★第三回公式イベント 1
まず、僕が取らなければならない行動は一つ、アクアに罰を与える前に事実の確認だ。ほぼほぼ確定しているハーフマラソンへの参加とは言え、万が一…本当に万が一の事だけど、アキラの勘違いと言う事も有る…有りえる?冤罪だけはどの時代でも防がなくてはならないのだから…
いや…むしろ、本音を言う事が出来るのなら、ここだけは勘違いで有って下さい。お願いします。本当に万が一が有りますように…
〔『主よ、残念ながら多分ないのじゃ。虎猫の姉さんの事じゃ、主とは違って入念な確認をしておるのじゃ』〕
〔『…うん。主とは違う』〕
夢を見るにガッカリするような態度の白と黒の二人。いや、若干の希望くらいは僕にも持たせてくれても良いんじゃないか?
僕はトリプルオーに存在するのかどうかも分からない神々に願いながら、広場に張り出されているハーフマラソン出場者一覧を確認した。
『…うん』
決まりだ。神はいないらしい。そして…
『蒼真を地獄に落とそう』
いないのなら、僕がなってやる。蒼真に対する疫病神にでも…貧乏神にでも…
まぁ、冗談は一端置いておくとして、万が一など微塵も無かったな。それとも、この世界には本当に神は存在しないのか?と言うか、ゲームや小説の世界には何かしらのの神の存在は付き物だろう。それが味方であっても、敵だったとしても…
〔『主よ、何回も言うのじゃが、虎猫の姉さんが主の事で間違える訳が無いのじゃ』〕
いや、アキラがどうとかではなくてだね。万が一の可能くらいは僕にも平等に有っても良いんじゃないかと…
〔『…違う。不運の神は最初からここにいる』〕
『は、ははっ…』
苦笑いしか出ない。いや、むしろここで苦笑いを出せた事を誉めて欲しい。
どうやら、黒の中で僕はすでに神(不運専属)だったらしい。全く嬉しくないけどな。
そして、同時に蒼真に対する罰の査定も終了した。白と黒の援助?の会も有ってか、今回蒼真に下されるであろう罰は過去最高となるだろう。最低でも二~三日の三食抜きは覚悟して貰おうか。確か、蒼真はゲームや漫画の買い過ぎでお小遣いも使い果たしていたはずだ。あとは僕の家の純の隠し持つカップ麺を隠せば…
今、他のプレイヤーから見た僕は凄く良い笑顔をしているだろう。しかし、心は荒れに荒れている。だけど、それはアクアに対してだけではない。半分はあの時に愚かな判断を下した僕自身に対してもだ。
何故、僕は誘われた時に種目の確認をしなかったのか…過去の自分も責めてもいる。確実に、事情を知らないであろう他のプレイヤーさん達が満面の笑顔をしているはずの僕の進む道を避けて歩いている。まるでモーゼの十戒のように…
怒気ってトリプルオーでも伝わるんだな。もし、オーラ等が見える世界なら、僕の背後には仁王像か阿修羅像、はたまた閻魔大王級が控えている事だろう。
〔『主よ、少し落ち着くのじゃ。冷静に、冷静に』〕
この状況で落ち着けるはずもないだろうに…
〔『…今は怒りよりも確認』〕
確かに、今は黒の言う通りで詳細の確認が大事だよな。勿論、無駄だとは分かっていても、最後の抵抗はしてみる予定だけど、本当にキャンセルが出来ないなら、このイベントを耐える方法を考えるしかない。別に開始と同時にリタイアしても構わないのだけど、出るからには報酬も欲しいと言うのも人間の性。
まぁ、耐えると言う考えが、すでに敗者の考え方なのかも知れないけど…
十二時間魔裸存詳細
1.レベル、スキル、武器の制限は有りません。
2.制限時間は十二時間を予定しております。
3.二人パーティー限定になります。
4.防具の持ち込みはどのような物でも不可とさせて頂きます。
※ただし、実際には複数種から選べる防御力0の防具をこちら側で用意させて致します。当日、受付よりお選び下さい。
5.アイテムの持ち込みも全て不可とさせて頂きます。
※ただし、アイテムを収納する為の鞄と武器の器となる物は持ち込み可能で、エリア内で獲得した物の使用は全て可能となっております。
6.総合得点上位八組までに報酬が出ます。
ルール
これは制限時間内にイベント限定の特設エリアで無制限に出現する魔物を狩り続け、獲得した得点を競うサバイバル競技になります。※実際のハーフマラソンとは趣旨趣向が違いますのでご注意下さい。
参加者の皆様にはイベント専用のゴーグルを装備してもらいます。そのゴーグル越しに赤く見える標的は自分のパーティーに対するプラス得点、青く見える標的はマイナス得点になります。十二時間を通して最多得点を獲得したパーティーの優勝となります。
※尚、十二時間以内に倒されたパーティーの得点も記録として有効になります。
最後に、この種目はイベント報酬とは別に特別報酬として、十二時間を生き残ったプレイヤーの皆様方は競技中に獲得した全てのアイテムを持ち帰る事が出来ます。
『これは…』
色々と酷いな。他の競技と比べても過酷過ぎる気がする。それに、詳細やルールの中に気になる箇所が多く存在している。どことなく、第一回公式イベントのすごろく大会の時に近い匂いも感じる。
生産系の職人の末端としてはイベント報酬よりも、生き残るだけで獲得した物を全て得られる特別報酬の方に魅力を感じるけど、果たしてそう簡単にいくものなのだろうか?レベルやスキルの制限が無いと言う事は、低レベル帯のプレイヤーはご遠慮下さいと言っているようなものでもある。
それに、どこかも分からない土地でサバイバルをさせるのにも関わらず、防御力0の装備で丸一日を過ごさせるのは反則だと思う。
そして、何よりも5番目の説明が一番エグい気がする。鞄以外のアイテムの持ち込み禁止は回復アイテムや食料等の補給アイテムの使用禁止。遠回しな言い方で回復手段が必要ですと言っているようなもの。どう考えても最低限コンビの片方がアイテム以外の回復手段を持っていないと競技にもならない。可能ならば、二人共が回復手段を持っているのが理想だろう。理想は補給の為に《料理》スキルも欲しいところだ。
途中退場になった場合も得点は生きるみたいだど、退場になった場合は最終的に八位以内に入賞するのは無理だと思う。一体、この競技は誰が考えたんだ?考えた奴は絶対に頭がおかしいよ。
だが、他の種目(基本的には名前と参加条件のみ)に比べても事前の情報が多過ぎないだろうか?そこが余計に気になるところでもある。
〔『主よ、それだけ不人気で危険なのじゃ。つまり、憐れなのじゃ』〕
〔『…気の毒』〕
『くっ!!』
さっきから言いたい放題だな。僕が参加すると言う事はだな、必然的に白と黒も参加するって事を分かって言っているのか?
〔『主よ、勿論分かっておるのじゃ。分かっておるから、愚痴の一つや二つ、三つや四つは簡単に溢れてしまうじゃ。それくらいは大目に見て欲しいのじゃ』〕
溜め息混じりに話す白。黒に至ってはもう話す気力もないらしい。
〔『はい、本当にすみませんでした』〕
今の僕には本気で謝る事しか出来ない。本当に不甲斐ない…
それにしても、このルール…防具を着けた状態でも紙装甲の僕には過酷過ぎる種目だ。防具を着けていても紙装甲だと言うのに、防具の特殊効果も全く無くなるとなれば、極薄紙装甲になるだろう。いくら常時回復が有ると言っても、一瞬でHPが0になる強力なダメージを受けるとなれば、竜の力は全く効果を発揮しないのだから。
非常にもったいない。
〔『…高望み』〕
〔『主よ、それは竜の力のせいでは無いのじゃ。主自身の鍛練が足りぬだけなのじゃ』〕
僕の邪な考えを察知して、すぐさま否定してくる黒と白。
そこは僕も否定しないさ。だけど、この場合は僕自身の鍛練とか基本的な問題ではないと思う…紙装甲は生まれた時からの問題なのだから。まぁ、生まれつきと言っても現実の世界での誕生ではなく、トリプルオーでのキャラメイクの話で…つまるところ、自業自得だけど。
それに、このルールは銃や弓を使うプレイヤーには絶対的に優しくはない。武器の器となる物だけを聞けば、銃弾を入れるマガジンや矢を入れる矢筒等も武器の器に相当するように見えるが、これは中に入る物を含めて普通に消耗品扱いなっている。いくら、装備出来るからと言っても、消耗品扱いになる銃弾や矢の持ち込みは不可能に近いだろう。
弓や銃を使いたければ、イベントエリアのどこかで銃弾や矢を獲得するか、イベント前に出来るだけ銃の中に詰めておけって事だと思う。うん?あれ?この場合は事前にある程度は弾の詰めておける銃はともかく、矢を番えないと攻撃出来ない弓の場合は詰んでないか?何かしらのアイテムを獲得する事が出来るのかさえ怪しい。
…となると、必要なのは打撃用の弓になるのか?いや、わざわさ弓で打撃をするくらいなら他の武器を持ち込んだ方が遥かに賢い。でも、待てよ…それはそれで面白いかも知れないな。
〔『主よ、完全に思考が脱線しておるのじゃ』〕
明後日の方向への思考の脱線に耐えきれなくなった白からの容赦ない突っ込み。的確過ぎて何も言えない。
ま、まぁ、逆に言うと銃弾も矢もイベント中に獲得するチャンスは有るって事だとも言える。その点は救いだ。まぁ、銃や弓を使う必要の無いプレイヤーなら、端から悩む必要も無い問題なのだけど。
これなら、貰える報酬だけを考えるとかなり美味しそうなのに、参加プレイヤーの絶対数が少ない事も頷ける。すごろくの時に痛い目をみたプレイヤー達が軒並み回避している可能性が高い。それに、同時刻で開催されている一勝する毎に報酬が出るPVPの方が費用対効果的にもお得感が高い。まぁ、多分PVP側が表開催でハーフマラソンが裏開催なんだと思うけど。
『えっ~と…』
今のところ参加パーティーは百十七組の三百三十四人か。これだけいれば、多少抜けても盛り上がるには十分な人数がいるんじゃないのか?自ら進んで登録していない僕だけでもキャンセルさせてくれないかな?
やっぱり、念の為にダメ元でも良いから、受付のNPCに確認だけはしてみよう。
『申し訳ございませんが、この種目のキャンセル不可は規定で決まっておりまして…この種目に登録後、故意・過失問わず出場出来なかったプレイヤー様はその時間帯のログインも停止させて頂きます』
思っていたよりも厳しい罰も待っていた。だからと言って簡単に引くくらいなら、最初から訊ねていない。
『そこを、何とか出来ませんか?』
こっちだって無理は承知なんだ。でも、絶対に負けられない戦いがここにあるんだ。
『申し訳ござませんが、一部の特例も認められません』
『あれだけ参加者いるじゃないですか、一人くらいなんとかお願い出来ませんか?』
僕にこの手の交渉能力は皆無だけど、不戦敗だけは主義に反する。
〔『…主、情けない』〕
〔『今は、情けなくても仕方が無いのさ。背に腹は変えられない事も有るんだよ』〕
『ハーフマラソンは今回のイベントのメイン競技の一つですので、少しでも多い参加者が望ましいのです。それなので、キャンセルはお請け致しかねます』
『そこを何とか、お願…
『無理、無理、無理と言ったら無理、絶対に無理。さっさとお引き取り下さい。Go Home!』
さっきまでの優しい表情から一変し、僕の言葉に喰い気味で捲し立てるように話す受付の女性。全てを一息で話し切ると、僕から顔を反らして、口を噤んだ。
…はい、諦めます。無理を行って、すみませんでした』
流石に、これ以上は完全に無駄な抵抗だろう。
さっきも述べたが、不戦敗は主義に反するからな。こうなったら、イベントを生き残る為の準備はさせて貰おうか。
『主よ、ホームに帰ってきたのは良いのじゃが、ここで何の準備をするのじゃ?』
『勿論、今回のイベントに対するちょっとした準備だ。さっき、ルールを見てきたからな。少しくらいはルールの盲点を突かせて貰おうかなと思ったんだよ』
ハーフマラソン開始までに約一週間の猶予が有るけど、バージョンアップと大運動会開始は明日となる。出来る限りは仲間や知り合いの参加種目くらいは応援したい。その為にも今出来る事を順に終わらせていかなければ、ただでさえ足りていない時間は、いくら有っても足りなくなるだろう。
『ルールの盲点?黒は何か分かるかの?』
『…多分、武器の器となる物?』
今回の答えには微妙に自信が無いのか、首を傾げながら答える黒。
黒の言う通り、僕が目を付けたのは武器の器となる物の解釈の部分だ。
黒の言葉を聞いてハッとする黒。どうやら、今ので白も気付いたみたいだな。二匹共、本当に頭が良い…いや、この場合は頭の回転が早いと言う方が正しいかな。
『主よ、な、何を製作するのじゃ』
実際に、武器の器となる物と言うのは考え方によっては範囲の幅は広がると思う。
武器の器の最も代表的な物は剣や刀等を納める鞘になると思うけど、以前カゲロウに作った【シールドバーニッシュ・盾】も【シールドバーニッシュ・剣】を収納出来る事により鞘の役目も兼ねているとも取れる。つまりは、考え方や見方によっては防御力を兼ね備えた武器の器となり得る。
その他にも取得しているスキルによっては盾自体を打撃用の武器と言い切る事も可能だろう。
…と、言う事はだ。僕の装備で言うなら【ノワールホルスター】、これも部類的には防具扱いだけど、武器の器にも当てはまるはずなのだ。
だから、一番最初に加工していくのは…
『ホルスターからだな』
今のホルスターは四丁しか収納出来ない。【白竜】【黒竜】魔双銃の【雷光風】で四丁。今まではこの四丁でも充分に使い回しは可能だと思っていたのだけど…【雷光風】が魔双銃の為、この二丁は同時使用しか対応出来ない。つまり、今の状態だと必然的に【雷光風】以外の選択肢は【白竜】と【黒竜】の同時使用しか存在しない。
この状態が意外と戦略的にバランスが悪い事に前回の戦闘で気付いたのだ。竜の力はホルスターに収納しているだけでも発動するので、【白竜】か【黒竜】の回復主体の銃と攻撃専用の銃と言う組み合わせも出来るようにしたい。なので、もう二丁くらいはストック出来るようにホルスターを新調しておきたいのだ。
場所的には、両太股の外側が他の四丁とのバランスも良さそうだな。僕が手に取り易いようにホルスターの取り付け位置を決めていく、右と左で若干位置が違うのも利き手や利き足、構えた時の足の前後や動き易さを計算してのものだ。
少しでも品質を上げる為に、素材は新しく入手した海の魔物シードラの皮を使用する。シードラはタツノオトシゴに似た魔物で、基本的には海上で出会う事の出来る魔物なのだが、夜時間限定で【ポルト】周辺の海辺でのみレア出現もするらしい。
強くは無いけど、落とす素材が高級品と言う事で低レベルのプレイヤーにも人気の魔物だけど、出会う為にそれなりの苦労するところが、玉に瑕らしい。まぁ、船で海上に出れる僕達には苦労は無縁の話しなのだけど。
当然、ベースとなる素材自体を変えるので製作ボーナスも一新される。
【ノワールホルスターズ】防御力20〈特殊効果:速度上昇・大〉〈製作ボーナス:武器修復・中〉
※六丁収納可能
『主よ、今選んだ製作ボーナスなのじゃが、主の扱う銃に必要が有るのかのう?』
核心の部分をピンポイントで突く白。
白の言う通りで、修復系の製作ボーナスは直接攻撃を受ける盾や剣の鞘等の武器の器となるものに付ける製作ボーナスだ。有る意味で相手と離れて戦う銃とは最も無縁の能力と言えるだろう。
…だが、僕の考えた通りにいけば、この製作ボーナスこそが最も重要な能力になり得る。いや、銃だけに銃要な能力と言った方が良いのか?
『…非常に残念』
顔をぷいっと反らしながら、誰にも聴こえないような小さな声で喋る黒。残念ながら、僕の耳にはバッチリ聞こえている。
寒いと言われるならまだしも、黒に残念…さらには、追い討ちをかけるかのように『形容詞』まで付けられてしまった。
僕が声に出した言葉に対して突っ込む事は構わない。そこには僕の落ち度も有るのだから。だけど、心で密かに思った事に対しても突っ込む事だけは止めて欲しいと思う。銃要は密かな自信作だっただけに、ひとしおに…
『主よ、気を取り直すのじゃ。ワシは主のその無駄なくだらなさも好きなのじゃ』
慌てて僕をフォロー?してくる白。
…いや、白よ。それはフォローしているように聞こえるけど、黒より酷いからな。
ホルスターは満足のいく代物が製作出来た。次はそのホルスターに入れる新しい銃を製作する番だ。僕が製作しようと考えている新作の武器のベースとなる銃に、どんなものが合うのかは実際に試作してみないと分からないので、現時点で製作可能な物をリストの上から順番にどんどん製作していく。
以前、主役として活躍した六属性の銃達もレベル上げを兼ねて久々に製作している。まぁ、この六丁の銃は攻撃力的に出番の可能性は低いのだけど、相手の弱点属性やスリップダメージ的には今でも需要が有るかもしれない貴重な銃だ。倉庫にさえ置いておけば、急に必要となった時に取り出せると言う僕が製作した鞄も有る。
幸いな事(なのか?)に、最初から出る予定としていた射撃競技はハーフマラソンよりも一日早く行われるので、ハーフマラソンで使う予定の新作銃達の実戦テストの場としても利用させて貰う予定だ。ちなみに、試作銃のテストはバージョンアップ後を予定している。
当然、最初はこんな予定では無かった…むしろ、射撃競技は僕のメイン種目だったはずなのだが…未来と言うものは想像もつかないし、自由にはならない。
『主よ、竜髭の在庫だけは増えてないのじゃ。在庫が無いので魔銃は作れないのじゃ』
それは仕方が無いし、想定の範囲内でも有る。
竜髭を得る事が出来たのは僕が知る限りではイベントの時だからな。増えてなくて当たり前なのだ。まぁ、また今回のイベント後に開催されるオークションに期待すると言う方法も有るには有るけど、前回複数個出品されていたので可能性としは薄い気がする。
『大丈夫だ。一応、今回は実弾銃でも問題が無いんだよ』
その言葉を聞いた白と黒の二人は、『主は何を言っているんじゃ?銃弾の持ち込みが難しいと話していたのじゃ。さっきの話はどこに行ったのじゃ』とでも言いたげな顔で僕を見てをいるが、これは出来上がった新作を見たら納得する事だろう。
多くの銃を作った事で、《銃職人》のスキルレベルも上がり、製作可能なリストもどんどん増えている。その反面、必要な素材のレア度も上がっているけど、現状で手に入らない素材はほとんど無い。どれも一度は自分の手で採掘したり獲得した物ばかりだ。
そう調子に乗った僕が、増えたリストを片っ端から製作している時だった…
『うわっ!!』
【アルファガン】攻撃力=魔力〈特殊効果:光属性/光線〉
これは想定の範囲外の代物が出来てしまった。やけに素材として宝石類の数が必要な銃だとは思ってはいたよ。でもこの結果は名前から予想が出来ない。これって、多分スペースファンタジー映画とかで良く見かける、子供達がちょっと憧れる格好良い銃だよね。まぁ、だからと言ってレーザーと【魔銃】の弾とで何が違うのかも分からないけど…こう言う銃も手に入るなら、僕の予定はかなり狂ってくるんだよな。
さて、どうしたものかな?
それに、攻撃力=魔力の意味も分からないよな。魔力って言うのMPの事なのか?それなら、他のステータスに比べてもそこそこ高い気はする。
『主よ、それは違うと思うのじゃ。多分じゃが、主の魔法攻撃力と同じと意味なのじゃ』
少し呆れる気味の白。確かに、少し考えれば分かった事かも知れない。
『あ~、なるほどな』
実際に装備してみれば、魔法攻撃力と同値が【アルファガン】の攻撃力として表示される。つまりこれは、僕の魔法攻撃力の成長で攻撃力が上がるって事に繋がるのか?
『…格好良い』
そんな僕と白のやり取りを無視して、【アルファガン】のデザインに注目する黒。
黒が絶賛したデザインは僕が好きな流線形を生かしたデザインではなく、シンプルかつシャープな直線を生かした未来的なデザイン…確かに格好良いかも知れない。
ただ、そのデザインも能力も素敵だと思うけど、この銃を今回のイベントで使うのは悪目立ちする可能性が高いよな。つまり、今回のイベントでは保留と言う事。それに、ファンタジーが一転してスペースファンタジーになるのは僕の中では大問題だ。まぁ、取り敢えず一度はテストを兼ねて試射だけはしておきたい代物では有る。
『主も充分子供なのじゃ』
ボソッと呟く白。僕も思うだけに微妙に否定しづらい。
だがな、僕の欲しっている銃はこう言う奇をてらった物ではなくて、もう少し銃身が長くて持ち易くて全体的にガッチリと安定した無骨な銃が欲しいんだよ。出来るなら、少し大き目な…
そんな事を思いながら、銃の製作を続ける。
『おっ!おぉ、これはなかなか良い感じじゃないか』
シュンの目が一際輝いた。ただし、白と黒の反応は【アルファガン】の時よりも格段に薄い。
【トライセス】攻撃力75〈特殊効果:二弾同時発射〉
形状的には銃身は長くて硬くて軽い、グリップは細身ながらもある程度の長さを保っている。今の僕には理想的な一品だ。おまけで付いた特殊効果の方は実際に使ってみないと分からないけど、これをベースにさせて貰おうか。
次は久しぶりの《鍛冶》と《細工》。これも想像通りに出来ると良いんだけどな。最近はフレイに任せっきりになっていたので、はっきり言って自信は無い。皆無と言う言葉がぴったりと当てはまる。
…なので、基本に返ってサンプルから製作しようと思う。
僕は普段から使っている基本となる合金に、さらに銀を加えて長めの短剣を作っていく。刃にあたる部分には水晶を多目に使い、なるべく透明に近くて見えにくい切れ味よりも強度の強い物が望ましいだろう。
本当に《鍜冶》は久しぶりだったので、素材の初期加工の段階で素材をいくつか無駄にしてしまったし、サンプルとして製作した水晶の短剣も少し薄過ぎたかもな。本当に、久しぶりの製作で自信は無かったのも事実だけど、こんなにも多く失敗を重ね、かなり余っているとは言え、そこそこ貴重な素材を無駄使いする気も無かったんだけどな…
『…素材』
『主よ、黒の言う通りなのじゃ。これじゃと、もう少し素材を採掘してきた方が良いのじゃ。宝石類の消費も激しいのじゃ』
まぁ、まだまだ在庫は有るのだけど、僕だけが使い過ぎる訳にもいかない。
しかし、今から採掘に行けば、時間的にも体力的にも今日はこれ以上《鍛冶》は出来そうも無い。せっかく、《鍛冶》の勘を取り戻してきて良い感じに仕上がってきたのに、少し勿体なく感じてしまう。しかも、採掘に行くとしたら一人…魔物との戦闘だけなら全く困る事はないけど、効率を考えると本当に悩ましい状態だ。
そこに現れるフレイ。
『なんや、シュンも採掘に行くんか?目的の場所どこなんや?洞窟ダンジョンなら一緒に行かへん?シュンが一緒やと採掘がお得やからな』
そのフレイから鶴の一声がもたらされた。
『行く、行くぞ。お願いします』
かなり悩んでいた僕を救う鶴の一声に飛び付いた。フレイに背中を押して貰った感じになるけど、一人以外で行けるのなら行くしかない。フレイ様、ありがとう。本当に感謝します。
『なんや、犯人はシュンやったんかいな。今日ウチが使おうと思ってた素材が昨日に比べて一気に減ってたからビックリしとったんよ。それでや、今度はどんな面白い物を作る気なんや?』
洞窟ダンジョン内の採掘ポイントを二人で掘りながら、僕が採掘に訪れなければならなかった理由を話していた。チラッと横を見ると、フレイは一掘りで大量の素材を掘り出している。一掘りで軽く岩壁が抉れるくらいには…
これも仕方が無い事だけど、フレイと僕では一回に掘れる量が違う。軽く見ても倍ほどは…何かに例えるとすれば、カップアイスを食べる時に使うスプーンを想像して頂ければ分かりやすいかも知れない。僕が普通サイズを使ってチマチマと食べているとしよう。その時フレイはカレーライスを食べる時のような大きめのサイズを使い二・三口で食べ終わると言った感じだ。それくらいの差が僕達には有る。
ちなみに言っておくが、フレイが凄すぎるだけで僕の採掘量も並みよりはかなり上だ。
『今度のバージョンアップで、使わなくなったスキルをチェンジ出来るようになるだろ。それで《短剣》スキルを新しく取得しようと思ってるんだよ』
どこから話そうかと悩み、結局始めから話す事に決めたシュン。
『おっ、なんや。今さらながら《拳》を捨てて銃と短剣の変則二刀流でもするんか?そう言えば、最近は《拳》の方は全然使ってなかったもんな。それはそれで格好ええやんか』
質問の答えとは違う回答に若干戸惑いながらも相槌を打つコミュ力の高い関西人。しかも、何故か乗り気である。
『いや、それはちょっと違うんだよな。実は…』
『主、狐の姉さん、お喋りは終わりなのじゃ。新しいお客さんのご来場なのじゃ』
質問の核心を言おうとした瞬間、白からストップが掛かる。その言葉で振り返ると、僕達の背後には岩系の魔物ご一行様が現れている。
白と黒に頼んで僕達が採掘している間を使って、周辺の岩系の魔物をかき集めて貰っていた。
『白、黒、サンキュ』
『こうやってツルハシ使ってアナログなと採掘するんも、それはそれで楽しいんやけどな。やっぱり、こっちの方が美味しいやんな。ナイスやで白やん、黒やん』
フレイには決して伝わらないが、僕と白と黒は同時に『貴女の採掘は決してコツコツではありません。はっきりと言わせて貰えるならばザクザクです』と心の中で思っていた。まぁ、各々でニュアンスは違うけどね。
『えっ~と、銀鉱石が二体と宝石が三体か、まずまずやな』
冷静に状況を把握するフレイ。
『フレイ、悪いが宝石系を多目で頼む』
僕とフレイは武器を構えて、なるべくヒット数を稼ぎながら魔物にダメージを与えていく。フレイに至っては、わざわざ攻撃する武器のランクを二つ三つ下げてまでヒット数の多いアーツを多用する念の入れようだ。
《鍛冶》や《細工》スキルを取得していれば、戦闘中でも岩石系の魔物から鉱石が採掘出来る事は以前から分かってい。だが、今はヒット数に応じて獲得出来る鉱石の数が増えたり、種類は変わらないけど素材自体のランクが上がる事も判明していた。
分かりやすく言うのならば、なるべく連続して攻撃を当て続ける事で、より良い物がより多く採掘出来ると言った感じだ。
すでにフレイは岩石系の魔物に限り、魔物の名称では呼ばずに戦闘中(または戦闘後)に回収出来る素材名で呼んでいる。残念ながら、この魔物達は素材にしか見えてないらしい。まぁ、その気持ちは僕も分からなくはないけどな。
僕はなるべく急所を外したり、魔物との距離を取ってダメージの出にくい攻撃を選んでいる。魔物が死にそうになると、わざと【白竜】を使い魔物のHPを回復すると言う行動もとっている。まぁ、これがフレイがホームで言っていた、僕と一緒に採掘に行くとお得な理由…フレイ命名ループ採掘。
実際に、このループ採掘は一ヶ所一ヶ所採掘ポイントを探して回るよりも遥かに効率が良い。普通の生産系メインのプレイヤー達は滅多にダンジョンでの狩りをしないので、気付いていないみたいだけど。ちなみに、《木工》や《調合》スキルの取得者は樹木系の魔物相手に採取をする事も可能だ。
これは非常にお得な技術なので、対象となる魔物相手の狩りで攻撃と同時に採掘や採取が出来る事だけは、生産ギルド組合の面々には会議で伝えている。ただし、ループの方は白みたいなイレギュラーな存在がいないと無理なので秘密にしているけどな。
『今日もシュンのお陰で素材がたんまりやわ。シュンは本当にその水晶だけで良かったんか?他にも宝石はごっつようさん取れてるんやで』
七福神でも乗り移ったかのような満面の笑みを見せるフレイ。
あれから五回ほどループ採掘をしたので、多くの自然素材やドロップ素材を入手している。まぁ、嬉しいのは僕も同じなんだけど。ここまで露骨な表情を見せるのはどうかと思う。言わないけど…
〔『主よ、ワシらと違って、虎猫の姉さんには言わないと伝わらないのじゃ』〕
色々と有るんだよ。
『うん。水晶だけで十分だ。僕もフレイが誘ってくれて助かったよ。ありがとな』
ループ採掘や採取の場合、僕一人だと効率が悪いからな。一度でも二人以上でのループを体験済みだと、一人で採取や採掘に行く気がな…はっきり言って無くなるのだから。
翌日バージョンアップが終って僕がログインすると、ホームのリビングでフレイが待っていた。
『おかえりや。シュン、待っとったで。これは昨日のお礼や。使ったてな』
真新しい工具を取り出し渡してくるフレイ。
『これ、どうしたんだ?全部未使用な気がするんだけど』
その真新しい工具の輝きを見れば一目瞭然だけど、以前の物とは素材から違う。
『そやで、昨日あのあとで採掘してきた素材め使ってレベル上げを兼ねて《鍛冶》用の工具を作ったんやわ。まぁ、その、なんや。この前の鞄のお礼みたいなもんやな。多分、前の使ってた物よりも、かなり使い易くなってるはずや』
フレイの言う通りで軽く手に持った感じだけでも分かるのだが、市販の物や以前の物より圧倒的に軽くて持ち易い。どの工具を手に持っても絶妙なバランスが保たれていた。
『シュン、刃の付いた武器を作るんやったら、火入れ終わったあとにもう一度焼きを入れてやると輝きや強度が増すのは知っとるやろ?その焼き入れする時にこれを一緒に使ってみ。カゲロウに《調合》して貰った特注品の釉薬や。このふざけた名前はともかく、出来上がった武器の性能が少なくとも一段階は上がるのを保証するわ。それと、もし武器にエフェクトが欲しいのなら、そっちはウチが請け負うで』
鞄のお礼を必要以上に強調するフレイ。少し赤くなった顔を見れば分かるように、どこか恥ずかしそうでもある。
カゲロウよ、アイテムの性能は一端置いておくとして、そのネーミングセンスは僕よりも酷いと思うぞ…生産者の名前を入れるのは自己アピールの一種か?
〔『…多分、品質責任?安心感?』〕
自信無さげに答える黒。確かに、スーパーでも生産者の名前や写真の入った野菜等は安心して買える気がする。そう言う事なのか?それなら、凄いぞ。
『色々とありがとな。このカゲロウ印のイオン…水?も有り難く使わせて貰うよ。フレイが付けてくれるエフェクト効果も魅力的だけど…もう少し自分で頑張ってみるかな』
カゲロウ印のイオン水を言うだけで、軽く吹き出しそうになる…このような点だけは、今後カゲロウの顔見るのが辛いかも知れない。
新しい生産系の情報…しかも、フレイがわざわざ勧めてくる技術なので、試してみる価値は有りそうだ。
『そうか、頑張りよ。そやそや、バージョンアップ情報も更新されてたから、一回は自分の目で見ときよ。そのせいで今広場が凄い事になっとるから、あとで行った方が良いかも知れへんけどな』
そう言って、フレイは工房の奥へと引っ込んで行った。
『主よ、初期加工にはオート加工機能を使ってはどうかの?』
新機能を使ってみてはどうか?と言う白からの提案。
『それでも良いんだけどな。なるべく刃の部分を透明で強度を上げたいだよな』
オート加工機能は便利で有能だと思うけど、細かい部分の設定が甘い。
まぁ、これはオート加工機能の能力が低い訳ではなく、まだ設備が上級になっていない事への弊害だと思うけどな。なので、現状は薄さ等の何かしらに拘りが有る場合は自分の技術だけで頑張るしかないのだ。
『一体、主は何を作りたいのじゃ?黒よ、分かるかの?』
『…銃剣一体化?剣銃?銃剣?』
分からぬと言った表情で悩む白を尻目に、朧気ながらも正解を導き出した黒。
流石は黒だ。何処で気付いたのかは分からないけど…いや、勘も鋭い黒の事だから、最初から気付いてたのかも知れないな。
『そう、黒の言う通りだ。【トライセス】の下側からトリガーの部分にかけて短剣の刃を付けたいんだよ』
僕は今まで秘密にしていた事をあっさりとばらしていく。
『主よ、銃に直接加工する事は出来なかったのではないかの?』
だが、白の疑問は余計に深まるばかり。
『まぁ、そうなんだけどな。そこは、ほら、何て言うか…やっぱり、アレだろ。《合成》スキルのゴリ押し?』
出来れば良いよな的な軽いノリ。
最近、ちょっと《合成》に頼り過ぎなのかも知れないけど、あれだけ色々と凄い事が可能なスキルだ。銃と短剣を合体させる事くらい出来無い事もないだろう…と密かには思っていた。
《鍛冶》の気分転換を兼ねて広場にやって来た僕は、そのプレイヤーの多さに驚かされた。
そして、広場の石畳には大運動会の開会式で使われたであろう紙吹雪等のゴミも散乱しており、それを掃除する為のクエスト?も行われていた。その中には街のクエストで見知った顔もちらほら…いた。
『本当に多いな…』
誰でも気軽に外部からでも開催されている見られるように広場に用意された巨大なモニターの回りには多くの人が集まっていた。今行われているのは今回のイベントのオープニング種目の五人一組のムカデ競走?だったか…だ。
だが、果たしてあれをムカデ競走と言っても良いのだろうか?
ちなみに、シュンは知らなかった事だが、このムカデ競争の正式名称は百足縦走。山の頂上から山の頂上への移動、それをムカデ競争で行う競技となっている。
僕の目の前に有るモニターに映し出されている映像では、確かに五人の足はムカデ競争に使われるゴムチューブ付きの板で結ばれていて、ムカデ競走の雰囲気だけは大いに出ているけど、競技をしている場所は…この競技が通常行われる場所とは場違いな大きさの岩が点在する山岳エリア(森林限界突破)。この場合はムカデ競争の板を用いた集団登山と言った方が分かり易いかも知れない。
それと、もう一つ普通のムカデ競争や登山とは大きな違いが有る。それは競技参加者が上空にいる鳥系の魔物から絶え間なく襲われている事だろう。
『この種目も大概過酷だよな…』
足が五人全員で固定されているので個人の機動力は無いに等しい、プレイヤー同士の距離も一定だから近接用の武器を振るうのも難しい気がする。この状態で武器を振れば確実に味方に当たるだろう…なので、上手く仲間と協力しないと、後々の仲間割れにまで響きそうな競技だ。
やっぱり、ハーフマラソンだけじゃなく、どの種目も過酷なのだろうか?明日、カゲロウとヒナタが出場する採取系種目の棒倒しやフレイの出場する採掘系の騎馬戦も怪しくなってくるよな。果たして、大丈夫なのだろうか…
それにしても、何処を見ても人、人、人…いくら、今日が土曜日とは言え、皆はそんなに暇人なのだろうか?
『…人の事は言えない』
黒が《心話》を使わず、周りの人には聞こえないくらいの小さな声でボソッと喋った。
はい、全く以てその通りですよ。確かに僕もその暇人の一人では有るんだよな。普段はゲームと縁の薄い僕だけど、本当にトリプルオーには完全にハマッたと思う。
『うん!?』
僕はモニターの周りとは別に長蛇の列が神殿まで続いている事に気付いた。やけに長いし、何の脈絡もない列。
『あっ、あぁ!!』
もしかして、あれがスキルチェンジ機能の列か?やっぱり、誰しもが使わなくなったスキルとか有るんだな。確認の為にも、またあとで僕も並ぶ事にしようか。流石に、今あの列に並ぶほど暇ではない。
当初の予定通り、僕は掲示板を確認する為に移動する。他の皆さんはすでに確認を終えている為か、掲示板の前は空いている。
改めて確認してみたけど、今回のバージョンアップはほぼほぼ事前の情報通りと言った感じだった。よく分からない部分が有ったのはスキルチェンジ機能の事だけど…まぁ、そこはスキルを変更する直前にNPCに確認すれば良いだろう。
再び工房に戻って、武器の製作の続きに取り掛かる。水晶を加工し短剣の片刃の部分を作っていく。昨日の失敗を糧に、今日は少しだけ刃の厚みを厚くした。さらに、銀と鋼を2:3で作った新しい合金で柄の部分も形成していく。
『…柄が特殊?』
『黒の言う通りじゃ。鍔は無いようじゃし、刃の形は変、柄の部分も普通の剣よりも細くて長いのじゃ。主よ、どう見ても失敗作なのじゃ』
同じようなところに疑問を持った黒と白。しかし、そのニュアンスは微妙に違う。どちらかと言うと、黒は疑問で白は否定。その対照的な出来事を身体でも表現するかのように、黒は冷静で白は動揺している。
『問題無い。これはこれで正解なんだよ。短剣の完成後に《機械製作》で作った部品も組み込む予定だからな。僕が、今作っているのは刃の部分が反転するギミックナイフ擬きだからな。まぁ、あとは出来てからのお楽しみだな。白、黒、今日は狩りに行かないから、雪ちゃんと遊んでても良いぞ』
そう言った僕は、白と黒を工房から追い出した。しぶしぶながらも雪ちゃんの部屋へと移動していく白と黒。
少し悪いとは思うけど、イチイチ説明していたら時間がいくらあっても足りそうも無い。今日のところは静かに一人で作業させて貰おうかな。本人達がまんざら嫌でもなさそうな点は救いである。
それに、完成したあとで驚く白と黒の顔も見たいと言う本音も有るからな。
『さてと…』
次はギア・小とバネ等を組み込んで、ワンタッチで刃が180度回転するように微調整していく。このギミック作りでも《機械製作》のスキルレベルが上がるのが色々な意味で美味しい。
【ギミックナイフ(仮)】攻撃力25〈特殊効果:可変〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
『まぁ、こんなところか』
トータル的な出来映えとしては中の上。試作とすれば文句無しの出来映え。
『さて、頼むぞ!!《合成》』
昨日作った【トライセス】と【ギミックナイフ(仮)】を《合成》する。これが出来無いと、これまでの苦労は全て水の泡だ。
【剣銃】攻撃力90/攻撃力65〈特殊効果:可変/二弾同時発射〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
※剣銃モード
『おしっ!!良かった~』
何とか形になったらしい。
しかも、銃単体では決して付く事が無かった製作ボーナスを、他の武器と《合成》して別種の武器にする事で【ギミックナイフ(仮)】の製作ボーナスを生かすと言った副次的なボーナスのオマケ付きで。
この剣銃モードは、銃のトリガーガードの部分に逆手持ちのダガーが付いた形状になっている。これで、〈零距離射撃〉のあとでも斬撃を追加出来るし、標的に近付いた時にも相手の攻撃を刃の部分で受け止めたり、場合によっては射撃やアーツでのカウンターも出来る。
『うんうん』
かなり便利になったよな。これは、どちらかと言えば超近距離タイプってところだろう。
それと、これをこうして、ここをワンタッチすれば…
【銃剣】攻撃力65/攻撃力90〈特殊効果:可変〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
※銃剣モード
ワンタッチでモードを変型すると名称と武器に表示されている攻撃力が逆になった。変型後の銃剣モードは刃が反転して銃身を半分覆い、ショートソードの様な形状になっている。まぁ、刃は全体を覆っている訳ではなく、全体の三分の二程度に収まっている。
こちらは剣銃モードとは違って、標的を突き刺したり、切ったりしたあとに射撃やアーツでの追い討ちが可能だ。急所に刺したあとで、直接〈零距離射撃〉を撃てるメリットを持つ近距離タイプってとこだな。ただ、剣銃モードで可能だった特殊効果の二弾同時発射は銃剣モードでは使用出来ならしい。まぁ、これは刃の部分が銃身の半分くらいを覆っているのが原因なんだろう。今後の改良点かも知れないな。
どちらのモードも中・遠距離からの射撃も可能(ただし、ダメージへの期待値は0の見せ掛け仕様)なので、今までのスタイルも維持出来る。相対する魔物やもう片方に持つ武器に合わせてモードを使い別ける方が良さそうだ。
その場で軽く短剣を振るう要領で【剣銃】を振ってみたが、一瞬で見るに耐えれない感じになった。多分、対応するスキルを取得してないからだろうな。まぁ、こっちの方はスキルチェンジ機能で対応するしかないだろう。
『うん。試作品としては充分だな』
今後の課題としては…刃の部分をもう少し透明にする事、短剣を作る時に最終的に必要な製作ボーナスを付けれるだけ付けて、少しでも性能の良い短剣を製作する事。ギミックをもう少しスムーズに動かす事の三点を克服すれば、本命の製作が出来るな。
取り敢えず、鞄の共有部分に【銃剣】を入れ、フレイにメールで武器の評価を頼むと送信した。僕的には良い感じだけど、新しい種類の武器を製作、または手に入れた時は第三者からも意見を貰った方が良いだろう。過去に三節棍を作った時もフレイと一緒になって形状について色々と話したのだから。
まぁ、その話は別として、今回は完成したら一度見せると約束したからでも有るのだけど。
フレイからのメールの返信が来るまでの時間を使って、僕は再び神殿を訪れた。当然、スキルチェンジ機能を利用する為だ。さっきよりは幾分かマシになった列に僕も並んでいると…
『お、俺のスキルが無い!!選んでないスキルまで無くなったぞ。おい、どうしてくれるんだ』
どうにも穏やかではない声が部屋の中から聞こえてくる。僕の位置からでは部屋の中まで確認する事は出来ない。
多分、掲示板の説明を読まなかったか、仮に読んでいたとしても説明の意味に全く疑問を持たなかった…もしくは理解出来なかったプレイヤーだよな。
…と言う事は、だ。僕が疑問に思った通りだったって事なのか?な。掲示板には…
スキルチェンジ機能で変更したスキルは、二度と取得出来ません。スキルの派生元等もよく考えてご利用下さい。
…と、わざわざ注意事項が目立つような赤文字で書かれていた。僕は派生元等もよく考えてと言う部分が妙に気になり、スキルチェンジする前に質問する予定にしていた。
多分、今のプレイヤーは取得条件が特殊なスキル…例えば、複合スキル等の取得に必要なスキルを全く違うスキルに変更してしまったのだろう。それにより、条件を満たす事が出来ずにスキル、していない特殊なスキルまでが消えたのだろう。ご愁傷様です。
受け付け時に確認してみると、やっぱり僕の思っていた通りで、複合スキルの元となるスキルをチェンジすると、それを元にして得た複合スキルまで無くなる仕様らしい。まぁ、それだけ複合スキルの評価や効果が高いと言う事でも有るから、有る意味で仕方が無いとは思うけどな。
それと、確認してみて新たに分かった事は、スキルのレベルアップによって習得したアーツや魔法もスキルチェンジ機能を利用すると無くなる事だ。これは自分で編み出した合体系のアーツも同様らしい。
まぁ、これも仕方が無い事だよな。ゲームの仕様はそんなに都合が良くは出来てないだろう。今まで多用してきた〈ウインドミスト〉を利用したアーツ系が無くなる事は僕がソロで戦う戦略面では痛いけど、類似の種族専用アーツが僕には有るので、そっちを何とか応用する事も出来るだろう。
『じゃあ、すみませんが《旋風魔法》を《短剣》に変更して貰えますか?』
色々と質問をして、納得した上で今の言葉を述べるが…
『変更元の《旋風魔法》スキルが中位スキルにあたります。レベル33まで成長していますので、《短剣》スキルの中位スキル《短短剣》スキルか《短剣技》スキルもお選び頂く事が可能ですが、如何致しましょうか?』
さらに魅力的な提案を受けて悩む僕。
『…それでは、《短剣技》スキルでお願いします』
【剣銃】はともかく、【銃剣】の場合はショートソードの長さなので《短短剣》スキルは必要無いと言うか…使えないだろう。それよりも、近距離での戦闘技術を磨きたい僕にとっては《短剣》の正統進化スキルらしい《短剣技》スキルの方が必要になるはずだ。
ちなみにだが、アキラは《短短剣》スキルに進化させている。この《短短剣》スキルは、短剣よりも比較的に刃が短い短剣を好んで使用するスキルだ。アキラの持つ《投擲》等のスキルと相性が良いらしく、アキラはβの時から愛用しているらしい。
『分かりました。それでは、こちらにサインをお願いします』
言われた通りにサインすると、サイン終了と同時に書類が宙に浮き青白く燃えて消滅した。
『ご利用有り難う御座いました。またのお越しをお待ちしております』
それと同時に深く一礼するNPC。
これで契約は終了したらしい。意外と呆気ない気もするけど、過剰な演出がないのは僕の後ろに並ぶ行列にとっては幸いかも知れない。まぁ、僕としてはもう少し凝った儀式的な何かも期待してたんだけど。
ステータスを確認してみると《旋風魔法》に関する全てが消えていて、《短剣技》スキルがレベル5の状態で取得され、新たなアーツも数個登録されている。
newアーツ
〈スルーダガー〉攻撃力×1.5 /消費MP 10
クリティカル補正+50%
習得条件/《短剣》スキルLv???
〈アイスダガー〉攻撃力×2 /消費MP 20
氷属性
習得条件/《短剣》スキルLv???
〈フレイムダガー〉攻撃力×2 /消費MP 20
火属性
習得条件/《短剣》スキルLv???
〈受け流し〉攻撃力0 /消費MP 15
短剣で受けた打撃を受け流しダメージを減らす
習得条件/《短剣》スキルLv???
神殿の中で人の居ない場所を探して、試しに
『〈ウインドミスト〉』
を唱えてみるが発動しない。
こうして、やっと《旋風魔法》を使えない事を実感した。さっきまで使えた魔法が使えない事には多少の違和感も残るけど…それよりも、新しい武器…スキルやアーツへのワクワク感の方が強いのも事実だ。
今までお世話になっていた《旋風魔法》に改めて感謝を述べて、《短剣技》にこれからヨロシクと心の中で思っている。
ふと気が付くと鞄の共有部分に入れたはずの武器が無くなっていてフレイからの返信まで来ている。内容はシンプルに…
『工房で待つ』
…の果たし状のような一言。
『えっ!!それだけ?』
僕は、このあとも武器の製作を続ける予定なので、工房で待ってくれるのは良んだけど、評価無しで呼び出しの一言だけと言うのは何か恐いよな。
まぁ、取り敢えず、急ぐとするか。
装備
武器
【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉
【白竜Lv31】攻撃力0/回復力161〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv29】攻撃力0/回復力149〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールホルスターズ】防御力20〈特殊効果:速度上昇・大〉〈製作ボーナス:武器修復・中〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv40
《双銃士》Lv62
《魔銃》Lv62《双銃》Lv58《短剣技》Lv5《拳》Lv35《速度強化》Lv88《回避強化》Lv90《魔力回復補助》Lv89《付与術》Lv57《付与銃》Lv64《見破》Lv93
サブ
《調合職人》Lv24《鍛冶職人》Lv32《上級革職人》Lv4《木工職人》Lv30《上級鞄職人》Lv5《細工職人》Lv28《錬金職人》Lv24《銃職人》Lv19《裁縫職人》Lv12《機械製作》Lv12《料理》Lv40※上限《造船》Lv15《家守護神》Lv19《合成》Lv20《楽器製作》Lv5
SP 43
称号
〈もたざる者〉〈トラウマ王〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈自然の摂理に逆らう者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉




