★生産活動開始?
翌日、ログインは昨日予想通り昼過ぎになりそうだ。これは決して僕が昨夜の疲れで寝坊したからではない。主な理由としては、誰もやろうともしない家事関係のお陰で…だ。
あぁ、早くログインをして現実逃避をしたい。そんな事を思いながら、自分以外が使った食器を洗う駿だった。
『う~ん、まだこの辺りは人でいっぱいみたいだな』
トリプルオー内でホームを持っていない限り、ゲームにログインした時に必ず訪れなければならない神殿やその前に有る田舎の学校のグラウンドが二つ以上は楽勝て入りそうな広場には、即席のパーティー募集、または固定パーティー勧誘の為に多くのプレイヤーが集まってきている。
まぁ、正式稼働二日目だから、混んでいても仕方が無いのかもな。どのみち、今日の僕の予定には差し支えが無いのだから。
ちなみに、僕の予定とは昨日森で採取した素材で《調合》スキルを鍛えて火薬を作る事と《鍛冶》を鍛えて経費削減を兼ねて銃弾を作る事、つまりは生産系のスキル強化に決まっている。だから、積極的に街から出ようとしている人が集まるこの広場が混雑していても、生産をしたいボッチの僕には全く縁の無い話だ。まぁ、自分で言ってて軽く悲しくなっているけどな。
そんな事よりも、だ。肝心なのはポーション等の回復薬は普通に大丈夫だと思うけど、僕がゲームを始める前に予想していた銃弾に必要な火薬類は作れるのかな?不安でも有るけど、ちょっとワクワクしてきたな。
トリプルオーでの生産活動自体は、街の中に点在する各々の専用工房で行うらしく、昨日アクアに教えて貰った場所を目指した。
《調合》工房に辿り着いた僕が、《調合》を行う職人集団を初めて見た感想は…はっきり言って混沌の一言だった。漫画やアニメ等でしか見かける事のない魔女のコスプレをした人達がその場所にはいたのだから。わざわざなのか?当然なのか?それっぽい乳鉢と乳棒を使って…
『ゴ、ゴリゴリしてる…』
おいおい、これは想像と違い過ぎる。これは、無理…僕には絶対に無理だ。これは僕の想像していた《調合》とは全く違う。
僕が想像してた《調合》は…やってみたかったのは、赤い液体と青い液体を混ぜて紫の液体を作るみたいなサイエンスチックで白衣の似合う化学っぽいスマートな《調合》。
これでは、まるで調剤師の調剤だよな…と言うか、僕個人的に薬とか病院って苦手なんだよな。ここまで生産系のスキルをリアルに表現する必要は本当に有るのだろうか?
しかも、だ。誰一人として恥ずかしさを面にだしてないとか、どんなメンタル強者なのだろうか。ヤバイな、もう既に心が折れそうだな。元々強い方ではないと思うけど、これは本当にヤバイよな。よし、早々に結論を出そう。
『ごめんなさい、僕には無理です』
『基本的に、《調合》はゴリゴリするもの。目指せ精神統一?』
《調合》をしながら、僕の様子を遠目から見ていた魔女のコスプレの上に身長に似合わないブカブカの白衣を着た月兎族の小さな女の子に声をかけられた。
『…本当にごめんね。《調合》を貶すつもりは全く無いんだよ。その証拠に僕も《調合》スキル持ちなんだけど、正直に言うとゴリゴリする皆さんを見て心がポッキリと折れたんだよ』
あとで揉める原因になったとして、はっきりとノーの意思は示しておこう。多分、これが一番被害が少なくなるのだから、お互いに…
『ふっ、ハハッ。君は面白いねぇ~。それを正直に《調合》してる初対面の人の前で答えるかい。普通は面と向かってそこまでは言えないものだよ。僕は《魔術師》のネイル。見ての通り君の言うゴリゴリを極めんとする者だ。それと、こう見えても二十歳は軽く越えてる淑女だからね。その辺は気を付けてくれよ』
どうやら装備の印象通り《魔術師》らしい。まぁ、科学者と言っても通りそうな気もするけどな。白衣の下に身に付けている黒のローブが魔女っぽさを際立っている。
見掛け通りのかなり気合いの入ったロールプレイだと思うけど、その容姿の幼さとは違って女の子ではなく大人の女性だったらしい。最初に念を推されるところをみると、間違える人が圧倒的に多いんだろうな。僕も注意されてなかったら、完全に間違え続けて小さい子を相手にするような話し方で話続けただろう。
『本当に、重ね重ねすみません。僕はシュンって言います。一応《銃士》です』
僕の口から放たれた強者が放つ華麗な魔法よりも目立つ《銃士》のフレーズが、一斉にこっちを向く魔女(男を含む)の皆さんの視線を独独占する。それは本当に不本意なんだけどな。
『えっ、《銃士》?シュン君、君は本当に面白いねぇ。僕は気に入ったよ。そうだ!シュン君、君は本当に《調合》をやる予定は無いのかい?だったら、僕が君の仕事を請け負おうか?それに良い素材さえ採って来てくれば割引で請け負うよ』
『えっ!?良いんですか?』
『もちろん良いよ。僕もスキルレベルが上がるからメリットも有るし、僕達魔女も素材が無かったらアイテムを作れないんだからねぇ。お互いにWinWinの関係だよ。今日ここに来たって事は今もいくつか持って来てるんだろう?』
僕は今手持ちに有る《調合》関係で使えそうな素材を渡して、作って欲しい火薬類の依頼をした。本当はポーション類も有るのだが、今のところは手持ち分でも間に合うからな。
『いっぱい有るねぇ。わかった、請け負うよ。出来たら連絡するよ。次来る時も素材を頼むよ』
ネイルさんとはフレンド登録をして別れる事に。予定外の出来事が満載だったけど、思わぬところ思わぬ良い出会いがあったよな。依頼の報酬の為にも、お金を作らなければならないな。頑張らねば。
《調合》のスキルが完全に無意味になったので、他に何かのスキルを取ろうか。昨日の夜の狩りでボアやウルフから皮系の素材がたんまりと手に入ったし、それを無駄にしない為にも皮関係のスキルを取りたいところだよな。でも、これアクア達に相談すると何か言われそうだな。まぁ、僕は特に気にしないし、まともに話す予定も無いけどな。
『えっ~と…』
スキルの数が多いから、メニューから探すだけでも一苦労だな。微妙にスキルの名前検索機能とか欲しいな。それで、今選べる皮関係のスキルは《革製作》と《鞄製作》の二つか…色々と迷うところだよな。
《革製作》は、皮製の鎧や盾、腕輪等の装備類が作れる。SP 2
《鞄製作》は、鞄や袋、アイテムを入れる物が作れる。SP 1
どちらも各々に別の魅力を感じるのだけど…僕としては手持ちの鞄は妙に使い勝手やサイズ感が悪いので《鞄製作》にしようかな。それに、持っているSPが少ない僕としては必要なSPが少ないと言うだけでも魅力的だよな。
スキルの説明によると製作した鞄には、所持しているだけで素材の自動回収等のかなり便利な機能が付けれる鞄も製作出来るようにもなるらしい。いちいち素材を回収しなくても良いのは魅力の一つだろう。まぁ、回収作業は回収作業で別の魅力も有るんだろうけど。僕は今のところ感じないからな。
ちなみに、今持っている鞄は魔物がドロップする素材は自動で回収してくれるが、採掘や採取で得た自然系の素材は自分で鞄に入れないと回収できない。いずれこっちの方も自動回収出来る様な鞄を製作出来たら良いんだけどな。まあ、《鞄製作》で目指す一つの目標だな。目標が有るのと無いのでは、やる気と成長が大きく違ってくるだろう。僕がその事を身を持って体験する事になるのは、今の僕が全く知らない少し先の話だ。
正直なところ、《鞄製作》には他にも僕にとっては非常に大事な価値を持つ可能性が秘められているかも知れないのだから…な。
早速《革製作》関連の工房にお邪魔する事に…ここで当初の予定通り《鍛冶》の工房に行かないのは、火薬が出来たあとで行ってオリジナルの銃弾を作りたいからだ。
革の工房では、職人達が鎧や盾を作っている。多分、自分専用の装備かプレイヤー依頼の装備だろう。一個一個の形や大きさが違うので完全なオーダーメイド品なんだろうな。
『うん』
ここは、《調合》の工房と違って健全的みたいだな。
工房自体の雰囲気と製作している人達が醸し出す雰囲気は《調合》と似ているので、何を持って健全的と思っているのかは定かでは無いが、多分…あくまでも《調合》を苦手だと思った僕の好みの問題なんだろうな。
それにしても、今ここに鞄を作っている職人が一人もいないのは、偶然なんだよな?
隅っこの方にスペースが空いていたので、工房の一回の使用料三百フォルムと初級の道具代金の千五百フォルムを払う。使用料は工房自体は時間貸しのシステムでは無く、工房の建物に入っている間は同じ金額になっており、工房から出た時点で終了となるらしい。安上がりなシステムだよな。
まぁ、安上がりなシステムとは言え、今の僕の懐的には深刻な大ダメージだ。また残金が残念な感じになっている。マジで、早急に金を稼がないと、依頼を請けてくれたネイルさんへの支払いが出来なくなるかもな。
隣の職人さんに声をかけ、簡単にレクチャーをして貰う。職人さん曰く、全ては革を鞣すところから始まるそうだ。
数が多いボアの皮から、作業に必要な道具を売ってくれたNPCに教えて貰った通りに鞣し作業を始めるが、すぐに失敗する。
スキルレベルの低い内は、よく失敗するらしい。一度でも成功すればメニューからも製作する事も可能らしいが、低レベル帯では一度成功するまでが長く険しいらしい。まぁ、《調合》みたいに初見で気持ちが折れなかったから、失敗するくらいは良いんだけどな。
十数回の失敗を繰り返してボアの鞣し皮が一個出来た。あとはメニューで一括製作でOKだろう。
…失敗した。
『えっ、はい~!?』
隣の親切な職人トマムが、メニューから製作する場合でも稀に失敗する事が有る事を教えてくれた…だが、出来る事なら、その情報はもう少し早く、メニューからの作業に入る前に知りたかったよな。二十枚もあったボアの皮は一枚の鞣し皮と十九枚の非常に残念な鞣し皮へと変わった。
よし!これは練習用に使おう…多分、使えるよね?そこは、本当にお願いします。
次は、ウルフの皮だ。これはレベルも上がったお陰だろうか?あまり素材を無駄にせずに鞣し皮へと加工する事が出来た。皮の鞣し作業が終わり、非常に残念な皮を使って試作品を作る事にする。不幸中の幸いで非常に残念な皮も利用する事が出来た。本当に感謝です。ありがとうございました。
現実での家庭科は得意科目の一つである僕は、さっとサイズを図りベルトタイプのホルスターを作ってみる。
【試作型ホルスター】
防御力2〈特殊効果:なし〉
短銃一丁とマガジンを三個収納可能・ベルトタイプ
『やっぱりな。狙い通りだな』
僕が《鞄製作》のスキルの説明を見て思っていた通り、鞄以外の扱いになっているホルスターを作る事が出来た。ホルスターも一応はアイテムを入れるタイプの装備だからな。この点に気が付けば《革製作》スキルで身に付ける装備だけを製作よりも応用の幅は広い気がするな。
それでは、今持っている本命素材のウルフの鞣し皮を使って本番に挑戦するかな。短銃を二丁は収納したいから形状としては、こんな感じかな。
オリジナルで製作したアイテムには、素材自体が持っている効果とは別に製作ボーナスと言う能力を素材ランク・スキルレベルによって追加で付ける事が出来る。勿論、内容は色々でスキルレベルによって付けれる物も変わるらしい。
ただし、非常に残念等の名前の付いた最低ランクの素材には、製作ボーナスを付けるのは無理らしい。本当に様々な意味で非常に残念な素材だよな。
【ウルフダブルホルスター】防御力5〈特殊効果:速度上昇・微〉〈製作ボーナス:リロード短縮・小〉
短銃ニ丁とマガジンを五個収納可能・ベルトタイプ
続けて、先程までの経験を活かして、太股の外側に身に付けるホルスターを作る事にする。
【左狼脚ホルスター】防御力2〈特殊効果:回避上昇・微〉〈製作ボーナス:リロード短縮・小〉
短銃一丁を収納可能・レッグタイプ/左脚専用
【右狼脚ホルスター】防御力2〈特殊効果:回避上昇・微〉〈製作ボーナス:リロード短縮・小〉
短銃一丁を収納可能・レッグタイプ/右脚専用
これは、非常に満足するものが出来たな。部分的に狼の毛を残してあるので、見た目的にも少しお洒落な仕様になっている。
次は本当の意味で、このスキル取得の本命でもある鞄を製作してみるか。今の鞄はゲームプレイ時に初期装備として全員が持っている共通の物だ。大きくて、アイテムもいっぱい入って便利なのだが、戦闘中は邪魔になる。戦闘メインのプレイヤーやβからのプレイヤー達は既にNPCの露店で売っている小さいショルダーバッグタイプの鞄を使っているらしい。現にアクアやジュネ達に会った時には、すでに鞄は変わっていたのだから。初期の物より内蔵出来る容量は減るが、確かに動き易いし便利ではあるよな。
逆に、生産メインのプレイヤー達は大きくても内蔵出来る容量が多いデイバッグタイプを使っている。ちなみに鞄の重さ(中身を含む)にはデフォルトで補正があるらしい。街の露店で売っている多くの鞄もこのタイプだ。
《鞄製作》スキルを持つ僕としては、その両方の良いところを生かした鞄が作れるのではないのか?とも思うんだよな。
鞄には、ボアとウルフの鞣し皮を使う予定だ。外側はホルスターのデザインと合わせる為にウルフ、内側はボアを使う。形状は背中の肩から腰に斜め掛けで使うワンショルダーのボディバッグタイプが理想だ。どのみち、まずは試作品から製作するんだけどな。それでダメなら、製作物の方向転換をすれば良いだけなのだから。
【試作型ボディバッグ】
〈特殊効果:なし〉
ボディバッグタイプ
『うん』
形状に問題は無いな。むしろ、予想よりもシャープで格好良い物が出来るかもな。次は本番なので、ちょっとしたオシャレに鞄のジッパーの部分に昨日南の川で採掘したアクアマリンをあしらう事にした。
【ボディバッグレザー】
〈特殊効果:重量軽減/自動回収・ドロップ素材/防水〉〈製作ボーナス:容量拡張・中〉
ボディバッグタイプ
『よっし!』
成功だな。製作ボーナスで容量拡張・中が付いたのは凄く大きいよな。今までの鞄より小さく、持ち易いのにも関わらず容量が倍以上増えている。ジッパー部分にあしらったアクアマリンのおかげで防水機能も付いた。これって最高の結果じゃないのか?最低でも雨には負けない。
家庭科の得意な僕には《鞄製作》スキルは、向いているかもしれない。こういう単純作業の繰り返しは作業はむしろ好きだ。無心になれて、地味に心が癒されるからな。
この時点で、今日の目標であった現実逃避は成功していると言えよう。
同じ種類の鞄をサンプルとしてウルフの鞣し皮だけで五個作った。こちらの方は、アクアやジュネ+α達に渡してモニターをしてもらう予定だ。勿論、自分で製作した鞄も売り物に出来れば、ネイルさんに支払う分くらいは稼げるかも知れないと言う打算的な算段も有るけどな。
素材の残りがウルフの鞣し皮五枚になったので、残りは保管する事にした。また暇を見付けて皮素材の回収に行かなければならない。まぁ、北の森に一人で行くのは現時点では少し辛いかも知れないけど…《探索》スキルを上手く使えば、なんとかなるだろう。
さて、問題の当面の金策だが…露店で、用途不明で残っているドロップ素材で用途不明の水精霊の核、亀の甲羅でも売ろうか?他の水精霊の雫、亀の血は《調合》でも使えるらしいので、既にネイルさんに渡している。
なので、残っているのはこの二種類だったのだが、露店にいるNPCの説明で売ろうとしていた水精霊の核、亀の甲羅は《鍛冶》でも使える事が分かったので売らない事にした。そうすると、結局は手持ちのお金が無いんだよな…
やっぱり、当面は狩りに行くしかないかな。例の如く《探索》を駆使して北の森を目指す。多分、僕は《探索》スキルを取得してなかったら、ソロプレイは無理だったろうな。この狩りは素材回収とは別に製作したばかりのホルスターと鞄のテストも兼ねている。目標としては昨日一番良い値で買い取りされた木材狙い。そのついでに、他の素材やドロップも回収したいところだな。まぁ、今日はソロなので昨日ほどの成果は上がらないだろうけどな。
『やぁ、また会ったね。シュン君』
一人で森を目指していると、背後から声をかけられた。この声はネイルさんだな。ネイルさんは『奇遇だねぇ』と言いながら近付いてくる。
『そうですね。また会いましたね』
振り返りながら、答えるとネイルさんを含む四人パーティーの魔女達がいた。魔女達と言っても、後ろに控えている二人は大柄な男なんだけど、姿格好はどう見ても魔女そのものにしか見えないので魔女と言っても良いだろう。
『このルートなら、シュン君も森で採取かい?』
『はい。お金も素材もないので、採取やドロップの回収狙いです』
『そうか。それにしても君はソロなのかい?良かったら、僕らと即席のパーティーでも組まないかい?今日集まった僕の仲間は、ご覧の通り後衛ばかりなんだよね。一人でも多くいると僕らも助かるんだよねぇ』
僕を誘ってくれるネイルさんの後方では『《銃士》のソロとか初めて見た』とか『いやいや、《銃士》でソロって事は逆にかなりの実力者じゃないのか』とか『そもそもβ以降で《銃士》を見るのが初めてだよ』とかコソコソと喋っているのも聞こえてくるが、僕も最後の人と同じでソロどころか自分以外の《銃士》を全く見た事がないのだけど…と言うか、ゲーム経験は低いけど僕も後衛ばっかりで組んだパーティーって見た事ないんですけどね。そして更に、後衛寄りの僕を勧誘するとか…まぁ、これは突っ込んだらやぶ蛇になるから言わないけどな。
『皆さんがよろしければ、お願いします』
『じゃあ、ヨロシク!自然素材もドロップ素材も均等割りで良いかい?』
僕は『了解です』と答えて、再び《探索》を実行する。今度は自分一人ではないので、より慎重に、些細な事も見逃さないように注意深く…
ネイルさんともう一人のエルフの女性は《魔術師》で、人間の男性二人は《弓士》らしい。ただし、ボウガン系の《小弓》と普通によく見かける弓系の《長弓》と言った二つのパターンに分れている。
そんな二人が教えてくれた話しでは、他のMMOより弓が優遇させているらしく、他にも弓仲間は何人かいるみたいだ。僕もスキルや銃の話が出来る銃仲間は欲しい。かなり、切実に…な。
森に着くと昨日夜に来た時よりも魔物が多かった。マジで僕一人じゃなくて良かったと思う。僕は《魔術師》達に〈魔法攻撃力上昇〉、《弓士》達には〈攻撃力上昇〉の《付与魔法》を掛けて、前線へと駆け出した。如何に僕の存在が後衛寄りと言っても、純粋な後衛達よりは少しはマシなはずだから。
『《付与魔法》を掛けました。僕は牽制と陽動を担当します。攻撃はお任せします』
右脚のホルスターからハンドガンを抜く。勿論、走りながら〈ウインドカッター〉の詠唱を始めるのも忘れていない。
後衛達に魔物が近付かないように、なるべく注意を僕に引き付けて射撃と回避を繰り返し一定の距離をキープする。その合間にも自分自身への〈速度上昇〉の《付与魔法》の詠唱も忘れていない。回避時にくる弓の援護が地味に有難いな。そのお陰で様々な余裕も生まれている。いくら森の中では雑魚モブのウルフやボアと言っても、紙装甲の僕やネイルさん達にとっては一発一発が命取りになりうるのだから。
弓と銃で数匹を相手取っている間に、《魔術師》達の範囲魔法の準備が出来たようだ。
『いくよ!〈クエイク〉』
『〈アイスレイン〉行きなさい』
二つの魔法は、多くの魔物を巻き込んでいく。魔法で虫の息になっていた魔物には僕の銃や《弓士》の弓が止めをさしていく。
『いや~いやいや、シュン君、本当に楽だったよ。君は《付与魔法》も使えたんだねぇ。あれのお陰で何時もより早く戦闘が終わったよ。ありがとう』
『いえいえ。じゃあ、採取しましょうか。僕は《探索》で辺りを警戒しながら木材を集めます』
そう言って、〈ウインドカッター〉を放つと、どんどん木が木材へと変わっていく。しかも、刈った枝や木の幹も早い物なら十分ぐらい経つと新たな枝や木が生えてくる。流石はゲームだよな。
端から見れば、木が生えて急激に伸びていくところは、なかなかシュールでもあるよな。
しばらく狩りと採取を交互に繰り返しながら、少しずつ場所を変えていく。十分で復活すると言っても、なるべく自然素材の枯渇は避ける努力をしたいからな。まぁ、これはネイルさん達の受け売りだけど、僕もそう思うから僕の意見でも良いだろう。
『くっ!?…未確認のかなり大型の魔物が接近してます。警戒と戦闘準備を』
例の如く《付与魔法》を皆に掛けて、一歩前へと進む。
『アレはヤバイ奴だねぇ。βの頃から森に出てくるけど、レアモブだよ。ピンチになると雄叫び一発でボア系を一気に呼び寄せてくるヤバイ奴なんだよ』
ネイルさんが声をかけて指示をくれる。『ヤバイ、ヤバイ、大ピンチだ』と口では言っているが、その声や仕草からは完全に余裕しか感じないんですけど…
『僕はダメージ重視の魔法を準備するから、範囲魔法はお願いするねぇ』
《魔術士》達で簡単な打合せが終わる。
『僕達は陽動します。援護をお願いします』
僕を含めた男連中は中距離、遠距離でスキルを混ぜた攻撃をしていく。
『〈フレイムアロー〉』
『同じく〈フレイムアロー〉だ』
左右に別れた弓士達が同時にレアモブの弱点属性となる火系のアーツを連続で発動する。僕は、レアモブの背後に回り込み〈ウインドカッター〉と〈必射〉で左右の前足の裏を狙い打つ。《弓士》や《魔術師》には絶対に近寄らせてはいけない。
『グォォォォォォ~』
雄叫びのようだけど…ちょっと使うの早くないですか?こう言うのって、もう少し雰囲気とか演出とかを大事にして欲しいんですけど…レアモブさん、全然全くピンチじゃないですよね。
『ボアの背後、僕の方からボア四、ミニボア五、青いボアが一匹』
僕は回避しながらボアの正面に回り込み銃を撃つ。近寄らないと全くダメージが出ないので、これは牽制にしかならない。いや、牽制にもなってないのか?当たってもダメージが出ないので徐々に近付いてくる。
『お待たせ。いくよ、〈ロックグレイブ〉』
ネイルさんが高威力の《地魔法》を唱える。地面から斜めに出現した数本の石柱がレアモブの動きを封じながら身体を貫いていく。どうやら、ネイルさんは《地魔法》が得意らしいな。
レアモブが貫かれた事で、呼び出されたボア達が一斉にレアモブを中心に一ヶ所に集まってくる。
『皆さん、離れて下さい。〈アイスレイン〉』
範囲魔法が放たれてミニボア達は即死だ。ボアは即死を間逃れたが、《弓士》の追い打ちで息を引き取っている。残りの青いボアは…全く効果無しのようだな。
『すみません。あの青いボア、私の《氷魔法》は効かないようです』
それと同時にレアモブがネイルさんの魔法から解放される。だが、かなりダメージは受けたようで先程までの速さはない。
『俺達で青いボアは引き受ける。そっちは頼んだ』
二人の《弓士》は、再び火属性のアーツで青いボアに攻撃していく。
『了…
『グォォォォォォ~』
…解って、またですか?』
レアモブの雄叫びでボアが五匹、青いボアがニ匹追加された。これっていつまで増えるんだ?そろそろ止めて欲しいんだけどな。
『援護します。魔法の準備してください』
動きが悪いレアモブに近づきながら射撃する。今度は近付けるので少しはダメージが出る。しかし、その威力は微妙だな。いっその事、《零距離射撃》で一気に…とも思ったけど、他の人がいる状況だと止めておいた方が良いだろうな。
そうしている間にも、追加のボア達がレアモブを中心にして集まってくるので、魔法と射撃で距離を開いていく。
『またいくよ。〈ロックグレイブ〉』
『こちらもです。〈アイスレイン〉』
二人の魔法が咲き乱れる。それでもまだ倒れなかったボアには、銃や弓の射撃の追い打ちが襲い掛かった。
増援、一掃、増援、一掃を何度か繰り返しながら魔物の数を減らしていく。残りは、さっきからずっと瀕死?にしか見えないが全く倒れないレアモブと青いボア三匹。すでに魔術士はMPが尽きかけているようだ。僕や弓士達のHPも既に三割を切っている。僕のMPは当然空っぽだ………切り札を出すなら、今しかないのだろうな。
『皆さんは青いボアをお願いします』
それと同時に僕はレアモブの懐に突っ込みむ。
『『『『えっ!?』』』シュン君?』
僕は、レアモブに無謀にも突っ込む《銃士》を見て驚く仲間達を無視して、《零距離射撃》を発動した。そして、《零距離射撃》を受けたレアモブは十メートル以上吹き飛び、その場で息を引き取った。
『『『『えっ!…えっ~~~!?』』』』
再び繰り返される驚きの声。
『残りは青いボアだけです。皆さん、慎重にいきましょう』
ほどなくして残っていた青いボアも皆の攻撃によって倒された。
『シュン君、君は本当にいろいろ面白いねぇ。さっきのアーツの事も聞きたいところだけど…マナーは守るよ』
他の三人も揃って頷いた。ネイルさん以外も良い人達みたいだな。やっぱり、類は友を呼ぶのかもな。
『隠す程の事ではないのですけどね…』
アーツの内容を話す。皆は驚いていたが、どうやら秘密にしてくれるみたいだ。アーツの内容は話したが、習得条件はかなり運の良さがいるとしか話していない。そのあとで、偶然を装って同じ射撃系でもある弓で同じ条件で試して貰ったが習得する事は出来なかった事を踏まえて考えると、多分銃限定のアーツなのだろう。
結局魔物はレアモブことボアオーダーが一匹、青いボアことブルボア七匹、ボア二十五匹、ミニボア四十二匹と無茶苦茶内容の濃い戦闘だった。前衛無しで、この数を相手にしてよく誰も死ななかったよな。ちなみに、レアモブの名前や青いボアの名前は、ドロップ素材から判明した。ネイルさん達が言うには、《探索》スキルが成長すれば魔物を見ただけで名前が分かるようになるらしいけど、僕のスキルレベルからすると当分先の事になりそうだよな。まぁ、ゆっくりと目指しますけどね。
ボアオーダーとの戦闘で疲弊した僕達は十分な素材を得た事もあって、これ以上採取を続ける気になれず、街の工房へと戻り戦利品を五人で分配をした。
嬉しい事に、ボアオーダーのドロップ素材のボアオーダーの牙と爪は人数分有った。どうやらこれは仕様らしく、レアモブやボスモブからのドロップ素材は、パーティーの人数分手に入るようだ。第一に獲得した戦利品で揉めずに済むし、第二に手に入りにくい素材を必要な数を集める回数が減るのだから。これは本当に嬉しい仕様だよな。
驚いた事にボアオーダーに呼び出されたブルボアもレアだったみたいで、ドロップが七×人数分あった。あとは適当に必要に応じて分配していく。僕の分の採取した薬草類はネイルさんに全て渡しておく。僕の依頼は現在進行形で継続中だからな。ブルボアのドロップ素材はブルボアの牙が四個、爪が二個、皮が一個だった。
あっ!もしかしてだが、このブルボアがアクアの探してた魔物かも知れないよな。あの出現方法なら、簡単に見付からない可能性は有るよな。
この中にアクアの欲しがっていた素材があったら良いのだけど…魔女の皆さんと別れてブレンドリストからアクアを探しプレイヤーコールを入れた。トリプルオーの中で使用するフレンド間で使用出来るプレイヤーコールとは、通称コールと呼ばれており、現実世界での電話みたいなものだ。ちなみに、個人と個人を結ぶコールとは別にパーティー内専用のパーティーチャット、通称チャットなら同時にパーティー最大人数の六人まで会話可能だったりもする。
『アクア、今は暇か?』
『今は狩りから戻るところだ。十五分後なら、大丈夫だぞ』
『じゃあ、十五分後に神殿の近くの露店で…』
アクアと待ち合わせをした。場所は僕の都合に合わせて木材を売る露店の近くだ。皆が木材を多目に譲ってくれたので、量だけは有る。二十ニ本分の木材、素材の数に換算すると二百は下らない。新しい鞄を作っていて本当に良かったよな。この質量だと初期の鞄では絶対に入らない量だからな。
では、お待ちかねの今回の戦利品の鑑定結果をお伝えしましょう。
樫木材八本×千フォルム
檜木材五本×千八百フォルム
欅木材八本×千五百フォルム
林檎の木材一本×五千フォルム
合計三万四千フォルム。所持金と合わせて三万四千ニ百フォルム。これはウハウハだぁ~。
これで、武器と防具を新調しようと思う。何せ、いまだに僕の使っている武器は初期装備ですからね。ネイルさん達にも言われたし、辺りを見回しても初期装備の人いないし…まだ二日目だよね。僕としては、もう少し初期装備の人がいても良いと思うんだけどな。
『武器、高っ!』
僕の使っている最低の【ハンドガン】が千フォルムしてる。高い物だと五万フォルムを軽く越えてるし…さっき感じた細やかな幸せを返せと言いたい。僕は【デルタシーク】という七千フォルムの銃をニ丁と【ハンドガン】一丁、マガジンを二十セットを合計一万六千フォルムで購入する。NPCの露店で買った装備のメインカラーは店で自由に色を変更できるらしく、二丁の【デルタシーク】は深紅を選択した。
次は防具だな。
【ゴーグル】千フォルム
【レザーバングル】二千フォルム
【レザーブーツ】千五百フォルム
【ローブマント】三千五百フォルム
【レザーブレスト】五千フォルム
以上の五点を買った。色は全て黒、残金は…五千ニ百フォルム。
『はぁ~~~』
また貧乏に逆戻りらしい。束の間の贅沢だったな。
『おっ、ようやく初期装備は卒業か?』
買い物をしていると、背後から近付いてくるアクアに声を掛けられる。
『あぁ、流石に初期装備は逆に目立つからな。装備するから少し待ってくれ』
僕は、早速今買った物を装備してみる事に。
装備
武器
【デルタシーク・短銃】攻撃力30〈特殊効果:なし〉×2丁
【ハンドガン】攻撃力15〈特殊効果:なし〉×2丁
【銃弾】攻撃力+5〈特殊効果:なし〉
防具
【ゴーグル】防御力3〈特殊効果:命中補正・微〉
【レザーブレスト】防御力15〈特殊効果:なし〉
【布製の服】防御力5〈特殊効果:なし〉
【レザーバングル】防御力8〈特殊効果:なし〉
【レザーブーツ】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ローブマント】防御力10〈特殊効果:なし〉
アクセサリー
【ウルフダブルホルスター】防御力5〈特殊効果:速度上昇・微〉〈製作ボーナス:リロード短縮・小〉
【左狼脚ホルスター】防御力2〈特殊効果:回避上昇・微〉〈製作ボーナス:リロード短縮・小〉
【右狼脚ホルスター】防御力2〈特殊効果:回避上昇・微〉〈製作ボーナス:リロード短縮・小〉
かなり防御力が上がったな。外見は漆黒で両脚のホルスターから少しはみ出ている銃のみが深紅である。二丁の黒い【ハンドガン】は、腰のホルスターに収納している。ちなみに、僕が銃を複数持つ理由はリロード時間の短縮の為だ。リロードするよりは、銃を持ち変える方が早いからな。
『お…ま…た…せ…?』
振り返ると、そこにはアクアを含めて四人の男女がいた。
『おぅ、ずいぶん見た目も変わったな。それで、俺に用って何だ?』
アクアに尋ねられて、先程回収した素材類を見せるとアクアは目を輝かせて訪ねてきた。
『おい、それ、どうしたんだ?どこで手に入れたんだ?』
僕は、さっき北の森での出来事を話した。
『ブルボアはボアオーダーの増援か…ちっ、βの時と仕様が変わっているな。いくら探しても見付からないわけだぜ』
やはり、アクアの欲しい素材はブルボアだったらしい。
『皮以外なら条件付きで一個ずつは譲るぞ。皮は《鞄製作》で使うからダメだが』
『えっ、いいのか?俺が欲しかったのは牙と爪だから助かる…って、おい、待て!シュンに二つ確認したい事が有る。一つは譲る条件、もう一つはお前はまた新しく生産系を取得したのか?』
『あぁ』
《鞄製作》を取得した経緯を説明して、条件が鞄のモニターだと伝える。流石に《鞄製作》を取得した理由の一つが《調合》を諦めたからだと伝えると見ず知らずの三人にアクアを含めた四人全員に呆れられたけどな。
『これがブルボアの牙と爪で、これが鞄のサンプルだ。使ってみて使い心地を教えてくれたら、それだけでいいよ』
呆気にとられているアクアを後目に、『じゃあ』とその場を去っていく。これでも暇ではないんだよな。
今日の狩りで上がったステータスを確認する事に、なにしろ長時間の戦闘だったのだ、思わず期待してしまうな。
《銃士》Lv28
《短銃》Lv34《速度強化》Lv22《回避強化》Lv19《風魔法》Lv22《魔力回復補助》Lv21《付与魔法》Lv22《鞄製作》Lv18《鍛冶》Lv3《探索》Lv29《家事》Lv14
サブ
《調合》Lv6
SP 23
newアーツ
〈急所撃ち・短銃〉攻撃力×2 クリティカル補正+50%/消費MP 50
二十メートル以内なら必ず急所に当たる・急所判明
習得条件/《短銃》スキルLv30
new魔法
〈防御力上昇〉
習得条件/《付与魔法》スキルLv15
〈魔法防御力上昇〉
習得条件/《付与魔法》スキルLv15
〈回避上昇〉
習得条件/《付与魔法》スキルLv15
称号
〈もたざる者〉〈トラウマを乗り越えし者〉
新しく覚えたアーツも使い勝手が良さそうだな。だが、最も気になったのは《短銃》スキルが進化できる事だ。《短銃》レベル30で進化先に《機関銃》が出現したのだが、まだレベルが上昇している。アクア達に聞いていた話では、スキルレベルがカンスト状態で進化する事が可能で、進化すれば元のスキルは無くなるはずなのだが…元のスキルが残るのは、派生スキルが発現した時だけのはずなのんだけどな…
まぁ、成長が止まった訳でも、特に困っている訳ではないからな。取り敢えずは進化を保留にしておくか。新しく武器を買ったばかりなのに、武器チェンジとか残金と相談しても悲しい結果にしかならいないのだから。
あれから三日が経ち、ついに待ちに待ったネイルさんからの連絡がきた。
この三日間はソロで素材の採取や狩り、生産に励んでいたのだが、採取や狩りはあまり効率が良くなかった。攻撃力が低くてすぐ弾切れをおこし、街へ引き返すを繰り返していた。パーティープレイが羨ましくもあるが…まぁ、仲間に関しては焦ってはいないからなとも思っている。気が合うプレイヤー(絶対条件として《銃士》をバカにしない)を見付ければ別だけどな。
工房には、いつも通り恍惚そうな表情でゴリゴリしてる魔女達がいた。いつもの事なので見慣れてきてはいるが、これから先も僕の心が慣れる可能性は低いだろう。
『早速来たのかい。遅くなって済まないねぇ。やっと依頼の品は出来たよ』
そう言って差し出してくるアイテムをネイルさんから受け取った。
『依頼されていた火薬類は、今のアイテムでは無理みたいだねぇ。その代わり、状態異常系のアイテムや回復薬は満足してくれる物が出来ていると思うよ』
確かに露店で売られている物がレベル1しかない中で、毒も麻痺も凍結もレベル2の物が出来ている。攻撃力の低い僕には、本当に有り難い話だよな。
『ありがとうございます。それで、お値段の方は?』
僕としては、多目に用意をしてきたつもりだが、はっきり言って所持金は心許ないからな。
『今回は、タダで良いよ。狩りも手伝って貰ったし、取れた素材や製作でのレベリングも良かったからねぇ。初回のお試しだと思ってくれよ。勿論、次からはキッチリとお金貰うからね。それとは別に一つお願いが…僕としては珍しい素材等で、これからも依頼して欲しいな』
『では、今回はお言葉に甘えさして頂きます。ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします』
最初は遠慮しようかと思ったが、周りの雰囲気がそれを許さなかったので、ネイルさんに甘える事にした。それと同時に、これからも《調合》の依頼はネイルさんにと心の中で決める。
工房を出るとタイミングよく、アクアからコールが来る。
『うん、どうした?』
『シュン、お前に依頼が有るんだが、今どこにいるんだ?』
『依頼?…今は《調合》の工房の前。でも、これから《鍛冶》の工房行くとこだが…あまりレベルは上がってないから狩りの誘いなら厳しいと思うぞ』
何せ、このあとは初めての《鍜冶》が待っている。狩りの誘いなら今日は断ろう。
『それならちょうど良かった。じゃあ、《鍛冶》の工房前で』
そう言って通信が切れる。今アクアは『ちょうど良かった』って言ったよな、何か嫌な予感がするな。取り敢えずは、予定通り工房を目指そうかな。
工房には、僕の方が先に着いた。先に着いたからには僕の予定を進めさせて貰おうかな。工房にいる職人達に《鍛冶》で製作可能な物やこの工房内での最低限のマナーを聞く。
そして、衝撃的な事が発覚したのはレクチャー開始から十分後だった。
《鍛冶》で銃弾は作れません。
はい…またしてもお疲れ様でした。銃弾の製作は《錬金》の部類だそうです。はい!また無駄なスキルが出来ました。
しかし、完全に無駄になった訳ではなく、良い事も分かっている。もしかしたらとは思っていたのだか《調合》や《木工》スキルは採取に、《鍛冶》や《錬金》スキルは採掘に補正がかかり、レア度の高い素材が採れるようになるらしい。以前、アクアに聞いたように採取や採掘でも対応するスキルのレベルが上がる。
だから、完全には無駄にならなかったと思いたい。
僕が一人で呆気にとられているとアクアがやって来た。
『どうかしたのか?シュン』
『どうもしない…《鍛冶》のスキルが使用する前に御臨終になっただけだ。それで、何の用だ?僕は、今から《錬金》を取得して《錬金》の工房に行きたいのだけど』
振り返って答えると、そこには以前アクアと一緒にいた三人もいた。多分、アクアのパーティーメンバーなんだろうな。
『…また生産系を取得するのか?は一端置いておくとして、だ。俺達の本題はモニターとして預かった鞄の件だ』
俺達の本題?嫌な予感が益々するな。
『えっと…何か、問題が有ったのか?』
アクアの言葉で僕は真剣な顔になる。何かしらの問題が有ってアクアだけでなく仲間のパーティーにも迷惑を掛けたなら、製作者として謝らなければならない。これは絶対にだ。
『大有りだ』
血の気が引いて行く…こんな些細な感覚までがリアルだった。
『この鞄、性能が変じゃないか?特に容量。かなりの量が入るぞ。俺が借りている小さな倉庫並みだ』
『そうでもないぞ。僕のはもう少し容量が上だ…って言うか、倉庫って何だ?』
倉庫とか有るのか?まぁ、冷静に考えると無かったら、今戸なっては初期の鞄では完全に内容量に問題が有るよな。
『知らなかったのか?レンタル倉庫は神殿の中に有るし、割りとメジャーだぞ。月単位でのレンタルが可能で、所持金さえ有れば自動で延長可能なんだぞ』
そんな便利な物が有ったんだな…と言うか、そう言う情報は何よりも先に欲しいんだけどな。
『アクア、そろそろ俺達を紹介してくれないか?』
アクアの隣にいたかなり大柄な魔人の男が喋った。アクア以外の三人を無視していた訳ではないけど、話し掛ける切っ掛けが無かったんだよな。
『あっ、悪い悪い。シュン、この色黒な魔人がドーム、《防衛士》だ』
『こっちの虎猫族はアキラ、《盗賊》だ。見た目は男みたいだが歴とした女だ』
最後の一言は余計だと思うな。
『最後がハーフエルフのレナ、俺のパーティーの要を担う《回復士》だ』
『実際に会うのは二度目だけど、初めましてって言った方が良いのかな。僕はシュン、天狐族の《銃士》だ』
三人と軽く挨拶をかわす。アキラと呼ばれた白をベースとした(ホワイトタイガー?かな)女の子は、紹介方法が気に入らなかったのか、アクアを問い詰めている。まぁ、あの紹介なら怒っても仕方が無いと思うけどな。
『それで、なんとなく依頼内容は分かったんだけど、もしかしなくても鞄の作成依頼か?』
『そうだ。俺とパーティー三人の計四人分。勿論、報酬は払う』
まぁ、あの流れなら、必然的にそうなるよな。
『う~ん…作る事自体は問題は無いけどな。僕的にもレベル上げになるからか。ただ今は素材が無い。アクアの分も必要って事は、何か特殊な要望が有るんだろう?』
『あぁ、そうだ。素材は俺達が用意する。要望は…外見や色を変えて作って欲しい』
改めて四人を見直して、身長や好みの色が違う事が分かる。なるほど、見た目は大事だからな。
『ちなみに、素材は何が用意できるんだ?』
アクアが今ある素材を見せてくれる。リザードの皮やシェルホークの羽等見たことない素材が沢山有った。西の湖付近で出現する魔物らしいが、ソロで狩るのは少し難しいみたいだ。
素材の質は良さそうだが、数が足りない事を話す。まだ加工した事のない素材なので、かなり数が欲しい事を伝えると、ドームが一緒に狩りに行かないかと誘ってくれた。新しい素材の事もあるので有り難い話だよな。明日、五人で狩りに行く約束とフレンド登録をして今日は解散した。《銃士》の僕を誘ってくれるのは本当に嬉しい事だ。
《鍛冶》の工房で職人に素材を売り、鉄塊や銅塊、鉄銅の合金を少し購入した。この素材は《錬金》でも使えるらしい。
僕は《錬金》をする為に工房を目指しながら、新しく《錬金》とついでに《革製作》のスキルをSPを5使って取得した。《革製作》はホルスターや鞄を作る時に、多分レベルが上がるだろうと言う推測と打算から取得した。
工房に着き、作業の説明を聞いて初級の道具を買い、慣れた手つきで工房の使用料を払う。
まずは、銃弾に毒や麻痺、凍結等の状態異常を《錬金》しようと思う。装置の右手に銃弾が入ったマガジン、左手に毒薬を置き、いざ《錬金》…はいはい、分かってましたよ。当然、最初は失敗です。勿論、甘くないのは予想してました。六回の失敗を繰り返して…
【銃弾・毒】攻撃力+5〈特殊効果:毒Lv1〉
…が出来た。製作には普通に成功しているので、どうやら《錬金》した時に状態異常の効果レベルが下がるみたいだな。と言う事は、市販されてる状態異常アイテムでは、この手の特殊弾は作れないと言う事か。う~ん、これはかなり辛い仕様だな。
【銃弾・麻痺】攻撃力+5〈特殊効果:麻痺Lv1〉
【銃弾・凍結】攻撃力+5〈特殊効果:凍結Lv1〉
同様の工程を繰り返し各三マガジン分作る。これは、無駄には撃てないが、マガジン単位でのアイテム作成は嬉しい仕様だよな。
次は、先程買った鉄塊と銃弾を《錬金》するが、これは失敗せず製作する事が出来た。
【銃弾2】攻撃力+10〈特殊効果:なし〉
同じ銃弾をどんどん作っていく、銃弾と鉄塊は素材の比率の問題でマガジン三セットに対して鉄塊は一つの消費で済む。五つの鉄塊全て使ってマガジンを十五セット作る事に成功した。
次は、銅塊と合金なのだが、これは全く成功しなかった。クズ銅とクズ塊、空のマガジンが出来た。クズ銅とクズ塊は再度精製が可能らしいので、失敗して量が増えたら精製させて貰おうかな。【デルタシーク】に【銃弾2】のマガジンを入れる。状態異常弾系は鞄にしまい、《錬金》用の素材が尽きたので今日は残っている皮を鞣す作業をしてログアウトする事にした。
僕はログアウトした直後、僕の部屋の中でさも当然と言った感じで待ち構えていた純に捕まった。
「鞄の事、聞いた、欲しい」
はい。そうなる気はしてました。まぁ、モニター用に作った鞄も有るし、それで良いかと聞いたら…あっさりとダメ出しをされました。すでに素材は準備してあるらしいので諦めよう。と言うか、用意周到だよな。
「了解。一つ聞きたいのだけど、トリプルオー内で露店を出す方法は有るのか?」
「クエストか、レンタル。クエストなら無料、レンタルなら月額最低十万フォルム必要」
月単位でのレンタル露店が一ヶ月で十万フォルムいるらしい、自分の工房やお店等を持つには、軽くその二十倍くらいするらしく、金欠の僕には果てしない夢のような話だな。
装備
武器
【デルタシーク】攻撃力30〈特殊効果:なし〉×2丁
【銃弾2】攻撃力+10〈特殊効果:なし〉
【ハンドガン】攻撃力15〈特殊効果:なし〉×2丁
【銃弾】攻撃力+5〈特殊効果:なし〉
防具
【ゴーグル】防御力3〈特殊効果:命中補正・微〉
【レザーブレスト】防御力15〈特殊効果:なし〉
【布製の服】防御力5〈特殊効果:なし〉
【レザーバングル】防御力8〈特殊効果:なし〉
【レザーブーツ】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ローブマント】防御力10〈特殊効果:なし〉
アクセサリー
【ウルフダブルホルスター】防御力5〈特殊効果:速度上昇・微〉〈製作ボーナス:リロード短縮・小〉
【左狼脚ホルスター】防御力2〈特殊効果:回避上昇・微〉〈製作ボーナス:リロード短縮・小〉
【右狼脚ホルスター】防御力2〈特殊効果:回避上昇・微〉〈製作ボーナス:リロード短縮・小〉
《銃士》Lv30
《短銃》Lv37《速度強化》Lv23《回避強化》Lv21《風魔法》Lv24《魔力回復補助》Lv24《付与魔法》Lv24《鞄製作》Lv20《錬金》Lv8《探索》Lv32《家事》Lv17
サブ
《調合》Lv6《鍛冶》Lv5《革製作》Lv3
SP 24
称号
〈もたざる者〉〈トラウマを乗り越えし者〉