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OOO ~Original Objective Online~ 改訂版  作者: 1048
第一章 第四部
29/65

★ありふれた日常 1

 翌日、僕はログイン直後に試作鞄のテストの為に鉱山ダンジョン最深部…通い慣れた行き止まりを訪れていた。ちなみに、通い慣れた行き止まりと言っても、迷子常習犯ではないからな。そこだけは間違えないで欲しい。


 『は、ははっ、これは…ヤバいな』

 自分で自分を見る事は出来ないけど、若干顔が引き()っている自信はある。


 〔『主よ、全くもってその通りなのじゃ。ある意味、珍しくもないのじゃ』〕

 放っといて欲しい。


 僕達が今までして苦労のは一体全体何だったんだろうか?


 自動回収・自然素材の効果は昨日確認していた能力で間違いなかった。間違ってなかったのだけど、採掘用のピッケルで素材を掘り出した瞬間に、一瞬だけ掘っていた箇所がキラッと光り鞄に吸い込まれていく。しかも、どんな事にも全く使えないだろう小さなクズ素材(石ころ)を自動で判別して、回収しないでいてくれると言うオマケ機能付き。さらに驚いたのは、《投擲》スキルでも使えそうなある程度の大きさの石ころは低ランクの素材として認識し回収していた事だ。


 自動で回収している素材のサイズも、鞄サイズを遥かに越えるような大きさでも何も問題が無かったかのように普通に回収していた事については、かなりの違和感を感じる。まぁ、流石はファンタジー(ゲーム)と言うところか。


 容量拡張・最大の効果は使ってみた現時点でも底が知れない感じだ。すでにドロップ素材、自然素材共にそこそこの量を回収しているのだが、まだ鞄の容量は最大値(MAX)の3%にも満たしていない。一体どれくらい入るんだろう?こうなると、逆に回収後に整理する方が手間なのではと最初は疑ってしまった。


 まぁ、あえてここで結果だけを言わせて貰えば、そんな僕の些細な心配は物ともせず、自動でリストを作ったかのように綺麗に分別されていたのだけど…


 ちなみに、今使っている小型ながらも大きな効率をもたらしてくれているピッケルはフレイが製作した物だ。市販の物よりも一回で掘れる鉱石の量が多くなる製作ボーナスを重複させて付けているので、以前よりも手軽に大量の採掘が出来ている。本人は売る気はないと言っていたけど、【le noir】で売り出せば一番の人気商品になりそうな気がしているのは、ここだけの話だ。


 『本当にヤバいぞ』

 まぁ、実際のところ、その言葉や表情とは裏腹に、この鞄の能力には文句の付け所は無いし、能力面では完璧に近い作品(自画自賛)だと思っている。心の中では笑いが一向に止まらない。勿論、プレゼントとしても確実に喜ばれるはずだ。


 そうと決まれば、さっさとホームに帰ってプレゼント用鞄の製作にかかろうか。


 『うん!?コール…あっ、カゲロウか…』

 僕が採掘の終了を頭に思い浮かべたのを見計らったかのようなタイミングで洞窟ダンジョン深部に響くカゲロウからのコール音。


 『ギルマス、今は大丈夫か?』

 要件を述べず、こちらの都合を確認し、平静は装っているけど、心なしか何か焦っているような気がするな。


 『あぁ、今は大丈夫。鉱山ダンジョンにいるけど、もう少ししたらホームに戻る予定だな。何か急ぎの用か?』


 『いや、特に急ぎと言う訳では無い…はず。ホームに戻ったらで良いから工房の方に寄ってくれるか?』

 珍しく歯切れの悪いカゲロウ。いや、最近はそうでもないか?もしかすると、杖の製作で行き詰まっているかも知れないな。


 『OKOK、了解だ。すぐに戻る』

 それでコールを終えたのだけど…


 『主よ、弟くんが何か不信なのじゃ』


 『…黒も』

 まぁ、二人の言い分も一理あって、かなり動揺を隠せて無かったようにも今は思える。杖の製作の行き詰まりではない?


 あれ?本当にホームに戻っても僕は大丈夫なのだろうか?少し不安になってきた。


 そう思いながらも作業する手は採掘の切り上げにかかっている。だが、ダンジョンから出ようとしたとたんに…僕の行く手を阻むかのようにメールが届いた。


 まぁ、当然そんな事はなく、こちらは単純にマリアからの返信だった。内容は新作銃の製作依頼の件で、両方共が欲しいらしい。製作するのは簡単なので問題は無いけど、二丁分のお金は支払えるのだろうか?


 まぁ、今はそんな事よりもカゲロウの件だ。了解とだけメールを返して、ホームへと急ぐ。





 僕がゲートから転送してホームに戻った時には、ゲートの前で同じ場所ををぐるぐると回りながらカゲロウが待っていた。もしかして、コールをくれて(あれ)からずっとここで待っていたのか?


 『ただいま。カゲロウ、そんなに慌ててどうしたんだ?』


 『ギルマス、俺の事は後回しで良いんだ。俺は(お・れ・は)急いでない…それよりも、奥にギルマス宛のお客()だ』

 ところどころが妙に強調されるカゲロウの言葉。気にはなるけど、今は…


 『僕に客?誰?』

 わざわざ呼び出す程の客?一体誰なんだ?…と言うか、コールでは済まないような案件なのか?


 『会えば分かる。さっさと行け!お客様を待たせるな』

 さっきから、やけにお客()を強調してるよな。流石に無視(スルー)できなくなってきたぞ。


 カゲロウが僕を無理矢理ホームのリビングへと押しやるが、カゲロウ自身は中に付いて来ない。取り敢えず、客に紅茶(お茶)は出しているみたいなので良しとするか。





 『お待たせしました。僕が【noir】のギルドマスターをしております。シュンです』

 全く見覚えのない相手に対して、当たり障りのない挨拶をするシュン。今日はポーカーフェイスが機能しているらしい。


 えっ~と、あの~、カゲロウさん…この人?会ってみても、全く見覚えが無いんですけど。はっきり言って、誰だ?こいつ?状態…と言うか、この人はどう見てもNPCだよな。


 僕自身は他のプレイヤーに比べて、食材や茶葉(素材)の仕入れ等の関係で、街の中にいるNPCに知り合いは多い方だとは思うけど、それでもこの人については全く見覚えが無い。


 それに、見るからに立派な格好で、街にいるようなNPC(商人)には見えない。〈大富豪(称号)〉繋がりで、どこかの富豪さんか?それとも貴族?なのだろうか。そもそも、貴族はトリプルオー内にもいたのか?今のところ一回も見た事は無いんだけど。


 『いえいえ、こちらが貴方様の御都合も考えずに勝手に伺わせて頂いたのです。多少、お待ちするぐらいは覚悟の上でございますよ。申し遅れました。私はこの国で大臣をしておりますカイロと申します』

 優しい面持ちで丁寧に軽くとんでもない事をぶっ込んできた自称大臣のカイロさん。


 『はい!?…えっ~と、ちょっと待って下さい。と言う事はですよ、貴方が【シュバルツランド】の国の大臣さんと言う事で、よろしいのですか?』

 カゲロウよ、こう言う大事な事は前もって話すべきだと思う。お陰で僕は若干のパニックだ…今話した会話も支離滅裂の自信が有る。そもそも、大臣がお供を連れず単身でやってくるとは何事なの?


 『はい。その通りでございます』

 その僕に対しても一切動揺する事なく肯定を示すカイロさん。出来た大人(AI)…いや、この場合は出来てない()なのか?


 『えっ~と、それで、その大臣さんが一体どういったご用件で、こんな零細ギルドのギルドマスターをお尋ねに?』

 はっきり言うと、その理由が分からない。


 『では早速本題に入らせて頂きますが、こちらの用件を…僅か一年半程で【シュバルツランド】の発展に貢献し、財産面でも国で一番…いえ、世界を含めましても有数の〈大富豪〉に成長され、先日に至りましては我が国を数年来悩ませていた大問題海の怪物(クラーゴン)の討伐なされました。すでに、この国に無くてはならない存在に成りつつあるギルド【noir】の〈大商人〉兼ギルドマスターのシュン様ならびにギルドの皆様に、我が王シュバルツ三世が是非とも会いたいと申しておりましす。よろしければ、【シュバルツランド城】へお越し頂きたく存じまして、こちらに参った所存にございます』

 本人を目の前にして、褒め称えるカイロさん。聞かされる側の取りようによっては、言葉の拷問にも思える。実際に僕はそう感じた。まぁ、他に誰もいないのが唯一の救いか。


 そもそも、一年半ってどう言う事だ?僕がギルドを作ってまだ六ヶ月も経っていないし、トリプルオーの運営期間もβ版を含めても一年程度のはすだ。


 〔『…多分、時間の流れが違う』〕


 〔『うん?時間の流れ?』〕

 そう言えば、トリプルオーの世界は現実と時間の経過が違っていたか。えっ~と、確か現実の一日がトリプルオーでは三日だったか。なるほど、それなら僕達がギルドを立ち上げて一年半くらいは経過しているかも知れない。


 〔『黒、サンキュ』〕


 そうなると、問題は【シュバルツランド】の象徴でもある白い城への招待。


 僕達に会いたいが為だけに大臣クラスの人間をこんな街外れまでおつかいさせると言う事は、かなりの確率で厄介事も含まれるのだろう。今後の展開を考えると、はっきり言って関わる(会う)事自体が面倒臭さい。


 …と言うか、僕はいつの間にそんな大それた存在になったのだろう?大臣さんが述べた事は全て身に覚えが有る事だけど、全てが偶然…つまり運が良かったとか、巡り合わせが良かったとか、たまたま起きた事なのだ。それに僕一人の力では絶対になし得ない事ばかり。逆に、その辺りを王様とやらに小一時間ほど問い詰めるのも面白いかも知れないな。


 まぁ、それらは一旦置いておくとして、僕はあの城に入る方法が存在した事に驚いたよ。あの城エリアは街エリアから隔離されている為、通常は入れない仕様になっていたので、プレイヤー間では作り込まれた背景扱いだったのは有名な話だ。|どうにかして《バグやチートを駆使して》中に入ろうと挑戦したプレイヤー達(ギルド)もいたらしいけど、完全な時間の無駄に終わっている事も含めて、今や語り継がれる伝説。そのプレイヤー達の事を考えると居心地が悪い。


 …となれば、答えは必然的に…


 『申し訳ありませんが、【noir】のギルドマスターは僕一人だけでは有りません。僕達の功績の一つに上がっているクラーゴンの討伐に関しても複数のギルドの多大な協力が有ったお陰です。それに、今は少し忙しくしておりますので、今回は御遠慮させて頂きます』

 出来る事なら、厄介な面倒は全力で回避したいのだから、面倒事が起きる前にその芽を潰しておくのが一番だろう。


 〔『主よ、その意見には賛成なのじゃ』〕


 〔『…面倒嫌い』〕


 『そちらにも御都合が有るのは重々に承知しておりますが、こちらとしても色々とやむを得ない事情が御座いますので…』

 初めてその鉄壁の表情を崩すカイロさん。


 『…本当に申し訳ございませんが、そのやむを得ない事情と言うのも内容が分かりませんし、こちらの予定よりも優先させる理由もありませんので、今回は…』

 正直に言うと、大臣さんのやむを得ない理由とかは、そちらの都合であって、僕には全く関係が無い事情だと思うし、ケイトの誕生日パーティーの準備よりも優先させる理由としても格段と劣る。


 『そこを何とか考え直して頂けませんでしょうか?実は…』

 僕に内緒話をするような感じで耳打ちしてくるカイロさん。まるで、時代劇でよく見た悪い商人と悪代官の裏取引のように…


 『…ここでは迂闊に言う事も(はばか)れる御依頼がございまして…』

 ほら見たことか、やっぱり厄介事だ…と言うか、もしかして、これは断る事が出来ない系の…


 〔『…強制イベント?』〕

 僕の言葉をサラッと奪う黒。


 …なのだろうか?


 ここでカイロさんから依頼の内容を聞けず、【シュバルツランド】の王様が僕達に直接会って依頼したいと言うのが一番の問題だよな。また、変なイベントやクエストで無ければ、まだ許せるんだけど…


 『…仕方が有りませんね。このままでは話しが進みませんし、分かりました。ただ、この件につきましては僕だけでは判断出来ませんので、お返事させて頂く為にしばらくお時間を頂いても宜しいですか?勿論、了承した訳ではなく、良い返事が出来るかどうかは他のメンバーとの相談の結果によりますけど…』


 『重々(かさねがさね)申し訳ございません。今は、それで充分です。誠にありがとうございます。そうですね…では、三週間後にまた来させて頂きます』

 そう言い残してカイロさんは、お城へと帰って行った。


 当然、ギルドのゲートを使う事は出来ないので玄関からになっている。リビングにまで入れた来客が、玄関から帰るのは今の【noir】ではかなり珍しい光景に見える。最近では来る時は玄関から訪れても、帰りはゲートを利用して一瞬で移動と言うのが【noir】では当たり前になっていた。まぁ、中には訪れる時からゲートを使う不届き者もいるのだが…


 ちなみに、【noir】のホームのゲートは都市や街の主要箇所には大概繋がっていて便利になっている。勿論、転送していける場所は個人のプレイ履歴によって変わって来るが、ホーム内から使う場合の使用制限はそこそこ緩く設定しているので使い易くもなっている。普通にギルドのホームに設置してあるゲートの初期設定では出来ない事も可能にしてある。例えば、【noir】のメンバーではない【ワールド】のガイアがジュネの【ウィザード】にも転送可能と言う訳だ。


 まぁ、行った事が無い場所には絶対に行けない仕様だけど。そもそも行った事の無い場所には基本的に転移で訪れなければいけない程の急な用は無い。


 それにしても、カイロさんの言う三週間後は現実時間で一週間後になるんだよな。微妙、こちらの都合を見透かされている気がする。さっきも言ったけど、皆の意見は聞く必要が有るのは勿論、一週間後ならケイトの誕生会も終わっているので、時間的には余裕も有るのは確かだ。


 ほとんど全てのプレイヤーが始めてトリプルオーにログインした時に、【シュバルツランド】の象徴とも言える、あの綺麗で真っ白なお城に目を奪われたものだ。一度は入ってみたいと言うのも事実だろう。さっきも言った事だけど、城への侵入(それ)だけを目指したギルドが存在したほどには…


 た・だ・し、それも僕達に降り掛かる厄介事が無ければの話だ。


 『主よ、ワシも黒も手伝っても良いのじゃ。仮にも一国の王ならファミリアの有益な情報を持っておるかも知れないのじゃ。報酬は情報を持って代えさせて貰うじゃ』

 何故か、テンションを上げている白と黒。


 さっきとは、打って変わって白や黒は賛成のようだけど、果たしてそう上手くいくのだろうか…





 『ギルマス、終わったのか?』

 カイロさん(来客)が帰ったのを見計らい、リビングに顔を出してくるカゲロウ。それと同時に、白と黒は雪ちゃんの部屋へ向とかって行った。


 『あぁ、今帰ったところだ。カゲロウ、出来れば来客の正体をコールの時に教えて欲しかったし、来客があったなら急ぐ旨を伝えて欲しい。正体を聞いた時には僕も軽く取り乱してしまったんだぞ』

 追求とまではいかないが、それに通ずる態度を見せるシュン。


 『そうなのか?珍しい事も有るんだな。だが、残念だけど、それは無理だ。ギルマスは大きな誤解をしている。あの客が来たのは俺のコールのあとで、ついさっき…ギルマスが戻ってくる直前なんだ』

 カゲロウは僕が取り乱したと言うフレーズに一瞬だけ驚きながらも、それを完全に否定した。


 いやいや、僕もね、普段は皆を驚かせる立場が多いのかも知れないけど、皆を驚かせる前には僕も充分に驚いているんだよ。僕が驚く時に周りに人がいないだけで…


 『どう言う事なんだ?』

 来客があったから、僕をコールで呼びだしたんじゃなかったのか?


 『ギルマスをコールで呼んだのは、これの件だ』

 若干、青白い顔をして焦りながら、ケイトの誕生日プレゼントの為に製作していた杖を見せてくれる。ただし…


 『はっ!?一体どうしたんだ?これ』

 カゲロウが一生懸命製作していた(プレゼント)は、すでに原型を留めていない…と言うよりも、完膚なきまでに壊れている。杖としての原型を留めないほどに…


 製作していた杖(だった物の欠片)自体には、丁寧な作業の痕跡も見受けられるので、何回も繰り返し試作を重ねていたのだろう。なので、作業自体(そのもの)を失敗したとかでは無さそうだな。長い時間を掛けて、デザインから試作品までコツコツと作業していたのだから、尚更それはないだろう。


 『ギルマスの見たままだ。完成後にやった強度のテストで…粉々だ』

 ほら見ろ、どうだ…とでも言わんばかりに、両手を広げてアピールするカゲロウ。その態度とは裏腹に、その表情は全く冴えない。


 『おい、粉々って、強度のテスト?一体何をしたんだ?』

 杖のテスト…いくら強度のテストと言っても真っ二つになると言うのは全く想像出来ないんだけど…どちらかと言うと、この杖は動きの激しいロックバンドがライブの演出の一つ一つとしてギターを壁にぶち当てて壊したような壊れ方している。


 『ケイトは、長目の杖を棒や槍みたいにして使うだろ?だから、この杖も一応強度のチェックをしてたんだよ。それでな…』


 カゲロウが言うには、御巨神木はかなりのしなりが有るし、魔法攻撃力への補助も有るので普通に素材として使うには、かなり優秀。だが、その反面で衝撃を受ける強度の面では、かなりの脆弱。今日出来上がったばかりの杖を北にある森の中で樹木系最弱魔物相手にしたテストでは完膚無きまでに負けたようだ。


 つまり、結果だけで考察するなら、弓や杖等の非打撃系の武器には向いているけど、直接攻撃系の武器には向いていないと言う事か。


 魔術専用の杖として使うのであれば、魔力を溜めておく事も出来るので、使い道が有るかも知れないけど…いや、無いだろうな。いくら、魔術専用の杖でも緊急時には防御に使う場合が有るはずだからな。一撃も耐えれないのは問題外だな。


 いや…待てよ、完全に後衛に徹したり、直接攻撃を受けない位置取りをすれば、使い道は有るのか?今後の課題だな。


 『強度か…カゲロウ、すまない。僕が何の調査(テスト)もせずに新素材を渡したからだな。謝るしか出来ないけど、本当にすまない。一応、まだストックは有るんだけど…』


 『いや、ギルマスは全然悪くないから。それに、御神巨木のお陰で随分とスキルレベルも上がったんだ、問題は無い。だけど、これ以上、その素材を使って杖を作るのは遠慮しておくよ。多分だが、御神巨木には別に相応しい使い方が有ると思うんだ』

 確かに、船のマストに使っている分には問題が出てないよな。むしろ、絶妙なしなりが有って、風を上手く受け流すのには最適な素材だとも言える。


 船専用の素材と言う訳でも無いだろから、他にも何かしらの利用方法は有りそうだよな。例えば、中世ヨーロッパに有ったような固定砲台(バリスタ)とか…まぁ、だからと言って必要無いの物は作らないのだけど。


 『それよりも、今の俺の問題はケイトの誕生日に何をプレゼントしたら良いかなんだ。誕生日まであまり日にちも残ってないから、焦るんだ。それで、質問が有るんだけど、ギルマスは何をプレゼントするんだ?良ければ、教えてくれ』

 その言葉と同時に、一つ深く頭を下げるカゲロウ。


 なるほど。プレゼント用として製作していた杖が壊れた事よりも、プレゼントが白紙になった方がピンチで若干青白い顔をしていたのか。つまりは、最初から(フリダシ)に戻った訳だ。


 『隠す事でもないからな。僕は新作の鞄だな。一応、試作品がこれだ』

 僕はカゲロウに先程まで洞窟ダンジョンで使っていた試作品の鞄を手渡した。


 『なぁ…ギルマス、これに勝てる凄いプレゼントって有るのか?勝てなくても、ケイトが驚くような…』

 凄く飽きれ気味の顔で訪ねてくるカゲロウ。


 いや、僕もプレゼントの内容に悩んだ末、鞄と言う僕の原点(アイデンティティー)に回帰したんだけど。


 これより、凄いプレゼントか驚くプレゼントか…他に何か有ったかな?ひとまず、防具類はシリーズボーナスが有るものを新調したばかりだから外すとして、今から作るなら武器になるのか。ケイトの武器…


 …そう言えば、武器は前にヒナタと一緒に製作した物を今も使ってたよな。夏のイベントで手に入れた【七星杖】を使っているところは見た事は無い。あれもユニーク武器で性能は凄かったんだけど、使い勝手が悪いのか?もし、そうだとするなら…


 『う~ん、これは不確定な話になるのだけど、夏のイベントでヒナタが僕と一緒に手に入れた【七星杖】と言う武器が有るんだ。これは属性を七つまで後付け出来る代物なんだよ。これは、手に入れた時にケイトと色々試してみたんだけど、あの時はケイトのメインにしていた風属性しか付けれなかったんだ。本当に、もしかしたらだけど、今なら他の属性が付けれるかも知れないから、その辺りで協力…』


 『………』

 何も言わないカゲロウ。


 あまりお気に召さない感じだな。えっ~と、他に思い付くのは…


 『それ以外だと、装備では無くて日本的なプレゼントとかどうだ?以前、裏庭の露天風呂周りに作った枯山水(かれさんすい)鹿威し(ししおどし)を、かなり気に入ってたからな…土地はまだまだ有るから、そこにケイトが喜ぶような日本庭園とか作ってみるとかが候補になるのかな』


 『………』

 まだ何も言わないカゲロウ。


 これもダメか?


 『あとは…そうだな。せっかく船も出来たんだから、釣竿とかはどうかな。狩り以外の遊びにも誘いやすいと思うぞ』

 …と言うか、こう言う事に全く耐性の(慣れて)ない僕に聞かれても困る。はっきり言って、参考になるアドバイスが出来ている気がしないのだから。まぁ、ギルドの後輩に頼まれたので、簡単に投げ出す気も無いのだけど。


 『なぁ、ギルマス。今のアドバイスには少しどころか、多大にギルマスの趣味が入ってような気もするが日本庭園は良いかもな。それに、釣竿って言うのもプレゼントとしては新鮮かもな…念の為に【七星杖】方も、もう少し詳しく教えてくれないか?』

 ようやく口を開いたカゲロウが、僕のアドバイスにまとめた返事をした。


 確かに、日本庭園は僕の趣味が大いに入っている…と言うか、僕に聞く限り、それは避けて通れない道だと思う。それよりも、僕のアドバイスに少しでも興味を持っていたのなら、無言じゃなくて相槌くらいは打って欲しいな。じゃないと、アドバイスをする度に焦っていた僕が悲しいじゃないか。


 さらに、僕が【七星杖】の性能を伝えると、カゲロウは誰かにコールして狩り?採取?に出掛けて行った。あと五日しかないからな。頑張れよ。カゲロウが何をプレゼントするか、僕も楽しみにしてるからな。





 さて、僕の方は…溜まっている予定の中でも手っ取り早く終わらせられるであろうマリアの依頼から済ませようか。僕もカゲロウに負けていられない。


 《銃製作》用の工房(【noir】で唯一の僕専用)でメニューから【インビジブル】と【俊転】を選択して製作を終える。マリアにはメールで完成した事と店舗で、現金と引き換えで受け取れる事を伝えた。こうする事でマリアと直接会わなくても済むので、かなり気持ちは楽になった気がする。


 次は、いよいよ本命…ケイトの誕生日プレゼント用の鞄と、そのついでに僕用の鞄の製作する番だ。


 『うん!?』

 いつのまにか、《鞄職人》と《革職人》のレベルが上限になっていた。えっ~と、次に選べるのは《上級鞄職人》と《上級革職人》か…


 『おっ!!』

 《銃製作》の方も、さっきの製作を経てレベル40になり、《銃職人》に進化出来るようになっている。


 ここは全く迷う事なく、三つのスキルを進化させた。貯めていたSPをごっそりと40Pも持っていかれた訳になるけど、最近はスキルを進化や派生する事が無かったので、かろうじてその蓄えが有ったのは幸いだろう。


 だが、そろそろ身体強化系スキルや《見破》等もレベルが上限に達しそうだからな。SPの貯蓄を怠る訳にはいかない。あまり知られていない《見破》は、僕のメインスキルの一つと言っても過言でないくらいの活躍を見せている。他は置いといても(最低限)、《見破》だけでも進化?もしくは派生を優先しなければならない。


 でもまぁ、今は鞄を作る事が先決なんだけど。スキルも進化しているので、新しい製作ボーナスが付けれるかも知れないな。そこが余計に楽しみでもある。


 そして、それの存在に気付いたのはケイトのプレゼント用の鞄を製作する前の肩慣らしとして、自分用の鞄を製作して製作ボーナスを選ぼうとした時だった。


 『げっ!?』


 『…主、これは流石に狡い』


 『主よ、その製作ボーナスは凄いのじゃ』

 いつのまに現れた白と黒からの突っ込み。いや、本当にいつ現れたの?まぁ、今さら突っ込まないけどさ…雪ちゃん一人残して来て寂しい思いさせてないよね?


 『やっぱり?多分、そう言う事になるんだよな。でもな、これが想像通りの能力だとすると、鞄自体の容量拡張の製作ボーナスって必要無くなる気がしないか?』

 実際に試してみないと、真実は分からないので僕用の鞄で試してみるんですけど…本当に僕達の想像通りなら、その価値は計り知れない気がする。まぁ、取り敢えずは製作してみようか。


 Let´s Try(レッツ・トライ)だ!



【ノワールバッグゼロ】

〈特殊効果:透明化/共有化/自動回収・ドロップ素材/防水〉〈製作ボーナス:倉庫直通(・・・・)/自動回収・自然素材〉

ボディバッグタイプ



 …で、完成した鞄がこれだ。


 新しい鞄に付ける事の出来た製作ボーナスの倉庫直通(・・・・)は、その名前が意味を示す通り、手持ちの鞄と指定した倉庫を繋げる機能が有った。


 進化した《上級鞄職人》恐るべしだな。


 テストを兼ねて適当なアイテムを出し入れしてみたけど、当たり前のように倉庫に眠っていたアイテムも取り出す事が出来た。逆に鞄の中へ適当に入れたアイテムは綺麗に整頓された状態で倉庫に収納されている。


 『あれ!?…これって、もしかして…』

 ここで僕に、ちょっとした疑問が浮ぶ。


 『主よ、その顔を見るとワシはそこはかとなく嫌な予感がするのじゃ』

 妙に鋭い白。その思いは多分正解だろう。


 『なぁ、白。鞄から入って倉庫から出て、ここに戻って来る事って出来る?』

 生きている物を鞄に入れる事は出来なので、僕達プレイヤーには絶対に出来ないだろうけど、生きているように見えて、あくまでも武器(相手側)扱いで鞄に入れる事も出来る魔獣器の【白竜】や【黒竜】なら可能なのでは?と言う一つの疑問。


 『思った通りなのじゃ…了解じゃ』

 僕の心を読んで考えを理解した白は、すぐに銃に姿を変えて鞄に収納される。しばらく待つと工房の入口から竜の姿で戻って来る白が見えた。


 『主よ、大変じゃ。凄いのじゃ。これはワープなのじゃ。ゲートみたいな感覚じゃ。これで、ワシと黒はどこにいたとしても気軽にホームに戻れるようになったのじゃ』

 嬉しそうに、楽しそうに話す白。それに対して若干だけど嫉妬する僕。


 それも仕方が無いよね。これで、僕(の鞄)の側にいる限り、白達はゲート要らずになったと言う事。本当に羨ましい限りだ。


 若干の嫉妬を見せる反面、僕は事前に白や黒と予想していた通りの機能で満足もしていた…のだけど…


 『主よ、少し待つのじゃ。この特殊効果の共有化(・・・)とは何じゃ?』

 何かに気付き、倉庫直通の製作ボーナスよりも驚く白。


 白に言われて、新しい製作ボーナスばかりに気を取られ、完全に特殊効果の確認を忘れていた事に気が付いた。確かに、共有化と言う効果も聞いた事が無い。まぁ、PCを使ってるから現実では、よく耳にするんだけど…いや、流石にそんなとんでも機能は付いてないだろ…


 『うわぁ~~~!!』

 すいませんでした。そのとんでも機能が付いてました。


 《見破》でも確認出来たので、この能力に間違いは無いらしい。共有化の特殊効果を持つ二つ以上の(・・・・・)鞄同士を選択して共有する事が出来る機能らしい。簡単に言うとPCと原理は同じだよな。まぁ、同じギルドに所属しているとか同じパーティーを組んでいる等、使える条件は色々と限定的みたいだけどな。その制限を持っても有り余る性能。


 これは、倉庫に常備する用の鞄(類似品)でも作って試すしかない。



【ノワールバッグゼロ2】

〈特殊効果:共有化/自動回収・ドロップ素材/防水〉〈製作ボーナス:倉庫直通/自動回収・自然素材〉

ショルダーバッグタイプ



 若干の形状と素材の違いか?僕用の鞄には付けれた透明化の特殊効果は付いていなかったが、他は同じ機能で製作出来ていたので、早速二つの鞄を共有化させてみる。すると、鞄の中にはさっきまで存在しなかった共有エリアが表示されている。


 うん、どうやら成功したらしい。


 ちなみに、この共有化の機能を実際に確認して分かったのは、鞄の中にもう一つ別の鞄が存在するような感じ。これが有れば、どんなに離れていてもアイテムの受け渡しが直接出来ると言う事。


 例えば、足りない回復アイテムを安全な位置にいる後衛から、危険な位置の前衛に近付かなくても渡せる事も強みだ。戦闘中等でも鞄を通じて仲間でアイテムを受け渡せるようになるのは非常に便利だし有用だと思う。


 それだけに、この能力が如何にヤバい物なのかと言う事も僕は察してしまった。


 しかも、同じ効果を持つ鞄を倉庫に置いていけば、共有機能を使って魔獣器である白と黒は自分達の意思で、ホームから僕達の場所まで瞬時に来れると言う事にも繋がる。


 よし、これは便利に使わせて貰おうか。えっ!?ヤバいから使わないんじゃないのかって?何を言っているのでしょうか?使える物は全て使うに決まっているでしょうが…まぁ、今思ったのは軽い冗談だけど、緊急の場合には色々と頼りにしたいのは事実だ。


 『主よ、これを誕生日プレゼントにすると、主の一人勝ちになってしまうのじゃ』


 『…だから、狡い』

 白が何を以て僕の一人勝ちを確信しているのかは分からないけど、白の言いたい事の雰囲気(ニュアンス)は分かる。


 始めに黒が『狡い』と言った本当の意味が、やっと分かったよ。他の皆のプレゼントを駆逐する可能性が有る物を贈るのは誕生日的にも、僕の今後てきにもよろしくないだろう。


 『まぁ、そうなるか。この鞄は別日に何かしらの理由を付けてプレゼントするか』

 多分、皆同時に渡す方が軋轢を生まない。それに、少し先の話になるけど、クリスマスもやって来る。


 でも、そうなると今度は皆の誕生日プレゼントに困るんだよな。


 カゲロウにもアドバイスしたので自分用のネタは全くの(ゼロ)。はっきり言って完全に手詰まりだ。


 『主よ、装備品にこだわるからプレゼントに困るのじゃ』

 プレゼントの核心を突くような白の一声。


 『えっ!?』

 そう言われるとそうかも知れない。実際にカゲロウのアドバイスには装備品以外のゲームとしてはオプション(完全に趣味)的な日本庭園や釣竿を薦めたりもしている。


 でも、装備品以外となると…専用の家具や特別な料理、各個人の趣味に関係する物あたりか?家具類なら、専用の木製の椅子(ウッドチェア)とか、リビングの広さと高さを生かしたハンモックとかも有りか?


 いや、ダメだ。今のは全部プレゼントと言うよりも【noir】のリビングの環境改善の域を出ていない気がする。つまりは普段の僕と少しも変わらないと言う事。


 そうなると、料理の方も…いくら特別な料理を作ると言っても、最初から作る予定になっているのでプレゼント的にはダメだろう。それでも、もし作るとしするならケイトの郷土料理とかは喜ばれるかも知れない可能性は有る。


 ケイトの趣味は詳しく知らないけど、ボランティアと音楽は好きなのは知っている。音楽が好きならメジャーな楽器類か和風な楽器(三味線や琴)でも喜んでくれるかも知れないな。


 ちなみに、楽器の製作については《鍛冶》《木工》《錬金》《革製作》の複合スキルで《楽器製作》スキルが取得出来る状態になっている。


 《楽器製作》は取得に手間が掛かる複合スキルの中でも、かなり手間と時間の掛かる部類のスキルだと言うのに、完全な趣味スキル扱いになっている。僕自身も取得に必要なSPが25Pもいる(多い)と言う事も有って、取得を悩む事すらしていなかった珍しいスキルだ。


 《楽器製作》が完全な趣味スキル扱いされていた理由は、楽器に関するジョブやスキルが今現在全く存在していないからだ。後衛で(うた)う《詩人(バード)》や《銃士》並みに不人気な、これまた後衛で唄う《歌手(シンガー)》と言うジョブも有るが、楽器に頼らず自らの声で《応援歌》や《補助歌》を唄うジョブになっている。勿論、歌の補助的な意味合い(サポート)と雰囲気づくりとして楽器を使う事も可能だ。


 ちなみに、《歌手》は一人だとソロ、二人だとデュオと言う具合にパーティー内にいる《歌手》のプレイヤー数によってアーツの威力が変わると言う変わったジョブでもある。よって、パーティーメンバー六人全員が《歌手》の場合の威力は凄い。βの時に検証組が集まって《補助歌》を試した時は、全員の攻撃力が五倍になって全ての攻撃がクリティカルになったらしい。まぁ、《歌手》の元々の攻撃力は低いので同時に悲しくもなったらしいけど…偶然その場に居合わせていたらしいアクアが、過去を思い出すような悲しそうな目で教えてくれた。


 少しSPが勿体無い気もするし、SPの貯蓄がかなり心配になるのだけど、この際だから取得してみるか。ギルドメンバーの誕生日プレゼントの為だ。それくらいの奮発はしても良いだろう。それに、楽器が有れば色々な事が楽しくなるかも知れないしな。ゲームの攻略とは全く関係の無いイベント等の打ち上げ等が主になるけどな。


 …と言う事で、《楽器製作》取得っと。


 なるほど…困った。いきなり手詰まりだ。


 取得してみて分かった事だけど、これは《鍛冶》や《木工》等と同じで全て自作しなければならないスキルらしい。まぁ、当然と言えば当然の話になるけど…自分勝手な想像で《銃製作》みたいにメニューから製作出来ると思っていたのは、どうやら考えが甘かったみたいだ。


 …と言うか、一から製作して今からでも誕生日に間に合うのか?とも思う。


 それと、これはスキルを取得した恩恵の一つだと思うけど、楽器の作り方が深く考えなくても分かるのは利点だ。まぁ、作り方が分かっても出来上がった楽器から綺麗な音が出るとは限らないのだけど。


 『…弦楽器、オススメ』


 『黒は、弦楽器が良いのか?』

 作り方が分かるとパイプの細かい調整が複雑な金管楽器よりは、作り易いのかも知れない。アコースティックギターなら多少は弾いた事(心得)も有るので調律くらいは出来るし、それこそ見た目だけで良いのなら、今すぐにも製作・完成出来るだろう。それに、弦楽器なら最低でも何かしらの音は出る物は出来そうだ。仮に失敗したとしても、笑いのネタにはしやすいだろう。





 『うわっ!!人でいっぱいだな…』

 久しぶりに訪れた《木工》の工房はプレイヤーで溢れていた。僕達はホーム内に工房が有る為、最近では今日みたいに工房機能の追加をする時にしか、お世話になる事が無い。それなので、生産系を頑張っているプレイヤーがこんなに増えて来ている事は知らなかったな。


 いつものNPCのおじさんに話して《楽器製作》の工房を追加して貰う。オプションでオート乾燥機能やオート加工機能とかも付けれるんだな。まぁ、結局のところ、悩むまでもなくオプション類は金に物を言わせて全部追加するのだけど。特にオート加工機能は便利そうだ。


 オート加工機能はパーツ毎に、こちらが意図した形に成型してくれる機能らしい。これは、地味に有り難い機能だ。


 よく確認してみると《木工》や《造船》等の他のスキル用にもオート加工機能が追加されている。バージョンアップした時か(本命)?それともスキルレベルの成長の恩恵か(対抗)?はたまた《楽器製作》スキルを取得したからか(大穴)…まぁ、理由はどれでも良いんだけどな。この際なので、それらも追加しておく。


 〔『…他の工房』〕


 〔『そうだよな。他も回ってみた方が良いかも知れないな』〕

 黒の言う通りだと思う。これからは、定期的に街の工房を見て回る方が良いかも知れない。特にスキルを進化させたり新たに取得した時には。





 工房を巡るついでに、神殿にも寄り道をしてホームの工房スペースを拡張している、《楽器製作》の工房等を追加した事でスペースが狭くなりつつあったからだ。まだ他に比べると十分に広いのかも知れないが、中級工房に拡張した時に増えた設備の一つ一つが大きい物だったので圧迫感が有ったからな。圧迫感は出来るだけ少ない方がストレス的にも良いだろう。それに、ギルドメンバーのいくつかの生産スキルは上級になってきている、そろそろ上級工房の拡張クエストも受注できるはずだから、広い方が何かと便利だろう。


 『シュン様、お待ち下さい。少しお時間よろしいでしょうか?』

 神殿で申請を終えてホームに戻ろうとした時に神殿の受付さんに呼び止められた。あれ?何かしたっけ?


 『はい。どうかしました?』


 『ホームの申請がお済みでない物件が御座いますので、ご申請お願い致します』


 未登録物件?何か忘れてたかな?えっ~と、ホーム…OK、二つの店舗…OK、造船所…OK、オークション会場…OK。うん、全て登録済みだ。


 『ホームも造船所も二つの店舗、オークション開場も申請済みだと思いますけど…』


 『はい、そちらの五つは確かに申請が受理されております。未申請は【noir】様が所持されている船の事です』

 分厚い辞書のような資料を開き、僕に見せてくる受付さん。


 『えっ!?』

 …それは知らなかったな。船自体(そのもの)が一つのホームとして登録出来るのか。そうなると、船をホームにした海賊みたいなギルドが出来るかも知れないな。それはそれで見てみたい気もする。


 『船もホームになるんですね。全く知りませんでした。では、すぐに申請をさせてもらいます』


 船をホームに申請した事で、ホームとしての機能も使えるようになった。つまり、ゲート機能を船に付ける事が出来る。これは、かなり便利になる。


 例えば、船で遠出しても適当な場所で停泊してログアウトして、次のログインで続きの航海を楽しめると言う事だからな。一回一回街やホームまで戻らなくて済む事が、僕にはかなり素敵で魅力的に感じた。


 益々、船の使い勝手が良くなったと思う。これは、しばらく皆に内緒にしておくか…多分、バレた時は驚くだろう。ちょっと楽しくなってきたぞ。


 〔『…主、悪い顔してる』〕

 黒、残念ながら、それは自覚している。サプライズと言うのは往々にしてやってくるのだよ(僕以外)。





 ホームの工房は拡張した事により、さらに広くなっていた。《楽器製作》の工房を増やしても、まだ充分にスペースが余つている。ついでと言う事で行った建物自体の高さの拡張で、天井に対する圧迫感も以前より減っていた。このちょっとした開放感のお陰で、皆の作業の進行も早くなるかも知れないな。まぁ、フレイ辺りは工房全体が横に広くなった事は気付いても、縦の高さについては全く気付かない気もするけど…


 『シュン、工房の拡張したのはシュン(自分)か?あれはアカンで、事前に連絡の一つでもくれな。ウチだけが中におったから、かなりビックリしたわ…』

 身振り手振りで工房が横と縦に広がった事をアピールするフレイ。


 『それは謝る。ごめん』

 たまたま中にいたフレイは横だけでなく、縦の変化にも気付いたらしい。さっきは失礼な想像をして本当にすみません。敢えて言う必要もないので、心の中でのみ謝罪させて頂こう。


 その時の状況はこうだ。フレイが《刀鍛冶》をしていると、急に見慣れない工房が地面から生えてきて、その姿を見て呆気に取られていると、工房が縦にも横にも高さにも大きくなりビックリしたらしい。ほんの一瞬だけ、天変地異を疑ったらしいけど、工房の拡張だと気付き、犯人が(シュン)だと分かったらしい。


 確かに、今言った事を工房の中で体験すると混沌(カオス)かも知れないけど、犯人扱いは少し酷いと思う。


 『ごめんで済むかいな』

 言葉では怒っているように見えるフレイ…うん、これは言葉だけでなく本気で怒っているな。では、設備機能の拡張()天変地異()の飴を与えてみよう。


 『本当に悪かったって、本気で反省してるし、次からは気をつけます。その代わり、お詫びと言うか…各工房に新機能を追加しておいたから試してみてよ』


 『なんや、その新機能って?』

 少しだけ態度が緩和されるフレイ。


 『ほぼ全ての工房に共通して素材のオート加工機能、あとは各工房で違う機能が追加して有るぞ』

 ほぼ全てと言うのは《銃製作》は元々オート加工みたいなものなので、オプション機能が全く無かったからだ。この面でも不遇と言えるのかも知れない。


 『ほほう、それはまた面白いもんを見付けてきたんやな。あとで試させて貰うわ』

 完全に飴に陥落した様子のフレイ。気に入って貰えたら嬉しいんだけどな。


 さてと、僕も生産しますか。まずはギターに使用する木材を選ばないとな。武器に使う予定にしていたけど、武器には不向きだった御神巨木を使ってみようか。まぁ、御神巨木が楽器に相応しいかは全く分からないけど、素材のレア度は高いので最悪でもスキルの練習用にはなるだろう。


 木材をギターのボディーの形に合わせて二枚切り出し、その内一枚には丸く穴を空ける。サイドの部分に使用する木材は、切り出した形に合わせてオート加工機能で寸分(すんぶん)(たが)わず曲げていく。実際に作るなら、こんな単純でかんたんにに曲がらないんだろうけど…流石は、ファンタジーの世界だな、自由自在(簡単)に曲がっていく。多分、細長い木材を仕様した場合、蝶々結びも可能だろう。


 オプションで付けたオート加工機能の恩恵が凄過ぎる。価格は他の機能よりも高く感じたけど、充分に見返りを得た気分だ。オート加工機能を使っている間に自分で加工したネックと切り出したパーツを接着して、オート乾燥機能を使って乾燥させる。


 『あとは、ブリッジとペグと弦だな』

 これは他のスキルも使えば…


 『主よ、弦は分かるのじゃが、ブリッジとペグと言うのは何なんのじゃ?』

 黙って作業を見ていた白からの一言。


 『えっ~と、ブリッジは弦のボディー側の端にある駒の部分の事で、ペグは弦を固定し音程調整をするための部分、簡単に言うと先端に付いている弦を巻く糸巻きの事だよ』


 『…物知り』

 白や黒が言うと絶対に買いかぶりだ。僕よりも圧倒的に黒や白の方が物知りなのだから。


 『それは、学校の選択授業(音楽)で使ったから、多少はな…少しなら弾く事も出来るぞ』

 白や黒と喋りながらも、手を止めず楽器を組み立てていく。多少、力を入れる作業の時に言葉に力が入るのはご愛嬌。最後に弦を六本張れば…


 『取り敢えず完成しただけど…ははっ、それにしても酷い音だな』

 完成したギターを鳴らしてみたが、いくら音を調律しても張りの無い変な音しか出ない。僕自身が本物の音を知っているだけに、それだけでもかなり笑えてくる。


 少し離れた場所から、フレイが吹き出した笑い声まで聞こえてきた。変な音が出るのは僕の演奏力の問題では無いんだけど…まぁ、こればかりは数を作ってレベルを上げるしか方法が無いのだろう。今までの生産経験から、そこだけは分かっている。何事も練習有るのみだ。


 あのあと、十数本作って少しレベルが上がったお陰か、作る毎に製作スピードも性能も比例していくように良くなった。なにしろ、まともな音が出ているのだから。この調子なら、あと数本も作ればギターとしての最低限の面子は保てるかな。


 ケイトの誕生日プレゼントにも目処が立って良かったと思う。

装備

武器

【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉

【白竜Lv24】攻撃力0/回復力144〈特殊効果:身体回復/光属性〉

【黒竜Lv21】攻撃力0/回復力141〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉

防具

【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40

〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉

アクセサリー

【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉

【ノワールホルスター】防御力10〈特殊効果:速度上昇・小〉〈製作ボーナス:リロード短縮・中〉

【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉



天狐族Lv36

《双銃士》Lv57

《魔銃》Lv57《双銃》Lv52《拳》Lv35《速度強化》Lv83《回避強化》Lv85《旋風魔法》Lv33《魔力回復補助》Lv84《付与術》Lv51《付与銃》Lv60《見破》Lv80


サブ

《調合職人》Lv24《鍛冶職人》Lv27《上級革職人》Lv2《木工職人》Lv30《上級鞄職人》Lv3《細工職人》Lv24《錬金職人》Lv24《銃職人》Lv1《裁縫職人》Lv8《機械製作》Lv1《料理》Lv36《造船》Lv15《家守護神》Lv14《合成》Lv18《楽器製作》Lv5


SP 16


称号

〈もたざる者〉〈トラウマ王〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈自然の摂理に逆らう者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈なりたて飼い主〉

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