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「おい、駿。聞いたか?今日、俺達のクラスに転校生が来るらしいぞ」
今日も今日とて、朝から騒がしい僕の幼馴染み。少しは落ち着いて、静かな朝を過ごさせて欲しいものだ。
今時、転校生の一人や二人ぐらい珍しくもなはずなのだけどな。小中学校でも何人か居たのだから、まぁ、その時もこんな感じで騒がしかった気もするな…いや、ちょっと待てよ。高校での転校生は珍しいのか?
「そうなのか?僕は全く知らなかったけど」
…と言うか、お前はその情報をいつ知ったんだ?朝、家ではそんな話を一つもしてなかったよね。
「まぁ、それもそうか。俺もついさっき、たまたま職員室の中で先生方が話しているのをチラッと聞いたばかりなんだ」
おい、待て。それは転校生が来ることを知ってる方が圧倒的に少数派ではないのか?
それにだ。お前が職員室に居た理由は、朝一でわざわざ校内放送まで使われて呼び出された昨日の小テストの件でですよね。僕自身が、その校内放送を直接聞いた訳ではないけど…一体何点を取ったんだ?僕としてはだ。そっちの方が遥かに気になるよ。
「駿は、男か女どっちだと思う?いや、違うな。どっちが良い?」
こいつ、その事について絶対に懲りてないし、悪いとも思ってないな。あとで後悔しても、僕は知らないよ。
「………」
それに、どっちが良いと聞かれても、僕達が選んで決まると言う訳ではないし、性別で判断するのは失礼な気がする。それに、僕としては性格が嫌な奴じゃなければ、性別はどっちでも良いんだけど…まぁ、転校生の事次回は全く気にならないと言ったら、それは完全に嘘になるけどね。
「はいはい。皆さん、席に着いて下さい。すでにホームルームの時間は始まってますよ。遅れてきた先生が言うのも何ですけど、静かにして席に着いて下さいね。まず始めに、今日はこのクラスに新しい仲間が増えます。さぁ、あなたも中に入って自己紹介して下さいね」
ガヤガヤとしていた教室は、先生が放った一言で一気に静まり返り、徐々に先生が手招きする教室の入口に注目が移っている…この様子を見ると、蒼真以外は誰も知らなかったらしい。
まぁ、他にも知っている人がいたら、もう少し教室全体が騒がしくなっていたはずだ…と言う事は、小テストの件で呼び出されたのも蒼真だけと言う事か?本当にあいつは何点を取ったんだよ。絶対、そっちの方が気になるよ、僕は。
「了解や。ウチは…掛布麗花ちゅうんや。掛布は阪神タイガースの半世紀前の伝説的四番掛布大明神様と同じ掛布や。麗花は麗しい花って書いて麗花や。可愛いウチによう似合った名前やろ。大阪から越してきて、まだ知らん事も多いねん。だから、仲良うしたってな」
転校生は黒板に自分の名前を解説しながら、すらすらと書いていく。
ただし、名字の説明には駿や蒼真、それに担任(まだギリギリ二十代と言う事を強調する)を含めて誰にもピンと来ていない。その事は一切気にせず、出身地やらの自己紹介を続けている。どうやら、彼女はこのクラスにはいなかったタイプの人物らしい。性格的にも、見た目的にも…
どちらかと言うと、そのハッキリとした面持ちは晶みたいに女子にモテそうな美人だ…ただし、この性格も踏まえると晶とは違った層に。このフレンドリー《明る》さは男子に嫌われる事も無い感じがする。僕も好感が持てる気がするし、この点は晶とも同じだろう。
「皆さん、掛布さんは御家族の仕事の関係で大阪から引っ越しされて来ました。皆さんの事ですから心配してませんが仲良くして下さいね。えっ~と、そうですね。席は…水野君の隣が空いてましたね。それと、皆さん、再来週の体育祭の出場種目も早めに決めておいて下さいね。今日のHRは以上です」
蒼真の隣と言う事は、僕の右斜め後ろか。あの空席は、昼休みに純達が使ったりもしてたから、空いていると何かと便利だったんだけどな。それも昨日までか…まぁ、いつも一緒と言う訳でもないけどな。
それにしても、もう体育祭の時期なのか。本当に時が経つのは速いよな。この前、高校に入学したような気もするんだけどな。
「仲良うしたってな」
「掛布でも、麗花でも好きに呼んだって。いや、あかん。そのレイっちとレイたんは勘弁してや」
「大阪の難波ちゅうとこや」
転校慣れしているのだろうか?それとも、関西人の気質だからなのか?担任により指定された座席までの通路を通りながらも近くの女子に気軽に挨拶してはすでに仲良くなっている様子が見受けられる。まぁ、良い人そうで良かったかな。
「おい、駿」
その転校生を難しそうな顔で見詰める蒼真。
「うん?どうかしたか?」
「あの転校生だが、どっかで会ったことないか?」
「いや、会った事は無いと思うけど…」
まだ生まれてから短い人生ながらも、そんな運命を感じるような経験を僕はした事は無い。
だが、確かに言われてみれば、あの雰囲気は知り合いに似ている気もするような、しないような…いや、そんな事は有り得ないだろうな。そもそも、彼女は…
「おう、俺は水野蒼真だ。ヨロシクな」
「ウチは…さっき、言ったから分かるな。お隣さん、しばらくはちょいちょい迷惑かけるかもしれへんけど、ヨロシクしたってや」
「おう、問題無しだ。いつでもドンと来いよ」
「それはおおきに」
早速、自己紹介をして打ち解け始める蒼真。
席が隣で誰とでも気軽に話せる蒼真が、これまた明るくて元気な転校生と打ち解けるのは時間の問題かも知れないな。
「駿くんのクラスに転校生来たんだって?」
昼休みになり、いつも通り晶と純がお弁当を食べにやって来た。どことなく、いつもよりもソワソワして辺りを見回している気もする。
「うん。今、晶が座ってる席が転校生の席だよ」
「あっ、ここなんだ。それで、今はどこにいるの?」
今自分が座っている場所が、話題の論点である転校生の座席だったと言う事よりも、その転校生自身の事が気になる晶。
その隣に座る純は相変わらずの無関心か。まぁ、僕も高校での転校は珍しいと思ったから、クラスの違う晶の方が気になっているのも仕方が無い事かも知れないな。
「えっ~と、さっきまではいたから…」
辺りを見渡すが、掛布さんの姿は教室のどこにもない。
「あぁ、多分食堂に行ったんじゃないか?さっき、財布持って教室の外に出て行ったぞ。晶達が来るちょっと前に」
お前、よく見ていたな。僕は全く気付かなかったぞ。
「あれ?そこはウチの席…」
食堂で買って来たのだろう、菓子パンと紅茶のパック(ダージリン)を片手に掛布さんが戻って来た。
あれは学校内では一番美味しい紅茶だ。紅茶好きの僕としては、なかなか良いセンスだと思う。それだけでも気が合いそうだ。
「あっ!?ゴメンね、席勝手に借りてたよ」
晶が席を空けようとすると…
「ええよ、ええよ、そんなん気にせんといて。ウチはそっちの空いてる椅子使うから。それとウチも一緒しても良いか?転校して来たばかりで、お昼に一人は寂しいやんか。ウチは掛布麗花ちゅうんや。ヨロシクしたってな」
いや、休み時間の度に起きた出来事を思い出すと、彼女が一人で食べて寂しがると言う事は考えられないし、仮に一人で食べ始めたとしても、彼女の事を誘いたがって様子を伺っている周りの女子達が、この明るく元気な転校生を放っておかないだろう。
「一緒でも良いよね?」
晶が確認してくるので皆で頷いた。もとより同じクラスのご近所さん相手に僕と蒼真に断る理由も無い。
「私は水無晶で、こっちの娘は颯馬純。クラスは違うけど、ヨロシクね」
晶に紹介された純も無言ながらも妙に友好的な態度を示していていた。
だが、双子の弟の僕からしてみれば、若干の違和感を感じる。純が初対面の人に対しては珍しく友好的過ぎる気がする。単なる僕の気のせいだろうか?
「晶ちゃんに純ちゃんやな。二人共に美人さんや、了解や。ウチの事は麗花って呼んだってな」
「まだ僕は自己紹介してなかったよな。僕は颯馬駿。こっちの純とは似てないけど、一応双子なんだ。ヨロシクな」
僕と純の名前を聞き、僕達二人の顔を見比べた瞬間に表情が変わる掛布さん。その表情は何かを吟味しているようにも見受けられる。
「えっ!?えっ~~~!!ほんまかいな!?フッフッ、自分らが、そうかそうか…やっぱり、世間は狭いんやな~」
何かに納得して急に驚きだす掛布さん。その間も駿と純の間を往復するように首を動かし続けていた。
その急な大笑いには周りのグラスメイト達も戸惑い、一斉に振り返ってこちらを見ている。その話題の中心の片割れたる僕としては、どこかいたたまれない。
僕と純はそんなに笑わないといけないほど似てなかっただろうか?まぁ、多少の自覚は有るけど、吹き出すほど笑われたのは初めてだ。
いや、それも違うな…どちらかと言うと僕達二人を見て、彼女自身で何かに納得したような感じか?
それとも、蒼真が感じたように、どこかで会っているのだろうか?う~ん…分からない。やっぱり、こんな女の子は僕には見覚えが無い。
「あぁ、悪い悪い。急やったからな、ウチも驚いてしまって笑ってしまったんや、そこは堪忍な。自分ら、トリプルオーやっとるやろ?アキラにシュンにジュネ、それと多分自分がアクアなんやろ。シュンなんか、見ただけで分かるくらい、そっくりなのにな。今の今まで全く気付かへんかったわ本当に色々とすまんかったわ」
周りの目と耳を気にして、小声で的確に伝えてくる掛布さん。その配慮は嬉しかったが、突然の告白に何の反応も出来ない僕達三人。
「いや、そんなにボーっとせんでもええやん。ウチやウチ、まだ分からへんか?ウチはフレイや」
「「「えっ~~!?」」」
最後の一言で、ようやく僕達三人の理解が一歩前へと進んだ。
「フレイ、久しぶり、元気だった?」
今思えば、掛布さんを最初に見た時から多分気付いていたであろう一人だけど冷静な我がお姉様。その事に全く気が付いてなかった僕達三人は貴重な昼休みを費やしたと言うのに、この出来事に対して全く理解が追いつく事はなかった。
『『え~~~~~!!』』
これは決して昼休みの再現をした訳ではない。
今のユニゾンで放たれた『え~~~~~!!』は、今日の昼休みに起きた出来事を聞いたカゲロウとヒナタの叫び声だ。まぁ、無理も無いだろうし、同じ事を経験している僕からすれば理解も出来る。どう見繕っても数時間前の僕達にしか見えないのだから。
今、僕達は約十日ぶりにトリプルオーにログインして来たフレイとの雑談に花を咲かせている。勿論、雑談に参加している皆の手元に僕の淹れた紅茶があると言う事を、ここで改めて明記しなくても伝わっている事だろう。
『いや、まぁ、その気持ちはウチも分からんでもないで。でもな、そこはウチに言われてもしゃあないやん。ウチんとこのオトンの仕事の都合のせいやし、そこはもう堪忍してぇな。ウチも今日の今日まで転校先の高校がシュンやアキラと同じやとは思わんかったんやで。ウチかて、今の二人みたいに昼休みは驚いたんやから、これでも皆と同じ気分なんやわ。本当、世間は狭いで』
笑いながら話すフレイ。ただし、その目線は決してヒナタから外れない。
確かに僕の周りの世間は狭い…いや、特別に狭過ぎる気がする。入手困難なヘッドギアが必要な割に、僕の身内やそれなりに近しい人達の入手率が高い気がする。いっそのこと、何かしらの妙な力…晶の強運のようなものが、これでもかと働いていると言われた方がしっくりくるよな。
ま、まさかとは思うけど…東京近郊の他府県在住らしいヒナタやカゲロウ、都内にある留学生を積極的に受け入れている高校に通っているらしいケイトまでもが身近に住んでたりはしないよな。こう、ご都合主義な事が続くと僕が疑いの目を向ける事も仕方が無い事だと思う…と言うか、これくらいの疑惑の目は広い心で許して欲しいものだ。
フレイの説明では、以前から父親の単身赴任での転勤は決まっていた事らしい…のだが、転勤一週間前になって単身赴任は嫌だと子供のような駄々をこね、拒否権の一切無い養われる側のフレイをも巻き込んで家族全員での話し合いを丸二日間重ねた結果、複数の理由の観点から家族全員で引っ越す事になったそうだ。要は、父親の泣き落としに母親とフレイが負けた形になったと言う事だ。
その理由の一つでも有り、小さくない割合を占めていたであろうフレイ自身が今後進学する大学を(一人暮らしがしたい為に)関東近郊から選びたいと言う願望が少なからず有ったそうなのだけど…これはそう遠くない未来の話。
その引っ越しにおける様々な手続きで、僕達に連絡する事は勿論、ログインすらもまともに出来なかったらしい。一週間前に急遽決まった引っ越しなのだから、連絡が出来なくても仕方が無い気がする。むしろ、転校先の学校や家族全員で住む家をよく決めれたよなとも言えなくはない。どちらかと言うと、そっちの方が賞賛に値するだろう。
『それにしても、シュンの見た目は本当に現実と同じなんやな。リアルの駿に狐の耳と尻尾が付いただけやん。名前聞いたら、すぐに気付けたわ』
うん、それは以前にも聞いた台詞だよ。
『それはだな。初期設定で身体を変更する時間と猶予が僕には無かった…いや、与えられなかったんだよ。イタズラ好きの誰かさん達二人のせいでな。そう言うフレイだって…髪の色だけはあまり変わらないだろ』
フレイの見た目は現実で会った掛布さんとは、ほぼ違っている。似ているのは彼女自身が醸し出す雰囲気と髪の色が同じぐらいだ。
まぁ、VRを使ったゲームで遊ぶのに、わざわざ自分そっくりのキャラクターをクリエイトするプレイヤーの方が圧倒的な少数派だとは思うけどな。多かれ少なかれ自分の願望を反映するのが普通だろう。僕のケモミミと尻尾みたいに…
『そやな。ウチこの髪の色は気に入ってるからな。まぁ、それは置いといたとしても…なんなんやあれは?正直言ってウチでも引いたわ』
ようやく雑談も終わりを見せかけた時、知らぬ存ぜぬで通すにも限界のあった背後に見える露天風呂を背中越しに親指で指差すフレイ。
『そうだよね~!!私も若干だけど引いたもん』
フレイに続くアキラ。
だがな、そう思うのは今の内だぞ。あの中に入ってみれば日本人なら絶対に良さが伝わるからな。
『ギルマスを庇う訳じゃないけど…あれは魔性だ、一種の魔法とも言えなくない。それに、一度入れば出たくなくなるのは保証するぞ』
珍しい事に僕の味方になってくれるカゲロウ。その姿は普段の様子からは全く想像出来ない。
『それでは、あとで皆で一緒に入りませんか?あっ!!勿論、女性陣と白ちゃん、黒ちゃんだけですよ』
ヒナタが冗談っぽく僕とカゲロウを見て注意してきた。
そこは当前だろう。僕とカゲロウには女性陣達と一緒に入る度胸や精神等は持ち合わせていないのだから。多分、誘われていたとしても一緒に入るのは無理に違いない。まぁ、そこには白と黒を羨ましいと思う気持ちが少なからず有るのだけど。
『はい、はいです。私もジャパニーズ温泉に入りたいです』
その仲間入りを真っ先に求めるケイト。そして、それに続くようにフレイとアキラも賛成の意を表している。勿論、アキラの横にいる雪ちゃんも含めて。
皆、揃いも揃って初見では驚いたと言っていたけど、内心は入るのを楽しみにしていたらしい。何だかんだ言っても温泉大好き日本人なんだよな。まぁ、ケイト自身は日本人とは違うけど…多分、その内に宿る魂は日本人に違いないだろう。
『それなら、ジュネ達も誘ってあげて、あとで教えると怒られそうだから…それで僕達はどうする?カゲロウ』
アキラが頷いたのを確認して、僕は必然的に残される形になったもう一人の男…カゲロウに話を振った。たまには、男二人だけで狩りをするのも良いだろう。
『ギルマスに時間が有るなら、俺と一緒に《木工》でもしないか?少し教えて欲しい事が有るんだ』
神妙な面持ちをしたカゲロウ。その様子は普段とは違い、内に秘められている生真面目さを隠しきれていない。
今日は本当に珍しい事だらけだな…と言うよりも、カゲロウが僕を生産活動に誘ってくるなんて初めての事じゃないか?今までも一緒に生産活動をしたことは有るけど、それはあくまでもヒナタの付き添いで、必ずヒナタが一緒にいたのだから。カゲロウと僕の二人きりと言うのは初めての事だろう。
しかも、カゲロウが愛してやまない《調合》ではなく、違う生産畑の《木工》を教わりたいと…僕は今から明日の天候が心配になってきた。お願いします。どうか、傘で防げる範囲の物を降らせて下さい。
まぁ、どう転んだとしても僕には真剣な態度を見せられて、それに答えないと言う選択肢は無いけどな。
『僕も時間は有るし、多少なりともやりたかった事も有るから別に良いぞ。もう行くか?』
頷く事で同意したカゲロウに続いて、僕達二人は工房へと移動した。
『それで、どうしたんだ?僕を誘うと言う事は、何か有ったんだろう?』
工房で二人になった事を確認して、一番の疑問だった事を聞いてみる事にした。もし、僕に出来る事が有るなら協力した惜しまない。
その言葉に一瞬だけ笑顔を見せるも、言葉を紡ぎ出せない様子のカゲロウ。そのカゲロウを焦らせずに、僕は次の言葉を発せずに時間を消費した。
『…ギルマス、これは皆に内緒にしていて欲しいんだ…あの、その、もうすぐケイトが誕生日らしいんだ。それで、杖か何か使える物をプレゼントしたいんだけど…あの、その、作り方を教えて下さい』
しばらくして、より神妙な面持ちでカゲロウが拙いながらも確実に僕の心を揺さぶる言葉を紡ぐ。
なるほど、ケイトは誕生日が近かったのか。それなら、僕達も何かしらプレゼントを用意した方が良いかも知れないな。それにしても、僕を《木工》に誘った理由はそう言う事だったんだな。陰ながら応援させて貰おうか。
『そう言う事なら、別に良いぞ。使う素材は準備してるのか?まだなら、これ使ってみるか?』
僕は御神巨木を鞄から取り出して一本手渡した。
ケイトにも御神巨木素材の杖を作ろうと思っていたのだ。その製作者が僕からカゲロウに代わっても大した問題は無いだろう。
『ギルマス、こんな高価な素材を本当に貰っても良いのか?』
自らの手で慎重に素材を確かめ、目をキラキラさせて僕を見てくるカゲロウ。素材に対する態度はヒナタよりもフレイとそっくりだと思う。まぁ、多分僕も似たような感じだと思うけどな。
『大丈夫だ。そのうち、ケイトにも何か作ろうと思っていたからな。その製作者が僕からカゲロウに代わったところで出来上がる杖に大差は無いだろ』
『いや、でも、俺とギルマスだと技術力…もともとのデザインに差が…』
『カゲロウ、プレゼントに一番大切な事はそこに至るまでの気持ちだ。まぁ、確かに今のスキルレベルだと、その素材を扱うには多少心許ないかもな』
まぁ、確かにカゲロウの言う通りで、そこは気合いと根性でカバーして貰いたいポイントだ。その方が見ている僕達的にも感動的だからな。
『………』
明らかに分かる態度でテンションを下げるカゲロウ。少しの言葉にいちいち反応して、テンションを上げ下げするカゲロウは見ていて面白い。
〔『…悪趣味』〕
えっ!?僕は左右に首を振りながら辺りを見回した。スキル等を使って何度確認しても、ここには僕とカゲロウ以外は存在しない。何も分からないカゲロウからしてみれば、さぞ不審だったろう。
だが、僕には大絶賛露天風呂入浴中で、絶対にこの場にはいないはずの黒からの容赦ない突っ込みが聞こえた気がした。
『だ、だから、まずはスキルレベル上げと練習を兼ねて、サンプル作りからだな。僕もアドバイスするから頑張ろうぜ』
いないはずの黒から放たれる無言のプレッシャーを感じ、若干の焦りを感じた僕はすぐに軌道の修正にかかる。カゲロウのやる気を含めて…
僕はカゲロウに杖の基本となるサンプルを数種類渡して、これを見本に《木工》の練習をさせていく。元々《木工》のレベル自体は採取等で鍛えられているので、カゲロウは数回の試作でそこそこ出来の良い杖を作り上げた。まぁ、出来が良いと言っても、あくまでサンプル品としての域でだが。
『しばらくの間は、その練習の繰り返しだと思ってくれ。それと、ケイトの誕生日はいつなんだ?』
この計画において、一番肝心なポイント。ここ次第では間に合う物が間に合わなくなる。
『十月六日の日曜だ』
僕達の体育祭の当日か…それなら、練習(レベル上げ)に約二週間を使ったとして、プレゼントの杖を製作する時間にも十分な余裕が有るのか?
うん、あとはカゲロウ次第だけど、多分大丈夫。頑張れ、頑張るんだ、カゲロウ。
『これで、一応注文の品は全部やな』
トウリョウさんが約束通りテーブルとイスの納品にやって来た。鞄から大量のイスとテーブルを取り出す姿は、未来からやって来た自称ネコ型ロボットのようにも見える。
『流石の仕上がりですね。でも、何でこの形にしたんですか?』
一つ一つが丁寧に仕上げられているし、メニューから一括で製作した時には絶対に起きない僅かな差も見受けられる。まぁ、一つ一つオーダーメイドで製作した事による本当に僅かな差で、一目見ただけでは絶対に分からないのだけど。
素材も良いものを使っているし、仕上がりには大きな問題は無い。はっきり言って、素人に毛が生えた程度の僕が文句を言える代物ではない事は誰の目から見ても明らかだ。
だがしかし、この形状はかなり特殊じゃないか?何かに例えて言わせて貰うと、その見た目は馬の蹄鉄と言うか、視力検査に使われるCにしか見えない、それもかなりUよりに細長く潰れたようなCの文字。そのCの隙間の部分がカウンターキッチン向きに空いているのは、通路の役目を兼ねているように見えなくも無いのだけど…実際のところはどうなんだ?
『多分、シュンが気になってるのはこの部分やろ?ここが今回こだわった一番のポイントなんやで。自分ら、その辺適当に席に着いてみ』
トウリョウさんは、さも自信有り気にCの隙間の中心に移動して、僕とヒナタ、アキラに着席するよう促した。
『ここはやな。この辺りに立てば全員の顔を見渡せるように設計されてるんや、勿論自分らが定期的に行ってる会議にも使えるようにしてあるんやわ。それなら、普通に円形でも良いんじゃないかと言いたくなるとこやけど、少し潰れたような英文字のCにした理由は別にも有るんや。ここを使うとカウンターキッチンから紅茶や料理を直接運べるようになっとるんよ。あとはもう一つポイントが有ってな、実際に座ってみた自分らなら、もう分かってると思うけど…どの位置に座っても座ったままで各々の顔が見えるやろ?』
確かに、言われてみれば、そうかも知れないな。適当に間隔を空けて座ってみたけどヒナタとアキラの顔が労せず視界に入る。快適さを追及したホームのリビングではあり得ない仕様。
『本当だね。座った時に皆の顔が見えるのはちょっと素敵かも。それに、この曲線も絶妙で使い易いよ』
アキラが言うように、テーブルの曲線は誰が座っても使い易いように工夫されていて、イスの高ささえ自分自身で調整すれば、かなり手を置きやすい工夫が施されている。
『それにですね…この天板は、一枚板を加工してますよね。技術的にも、かなり高度ですよ。現実世界で買ったら、うん百万…いえ、このサイズですと一千万は軽くするんじゃないですか』
改めて目の当たりにしたトウリョウさんの技術力に目をキラキラさせているヒナタ。その姿はまるで主人になついたペットのように見える。
ただでさえ、加工の難しい一枚板をCの形状に綺麗に曲げて有るのだ。その技術は僕達ぐらいの技術力では決して真似の出来ない物なのだろう。僕達も《造船》時に一枚板を船体に合わせて少し曲げる加工(ただし、曲げる方向は板の縦と横で厚みを含む難易度が全然違う)を経験しているので、ヒナタの言いたい事は伝わってくる。
『確かに、そうだよな。イス自体の座り心地も最高だし、実際に使ってみると…これ以外の選択肢は有り得ない気がしてきたな』
ヒナタとアキラ、誰を見ても凄く良い表情をしている。
『おっ、その表情!やっと理解してくれたんか?これでも私は機能美には、ちょっとしたこだわりがあるんよ』
テーブルの端を我が子のように撫でながら微笑むトウリョウさん。いつもの男らしいトウリョウさんとのギャップが凄い。
ユニバーサルデザインとは、使い手の事を考えて機能美を重視しながらも、その物自体の形状にもこだわったデザインの事だ。確かにその理屈なら、このイスとテーブルのセットはユニバーサルデザインと言えなくもないだろう。シュン達がそう思えるくらいの代物に仕上がっていた。
『ありがとうございます。このテーブルも大切に使わせて貰いますよ。あっ、そう言えば、《造船》スキルは見付かりましたか?』
『そっちは、まだアカンわ。まだまだ、これからちゅう感じや』
毎日、【カーペントリ】のメンバー数人が代わる代わる《造船》スキルを探しているらしいが、今日まで良い報告は一つも無いらしい。
もしかして、僕の運が良かっただけなのか?いや、それは考えられない。だとすると、トウリョウさん達の運が悪いのか?まだその方が考えられるか…どっちにしても何かしら新しい情報が入ったらトウリョウさん達にも伝えたいところだ。
『えっ~と、皆さんはこのあと何か有りますか?』
トウリョウさんが帰り、ヒナタがこのあとの予定を確認してくる。
船は外見だけでなく、内装の方も完全に完成して、明日予定している進水式の開始を残すだけの状態だ。つまり、もうここでやれる事はない…はずなんだけど、それにしては、ヒナタが妙にソワソワしているようにも感じる。
『ごめん。もしかして、何かやりたい事でも有った?私は雪ちゃんと買い物に行く約束が有るんだよ。良かったら、ヒナタも一緒に行く?』
『僕は特に予定は無…』
『主よ、久しぶりにワシらだけで狩りに行ってみてはどうじゃ?』
何かを察した様子で急に喋り始めた白。その白に対して僕とアキラの視界の外から軽く頭を下げるヒナタ。
『うん?何か有るのか?』
〔『黒が竜の力のテストをしたいそうじゃ』〕
〔『竜の力?それは、別に良いんだけど…何で《心話》なんだ?』〕
〔『主よ、主自身が竜の力の事を隠したかったのでは無かったのかの?』〕
〔『あっ…すまん。忘れてた』〕
そうだった。今後使う予定も使う機会が訪れる事もないと思い、完全に忘れていたな。
竜の力はギルドメンバーにも秘密にしている能力だった。でも、あの時、竜の力は一人と二匹の思いやりから偶然産まれた奇跡的な物って聞いていたけど…何か新しい事でも分かったのか?それなら、早目の確認も必要だとも思うけど…
『じゃあ、僕達は狩りに行こうか?それで、ヒナタはどうするんだ?』
『わ、私ですか?私も買い物や狩りに一緒に行きたいところですが、今日は止めておきます。本当に残念ですけど…それと、明日の進水式の準備をしたいので、私の事は気にせず、行って来てください』
僕達からの誘いを断る理由に、何か後ろめたい事でも有るかのように急に焦り始めたヒナタ。完全に断りながらも、僕とアキラ、そのどちらとも一緒に行きたい雰囲気は隠しきれていない。この場に弟のカゲロウでもいれば、ヒナタの態度から何か分かったのかも知れない。だが、残念ながら、この場にはいない。
あの焦りようと訳知り顔をしている白の態度からすると…多分、ヒナタは一人で何かしたい事が有るんだな。何をするのかは分からないけど、ここは少しだけ大人として気を効かせておこうかな。
狩りのついでに、ケイトの誕生日プレゼント製作用に素材集めも良いかもな…となると、今日の目標は鉱山ダンジョンかな。
『ここに来るのも久しぶりか』
ここを訪れる事が懐かしく感じるような、意外とそうでもないような…微妙な距離感が有る場所。ただし、そこそこ慣れ親しんでいるのは間違いない。
僕達はゲートを使って【ヴェルク】に来ていた。
『主よ、ここへ来るのは魔石を取りに来た時以来なのじゃ。黒が来るのは初めてなのじゃ』
【黒竜】を製作する為の素材を取りに来て以来の鉱山ダンジョン。それ以前は【シュバルツランド】の次くらいにお世話になっていたんだけど、今のギルド内のメイン生産が《木工》or《造船》の為、訪れる機会が格段に減っている。
『…岩がゴツゴツ』
珍しく、初見の感想を述べる黒。心なしか、目がキラキラしているようにも感じられる。まぁ、黒は銃の状態だから、完全に僕の感想になるのだけど。
『そうだな。一応、ここは鉱山の街になるからな。今から行くのは、その鉱山の中に有るダンジョンなんだ』
ここは採掘が出来る事は勿論、奥まで行けばボスもいるし、僕にとってはあまり良い記憶ではない宝箱の有る小部屋も数多く存在している。ダンジョン全域を通して魔物の数も多く存在しているので、僕を含めた中位のプレイヤーのレベル上げやアーツ練習向きの場所になっている。だけど…
『今日はいつもと違って、プレイヤーの数が少ないみたいだ』
『主よ、その方がワシらには都合が良いのじゃ。まずは、適当な魔物を探すのじゃ』
そこそこの広さを持つこのダンジョンはボス部屋までの効率の良いルートの解析が進んでいる。中には最早誰も訪れないハズレのような行き止まりも有る。本来、僕はそこを目指していた訳だけど、この感じが続くようなら、そこまで行かなくても済むかも知れない。
だけど…冷静になって考えれば、回復能力を高める系の竜の力のテストと言うのは僕が痛い思いをするだけじゃないのだろうか?
『…うん』
黒からの無情な最後通告。
いや、肯定しちゃったよ…せめて、スルーしてくれれば、若干ながら希望が持てたんだけどな。まぁ、テストの必要性も分かるんだけど、理性では理解出来ても体が納得してない事も有るんだよ。
しばらく、魔物を探してダンジョン内を人が訪れない方向へ歩いていると…
〔『主よ、後ろを振り返らずに冷静に聞いて欲しいのじゃが…どうやら、ワシらは尾行されておるようじゃ。牙狼族の《狙撃士》のようじゃ。気付かれないように上手く距離を撮っておるるようじゃが、ワシには無用じゃ。主がゲートで転移して来た時から尾行されておるようじゃ』〕
尾行?僕をか?それとも、白達との会話を聞かれていたか?いや、その場合なら、例え聞かれていたとしてもコールをしていたと逃げ切れるはずだ。むしろ、ほぼ全てのプレイヤーがコールをしていたと思うだろう。それに、ファミリアの情報は公表されているけど、魔獣器の情報はどこにも掲載されていないはずだからな。白達の事がバレたと言う可能性は低いだろう。
〔『…前者』〕
前者…つまり、追跡者のターゲットは僕か…
皆の話では、それなりに銃使いも普及し始めてはいるようだけど、肝心要の僕自身が全く会った事は無い。ある意味で、これはチャンスなのだ。だけど、僕以外で初めて遭遇する《銃士》が追跡者とは…どれだけ僕は運が悪いんだろうか。
それに、ちょっとした既視感を感じるヒナタ達と出会った時を思い出せば、魔物に襲われる事も有り得る…そう言えば、ヒナタ達と出会ったのもこの【ヴェルク】周辺だった。そこまで似てくるとなると、しばらく様子を見た方が良いかも知れない。
〔『了解だ。少し隠れて様子を伺うぞ』〕
〔『おや?主よ、少し待つのじゃ。この追跡者、ワシらは会った事が無いのじゃが、主とは知り合いのようじゃ』〕
追跡者と僕のフレンドリストに登録されているプレイヤーの名前を確認している白。
知り合い?僕の知り合いに《狙撃士》っていたっけ?それとも、自分で言うのは凹みそうになるけど、奇特な誰かが最近になって《狙撃士》にジョブチェンジでもしたのか?
〔『…残念』〕
残念ねぇ…
おい、ちょっと待て、黒。その残念と言うのは、どう言う意味なのかな?それは、《狙撃士》にジョブチェンジしたプレイヤーに対するものなのか?その元となる《狙撃士》と言うジョブに対してなのか?どっちなんだ?
〔『…両方+主』〕
〔『+僕?』〕
〔『主よ、黒は尾行するような不届き者とフレンド登録する事が残念と言っておるのじゃ』〕
〔『うっ…取り敢えず、その先の角を曲がったら適当にやり過ごすぞ』〕
確かにそれは否定出来ない。普段なら、銃仲間と聞いただけで是が非でもフレンドに欲しいところだ…だが、フレンドリストに登録されていながらも、こそこそと隠れて尾行するようなプレイヤーは、フレンド登録からやり直させて頂きたい。
…と言うか、そもそも追跡者は誰なんだ?
『〈朧〉』
次の分岐を曲がり、僕は自分自身(白と黒を含めて)に〈朧〉を使う。その瞬間、僕達の存在自体が曖昧になり、洞窟ダンジョンの背景に同化しているような感じになった。さらに、次の分岐で岩陰へと身を潜めて、一つ前の分岐を伺う。はてさて、一体誰が尾行なんて面倒な事をしてるんだ?
『あれれ!?今、確かにシュン兄はこっちに曲がったと思うんだけど…まぁ、良いや。〈狼追〉。そんでもって、対象はシュン兄…』
〔『うん!?あれは…』〕
追跡者はマリアだった。確かに、フレンド登録済みで、白と黒とは会っていない。条件的には合っている。
えっ~と、牙狼族のレベル25で、ジョブは《狙撃士》、所属ギルド名は【ゾディアック】か…聞いた事は無いギルド名だな。と言う事は【noir】同様の零細ギルドか?所持しているスキルは…
〔『主よ、それ以上はプライバシーの損害なのじゃ』〕
〔『それも、そうだな』〕
まぁ、知りたい事は確認出来たから、別にスキルは良いんだけどな。《見破》が便利過ぎて、ついつい視過ぎてしまうのは悪い癖だな。気をつけねば…
それにしても、マリアは本当に銃を使うんだな。この前会った時はジョブ等を確認するの暇無く、フレンド登録だけを済まし、逃げるようにその場を去ったからな、気付かなかったな。
それに、マリアが手に持ってる銃は、僕の製作した【ロングリーロング】だ。あれを買ってくれたのはマリアだったのか。それについてだけは、心の底からお礼を言いたい。
『あれれ!?マーカーが重なってる?う~ん…と言う事は、この辺りにいるの???』
見えない僕を探して、辺りを見回すマリア。残念ながら、その視線は僕の事を捕らえる事は出来ていない。
どうやら、マリアの使った〈狼追〉と言うアーツは、対象…この場合は僕になるのだけど、対象が何処にいるか分かる追跡専用の種族用アーツらしい。
他にも相手の事を知っていないと使えないとか、対象者を一度視認しないと発動出来ないとか、色々と制限は有るみたいだけど、それを補っても余りあるくらい便利なアーツだと思う。
まぁ、今の僕にとっては完全に邪魔物でしかないのだけど。いくら姿を隠して逃げても簡単に追い掛けられるのだから…
ギルド内に牙狼族…メンバーが少ない事が、マイナス方向に働いたらしい。ギルドメンバーの使用出来る種族用のアーツについては、お互いに検証して知っているのだけどな。まぁ、それは置いといて…
〔『さて、どうするかな?』〕
まぁ、この場合は選択肢なんて、有って無いようなものだけど。
〔『…多分、追跡者から逃げるきるのは無理』〕
〔『う~む…主よ、黒の言う通りじゃ。あのアーツが有る限りは、ワシらは逃げ隠れが出来ないようじゃ』〕
どうやら、それについては黒と白も同意見らしい。
〔『了解だ。次の角で〈朧〉を解除するぞ』〕
『あれ?そこにいるのはマリアか?久しぶりだな。どうしたんだ?鉱山ダンジョンで一人とは珍しいな。それとも、アクアと一緒なのか?』
次の曲がり角に移動して〈朧〉を解除し、何喰わぬ顔で何事も無かったかのような態度でマリアの方向に戻ってくる。尾行の事は別として、《狙撃士》がソロで動ける範囲の狭いダンジョンで活動するのは問題が有り過ぎじゃないか?
〔『主も、一人で来る方が多いのじゃ…』〕
白よ、この場の流れ的にも僕の事はスルーして欲しいんだよ、少なくとも今だけは。
『えっ!?あれ?シュン兄?うん、久しぶりだね。うんうん、今日はマリア一人だけだよ。…と言うか、シュン兄、今何かしたんだよね。良い子のマリアは聞かないでおいてあげるけど』
ニヤッと笑いながら核心をついてくるマリア。
相変わらず従兄弟とは違って鋭いな。アーツの内容まではバレていないようだけど、何かしらのアーツを使って隠れていたのは完全にバレたみたいだな。
まぁ、それにはマリア自身の尾行がバレて動揺してる事を隠したいだけと言うのも半分くらいは有るのだろうけど。
『?一体何の事だ?ちょっと迷って、この辺りをうろちょろしていただけで特に何もしてないぞ。マリアの方こそ、一人でダンジョン探索と言う事はレベル上げか?それとも、採掘か?』
僕は後ろめたい事に対する白々しさを一切隠す事なく、会話を進める。マリアのスキルの構成上、僕のスキルやアーツがバレる事はない。
『そうだね。一応レベル上げになるの?かな、シュン兄は?』
どうやら、白々しく惚けてるのはお互い様みたいだな。深く突っ込んで藪蛇にだけはなりたくないから、特に突っ込まないけどな。
『僕は採掘だな。ところで、その銃は僕の作った物だよな。買ってくれたのはマリアだったんだな、ありがとな。それにしても、マリアのジョブは《狙撃士》だったんだな。僕以外の《銃士》は初めて見るよ』
この素直な気持ちだけは伝えておきたい。これだけは本心なのだから。
『《銃士》は、圧倒的に少数派だからね…武器の種類も少ないし、それも仕方が無い事だとも思うけど、寂しいのは事実だよね。今のところ、この【ロングリーロング】が一番性能が良いし、使い勝手も良いから、かなりお世話になってます。あっ、そうだ!!この際だから、私の新しい武器の製作依頼しても良いかな?』
『それは構わないけど、他の武器と違って細かく設定出来ないし、時間も掛かるぞ』
銃の製作自体よりも、主に他の予定の面で…
『うん。それは大丈夫。出来たら、メールしてくれたら良いからね。じゃあ、私はここで、バイバ~イ』
予想外にすぐに立ち去ろうとするマリア。こんな事なら、僕を尾行する必要は無かったんじゃないのか?単なる暇潰しだったか?
そして、僕を一人でここに置き去りですか…まぁ、その方が僕にとっては都合は良いのだけど。
『どうやら、さっきの娘は【ヴェルク】のゲートから転移したようじゃな。主よ、安心じゃとは思うのじゃが、しばらくは警戒した方が良いかも知れないのじゃ』
その言葉とは裏腹に妙な警戒心を見せる白。それが何故か妙に引っ掛かる。
『そうだな…』
普段の…僕の知っているマリアなら、まず最初にアクアの事を聞いて、僕と一緒にいないのかを探したりする事を最優先していただろう。それをしなかったと言う事は、他に目的が有ったと言う事だ。
偶然僕を見掛けて、その場の気分で尾行して、それが偶々見付かった程度で、あそこまで分かり易く動揺しないはずだ。なので、何かを隠しているの明確だろう。簡単には言えない何かを…
…と、シリアスな雰囲気で警戒してみたけど、なんだかんだ言ってもマリアがアクアの事以外に興味を示すのは考え難いんだよな。まぁ、それでも念には念を…の精神で。
『…うん。白、警戒を頼む。それと今日は念の為に《心話》で話そうか』
〔『了解なのじゃ』〕
〔『…了承』〕
〔『主よ、本来の目的通り竜の力のテストをするのじゃ。お誂えな事に、そこを右折した先の小部屋には、お手頃な魔物がおるようじゃ』〕
〔『了解だ…って、おい、ちょっと待て白。お前、さっきから《探索》系のスキル使えてないか?』〕
見ていない出来事を、さも見たかのように答える白に疑問を持つ。
〔『うむ、そのようじゃ。ワシもレベル15に上がった事で新しくスキルを覚えたようじゃ』〕
覚えたようじゃって、簡単に言うけど…これも、《成長》スキルの恩恵なのか?
実際のところ、その性能が半端ない代物だ。レベルが上がってスキルを覚えるだけじゃなく、【白竜】の基礎たる回復力の方も徐々に上がっているのだから。
〔『それなら、存分に活用させて貰うぞ。それで、黒、テストの事だが具体的に僕は何をしたら良いんだ?』〕
〔『………』〕
何も話そうとしない黒。いつも通りと言えばいつも通りなのだけど、何か違和感を…正確には話したくなさそうな雰囲気を感じる。
〔『…主よ、ワシと黒とで相談した事じゃが、主には竜の力の事を詳しく知って貰いたいのじゃ…言いにくいのじゃが、その…悪い方のリスクも含めてじゃ』〕
〔『リスク?』〕
まぁ、あの能力なら、何かしらのminus効果が有っても不思議ではないのだけど…そうやって改まられると不安になるよな。
〔『そうリスクなのじゃ。本来の竜の力と言うは主が示したような個を強化する力ではなく、竜からの感謝…簡単に言うなれば、竜からの恩恵じゃ。魔法の威力が上がるとか、アーツの威力が上がるとかが普通なのじゃ。つまり、使用者に全く反動が無い事が普通なのじゃ。しかしじゃ、どうやら主の場合は少し特殊での…普通では絶対に有り得ない二匹同時での100%な竜の力を使ったお陰も有っての、主の身体は徐々にじゃが、竜の力に蝕まれておるのじゃ』〕
申し訳なさそうな態度を見せる白と黒。そして、その言葉に理解が追い付かないシュン。
〔『…はい!?』〕
白は今何て言った?僕が竜の力に蝕まれている?それは、一体どう言う意味なんだ?
〔『現時点では身体や精神に問題がある訳でも無いし、すぐにどうこうなると言う訳でも無いのじゃが…現在進行形で、ゆっくりと主の毛と目の色が変わりつつ有るのじゃ。主は、あの時ワシらを庇っていたので分からないと思うのじゃが、あの時の主は普段の黒髪黒目では無くて、銀髪赤目になっておったのじゃ』〕
普段は冷静な白が取り乱しながら、支離滅裂に話す。その珍しい出来事だけで、事態の異常さが分かる。多分、それに比例するくらいは想定外の出来事なのだろう。
えっ~と、白の言うあの時って言うのは十中八九風雷のビークィーン戦の事だよな…まぁ、あの時は状況が状況なだけに仕方が無いと思っているし、あの行動は死に戻りも覚悟の上なので後悔はしていないのだけど、黒髪黒目が変化しつつあるって事は少しだけショックだな。それも、よりによって銀髪赤目とは…僕は天狐族であって白兎じゃないんだから、それだけは止めて欲しい。
〔『それに、ワシらの《成長》の影響も有るかも知れないのじゃ…なにぶん二匹同時での竜の力を使った人間など、全く前例の無い事なのじゃ。実に言いにくいのじゃが、完全には大丈夫と言えんのじゃ…本当に申し訳ないのじゃ』〕
いまいち不安な事を聞いたあとだけど、白と黒の二匹を今さら手放すと言う選択肢が僕には存在しない。
だけど、出来ればダンジョンの中では無く、ホームとか落ち着いた場所でゆっくりと聞きたかったよな。まぁ、ホームには大概ギルドメンバーの誰かしらがいるので、白と黒なりに気を使ってくれただけなのだろうけど。
〔『…そうか、まぁ、あれだ。なってしまったものは仕方が無いさ。一つだけ確認しておきたいんだけど、今後もし竜の力を使えた場合は銀髪赤目になるって事だよな?』〕
黒だけでなく白も無言を貫くが、白と黒の二匹が同時に頷いた事だけは分かった。お気に入りの黒髪黒目を無くす事は惜しいけど、見ようによっては銀髪赤目も素敵かもな。
〔『それと、例えば5%とか10%の竜の力だと、どうなんだ?』〕
〔『主の場合は分からん。黒が言うには、その為のテストだそうじゃ』〕
白と黒の二匹も、僕の事を本気で心配してくれているんだろう。
ここからは僕の勝手な想い兼願いだけど、多分白達は僕と一緒にいたいけど、一緒にいない方が良いって思っているんだよな…喋らなくても、多くを語らなくても、《見破》を使わなくても、それなりに長い時間を共にした僕には、それくらいは簡単に伝わってくる。僕としてはその優しさだけで充分だよ。
〔『了解だ。だが、どっちにしても、今のところギルドの皆には絶対に内緒にして欲しい。心配させたくないし、もしかしたら、使っている内に慣れて大丈夫になる(希望的観測)かも知れないからな…あと、先に言っておくけど、結果としてどうなったとしても白の事も黒の事も僕は手放す気はさらさら無いからな。だから、お前達も気にするな。それじゃあ、テスト始めるか』〕
現状は少しでも試してみるしかないな。その日は、ログアウトまで竜の力を使って狩りを繰り返した。
『よし、そろそろ造船所行くか?』
『主よ、やはり、ワシらは…』
歯切れの悪い白。
『白、黒、取り敢えずは昨日のテストでは竜の力に問題が無かったんだから、もう気にするなよ。それとも、僕と一緒にいたくないのか?』
昨日、あれから狩りを続けてテストしてみた解毒、極僅かの竜の力では身体に影響は無かった。この事は《見破》でも視ているので確実だろう。
『『違う』のじゃ』
同時に答える白と黒。この場合、聞いた僕の方が恥ずかしい気がする。
『それなら、もう気にするなよ。僕もお前達と別れるのは嫌なんだからな。きっとなるようになるさ。だから、大丈夫だ。それに、白と黒が意識して100%の竜の力を出さなければ、当面は問題が無いだろ。それに、今日はライトニングの進水式だぞ。白と黒の暗い顔は似合わないと思うんだがな』
『…狡い』
『分かったのじゃ。ワシはもう気にしないのじゃ。もう何かあってもワシらは知らないのじゃ』
白と黒の言う通り、この言い方は我ながら狡い逃れ方だとは思うけど、白と黒の笑顔(くろの表情は分かり難い)が戻る方が大切だと思う。
『それで良い。行くぞ』
僕の言葉と同時に二人は銃の状態に戻りホルスターに戻った。最近、少しずつだが黒もホームでは竜の状態でいる時が多くなってきた気がする。ギルドメンバーにも少しずつだが慣れてきたみたいで良かったかな。
『あれ?僕が最後だったか?待たせてごめんな』
僕達がゲートで造船所に移動すると、すでに皆が待っていた。
『まだ、約束の時間にはなってませんので大丈夫ですよ。ですが、皆さんも揃いましたので少し予定より早いですが初めさせて頂きますね。まず、操舵輪をどうぞ。シュンさんが最後に甲板部の舵を取り付けて下さい』
ヒナタから割と大きめの操舵輪を手渡される。重くはないけど、この大きさだど武器としても使えそうな気がしなくもない。例えるなら、古代インドで使われていた投擲用武器の変則的な形のような…
『それを取り付ける事でライトニングは本当に完成します。一応、メイン動力は風を生かした帆船ですが、ライトニングにはサブ的な役割として魔動力エンジンも搭載しています』
魔動力エンジンとは魔力を使って船を動かす為の代物で、ヒナタとカゲロウが《造船》スキルのオプションで製作した逸品だ。万が一(会場で稀に起こりうる凪等)の場合に補助動力が、どうしても必要だと言う事で、本来のライトニングには絶対に存在しない物だがヒナタが取り付けていた。
その他にも舵は船内の操舵室にも有るらしいが、こちらの報は雰囲気の為に設置しているので滅多に使う事は無いらしい。
『おいおい、そんな大役が僕で良いのか?ヒナタ船長の方が良いと僕は思うんだが?』
『キャ、船長!?わ、私が船長なんですか?』
『それはヒナタ以外に絶対いないよ。これも前もって皆で話したけど、満場一致だったよ。これは私達からの【船長帽】。作ってみたから良かったら使ってね。一応サイズは合ってると思うけど、あとで手直しも出来るからね』
『ゆきも、そのはねかざりをてつだったの』
アキラと雪ちゃんが【船長帽】をヒナタに手渡した。
【船長帽】と言っても海賊船の船長が被ってそうな風な感じだけど、雪ちゃんが手伝ったらしい大小三枚の白の羽飾りが妙に格好良いから気にならないよな。
ヒナタは嬉しそうに船長帽を眺めた後、ゆっくりと被った。
『に、似合いますか?』
その一言を皮切りに皆が一斉に拍手をした。若干、照れているけど顔はとても嬉しそうなヒナタ。
『おぅ。似合ってるぞ。それと、やっぱり舵はヒナタが取り付けてくれ。多分、その方がしっくりくるからな』
僕は、ヒナタから受け取った操舵輪をヒナタに返す。
『それでは、僭越ながら私が取り付けさせて頂きますね。少々お待ち下さい』
操舵輪を取り付けた瞬間、甲板にいるヒナタから一筋の涙が流れたように僕には見えた。本当にヒナタの夢が叶って良かったと思う。
残すは本日のメインイベント、進水式だけだ。
『ヒナタ、この辺で良いか?』
この幸せそうな輪の中で、一人だけ外れた場所にいたカゲロウが皆の背後で慣れた手つきでクレーンの操作している。
『うん、大丈夫。では、皆さんカウントを3・2・1・0でお願いします…せ~の』
『『『『『『『3・2・1・0』』』』』』』
『ライトニング、進水!!』
ヒナタの一声と共にライトニングは静かに海面へと着水した。
物の見事に水面に浮いている。特に水漏れ等もしてなさそうだ。改めて水面に浮いているライトニングを見ると、ボキャブラリーの少ない僕には壮観と言う言葉しか浮かんでこない。
それにしても、僕達は自力で船を作ったんだよな。そう認識すると少し感極まってか、僕の目からも一筋の涙が流れた。
あっ、そうだ!!スクリーンショットを残しておこう。これも記念になるからな。
『ヒナタ、おめでとうございますです』
『ヒナタ、お疲れさんやな』
『お疲れ様、頑張ったね』
『ヒナタおねえちゃん、すごいの』
ケイト、フレイ、アキラ、雪ちゃんの順でヒナタに称賛を贈る。この数週間のヒナタの頑張りを見ているので皆も僕同様に嬉し涙を流していた。
『では、皆さんも、ライトニングに乗り込んで下さい。出航します』
その言葉で、皆が我先にとライトニングに乗り込んでいく。この中で唯一空を飛べる雪ちゃんだけは反則的な乗船方法だったけど。
『おぉ~!!乗り心地も完全に船だな』
微妙な波の揺れ具合までもが再現されている。まぁ、現実の船と違って補正の効いているライトニングは、どんな嵐の中でも激しく揺れないのは良いところだ。船酔いの心配が無いのだから。
全員が乗り込んだライトニングは、進路を【蒼の洞窟】の出口へと変える。出口に近付くにつれて徐々に、僕の視界に映る空と海の青色の割合が大きくなっていく。
『いよいよだな。船長、取り敢えず、一キロくらい沖まで出てみるか?』
一キロ程度では外海と言うよりも、まだ海辺程度だろう。でも、処女航海の最初のイベントとしては充分だと思う。
『はい!』
ヒナタの嬉しそうな顔と声に、他の皆も揃ってワクワクが止まらないといった感じだ。当然、僕も含めてだけどな。
『それでは、カゲロウ帆を張って下さい』
ヒナタの一言で今日は裏方に撤しているカゲロウがメインマストの帆を張る…うん?昨日までは存在しなかったものが、そこには有った。
『…ヒナタ、それどないしたんや?』
『そうだよね。昨日までは絶対に真っ白だったよね。それ、私が縫った帆だよね?』
フレイとアキラが次々にヒナタを問いただす。問いただすと言っても、そこに悪い意味は存在していない。
『私から皆さんへのお礼と言いますか…そのサプライズですね』
その大きく広げられた帆には、これまた大きく綺麗にギルドのマークが描かれていた。
ふ~ん、なるほどな。昨日、あのあとで一人で描いたな…それにしても、見事なものだ。
ヒナタとカゲロウは嬉しそうにしている。普段は姉弟なのに余り似ていないと思うけど、こう言うところは本当にそっくりだと思う。
『ヒナタ、このマークはアメージングでビューティフォーです』
この中の誰よりも帆のマークを見て目を輝かせているケイト。
『そうだな。僕も驚いたけど、ありがとな』
ヒナタの陰で自信満々な顔をしているところを見るとカゲロウだけは知っていたようだな。むしろ、一緒に手伝わされた感じだな?
そんなイベントを船上で進行させながら、【蒼の洞窟】を出たライトニングは帆で風を捉えて一直線に進んで行く。甲板で受ける潮風が気持ち良いし心地好い。微かに薫る潮の匂いも良い感じのアクセントになっている。
『凄い、凄い、帆船ってこんなに速いんだね』
珍しくはしゃぐアキラ。
だが、その気持ちは分かる。風を掴んだ帆船ってかなり速かったんだな。
本当にあっと言う間もなく一キロ沖までやって来た。そんな時だった…
〔緊急連絡、緊急連絡。只今、黒の職人さんことシュン様のパーティーが外界へと進出しました〕
『な、何だ!?』
どうした?一体何が起こった?
〔つきましては、緊急イベント【レイドバトル クラーゴンの討伐】が発動致します。このレイドバトルは、五パーティー(三十人以下)限定となっております。なお、【ポルト】から沖へ二キロの地点に進んだ時点で戦闘が始まりますのでご注意下さい。それでは、皆様の幸運を運営一同お祈りいたします。以上で緊急連絡を終了させて頂きます〕
『『『『『えっ~~~~』』』』』
『マジか…』
これは洒落にならん。驚く皆を尻目に僕はそう思うのだった。
装備
武器
【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉
【白竜Lv19】攻撃力0/回復力129〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv16】攻撃力0/回復力126〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールホルスター】防御力10〈特殊効果:速度上昇・小〉〈製作ボーナス:リロード短縮・中〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv34
《双銃士》Lv54
《魔銃》Lv52《双銃》Lv48《拳》Lv35《速度強化》Lv80《回避強化》Lv82《旋風魔法》Lv32《魔力回復補助》Lv78《付与術》Lv47《付与銃》Lv56《見破》Lv74
サブ
《調合職人》Lv24《鍛冶職人》Lv27《革職人》Lv52《木工職人》Lv30《鞄職人》Lv49《細工職人》Lv24《錬金職人》Lv24《銃製作》Lv35《裁縫職人》Lv12《機械製作》Lv1《料理》Lv36《造船》Lv14《家守護神》Lv14《合成》Lv12
SP 58
称号
〈もたざる者〉〈トラウマ王〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈自然の摂理に逆らう者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈なりたて飼い主〉