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OOO ~Original Objective Online~ 改訂版  作者: 1048
第一章 第三部
28/65

★情報開示?

 クラーゴンとのレイドバトルを終えて【noir】のホームに戻って来ていた僕ら一行。僕の両脇は絶対に逃がすものかと言った感じのフレイ(風神)アキラ(雷神)にガッチリと抱え(抑え)られ、宇宙人に連れ去られた人のような感じで。


 名ばかりだったとは言え、レイドリーダーに選ばれた僕としては【蒼の洞窟(造船所)】か少し優雅に船上での祝勝会的な打ち上げ(パーティ)をする予定だったのだけど、今日初めて会った(初対面の)メンバーの何人かに予定が有った為、幸か不幸か分からないが(僕的には絶対的不幸)、打ち上げ兼親睦会は後日と言う事になっていしまった。


 つまり、今【noir】のリビングに集まって僕を裁判で判決を待つ被告人のように取り囲んでいるのは、裁判員…もとい僕とそれなりに親しい以上のメンバーとなっていた。


 僕は紅茶を一口飲み、軽く口を湿らせて話をする態勢を整える。特に喉が渇いている訳では無いけど、何事にも雰囲気は大事だろう。この場の空気を変える意味でも…


 『さて、僕は何から話せば良いのかな?勿論、僕にも話せない事は有るから、全部と言う訳にはいかないけど、話せる事は話すよ』

 話し合いと言う名の公開処刑の始まりだ。はたして、この中に何人僕の弁護人(味方)はいるのだろうか?せめて優秀な弁護士が一人は欲しいところだけど…


 〔『主よ、最初に断っておくのじゃが、船について(ヒナタ嬢から)は庇う気は無いのじゃ。それ以外なら、ワシらは主の味方なのじゃ。それに、ワシも他のファミリア達の情報は欲しいのじゃ。その辺も上手く交渉してくれると助かるのじゃ』〕

 あぁ、前に言っていた件か…うん、これは使えるかも知れないな。


 〔『…黒も』〕

 対ヒナタ(一部)を除いて、基本的には味方だと前言する白と黒。今の僕にとっては頼もしい限りだ。


 〔『ありがとう』〕


 『その、なんだ。俺達もこれがマナー違反だと言う事は重々に理解してるんだが…それでも、実際にあれを見てしまったからには、俺…俺達は聞かずにはいられないぞ』

 まぁ、昔からそう言う性格だよな。はっきりとその事を言えるだけ、信頼出来る。


 『まぁ、別に気にするな。この際、ここにいるメンバーには、ある程度になるが話しても良いと思ってもいるんだ』

 その言葉で若干不安げだったアクアの顔に僅かばかしの緩みが見えた。それは、まだ早いよ。


 『…だが、情報は交換にして欲しい。僕達にもメリットがないと、どうにも…』

 やる気が出ないし、この雰囲気に耐えられる気もしない。


 再び引き締まるリビングの緊張感。


 『はい。それは当然ですよね。いつも、こちら側ばかりが重要(レア)情報(秘密)を頂く訳には、いきませんからね…分かりました。【ワールド】はそれで構いません』


 『私達も、大丈夫』

 ガイアに続き、ジュネも仲間に確認して代表で答える。


 『悪い。俺達には出せるようなレアな情報が無いんだが…』

 アクアの【双魔燈(ギルド)】は戦闘や冒険(楽しむ事を)重視したギルドだ。僕や白達が欲しい、これから話すファミリア情報等は持っていないだろう。


 『…う~ん、そうだな…ドロップ素材やスキル、【noir(僕達)】が未踏達エリアの情報とかでも構わないぞ』

 これはこれで、生産系の職人としての僕には必要な情報だ。常に攻略の最前線を経験しようとせず、強い魔物と縁の薄い僕達にとって、必然的に魔物からのドロップ素材の情報は価値が高くなる。


 『分かった。それなら助かる』


 『じゃあ、改めて知りたい事は?』


 『それでは、【noir】を代表して私から良いですか?』

 まずはヒナタが口火を切った。僕がヒナタの方に向き直り軽く頷くと、質問を続ける。


 それにしても、身内からも質問責めにあうギルドマスター()の存在って、一体何なんだろうか。


 〔『主よ、主に取ってはいつも通りなのじゃ』〕


 〔『…今さら、気付くの遅過ぎる』〕

 言いたい放題の白と黒。


 『何故、普通の帆船の範疇でしかないはずの私達が製作したライトニングが飛行機のように空を飛べたのですか?』

 …と言うか、ヒナタ相手だと、絶対にその質問になるよな。まぁ、一番覚悟はしてたよ。


 『これは、ヒナタにも隠していて悪いとは思ったんだけど、今回のレイドバトルは戦闘可能エリアが船上に制限されていたからな。いくら、ヒナタやカゲロウが壊れたら船を修理すると言っても、皆で協力して造った船を簡単に壊されたくなかったんだよ。だから、出来るかどうかも半信半疑だったけど、万が一の為に準備時間の間に【アーツの書・浮遊】を《合成》させて貰ったんだ。事後報告になって、本当にすまない』

 逃げる事はせず、素直に一度頭を下げる。


 『………』

 う~ん、皆のリアクションが薄いけど、話を聞いているのか?まぁ、僕は話を続けるしか無いんだけどな。


 『話を続けるぞ。まぁ、結果は体験して貰った通りで、レイドバトル前に少しだけテストもしたけど、魔力消費が予想よりも多過ぎて長時間の飛行は無理だったんだ。だから、今回はいざと言う時まで使わないし、誰にも頼らせないように切り札にさせて貰ったんだよ。ヒナタ、隠していて本当にすまなかった』

 僕はもう一度…今度はより深く頭を下げた。


 ここでは白達からの援護は全く期待出来ない。だから、僕に出来るのは言い訳をせず、理由だけを話し誠心誠意謝る事だけだ。これは謝って公表すると決めた時に決めていた事でもある。


 ちなみに、竜の力を使える僕はMPの消費を考えずに長時間でも飛行出来るんだけど…それは、僕達三人だけの内緒の話。


 『そうだったんですね…シュンさん、色々と気を使わせたみたいですみません。それと、本当にありがとうございました。怒っていないので頭を上げてください。私は理由が知りたかっただけなんですよ。せっかく、皆で素材集めから作った船なんですからね。それよりも、【アーツの書】も《合成》出来たんですね、知りませんでしたよ』


 『えっ!?そうなのか?裏庭に有る露天風呂にも【アーツの書・結界】を《合成》して有るんだぞ。あれ、これは言ってなかったか?あっ、そうそう、その〈結界〉のアーツには覗き防止効果も有るみたいだから、これからも安心して楽しんでくれて良いぞ』

 【アーツの書】の《合成》の件は言ってなかったっけ?


 ヒナタの隣にいるカゲロウだけは皆と同じように驚いていないので、カゲロウと入浴した時にしか話していないのかも知れない。この件については、以前みたいにカゲロウもフォローしてくれない…と言うか、今回は庇う気自体が全く無いらしい。まぁ、自業自得なんだけど。


 『ちょ、ちょっと待て。さりげなく、色々な話が進んでいるんだが…その《合成》スキルは俺達が未発見のスキルの一つだと思うが、裏庭の露天風呂って何だ?トリプルオーにそんな施設や機能は無かったはずだよな』

 慌てて話に割り込んで来るアクア。


 露天風呂(これ)については、ドームを除いた他のギルドの男性陣も同意している。う~ん、何故だろうか?


 『いや、露天風呂の完成秘話については、最初から話始めると長くなるから省略するけど、少し前に裏庭で渦中の《合成》スキルを利用して作ったんだ。ちなみに、《合成》は生産系の複合スキルの一つだ』

 最初から話すと、ただの自己満足の為に使った金額の事で全員に引かれる事は間違い無いのだから、言わない。


 〔『主よ、露天風呂の件はワシも進んでフォロー(弁護)するのじゃ。あれの良さは一度でも入れば分かるのじゃ』〕


 〔『…黒にも任せる』〕

 私利私欲にまみれた優秀な弁護士二人の味方宣言。


 あの一件以来、白と黒は露天風呂が気に入ったようで、暇を見付けては雪ちゃん達も交えて入浴していた。僕が生産活動をしている時にゆったりと入浴してるのが特に羨ましいんだよな。それにしても…


 『アクアは露天風呂の事を知らなかったのか?』

 僕は女性陣の方を軽く一瞥して、再びアクアの方に向き直る。


 露天風呂の完成以降、女の子達は何回かお風呂で女子会をしている…アキラが誘って【双魔燈】のレナや【ワールド】のガイアを筆頭にした女性陣も参加していたはずだ。それに、露天風呂の製作者かつ露天風呂を誰よりも懇願していた僕よりも、レナ達の方が入浴している回数は多いのではないのかとも密かに思っている。


 その証拠に、驚くアクア達の横ではレナやガイア達は『お風呂気持ち良かったよね』等と思い出したように話している。アクアやレジーア達男性陣が蚊帳の外になっているところを見ると…どうやら、女の子達に教えて貰えなかったらしい。まぁ、一人だけ動揺の少ないところを見ると、ドームだけは推定レナ経由で知っていたみたいだけど。


 それと、露天風呂の製作には、それなりに元手として時間と金が掛かっていて、簡単に作れない事も補足しておこうか。


 『おい、アクア、そんな事でいちいち拗ねるな。それで、次は誰だ?』

 僕は拗ねるアクアを無視して次に進める事にした。いちいち構ってはいられない。


 『では、私が皆さんを代表して…その二匹のドラゴン(魔物)は何者ですか?《召喚》か《調教》のスキルの一種でしょうか?私の知る限りでは、以前のレイドバトル以外で、ドラゴン系の魔物は見付かっていないはずですよ。どこで見付けたのでしょうか?話せる範囲で教えて下さい』

 ガイアが、僕の両肩に乗っている白と黒を交互に指差す。


 『え~っと、この情報はだな…多分と言うか、絶対に希少価値が高いと思うけど、同じように特殊(レア)な情報は有るのか?』

 僕の発言で一瞬でリビング全体が静かになる。少し可哀想な言い方だったかも知れない。


 『まぁ、僕も意地悪がしたい訳でも無いから、今後の情報に期待と言う意味で、前借りで情報を提供しても良いんだけど…』

 まぁ、この辺りが落としどころだろう。確認するまでもなく、白と黒に等しい(他のファミリア)情報を持ってはいないだろう。


 だとすれば、ここで適当な情報を貰うよりも、今後優先的にファミリアや魔獣器の情報を集めて貰う方が効率が良いかも知れないな。それに、先に情報(エサ)を与えて置けば、情報を集めようと必要以上に必死になってくれるだろう。


 『…なぁ、白、黒』

 僕が二人を呼ぶと肩から手のひらに飛び降りて、僕の手のひらの上で銃の姿に変化する。


 『右手がHPの回復に使っていたのが【白竜】の白で、左手がMPの回復に使っていたのが【黒竜】の黒だ。僕が生産系の複合スキル《銃製作》で製作した生きている武器で、これは魔獣器と呼ばれていて、一種のファミリアになるそうなんだ。ちなみに、僕達と普通に会話する事も出来るし、各自が成長してスキルも使える。あっ、こう言う魔獣器は、他の武器にも有るみたいだぞ』

 少し口早に流れるような(有無を言わさない)速さで簡単に説明したのだが、一度開いた口は簡単には塞がらないらしい。


 う~ん、これでは今の話の半分も聞き取れているかは分からないぞ。どんな結果になっても、僕は同じ説明を二度もする気は無いし、嫌だからな。


 依然としてポカンと口を開いてボーッとしている【noir】に所蔵物していない皆。その間に白と黒は竜の姿に戻っていた。今は、翼をはためかせて僕の上で浮いている。


 『それで、ガイア達は、この情報と等価値の情報は有るのか?って、お~い、皆聞いてるのか?』


 『あっ!?いや、はい。聞いてます、聞いてますよ。本当にすみません。あまりにも予想外の出来事を、シュンが躊躇せずにすらすらと話すものですから、つい…』

 まぁ、知られたら知られたで、白と黒が僕達の前以外でも生活しやすくなると思えば、【noir】にとって悪い話では無いからな。特に、白と黒にとっては…


 『流石に、これに釣り合う情報なんて誰も持ってないですよ…あっ、そうだ!!これなんか、どうですか?これはファミリアかどうかは分からないんですけど…この前、魔物に騎乗しているプレイヤーを見掛けました。それと、これは知っていると思いますが、複数のスキルを取得する事で生まれる新しいスキルを複合スキルと言うみたいです』

 ガイアが正気に戻るのは、まだまだ時間がかかるらしい。僕は今の取り調べ中に何度も複合スキルの名前を出している。どうやら、それすらも耳に残ってはいないようだ。


 ガイアが取得した複合スキルは《槍》と《斧》と《剣》スキルで発生した《斬撃》。《斬撃》は取得する為に必要な三種の武器スキル系統の武器、どれを持っていても使用可能なアーツを覚える非常に汎用性の高い攻撃系のスキルだった。これには似た系統の装備をしているカゲロウやアクア達が興味津々と言った感じでガイアの話を聞いていた。


 それにしても、攻撃系の複合スキルの情報は初めてか。


 …となるとだ。もしかすると銃系にも戦闘系複合スキルが有るのかも知れないな。まぁ、今さらその為だけに他の銃系スキル、《狙撃銃》と《機関銃》を取得する気は無いけどな。


 『複合スキル情報か…さっきも話したけど、僕も生産系の複合スキルは何個か取得している。まぁ、全く使ってないスキルも有るけどな』


 〔『それよりも、今の話で出てきた中だと、騎乗出来る魔物の件は気になるよな。白、どうだ?』〕


 〔『実際に、会ってみないと分からないのじゃが、少ないながらも可能性は有るのじゃ。場所を訪ねてみて欲しいのじゃ』〕

 可能としては低いのか…


 〔『了解だ』〕


 『ガイア、ありがとう。魔物に騎乗していたプレイヤーを見掛けた場所は教えて貰えるのか?』


 『それは大丈夫だよ。あれは、確か【ヴェール】付近の森の中だったよね?』

 ガイアの変わりにリツが答えてくれる。


 そのリツの言葉にガイアとレジーアが頷く。落ち着いたら、少し本腰を入れて探して見るのも良いかも知れないな。仮に、ファミリアじゃなかったとしても、移動が便利になる可能性は有るからな。これは惜しむべき努力だろう。


 『あの~…すみません。白ちゃんや黒ちゃんを私も欲しいのですが、素材を用意したら作ってくれますか?』

 意表を突くマナカの質問に、興味深い眼差しをした他の皆も同様に僕を見つめてくる。


 にわかにだが、確実に部屋の中の熱気が高まってきている。


 『残念だが、答えはNOだ。素材なら在庫は有る…まぁ、元々素材自体もレアな素材が多く必要になるから集めるのは現時点では難しいと思うけど、出来ない理由が他に有るんだよ。出来ない理由としては【白竜()】と【黒竜()】の製作後に製作可能リストから名前が消えていて、もう二度と同じものが作れないからだ。あぁ、説明していなかったけど、《銃製作》は他の生産系スキルとは違って、製作物をリストから選択する形でしか製作する事が出来ない珍しい生産系スキルなんだよ。それに、【白竜】と【黒竜】は一応ユニーク武器らしいから、その辺の影響もあるのかも知れないな』

 ユニーク武器と聞いて、にわかに盛り上がっていた熱気が一気に冷める。可哀想だとも思うけど、僕にも出来ない事は出来ない(無い袖は振れない)


 『それは、了解。カゲロウが、あの時使ったのは、魔法?』

 誰よりも理解と納得の早かった我が姉が、話を変える。


 まぁ、誰よりも早く理解したのは、理解が早いのではなくて、他に知りたかった内容可能としては有るから。つまり、ジュネとしては一番知りたかった内容が〈魔反(これ)〉なだけと言う事〉。


 確かに、あの威力は切り札の一つとして準備し、戦略の計算に入れていた僕ですら驚いたのだ、魔法を扱う者としては是が非でも知っておきたいのだろう。これは誰もが理解しやすい感情。そのお陰で、製作出来ないファミリア事件の衝撃と印象は薄くなっていた。


 『あれはだな…う~ん、ここはフレイ頼めるか?』

 こう言う時は製作者に頼むのが一番だ。実際に、これはフレイの手柄なのだから。それに、僕も実際に見たのは始めてなんだ。僕にも分からない事はたくさん有る。だから、分かる人に任せるのが正解(ベスト)。うん、間違い無い。


 〔『主よ、言い訳が過ぎるのじゃ』〕

 何度も言うけど、出来ない事は絶対に出来ない。


 『ウチがか?まぁ、えぇで。あれはやな、普段皆が使ってるアーツや魔法とは違って、防具のボーナスの一種やねん。武器系…分かり易いところやと、同じ系統の盾と剣にセットボーナスが発生するんは有名やから知っとるやろ。防具には似たようなもんが有って、それをシリーズボーナスって言うんよ。これの存在は、たまたまシュンが見つけたんや。勿論、たまたま見付かるくらいには発生条件がシビアで、その存在を知らない職人が狙って発現させるのは難しいと思うけどな。それでや、それを踏まえて説明するとや、カゲロウが使ったのは〈魔反〉って言うて、戦闘中に一度だけやねんけど、相手の魔法を二倍で跳ね返す代物(特殊なアーツ)やねん。一応言っとくけど、多大な研究と言う名の不良品(犠牲)(普通に防具としては使えるがボーナスの付かない倉庫のお荷物(在庫))を払って【noir】の全メンバーの装備には、シリーズボーナスを付けとる。言うなれば、あれはウチとシュンの製作品(魂の逸品)で愛の共同作業や。言うても、こないな特殊なアーツが付いてるんはカゲロウの分だけやねんけど』

 息つく暇もなく一気に話しきるフレイ。その眼差しは話しきるまでは質問を一切受付ませんとでも言っているかのようにも見える。


 『それは…つまり、【noir】に依頼すれば、俺達にも作ってくれると言う事か?』

 誰よりも真剣な顔でフレイに質問してくるアクア。


 『そこは、内容とお金次第やな…何べんも言うけど、シリーズボーナスの発現はセットボーナスと違って本当に難しいんや。全ての防具を見直しするところから必要になんねん。まぁでも、一度でも発現すれば他の防具との併用は可能なんやで。全部使い方次第やと思うけど。これは言葉で喋っても実際に使ってみんと分からんやろし』

 上手く直接的な言い回しを回避して話ながらも、皆に見えるように指でお金を表現しているフレイ。


 流石は天下の台所出身の関西人、十七歳にして商売が上手い。まぁ、実際のところはフレイの言う通りで、一から全ての防具を製作する必要が有るので、お金が掛かるのも間違いでは無いし、必然的に普通よりも経費や素材…はたまた作業時間は多くなる。


 『それとや、このシリーズボーナスの件はシュンが話した話を含めて、ここにいる全員の秘密にして欲してくれへん?今、改めて皆に説明してて思ったんやけど、ウチはこれ以上依頼や妙な噂が増えるのは堪忍して。勿論、物を作るちゅう行程自体(そのもの)は楽しいし、製作出来るちゅう事もウチは嬉いんやけど、その過程が複数同時に重なると色々疲れるんやわ』

 最後に皆に聴こえるか聴こえないかの微妙(小さな)声で、現状でも(唯でさえ)刀の依頼が多くて狩りや採掘に行けてないと愚痴を溢しているフレイ。その言葉は隣にいた僕にはしっかりと聴こえていた。


 ある意味で天国とも言えるフレイにとっての生産活動で、多忙な日々を過ごしているのだから、多少の愚痴を溢すくらいは仕方が無いとは思う…けど、衛生面では救えない。


 今の質問を最後に続く質問は出てこない。今日の出来事に対しても、それなりには納得出来た風の顔を見せている観客者(ギャラリー)一同。これで、しばらくは平穏が続いてくれたら良いんだけど…まぁ、そろそろこの会も締めさせて貰おうか。


 『他に聞きたい事は有るか?無かったら…』

 僕としても大体は話したはずだ。これ以上は…


 このタイミングで、今まで黙っていたアキラがスッと手を挙げる。えっ…と、アキラさん?表情が怖いんですけど…


 『ど、どうした?アキラ』

 その動揺を隠しきれないシュンこと、駿…十七歳。この重圧に耐えられるほど、人生経験は多くない。


 『…シュンは、他にも何か私達に隠してない?かな』


 『隠し事?』

 空飛ぶ船、ファミリア、シリーズボーナス〈魔反〉は話した…あの時、起こった出来事は全て話したはずだ。それに、おまけで僕が取得している複合スキルについてもある程度は話した。他にも有ったか?


 〔『白と黒は何か心当たり有る?』〕


 〔『ワシには無いのじゃ』〕


 〔『…黒も同じ』〕

 …だよな。


 『いや?特に無いと思うんだけど…』


 『…《探索》系のスキル持っている人の中には私以外にも気付いた人もいるかも知れないけど…あっ、えっ~と、それには多分シュンの《見破》も含まれていると思うんだけどね。今日のレイドバトル中、シュンの存在が二重と言うか…二つが一つに重なってるって言えば良いのかな。何かあやふやになってたんだよね。驚いて、直接確認してみたら左目だけが真っ赤になってるようにも見えたんだ。戦闘後に確認した時は黒目だったから、そこは私の見間違いかも知れないんで自信はないんだけど…』

 戦闘中に赤目になる事については心当たり…多分正解が有る。だが、存在が重なる?あやふや?これは分からないな。


 それにしても、あの激戦の中で気付かれるとは思わなかったぞ。なるべく後衛に控えて、目立たないように立ち振舞ってたのだけどな。まぁ、はっきり言うとだ。この件に関しては完全に僕が油断してました。


 〔『白、何故か分かるか?』〕


 〔『いや、ワシは気付かなかったのじゃが…黒は、どうなのじゃ?』〕


 〔『…白と黒(竜の力)の分、主に過剰な力が乗っかってるから起きた現象?の可能性が濃厚。ただ、基本的には黒にも詳細不明』〕

 確かに、竜の力で回復中は尋常では考えられないくらい身体が活性化している。これは《見破》でも確認しているので間違い無い。でも、それだけで存在があやふや?になったりするのだろうか…


 まぁ、そんな些細な事よりも、今一番気になるのは黒が過去最高の長文を話した事だ。話せるのなら、いつもそれでお願いします。凄く分かりやすかったです。


 『それなら、ウチも疑問が有るで、シュンの使ったMPは誤差では説明出来んくらい異常やなかったか?いつもなら、あれだけ《付与魔法》使ったら、自分もっと早い段階でMPが枯渇してるやんな?さらに付け加えて言わせて貰うけどや、今日に限っては船も魔動力エンジン(自分のMP)使って動かしてたやろ、いくら《魔力回復補助》のレベルがウチらよりも高い言うても…何か、おかしないか?シュン、本当に大丈夫なんか?』

 実際、今日は普段よりも《付与術》にMPを行使している。それなりに付き合いが長い二人にはバレるのは当然かも知れない。


 〔『主よ、どうやらこれ以上隠すのは難しいのじゃ』〕


 〔『…黒には無理』〕


 〔『そうだな。ギルドメンバーだけには、竜の力の事をさわりの部分だけ話そうか』〕

 全部は話せないが、それでも納得させる事が出来るだけの説明は可能だろう。


 『本当にすまない。まさか、竜の力(これ)に気付くとは思ってなかった。少し心配かけたかも知れないけど、ぼくは大丈夫だ。ただし、これについては、あとでギルドメンバーにだけ話すよ』


 『お、おい、シュン。俺やジュネにも秘密なのか?』

 誰よりも知りたそうな顔をしているアクア。この異常な能力については簡単に言う訳にはいかない。色々と広まって、今後の大規模な討伐イベント等で、傷を気にしなくても良い一切消耗しない自由に考えて動く肉壁(オートガード)扱いを僕はされたくはない。


 『今までに提供した情報ですら、まだアクアからは全く交換条件の情報を貰ってないのだけど…まぁ、そうだな。同価値の情報が有れば話す事にするよ。実際に聞けば納得すると思うけど、これと同価値は並大抵の情報では多分無理だ。皆も知りたかったら、凄くレアな情報かファミリアや魔獣器の情報を複数(・・)持って来てね』

 最後の複数(・・)を強調しておく。これだけ言っておけば簡単には聞いてこないし、最悪でも二つ以上のファミリアや魔獣器の情報と交換出来るだろう。


 〔『…策士』〕

 黒さん、お褒めに預かり光栄です。


 〔『黒よ、主の場合は策を練りに練り過ぎて、自らの策に躓いて溺れる方が心配なのじゃ』〕


 〔『…納得』〕

 前言撤回。はっきり言って、大きなお世話だ。それと事実そう言う面も多々有るだけに否定しづらいんだよ、それは。


 『そうですね。今の段階でも十分な情報を頂きましたし、これ以上は私の良心が耐えられそうも有りません…シュン、今回の事は借りにしていただいても良いですか?私達も新しい情報が入れば絶対提供しますので』


 『それには同意だ。俺達には現時点でも払えそうな情報がない。俺達も【ワールド】同様、借りにさせてくれ。俺達も必ず借りは返す』

 まだ誰からの了承も得ていない段階でガイアの提案に乗っかるアクア。


 『私のところも、同じく』

 そのアクアに続いて、ジュネ達もガイアの提案に乗っかっていく。


 あれ?この流れはもしかして、僕達の拒否権は無くなってませんか?


 だが、よくよく考えれば、どのギルドも各々に得意な分野が違うので、僕達が入手出来ない情報や僕達とは違った視点からの情報が入ってくる可能性が高い。


 〔『主よ、ワシは良い案だと思うのじゃ』〕


 『了解だ。と言う事で、【noir】は皆さんからの良い情報をお待ちしております』

 ここは、ガイアの意見に乗っかるのが正解だろう。


 『それと、最後にすみません。少し話を変えますが、皆さんクラーゴンのドロップの確認はしましたか?今回の私は無事にドロップ武器の【クラーゴンの鞭】が手に入りました。見てください』

 鞄から取り出すガイア。その背後には見えるはずのないドーンと言う効果音が見えた気がした。


 ガイアが手にしているのはクラーゴンの触手?もとい脚を彷彿させる見た目の鞭。威力等は別にして、見た目はかなり不気味に見える。少なくとも僕の目には…


 前回は手に入れる事が叶わなかった念願のドロップ武器を入手し、かなり喜んでいるガイア。【クラーゴンの鞭】も非常に良い持ち主に当たったと思う、僕ならガイアみたいに喜べたかどうかは微妙なのだから。



【クラーゴンの鞭】攻撃力100〈特殊効果:攻撃範囲延長〉



 『くそっ、俺は今回も武器じゃなかったぜ。海の藻屑(もくず)とクラーゴンの目玉って言う素材だ。海の藻屑はともかく、クラーゴンの目玉の方は、そこそこレアみたいだな』

 ゴミ扱いされる海の藻屑。見た事も聞いた事も無い素材は生産系の職人としては喉から手が出るほど羨ましい代物となる。それこそ、情報の対価にもなり得るのだから。


 『素材、珊瑚の枝、海洋石』

 こちらも新しい素材、ジュネの表情と素材の名前からするとアクアよりも良さそうだ。


 『ウチもガイアと同じでドロップ武器みたいやな。ウチのは【海槍(かいそう)】って言う、なんやふざけた名前のけったいな槍やわ。これはダジャレ系なんか?名前はふざけてるのに攻撃力はそこそこやな。だけど、この特殊能力はちょっと面白そうやわ』

 今回は武器と素材が半々くらいの確立で出ていなる。レア度はバラバラのようだけど、どれも魅力的だよな。まぁ、槍、特殊能力と聞いて、槍をメインで扱うガイアは目の色を変えて、自分の手元の【クラーゴンの鞭】と何度も視線を往復して見比べている。その事に触れると面倒臭くなりそうなので、ここはスルーが正解だろう。



【海槍】攻撃力111〈特殊効果:水属性/水に濡れると巨大化〉



 他に変わったところで言うなら、ケイトとレジーアの獲得した【アーツの書・潜水】と【アーツの書・請け負う】の二つだろう。


 多分、名前からして〈潜水〉は水中に潜るアーツだと予想出来る。だが、〈請け負う〉に至っては想像出来る範囲が広すぎて分からない。


 アーツと言う限りは、何かしらプラスになる能力だと思うけど、マイナスになる要素を請け負う能力なら悲惨だ。一体全体何を請け負うのだろうか…【アーツの書】系のアイテムは、名前から能力を想像する事は出来るが、能力自体を確認する事は出来ない仕様になっているのが玉に瑕だろう。【アーツの書(これ)】の中身(能力)は《見破》を使っても確認する(視る)事は出来なかったので、一種のギャンブル要素もあるのだろう。


 この点には運営側の若干意地の悪さを感じている。まぁ、《見破》に関しては単純にスキルレベルの問題かも知れないし、そもそもの話、ただでアーツを覚えれるのだから文句が言える筋合いでもない。その証拠に、掲示板でも一時期話題になったが、最終的には、期待と違っても大抵は便利なので問題は無いと言う意見で落ち着いている。まぁ、たまに本気で拍子抜けする物も有るらしいけど。


 ちなみに、以前のイベント報酬でカゲロウが獲得した【アーツの書・毒】は毒の攻撃系アーツか〈追加・毒〉のような補助系統のアーツを覚えるかと僕を含めたギルドメンバー全員で期待していたが、覚えたのは〈解毒〉のアーツだった。そう考えると、僕が過去に獲得した物は比較的まともな性能で良かったと思う。


 それにしても、クラーゴンのドロップか…色々と問い詰められていて全く確認する暇が全く無かったな。さて、僕は一体何を手に入れたんだろうか?どれどれ…うん!?これは困ったぞ。


 『あのさ、誰か…古地図(こちず)ってアイテムだったヤツいる?』


 『えっ!?宝の地図ですか?』

 僕の質問にいち早く反応したリツ。もたれていたソファーから身を起こし、テーブルに身を乗り出している。


 『まぁ、それっぽくも見えなくはないけど、アイテム名は古地図だな。実際は、どんな用途かすらも分からないな』

 …と言うか、僕以外は誰もいないのか。一体何だろうな。これは?


 〔『…主らしい引き』〕

 いや、それはそれで何か切ない気もするんだけど…


 一応、どこかしらを指し示す地図…と言う体裁は保っているけど、当然僕は行った事が無い場所だし、【シュバルツランド】の近場でも無さそうだ。この地図で解る事を文章で書き起こせば、多くの珊瑚礁に囲まれた島の中心に佇む高い山の近くの場所って事くらいだよな。


 その場所に赤で×(バッテン)が書かれいるので、その場所を探せって事だと思う。まぁ、この先も冒険を続けていれば、いずれは辿り着くんだろうけど、問題は何が有るかだよな…


 リツが言ったように古地図を宝の地図と過程して、レアアイテムなら普通に嬉しいし、珍しい素材等でも嬉しいけど、ろくでもない事や面倒な事は勘弁して欲しいよな。例えば、宝の地図と見せかけた海賊のアジトの地図で、そこに行くと海賊討伐イベントが発生するとか、ゲーマー達が喜ぶそうなイベント…それは僕にとっては罰ゲームでしかない。


 うっ、くそっ、罰ゲームで嫌な記憶を思い出してしまったぞ。苦労して見付けたゲーム内で初のプレイヤーの夢と言っても過言ではない宝箱でどこでも買えるようなポーション(大ハズレ)とか…本当に最低だと思う。


 『その場所を探すのか?』

 さも当然の如く俺も手伝うぞと言いたそうなアクア。だが…


 『う~ん、この場所に行くには最低限でも船は必要そうだしな。まぁ、気長に探すよ。何か有ったら、また今回みたいに助っ人を頼むわ』

 今のところ、人の手は必要ないだろう。まぁ、地図の場所を見付けた時は分からないけどな。





 色々な話が一通りまとまり、今日のところは解散と言う運びになった。各々が自由気儘(・・・・)にゲートを使い各々のホームへと転送して行く。


 以前から【ワールド】とはゲートを繋いで有ったが、これを期に【ウィザード】と【双魔燈】も繋がせて貰った。これからのイベント時にお互い協力するのが便利だと言うのが主な理由を建前にして、それぞれの代表者の切なる願いと譲らない意思に僕達が折れた形が正解。ただし、お互いのホームに誰も居ない時は使用不可になる設定も折り込んでいる。


 そして、最後に殿(しんがり)を務めていたレジーアが転送しようとした時…


 『おっ!!そうだ。おい、シュン。【アーツの書・請け負う】だが今日の情報の代わりに貰ってくれ。もうすでに俺は〈請け負う〉をスキルの一部として覚えているからな、下位互換のアーツは今さら不必要(いらん)…とは言え、本来〈請け負う〉はあまり使い勝手の良いスキルでも無いが…【noir(そっち)】のカゲロウの〈魔反〉には合うんじゃないか?』


 レジーアが言うには、《大楯》スキルの一つである〈請け負う〉はパーティーメンバー(味方)に対しての攻撃を代わりに請け負える能力が有るらしい。すでに取得済みだったレジーアは、その性能の把握と共に、この【アーツの書】が自身に使えない事も分かったらしい。


 攻撃を代わりに請け負うだけで完全に受け流す(・・・・)訳では無いので、実際に攻撃を受ける事には変わらない。これだけを聞くと仲間がピンチの時(緊急時)の回避策にしかならない前衛用のアーツだ。


 …だが、これをカゲロウの|シリーズボーナス〈魔反〉と同時に使うとどうだろう。なんと言う事でしょう。大ピンチが大逆転へ第一歩に一瞬にして変わるチャンスを得る。〈請け負う〉はカゲロウとの相性が良過ぎるかも知れないな。


 だが、このアイテムはレジーアに直接必要が無くても貴重な物には代わらない。


 『良いのか?かなり貴重な物だぞ?』

 売れば、それなりの財を得られる。それこそ、オークションなら値段の制限無し(青天井)で。


 『あぁ、今回の情報はどう考えても俺達が貰い過ぎたからな。【ワールド】の連中で使うにしても俺以外には合わないアーツだ。売るにしても、買い手を探すのも面倒だ。だからな…ほら、今日頑張ったあいつに渡してくれ』

 レジーアは全く使い道が無いと言い、拾ったゴミでも手渡すかのように貴重な【アーツの書】を僕に手渡してくる。


 『分かった。これは大事に使わせて貰うよ、ありがとな。レジーア』


 『よせよせ、改まった礼なんて俺一人(おっさん)が照れるだけだ』

 そう言い残して、レジーアは豪快に笑いながら転送していった。





 『さぁ~て、シュン覚悟は良い?皆も帰ったことだし、全てを話して貰うからね。今日は絶対に逃がさないからね。分かっていると思うけど』

 レジーアが帰った流れで僕もログアウトしようとゲートを操作していると、そのもの手をアキラに掴まる。


 『ま、まぁ、このメンバーになら別に話しても良いかな。だけど、他言無用で頼む。他の皆も約束出来るか?』

 この件に関しては逃げ切れるとは最初から思っていない。だが、今のタイミングで逃げ切れなかったのは完全に予想外。若干の動揺を隠せないシュン。


 『約束しますです』


 『『大丈夫』です』


 『ウチも大丈夫や』


 『当然、私もね』


 『ゆきもなの』

 ケイト、カゲロウ、ヒナタ、フレイ、アキラ、雪ちゃんの順で即答してきた。ちなみに、雪ちゃんは皆が帰った(シュンがゲートを操作している)タイミングで自分の部屋から出てきている。


 『それなら話すけど…まぁ、まずは広い場所(裏庭)に行こうか』

 説明するのに裏庭?僕の言う事が全く分からないと言った表情をしている皆を引き連れて裏庭へと出る。


 僕の両手に【白竜】と【黒竜】を持って…


 『じゃあ、まずは僕のステータスを皆にも見えるように表示状態にするから見ていてくれ。次に、このエリアの設定を攻撃可能に変更したから…フレイ、全力で僕を攻撃してくれないか?』

 この中で〈零距離射撃()〉を除けば、瞬間での攻撃力(一撃)が一番高いのはフレイだろう。


 『えっ!?何でや?そんな事しても大丈夫なんか?』


 『大丈夫だから、全力で頼む』


 『…しゃ~ないな。ただし、ウチもやるからには本気で行くで、手加減は一切無しや。シュン、覚悟しいや…ウチの最強〈抜刀酒咲き(ばっとうさかざき)〉。もう一つおまけに〈裏切り(うらぎり)〉や』

 今使える中で最高の《刀》アーツを二連発で放つ、若干どや顔のフレイ。その流れるような技の連携に僕を含めたこの場にいる全員が目を奪われた。


 〈抜刀酒咲き〉は刀を納刀状態から瞬時に抜刀し標的を切りつけたあとに、一拍置いて鏡に写したような正反対(逆さ)の軌道で見えない斬撃がやって来る二連撃。〈裏切り〉は背後に回り込んで縦一文字に振り下ろされる強烈な一刀。これをコンボで使われると、単純に見ている側からすれば、お見事としか言えない。


 『痛っ!!!痛過ぎる…やっぱり、痛みは有るんだな。ちょっと早まったかも…それで、皆は分かった?』

 この場合、アーツを二連発で放つ必要は全く無いんだけど。でも、この方がアーツの威力と僕の能力は分かり易いので、結果的にはOKなのかも知れないな。


 『あっ、はい、切られた瞬間はHPが減りましたが、すぐに全快して…えっ!?全快?』

 自分で喋りながら、今起きた事が普通は有り得ない事だと悟るヒナタ。


 『おいおい、ちょっと待ちいな。今ので痛みだけか?有り得へん…それは、なんぼなんでも有り得へん。ウチは、前線組と比べると大したこと無い攻撃力や。そこは認める。そやけど、それなりにレベルも有るし、武器性能だけは現時点では最高級なはずや。〈抜刀酒咲き〉だけでも、連続で喰らった時の二撃目は防御力無視の歓声確定クリティカル。おまけで追加した〈裏切り〉も痛いだけで済むはずは絶対に無いんや』

 フレイの慌てようが尋常じゃないな。


 僕がお願いした事だけど、言葉通り全くの手加減無しとは…友達なら少しくらいの手加減(情け)は有っても良いんじゃないのか?と僕は思うよ。だって、今の説明からすると、確実に僕を殺す(滅する)気で攻撃してたよね。まぁ、死なないけど。


 『これが【白竜】と【黒竜】のセットボーナス、竜の力の効果の自己回復力強化なんだ。個人的には自己回復力強化ってよりは瞬間回復って感じなんだけどな。まぁ、ちょっとした無敵を味わえるって感じかな。ただ、まぁ、残念な事に、痛みは有るんだよな。痛みは…はははははっ』

 僕は笑いながら答えたが、皆一斉に…


 『『『『『『…それは笑えない』』』』の』です』

 雪ちゃんを含めた全員に同時で突っ込まれる結果となってしまった。





 あのあとで、最高状態での竜の力のリスク等も分かる範囲で説明させられた白と黒と僕の三人は、アキラを筆頭に全員から順番に説教を受けた。あの時は偶然使っただけで白と黒も二度と使うつもりは無かったけど、白と黒は当事者(すでにお説教タイムから解放済み)の僕よりも念入りにアキラ、フレイ、ヒナタの各々から別々に注意されている。今はケイトの順番だ。


 これからは、ちょっとした事で白の小言が増えそうな予感がする。その事を考えると少しだけ滅入るよな。まぁ、自業自得だけど…


 皆が白と黒を注意している間に、この場からの離脱を謀る。


 『カゲロウ、どうだ?少しは進んでるのか?確か次の日曜日だよな』

 僕は僕の説教中に一人だけ工房の方へと移動したカゲロウを見逃す事は無かった。


 『おぉ!?なんだ、ギルマスか。あっちはもう良いのか?色々災難だった…』

 僕は指を一本立てて『シッ~~』と言い、周りを見回した。


 その仕草だけで、僕が逃げて来た事を察するカゲロウ。最近のカゲロウは良く気が利く良い子だ。まぁ、良い子と言っても、そんなに歳は代わらないのだけど。


 『あぁ、うん。デザインはこれに決めた。だけど、素材の予備が少ないから、まだ心構えが…』


 『大丈夫だ。そこの杖は自分で作ったんだろう?その杖通りに作れば問題は無いだろ。かなり良い出来だと思うぞ』

 カゲロウの手元には、時間を費やして細部まで丁寧に作られた事が見ただけで分かる杖が有る。《細工》系のスキルは使われてない代わりに、《合成》を使って全く別系統の素材も上手く組み込まれているのも分かる。


 『ありがと。分かった、頑張ってみる。ギルマスも、このあとは生産するのか?』


 『そうだな…そうしようかな』

 白と黒はまだ捕まっている。その状況で二人だけを犠牲にして僕一人だけが、(ホームの)外に出る訳にもいかないだろう。


 『じゃあ、また悩んだら相談に乗ってくれ』


 『おう、任せろ』

 今さらながら、そう思う。


 それに、少し前に依頼されたマリアに依頼された狙撃銃の新作。オークションの開始前よりも素材が集まっているので、新種が作れる様にもなっていたはず…まぁ、まずはリストの確認だな。


 『二種類か…』

 現時点で製作可能な狙撃銃は二種類有るが、マリアのプレースタイルが分からないので、どちらを製作すれば良いかが分からない。



【インビジブル】攻撃力85〈特殊効果:無音/追加・不可視〉



 この能力(無音と不可視)は発射音が無くなり弾道が見えなくなるみたいらしい。スナイパースタイル(ひっそりと暗殺)向きな能力で、遠くから的を狙う《狙撃士》的には有れば、非常に便利そうな能力の一つだと思う。



【俊転】攻撃力80〈特殊効果:オートリロード〉



 こっちの能力(オートリロード)は僕が欲しかった能力だ。魔銃系をメインで使う今となっては必要ない能力だけど、マガジンを鞄に入れておけば、弾が無くなった時に自動で装填(リロード)される。《狙撃士》のポジション的に近距離で射撃する事は無いだろうけど、常にリロードの手間を省いて連射出来るのは魅力的に思える。


 これは本人に確認してみるのが一番か?僕はメールに狙撃銃の性能と予想される価格を書いて…


 『送信!!っと』

 価格は素材費だけでも高くなるよな…製作費は少しだけオマケ(勉強)しておこうか。他人以上、友達未満のちょっとした知り合い価格。


 次はケイトの誕生日プレゼント。ケイトの誕生日が近い事を皆にも話したら、ギルド全員でケイトの誕生日を祝う事になった。プレゼントは各自で用意して、当日の会場のセッティングは女の子チームが、その時の料理は僕一人の担当になっている。


 当然の事だけど、主役のケイトには秘密(サプライズ)だ。日曜の夜はギルドの定例会議(ミーティング)になっているし、ケイトがログインする事も確認済みだからな。サプライズを計画して、当日に主役がいないと言う最悪は免れる。


 『杖はカゲロウが作るからな…僕は何が良いかな?』

 基本的に女の子の誕生日を祝うなど、最近は純以外で経験した事のない僕。さらに、来月には十一月二日(フレイ)十一月二十九日(アキラ)の誕生日までやって来る。しばらくの間は悩みの種が尽きそうに無い気もする。


 まぁ、二人の分はまだ一ヶ月以上先の事だから、時間的な余裕も有るから別に良いんだけどな。ちなみに、僕は一月一日(元日)で、純は十二月三十一日(大晦日)の誕生日なので、誕生日当日は、親戚以外では蒼真家族にしか祝われた事は無い。だから、今年は少しだけ楽しみでも有るんだよ。本当に少しだけな。


 一昔前は遅く産まれた方が兄や姉()になるらしいけど、今はどっちでも良いらしく、僕の家では先に産まれた純が姉になっている。当然、僕もそれで問題は無い。まぁ、どっちが上とか下とか僕と純の二人の間では気にした事も無い。たまに調子に乗った純がお姉ちゃん風を吹かせるくらい。


 まぁ、それは置いといて、どうせならケイトに長く使って貰えそうな物をプレゼントしたい。


 う~ん、そうだな。原点に帰って久しぶりに本気の鞄でも作るか、店舗用の商品は定期的に補充しているけど、仲間用の鞄は久しく新調していない。これなら、僕しかプレゼント出来ないし、誰かと被る事は無いだろう。


 以前よりもスキルレベルも上がっているし、素材的にも新しい魔物の皮も数種類手に入っているので、性能アップや新しい製作ボーナスにも期待出来る。まずは、試作を兼ねて自分の鞄でも作ってみるか。


 素材はポルト周辺で最近確認された新種の魔物のサークルウルフの皮と強度面での定番素材リザードの皮の合皮。さらに、《合成》スキルで余っていた宝石や精霊の結晶を合わせて数パターンの合皮を作ってみる。


 あとは慣れ親しんだ縫う作業だ。下準備さえ済ませれば、そこで手間取る僕では無かった。出来た数点の試作品の中で、特に異彩を放っていたのが…



【試作ボディバッグその三】

〈特殊効果:重量軽減/透明化/自動回収・ドロップ素材〉〈製作ボーナス:容量拡張・最大/自動回収・自然素材〉

ボディバッグタイプ



 『………』

 これは水精霊の結晶を混ぜた分なのだが、他の試作品に群を抜いて異常な物が出来た。新しい製作ボーナスを選べたので選んでみた結果…はっきり言って、試作品の性能では無いくらい異彩を放っている。オークションに出すと他を軽く駆逐して目玉になりそうな性能時の言える。


 実際にテストしてみないと正確な能力と感覚は分からないけど、《見破》で視た限り、自動回収・自然素材は採取や採掘をした瞬間に鞄への回収が終わるらしい。


 例えば、採掘ならツルハシで壁を叩けば終了て、採取なら鎌や魔法で伐採するだけで終了となる。


 そちらはまだ頭の中では納得しやすいのだけど、容量拡張・最大ってどんだけ入るんだ?容量拡張・中や大でもかなりの量が持ち運べているし、いまだに限界は感じていない。


 これは近いうちに本気でテストしてみる必要が有るか。結果が良ければ、自分用とケイト用にカスタムするだけで無く、アキラやフレイの誕生日プレゼントまでが一気に決まるかも知れないのだから。

装備

武器

【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉

【白竜Lv23】攻撃力0/回復力143〈特殊効果:身体回復/光属性〉

【黒竜Lv20】攻撃力0/回復力140〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉

防具

【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40

〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉

アクセサリー

【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉

【ノワールホルスター】防御力10〈特殊効果:速度上昇・小〉〈製作ボーナス:リロード短縮・中〉

【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉



天狐族Lv36

《双銃士》Lv56

《魔銃》Lv56《双銃》Lv51《拳》Lv35《速度強化》Lv82《回避強化》Lv84《旋風魔法》Lv33《魔力回復補助》Lv82《付与術》Lv50《付与銃》Lv59《見破》Lv78


サブ

《調合職人》Lv24《鍛冶職人》Lv27《革職人》Lv50※上限《木工職人》Lv30《鞄職人》Lv50※上限《細工職人》Lv24《錬金職人》Lv24《銃製作》Lv35《裁縫職人》Lv8《機械製作》Lv1《料理》Lv35《造船》Lv15《家守護神》Lv12《合成》Lv18


SP 78


称号

〈もたざる者〉〈トラウマ王〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈自然の摂理に逆らう者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈なりたて飼い主〉

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