな壁を前にして、採掘しないのは無理だろ』〕
〔『………生き残れないと無意味』〕
まぁ、そこは頑張るのごり押ししかないけどな。
『はっ!?ちょっと待て、この壁からも採掘出来るのか?それなら、透明な壁も壊して向こう側にも行けるんじゃないのか?』
『それは、いくらなんでも無理だろう。×のエリアと○のエリアが同じならエリアに有るのなら可能かも知れないけど、今回は○と×で別々のダンジョン扱いになっているからな。一応試してみても良いけど………やっぱり、無理だな。壁の途中までしか刃が通らない』
念の為にと思い、試してはみたが、透明の壁は採掘する事は出来ても向こう側に貫通するには至らなかった。
『おっ!!』
この壁からは、今までに見た事の無い上位の水晶やさらにその上位素材まで出るんだな。これだけでも持ち帰れたなら、イベント参加の元が取れるかもな。研究用の分も含めて、少し多目に回収させて貰おうか。
喋りながらも、手は休めずに採掘を進めていく。壁の強度が若干高く、掘る為の専用工具を使用してないので、武器の刃が欠けそうにもなるが、ホルスターの武器修復効果のお陰で完全に壊れる前に修復する事が出来ている。この機能は銃剣作った時の副産物だったけど、結果的に最高の能力だったな。
『おい、もしかして………これはクリスタルか!?少し俺にも譲ってくれ』
どうやら、鞄の共有化の部分に自動回収されて、どんどん貯まっていく素材の正体に気付いたみたいだな。まぁ、ただ単にアクアに全くする事が無くて、暇だったからだろうけど。目敏いよな。
『それは当然だ。生き残れたらイベント後に半分半分にするぞ』
僕には、素材を独占する気は全く無いからな。まぁ、そのあとに起きるであろう事までは保証しない。当然、アキラから集金と言う名目の徴収イベントが普通に発生するはずだ。まぁ、一応約束事だし、自業自得の面が強いから仕方が無いよな。この件に関しては僕も全くフォローする気が無いからな。
『サンキュ』
でも、この調子だと、アクアは絶対に忘れてそうだよな。
〔『主よ、教えてあげれば良いのじゃ。あとでガッカリするのじゃ』〕
確かに、そうなのだけど………アクアのキャラ的には、その方が似合っているだろうな。何よりも…………
〔『でも、その方が色々と面白そうだろ?』〕
レア素材を目の前で諦めないとダメなアクアを想像するだけで笑えてくるからな。
〔『主よ、さっきの発言は全面的に無かった事にして欲しいのじゃ』〕
〔『………黒も納得』〕
十分過ぎる程に新素材を回収した僕達は×の扉の奥に有った洞窟を進んでいる。しばらくは魔物も出ず採掘すらも出来ない壁に囲まれた一本道の洞窟だったのだが………
『どうかしたのか?』
僕が急に止まったアクアに声をかけると、無言のまま岩影に身を潜めて少し先に広がっている空間の中心部を指さした。その指先が指し示した場所には………
『ここのボスか?』
『その可能性が高いだろうな。見た目は、かなりヤバそうだぞ。どうする?』
確かに、仮称ボスの見た目は筋骨隆々で攻撃力の高そうな鉄球付き連接棍棒を二本装備した強そうな人形の魔物に見えるけど………ステータス的には、攻撃力も防御力もHPも高くない。まぁ、あくまでもボスとしてはだけど………
これだけを聞いたなら、見かけ倒しの出落ち系のボスかと思いがちなのだが、問題はステータス上限に達している速度だよな。気付かれたら最後で、これくらいの距離だと一気に間合いを詰められそうだし、僕達の通常攻撃では全く当たる気がしないからな。
攻撃力と防御力が高くないのは、あの速度の異常さとイベント中は防具の防御力が無い事が原因かも知れないよな。そうなると………
『アクア、必中系のアーツは有るのか?』
質問と同時にアクアにも仮称ボス・ケイヴキングのステータスを教えていく。
『なるほど。残念だが、必中系は近距離用のアーツは俺の知る限り、今のところ存在しないはずだ』
そうなのか?それは始めて知ったぞ。
『なぁ、アクア………言いたくないけど、本当に今回はお荷物だな』
『うぐっ………すまん』
文字通り足を引っ張られて池には引きずり込まれるし、サバイバル技術の面でも頼りにならない。唯一期待していた戦闘でも使えなかったら………はっきり言ってお荷物だ。まぁ、これに関してはアクア自身に自覚が有るだけマシかも知れないけどな。
『どうする?無視して通るだけなら、〈朧〉を使えば無事に無傷で終わると思うけど、倒すとなると少し僕のMPを使い過ぎるんだけど………』
まぁ、僕だけなら竜の力が有るので問題は無いけど、モニターで誰が見ているか分からないからな。ハデなアーツの連発は、出来る事なら使いたくない。
『そんな当たり前の事を確認するなよ。勿論、倒すに決まってるだろ。俺がどうするって聞いたのは、どうやって倒そうかって相談なんだよ。あのケイヴキングにもポイントが有るんだぞ。ボスなら高ポイントが期待出来るんだぞ。倒さないなんて、もったいないだろ』
ポイントが有るのは僕も分かっていたから、提案しているんだけどな。そうじゃなかったら、攻撃が当たらないだろアクアと一緒に、僕だけが苦労する事が目に見えているボス戦を戦う気は無い。まぁ、囮くらいにはなるんだろうけども………
それに、ケイヴキングがボスで有るならば、高ポイントも期待出来ると言うのもイベントの常だからな。
『〈朧〉〈回避上昇〉〈速達上昇〉』
『おい、シュン…………』
『アクアは、先に行ってケイヴキングの背後を取って、出来るだけ何もするな。僕が一人で仕止める』
『いや、俺も戦うぞ』
『ここは、アクアには向いてない。アクアには他で活躍して貰う予定だから、今回は気にせずに僕に任せてくれ』
アクアを無理矢理納得させて先に行かせる。自分自身にも《付与術》と〈朧〉を掛けてケイヴキングの様子を伺う。
〔『主よ、全く隙が無いのじゃ』〕
〔『そうだな』〕
〔『どうするのじゃ?』〕
〔『やった事は無いけど、【雷光風】での〈リング・イン〉と〈必射〉のコンボで、有無を言わさずに一気に倒そうと思う』〕
今まで、双銃での〈リング・イン〉は試した事が無いけど、これと〈必射〉の組み合わせなら、事実上無限の銃弾の檻を形成出来るはずだ。これなら、いかにケイヴキングが速くても、まともに戦えるはずだからな。
〔『………戦い方がまともでは無い』〕
僕のやる気に水を差さないで欲しいんだけどな。まぁ、黒の言う事が事実なんだけど………
〔『ふぅぅ~~~~。行くぞ』〕
僕は呼吸を調えて、ケイヴキングに向かって一気に駆け出した。
〔『………気付かれた』〕
何故だ?アクアは真横を素通り出来たのに………何故、僕には気付く事が出来たんだ?
ケイヴキングが一直線に僕の方を目指してくる。だが、僕のいる大体の位置しか把握出来ていないようで、見えない僕に対して上下左右縦横無尽無茶苦茶にフレイルを振り回している。速度上限まで達しているケイヴキングの動きには、全て残像のエフェクトが付いているので、より一層に速く無茶苦茶に感じるよな。
『喰らえ!!〈リング・イン〉〈必射〉………えっ!!』
外れた?今、外れたよな。〈必射〉を使って的を外すとか始めてなんだけど………ゲームの仕様を越えた速度って有りなのか?いや、一応これも仕様になるのか。
今は悠長に検証や確認をしている場合では無いので、射撃を続ける。まぁ、三発に一発くらいの確率で当たってくれているのとケイヴキングに遠距離攻撃が無いのが幸いしているよな。僕は一定以上の距離を保ちながら、闇雲に乱射を続けた。端から見ると攻撃の無茶苦茶具合にはケイヴキングも僕も大きな差は無いだろうな。それに、〈必射〉を使ってなかったら、多分僕の攻撃も一発たりとも当たっていないだろう。
しかし、攻撃力が低いはずのケイヴキングの振り回したフレイルは、当たった地面や側面の壁を抉っている。抉ったと同時に弾け飛んでくる威力の低い礫が微妙に当たるのがマジでウザイ。まぁ、ダメージ自体は皆無なんだけど。
『くそっ~!!マジで速いな』
当然、ケイヴキングに対しても〈速度減少〉や〈回避減少〉の《付与術》は使っているのだけど………だんだんと僕自身の回避に余裕がなくなってる気がするな。これで、〈朧〉が無かったらと思うと、考えただけでもゾッとするよな………多分、速攻でリタイアしていただろう。
『こっちだ。〈スラッシュ〉』
『アクア、助かった』
今のは一撃は今日一で使えたな。背後から不意をついて放たれたアクアの一撃でケイヴキングの動きが一瞬鈍る。
でも、何故?僕の攻撃よりも、かなり遅いアクアの一撃がクリーンヒットしたんだ?それに、攻撃を当てたはずのアクアには反応すらしてないよな。もしかして………
〔『主よ、今ので分かったのじゃ』〕
〔『………黒も』〕
〔『大丈夫だ。流石に、これは僕にも分かったからな』〕
『アクア、僕が引き付けるから、背後から確実に当てれそうな時だけ攻撃してくれ』
ここからは僕の想像になるけど、多分ケイヴキングの動きは早いけど攻撃対象を一人にしか絞れない。ソロなら倒すのに時間が掛かる面倒なボスなのだろうけど………一人が引き付けて、もう一人が隙を突く事が出来る二人以上でなら、全く問題が無いボスみたいだな。
アクアの速度が《付与術》込みでも、僕の通常程度の速度だったので想像以上に時間は掛かったのだが、僕が正面から囮になってアクアが背後から隙を突く事に集中した僕達は、ケイヴキングをほぼ無傷で倒す事に成功した。レアなドロップと高ポイントもゲット出来たし、アクアが倒す選択をしたのは間違って無かったみたいだな。
『シュンのドロップは何だったんだ?』
よほど良いドロップが手に入ったのか、満面の笑みを見せている。僕もレア物を入手しているけど………はたして、どっちがレアなんだろうな。
『さぁな。今は内緒だ。イベント後、正式にゲット出来た時に教えるよ』
このレアアイテムも最後まで生き残れなければ、全くの無意味だからな。この場合は特に、ゲット出来なかったらショックでしかないだろう。それよりも、今優先させるべきなのは、ここからの脱出だからな。
かなりの時間を費やす事になったが、僕達は無事に地上に戻る事が出来た。辿り着いた場所は、島の中心でひときわ存在感を放っていた山の麓。ケイヴキングとの戦闘以降は、イベントどころか一つの戦闘すら発生しなかったのだけど、この競技の場合はポイントを積み重ねるよりも、生き残っている事の方が遥かに大事なんだろうな。
〔只今、半分の六時間を経過しました。途中経過の報告をさせて頂きます。現在一位は二百六十七ポイント獲得されておられます。なお、五時間経過時に落ちた落雷によって半分以上のプレイヤー様がリタイアされております。残っておられるプレイヤー様は残りの時間も気を付けて頑張って下さい。以上で途中経過の報告を終わります〕
『シュン、聞いたか?一位のポイント、俺達の倍ぐらいだぞ』
『聞いてた。まぁ、誰かが、池に引きずり込まれなければ僕達もそれなりに頑張れたんじゃないか?まだ、残り半分も有るし、生き残っていれば僕達にも良いこと有るかもな。有ったら良いんだけどな』
〔『主よ、少し嫌味が過ぎるのじゃ』〕
〔『まぁ、これくらいはな』〕
少しくらい嫌味を挟んでからかっておかないと、アクアは一位のポイントを目指して無茶をしかねないからな。レアアイテムをゲットした今は、リタイアだけは遠慮したいからな。
『本当に、すまん』
アクアをからかうのは程々にするとして、獲得ポイントが倍とは思わなかったな………どうやら、凄いプレイヤー達がいるらしい。ちなみに、現在の僕達はケイヴキングの百ポイントを加えても百三十六ポイントしかない。
それよりも、半分以上のプレイヤーをリタイアに追い込んだ落雷って………一体何が有ったんだ?今後の生き残る為にも、気になるところだよな。
運良く(かどうかは全く分からないけど)、僕達は地下にいたので落雷には遭遇しなかったけど、この手のイベントが一回のみの単発で終わると言う事は無いだろう。わざわざアナウンスで念を押すくらいだから、時限系のイベントなんだろうな………と言う事は、まだ起きると思ってた方が良いだろう。そして、何かしらの対策は必要になるよな。
〔『………主には必要ない』〕
〔『竜の力が有るからだろ?最悪の場合、僕はそれでも良いけどな………アクアがな』〕
〔『う~む………主よ、次からは人選を考えた方が良いのじゃ』〕
〔『そう言うなよ。あんなのでも、長く付き合うと良いところも有るんだぞ』〕
自分で言っておいて、あれなんだけど………アクアの良いとこって何処なんだろうな。咄嗟に聞かれたら、すぐには思い付かないかも知れないな。咄嗟に答えられたとしても、随分悩んだ挙げ句に『常に元気いっぱいなところ』とか言いそうだな。
〔『………誰かいる』〕
〔『主よ、あそこの岩影にエルフが二人じゃ。どうやら身を隠れておるようじゃ。それに、片方は瀕死のようじゃ』〕
〔『瀕死?』〕
落雷でやられたのか?無視しても良いけど………ここで情報を得た方が、今後の展開を有利に進めれるかも知れないよな。最低でも落雷の情報だけは有った方が良いだろう。
『アクア、少し待っててくれ』
『なんだ?急にどうした?また採掘か?それとも今度は採取か?』
『あぁ、ちょっと大物をな。アクアは、そこら辺に居てくれ』
アクアをその場に残して、エルフが隠れている岩影へと向かう。近付いてみても《見ない感じ》に反応が無いと言う事は、全く知らないプレイヤーなんだろうな。
『お~い、大丈夫か?』
うん!?このプレイヤー達にもゴーグルが反応しているぞ………青なのでマイナス得点になるけど、プレイヤーにも反応するんだな。でも、このゴーグルがプレイヤーに反応するのは、嫌な予感しかしないよな。
そして、この鮮やかな青色の髪を持つエルフの二人からは、僕がどう言う風に見えているんだろな………
『誰だ!?それ以上は近付くな。一歩でも近付くと問答無用で攻撃する』
片方のエルフは、既に武器を身構えて構えている。
『分かった。これ以上は近付かないし、武器も持たない。それよりも、そっちの倒れている仲間は大丈夫なのか?』
僕は、両手を上げて武器を持っていない事をアピールするが、相手の警戒心は全く解けない。
『………大丈夫だ。だから、俺達の事は放って置いてくれ』
いや、ステータスを把握出来てるから、全く無事じゃない事は分かってるんです………と言うか、どうみてもパートナーは瀕死だよね。
『イベント中に採取した薬草だ。良かったら、使ってくれ』
『!?………俺を油断させる気だな』
『マイナス得点の君達を油断させても僕達にメリットが無い。その様子だと信用は出来ないだろうけど、僕のは完全な好意だ(ちょっとした下心付きのだけど………)。まぁ、その代わりと言ってはなんだけど、君達の知っている情報が欲しい』
かなり警戒心が強そうだよな。情報は欲しいけど、面倒な奴に関わったかも知れないな。選択を失敗したか?
『情報?』
『あぁ、さっきのアナウンスは聞いてたか?そのアナウンスの中に有った落雷とか、君達がそんなに瀕死になった理由………とかな』
『………分かった。その代わり、こいつ………サラを回復出来るか?』
『了解だ』
僕は、ホルスターから【白竜】を取り出して射撃する。
『お、お前、やっぱり、俺を騙したんだな。覚悟しやがれ』
騙したも何も………僕達には、そんな騙す騙さないと言った信頼関係は無いんだけど。それに………
『ま、待って、ブレッド!!私………回復してる?』
既に、回復は終わっている。ブレッドはサラの声で僕に攻撃するのをギリギリのところで踏み留まった。踏み留まったと言っても正確に言うなら寸止め状態だけどな。まぁ、これくらいの速度なら、この状態からでも回避出来るので喰らう事は無いけどな。
『こっちは、約束を果たしたぞ』
『………助かった、どうやったかは分からないが、本当にありがとう。そして、すまなかった。えっ~と………』
『シュンだ』
『OK、シュン。俺はブレッドで』
『私はサラです。先程は本当にありがとうございました』
『ブレッドくんとサラさんだな。了解だ。それで、そろそろ色々な情報を教えて貰っても良いか?それと向こうにいる僕の仲間も呼んでも良いか?』
ブレッド達の了承を得て、置き去りにしていたアクアを手招きして呼ぶ。
アクアは知らないみたいだが、ブレッド達はアクアの事を知っているみたいだった。これなら、最初からアクアに交渉させれば良かったよな。
『まず落雷の事ですが、私達はたまたま木の影にいて難を逃れたので見る事が出来たんです。落雷の正体は空を飛ぶ黒い巨大な魔物からの魔法攻撃でした。一撃でプレイヤーを倒すくらいの威力でした』
空を飛ぶ黒い巨大な魔物?からの高威力魔法攻撃か。これは、嫌な予感がしてきたな。
『念の為に確認するけど、その魔物はプラス得点だったんだよな?』
この確認だけは絶対に必要だろうな。
『そうだ。ゴーグル越しに見ると赤く光っていた』
おいおい、嫌な予感が的中しそうだな………今回のメインイベントは空か………
『そうか………それは分かったけど、ブレッドくん達は落雷を喰らわなかったのに、何故サラさんは瀕死だったんだ?』
『回復、休憩中にプレイヤー四人組に襲われたんだ。《探知》スキルのお陰でギリギリ逃げ切る事だけは出来たけど、この有り様だ』
なるほどな。僕達にブレッドとサラが青く光って見えるように赤く光って見えるプレイヤー達もいると言う事だな。それと、相手側が四人組と言う事は、協力してポイントを稼いでいるプレイヤーがいると言う事だな。これは、かなり良い情報が収集出来た気がするな。
『ちなみに、確認しておくけど、ブレッドくんとサラさんは僕達が何色に見えてるんだ?』
『ブレッドでいいぞ。俺もシュンって呼ぶから』
『私もサラで大丈夫です。私達からは青に見えてます』
有ったばかりなので二人を完全に信じる事は出来ないけど………この様子なら、嘘は言ってないだろうな。どちらか片方だけが一方的に狙えるみたいな不公平は公式イベントでは無いだろう。それに、僕にも人を見る目くらいはある。
『アクア』
『俺は良いぞ。それで』
流石は幼馴染みだな。何も言わなくても、僕の考えている事は伝わっているみたいだな。
『ブレッド、サラ、このイベントが終わるまで僕達と共闘しないか?』
二人共が身体能力が低めのエルフで、レベルもあまり高くはないけど………
ブレッドは前衛の《騎士》の上位ジョブの《準騎士》。それも、《探索》スキルの上位進化スキルである《探知》スキル持ち。サラは後衛。しかも、《回復士》の上位ジョブで《回復師》と共闘するにはバランスがとれているからな。僕達にとってはベストだと思う。
ちなみに【noir】のケイトも《回復師》にジョブチェンジしているし、アクアに至っては《準騎士》のさらに上位ジョブの《戦騎士》になっている。まぁ、アクアの成長速度は並みでは無いけどな。
『私達としては、嬉しい誘いなんですが………私達はMPが切れてますので、お二人のお役に立てないと思います』
それは、すでに分かっている。
『これで、大丈夫だろ?』
【黒竜】を抜き、ブレッドとサラを連続で射撃していく。
『さっきも思ったが、何なんだ?これ』
『企業秘密だ』
〔『主よ、見せ過ぎではないかの?またモニターを忘れてないかの』〕
〔『まぁ、この力はクラーゴンの時にバレてるからな。時既に遅しってとこだろ。それに、白と黒の存在さえバレなければ大丈夫だろ』〕
〔『分かっておるなら良いのじゃ。くれぐれも………』〕
〔『分かってる。竜の力を使わざるえない状況にはなるなだろ。仮に、もしそうなったとしたら、潔くリタイアするさ』〕
まぁ、そうならない為にも絶対にMPの有る《回復師》は必須だからな。前衛の壁役が増えるのも紙装甲の僕としては安心出来るからな。
『ありがとうございます。シュン、アクア、足手まといになるかも知れませんが、お願いします』
『おう、ヨロシクな。取り敢えず、俺がチームリーダーやらして貰うぞ』
これには僕は勿論、ブレッド達も異論は無いようだ。アクアが的確に隊列を決めていく。こう言う時は、経験が多い分だけ役に立つよな。
〔『ほら見ろ。白、黒、アクアにも良いところ有っただろ』〕
〔『『………』』〕
………って、返事無しかよ………まぁ、分かってくれたのなら良いけどな。
結果、隊列はアクア、ブレッド、サラ、僕の順番になる。僕が最後なのは、女の子のサラを最後に出来ないと言う事と背後からの奇襲対策だ。まぁ、これが無難なところだよな。ブレッドのスキルでフォローすれば、アクアも安心して進めるだろうからな。
〔『白、黒、念の為《探索》ヨロシクな』〕
『それで、これからどうする?シュン』
『そうだな………多分、最後に落雷の魔物が出てくると思うからな。それまでは、地道にポイント稼ぎと素材集めかな』
『そうだな。それが良さそうだな。それとブレッド、ポイントになるターゲットのトドメは交互に刺そうぜ』
『ちょ、ちょっと待って下さい。そんな事よりも、お二人は落雷の魔物と戦う前提で話をしてますけど、最後に落雷の魔物と戦うのは確定なのですか?』
二人は驚いた表情で僕達を見てくる。その表情に驚いた僕達もブレッド達を見直した。そして………
『『トリプルオーの運営だから』な』
アクアとハモってしまったけど、トリプルオーの運営を甘くみてはダメだと思う。僕としては、今回は途中で落雷を放つ魔物を出現させたと言うヒントをくれただけでも普段よりは、かなりマシだと思っている。そう簡単にレアな報酬が貰えるトリプルオーではないからな。報酬と引き換えにトラウマを植え付ける(僕にとっては植え直す)くらいの嫌がらせはしてくるだろう。
『それと………もし、出会ったらだが、俺はブレッド達を倒そうとしたプレイヤーにリベンジするのも忘れてないぞ』
多分、四人組の協力関係が成り立っているところをみると、僕達もプラス得点になるだろう。当然、出会った場合は狙われるだろうし、逆に言えば僕達にもプラス得点のチャンスだからな。
それに、手負いの《回復師》を不意討ちで倒せないプレイヤー四人組のレベルは知れている範囲だろうからな。ここはアクアの意見に賛成だな。
『私達の事は、大丈夫ですから、本当に無理しないで下さい。それに四人組は強かったですよ』
『その辺りは心配しなくても大丈夫だ。俺も、シュンも、かなり強いから心配するな』
まぁ、普通に戦えばアクアに勝てるプレイヤーは少ないだろうな。あくまで普通に戦えばだけどな………だが、アイツは今がイベント中で防御力0の装備だと覚えているのかな?今なら、一撃が致命的になりかねないんだけどな。
装備
武器
【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉
【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉
【白竜Lv44】攻撃力0/回復力184〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv44】攻撃力0/回復力184〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
【???】???
防具
【ボロボローブ】防御力0
アクセサリー
【レンタルゴーグル】
天狐族Lv49
《双銃士》Lv71
《魔銃》Lv70《操銃》Lv15《短剣技》Lv21《拳》Lv42《速度強化》Lv95《回避強化》Lv95《魔力回復補助》Lv96《付与術》Lv66《付与銃》Lv71《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv12
サブ
《調合職人》Lv27《鍛冶職人》Lv43《上級革職人》Lv4《木工職人》Lv33《上級鞄職人》Lv5《細工職人》Lv33《錬金職人》Lv32《銃職人》Lv28《裁縫職人》Lv12《機械製作》Lv27《調理師》Lv3《造船》Lv15《家守護神》Lv30《合成》Lv31《楽器製作》Lv5
SP 38
称号
〈もたざる者〉〈トラウマプレゼンター〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈自然の摂理に逆らう者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉




