★第二回公式イベント 1
@定期バージョンアップ情報(※ほぼ確定情報)
・NPCに人格AIの追加
・武器/防具の耐久度追加
・感情度追加
・バージョンアップ後に第二回公式イベント発表
ほぼ確定か…いつも思う事だけど、このサイトの主はどんな手段を用いて公式では全く公開されていない新しい情報を集めてくるんだろうな。
「駿くん、今時間有る?メールで教えたサイトのバージョンアップ情報の確認は出来た?」
僕の携帯に晶から着信が有る。
僕の方から電話しようと思ってたのでタイミングが良かったかな。僕が今見ている情報サイトは、以前に晶に教えて貰ったサイトだ。しかも、蒼真や純にも聞くところによると、このサイトに書き込まれたほぼ確定と冠する情報は、ほとんど外れない事でも有名らしい。
あらゆるゲームにおいて…非常に正確で的中率が高いらしく、一部ではトリプルオーの開発者が運営しているサイトではないか?と噂にもなっているらしいけど、これについてはありとあらゆるゲームに詳しい事から蒼真達は完全に否定していた。その点は僕も同意しているからな。なぜなら、このありとあらゆると言う形容詞には、海外のマイナーなゲームも含めて数万種類の情報が載せられているのだから。
僕としては、蒼真の立てた仮説…天才ハッカー集団に一票とと言ったところだな。
「うん。メールありがとな。今、パソコンで純と一緒に確認してるところ。晶は、これの内容について何か分かりそうなものは有るか?」
第二回の公式イベントの件は置いておくとして、問題は他の三つだと思う。武器の耐久度については僕でも何となく分かるけど、他の二つはほとんどゲームをしない僕には馴染みがない。
ちなみに、二十一世紀中期のPCも携帯と同じで液晶画面と言う物が存在しなくなっている。それどころか、キーボードも存在していない。両方共に空間ディスプレイ(キーボードの方は正確に言うと空間タッチパネル)が採用されている。本体自体も手のひらの上に簡単に乗せられるくらい非常にコンパクト化されており、ネットにさえ繋ぐ事が出来る環境なら、どこでも簡単に使えるので、二十一世紀前期の終わりにはノートパソコンと呼ばれていた物は破竹の勢いで駆逐されてしまったらしい。
そのわりには、PCと同じサイズの携帯そのものが残っている理由は、通話に特化されていると言う点と以前に起きた大規模な災害時の緊急連絡において、過去に類を見た事が無いくらいの非常に優秀な結果を残した為に、完全に普及する前のPCとの住み訳で地位の獲得に成功したかららしい。多分、大規模な災害が起きた時が、PCの完全普前だったと言う点も大きなポイントになったのだろう。
「私も正確には無理だけど、想像は出来るかな。まず、耐久度は分かり易いかな?他のゲームを参考にするなら、武器を使ったり、防具に攻撃を受けたら消耗していくんだと思う。だから、今後は生産系の職人の価値が今以上に上がるんじゃないかな」
これは想像通り…と言うか、文字通りの内容みたいだな。
「次に人格AIの件だけど、店舗で買い物する時やクエストの情報以外でもNPC相手に会話が出来るようになるんだと思う。普通の挨拶、例えば『こんにちは~』とかでも、普通に『こんにちは~』とか返してくれるようになるんだと思うよ。まるで、プレイヤーが操作してるみたいに、その都度考えてオリジナルの答えや意見が返ってくるんじゃないかな。今の状態でもプレイヤーの会話を理解してたから相当知能の高いAIだったと思うけど…それ以上になるのかな。ちょっと信じられないよね」
「なるほどな…」
…と言う事は、プレイヤーと見分けがつかなくなる可能性も有るかもな。
「最後に感情度についてだけど、それはちょっと分からないな。でも、感情度って言うくらいだから、機嫌が良かったり、悪かったり、喜怒哀楽が影響したりするんじゃないかな。あと、有りそうなのはプレイヤー同士の仲の良さとか?かな」
「なるほど…」
僕の隣で無言で頷く純を見ると、だいたいそんな感じなのだろう。
最初の機嫌の良し悪しは少し理解出来ないけど、プレイヤー同士の仲の良さは有りそうだな。仲の良さで回復魔法の回復量や《付与魔法》の効果に変化が有ったりとかもするかも知れないな。
「教えてくれて、ありがとな。ログイン出来るようになったらバージョンアップの詳しい内容を一緒に確認しような」
今は、想像の域を出ない感情度よりもイベントが気になるかな。はたして、今回はどんなイベントを用意してくれているのか…少し楽しみだ。
二日程のバージョンアップ期間が終了して、僕はアキラと一緒に神殿前の広場を目指している。
トリプルオーは他のゲームと違い、イベントの告知やバージョンアップ等の正式な情報はゲーム内に有る掲示板でのみ掲示される。トリプルオーの運営会社や製作会社の公式ホームページでもバージョンアップのおおよその期間しか掲載されないと言うかなり特殊な仕様となっていた。
まぁ、事前に準備しておいた方が良さそうなポイントくらいは遠回しな言い回しで公式ホームページに掲載してあるのだけどな。
それに、運営側が情報を全く公開しなくても、バージョンアップ期間終了後には、逸早く詳細情報を確認したプレイヤーが個人で運営している情報サイトに載せてくれるのだから、一般的なユーザーにとっては大きな問題は無いだろう。
…と言うか、大抵のプレイヤーはバージョンアップ後に自分の目で改めて確認して、その内容について考えている。
『アキラ、何か…街の中が明るいと言うか、いつも以上に活気?が有るような気がしないか?いくらバージョンアップ後と言っても普段よりも街中にいるプレイヤーの数が多い気もするし』
バージョンアップ前とは明らかに雰囲気が違う気がする。以前から綺麗で明るい素敵な街だったけど、今はそれらに加えて街全体が明るく楽しそうに見えている。
『…うん。そうだよね。多分、これってNPCに人格AIって言うものが追加されたからだと思うよ』
『あぁ、そうか』
確かに、それなら理解も出来るし、《見破》スキルを使う事で確認も出来た。
NPCがプレイヤーみたいに…つまりは、人間的に近付いているのだ。以前からプレイヤーとモデリングがプレイヤーに近いタイプの街人NPCを見ただけで見分けるのは難しくなるだろう。少なくともスキルを使っていない僕には無理だったのだから。まぁ、この程度なら【noir】にとっては大きな問題は無さそうだな。
『でも、色々確認するのは掲示板を確認してからだね』
もう、密かに確認しちゃいました…とも《見破》スキルを使わない約束が有るから言えないんだよね。
・NPCの人格AI追加
NPCにも人格や記憶等の個人情報が搭載されます。NPCにも人生が有るのです。一人の人間として接して下さい。
・武器/防具の耐久度追加
今後は武器や防具は使えば使うほど消耗していきます。これは表立って公表はしておりませんでしたが、以前から存在していた機能です。バージョンアップ以前は性能が若干低下する程度の劣化でしたが、今回のバージョンアップより専門の生産職による専用アイテム・素材でのケアや修理をしないと壊れるようになりました。
※壊れたあとでも修理自体は可能ですが、修理に必要な素材が通常より多くなりますので、ご注意下さい。
・感情度システムの追加
クエストの失敗や死亡、空腹、疲労等で感情度が変化します。プレイヤーの皆様が感じる喜怒哀楽によって、現実とは違う様々な現象が起きます。例えば、機嫌が良い状態ならクリティカルが出やすくなる等のボーナス現象が有りますが、機嫌が悪い状態なら命中率の低下等のオーナス現象がお起こりますので、ご注意下さい。他にも様々な効果が有りますが、それはプレイヤーの皆様ご自身で発見して下さい。
・第二回公式イベントについて
お盆の期間八月十一日~十五日の五日間限定開催
期間中は専用ゲートから特設エリア(ランダム十種)に転送出来ます。装備以外の持ち込みは不可になっており、各プレイヤー様につき一日一回男女二人でのパーティー限定で参加可能です。イベント報酬は、各エリアに付き二種類の合計二十種類のレアアイテムをご用意しております。
※イベント中に各自が手に入れたアイテムはイベント中でも使用可能です。
『う~ん…大体は理解出来けど、今回の公式イベントも色々な意味で良い予感がしないかな。僕としては特に男女二人パーティー限定の部分に悪意を感じる』
運営さん、もう少しソロプレイヤーや僕みたいに非モテプレイヤーに優しくなっても良いと思うよ。マジで…
『そう?かな。私的には楽しそうだと思うけど…シュンは、どうするのかな?』
さりげなく目に力を込めて、かなり真剣な様子でアキラが尋ねてくる。正直、ちょっと怖いです。
『最大で五種類のレアアイテムが手に入るから、出来る事なら参加したいけど…いや、でも待てよ。やっぱり、どう考えてもこの期間に、この流れでは例のあれだよな。だったら参加しない方が…う~ん、悩ましい。取り敢えず、ホームで皆と相談かな』
僕が欲しいアイテムが手に入る可能性が有るから非常に悩ましいところだけど、僕の想像した通りなら僕の精神面は完膚なきまでに潰れるんじゃないだろうか?
『…そう』
何故か、アキラのテンションが一気に下がったらしい。どこに下がる要素が有ったのだろうか?
あっ!!もしかして、僕同様に例のあれがアキラも苦手なのかもな。
『シュン、今大丈夫か?お前は掲示板はもう見たか?見たんだろ?おいおい、もっとテンション上げろよ。バージョンアップにイベントだぞ。俺は今からジュネ達と掲示板を見に行くんだけど、あとでホームに行っても良いか?』
アクアが一方的なコールを入れてきた。
楽しみにしていたバージョンアップでテンションが上がるのは分かるけど、少しは落ち着いて欲しい。それと…隣にいるであろう我がお姉様、少しは止めてくれないかな。幼馴染みとして…
『シュンのバカ…』
僕がコールしている間にアキラが何かを呟いたような気もする…が、アクアの一方的なコールに対応していた僕に聞こえる事は無かった。
『別に良いけど。僕もアキラと一緒で広場にいるからすぐに戻る。そっちが先にホームに着いたなら、中に入って待っていてくれ』
コールを終えてた僕は少し不機嫌なアキラと共にホームに帰る。
さっきよりも一層アキラの機嫌が悪くなったようにも見えるけど、ダンジョン・フィールド以外での《見破》スキル使用が|【noir】内では体面上禁止になっている為、アキラの機嫌は分からない。まぁ、密かにさっき街中で使っているのだから、これ以上の使用は控えさせて貰おうか。それに、何故かは分からないけど、この場合は知らない方が僕の身の為かも知れない気がするのだから。
僕達がホームに戻ってみると、他のギルドメンバー達もログインして来ていた。まだ、掲示板は見ていないらしいので四人には先に話すよりも自分自身の目で確かめて来たらどうだと薦めている。あれは、自分で見て色々と考えて自分なりの意見をまとめた方が良いだろう。人はそれぞれで考え方が違うのだから…
ホームに帰ってみて、今回のバージョンアップ項目の一つ「NPCの人格追加」について新しく分かった事が有る。それは、【noir】で雇っているにもNPCにも名前が有る事だ。僕達が、ホームに戻ってきた時に改めて自己紹介されてしまった。普通に挨拶や会話をされるとマジで人が操るプレイヤーにしか見えない。人格AI恐るべしだな。
ちなみに、【le noir】で働いて貰っている赤髪のNPCはマナさん。【by buy】で働いて貰っている金髪のNPCはミナさんと言うらしい。髪の色以外で、キャラのモデリングに違いは無いので、はっきり言って双子か凄くよく似た姉妹にしか見えない。まぁ、個人の性格や声は、各々で別の設定になっているみたいなので、間違える事は無さそうだけどな。
【noir】のホーム内に侵入制限の有る場所が少なからず有る事やNPCとは言え【noir】で働いてくれている仲間と言う事も有りマナさんとミナさんにも【ノワールの証】を配っている。マナさんが6番でミナさんが7番だ。
このあとで起こるであろう話し合いを考えて、僕はアキラに手伝って貰いながら、皆が広場から戻って来る間を利用し、いつも通り紅茶の準備をしている。この機会にマナさんとミナさんにも好みを聞いて、各々の好みと合った紅茶も出している。マナさんがストレートティー、ミナさんは砂糖が多く入った甘い紅茶が好みだそうだ。
ちなみに、僕とフレイとカゲロウはストレートが好きで、アキラとケイトがミルクティー、ヒナタはミナさんと同じで砂糖が入った甘い紅茶が好みらしい。ついでと言ってはなんだけど、今から来るアクア達に出す分の紅茶も準備をしておこうかな。
『…それにしても、食器類が増えたよな』
『うん。もう一つ食器棚が要りそうな勢いだもんね』
ギルドメンバーは、各自で好みのマイ食器と紅茶専用のマイカップを持参している。それとは別に、打ち上げ等のゲスト用として食器類を四十セットと宴会でも使えるような複数の大皿等も用意して有るので、すでに食器棚は容量限界の状態だ。
う~ん、暇をみて同じようなデザインの食器棚を作るか…それとも新しくリビングのテーブルと合った大きな物を作るか…どっちにしても早い内に必要になるだろうな。そうなると、選ばれるのは後者だろう。
『そうだな。その内、ヒナタ達と相談して作るよ』
最近は、買うと言う行為が極端に減ってる気がする。何をするにしても、最初に頭に浮かぶのが製作なのだから。
『じゃあ、それはお願いするね』
『シュン、アキラ、来た』
ゲートからジュネ、アクア、ドームの順に転送してくる。この顔ぶれにしては珍しい事にレナは不在らしい。
『いらっしゃいませ』
僕の淹れていく紅茶をカフェの店員のようにアキラが配っていく。勝手知ったる人達に、いまさらカフェのように注文をとるような事はしない。
紅茶を受け取ると、各々が自分のお気に入りのソファーやイスに座っていく。慣れ親しんだと言うか、少し慣れ過ぎているよな気もするな。まぁ、座る位置については僕のお気に入りの場所さえ避けてくれていたら別に良い話なのだけど。
『ここは、いつの間にかカフェ…いや、この雰囲気なら喫茶店と言う方が近いか…になってたんだな』
紅茶を受け取り一口飲んだドームが、しみじみと呟いた。
その言葉に対して、僕に否定出来るポイントは無い。まぁ、そこを否定する気も無いのだけど。あえて、一つ言うのなら、珈琲よりも紅茶が売りの喫茶店ってところだろう。紅茶の普及は僕の使命でも有るのだから。
『ただいま戻りま…し…た?です』
ケイト達が掲示板の確認を終えて戻って来た。ただし、若干以上の戸惑いを連れて…
ある程度付き合いの長いフレイは慣れているみたいだけど、ケイト達三人は初めて会うプレイヤーに驚いているようだ。そう言えば、三人が加入して以降、色々な案件でバタバタしていてジュネ達を紹介するの忘れてたかもな。
『お帰り。三人には、まだ紹介してなかったよな。ソファーに座っている三人が、僕達が日頃から仲良くさせて貰っている仲間だな。右からジュネ、ドーム、アクア。それで、こっちの今入ってきた三人がギルドに新しく加入した新人で右からケイト、ヒナタ、カゲロウだ。まぁ、僕達を通じて、これから顔を合わせる機械も増えると思うし、ジュネ達は凄いプレイヤーだから、仲良くしておいて損はないと思うよ』
ほぼ初対面であろう六人に簡単に紹介していく。
確実に、僕とアキラの兼ね合いで何回も会う事になるのは決まっているのだ。今は簡単な紹介で良いだろう。ヒナタは、ジュネに憧れているのも知っている。正確にはジュネの持つ僕が製作した杖にだけど…かなり気になるのか、さっきからずっとチラ見しているよんだな。
『お~!!そっちもメンバー増えたんだな。それは喜ばしい事だ。あ~、俺が今紹介されたドームだ。ヨロシクしてくれ。あぁ、そうだ。シュン、俺達もギルドを作ったんだ。一応、立候補者不在でアクアがギルドマスターだ。他にもレナって言う《回復士》のサブマスターや数人のメンバーが居るんだが、今日は他の女子メンバーと狩りに出ている…通称、女子会らしい。それで、まぁ、なんと言うか、今日の俺達は余ってるんだ』
ドームが自分達の近況も教えてくれた。レナが居なくて少し寂しそうだな。それよりも…
『おめでとう。そっちも、ギルドを作ったんだな。それで、名前は?』
『まだまだ、小さいギルドだけどな。名前は【双魔燈】、ギルドランクは最近Dになったところだ。俺達共々ヨロシクしてくれ』
ちょっと怖そうな名前だ。アクアに至っては、さりげなく自分の本名を入れてるし、知ってはいたけど、そうとう自分が好きなんだよな。
おっ、アキラも同じ事を思ったのか、目が合ってしまったな。
まぁ、ギルドの名前よりも、すでにギルドランクがDになっている事の方が驚きだ。何をすればギルドの結成から数日でギルドランクをアップさせる事が出来るのかの方が気になるよな。
『私も、ギルド名【ウィザード】、サブマスター』
ジュネもギルドに入ったらしい。魔法をメインに使うプレイヤーが集まったギルドで、以前の公式イベントでパーティーを組んでいた仲間達と結成したようだ。
我が姉は絶対的に人をまとめる能力は皆無なのだけど、サブマスターとか重要な役職で大丈夫なのだろうか?まぁ、まとめる事を全面的にアキラに任せきりにしている僕も、ジュネの事を酷く言えないと思うけどな。それにしても、知らない間に皆の状況も色々と変わっているんだな。
六人はお互いに自己紹介を兼ねた会話を続けている。まぁ、若干一名だけは自己紹介もそこそこに紅茶と茶菓子に夢中なっているけどな。喜んでくれているのなら、それはそれで良いだろう。
それに、会話と言っても、話しかけるのはアクア達で、新人達は会話はもとより、この場の雰囲気にすらになかなか付いてこれないみたいだけど…これも良い経験となるだろう。色々な意味で…
『そろそろ本題について話たいんだが…シュンは、イベントどうするんだ?男女ペアの二人限定パーティーだろ。アイテムの持ち込みは不可で、イベント中に得たアイテムは使用可能…一見楽しそうにも見えるけど…時期的に考えると俺は良い予感がしないんだ』
『そうだよな。本当にろくでもない予感しかしないよな』
お盆に男女のペア行動。はっきり言って、僕とアクアの頭の中には一つしか思い浮かんでいない。これは、決して僕達二人のボキャブラリーが少ない訳ではないはずだ。
八割…いや、九割方、僕とアクアの苦手なあれが開催されるのだろう。アクアのテンションもバージョンアップの掲示板を見に行く前とはかなり違っている。あの掲示板に載せられた内容を見てテンションが一気に下がったのが手に取るように分かる。それは僕も同じなのだから…
『なんで二人とも憂鬱そうなの?公式イベントだよ。楽しまなきゃ損だよ』
アキラは今回の公式イベントにテンションが上がっているらしい。と言うか、このテンションの上がり方は、アキラにしてはかなり珍しい気もする。
『そうです。私も肯定しますです。マスター、イベントは楽しみましょうです』
ケイトもアキラに続く。アキラ同様に公式イベントを楽しみにしているのが手に取るように分かる。
『二人共違う。根本が間違ってる。シュンとアクア、幽霊苦手』
首を左右に振りながら、僕達の弱点だけをピンポイントで話すジュネ。その要点一言だけを語り終わったジュネは、再び紅茶と茶菓子との格闘を始めていた。そろそろ止めた方が雰囲気的にも良いかも知れない。
『えっ、あっ、え~~、ちゅう事はや、今回のイベントは肝試し?なんか。自分、怖いの苦手なんか?』
ジュネの言葉を聞いてフレイが気付く。
『確かに…そこは否定しないよ。僕とアクアは、その可能性を一番疑っているのも事実だな。隠す事でも無いから正直に話すけど、僕は日本の幽霊や妖怪の類だけはダメなんだ。それを元にしたお化け屋敷や肝試しも…』
その他は大丈夫なんだけど、日本の幽霊や妖怪だけは幼い頃からの知識として知っているので、姿や恐怖が想像しやすい為に高校生になっても一向に改善される様子はない。
同じ幽霊や妖怪でも海外の物…例えばミイラやドラキュラ等なら、特に怖がる必要も無いし、平気なんだけどな。まぁ、それが恐怖としての知識が少ないからなのか、海外の物と言う事で僕の現実として掛け離れ過ぎていてリアリティーを損なっているからなのかは、僕本人にも分からない事なんだけどな。
『俺はシュンと違って海外の物もダメだ。今回は、第一にその可能性があったから【noir】に寄らせて貰った。本当に気が進まないが、俺は一応ギルドのメンバーでローテーション組んで参加する事になった。本当に、本当に気が進まないけど。マジでギルドマスターは辛いよ』
心の奥底から苦しそうな心境を語るアクア。
アクアはギルドマスターをしている為、メンバーから頼まれると断る事が出来ないみたいだな。本当にご愁傷様です。
『そうか…僕の方はあとで皆で相談して決める予定だ』
アクアが、『お前も必ず参加しろ』と目で訴えてきている気がするな。悪いけど、醜態をさらす自身の有る今回のイベントを、僕は回避出来るなら回避させて貰うぞ。お前に巻き込まれる気は、さらさら無いからな。
数十秒の間、目を大きく見開いて訴えかけてくるアクア、回避出来るなら絶対に回避するとこころに決めているシュンとの間で、視線だけの無音な攻防がなされていた。
『あ~、それについては各ギルドに対応を任せるとしてだ。俺は装備以外の持ち込み不可ってのが気になっている。生産系も取得しているシュン達の意見が聞きたいんだ』
ドームが、ここに来た本命はこの件だったらしい。
『あっ、それは僕も気になってる。このタイミングと言うのも少し引っ掛かかっているからな』
『シュン、このタイミングって、どういう事なの?』
『えっ~と、バージョンアップで武器/防具の耐久度追加と言う項目が有ったよな。今後は武器や防具の修理やケアに専用のアイテムや素材がいるのにも関わらず、アイテムの持ち込みは不可能。しかも、専門の生産職が…と限定されているのは、何かしらの意地の悪さを感じてるんだよ』
これが、自分でも深読みをしすぎていると思っている僕のミスリードなら良いのだけど。
『やっぱり、シュンもそこが気になってたんか?ウチもその文章の言い回しは気になってたんよ。そやから、イベントまでに日にちも有るし、その辺の事も含めて色々と検証しようかと思ってったところや。修理専用のアイテムちゅうんも手に入れないとあかんしな』
まぁ、生産系の職人としては修理専用のアイテムってのは気になるよな。その場限りの使い捨てアイテムなのか、持ち運べて継続して使える道具系なのかも大事なポイントだと思う。
『僕からは、それに加えてもう一つ情報が有るんだ。NPCの人格AI追加の件について報告が有る。【noir】にもNPCがいるんだけど…話してみると、マジでプレイヤーと遜色ない感じだな。まぁ、これが今回のイベントと直接関係が有るかは分からないけど…』
僕の言葉を聞いて驚くその他大勢と少しだけ悩むアキラ。
『シュン、それって驚かす役とかも有りえるのか?』
アキラの発言に、僕は肯定の意味を込めて頷いた。
『これが本当に肝試しなら、シュンの考えている事も大いに有りそうだ。それに肝試しなら魔物がゴースト系?いや、日本的な幽霊系の方が予想しやすいか。おい、もしそうだとするなら、物理攻撃は効くのかも気になるかも知れないぞ』
アキラの上げた疑問点を皆が真剣に悩んでいる。
まだ、完全に肝試しで確定した訳では無いんだけど…僕としては、一割くらいの確率でも良いので、予想がハズレる事を大いに祈っている。まぁ、ここの運営さん方は悪い方への予想は絶対に裏切らないんだけど。
『シュン、今回も参考になった。あとはギルドに戻って対応を考える。ありがとう』
『うん、ありがと』
『シュン、この先に起こりえる展開は読めるが無理はするなよ…まぁ、俺もだけど』
アクア達はそれだけを言い残してホームを去っていった。意味深な言葉を残して…
『…と言う事で、だ。公式イベント自体を楽しみにしてない訳では無いけど、イベントの内容が肝試しなら全くと言って良いほど気が進まない。出来る事なら今回は回避したいところだな』
アクア達が帰り、落ち着く為に温かい紅茶を淹れ直す事で一息をついた。これについては皆を落ち着かせるよりも、僕の心を落ち着かせる面が強いのだけどな。
『マスター、質問がありますです。肝試しって何ですか?です』
僕の言葉に悩む皆を尻目に、颯爽とケイトが手を上げる。
ケイトは肝試しを知らないらしい多分、海外にも似たようなイベントは有ると思うけどな。さて、どうやって説明したらケイトにも分かりやすいだろうか…
『う~ん、簡単に言うとホラーだな。お化け屋敷?みたいな感じの物を墓地でやったり廃墟でやったりする日本の夏の風物詩の一つだな。僕的には迷惑な話だけど…』
『Oh!ワンダフルです!マスター、私とペア組んで下さいです。マスターは、私が守りますです』
えっと、ケイトさんは僕の話を聞いて無かったのだろうか?それとも伝わってないのだろうか?
でも、ケイトにしては非常に珍しい事に異様なほどテンションが上がっている。これは本当に珍しいよな…もしかして、ホラー系が好きなのか?それ、僕にとっては最悪でしかないんだけど…
『はい。シュンさん、私とも組んで下さい』
ヒナタもケイトに続いて勢いよく手を上げる。
おいおい、どう言う事だ?ヒナタもなのか。【noir】のホラー好きの割合が高くないか?
『シュン、ウチとも一緒に参加せえへんか?』
これがトドメと言わんばかりの勢いでフレイが立ち上がる。
ケイトにヒナタにフレイ、皆揃いも揃って顔をキラキラさせて僕を見るのを止めてください。そんなに、怖がる僕を見たいのですか?情けない結果になる自信だけは満々に有るんだよ。
『まぁ、百歩…いや、千歩譲って僕の気持ちは無視するとして、だ。イベントは五日間有るから…参加する事自体は構わないけど、イベントの内容が肝試し系なら本当に役には立たないぞ。絶対に迷惑を掛ける事は保証する。それでも良いのか?』
フレイとヒナタとケイトが一斉に頷いた。今までに見た事の無いとびっきりの笑顔を添えて…
あぁ…そうか。そう言う事だったのか、アクアもギルドメンバーの笑顔にやられたに違いない。確かに、これを見せられたなら、自分の事を後回しにしてでも参加せざる得ないかも知れない。
『はぁ~…』
僕は溜め息を一つ入れて、気分を切り替えた。
『それで、アキラはどうするんだ?』
『えっ、シュンは大丈夫なの?幽霊とか苦手なんでしょ。無理しなくても良いんだよ。私は大丈夫だから』
『この際だから、三回も、四回も変わらないからな…それにまだ、肝試しと完全に決まった訳でも無い。アキラ以外の皆とは参加して、アキラとだけ一緒にやらないのは、それはそれで違うだろ』
『…それなら、私もお願い出来るかな』
少しだけ頬を染めて、嬉しそうに喜ぶアキラ。
多少身体に鞭を撃つ結果なるかも知れないけど、誘って良かったかもな。
『おう。まぁ、イベントだから、出来るだけ楽しもうか。それと、今イベントの予定も決めて良いか?僕は十四日以外ならOKなんだけど…皆はどうだ?』
皆の予定を調節して十一日がフレイ、十二日がヒナタ、十三日がケイト、最終日の十五日がアキラに決まった。時間はリアルタイムで午後一時~七時の六時間。この時間内にクリア出来なければ、リタイアすると言う事になった。皆、他の日はカゲロウや知り合い等と回るようだ。僕は本当に肝試しでは無い事を祈ろう…今日から切実に、な。
イベント開始まで残すところ、あと二日。今はギルドメンバー総出で、各街に修理用の道具の情報、もしくは修理道具そのものを集めに出ていた。
僕が見付けた《鍛冶》用の修理道具は、そのほとんどが継続して使えるタイプの物で、専用の工具や携帯炉等の普段は持ち運べない工房設備の簡易版が多く存在していた。逆に、研磨詐欺に使う砥石等の使い捨てタイプの物は少なかった。職人目線での感想を述べさせて貰うと、支出が少なくて済むのは非常に助かるからか。
他にも、僕達がゲーム開始当初から使っている《木工》用の工具等の最初から持ち運べる事を前提に存在している物も有る。そう言う物は、大概はどの街でも買えるのだけど、買う街によって性能面に差が出ると言う事も新たに分かった。《鍜冶》用なら鉱山の街【ヴェルク】、《木工》用なら新緑の街【ヴェール】と言ったようにスキルに関係した街の方が工具の品質や性能が良い傾向なっている。
逆に、《調合》用は持ち運べる物が現時点では無い。単純に僕達が見付ける事が出来ていないだけなのかも知れないけど、現時点では《調合》専門ギルド【プレパレート】のプレイヤーも入手していないようなので、こっちの方は望み薄だろう。
多分、その辺りについては、《調合》アイテム自体がその場での使い切りを想定している物が多く、アイテム自体に耐久度が無い事も大きく関係しているのだと思う。
今回、色々と集めた事を簡単にまとめると…新しく街が出来たり、訪れたりしたら、隅々まで散策する必要性は高いらしい。まぁ、この事はアキラ達に言わせると、RPGの基本中の基本らしいけど。
『えっ~と、あとは…武器や防具の耐久度テスト…』
『…と、その消耗修理テストだね』
僕の自分自身に言い聞かせて確認するように呟いて独り言を、いつの間にか戻って来ていたアキラに普通に聞かれていたらしい。少し恥ずかしいな。
『あっ、アキラ、おかえり。と言っても、消耗修理のテストは急ぎでは無いけど…あっ、でも、武器や防具の耐久度テストをすれば、その流れで結果的に必要になるのか』
使ったあとで修理しないと次に使えないかも知れないのだから。それは僕達のHPに直接関わってくる。
『そうなるよね』
『だったら、まずは直接打撃系の武器を優先してテストするか。《見破》を使えば消耗率も見ながら確認出来ると思うし』
『…ねぇ、シュン。確認だけど、そのスキルを本当にギルドホームの中では使ってないよね』
『だ、大丈夫だ。絶対に使ってない。そこは神に誓う』
アキラの迫力に負けて動揺したが嘘では無い。ただし、この世界に神が存在するかは分からないけどな。
それに、仮に色々と便利な《見破》をギルドホームで使ったとして、僕にはその時に得るメリットよりもバレた時のデメリットの方が遥かに大きいからな。
そして、公式イベントの内容を確認にした時の恐怖と驚きで、その存在をすっかり忘れていたけど、《探索》系や《見破》等のスキルを上手く使えば肝試しでも怖くないんじゃないのか?
少なくとも急に驚かされる事には対処出来そうだよな。あれ?もしかして、ちょっとイベントに対して希望が湧いてきたかも。肝試しが大嫌いな僕にとっては、このちょっとの割合がかなり大きいと思う。それこそ、革命的に…
今日は、久しぶりに川へとやってきている。【noir】全員で行う二回目のイベントで、ギルドメンバーが増えてからこの川を全員で訪れるのは初めてだ。ここで出てくるのは水精霊、水晶霊、さらに上流の方に出てくる新しい魔物の水想霊…水想霊の名前だけ聞くと水族館の巨大な水槽に沈む魚類の幽霊みたいな感じにも思えるが全く違う。見た目だけなら水精霊や水晶霊とさほど違いは無い。まぁ、前者と後者達を比べると強さは断然に違うけどな。
そして、ここへ訪れた理由は僕が思う対幽霊対策だ。まぁ、工房に籠ってばかりになりつつある一部の人(僕を含む)のちょっとした気分転換も兼ねているんだけど。
あくまでも名目上として、使用した武器の修理用素材のテストの為もあるけど、一番は各自の攻撃方法についてだ。物理攻撃の効き難い精霊系の魔物には物理攻撃に何かしらの耐性が有る…と言う事は、ここで通用する攻撃は仮想幽霊にも通用する可能性が高い。
ちなみに、ここで言う何かしらの耐性とは、同じ系統の魔物でも種類によって少しづつ異なった物を持っている場合が有るので、そう述べている。例えば、同じ精霊系の魔物でも水精霊は斬撃には強いけど打撃には弱い、反対に水晶霊は打撃には強いけど斬撃には弱い等の特徴が有る。
アキラ、フレイ、僕の三人は鉱山ダンジョンが未確認の頃の採掘する場所や公式イベントの都合で、ある程度この精霊系と戦った事が有る。しかし、ギルドの新人達は川には来たことが有るけど、精霊系との戦闘をした経験があまり無いらしく、どの攻撃が有利かが分かっていない。まぁ、新人組の三人パーティーでの戦闘では、カゲロウが壁になりヒナタの魔法で倒すパターンが確立されていて、物理攻撃についてはダメージ調整や攻撃の牽制等のサポート的な目的で行うのみらしいから、仕方が無い事なのかも知れないけどな。
これについては、今のところトリプルオーには魔法が全く効かない魔物がいないのも一つの問題だろう。まぁ、ここの運営さん達の事だから、そのうち非常に嫌なタイミングで登場するとも思うけど…な。
ただ、こう言う状況になりえる可能性が有る限り、一度でもまともな経験が有るのと全く無いのでは、かなり違いが出るだろう。反応を含めた対処方法全てに対して…
『え~と、まずはケイト達の物理攻撃が通用するかのテストやな。アキラ、精霊系の魔物は何体かいてる?』
『うん。ちょっと待ってね…少し先に三体、いや四体かな』
『じゃあ、最初にカゲロウが引き付けてケイト、ヒナタ、アキラ、ウチの順でテストやな。シュンはテストしなくても普通に出来るやろうから、今日のところはゴメンやけど、《見破》使うて全部を確認してな。そして、最後がカゲロウや。あっ!そやそや、念の為に一応シュンに言っとくけど、《見破》で確認するのはダメージの通りだけでええんやで。そこは絶対に忘れたらアカンで』
今日は、フレイがパーティーリーダーを務めている。各々が色々な状況に適応する為に、【noir】では狩り等に出る度に毎回パーティーリーダーを変更している。これは、平常時に冷静な指示が出来ないと突発的な事に対応出来なくなるとアキラから意見が出て、ギルドメンバー全員に採用されていた。現に、この案のお陰で各々が考えて動くようになり、個々の対応も早くなっているのだから、完全に成功だろう。
『了解だ』
僕は《見破》を使いながら後方で待機する。今日はテストがメインの為、《付与術》を仲間に対しては使っていない。魔物に対しては《攻撃力減少》と《回避低減》と《速度低減》を使っている。あくまでも目的は物理攻撃がどの程度効果が有るのかを自分自身で知る為のテストなので、僕達が無駄にダメージを受ける必要は無いからな。
それにしても、念を押して言うまで僕に信用は無いのだろうか。周りを見渡せばアキラだけでなくヒナタやケイトまでも僕を見て無言で頷いているし…僕だって凹む時は普通に凹む人間なんだからね。
ちなみに、防具の耐久テストは鉱山ダンジョンで行う予定にしている。ここの魔物の攻撃力が低過ぎると言う理由も有るけど、精霊系の攻撃自体が魔力を帯びた多段性の攻撃で、攻撃を受けた回数のカウントが難しい等、テストには不向きと言うのが一番の理由だ。
テストの結果だけを簡略に述べさせて貰うと、物理攻撃は属性を付けなければ、精霊系にはダメージがほとんど出ない。逆に言えば、属性を付ける事で物理攻撃でもある程度計算出来るダメージを出す事が出来ると言う訳だ。
こう言う面に改めて直面すると、トリプルオーでは如何に属性が大事かが伺えるだろう。
つまり、僕が何を言いたいかと言うと、だ。銃は複数の生産系スキルと銃関係と攻撃系スキルを取得して、それらを時間を掛けて進化させてたから、【銃製作】スキルを取得して、やっとの思いで属性を持つ銃を製作しなければ属性攻撃が出来ない。一体ここに来るまでに、どれだけの時間を費やしたにしたんだ?早いプレイヤーなら、属性攻撃を得るのに一・二時間も有れば可能な事なのに…な。
こう言うところでも、まじまじと人気の無さを思い知らされるんだよな。
結果的に属性が付いた武器を使えば、物理攻撃は通用する事が分かった。属性の付いた武器を持っていないカゲロウもMPを消費したアーツを使えば攻撃そのものは有効だったのだが、イベント中は装備している物以外を持ち込めないから、MPはなるべく回復に使わなければならないだろう。
うん?…と言うか、カゲロウにMPを使った回復手段は無いよな。この場合、二人共が回復手段を持っていないペアは詰む可能性が無いだろうか?それともこのイベントでは戦闘は無いのだろうか?もしくは有ったとしても極端に少ないのか?
『う~ん…』
ヤバイな。ますます僕の公平(かなり心的に公平な方へと偽っている)な天秤が肝試しに傾いている気がするんだけど…
『う~ん…やっぱり、カゲロウには新しい武器も作くらなアカンな』
僕と同じタイミングでフレイも溜め息を吐いた。
まぁ、僕とは考えている内容が大きく違ったみたいだけど。カゲロウのジョブである《防衛士》は、名前の通り防御力は強いが攻撃力は並だ。属性攻撃や強力なアーツが無ければ、精霊系相手にはほとんどダメージが出ないだろう。なので、僕もフレイの意見には賛成だ。
『そうだな。取り敢えず、イベント用の間に合わせとするなら、手っ取り早く光属性付けとくか?』
僕は、幽霊系の魔物に効くのは光だろうと言う、ありがちな考えを持っている。まぁ、光属性は上位属性の一つなので悪い結果にはならないだろう。
『肝試しなら、それがテッパンやな。それにや、肝試しやなくても上位属性なんやし、大きな問題は無いやろ。それに使う宝石も、ここで適当に採掘したらええしな』
フレイも同じ考えらしい。
武器に付けられる属性も魔法の属性と同じで、三属性の宝石が有れば、光か闇の上位属性が付けれる。簡単に付けれる割に強力で便利な属性だ。狩りや攻撃の指導はアキラに任せて、僕とフレイは必要な素材を採掘をしていく。レア度の低い宝石だが、数の方は採掘出来た。残りの素材も、次に行く予定の鉱山ダンジョンで採掘すれば良いだろう。
鉱山ダンジョンで行った防具の耐久テストでも、ある程度の成果を得る事が出来た。素材の質を除けば、基本的に金属製、革製、布製の順に耐久力が低くなる。一番強度の強い金属の鎧や盾系なら、強力な一撃によるを受けても耐久力の減少は微々たる物だった。
その事を踏まえて、革系の装備でもダンジョンで二時間戦闘を繰り返して、ダメージをわざと喰らってみたけど、数発程度の攻撃は平気で耐えている。一番弱い布系の装備だけが、爪等での切り裂いてくる系の攻撃に耐性が低く(ベースとなる素材の問題なのかも知れない)、引き裂かれた箇所だけが無惨にも真っ二つに切れていたけどな。それに、どの防具も魔法による攻撃は数十回耐えれたのは大きいと思う。
今回のテストをしてみた結果、武器と防具の耐久テストで想定されるのは、どちらもトータルダメージよりも使用回数(防具の場合はダメージを受けた回数)に比例して消耗していく可能性が高いと言う事だ。切り裂くような攻撃に弱いと言う一部例外も有ったけど、大筋としてはこの方向で間違いは無いだろう。
武器の耐久度は防具よりも強めに設定されているのか?僕達が製作した武器の質が良かったのか?は分からないけど(フレイは後者を強く推していたけど、僕達が製作した防具の方は普通に消耗していたので僕としては前者だと思っている)、二時間程度のテストでは、大きな消耗は感じなかった。まぁ、これがレイドバトルや長時間の連戦になると違いは出てくるのだろうけどな。
【noir】に所属しているメンバーの防具には、今回唯一の例外となった布製オンリーの物は無いし、カゲロウ以外は攻撃を防御をするよりも攻撃を回避する方が主体になる為、防具にある程度の耐久力が有る事が判れば十分だった。【noir】で唯一の例外となるカゲロウには武器と一緒に耐久力が高い盾も一緒に作っておけば良さそうだな。あと、普段に使う分としては毎日小まめなメンテナンスをすれば、修理に関しては大丈夫だろう。
『防具のテストは終わったから、次は採掘か?』
テストは概ね良い結果を得る事が出来たし、あとは採掘で足りない素材集めだろうな。
『そやな。そこら辺にあるポイントからの採掘の方はケイトに任せといて、ウチらは少し岩石系でも狩ろうか』
『分かりましたです。私はこの辺りを重点的に採掘してますです』
ケイトは文字通り、カゲロウとヒナタに見守られながら採掘を始めていく。
僕とフレイはと言うと、近場で岩石系の魔物をアキラに探して貰い、見付けた魔物を片っ端から狩り尽くしていった。僕達が大量の魔鉱石を集めている間に、ケイトも張り切って、このあとの加工に必要な分以上の宝石や鉱石を採掘してくれたので、カゲロウ用の新しい武器と防具の製作にも目処が立っている。
カゲロウ用の装備だけを製作するなら、倉庫に残っている素材を使っても良かったのだけど、イベント中の補修や修理用にもストックが欲しかったから、丁度良いだろう。
『まぁ、そやな。採掘はこのへんでええやろ。次はホーム戻って加工、製作や。依頼も来てるかもしれへんし、他にも作って欲しい物が有ったら、この機会に遠慮せずに言いよ。ウチは皆に頼られる方が嬉しいんやから』
一週間に一回だけ受けている製作の依頼も、嬉しい事に継続的に自注以上の依頼が来ている。これからも続いて欲しいものだ。
ちなみに、マナさん達が依頼を受けた時点で、予想される製作納期も知らせるシステムを採用しており、依頼者の方も納期に不服が有れば依頼をキャンセル出来ると言う双方がWinWinの素晴らしいシステムだ。なので、これまで一度も大量に依頼を請けた事はない。過去最大で三件の依頼を受けていたぐらいだな。仮に、大量の依頼を同時に請けたとしても依頼者の製作待ち時間が長くなるだけで、製作する側の僕達には少しプレッシャーが有る?程度で、さほど影響は無いのだから。
ホームに戻ったところで早速生産活動の開始だ。
今回は珍し事にカゲロウ用の盾と武器を僕が受け持つ事になった。普段なら、フレイが率先して担当しそうなものなのだけど、さっきのテストで使った皆の武器や防具の修理をフレイが担当するの事になったので、僕へと回ってきた。他にも【noir】に対して新しく変わった形をした斧の依頼も来ており、そちらもフレイが受け持ってくれている。多分だけど、崖の装備よりも変わった形をした斧の方が魅力的だったに違いない。
まぁ、採掘した鉱石の加工はレベル上げを兼ねてケイトに任せているし、魔鉱石の加工も今日のところは保留なので、空いている僕がカゲロウ用の装備を製作する事に対して意義は無い。それに、普段製作しないタイプの装備を製作するのは僕自身も少しワクワクしているからな。
『カゲロウ、武器はどんなのが良いんだ?この際だ。ある程度は長期間使えるような物を作りたいから、色々とリクエストを聞くぞ』
『えっ、良いのか?そうだ!それなら、盾の中に収納出来る剣が欲しい。装備する武器が増えても防御の邪魔にならないから、使い勝手も良さそうだ』
『あぁ、なるほど…』
カゲロウは防御を戦闘でのメインにしているので、武器を使っての攻撃は戦闘の最後の方か、かなり余裕が有る時にしか使わないらしい。それに、大概は盾を使っての攻撃…《シールドバッシュ》で事足りるようだ。
カゲロウがメインで使っている《盾》系のスキルは、《盾》から《大盾》を経由しての《盾技》に二段階進化しているにも関わらず、武器攻撃系の《剣》や《槍》スキルは一段階も進化していない。まぁ、簡単にまとめるとソロに向いていない、パーティーに是非とも欲しいプレイヤーだな。
カゲロウから、今メインで使っている盾を預かって、これから製作する盾の形状の参考にさせて貰う。
カゲロウが普段使っている盾は長さ約一メートル、幅が約六十センチぐらいの将棋の駒を逆にしたような形状の大盾だ。ちなみに、以前プレゼントした【ヴァランサ】は、サイズが小さいので常に腕に籠手のように装備はしているが基本的な防御力が低い為、魔法をメインとして使ってくる魔物の時にしか使っていない。その変わりと言うか、属性魔法に対しては大楯よりも強固な防御を誇っているけどな。
『これなら…形状はほとんど同じにして、ベースの素材を銀を混ぜた合金に変更、そのあとで…』
僕は盾用に銀合金の加工を始めた。武器にも盾と同じ銀を混ぜた合金を使ってみようか。最終的に剣を盾の中に収納する事を考えると素材は同じ方が良いだろう。盾の方は初めて製作するけど、剣は《鍜冶》スキルの練習で何回も打ったことが有るので慣れている。ベースとしての形状は店売りで人気の【グラディウス】を参考にさせて貰おうか。
製作する剣の刀身を短めにして、小回りも効くように持ち手も短く掴み易く、かと言って斬撃や打撃の衝撃で簡単に放さないように改良し、剣の束の中心部分に三種の宝石を《細工》して加えていく。見た目の感じからすると、刀身が長い短剣と言った感じだ。
『盾に収納する武器は、これで良いとして盾は…』
僕は続けて剣に似たデザインの盾の製作に取り掛かる。
ベースとなる合金を叩いては伸ばして叩いては伸ばすの繰り返す。慣れない作業に何度も失敗し、その度に合金を根気よく叩き直す事で、厚みは無いが堅いミルフィーユ状の盾が出来上がった。
【シールドバーニッシュ】攻撃力20/防御力70〈特殊効果:光属性/耐久力上昇〉〈製作ボーナス:速度上昇・小/重量軽減・中〉
【シールドバーニッシュ・剣】攻撃力30〈特殊効果:光属性〉〈製作ボーナス:速度上昇・小〉
【シールドバーニッシュ・盾】防御力65〈特殊効果:耐久力上昇〉〈製作ボーナス:重量軽減・中〉
一応、これは二つ合わせて一つの武具なのでセットボーナスは付かなかったけど、武器を収納している状態でも、武器の持つ光属性と速度上昇・小の効果が活きているのは大きいと思う。なぜなら、収納状態でもカゲロウが使う《盾技》スキルと相性が良さそうだし、何よりも収納状態で精霊系にダメージが見込めるのだから。
『どうだ、カゲロウ?これを少し使ってみてくれ、イベントまでに修理はするから』
『お~!!これは軽いのに堅くて良いな。ギルマス、サンキュ。早速、耐久テストしてくるわ。行くぞ、ヒナタ』
喋りながら、ノックをするようにコンコンと盾を叩くカゲロウ。
『あっ!!カゲロ…ちょ、っと待って…』
カゲロウは、カゲロウと共にホームに残っていたヒナタを強引に誘ってホームを出ていった。そんなに急がなくても、僕の製作した盾は逃げないんだけどな。
軽く手で叩いただけだけど、その軽さと堅さは気に入ってくれたらしいな。使用している金属のランクが上がっているので、耐久力も今までの盾よりは良くなってるはずだから、存分に役立ってくれるはずだ。
今日のテストは概ね良好だった。他人ばかりが得をしたようなテストだけど、僕にも大きな利点が有ったのだから。今日の耐久力テストで、新たな銃の利点が判明している。まぁ、判明したと言うよりは、僕が利点だと思った事なんたけど。
一番大きな点としては、銃弾を消費して攻撃する銃には耐久力が無い。これの理由は銃自体が殴る等の直接攻撃する武器では無いし、メニューからしか製作出来ない為、壊れても修理が出来ない事が理由みたいだな。その代わりと言うか、マガジンの方は完全な消耗品扱いで銃弾を詰め替えて使っても二百発位で破損する。銃と同じように修理する事も不可能なので、その都度新調しなければならないと言う事も有り、今日かなりの量を購入してきていた。
『うん!?ちょっと待てよ。もしかして…』
このマガジンは装備に入るのか?手に持ったマガジンをまじまじと見つめる僕。
マガジンそのものは完全な消耗品扱いで、装備と言う項目には存在してないからな…もしかしたら、入らないかも知れないよな。と言う事は…だ。身に付けた、もしくは銃に詰められた分しか銃弾を持ち込めない可能性も有るのか?そうなると、イベントの為にマガジン用のホルスターも作って置いた方が良いかも知れないな。
僕は、久しぶりに《革製作》を行う事に。作業自体は久しぶりだけど、僕の基礎と言うか…シュンを構築する基板となっている一番親しみの有るスキルだ。それに、慣れ親しんだ革素材を使うので《鍜冶》とは違い自分の思うように作業が進む。さらに付け加えると、《裁縫》スキル取得の効果も相まってミシンの操作が今までより遥かに楽になっているのも大きなポイントだ。
僕の動き出した手は止まる事を知らないまま、目的の物を一気に完成させた。
【マガジンホルスター】防御力5〈特殊効果:なし〉〈製作ボーナス:リロード短縮・中〉マガジンを十本収納可能
まぁ、急遽考えて製作した間に合わせなら、こんな所が妥協点だろう。【マガジンホルスター】の見た目は簾状になっているが、今装備している【ノワールホルスター】にオプションで追加出来る仕様で作って有る。勿論、取り外しも可能なので便利の一言に尽きる。
今回のイベントに対する事前準備は、この辺で良いだろう。まぁ、僕に一番必要なのは精神の準備なのだけど…そして、それは僕にとっては終わることのない永久の課題なのだから。
装備
武器
【雲水】攻撃力50〈特殊効果:銃弾に水属性が追加〉
【霧氷】攻撃力50〈特殊効果:銃弾に氷属性が追加〉
【雷鳴】攻撃力50〈特殊効果:銃弾に雷属性が追加〉
【銃弾3】攻撃力+15〈特殊効果:なし〉
【魔銃】攻撃力40〈特殊効果:なし〉
防具
【ノワールブレスト】防御力25〈特殊効果:なし〉〈製作ボーナス:重量軽減・小〉
【ノワールバングル2】防御力15〈特殊効果:回避上昇・小/耐水〉〈製作ボーナス:命中+10%〉
【ノワールブーツ】防御力15〈特殊効果:速度上昇・中〉〈製作ボーナス:跳躍力+20%〉
【ノワールクロース】防御力20/魔法防御力15〈特殊効果:なし〉〈製作ボーナス:耐火/重量軽減・小〉
【ノワールローブ2】防御力15/魔法防御力20〈特殊効果:回避上昇・中〉〈製作ボーナス:速度上昇・中〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールホルスター】防御力10〈特殊効果:速度上昇・小〉〈製作ボーナス:リロード短縮・中〉
+【マガジンホルスター】防御力5〈特殊効果:なし〉〈製作ボーナス:リロード短縮・中〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
《双銃士》Lv30
《魔銃》Lv28《双銃》Lv25《拳》Lv32《速度強化》Lv63《回避強化》Lv65《旋風魔法》Lv17《魔力回復補助》Lv63《付与術》Lv28《付与銃》Lv43《見破》Lv49
サブ
《調合職人》Lv4《鍛冶職人》Lv24《革職人》Lv45《木工職人》Lv8《鞄職人》Lv47《細工職人》Lv20《錬金職人》Lv20《銃製作》Lv30《裁縫》Lv19《機械製作》Lv1《料理》Lv28《家事》Lv55
SP 26
称号
〈もたざる者〉〈トラウマの殿堂〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈自然の摂理に逆らう者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉




