★第三回公式イベント 2
『お待たせ…って、あれ?待ってたのフレイだけじゃないんだな』
呼び出されて戻ってきた【noir】の工房には、呼び出しの張本人の他にもカゲロウとアキラの姿が有った。
『私はたまたま今ログインして来たところで…』
『俺はフレイの検証に付き合ってた』
アキラは偶然を主張して、カゲロウは必然を主張した。どうやら、各々が別々の理由でここにいるらしい。
それにしても、カゲロウがフレイの検証の手伝い?流石に得意な生産畑が違い過ぎると思うのだけど。でも、この二人の共通点から想像すると…ま、まさか、極悪ネーミングセンスの件か?
あっ、ヤバイな、この事を思い出しただけでカゲロウの顔をまともに見れない。しかも、しばらくの間は続きそうだ。だけど、果たして僕に慣れる時は訪れるのだろうか?この疑問は残る。
『ちょいと聞きたいんやけどな、シュンはこれをどうやって《合成》したんや?偶々おったカゲロウに頼んで、ウチの武器も二種類《合成》してもろたけど、全く上手くいかへんかってん』
フレイが広げた両手の先には、フレイが製作したと思われる様々な種類の武器が複数置いてあった。
今の話から推測すると、ここに有る武器を使って《合成》スキルの検証をカゲロウがしていたらしい。でも、多種多様の武器は有るけど、特に変わった物は無い。これで、《合成》が成功しない?俄には信じられない話だ。
『ギルマス、それを俺も聞きたかった。簡単なアイテムの《合成》は出来るけど、俺には武器と武器の《合成》は全く成功しないんだ』
『そう言われてもな。僕は普通に《合成》しただけだし…』
僕は改めて机の上に置かれている多種多様の武器を見直した。
う~ん…やっぱり、これと言って変わった種類の武器が有る訳でも無いんだよな。カゲロウは本当に成功しなかったのだろうか?どう見ても普通に出来そうな気が僕はするんだよな…いや、ちょっと待てよ、よく考えてみると僕は《合成》で失敗した事が無い気がする。
…と言うか、ネイルさん達に聞いた話でも成功事例の方が圧倒的に少なかったはずだよな。
〔『主よ、弟くんが《合成》するところを一度見せて貰ってはどうかの?そうすれば、失敗する理由も分かるのじゃ』〕
簡単に解決なのじゃと主張する白。
〔『まぁ、それが結果的には早いのかも知れないよな』〕
僕も僕以外の人が《合成》スキルを使うところは見た事が無いからな。これだけ他者と主張が違うのならば、もしかすると僕のやり方が普通と違う可能性も有る。いや、その可能性の方が高いのかも知れない。
『カゲロウ、悪いんだけどさ、一回《合成》するところを僕にも見せてくれないか?』
『うん!?俺がか?別に良いけど、多分失敗だぞ。《合成》』
カゲロウは、机の上に置かれている剣を適当に二本選んで《合成》スキルを試行するが、《合成》特有の一種だけ輝く目映い光はおろか、カゲロウの手元は何かしらの変化すらも起きない。
『やっぱりダメだ。さっきと一緒、ご覧の通りの結果だ』
『せや、さっきから何回やってもこれの繰り返しやねん。まぁ、武器も無駄になってへんから、別にええねんけど』
僕の試作品と自分達の実験結果を見比べて悩む二人。
これが失敗した時のパターンか。初めて見るけど、全く反応すらしないんだな。でも、特に僕とやり方が違う訳でも無さそうだぞ。
〔『…主も試してみる』〕
〔『まぁ、それが普通に早そうだな』〕
僕は黒の意見に乗った。
『え~っと、だ。僕も今のカゲロウみたいに両手に持って普通に《合成》しただけなんだけど…これ、試しに使ってみても良いか?《合成》』
フレイが頷くのを確認して、机の上に置かれている武器の中から、適当に二本の【ロングソード】(名前は同じだが、形は別物)を選んで、使いやすそうな形状を想像して《合成》する。
【ダブルソード】攻撃力35〈特殊効果:なし〉
いつものように僕の両手が一瞬だけ光り輝く。そして、僕の右手には剣の持ち手の部分を中心に、両端に適当に選んだ各々の【ロングソード】の特徴を残した刃が付いた一つの武器が現れた。
うん。やっぱり、普通に《合成》出来るよな…と言う事は別の問題。例えば、一番分かりやすいところでスキルレベルの問題なのだろうか?えっ~と、カゲロウのスキルレベルは…
『えっ!!何でや!!さっきのカゲロウは一つも出来へんかったやん。《合成》の反応すらしてへんかったのに…シュンも、見てたやろ?…ちゅう事はスキルレベルの問題なんか?シュン、レベルは?』
一連の流れを見て、慌てふためくフレイ。今の彼女には取り付く島もない。
そのフレイが話出すのと同時に、僕の隣では僕の《合成》を見ていたカゲロウが再び《合成》を試している…が、結果は先程と全く変わらない。
『今一瞬だけ、《見破》を使って確認してみたけど、カゲロウが失敗…いや、《合成》出来ない理由は単純にカゲロウのスキルレベルの不足…って訳でも無さそうだ。僕も驚かされた事だけど、《合成》のスキルレベルは僕よりもカゲロウの方が若干上なんだよ』
僕は《見破》を使って分かった結果だけを端的に伝える。
『『………』』
ショックを受けるカゲロウと、ただただ傍観者と化しているアキラ。
『ほ、ほな、何でなんや?ウチの頭がおかしくなったんか?』
さらに慌てふためき動揺を隠せないフレイ。三者三様の態度を示していた。
フレイがここまで動揺するのも珍しい気がするな。まぁ、それはさておき、僕に《合成》すると事が出来て、カゲロウに《合成》する事が出来なかったんだったとしたら…
『もしかすると、前にアキラが言ってた事が関係しているかも知れないな』
色々と考えた末に、僕はとある考えに辿り着く。
『えっ、私?私、何か言ったかな?』
ここで初めて一言を発し、首を少し傾げて必死に何かを思い出そうとするアキラ。
…しかし、残念ながら何も思い出せないらしい。
まぁ、単純な会話の流れで一瞬だけ出てきたような言葉だから、思い出せなくても仕方が無いのかも知れない。
『うん。まず、前提の話として、僕は《合成》の検証とかしているつもりは全く無かったんだ。ここだけは間違えないで欲しい』
僕の言葉に三人は唾を飲み込みながら頷いた。いや、そこまで仰々しい話ではないんたけど…まぁ、良いか。
『それで、以前にアキラと話していた時に、トウリョウ達にも《合成》出来ない物や失敗する物が多いって話題に偶々なった時に、アキラが『失敗したり、合成出来ないアイテムって他の生産系スキルのレベル不足じゃないかな?複合スキルだったら、そう言うのも有りそうだよ』って言ってたんだよ。まぁ、その時は《合成》スキル自体の取得が出来なかったから、深く考えてはなかったんだけど、今思い返すとそれが正解ないし、正解に近いのかも知れないな』
『あっ!あぁ、私言った事あったかも…それ』
なんとか思い出せたようで、スッキリした表情を見せているアキラ。どことなく満足そうにも見受けられる。
『当然、これは完全に未検証の話になるから、不確定な話として聞いて欲しいんだけど、アキラが言ったように《合成》の可能や不可能、成功や失敗は取得している他の生産系が大きく関係してくるんじゃないかな?今のところ…と言っても、試した数自体が少ないんだけど、僕には《合成》出来なかった物は無いから、あながち間違いでもないと思う。あっ、そうだ!カゲロウ、今度はこの二本の杖を《合成》してみて』
ある事を思い付いた僕は、鞄から《木工》スキルのレベル上げで製作していた単純な見た目の木製の杖を二本手渡した。
アキラの仮説が正しければ、カゲロウは《木工》スキルのみで製作した杖の《合成》には成功するはずだ。
【木杖】攻撃力10〈特殊効果:なし〉
『お、おう。分かった…いくぞ。《合成》』
その言葉になんとか反応したカゲロウは、僕から手渡された杖で再び《合成》を試みる。ただし、その表情を見る限りは、平静までは取り戻せていないようだ。
【木杖+1】攻撃力15〈特殊効果:なし〉
『お~っ!!出来た』
その言葉が示す通り、カゲロウの両手の二本の杖は目映い光と共に一本の杖となり、カゲロウの右手にしっかりと収まっている。
武器の《合成》を初めて成功させて喜んでいるカゲロウが《合成》した杖は、見た目的に全く元の杖と同じながらも、ステータス的には【木杖+1】と表示され、性能も少しだけ上昇している。
これを見る限り、間違いなく《合成》は成功したのだろう。ただし、僕が今まで見た事のない結果を残して…
〔『…勿体無い』〕
〔『主よ、弟くんの《合成》には無駄が多いのじゃ。これなら《合成》するまでもなく、最初から製作しなおす方が良いのじゃ』〕
喜ぶカゲロウを尻目に僕に主張する黒と白。
僕にも言いたい事は分かるし、黒や白もそう言う結果を求めるんだな。多分、僕が気付いた事が伝われば単純な話で終わるのだけど、確信が持てる話でもない。それなら…
『《合成》』
試してみれば良いだけだ。
僕もカゲロウと同じ杖を二本手に取り、同じように《合成》を実行する。
しかし、そこに現れたシュンの《合成》結果は、カゲロウとは全く別のものとなる。やっぱりか…
【双頭の木杖】攻撃力18〈特殊効果:なし〉
『あれ?今、シュンが《合成》した杖って、カゲロウと同じ物だったのに結果がカゲロウの杖とは違う…よね?もしかして別の物だった?私の見間違え?』
誰よりも早く僕の合成結果に気付くアキラ。相変わらず、全体を把握する力は凄いらしい。
『合ってるよ。試しに同じ物を使用した』
カゲロウが《合成》した杖は、元の形状のまま性能だけが若干上昇しているが、僕が《合成》した杖は、杖の頭の部分が二つに別れてY字の様な形状になり、杖自体の性能も全く変わっている。簡単に言うと、完全に別アイテム扱いだ。
『なっ、ギルマスは一体何をしたんだ?それは何か卑怯な事をしてないのか?』
誰よりもその結果に驚いたカゲロウは二本の杖を手に持ち、その両方を見比べながら訪ねてきた。その背後に控えるフレイも同様らしい。
まぁ、【双頭の木杖】は明らかに【木杖+1】よりも性能が良いからな、結果だけを見ると後出しジャンケンでジャンケンに勝ったみたいな感じで、有る意味では卑怯だと思う。
〔『主よ、主の場合は卑怯と言うよりも、人が悪いだけなのじゃ。早く主の考察を教えてあげるのじゃ』〕
〔『いや、人が悪いは全力で否定させて貰う』〕
それは流石に人聞きが悪過ぎるだろ。
『カゲロウも、それは絶対に人聞きが悪いぞ。なぁ、カゲロウ、多分カゲロウは《合成》する時に《合成》すると言う事以外は何も考えずに《合成》したんじゃないか?僕は《合成》した後の形状を頭の中で明確に想像してから《合成》したんだよ。多分、形の違いは想像力じゃないかな。僕の持っている【雷光風】も【雷光】と【光風】を《合成》した銃なんだけど、何も考えずに《合成》したから、双銃に…一番シンプルで単純な二丁で一つの武器になったんだよ。多分、色々と想像して《合成》していたら、二つの性能を持った一つの銃や全く別の形にも出来たと思うんだ。さっきの【ロングソード】も想像しなかったら、最も単純な形…【ロングソード+1】になったんじゃないかな。まぁ、これは未検証で完全な想像なんだけど。あっ、そうだ!まだ、杖の在庫は有るから試してみなよ』
《合成》の結果について、ほぼほぼ確信を持ちながらも妄想と言うあざとい単語と僕らしからぬ先生口調を持ち出して答える。
〔『…巧妙』〕
〔『主は演技も上手いのじゃ』〕
その事に気付き妙に感心する二人。
〔『やっぱり、自分自身で試してみて気が付いた方が、カゲロウの為にもなるだろ?』〕
これが僕の本心。僕の思う理想の先輩像は、簡単に答えを教えずに自分で考える力を育てる事に有る。まぁ、これで少しは良い先輩をやれてたら良いけどな。あくまでも僕なりにと言う言葉が付くのだけど…
『おう、分かった。いくぞ。《合成》うぉっ!!出来た、出来たぞ。ギルマス』
今度はカゲロウも僕と同じような杖を《合成》で作り出した。ただし、デザインとしてはカゲロウの方が精錬されている。
カゲロウが素直に喜んでいるのは喜ばしい事だけど、《合成》を使ったのなら、これくらいは出来て当たり前だと思う。それぐらい《合成》スキルは何でも有りで自由だと思っている。
ちなみに、この事がトリプルオー内で自分のやりたい事は何でも可能と謳い文句にしている理由の一つではないのかな?と僕は内心思っているが、皆には内緒だ。
まぁ、今はそんな事よりも、この《合成》を使って今後カゲロウがどんな変わった物を作ってくれるのかと想像しただけで、そワクワクが止まらないな。
『なるほど…うん。それやったら、シュンはこの刀を《合成》してみてや。自分の理論やったら、これは出来へんって事やろ?形状はそやな…さっきの【ダブルソード】と同じ物でお願いするわ』
どこから取り出したのか?いつの間にか二振りの刀を手にしているフレイ。それを僕に向かって突き出していた。
『やるのは良いけど、多分…《合成》。やっぱりね』
今までと違い何の手応えも感じない僕はフレイから二振りの刀を受け取り、さっき《合成》した【ダブルソード】のような形状(ちなみに刃のむきは左右で逆を向いている)を想像して試してみる。
結果は予想通りと言うか、二振りの刀は二刀流の形にさえ変化もすることも無く《合成》は失敗に終わった。
『やっぱり、それはシュンが《刀鍛冶》スキルを持ってないからって事に繋がるんか?』
その結果を見て落ち込む他の一同を尻目に、フレイは全く変化していない二振りの刀をマジマジと見ながら聞いきた。
『多分ね、そうだと思うよ。僕の場合は基本の生産系をほとんど取得してるから《合成》の失敗や出来ない事が他の人に比べると少ないんだと思う。普通の《鍜冶》スキルの範囲に含まれる武器なら可能だと思うけど、《刀鍜冶》は刀を作る為の専用の複合スキルだからね。まぁ、《合成》のレベルが高くなったりスキルが進化したら、別の方法でも《合成》する事が可能かも知れないけど』
ただし、他にも《合成》が可能となるもう一つ別の理由として、〈自然の摂理に逆らう者〉の称号が働いている可能性も少なからず有るには有るんだけど…こっちの方は称号の名前が若干の厨二っぽさを含んでいるので、他人には絶対に秘密にしておきたいので、結果的にここだけの秘密となっている。
『了解や。そっちは分かったわ。次はシュンに頼まれた試作品の件なんやけど…この銃も可変するんやな、ちょっと驚いたわ。でも、はっきり言って製作方法は別物やろ』
フレイは自身が持つ【三位一体節棍】と【銃剣】をまじまじと見比べている。
『フレイの三節棍は別にして、アキラの【扇羽】みたいに可変を前提として色々と工夫したからな。ポイントは可変部分に《機械製作》で作ったお手製のギアで手作りの可変ギミックを組み込んだ短剣と銃を一緒に《合成》したところだ。まぁ、銃自体は全く弄れないから短剣+ギミックの部分で工夫してあるんだけどね』
【扇羽】はフレイがアキラの為だけに製作した開けば扇、閉じれば短剣になる武器で、見た目は当初と然程変わらないが数度の強化を加え名前も性能も別物となっている。
『なるぼどな。あの扇みたいにギミック部分が手作りなんやな。ちゅうても、開くだけで可変するアキラの扇ほど単純な話でも無さそうやけど…シュン、自分本当に器用やな』
シュンの手先の器用さに称賛を送るフレイ。
まぁ、長年にわたる家事三昧のお陰で、手先だけは器用になった…いや、ならざるを得なかったと言うべきか?
でも、それを言い出すと、一番最初に可変の扇を独力で考えて製作したフレイの方が手先は器用だと思う。まぁ、お互いへの謙遜は別にしても…人に誉められるのは素直に嬉しいよな。ましてや、自分が尊敬している人物だと尚更に。
…と言うか、今となって冷静に考えると何でも有りの《合成》無しで、その時の変なテンションに悪ノリして作り上げた三節棍やフレイ独力で考え製作された扇の方が異常じゃないのだろうか。
『いや、三節棍や扇も作れるんだから、《合成》を使用しなくても同じ手順で進めれば複雑に可変する武器も製作出来ると思う。まぁ、本体の形状自体を弄る事の出来ない銃系は一から製作する事は無理だと思うけどな』
これは前にも思った事だけど、例えゲームの中と言えど簡単に銃の作り方を説明して現実で作れるようになったら、暴走したバカの惨劇の未来が待っている事だろう。一から製作する事に興味がないと言えば嘘になるけど、これはこれで良いとも思う。
なぜなら、3Dプリンターでどんな形や素材でも簡単に複製可能(許可無しは違法)になっている時代なのだ(ただし、使用素材無制限の物は機械本体自体が一般人に買える価格帯では無い)。そう言った理由が少しでも表に出ると、きっとトリプルオー自体が停止になるか、トリプルオーの中でも銃が禁止武器として扱われるだろう。それだけは絶対に限り避けたいよな。運営側としても、銃の使用者である僕としても…
『確かに、ギルマスが《合成》した【ダブルソード】に似た武器を俺は他にも見た事が有るぞ。えっ~と、どこだったけ?うん~、それは別にいいか…』
その場所を必死に思い出そうとして顔の色を変えながら悩み、その結果無駄だと悟り諦めたカゲロウ。この間約一分を費やしている。
多分、カゲロウが見たと言うのはオークションの時だろう。僕もオークションの司会をしている時に見ていたので、今回想像する事が出来たのだから。
僕は俗にゲーマーと呼ばれる姉や幼馴染み達とは違って、普段はゲームに熱中しない…やったとしても、たまに二人と遊ぶ(二人の的にされる)程度なので、武器の種類等には詳しくない。分かるのは、メジャーな物や有名な漫画や小説に出てくる物…たまに二人に解説されるエクスかリバーを持つ物くらいだ。まぁ、それもゲームによって姿形が全然違うらしいけど…
『あの手の武器は攻撃力よりも攻撃範囲や攻撃速度を重視してるからね。他のMMOでも結構メジャーだよね。斯く言う私もVRじゃないMMOでは使ってた事が有るよ』
そう言ったアキラは【ダブルソード】を手に取り、何かしらの型を演じる。しかし、武器の扱い自体は別として、アキラの演じた型は対応するスキルを所持していないからか、技のキレ的にはあまり見れたものではなかった。それでも、アキラが扱っていたであろう事は伝わった。
当然、本人的にも満足いくはずもなく…
『やっぱり、ダメか…』
…と、どこか残念そうに呟いた。
『攻撃範囲が広い分、味方を巻き込む可能性も有るし、あの手の武器は扱いが難しいんや。簡単に言えば、上級者向きやな』
アキラの演舞?型?を見たフレイがしみじみと語る。
まぁ、確かに扱いをミスると自分で自分も斬りそうになるよな。トリプルオーは、他のMMOとは違って混乱や魅了等のステータス異常になっていなくても、自分で自分(味方も含む)を攻撃する事が可能だからな。間違って自分自身を傷付けたら、たまらないのは分かる。
つまり、自虐…いや、この場合は自殺になるのかな?ほとんど使う事の無い機能なのだが、ログアウトが出来ない場所でトラップやイベント等で詰んだ時等には、評価が一転して使える能力にもなるらしい。勿論、現実と一緒で使わざるえない状況に成らない事が遥かに推奨されるのだけど。
『まぁ、こればかりは他の生産系を取得するか、頑張ってスキルを成長させるしかないか。それで、そろそろ生産活動に入っても良いか?試作品をベースに完成品の製作しないと今回のイベントに間に合わないからな』
皆に一言断りを入れて、《鍛冶》の工房に移動して続きを始める。今の僕にとっては、少しの時間が惜しいのだから。
ベースにする予定の【トライセス】はいつでも製作出来るので、まずは《鍛冶》からの方が良いかな?
そう思った僕は少しずつ丁寧に丁寧に水晶の加工作業を進める。試作品の時とは違い、青水晶と言う水晶の1ランク上の素材を使用している。これは北西に有るらしい最もここから近い大陸で比較的楽に採掘出来る素材らしく、クラーゴン討伐で開放された客船(まだ一航路のみ)で訪れたプレイヤーが持ち込んだ新素材だ。
その分、買取価格も高くなっており、かなり良いお値段を持ち込んでくれたお客様に支払っている。まぁ、僕達生産系の職人プレイヤーにとっては値段よりも素材の性能と種類や数を揃える事が最優先になるのだけど。
僕達も今回の公式イベントと二回目のオークションが終わって少し落ち着いたら、少しずつ外の大陸を目指す予定になっている。何よりもオールジャンルの新素材を求めて…そのついでに、王様の依頼もこなせれば良いだろう。
まぁ、そんな事よりも…
『この青水晶と言う素材は綺麗だな』
水晶よりも透明度は高く、向こう側も透過して見える。
その名前が示す通り薄い青色が入っている為、目標であった完全な透明は無理になったけど、刃自身に施されている神秘的な装飾のお陰で全く刃物に見えず、見た目の美しさは以前の物よりも遥かに増しているので問題はないだろう。今の状態なら《合成》しても銃のデザインの一部に見えそうなところも大きなプラス要因だ。
【水晶短剣(薄青)】攻撃力40〈特殊効果:可変〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
試作品よりも、かなり質の良いものが出来たな。《合成》前の段階だけど、可変機能の方も問題はない。むしろ、この状態でも武器として使えそうだ。
『あっ、そうだ』
ここで最後に焼きを入れて焼き戻しと言う技術を使った方が良いんだったよな。つまりは…ついに、カゲロウ印のイオン水の出番がやって来たと言うこと。
高温の魔高炉に【水晶短剣】を入れて熱して、カゲロウ印のイオン水の中へと浸ける。ジュ~~と言う激しい音とそこから溢れ出る水蒸気と共に…徐々に刃が消えていく。
『えっ!?』
その様子に驚き、慌てて消えた刃が有った場所を触る。
『いたっ!』
触った指には2センチ程の一文字の傷痕が現れた。もちろん、その傷痕を立証するようにHPへのダメージにも反映している。
触った感触も確かに有るので、ここには確実に刃は有るのだけと、その肝心な刃が見えない…いや、うっすらと見えるのか?よくよく目を凝らすと微かにだが境界線らしきものが見えた。これは最後の焼きの効果なのか?それとも、これがカゲロウ印のイオン水の真の実力なのか…今の僕には分からないけど、どっちにしても凄いよな。
【クリアナイフ(透明度99%)】攻撃力50〈特殊効果:可変/準透明〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
性能的にもフレイの言っていた通りで、1ランク上昇した感じだな。あとは…これにギミック加工を施して、《銃製作》から薄い水色と【クリアナイフ】の刃の模様を基調とした【トライセス】を作り…
『《合成》だ…良し!!』
苦労を重ねたお陰で、試作品よりも段違いで性能が上がっている。
これは今までの僕の武器の中でも最高品だろう。特に【水晶短剣】よりも遥かに刃が見えにくくなったところがポイントだ。見た感じは普通の綺麗な銃にしか見えなくて、持っていても全く違和感はない。これ以上目立ちたくない僕にとっては最高の武器に仕上がった。
【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
※剣銃モード
『主よ、これは綺麗なのじゃ。これが主の作りたかった新しい武器の形なのじゃな。二弾同時発射は素晴らしいのじゃ』
いつの間にか、雪ちゃんの部屋から白が戻って来ていた。どうやら、戻って来たのは白だけで黒はいないらしい。
『まぁな。それに可変もするんだぞ』
僕は【ソル・ルナ】を可変させて、銃剣モードの【ルナ・ソル】に変更し白に見せる。
【ルナ・ソル】攻撃力80/攻撃力100〈特殊効果:可変〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
※剣銃モード
『う~む…主よ、何が変わったのじゃ?ワシには全く分からないのじゃ。それと、なぜかは分からぬのじゃが二弾同時発射の機能が失われておるのじゃ』
首を傾げて翼を器用に交差させながら腕を組むようなポーズで悩む白。その瞳は僕の手の中にある銃だけを見つめていた。
『うん?あっ!白、お前完全に見えてないだろ。もっと近くで銃の周りを良く見てみろよ』
僕は【ルナ・ソル】を白の目の前まで移動させる。もう白の視界からは【ルナ・ソル】以外は見えていないだろう。
『おっ、おぉ~、おぉ~~なるほどなのじゃ。主よ、これは凄いのじゃ。銃に透明な薄い刃が付いておるのじゃ。これが本当の新しい武器の形なのじゃな。ワシは感動したのじゃ』
大袈裟に見えるような態度で感動を表し、僕の周りをぐるりぐるりと飛び回る白。喜んでくれたのなら、僕も嬉しい。
多分【ソル・ルナ】の状態も見えていなかったであろう白の為に、もう一度再可変させる。それにしても、白は何を思って綺麗と言っていたんだ?【トライセス】だけだと、普通にどこにでも有りそうな感じの普通の銃だと思うぞ。
『おぉ~!!なるほど、なるほどなのじゃ。そう言う事じゃったのか。今度は本当に分かったのじゃ』
さらに勢いを増してぐるぐると飛び回る白。あまりの速さに少しうざく感じてきた。
『そう言う事だ。今日はもう遅いから…そうだな、明日ログイン後に新入り達のテストをしようか』
飛び回る白を掴み、明日の予定を簡単に説明する。
イベントの対策も兼ねて、アクアを誘って久しぶりに連携の練習をしても良いかもな。イベントでは悪目立ちが保障される白と黒を武器としては使う予定は無いのだ、仮にもパートナーとなるアクアとの連携くらいは出来るに越した事はないだろう。
まぁ、アクアをまだ許す気にはなってないし、今後許すかどうかも分からないけど、メールだけは入れておこうか。どのみち、参加する以外の道は残されていないのだ。それならば、出来るだけ最後まで生き残りたいと思うのは仕方の無い事だろう。手に入る報酬の為にも…な。
翌日、昨日に続いてトリプルオーにログインした僕は、ギルドの工房で作業を続けながらアクアを待っていた。
昨日のギミック作りで《機械製作》スキルのレベルも15に上がった事で、《機械製作》のリストの中でもそれなりに欲しかった音声認識装置を作ってみる。
『《機械製作》って…』
こう言うパターンも有るのか。
《機械製作》の中でも、この音声認識装置と言うのは特殊な部類のアイテムなようで、《機械製作》で作ったギアと素材を使って製作するアイテムなのだが、完成品として形が全く残らない…言うならば、工房内に素材のような扱いで残された音声認識装置と言う名前だけが完成した証。
これは何か他の機械系のアイテム等に付与する形の製作物だったらしい。もしかしたら、浮遊装置等の他の装置と名の付く僕が欲しいと思っている系のアイテムも、そう言う仕様なのかも知れないな。
僕はテストを兼ねて、ホームのゲートに音声認識装置を組み込んでみる。そして、物は試しと…
『蒼の洞窟。なんちゃって…ほぇっ!?』
いつもなら、ゲートの横に付いている透明なタッチパネルで移動するエリア・指定された場所・確認決定の最低三回の操作が必要になるゲートが、僕の声に反応して自動的にゲートを繋いで行く。
『おぉ~!!』
そこは紛うことなき、青の洞窟…通称造船所。その感動は一入だった。
これは凄く便利で良い感じだな。それに、この使い方は声を認証して識別する装置と言うよりも、行動を音声入力すると言う方が近い気がする。
それならばと、再び同じ物を製作して【ルナ・ソル】にも付与してみる。ちなみに、この装置類は一度製作してしまえば、二度目の製作時は素材が半分で済む仕様…まるで発売から一年後の軽量化されたゲーム機みたいな感じになっていた。まぁ、非常に助かるので全く文句は無いのだけど。
当然、こちらもゲートの時と同様に僕の声に反応して可変が可能になり、武器ステータスの特殊効果の部分にも音声認識が付け加えられている。
ちなみに、登録する単語をは短く分かり易い方が何かと便利だろうと言う事で、【ソル】で銃剣モード、【ルナ】で剣銃モードと登録している。装置の初期段階でなら、音声認識の言葉を設定可能だった点が、この能力の一番素敵なポイントだろう。
『う~ん…やっぱり、この音声認識装置は多機能で魅力的だよな』
もともと出来るだけ簡単に可変させられるように製作していたのだけど、可変させる為に絶対必要だったワンタッチと言う行程が音声認識に置き換わるだけで、武器としてのランクが格段に上がった気がする。
…と言うか、もしかすると機械系じゃなくても音声認識装置を付与出来るんじゃないのか?
『なぁ、これって鞄にも付けれると思うか?』
真っ先に浮かんだ名案?を黒に訪ねる。
『…微妙』
渋い表情をした黒が迷わず惑わすような返事をした。
黒にしては珍しく中途半端な反応だな。微妙と言う事は付ける事自体は可能らしい。とすると…可も無く不可も無くと言う事なのか?それとも付けれたとしても全く効果が無いのか?
付ける事が出来たなら、かなり便利だと思うんだけど。前者はともかく後者は嫌だな。やっぱり僕の思い付いた効果を望むのは無理なのだろうか?
『違うのじゃ。主なら可能かも知れないのじゃ』
僕の思考を遮るように僕と黒の間に文字通り割り込んでくる白。
白が言う、可能かも知れない部分が《合成》の事を言っているのなら絶対に無理だよな。いくら《合成》スキルと言えど、アイテムとしての形が無い物への使用は無理だ。
例えば、瓶に入った液体Aと瓶に入った液体Bを《合成》して瓶に入った液体Cを製作する事は可能だが、瓶に入った液体Aと川の水D等の形が区切られていない液体の《合成》は不可能になっている。これが何かしらの器に川の水Dを汲めば《合成》が可能になるので、この点は間違いないだろう。
つまり、アイテムとして名前の有る音声認識装置だが、形は見えないので《合成》は不可能と言う事になる…はず。勿論、単なるスキルレベルの不足と言う可能性も有る。それとも何かしらの他の抜け道が有るのだろうか?まぁ、この件は気長に考えようかな。
『悪い、待たせたな。それとイベントの件は本気で謝るから、俺に飯を…いや、ご飯様を作って下さい。今回の件は本当にすみませんでした』
【noir】のホームに来て早々にスマートな着地を決める幼馴染み。まだ彼の顔は拝めない。
それにしても会って早々に土下座が見れるとは思わなかった。それも、十五年以上の長い付き合いの幼馴染みがハイジャンプから正座での着地までを流麗かつ華麗に音を全く立てずに決めたところには10.0の評価をしたいけど…はっきり言うと、高度な身体能力の無駄遣いのオンパレードだよな。
まぁ、取り敢えず、スクリーンショットは確保しておこうか。勿論、流出させる気は全く無いけどな。
『まだ、ダメだ。今日も我慢してろ。(イベントに支障を出さない為にも)明日の夜からは多分作ってやるけど、次にこんな騙し討ちみたいな事をしたら、次は飢え死にだと思え』
改めて言葉に出した事で分かったけど、僕は相当怒っていたらしい。まぁ、言葉に出した分だけ少しはスッキリしたけどな。
『分かりました。いえ、分かっております。二度としません。以後、本気で気を付けます。それで、今日は何処に行くんだ?』
何度も頭を下げたところで、態度が急変するアクア。正座スタイルから膝と脛のバネだけで飛ぶように立ち上がり、僕の方へ一気に近付いてくる。
あの~アクアくん、二度としませんと謝るわりには、それ以降の変わり身が早すぎないかな?ジャンピング土下座で一応現れているから反省しているのも理解はしているけど…この変わり身の早さだと、本当に反省していたのかと疑ってしまうぞ。現に白と黒は言葉には出さないがご立腹だ。
まぁ、事実この変わり身の早さも幼馴染みの良さでもあるとも言える。次が無ければ僕としては飯抜きの刑で許せるのだけど。それに、ピリピリやイライラした雰囲気が断続的に続くよりは遥かに雰囲気は良い。
『う~ん、そうだな…なるべく人目に付きたくない理由も有るし、テスト自体に費やせる時間も然程多くは無いからな…』
『それなら、洞窟ダンジョンか?森の奥か?』
アクアなりのオススメポイントを提示してくる。
確かに、人が少ないと言う条件的には悪はくない。ただ、洞窟も森もこの前行ったばかりだ。ついでに集まる素材(在庫)的には微妙だ。となると、残すは…
『湖の反対側とかはどうだ?新作銃のテストも兼ねてるから、少し広い場所の方が僕は助かる』
湖の反対側はかなり広い。場所相応にプレイヤーの数もいるけど、場所を選べば狩り場が他のプレイヤーと重なる事もなさそうだ。それに、テスト用の鞄も作りたいので、皮系の上質な素材や精霊系の素材も入手しておきたいと言う副案も有る。勿論、アクアには秘密だが…
『OKOK、了解だ。連繋の練習や武器のテストをするなら、歩って行くか?』
その言葉と同時に入口の方へと歩き出すアクア。
たまには歩いて向かっても良いとは思うのだけど、【シュバルツランド】の周辺の魔物はアクアなら手加減しても一撃なのだ。明らかに、本来の目的である連携の練習にはならないし、近場で欲しい素材もない。つまり、この場合は歩って向かう必要はないと言う事。
『いや、今日の夕方からのイベントに【noir】からヒナタ達が出るんだ。だから、狩りで使える時間はそんなに多くないし、ゲートで行こうか。【ソルジェンテ】』
喋りながらも素早くアクアとのパーティー登録を済ませ、アクア自身の許可を待たず、音声認識を使い転送先を指定して、アクアとひとまとめで転送する。
まぁ、このゲートを使う理由の一つに、音声認識を使かってアクアを驚かせたいと言う悪戯心も少しは有ったのだけど。勿論、これもアクアには秘密だ。
『えっ、おい、ちょっ…』
慌てふためくアクア。
『…と待てって、えっ!?おい、嘘だろ?ここは【ソルジェンテ】なのか?』
そして、そのリアクションが完成する前に目的地へと辿り着いた。
『うん。見ての通り【ソルジェンテ】のゲート前だ。見慣れた風景だろ』
【ソルジェンテ】の街を背後に両手を斜め下前に開き、じっくり見てみろよとでも言いたげなシュン。
『あぁ…って言うか、俺が言いたかったのはそれとは別で、今シュンはゲートの操作したか?そんな暇は無かったよな?』
聞きたいのはそれではないと言いながらも、しっかり【ソルジェンテ】を確認している。
それにしても、あの一瞬で良く見ていたよな。いや、この場合は見る事が出来てなかったと言う方が本当の正解かもな。
『転送出来ているから、一応操作はしたかな。ただし、直接操作をした訳ではなくて、音声認識装置を使って【ソルジェンテ】を指定させて貰ったけどな』
〔『…人が悪い』〕
〔『主よ、悪戯が過ぎるのじゃ』〕
そんな言葉とは裏腹に、白と黒の二人の声は笑っていた。どうやら、さっきまでのご立腹の溜飲も少しは下がったらしい。
〔『いやいや、二人も充分に人が悪い…いや、竜が悪いですよ』〕
『お、音声認識だと!?ゲートにそんな機能がゲートに有ったのか?とう使うんだ?教えてくれ』
迫りくるアクア。
『後付けだ、後付け。まぁ、さっき付けたばかりだから、僕も移動に使うのは始めてなんだけど、上手くいって良かったな』
それに合わせるような形で一歩後退する僕。実際のところは、事前に青の洞窟への転移にテストして有るので危険はない。
『それよりも、今日の目的は連携の確認だ。昨日伝えた通り、防具は初期の物を忘れずに持ってきてるか?』
イベントと出来る限り条件同じにして連携の練習をしておきたい。実際にダメージを受けると言う事を身体で理解しておかなければ、いざと言う時に普段通りに防御してしまい、不必要なダメージを受けるだろう。回避主体の僕はともかく、防御主体のアクアは特に…
『おう、勿論だ。ちゃんと持って来てるぞ。前衛が俺で後衛がシュンで良いのか?』
メニューから防具を変更するアクア。それはトリプルオーにログインした当日…しかも、最初のチュートリアルをジュネと三人で受けた時しか装備しているのを見た事のない、ほぼほぼ傷のない真新しい防具。言い換えれば、ほぼ初対面。
『そうだな。最初はそれでいくか、どっちにしても色々と試す必要が有ると思うけどな』
特にソロ経験の少ない…まして前衛以外のポジションの経験がほとんどないアクアにとっては、後衛や遊撃の練習は必須になるだろう。
今回のイベントは二人パーティー限定なので、常に奇襲や不意討ちを喰らう想定は必要だと思う…と言う事で、僕は最初は後方で【アルファガン】からテストさせて貰おうか。
『了解だ。まずは、あそこにいるウルフとリザード引き付けるぞ』
湖の畔に群れるウルフ三匹とリザード二匹を見付け、僕の返事を待たずに駆け出してていくアクア。相変わらず、戦闘になると嬉しそうだよ、お前は。
まぁ、連繋練習の相手としては無難なところだ。今日はあくまでも練習がメインなので《付与術》は使わない予定だ。辺りを警戒しながら、アクアの背後から【アルファガン】で援護を始めた。
『あれ!?出な…おっそ!いや、はやっ!!』
【アルファガン】のトリガーを引いてからのタイムラグの遅さに驚き。発射されてからのタイムラグを取り返すかのようなスピードに再び驚くシュン。
それは前衛として戦っていたアクアも同様らしい。戦闘中にも関わらず、一瞬だけこちらに振り返り呆然としていたのだから。
【アルファガン】の発射後はSF映画みたいな細いレーザー光線みたいなものが一直線に延びていく。だが、今までの銃と比べて発射までが極端に遅かった。一瞬、何も出ないと思い銃口を覗き込んで見ようかと考えたからな、本当に危なかった。これは本気で気を付けないとダメだな。
再び試してみると、トリガーを引いてから発射されるまでに約二秒程掛かった。
『う~ん…』
戦闘中にも関わらず首を傾げるシュン。
これを実戦で使うのは難しい気がするな。二秒と聞くだけなら、そんなに遅くは感じられないが、実戦での二秒は致命的になりかねない。陸上の短距離の世界記録保持者なら、単純計算で20メートルは進んでいるはずなのだから。普通の銃弾でも相手の動きをある程度予測して撃たなければ中距離からだと外れてしまう可能性が有るのだ、トリガーを引いてから発射までに二十メートルもずれていたら、いくら発射されてからが早くても当たるはずが無い。
現に速度の遅い魔物にすら余裕を持って回避される。トリガーを引いてから二秒後に照準を合わせる方法も有るには有るけど…少しタイミングがずれると仲間を撃つ同士撃ちになりうる。
どうやら、かなりピーキーな武器みたいだな。後衛支援の僕には向いてなさそうだ。
〔『…戦闘中』〕
〔『主よ、考察はあとにするのじゃ。今は目の前に集中する方が良いのじゃ』〕
僕は二人に注意されて、今の状況を思い出した。
『あっ、悪い悪い』
…と言うか、そんな事を考えている内に、アクアだけで五匹の魔物は倒し終わっている。一応、連繋の練習と僕の武器のテストがメインなんだ。少しくらいは魔物を残しておいて欲しいんだけどな。
〔『…主に言う権利は無い』〕
はい、全く持ってその通りです。
『おい、シュン。今のはレーザーか、レーザーだっだよな?モブには全く当たってなかったけど、威力はどうなんだ?ってか、レーザーって何よ?』
全ての事を置き去りにしてシュンに詰め寄るアクア。
『知らん。その確認をする為のテストだったけど…使いどころが難しいようだ』
さっきの反省はどこに言ったと言いたげなシュン。しかし、言葉には出ていないだけで、態度で丸分かりだ。
だが、そんなシュンをも置き去りにして、物事は次のステップへと進んで行く。
『そうか…あっ!それなら、俺の身体で試してみるか?防御力にもそれなりに自身は有るし、俺もレーザーの威力は見てみたい』
アクアは自分の左胸を右手の親指で数回叩き、身体の強さをアピールしている。
う~ん…ダメージのテストが出来るのは嬉しいけど、あんな遅くても一応はレーザーの一種だからな…
『それで、大丈夫なのか?』
妙に不安が過ったシュンだったが、好奇心には勝てなかった。
『おう、俺はHPも防御もシュンよりかなり高いしな。攻撃力の低い銃の攻撃くらいは生身で受けても平気だろ』
相変わらず自身に満ち溢れているアクア。これがただの過信だと言う事も知らずに…
なるほど…その発送は無かった。確かにいくらレーザーと言っても、所詮は低攻撃力が代名詞の銃の一つ。攻撃力自体も知れている。僕が深く考え過ぎただけかも知れないな。
『頼む。行くぞ』
アクアが防御を固めた右腕を目掛けて僕は射撃をした。1・2…
ボトッ…
静かな草原に響く、何かしらが地面に落ちる音…
『…うっ、うぎゃ~~~~~』
『ダメダメダメダメダメダメダメダメ…』
そして、待っていたのはその静寂を切り裂く僕達二人の叫び。まさにそれは阿鼻叫喚の地獄絵図。方や呆然、方やがくがくぶるぶる。
アクア自身の受けたダメージは、その見た目に反し少ないみたいだ。だが、【アルファガン】で射撃された右腕は違う、防御を固めた盾すらを軽く退け肘から下の部分を地面へと分離させていたのだから…
受けたアクアは勿論、撃ったシュンですら、この状況は想定内…いや、想定外すらも遥かに越える恐怖体験。
あぁ…これは絶対に人に向かっては使えない。いや、使ってはいけない武器だ。絶対に、絶対に使用禁止だ。
『し、白、頼む。何とかしてくれ』
僕は装備を持ち変え、【白竜】でこれでもかと言うくらいアクアを射撃していく。一縷の望みにかけて…
『うっ…』
しかし、そこにはさらなるホラーが待ち構えていた。
地面へとお別れしたはずのアクアの腕は、僅かに減っていたアクアのHPの回復と共に有るべき場所へと戻っていったのだから。
僕の頭がどうかしたのか?それとも流石は身体回復の力って事なのか?それとも回復自体が、そう言う仕様なのか?どっちにしろ、こんなのは二度とゴメンだ。
思考が無駄に巡る頭のお陰で僕が気を失わずに済んだ事に気付いたのは、それから数分後の事だった。
白のお陰で、アクアの腕が元に戻った事は確認出来ている。だが、体験した被害者は勿論の事、一連の出来事をまじまじと見なざるを得なかった加害者も、しばらくの間一言も話す事が出来なかった。その間、白と黒は何やら話していたようだけど、残念ながら僕の記憶には残っていない。
『ふ~~~~っ』
心を落ち着かせる為と覚悟を決める為を兼ねた長い息を一つ入れて、加害者側(になるのだろうか?)のシュンが話し始める。
『アクア本当に済まなかった。それで、その…右腕は大丈夫なのか?』
当然、ステータスに異常がない事は《見破》で確認済だ。だけど、そう言う事ではない。どちらかと言えば、モラルの問題だろう。
『あぁ、流石にあれには驚いたけど…その、大丈夫だ。今は何ともない、完全に元通りだ。だから、シュンも気にするな。今のはどう考えても、あのレーザーを甘く見ていた俺が悪かったんだから。それよりも練習を続けようぜ。まぁ、あれは二度と喰らうのは御免だけどな』
笑いながら自分の見積りが甘かったと話すアクア。
その笑顔に若干救われた気がする。お詫びと言ってはなんだけど、晩御飯はアクアの好きな物を用意させて貰いたい。僕は密かに罰の切り上げを心に誓った。
まぁ、同時に更新された称号の方は僕の事を困らせる気は有っても、僕を救う気は全く無かったみたいだけど。
称号成長
〈トラウマプレゼンター〉
自分のトラウマだけでは飽きたらず他人にまでトラウマを植え付けた者への称号/成長称号☆
〔『…不憫』〕
〔『主よ、他人を巻き込むとは凄く主らしい称号なのじゃ』〕
本来なら、称号の内容にも黒と白の言い分にも凄く不本意とでも言い返したいところだけど、この称号に成長したと言う事は、同時に被害者にもトラウマを植え付けたと言う事でも有る。そう思うと、今回は絶対に文句を言え…
〔『…二重の被害者(笑)』〕
〔『く、黒よ、そ、それ以上は…や、止めるのじゃ』〕
ご丁寧な事に(笑)までを言葉にする黒と必死に笑いに耐えようとしている白。
勿論、耐えると言う点では顔に出せない僕の方が辛い。我慢、我慢。
えっ~と、黒くん、白くん、そろそろ止めて貰えるかな。
…と言うか、成長称号の最後に付いている☆って何だ?そう思った僕が《見破》で確認してみると…
『これは、あまりにも不本意だぁ~~~~』
ついに僕は何かに我慢すると言う事が出来なくなった。
確認して分かった事だけど、あの☆はあのろくでもないトラウマ称号をマスターした証らしい。しかもだ、トラウマ称号をマスターしただけでも不本意なのにも関わらず、称号の成長自体は今後もまだまだ続くと言うのだ。流石にそれは特殊過ぎる…アクアよりも誰よりも僕自身が不憫だよ。
少し休憩を挟んだ事により、僕達の気分も少しはマシになり、次の標的を見付けて狩りの続きを始めた。
僕は次々と装備を変更してテストしていく。新入り達は、どれも威力はそれなりに有るのだが、使い勝手に関しては魔銃系の圧勝だった。まぁ、本命は【ソル・ルナ】だったから他の銃の性能がイマイチでも別に問題は無いんだけどね。
『アクア、次で前衛交代だ。アクアは予定通り、離れた位置から遠距離アーツを頼む』
指示を出し、アクアと入れ代わるように前に出る。
『了解だ。シュンは紙装甲なんだ、無理するなよ』
…と、一言多いアクア。
まぁ、心配してくれているだけなのだろうけど、それについては僕が一番分かってるんだ。むしろ、自覚しか無いのだから。
素早く近くにいた一匹のリザードマンを見付け、右手に【ルナ・ソル】、左手に【黒竜】を装備して一気に魔物に駆け寄った。
アクアの放つ遠距離アーツでブーメランのような軌道を描く飛ぶ斬撃の〈飛燕斬〉と【ルナ・ソル】での射撃を牽制に使い、リザードマンの懐まで一気に近寄る。
懐に入るなり、右手でボクシングのアッパーの様な感じの縦への斬撃、追い討ちをかけるようにボディブローのような横への殴撃、そして、フィニッシュとなる超近距離からの射撃の三連撃を流れるような動作で繰り出していく。さらには左手に持つ【白竜】で僕の背後にいるアクアに魔力回復を施していく。
この場に残されたのは、戦闘を終えた僕に全快したアクアと下半身のみを残したリザードマンだったもの。
これが前衛での時間稼ぎを兼ねた近距離攻撃&遠距離回復スタイル。僕の思い描いていた剣銃モードの主だった戦い方だった。
うん、なかなか良い感じだよな。それに、あの距離ならオマケのように発動する〈零距離射撃〉が素敵だ。殴撃の後の射撃は、必然的に〈零距離射撃〉の間合いになっている。むしろ、零距離と言うよりも接射って感じの方がピッタリとくる。
『おっ、おい、シュン。あのリザード、上半身が粉微塵でぶっ飛んでたぞ。まさかとは思うが、また使ったのか?あのレーザーを…』
数分前の体験が甦ったのか、若干冷や汗気味のアクア。
『違う。あれは僕も二度と御免だ。これは新種の製作武器だ。使うのも初めてだから、まだ色々と検証中だけどな』
あれを見るのも使うのも勿論、精神的な衝撃すらも喰らうのは二度と御免だ。
まぁ、《零距離射撃》の威力は今までよりも元になる銃が高性能になる分、以前よりも高くなるからアクアが驚くのも仕方が無いかも知れない…のだが、流石にこの惨劇をいつものように仕方が無いで済ます事は出来なさそうだ。
武器としては充分に魅力的で素敵だけど、イベントでは使わない方が身の為だな。アクアやギルドメンバー等には、ある程度は見せても平気なのだけど、他の多くのプレイヤーに見せるには少し悪目立ち過ぎる気がするからな。
その後、銃剣モードの【ソル・ルナ】も想定していたシチュエーション通りに、倒れた魔物に対して剣を突き刺した状態で射撃を試してみた。
こちらも予想していた通り、必然的に〈零距離射撃〉の射程となった為、地形に多少の影響が出ると言う予想外の結果を出してしまった。まぁ、影響が出たと言っても地面が少し掘れた程度なのだけど…あれはもう、完全に使えないと言われ続けてきた銃の威力では無かった。
連携の面ではアクアの回避能力に多少以上の問題が発覚した。どちらかと言うと回避行動に慣れていないのだろう。イベントまでに回避の特訓すると言っていたけど…あまり期待は出来そうもないかな。一応盾にも出来そうな無骨な鞘を用意するように勧めておいたけど…どうなる事か。
『主よ、人の事よりも自分の事…ワシらの事が大事なのじゃ。武器はどうするのじゃ?』
確かに問題はそれなんだよな。一応(使うか使わないかは状況しだいとして)【ルナ・ソル】を持っては行こうと思っているけど、十発しか弾丸が入らないので、アイテム制限の掛かる今回のイベントでは短剣かショートソード扱いになる可能性が高い。つまり、今回のメインウエポンは【雷光風】と言う事になる。
それと念の為、【ルナ・ソル】を生かす為にも銃弾の攻撃力上昇も必要になるか…
『…主、鞄』
今後の予定を考えていた僕に対して、核心を突く黒の一言。ただし、すぐにはその意味が理解出来なかった。
『黒、鞄がどうかしたのか?』
『…身に付ける場所が無い』
『えっ…あっ~~~~、しまった』
『主よ、一体どうしたのじゃ?』
頭を抱えるシュンを覗き込むように心配?する白と黒。その表情にどこか笑みが含まれていた事に、頭を抱え込むシュンが気付く事は無かった。
『いや、黒に言われて初めて気付いたんだけどな、普段鞄を身に付ける場所って、銃のホルスターを改良した部分と重なるんだよ』
今日は多くの銃を装備しなかった為、全く気付かなかったぞ。
『主よ、今日はどうしていたのじゃ?』
『今日は、【雷光風】使わなかったからな。ホルスターが余ってたんだよ。やっぱり【ソル・ルナ】は留守番になるかな』
ホルスター作る時に気が付けば良かったんだけど、あの時は銃の抜き易さを優先してたし、鞄は置き去りだったからな。完全な僕の失敗。
『…大丈夫。鞄作る』
いやいや…簡単に言うけどさ、ホルスターだけでなく鞄も新調したばかりなんだよ。
うん?待てよ。この際だから全く違う鞄を作っても良いのか?今付けれる製作ボーナスが異常だから、あまり形状に…鞄と言う形にこだわらなくても良いかも知れない。
それに、さっきも思った事だけど、《機械製作》を組み合わせる事が出来るなら、より面白い物が出来るかも知れないな。
『あっ、ヤバイ』
また新たな創作意欲が湧いてきた。
装備
武器
【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉
【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
【白竜Lv33】攻撃力0/回復力1163〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv32】攻撃力0/回復力162〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールホルスターズ】防御力20〈特殊効果:速度上昇・大〉〈製作ボーナス:武器修復・中〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv41
《双銃士》Lv65
《魔銃》Lv64《双銃》Lv60※上限《短剣技》Lv11《拳》Lv37《速度強化》Lv90《回避強化》Lv91《魔力回復補助》Lv90《付与術》Lv59《付与銃》Lv66《見破》Lv96
サブ
《調合職人》Lv24《鍛冶職人》Lv39《上級革職人》Lv4《木工職人》Lv30《上級鞄職人》Lv5《細工職人》Lv31《錬金職人》Lv29《銃職人》Lv28《裁縫職人》Lv12《機械製作》Lv17《料理》Lv40※上限《造船》Lv15《家守護神》Lv23《合成》Lv28《楽器製作》Lv5
SP 68
newアーツ
〈乱れ撃ち・双銃〉攻撃力×ランダム /消費MP 50
銃弾の続く限り連射可能・実弾限定
習得条件/《双銃》スキルLv60
称号
〈もたざる者〉〈トラウマプレゼンター〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈自然の摂理に逆らう者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉




