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OOO ~Original Objective Online~ 改訂版  作者: 1048
第一章 第三部
24/65

★白と黒(モノクロ)

 『おい、白。この状況でのその発言は流石に冷静過ぎないか…それとも、白には何か良い案でも有るのか?』

 レアボスのさらにレアを目の前にしても、この冷静さ…ある意味羨ましくは有るけど、流石に呆れてしまうよ。飼い主である僕としては…


 もし、このままの状態で最後まで戦うとするなら、かなりの長期戦になる。これは間違いないし、疑いようもない事実だ。


 今も、銃弾の節約と戦闘の効率化を最優先で考えて〈零距離射撃(僕の最強攻撃)〉で攻撃はしている。してはいるのだけど、攻撃を集中させている風のビークィーンですらHPは六~七割程残っている。雷のビークィーンに至っては、まだ一割も削れていない。本当に、最近は【魔銃】に頼りっきりだったとつくづく後悔されられるよ。


 明らかに残りの銃弾が心許ない。風雷(ふうらい)雷風(らいふう)?どっちになるかは分からないけど、片方を倒した時に現れるてあろう合体ビークィーンの事も考えると銃弾は全く足らないだろう。合体後は、僕の所持している《旋風魔法(他の攻撃方法)》も属性的に全く通用しないだろうし…


 『主よ、飼い主と言うのは少しワシに対して失礼なのじゃ。それはともかく、ワシは絶体絶命と先程申したはずなのじゃ。それに、ボスとの戦闘中にこんな会話が出来ている主も大概冷静だと思うのじゃ』

 絶対に言われたくない部分を突かれ逆にツッコミを入れられてしまう。


 それはともかく(・・・・・・)、白にも良い案は無いらしい。肝心な時に全く使い物にならない白は別にして、新入りの黒には悪い事をしたよな。


 完全に自分自身の事を棚に上げて、ついつい他の事を考え始めるシュン。ボスを前にこの状態では、絶対に人の事は言えない。それをシュン自身が悟る時は来るのだろうか?


 こうなる事が分かっていたなら、ホームを出る前のケイト達の誘いを断らなかったんだけどな。まぁ、それよりもだ。こうなる事が分かっていたなら、何に代えても(最優先で)【魔銃】を製作していただろう。


 まぁ、この状態で仮に二丁の【魔銃】が有ったとしても、これまた多分有るであろう合体クィーンからの最後の一撃(ファイナルアタック)を、MPを攻撃に使い続けた(カラカラにした)状態の僕が耐えれるとも思えない…と言う事は、どっちにしても死に戻りの未来(結果)は変わらないと言う事だ。


 『黒、悪かったな。どうやら、初戦は負け戦になりそうだ』


 『………』

 黒に話し掛けても相変わらず返事は無い。でも、その言葉が伝わった事だけははっきりと分かる。


 そんな中、九割以上諦めて黒に喋りかけながら戦っている僕でも、射撃&リロードの手と回避する為の足は止めていない。木の陰も巧く使って回避もしていく。僕にはまだダメージと言ったダメージは無い。だけど、このままの状態なら体力(HP)よりも精神的()が持たないだろう。


 お先真っ暗(絶望)…そんな考えを本気で持ち始めた時だった。


 『…白』


 『うん!?』

 今のが僕の空耳でなければ、もしかして黒が初めて喋ったのか?と言うか、白と何か会話してるのか?


 『なるほどの…それは名案なのじゃ。主よ、黒から一つ提案が有るのじゃ』

 自らの無言を破る黒の一言を受け、名案とまで言い切る白。もしかして、僕は微かな期待でも持てるのか?持っても良いのですか?


 『いいよ、話して』

 それならば、是が非でも聞いてみたい。


 『主よ、黒の案は射撃での攻撃と同時に魔法か【疾風】を使い、周りの生えている木々を斬り倒してダメージを上乗せしてはどうかと言うものじゃ』

 白には《心話》で直接話をして伝えていた黒の作戦(名案)を僕は間接的に(白から)知る。


 人見知りらしい黒の言葉を間接的にでも知れる。少しは良い傾向なのかな。だけど、魔法などでエリアや背景を傷付ける…そんな事は、実際に可能なのだろうか?


 『主よ、その点は大丈夫なのじゃ。黒の言う内容なら可能なはずじゃ。これは一種の地形ダメージ扱いになるのじゃ。主の真相心理に残っている(記憶に刻まれている)倉庫事件と同じ扱いなのじゃ』

 なるほど、あれと同じようなものか…と言うか何故あの事を知っている、白よ。あれは確実に白と出会う前の事件。白が体験出来るはずはない。


 『主よ、ワシは主の記憶も知っておるのじゃ。デビュー戦で無抵抗敗北…レクトパスとの心中(しんじゅう)…』


 『もういい、もういい。分かったから、僕のトラウマを簡単に(えぐ)らないで』

 僕は今ので致命的な精神的(不必要な)ダメージを受けた気がするぞ。


 でも、経験者は語る訳ではないけど、それなら可能かも知れない。ただ…あの記憶も早々に忘れ去りたかったんだけど、これで不可能になったのは間違いないだろう。


 『主よ、そこは一旦置いておくのじゃ。それと、合体クィーンじゃったか?黒が言うには合体したら特殊な弾で攻撃すれば良いそうじゃ。どうやら、黒は極度の人見知りじゃが、頭は賢い(キレる)ようじゃ』

 それには同意だな。確かに頭はキレるらしい。僕よりも、白よりも。


 最近は全く使用する機会すら無かったので、製作者である僕ですら忘れていた存在の状態異常弾を戦略に入れてくるとは、本当にお見逸れしました。


 『了解だ。取り敢えず、目の前の風のビークィーンを倒すぞ』

 僅か…極々僅かに見えた勝機。それだけで、さっきまでの僕とはやる気自体が違っている。


 だが、まずは斬り倒した木で本当にダメージが出るのかを試しておくのが先決だろう。


 『行け、〈ウインドカッター〉×3』

 放たれた三つの〈ウインドカッター〉は各々(それぞれ)が別々の弧を描きビークィーンの周りの木々へと進んでいく。


 《風魔法》を《旋風魔法》に進化させて、レベルも少しずつ上がってはいるけど、僕は新しい魔法は全く覚えていない。その代わりと言うか、一発の魔法の大きさ(威力)を調整出来たり、同じ魔法を現時点で四発まで同時に発動する事が可能になっていた。


 まぁ、魔法の威力の調整や一発ずつ同時に放てる魔法の数が増えていくと言う事自体が新しい魔法とも言えなくはないけど。


 連続発動と勘違いされがちだが、僕が出来るようになったのは同時発動(・・・・)同時発動(これ)の長所は同時に数発の魔法を放つ事で対象の回避を難しくさせる事と僕が銃を使ってよく行う牽制と攻撃を一つの魔法で同時に行う事が出来る事だと僕は思っている。


 前者は逃げる方向を一つに限定する事で、確実に二撃目、三撃目を当てる効率の良い戦い方で、後者は攻撃をしながらも僕自身や仲間に近寄らせない為の戦い方だ。根本的な使い方は似ているけど、その使用者しだいでその能力(内容)はガラッと様変わりするのだから。


 今、僕の目の前で起きているように…


 『おいおい』

 思った以上に…と言うか、〈ウインドカッター(魔法)〉で斬り倒された木からのダメージは僕の射撃以上…いや、ウインドカッター本体の直撃よりも遥かに大きなダメージを叩き出している。


 最近は色々と便利になっていたり、ダメージが出ない戦い方自体(そのもの)に慣れてきた事も有り、その当人ですら忘れていたけど、やっぱり銃の攻撃力の無さは相変わらずなんだな。次のバージョンアップで種族について改善するよりも先に、この点を重点的にテコ入れして欲しい(数少ないはず(絶滅危惧種)の《銃士》一同を代表して)。そして、そのついでに僕にも《銃士》のまともな(・・・・)フレンドを…


 『主よ、そう言う事を考えるのは戦闘後にした方が良いと思うのじゃ』

 白の奴、しっかりと僕の心の声を聞いてたんだな。まあ、間違ってないから今回は反論しないけど…


 『黒、上手くいきそうだ。ありがとう』

 本当に黒には感謝の言葉しか出ない。黒からの来るか来ないか分からない返事を待たず、僕はビークィーンへの攻撃を続けた。





 しばらく同じ行動を繰り返し、最後は〈零距離射撃〉と木々を切り倒した地形ダメージの連続(コンボ)で、ついに僕は風のビークィーンを削り切った。


 やはりと言うか、当然と言うか、ごく自然な感じでエリアの雰囲気は雷鳴が轟く嵐へと変化していく。そして、さも当たり前な感じで倒れた風のビークィーンを吸収するかのように雷のビークィーンが覆い被さり徐々に合体していく…表示された名前は風雷(ふうらい)のビークィーン。


 その名前を確認した僕は左手の【雷鳴】を【白竜】へと持ち変えた。さぁ、ここからが本当の開戦だ。


 『〈零距離射撃〉〈ウインドカッター〉』

 急接近(HiT)で〈零距離射撃〉をクィーンに放つ。そして()急離脱(Away)をしながら〈ウインドカッター〉でビークィーンに近い木々を巻き込み斬り倒していく。追撃が当たらなくても、散っていく木々達は進路妨害の役目を果たしてくれる。


 散っていく多くの木々達よ、本当にすまない。必ずあとで掃除(美味しく回収)し、素材(新たな命)として使わせて貰う事を約束するよ。


 こんな端から見れば森林伐採のような行動を続けていますけど、決して僕は自然破壊をしている訳ではありませんよ。その辺りは悪しからず…


 『………』


 『黒よ、そう不思議がるでないのじゃ。ワシらの主は大体いつもこんな感じなのじゃ。黒も早く慣れた方が良いのじゃ』

 射撃で使われながらも、器用に《心話》を使い黒に僕の情報を語りだす白。


 何か、物凄く不本意な紹介を受けた気がするのだけど。今日ここに来た一番の目的が素材の回収なのだから、僕がここを綺麗に片付けるのは当然の事だと思うし、そのついでに辺り一面に伐採され散らばっている木の枝や丸太等を回収して帰る権利も僕に有るはずだ。


 それにだ、あんなに美味しそうな(集めるだけでOK)状態の木材なんだ。その大小問わずヒナタも大喜びに違いないのだから。全ては《造船》の為になっているはず…


 ビークィーンとの安全なマージンを保った戦い方に慣れてきた事も有って、徐々にだが戦闘以外の事も考えれるようになっている。


 『主よ、主の場合は最初から雑念の方が多いのじゃ。レアボスが不憫で仕方ないのじゃ』

 いや、決してそのような事は…な、なぁ、黒


 『………』


 誰からも見られてない、今現在戦闘中で《魔銃化(銃の状態)》を保つ白と黒からは絶対に見られているはずはない。だけど、この間の僕は4つのジト目で見られているように感じた。


 え、えっ~と、話を戻すとして…それにしてもだ、さっきから消費しまくっているはずのMPの回復速度が異様に速くないだろうか?


 普段よりも、遥かに多く《付与術》と《旋風魔法》を放っているはずなのだけど、MPの消費がかなり少ない…いや、むしろ減ってないと言った方が正解に近い気もする。何かしらの影響か?レアボス発見に対するボーナスとか…ソロでレアボスと闘う時のアドバンテージとか…いや、そんな話は誰からも聞いた事はない。


 まぁ、当の本人()としては助かっているのだから、どっちだったとしても問題は無いけど…と言うか、この状態でなければ、すでに僕は摘んでいただろう。


 〔『………竜の力』〕


 〔『竜の力?』〕

 うん~、どこかで聞いたような…あっ!


 確か、竜の力と言うのは【白竜】と【黒竜】を装備した時のセットボーナスだったか?えっ~と、内容は確か…自己回復力強化だったかな?


 えっ!?えっ~~~!も、もしかして、魔力の自然回復力上昇の事だったのか?


 僕が内心で驚くのと同時に黒が《心話》でコクッて頷くのを感じた。


 『黒よ、嘘をつくでないのじゃ。主よ、少しだけ間違っておるのじゃ。竜の力の自己回復力強化と言うのは魔力(MP)だけでなく、身体(HP)や状態異常も含まれておるのじゃ。自己回復力強化の事を分かりやすく説明するのならじゃ、瞬時快気とか常時回復が相応しいのじゃ。仮にも、ワシら生物の頂点()が与える能力なのじゃ。それくらいは簡単に出来ない方が不思議なのじゃ』


 『マジか!?』

 いや、待て…自己回復力強化の内容は一端置いておく…こんなの置いておけるか!最近、僕の中の常識が狂いつつあるのは理解しているけど、これは別、絶対に別格。つまりは、即死(一撃KO)以外なら、徐々に回復してしまうと言うのか?これって有る意味、死なない(不死)と言う事じゃないのか?


 だが、それをも置いておきたくなる生物の頂点発言(白の言葉)。それ、全く聞いてないんですけど…


 『そ、そんな事が有っても良いのか?』

 今の特殊過ぎる状況が、完全にレアボス中のレアボスであろう風雷のビークィーン(まぁ、こっちも十分に特殊で異常事態なんだけど…)は完全に置き去りにしていた。まぁ、置き去りにしていると言っても、回避と牽制(…と言っても、現在の僕に当てる意志を持続出来ていないだけ)は続けているので完全に無視している訳でも無い。


 端から聞けば、全く豪華(ゴージャス)な話だと思う。完全に当人は別にしてたけど…


 『『………』』

 僕の思考を正確に理解し、それでも無視を決め込む黒と、その黒に便乗するような態度を見せる白。


 ついに、白までが黙秘を決め込んだ。


 『白よ、お前もか…』

 色々と余計な事まで考えている僕だけど、今の状況が余裕と言う訳でも無い。今僕がしているのは(ちまた)では現実逃避と言うのだから…


 『『………』』

 これも無視か…もういいですよ!


 『と、取り敢えず、先に倒すぞ。〈ウインドカッター〉×4』

 完全に気分を切り替えた僕は周囲の木々を斬り倒して、ダメージ+行動範囲を限定させた。さらに、僕はビークィーンの懐に潜り込んで…


 『〈零距離射撃〉。これで、どうだ?』

 木々からの地形ダメージと【毒弾】の射撃でのコンボで一気に大ダメージを叩き出した。まぁ、大ダメージと言っても僕に出せるのはビークィーンのHPに対して3%程度だけど…


 『よし!!』

 それでも僕にとっては大きな一撃。それに、ようやく念願の毒のステータス異常にもなってくれた。


 ビークィーンが合体してからは、なけなしの【毒弾】を使い倒し射撃を繰り返していたが、全く状態異常になってくれなかった。そして、ここにきてようやくの一撃。ビークィーン自体は毒の耐性は持ってないはずなんだけどな。《見破》でも改めて確認しているので、それは間違いは無いだろう…と言う事は、ここでも運が大きく作用しているのか?ちょっと悲しくなるよ、流石に(不運な)僕も…


 『主よ、そうじゃの…あと数十回は今と同じ攻撃(クリティカル)が必要なのじゃ』

 僕の言葉は黙秘していても、しっかりと忘れずに突っ込みだけは入れるんですね。


 でも、残念ながらそれは大きな間違いだ。僕も存在自体(そのもの)を忘れていた状態異常弾を思い出したお陰で、もう一つの特殊弾の存在を思い出したのだから…


 『いや、ここからは【宝石弾(取って置き)】を使用するからな。もう少し早く片付くはずだ』

 まぁ、クィーンが今の攻撃を続けて(このまま)新しい事を何もしてこなかったらの話だし、早くなったと言っても十の位が一つ下がる程度の僅かな違いなのだけど。今の僕にとってみればその数回の差は何よりも大きい。


 【宝石弾(ジュエルス)】は攻撃力+40と【デルタシーク】本体並の攻撃力を誇っている僕オリジナルの弾丸。ただし、その威力相応にコストパフォーマンスは非常に悪い。なので、今までは使い時を考えてと言う建前の元、最初にテストして以降は一度も使った事は無かった。だからこそ、今がその使い時と言うやつなのだろう。そう思った僕は回避を繰り返しながら、マガジンを変更し慎重にビークィーンとの距離を詰めていく。


 『喰らえ!!〈急所撃ち〉〈跳弾〉』

 さらに近付いて〈零距離射撃〉で、もう一度と追い討ちと思ったが、ビークィーンもHPが減ってきている事も有り、その戦闘パターンも若干変わりはじめている。


 ビークィーンが放つ一つ一つの攻撃だけでなく、ビークィーン自身の周りにもその身を守るかの如く風の障壁が出来て、プレイヤー(この場合は僕)が近付けないようになっていた。近付けなくなった事で、ある程度離れた距離から〈跳弾〉と〈ウインドカッター〉を繰り出していく。この二種類の攻撃は風の障壁によってダメージを軽減されたり、反射されたりしていた。はっきり言って、厄介な事この上ない。


 ただ、いくら厄介な風の障壁と言っても僕自身とそれに付随する攻撃を簡単に受け付けないだけで、僕のメイン攻撃(木材)今まで同様(普通)にダメージが通る。つまり、僕にとっては大きな問題になってないと言う事だ。


 僕だって、トリプルオーには短くない(それなりの)時間を使ってきているんだ。それ相応に様々な戦い方は経験しているんだ。だから、この程度は慣れているんだよ。


 『…白』


 『主よ、黒が風の盾と言っておるのじゃ』

 白を通してでもアドバイスはくれるのは素直に嬉しい。嬉しいのだけど、まだ僕の名前は呼んでくれない。黒は《心話》で白だけに分かるように内容を伝えてくれている。それが、ちょっとだけ寂しい。


 『風の盾?これの事か〈ウインドシールド〉』

 僕自身に〈ウインドシールド〉を掛けてみせる。


 『………』

 また黒が無言のまま頷いたのが伝わってきた。


 『うむ…なるほどなのじゃ。主よ、黒が言うにはじゃ。主が考えている最後に放たれるであろう一撃とやらを、〈ウインドシールド(それ)〉で耐える作戦なのだそうじゃ』

 確かに、風雷のビークィーンが最後に放つ一撃がどんな代物か分からないので準備を怠る訳にはいかない。風雷のビークィーンと同じ風雷属性の対策は出来無いし、風属性の〈ウインドシールド〉では心許(こころもと)ないけど、何も無いよりは遥かにマシだろう。


 そもそも、氷火のビークィーンと同様に最後の一撃が来るのかも分からない。それなら、念には念を入れて…


 『〈ウインドシールド〉×2』

 僕は何の相談もなく、白と黒にも〈ウインドシールド〉を掛けた。


 『主よ、どうしてなのじゃ?なんで、ワシらにも〈ウインドシールド〉を掛けるのじゃ』

 慌てた白が驚いて問いただしてくる。珍しい光景だけど、そんなに驚く事だろうか?


 『もしも、だ。仮に僕の予想通りに最後の一撃が有った場合、攻撃を受けるのは僕達三人共(全員)だ。白も黒も痛いのは嫌だろ?だからだ。深くは考えるな』

 それに、残りのHP的に最後の一撃が有るのなら、そろそろ来ても良い頃なんだ。最後の一撃を回避する為には、今のように会話にリソースを()いている余裕は流石に無いだろう。


 そうこうしている内にビークィーンも魔力を溜めだした。僕も念を押しで自分自身に対して、もう一度〈魔法防御力上昇〉と〈防御力上昇〉の《付与術》を掛けておく。あとから考えると、これらの行為は本当に正解だった。


 ビークィーンの魔力が溜まり始めると同時に、周囲(エリア)の雰囲気が静かに、穏やかになっていく。だが、逆に張り詰められた緊張感は増していくように感じられる…これが俗に言う、嵐の前の静けさなのだろうか…


 『おいおい、今度は嵐かよ』

 やがて、さっきまでの静けさが嘘のように、激しい風と雨が僕を襲う。さらに、一段と強烈な弾ける雷を伴った暴風がビークィーン。中心に巻き起こる。


 改めて、距離を取り直すシュン。本当に、この戦場(エリア)は生地獄になる事が多い。


 『嘘だろ!?これは悪い冗談なんだよな…いや、冗談だと言ってくれ』

 目の前で放たれた雷を伴った暴風…それはビークィーンを中心にドーム状にゆっくりと進み、じわじわと僕に近付いてくる。


 逃げ場のないこの状況で放たれる攻撃の種類(ステータス)全体範囲攻撃(回避不可能)って有りなんですか?《見破》が必要以上に作用して僕に伝えてくた。あまり、知りたくなかった事実を積極的に僕に押し付けるように…


 これでは、どう考えても回避の方法が無い。まぁ、運営側は僕に回避と言う選択肢すら用意してくれてないみたいだけど。


 僕は、風雷のビークィーンに背を向けて、白と黒を抱え込むようにしゃがみこんだ。


 頼む!お願いだ。瀕死(HP1)で良いから、耐えてくれ…


 『うっがぁぁぁ~~~…』

 僕はそのあまりの衝撃と威力を感じた瞬間に死に戻りを覚悟した。儚い願いすらも諦めて…





 『…う、ぅうん。・・・・・・・(ここは?どこだ?)終わったのか?』

 目の前に広がるのは、最後に見た光景が夢だったかのような安定平穏。気のせいかも知れないけど、春のようなぽかぽかした暖かさも感じられる。


 どう見てもここは僕の知っている神殿じゃないよな。まさか…天国?いや、それも違うな。


 木々の隙間から差し込む木漏れ日。どこか懐かしい緑の薫り。そこから考えられる事は…ここは僕にとっては勝手知ったる森の中。つまり、そう言う事なのだろう。それをさらに裏付けるかのように目の前に散乱している木材達がこの場所が森の中だと主張していた。


 もしかして、僕は生きているのか?本当に、あれに耐える事が出来た?いや、それは信じられない。でも…


 『本当に助かった…のか?』

 だが、頭では理解しようとしても、心と身体は頭の理解には付いてこれていない。


 それにしても、どれくらいの時間を耐えていたのだろうか?僕の体感時間では十分それよりも長い(以上だ)けど…実際は、そんなに長くは無いだろう。正確な時間は計測していないので分からないけど時間を見る感じでは二~三分と言ったところか。まぁ、実際に喰らった身の僕としては、あれが二~三分足らずの出来事だったとは思いたくないけど。


 結果として、僕はあの地獄のような時間を耐えた抜いたらしい。今はさっきまでの暴風や雷が嘘のように穏やかになっている。そして、そこには元凶たる風雷のビークィーンの姿は影も形も無い。


 『えっ!?』

 これは何だ?どう言う事だ?


 僕はギリギリ死ななかっただけで、かなりの大ダメージも受けているはずだ。VRに転用されて低周波電流並みの威力に軽減されているとは言え、ビークィーンの攻撃を受けた時はそれなりに痛かった。それなのにHPが全く減ってない。そんな事は絶対に有り得ない。僕の身体は痛みを覚えているのだから。


 暴風の直撃だけでなく、暴風に巻き込まれた石や木の枝も叩き付けられてダメージ以上に痛く感じてもいたし、空中で何度も弾けた(電流)を肌に直接感じている…これは低周波電流どころの痛みではなかった。本来なら、こうやって動けて(生きて)いるのも不思議なのだ。これが現実だったなら、最低でも僕の半身は血だらけ、もう半身は真っ黒に炭化していた事だろう…気付いた時には神殿にいた…でも不思議ではないダメージは受けているはずだ。


 『主よ、大丈夫だったかの?』


 『…えっ!?』

 その声に反応した僕は、腕の中に抱え込んでいたはずの白と黒がいない事に気が付いた。


 それもそのはずで、今の声は僕の頭上から聞こえている。僕が見上げると、そこには白色(はくしょく)黒色(こくしょく)に輝く二匹の竜がいた。


 『な、何で!?』

 どう言う事なんだ?


 僕がとっさに守ったはずだった二人に、僕は逆に守られていた?


 いや、それは違う…あの攻撃を受けていた時は確実に僕の腕の中にいた。一発たりとも攻撃を当てさせない為に、しっかりと抱き締めていた。受けたダメージ以上に二人のその感触は身体に刻まれるように残されている。じゃあ、何故なんだ?


 『…お礼』


 『ワシらからの主の防御魔法のお礼なのじゃ』

 初めて僕に対する言葉を直接放ってくれた黒とそれを補足する白。気になる事が多過ぎて、心と身体を遥か彼方に追い越して理解自体(そのもの)が置き去りにされている。


 一体、僕が気を失っている間に何が有ったんだ?


 『主よ、ワシは知らなかったのじゃが、黒が言うには銃の状態では竜の力を10%程度しか発揮していないそうじゃ。ワシらが(本当)の姿になって、初めて本来の力が発揮されるようなのじゃ』

 えっ~と、ちょっと待て。色々と有り過ぎて、何がなんだかさっぱりなんですけど…まだ僕の頭の回転は追い付いこない。それどころか、動き出すことを拒んでいるかにも感じられる。


 えっ~…と言う事は何だ。僕がほぼ死なないじゃないかと喜び思い込んでいた竜の力は10%(微力)で真の力は未知数と言う事になるのか…


 『じゃあ、100%(全力)って一体何なんだよ』

 さらに焦る僕。


 『それはじゃの…これは、最初に言っておくのじゃが、この能力はいつでも自由に簡単に使える能力(スキル)とは全く違う力なのじゃ。この能力を説明してくれた黒にも、竜の力の詳細(中身)は分からない事の方が多いらしいのじゃ。今回の事で分かったのは、100%の竜の力が発動している間は痛みを感じるのかも知れんが、防御面では無敵と言う事じゃ』

 多少の誇張(だと思いたい言葉)?を交えながらも、自信を持って説明する白。


 白自身も正確には理解していないのだろう。そのたどたどしい説明の中にも丁寧な姿勢には少しの共感が持てた。そして、僕の理解は加速を始める。


 『む、無敵か…』

 確かに白の言う事が本当なら、無敵と言う言葉は確かにしっくりくる気がする。だが、こんな力を何の制限も無しに簡単に使えては他のプレイヤーからすれば堪ったものではないし、これはゲームバランス以前の問題だろう。


 そんな事を僕が考えていると、その事を知ってか知らずか(多分前者)、白が後付けで説明してくれた。白曰く、今回の出来事は「二匹(二人)の竜の意思」と「僕の二匹(二人)に対する想い」の二つが有って偶々(たまたま)発現された奇跡みたいなものらしい。奇跡と言う言葉も何故かしっくりときている気もする。


 だけど…まぁ、この条件が本当だとするなら、滅多な事で発動してしまう事は無いな。なぜなら、片方(一人)意志疎通が苦手(人見知り)で、もう片方(一人)底知れない自由人(天の邪鬼)で、最後の関係者である僕自身には今後滅多な事で使う気が無いのだから。


 『…白、黒、ありがとうな』

 …と言うか、後ろ向き(プラス)逆光ではっきりと姿は見れないけど、黒が竜の姿になってる。初めて見たけど、黒い輝きを放つ黒は同じく白い輝きを放っている白と同じように綺麗だ。


 そんな事を僕が思った瞬間に、その事が黒にも伝わったのか?黒は恥ずかしそうに銃の姿に戻りホルスターへと戻っていった。


 『黒、ありがとうな』

 もう一度お礼を述べながら、僕は銃身を丁寧に撫でた。


 『主よ、主は少々過保護が過ぎるのじゃ。まだ本日のメイン、素材の回収が残っておるのじゃ。さっさと済ませて雪の待つホームに帰るのじゃ』

 そう言い残して、少し拗ねた風の白もホルスターに戻っていった。


 『おう。白も、ありがとな』

 白にも改めてお礼を言い黒と同じように丁寧に撫でてから採取へと入る。


 だが、楽勝だと思っていた採取には思わぬ落とし穴が待ち受けていた。戦闘中に攻撃手段として伐採した大小様々な木材が大量に出来ていた為、思っていたよりも遥かに時間が掛かったのだ。


 『あれ!?これって御神木じゃないよな。おいおい、嘘だろ…御神巨木(ごしんきょぼく)?だと』

 どうやら僕はまた新しい木材をGETしたらしい。


 素材的には御神木の(ワン)ランクアップと言った感じの逸品。これも御神巨木も御神木同様に十本回収出来た。これもまた《造船》で使えるかも知れないよな。帰ったらヒナタにお土産として渡そうか。きっと、彼女は喜んでくれるに違いない。





 『マスター、お帰りなさいです』

 僕がホームに戻ると、それを待ちかまえていたかのように出迎えてくれるケイト。ホーム全体の掃除をしてくれているようだけど、そのメイド服はどうした?いや、多分これは突っ込んだら負けだな。


 『ただいま。ケイト、さっきは連れて行ってやれなくて悪かったな。それと、ヒナタは今いる?』


 『私なら大丈夫なのです。ヒナタは、工房で木材の下処理(加工)をしていますです』


 『そっか、ありがとうな』

 ホームに戻った僕はケイトとの会話もそこそこに、その足でヒナタのいる工房へと進んで行く。


 『ヒナタ、ただいま。これ、御神巨木(お土産)だ。《造船》で使ってくれ。それと、さっきは悪かったな』


 『あっ、私は大丈夫です。それは気にしないで下さい。えっ!?お土産って、えっ!?』

手渡された御神巨木を見て驚きを隠せないヒナタ。まぁ、それもそのはずで、なにしろ今までの御神木(素材)と違い、かなり大きい。鞄が無かったら、持ち運ぶ事も加工する事もいちいち大変なサイズなのだから。


 『少し休憩にしないか?それの説明もいるだろ?お~い、そっちにフレイもいるんだろ?一緒にどうだ?』

 今ホームに残っているのは、あとはフレイしかいない。どうせなら、まとめて話しておきたい。本当なら全員揃ってが望ましいけど、そこまでの高望みを今しなくても良いだろう。


 『なんや?なんか面白い話か?』

 フレイが鍛冶の工房ブースから出てきた。その顔は異様な程煤だらけだった。一体何時間魔高炉の前に込もってたんだろう。まぁ、その煤まみれの姿もフレイがすると妙に様になっているんだけど。多分、フレイ本人は汚れが似合う(その)事を嫌がるので、ここでは言及しないけどな。


 リビングに戻ると掃除を終えたケイトがお茶の準備をしていたので、ついでに僕達三人の分もお願いした。ちなみに、アキラとカゲロウは部活なので今日はログインしていない。ケイトによると、雪ちゃんはさっきまでは掃除のお手伝いをしながら元気よく遊んでいたが、今は疲れ過ぎて眠っているらしい。まぁ、これは雪ちゃんらしいかな。


 『その感じやと何か変わった事でも有ったんやろ?それでや、今回はどんな変わった事に巻き込まれたんや?大きい事か?それとも大きい事か?』

 おい、何で大きい事をわざわざ二回聞いたんだ?まぁ、フレイの言う事は間違っては無いのだけど、最初から僕が何かに巻き込まれる前提なのは納得がいかないよな。


 ヒナタが改めて鞄から取り出した御神巨木を見せながら、さっき起こった風雷のビークィーンの事を話す。竜の力の事は今回は(・・・)伏せておいた方が良いだろう。今後話す機会が有るかどうかは分からないけど。


 『それで、マスターは大丈夫だったんですか?です』

 僕に詰め寄るケイトとその後ろに控えるヒナタとフレイ


 『僕は、白と黒のお陰でなんとか大丈夫だったよ』


 『そうなんですかです。それは良かったです。えっ?白と『『黒!?』』』

 ケイトの言葉に合わせ示したかのように僕以外の三人が口を揃えた。


 『もしかして、もしかしてや、シュン。自分【黒竜】も作ったんか?』

 一度ゆっくりと縦に頷いて、僕は【白竜】と【黒竜】をテーブルの上に出した。白はすぐに竜の姿に《魔獣化》するが、黒は…


 『【黒竜()】はかなりの人見知りみたいで、その姿はなかなか見せてくれないけど、白同様に良いやつだから皆も仲良くしてやって欲しいな』

 各々が黒に向けて名前を告げて自己紹介をしていく。相変わらず黒の方はノーコメント…


 『…黒』

 …かと思ったけど、あっさりと喋ったな。この調子で少しは人見知りも治ってくれたら良いんだけどな。


 『それにしても、氷火(ひょうか)に続いて風雷(ふうらい)もシュンが発見するとはな。自分レアボス運はかなりええんとちゃうか?そやなかったら軽く呪われとるな。シュンの場合はどっちも有りそうで怖いは。どのみち、一回お祓いでもした方がええんやないか?』

 このトリプルオーの世界に神社かお寺…いや、お寺は有ったとしても行きたくないな。神社が在ればすでに行っていると思うよ。世界の拡大で追加をお願いします。切実に…


 〔『主よ、主は気苦労が多いのじゃ』〕


 〔『僕としては、そこだけには触れないで欲しかったな』〕


 『あの~、シュンさん。この御神巨木なんですが、本当に頂いても良いんですか?少し調べてみて分かったんですが、御神巨木は《造船》にも勿論使えるんですけど、御神木とは違って《木工》でも普通に使えそうなんですけど…』

 レア素材を貰える事は嬉しいけど、他の用途が分かりどこか申し訳なさそうな態度を見せるヒナタが分かった事を教えてくれた。


 この態度を見せているヒナタに素材を全部押しつけるのは酷かも知れない。


 『えっ!?そうなのか…えっと、それじゃあ、ヒナタは《造船》で何本必要なんだ?何本でも良いぞ。遠慮は要らないからな』


 『そうですね…この大きさなら、マストの部分で使えたら素敵な仕上がりになると思いますので、五本ですかね』

 五本か…半分も(結構な数)余るな。それなら、余った御神巨木で杖と弓でも作ろうか。あの大きさの木材なら一本あれば余裕で三つは作れるそうだからな。


 『それなら、二本だけ僕が貰っても良いか?』


 『いや、もともとシュンさんの採取してきた木材ですから構いません。と言うか、この場合貰うって言うのは私のセリフなんですけど』

 確かに、そうなんだけど…一度はプレゼントした素材なんだから、今の所有者はヒナタだと思うけどな。まぁ、僕個人の意見としたはだけど。


 『じゃあ、二本だけ倉庫にでも残しておいてくれ。今度、色々と加工(テスト)してみるわ』

 風雷のビークィーン戦での主戦法(木の伐採)のお陰で《調合職人》と《木工職人》のレベルも上がっている。


 これによって、色々と出来る事も増えているはすだ。最初は《調合》のゴリゴリが苦手でレベル上げが大変だったけど、あんな単純な伐採作業でも《調合》と《木工》のレベルが上がるなら、《調合》と《木工》はレベル上げは案外楽勝なのかも知れないな。


 『あれ?』

 レベルの確認ついでに何気なく見ていたスキルのリスト。そこには今まではどうやっても現れなかった複合スキルの《合成》が新しく出現していた。


 う~ん、こうなると…可能性として有りそうなのは、《調合職人》と《木工職人》の二つ共がレベル20を越えたからか?まぁ、以前から取得する予定にしていたけど取得方法不明の為に取得出来なっかったスキルなんだ。ここは、迷わず取得はしとこうか。いまだに正確な条件は不明だけど、複合スキルの複数取得は一つ目よりも格段に難しいのは確かのようだ。





 都内某所…とある会社の一部屋、時刻は深夜0時を少し回ったところ…。


 「主任、ダメです。システムのリセット、プログラムの破棄は受け付けられません」

 その言葉とは裏腹に手を動かし続ける推定部下。


 「あの三体(・・)は仕様外…つまりバグなんだろ?何とか今日中…いや、朝までに処分するんだ」

 時計の針を確認して焦り始める推定上司。


 「そ、それが、システムに弄られた形跡や痕跡は見当たりません。あの三体(・・)のデータは確かにゲームのシステム()に存在している正規のデータです。多分、開発責任者が唯一残したブラックボックス(アンタッチャブル)の中身…」


 部下らしき人物の核心を突いたかのような言葉に頭を抱え込む上司。


 「くそっ、またあいつか…まったくもって忌々しい」


 このブラックボックスと言うのは、このゲームの基盤となる最重要な部分。そして、ここを開発したであろう目下最重要人物は日本(この場)にはいない。


 「こうなったら、もうバクを公表して一定期間停止するか、ゲーム自体を完全終了させるしか方法は無いか…」

 その自分の言葉と共に頭をさらに抱え込み、机の上に平伏す上司。


 最早、とある会社の売り上げの九割以上を占めるそのコンテンツ(ゲーム)の停止または終了。それはつまり、そのもの会社の倒産(終わり)をも意味する重大な決定。普通の会社なら、単なる(・・・)上司と部下の二人だけでは決める事の出来ない内容のはすだった。


 「いえ、待って下さい。主任、このログを見て下さい。幸いにして、あれの関係者全員があれの存在について誰かに公表する気がない様子。なので、もう一つ方法が…」

 何かしらの代案を持つ部下。


 「な、何だ?言え、早く言ってみろ」

 その代案が有るなら、嘘でもすがりつきたい上司。


 「・・・・・です」


 「う~む、木を隠すなら森の中と言う事か…それしか方法はないか、やむを得まい。やれ!時間はない。すぐに開発に取り掛かれ。絶対に次のバージョンアップに間に合わせろ。明日からはこの案件にチーム全員を費やしても構わん。類似品(・・・)の存在も紛れ込ませるのも忘れるな。名前は、そうだな…そのまま使えば良いだろう。ただし、分かっていると思うが、この事は他言無用だ」


 「も、勿論です」


 とあるゲームの重要な部分の開発に関わっている上司と部下二人だけの会話(秘密)。これが第三者に知られる事は少しだけ先の話。





 「駿、見てみろ!もうバージョンアップの仕様がアップされてるぞ。今回はいつになく早いな」

 週末を控えた金曜日の昼休み。蒼真が本日の弁当(寝坊で食べる事が出来なかった朝食を含む)の大部分を占める三角おにぎり(多種多様の具入り)を器用に箸で摘まみながら携帯で情報サイトの確認をしている…と言うか、その三角おにぎりはそうやって箸で摘まんで食べる予定で僕は作ってないんだけどな。今朝の純みたいに左手で三角おにぎり、右手の箸でおかずを摘まむ二刀流スタイルが正解だ。そもそも、箸で摘まめるサイズではないはずなのだけど…


 まぁ、蒼真のようにバージョンアップも気になる事は分けるけど、家に戻ってからログインすれば、もう少し正確な情報も分かる事なんだし、そんなに急がなくても良いんじゃないのだろうか?


 「それで、何か分かったのか?」

 まぁ、その嬉しそうな表情を見せる幼馴染みに対して相槌くらいは打つけどさ。


 蒼真は映し出された内容を僕の方に向けて見せる。え~っと、何々…



・地球六分の一サイズ相当のトリプルオーの基本(ベース)となる世界の完成※それにともなって航海システムの追加

 ほうほう…やっとか。これで【noir】の船も生かされるし、ヒナタの喜ぶ顔が目に浮かぶよ。


・アメリカ、ドイツ、中国に海外用の新サーバーを設置※それにともなって海外サーバー用メインタウンや複数ダンジョンと街の追加

 ふむふむ…これは新しい素材との出会いも有るか?皆と一緒に船で遊びに行くのも有りかも知れないな。


・種族レベルと種族専用アーツの追加

 おやおや…これは事前に噂されていた件だな。楽しみだ。


・ファミリアの公表※最重要



 「ぶっ~、ゴホッ、ゴホッ、ゴホ」


 「おい、駿、急にどうした?大丈夫か?」


 「ゴホ、だ、大丈夫だ。少し驚いて蒸せただけだ」

 おいおい…ファミリアの公表って、どう言う事だ?しかも最重要指定までして。


 これは、帰ったらすぐに確かめる必要が有るぞ。これだけは事前に知っておけて良かったかも知れないな。神殿前の広場で、こんな醜態をさらすような事はしたくないのだから。


 「う~ん、今回のバージョンアップは、どれをとっても運営も気合が入ってるよな。これで、俺達は色々な場所に行けるぞ」

 この幼馴染みは相変わらず楽しい事が最優先(一番)らしい。その点だけは羨ましい。


 「ただ、この最後に最重要と書かれたファミリアの公表って何なんだ?ファミリア…言葉だけで言うなら使い魔とかか?駿は分かるか?」

 お前、こう言う時だけは妙に鋭いんだな…本当に良い勘をしているよ。


 「さぁ、何なんだろうな。お前が知らない事が僕に分からる訳がない。でも、公表と書いて有るって事は多分以前から隠して有った事を(おおやけ)に出すんじゃないか?」

 たまには、とぼけておいても問題は無いだろう。いつも貴重な情報や隠して有る事を簡単に教えて貰えると思うなよ。僕にだって秘密の一つや二つ…三つ、いや、四つ(…もしかするともっと有るか?)は有るんだからな。


 「駿、今日はどうするんだ?俺達はホームで会議の予定なんだが、その前に【noir】に寄って良いか?」

 それは困るな。さっきの嘘が早々にバレる可能性が高いからな。本当に勘だけは鋭いと思う。


 「今日はギルド内で予定が有るからダメだ。また今度な」

 晶にもメールで釘を差しておくか。純にバレても同じ結果になる事が目に見える。


 ここはトリプルオーの中ではないのだから、回避出来るイベントは回避させて貰いたい。まぁ、トリプルオーの中でも回避出来る事は回避させて貰うけどな…って、もう返信が来たのか。かなり返信が早いな。


 だが、その返信メールには世にも恐ろしい事が記入されていた。晶達も掲示板の確認をしていたらしく、その流れで純とファミリアの話になって、ファミリア(雪ちゃん)の事を話したと書かれている。早くも想定外な事が起きた。取り敢えず、この場からは逃げさせて貰おうか。


 「…おい、何んで僕を捕まえるんだ。蒼真くん」

 逃げを決めた僕の腕を掴んで離さない蒼真。力では圧倒的な差で勝てない事を悟っている僕。


 「いや、俺も詳しくは分からないんだが、純から駿の事を逃がすなってメールが来たんだが…お前、弁当に日頃の恨みを込めてイタズラでもやらかしたのか?俺にも教えろよ」

 流石に我が双子のお姉様だ。伊達に十五年以上も一緒に住んでないようだ。僕の考えは筒抜けらしい。まぁ、そこはお互い様だけど。


 「いや、特に何もしてないぞ。少しトイレに行きたいから離してくれないかな?」

 僕は動揺せず冷静に嘘をついて蒼真の拘束から逃れた。取り敢えず、昼休みの間はこのまま逃げようか…そのあとの事は知りません。その時になって考えます。


 それ以降は休み時間になる度にひたすら純から逃げまくっていた。学校では授業の終わる時間と教室の位置関係により、なんとか逃げきれれたのだけど、当然のように先回りして玄関を開けたところで僕を待ち構えていた純に捕まってしまった。


 純はすでに雪ちゃんに会わせて貰う約束まで晶と取り付けたらしい。それなら、僕を無理に追いかけなくても良いのではないだろうか?晶の許可に比べると僕の許可など紙くず同然なのだから。


 でも、そのお陰と言うか何と言うか、ファミリアに対する事情聴取は無かった。晶も白()の事は話していないらしい。当然、その存在を知らない黒の事は話せない。いずれは、バレるかも知れないけど、しばらくは秘密にしておこう。僕としても、もう追い回されるのはこりごりなのだから…





 『ただいま。今日は皆早いんだな』

 僕がログインすると、すでに全員がギルドにいた。


 『おうよ。ギルマス、今日は待望のバージョンアップだぜ。そんなの当たり前だろ』

 それに加えて、逆に僕が遅い方が間違ってるとまでカゲロウには言われてしまった。どうしようもない、仕方の無い事情が有るんだよ…僕にだってな。


 『それで、もう皆は広場に行って来たのか?』


 『私とヒナタはまだ行ってませんです』


 『ウチらはもう見て来たからシュンもヒナタ達を連れて一緒に見ておいでや』

 そろそろ、ジュネも来る頃だからな。広場に逃げておいた方が良いかも知れないな。


 『じゃあ、ちょっと行って来るか。白、黒、行くぞ』

 黒は今日も今日とてホルスターの中を揺り籠代わりにして、眠るようにじっとしているが、白の方は竜の姿(我が物顔)でソファーで寝そべって紅茶とお茶菓子を嗜んでいた。実に行儀が悪い。


 『主よ、お願いが有るのじゃ。ワシはここで待っていてはダメかの?』

 そして、眠そうな目を擦りながら食べる手は止めずに主張する白。


 ここまで堂々と主人を無視して寛いでいるのを見ると、本当は中にプレイヤーが入っているのではないかと疑ってしまう時があるよな。それも、最近は多々に…


 『今日だけはダメだ。多分、今からホームに客が来るからな。ここに白達を置いて行く事は出来ない。それに、バージョンアップの内容がファミリア(白達)にも直接関係してるからな』

 直接見る必要は無いのかも知れないけど、見て損をする事はないだろう。僕が気付かなくても、白達には重要な事も有るかも知れないのだから。


 『…仕方が無いの(了解なの)じゃ』

 白は、ス~ッと飛んで来て、一瞬でふわっと銃の姿になりホルスターに収まった。


 『お待たせ。じゃあ、行こうか』





 『いつものバージョンアップの時より、人が多い気がしますね…』

 辺りを見渡したヒナタが率直な感想を述べた。


 やっぱり、そう感じるよな。今回のバージョンアップの内容が色々と重要なだけに掲示板を確認している人が()けて行かないんだろう。例えるならば、元旦の明治神宮前。


 『私達も並んで待ちますです』

 なので、ケイトがいうなればように並ぶのも仕方が無い。アキラにメールで広場に集まっている人が多いから帰りが少し遅くなる事だけを伝えた。先に経験しているアキラも、ここの状況には察しがつくらしく、『並び疲れるくらいなら今日は諦めて早めに帰っておいでよ』と返信されてしまった。


 およそ二十分くらいは並んでいたのか?並び疲れる程の時間では無かったのが幸いだ。ようやく前が空いて僕達の順番が訪れた…基本的には昼に情報サイトから見た内容と変わらない。それでも、新しく分かった事は三つ有る。


 一つ目、既存プレイヤーの種族レベルは現在のプレイ時間や経験値(実績)を元に算出してくれる事とスキルレベルとは違い進化や派生が無い為、レベル自体が上がりにくくなっている事。


 二つ目、地球の六分の一サイズで構成されているトリプルオー世界の名前が【Orbit(オービット)】と言う事だ。確か、英語だと軌道?と言う意味だったかな。何か他にも意味が有るのかは分からないけど、僕としては【Orbit】の響きが良いので割と気に入っている。


 あと、この件に関連しては世界地図機能がメニュー画面に追加されていた。この地図は大陸や島等の形状は分かるけど、行った事の無い場所は白地図になっていて何が有るのかさえ分からない仕様になっている。なので、僕の地図にはシュバルツランド周辺だけが表示されていて、そのほぼ九割方が埋まっている。埋まっていないのは【ヴェール()】の北側。この辺りだと…多分、滝の向こう側だな。


 最後の三つ目。まぁ、ここからが僕達にとっては本命だ。ファミリアの項目(箇所)で書かれているのは、すでに五人(・・)のプレイヤー(ギルドを含む(・・・・・))がファミリアの主人になった事で、使い魔(ファミリア)と言う概念を発表すると言う内容だった。


 一番肝心かつ僕達が欲していたファミリアについての詳しい事は秘密事項(シークレット)になっていたが、僕達以外にも三人のプレイヤーがファミリアの主人になったと言う事は分かった。まぁ、他のファミリアを手に入れたプレイヤーも僕達同様に偶然の積み重ねなんだろうけど、僕が思っていたよりも人数が多い気もするな…と言うか、他に三匹もいたのなら、何かしらの噂が流れていても不思議では無い気もするんだけど…まぁ、たまたま僕達のように目立つのが嫌いなプレイヤーが手に入れた可能性も有るけどな。


 ただ、この他の(・・)ファミリアの情報については僕よりも白と黒?の方が気にしている様子だった。白と黒も自分達自身が関係している情報だけにファミリア関係の内容は気になってるらしい。まぁ、会話の内容までは分からなかったけど、二人が何かについて話している事は僕にも分かったのだから。


 …と言うか、本当にプレイヤーが操作してないよね?


 『それにしても、まだ行ってない世界は広いな…』

 メニューから、ほぼ白紙の世界地図を確認すると、いくら地球を六分の一に縮小されたサイズ相当と言っても今の僕達の活動範囲から比べると全然広い。井の中の蛙と言うか、一気に世界が広くなった気がする。


 『マスター、まだ後ろにいっぱい並ばれてますです。早めにホームに戻りませんか?です』


 『そうだな。帰りは神殿のゲートで一気に戻ろうか』


 僕達は三人でゲートを使いホームへと戻った。ちなみに、行きはゲートを使わず歩きで向かっている。いくら、便利だからと言っても【シュバルツランド】内での移動では、ほとんどゲートは使っていない。まぁ、歩いて移動する方が色々と新しい物が見付かるからでも有るのだけど。


 ホームへの帰り道でゲートを選択したのは単純にこの場所の人が多過ぎて移動に時間が掛かりそうだからだ。ただでさえ、すでに二十分以上も他の皆を待たせているのだ。連絡を入れて有ると言っても、少しでも早く帰るのがせめてもの礼儀だろう。





 『『『ただいま』』です』


 『お帰り。待っとったで。それで、シュンの天狐族レベルは、なんぼなんや?』

 第一声がそれかい?他にも有るだろうに…まぁ、フレイも僕と同じ天狐族だから、気になっていたんだろうな。


 『少しだけは待ってくれ。確認してみるよ…え~っと、レベルは32、専用アーツで〈乱〉と〈朧〉と言うのを覚えているみたいだな。アーツの説明を見る限りは、どちらも攻撃系のアーツではないな。フレイは?』



天狐族専用アーツ

〈乱〉消費MP 15

標的を撹乱させる幻術

習得条件/天狐族Lv15


〈朧〉消費MP 25

標的の視界から人や物を隠す幻術

習得条件/天狐族Lv30



 『ウチはレベル29やったわ。まだ一つ目の〈乱〉しか覚えてへんねん』

 少しの差だな…これは何に趣を置いてトリプルオー生活を過ごしたかの違い、つまりは生産に時間を費やした分の差だろうな。


 『〈朧〉は、レベル30で覚えるみたいだから、もう少しだな。このアーツの構成なら天狐族と言う種族は補助(サポート)主体(メイン)かも知れないな。他の皆は、どうなんだ?』

 僕もフレイもガンガン前線に出て戦うプレイスタイルではないから、あまり問題はないかな。


 『私は、虎猫族レベル19だったよ。アーツは一つだけ覚えてたけど、これは身体強化系だね』

 アキラは、部活でログイン時間が少ないから、僕達よりも成長が遅いのは仕方ないだろう。それで、覚えたのが身体強化系のアーツか…この身体強化系のアーツは似たような効果を持つ《付与術》と重複するのかな?はっきり言うと試してみたい案件が増えたよな。


 『俺は、ダークエルフのレベル14で、アーツはまだ覚えてないぞ』


 『私はエルフのレベル15です。〈ホーミング〉って言う魔法の完全追尾アーツを覚えていました。一回一回の消費MPは激しいですが、色々と便利そうです』


 『私は月兎族レベル14になっていましたです。カゲロウと同じで、アーツはまだ覚えてませんでしたです』

 まぁ、この三人は二次参加(後発)組なので、レベルが低くいのも当然だろう。


 『マスター、ちょっと良いですか?です』

 こう言う場合では珍しくケイトが手を上げた。


 『うん?どうした?』


 『はいです。今回のバージョンアップで、私のアメリカ(母国)での親友がトリプルオーを始めますです。日本のサーバーエリアまで来たら仲良くしてあげて欲しいです』

 今回のバージョンアップでケイトの母国もトリプルオーの普及が始まったんだな。友達に会えるようになるのは良かったよな。


 『勿論だ。近くまで来たなら気軽にホームに寄って貰っても良いよ』


 『そうだね。出来るかは分からないけど、ゲートの登録もOKだからね』

 海外サーバーエリアから日本サーバーエリアへの移動だけでも多大な時間を労するだろう。簡単な移動手段としてのゲート登録は気軽に会う為には必要だろう。


 普段なら、会ったこともないメンバーに対してゲート登録など認めるはずはない。ただ、ケイトの親友なら良い人だと思うし、ゲートの登録(その点)についても僕達には異論は無い。あのケイトの親友と言うだけで僕達は信用できる。それくらいの信頼関係が僕達には有った。





 『主よ、少し良いかの?』

 白が急に竜の姿に《魔獣化》して喋りだした。


 『どうかしたか?』


 『黒とも話しておったのじゃが…出来る事なら、ワシらは他のファミリアにも会いたいのじゃ』

 白と黒からのお願いを越えた懇願。


 『何か有ったのか?』

 僕の行動に対して軽く意見を述べる事や紅茶に付随するお茶菓子のおねだりは有っても、白達がお願いをしてくるのは珍しい。


 『うむ、ワシと黒と雪は主人になってくれたのが主達なので十分幸せなのじゃが、他にもいるファミリアの扱いが少し気になったのじゃ…あの掲示板とか言う物にファミリアが使い魔や使役精霊・魔物、挙げ句の果てにはペット扱いで書かれていたのが少し気になっておるのじゃ』

 確かにその点については僕も気になっていた。最早僕達にとって、白や黒、雪ちゃんは仲間(家族)であり友達だ。今さら、使役魔物として扱う事等、出来るはずがない。なので、答えは決まっている。今さら考えるまでもない。


 『分かった。僕も探すのを手伝うよ。具体的には、どうすれば良いんだ?』


 『特に変わった事は必要ないのじや。近くに行けば本当の(・・・)ファミリア同士なら分かるのじゃ。それに、そんなに数()いないはずなのじゃ。主は見付かった時にワシと黒に力を貸してくれるだけで良いのじゃ』


 『分かった。見付けた時は遠慮なく言ってくれよ。勿論、黒もだぞ』

 いつにもまして、遠回しに話す白に僕は迷う事なく即答した。


 『………』

 また無言で頷く黒…そろそろ、もう少しだけでも良いから僕にも慣れてくれても良いと思うのだけどな。僕は怖くないんだよ。


 『そうだ!アキラ、ジュネはもう来たのか?』


 『ううん、まだだよ。先にギルドの会議に出席してから来るみたい。多分、もう少しあとになるかな』

 まだ来てなかったか。まあ、そう僕の都合良くはいかないよな。


 『白、黒、もう少ししたら客が来るから、竜の姿は禁止だ。僕との会話も《心話》で頼む』

 白は竜の姿から銃に変わりホルスターに収まった。


 〔『了解じゃ、黒も分かったと言っておるのじゃ』〕

 黒は白とだけは普通に話すのか?ちょっと羨ましいし、寂しいし、嫉妬するぞ。


 『シュン、ジュネと会いづらかったら、工房の中に隠れていても良いよ』

 アキラから放たれた鶴の一声。


 『良いのか?本当に良いなら、お言葉に甘えさせて貰う。アキラ、ありがとう』

 当然、僕にはそれを受け入れない選択肢は存在しない。僕はすかさずリビングを出て一目散に工房へと移動した。ジュネから隠れる目的も在るけど、今度こそ僕が覚えているうちに【魔銃】を作っておきたい。明日からの二日間(この土日)は《造船》に励む予定も有る。それを間に挟むと、僕はまた忘れかねないのだから。


 僕を追うようにフレイとケイトも工房に移動して、カゲロウは一人で素材の仕入れと採取に向かったので、結果的にリビングにはアキラとヒナタだけが残される形になてしまった。押し付けた形になった二人には、少し悪い事をしたかもな…


 『主よ、それは手遅れなのじゃ。今さら、その事を気にしても仕方が無いなのじゃ』

 相変わらず簡単に僕の心をグサッと抉ってくる白の突っ込み。工房にはギルドメンバー以外は進入禁止にしているので、工房に入った瞬間に白は竜の姿に戻っていた。


 『まぁ、そうなんだけどな…』

 だからと言っても、気になるものは気になるからな。


 『主よ、それよりも何から作るのじゃ』


 『まずは、【魔銃】を二本だな』

 メニューから簡単に製作出来るし素材も揃っているのだ。さっさと作ろうかな。


 『…リスト』

 その僕に待ったをかける黒。


 『うん?リストがどうかしたのか?』

 黒に言われて僕がリストを確認すると、以前から残っている【???(名称さえ不明)】以外に新しく二種類の銃が表示されていた。


 今までは、リストに記載されている物を全て製作しないと次の銃は表示されなかったはずだけど…


 やっぱり、【???】が特殊過ぎるのだろうか?いまだに名前すら分からない銃だから、普通とは別枠扱いになっているのかも知れないよな。


 新しくリストに表示されているのは【雷晃(らいこう)】と【洸風(こうふう)】の二丁。これは名前からして、【雷鳴】と【疾風】の後継種(バージョンアップ)か?


 製作の為の素材に各々の銃も使用しているし、何よりも驚く事がカテゴリー的には【魔銃】になっているところだ。もしかして、これも…


 『主よ、そんなに怯えるように心配しなくても魔獣器ではないのじゃ。ワシらみたいな魔獣器(特別な存在)はそんなに簡単には(ホイホイ)作れたりせん』

 そんな事を言われても、僕はホイホイと二丁も製作出来たんだけどな…


 『…製作』


 『えっ~と、この二丁を製作すれば良いのか?他の素材も在庫が有るみたいだからな。別に良いぞ』

 魔獣器ではないみたいだし、素材の方も買取り専門店【by buy】のお陰で、多少のレア素材なら在庫にも困っていない。


 何故かと言うと、【by buy】で素材を売って、しばらくすると変わった武器が【noir】で売り出されると言う嘘か本当か分からない情報()が流れているからだ。


 まぁ、半分以上本当なんだけど…最近は毎夜毎夜のように行われているフレイの開発が止まらないのだから。フレイが試作した変わった形状の武器も販売しているし、僕の作った杖や弓もそこそこ売れている。それと、今のところ刀を作れるプレイヤーはフレイしかいないので独占状態になっている影響も少なくない割合で有るのだろう。


 ちなみに、オークションで売れ残った【狙撃銃】と【機関銃】はオークション後に店舗で売りに出したら速攻で売れてしまった。これだけは、本当にかなり嬉しかった。


 それにだ。風雷のビークィーン戦で僕の窮地を救ってくれた黒からのアドバイス、その第二弾。一度救われている僕からすれば聞かない訳にはいかない。さらに理由を付け加えるならば、今回製作する銃は【魔銃】に分類されているので、この前のような失敗もないからな。



【雷晃・魔銃】攻撃力65〈特殊効果:雷属性〉


【洸風・魔銃】攻撃力65〈特殊効果:風属性〉



 『おぉ、作ろうとしていた【魔銃】よりも性能が良いみたいだな。黒、ありがとな』

 流石は黒からのアドバイス。凄い物が完成した。属性も付いているので、その性能以上に価値も高いだろう。まぁ、これも風雷のビークィーン戦では使えないけどな。


 『…次は《合成》』

 しかし、終わったと思っていた黒のアドバイスはまだ続いていた。


 『えっ?《合成》?』


 『主よ、黒が言うにはじゃ。【雷晃】と【晃風】の二丁は《合成》可能な銃らしいのじゃ』

 色々と突っ込みたい事は有るんだけど、それを吹き飛ばす黒の知識量。白の知識量も凄いと思っていたけど、黒の知識量は一体何なんだろうか?生きる広辞苑とか、歩く図書館とか言われるレベルじゃないのか?


 『一応、《合成》は取得してるんだけど、全く使った事が無いんだよ…』

 まぁ、《見破》が使えるからスキルの効果も使用方法も簡単に解るんだけど。え~っと、左手と右手で《合成》したいアイテムに触れて念じるだけか…なるほど、シンプルだな。


 僕流に言うなら、《付与術》で行う合体魔法のアイテム版ってとこだな…と言うか、この《合成》スキルは生産系スキルのくせに工房(場所)を選ばないらしい。工房の中以外でも使用出来ると言うのは本当に珍しい。


 ネイルさん達に聞いている話だと、《合成》は失敗しても素材が無くなると言う事も無いはずだし、試しに一回やってみても良いかもな。


 僕は左手に【雷晃】、右手に【洸風】を持って…


 『《合成》』

 …と唱えた。


 一瞬だけ手元がピカッと光ったのだが、僕の手元にある二丁の銃に変化は全く無い。


 『う~ん…黒、悪い。どうやら失敗したみたいだ』

 黒からのお願いを兼ねたアドバイスだったので、是非とも叶えたかったけど、その願いも虚しく《合成》は失敗に終わったらしい。


 『…違う。成功』

 だが、黒の反応は僕とは違っていた。


 『主よ、全く違うのじゃ。武器の性能を見てみるのじゃ』

 僕が頭上に複数の(クエスチョン)を浮かべていたからだろう。僕達の会話を黙って聞いていた白もアドバイスをくれる。


 そのアドバイスに、始めは僕もどう言う事だ?とも思っていたけど…



【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉



 『ほぇっ?』

 うん!?【魔双銃】?だと…これは二丁持ち専用の【魔銃】になるのか…と言うか、【双銃】分類(ジャンル)の銃を製作する事も出来たのか?当然、これは製作リストにも載っていない新しいジャンルの武器。これが製作出来たからと言って、新しく何かがリストに追加されてもいない…うん、そうだな。一旦、この件は置いておこうか。今すぐにどうにか出来ないのなら放置で構わない。言っておくが、これは決して現実逃避ではないからな。


 一度《合成》に成功した事が分かれば、一丁一丁微妙に形状(デザイン)も変わっている(正確には二丁の銃にさっきまでは無かった統一性が感じられる)気がするけど…《合成》スキルって、僕が思っていたのと少し違う気もするな。


 僕の中では、二つのアイテムを一つの新しいアイテムに合体するイメージだった。まぁ、これもそうと言えばそうなんだけど、何か微妙にニュアンスが違うし、納得しにくい。


 外見は、ほぼ変わってないのに関わらず、今までの二丁持ちとは違い二丁で一対の武器になっていた。


 当然、別々の武器としては装備出来なくなったみたいだけど、総合(トータル)的な攻撃力は上がっているし、風雷のビークィーンと同じ上位属性も付いている。意外だったのは、名前に光の文字が堂々と入っているのに光属性は付いていない事くらいか。まぁ、それは「晃」と言う文字と「洸」と言う文字の共通する部分を取って「光」にしただけなんだろうけど。


 勿論、【魔銃】なので攻撃するのに銃弾は必要無い。〈零距離射撃〉は使えないけど、リロード不要になるのなら結果的にお得かもな。僕の場合は竜の力の恩恵でMPの回復速度も尋常じゃない。言い換えれば、利点しか見当たらない。


 『黒、ありがとう。これは凄いな』

 またホルスターの中にいる黒をそっと撫でた。その無表情?な見た目からは全く分からないけど、気持ち良さそうなのは飼い主()である僕にだけは伝わってきた。


 黒のお陰で、僕は夢の銃弾要らずの生活に入れらしい。本当に楽しみだ。

装備

武器

【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉

【白竜Lv14】攻撃力0/回復力124〈特殊効果:身体回復/光属性〉

【黒竜Lv8】攻撃力0/回復力108〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉

防具

【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40

〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉

アクセサリー

【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉

【ノワールホルスター】防御力10〈特殊効果:速度上昇・小〉〈製作ボーナス:リロード短縮・中〉

【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉



天狐族Lv31

《双銃士》Lv49

《魔銃》Lv48《双銃》Lv43《拳》Lv35《速度強化》Lv76《回避強化》Lv78《旋風魔法》Lv32《魔力回復補助》Lv74《付与術》Lv44《付与銃》Lv53《見破》Lv68


サブ

《調合職人》Lv24《鍛冶職人》Lv27《革職人》Lv47《木工職人》Lv26《鞄職人》Lv48《細工職人》Lv24《錬金職人》Lv24《銃製作》Lv35《裁縫職人》Lv2《機械製作》Lv1《料理》Lv33《造船》Lv8《家守護神》Lv6《合成》Lv3


SP 42



new魔法

〈ウインドバースト〉範囲魔法/消費MP 50

習得条件/《旋風魔法》スキルLv30



称号

〈もたざる者〉〈トラウマ王〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈自然の摂理に逆らう者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈なりたて飼い主〉

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