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OOO ~Original Objective Online~ 改訂版  作者: 1048
第一章 第二部
11/65

★ギルドメンバー 3

 僕達はゲートで一気にホームへと戻ってきていた。皆の手元には、すでに僕の淹れた紅茶と今日のお茶菓子スコーンと各種ジャムがスタンバイしてある。だが、誰も手をつけていない。


 『シュン、教えてくれるかな?さっきの私とリツさんのアーツは何?私達には何が起きたの?あの時分かったんだよね』

 リツも興味津々と言った感じでこちらを見ている。


 ここにいるメンバーになら、あの時見た事をそのまま話しても問題ないだろう。だが、まずはそれよりも重要な事が有る。


 『あぁ、スキルのお陰で分かったよ。でも、その前に紅茶(ティーブレイク)を入れても良いか?』

 ここだけは、絶対に譲れない。僕以外の四人は苦笑いが止まらないけどな。だって、手元の紅茶が冷めそうなんだよ。それは僕にとっては何よりも我慢出来ない事だ。まぁ、冷めても美味しいんだけど、今日の茶葉は温かい方が上手いに決まっている。


 皆で紅茶を飲んでスコーンを食べる。うん、今日の紅茶も美味しい。スコーンに塗るジャムも甘さ控えめで良い感じに仕上がっている。個人的にはブルーベリーのベリー系のジャムよりもマーマレード等の柑橘系のジャムの方が出来が良く感じるな。僕としては大好きな苺を使ったジャムを作りたかったのだけどが、ジャムに良さそうな苺が手に入らなかったので今回は断念していた。


 皆の表情を見るかぎりは、どのジャムにも満足しているようだな。今後も合間をみてはジャムの種類は増やしておこうかな。


 『落ち着いたみたいだから、あの時起こった事を話そうと思うけど良いかな?』


 『うん。お願いします』

 アキラが他の三人を代表して答えた。


 『あれは、どうやら融合と言う現象のようだな。同じ標的に対して同系統武器による二種類以上の属性アーツを同時に発動する事が最低条件らしい。あと、タイミングとか相性とか細かい条件も有ると思うけど…これ以上は分からない。あっ、今回の場合の同系統武器と言うのは弓と弓になるんだけど、剣や斧等の斬撃系みたいに系統さえ似ていれば発動すると思う』

 同じ系統の武器を使った二属性のアーツと言う事は、銃を使う僕としては縁の無いだよな。まぁ、魔法でも融合は可能なようなので、僕が使える可能性が(ゼロ)と言う訳でも無いのだけど…


 『じゃあ、私の弓とシュンの銃も射撃系だから可能なのかな?』


 『まぁ、系統だけで分けるなら可能だと思うけど、残念ながら銃には属性アーツが無いからな。多分無理だな』


 『あっ、そっか…』

 少し残念そうだな。銃にも属性アーツが有ったら、本当に良かったんだけどな。今後に期待しても良い案件なのだろうか?


 『この融合の特性上、アーツだけじゃなくて魔法でも発動する事は可能なんだと思う。詠唱のスピードとか個人差がつきやすいから、条件はアーツで発動するよりも厳しそうだけどな。それと、融合されたアーツや魔法の属性は一応上位属性になるみたいだな。さっきのは、火系と風系の融合で火風(かふう)属性らしい。それに、二人共ステータスのアーツ欄と称号欄にも変化が有るだろ?』

 二人は無言のまま、同時に確認作業に入った。


 『あっ!今は使えないみたいだけど、新しく融合技(・・・)と言う項目がアーツ欄に増えてるよ。え~っと名前は〈ファイアストーム〉だって。確かに火風属性になってる。上位属性って言うのは、ジュネが言ってた光と闇だけじゃないんだね』

 まぁ、〈ファイアストーム〉一発が魔物を消し飛ばす威力だったんだ。火風属性の魔法を《光魔法》や《闇魔法》みたいに単一スキルで簡単に覚えれるとは思わないけどな。


 『うわっ!?本当に称号も増えてますよ。称号名は〈融合師〉です』



称号

〈融合師〉

融合を使った者への称号

取得条件/融合アーツ又は融合魔法を使う



 『シュンの言う通りで魔法でも可能みたいですね。こうなると、パッと見ただけで融合の事が分かった《見破》スキルの方が異常だと思いますね』

 やっぱり、リツもそう思うのか。


 確かに僕も見ただけで分かる《見破》の異常さは感じてはいるけど、普段プレイするのなら《探索》の方が便利だと思うんだよな。


 『ちょ、ちょっと待って下さい。シュン、もしかしてリツの…いえ、私達のステータスが見えているのですか?』


 『《見破》をセットしている時は、レベルやステータスと使ったスキルやアーツの内容くらいは分かるかな。でも、見えない事の方が遥かに多いぞ』

 まぁ、それだけが全てでも無いけど、全部を説明するの気は無いからな。一つ、二つくらいの隠し事は必要だろう。


 『…やっぱり、そのスキルは異常ですね』


 『まぁ、変わってるのは認めるけど、僕としては《探索》系を生け贄(いけにえ)にしてまで取得する必要は無かったと思う。それはそれとして、たまたまここに成功させた二人がいるんだから、融合の事は二人で色々と試してみたらどうだ?』

 実際に僕は《見破》取得後にステータス等を確認する為だけの魔法も有ると知って《探索》を生け贄にした事を後悔しているくらいだからな。


 融合に関しては、きっと他にも色々なパターンで使える強力な融合アーツが有るだろう。出来るだけ、試しておくべきだよな。


 『そうですね。アキラさんお願い出来ますか?』


 『勿論OKだよ。それと私の事も呼び捨て(アキラ)で良いよ。私もリツって呼ぶから』

 すでに二人は融合のテストを行う為にスケジュールの打ち合わせに入っている。僕達は学期末テストも始まるので、しばらくはログイン出来なくなるからな。


 『それで、シュン。ウチが知りたかったんは、あの二人の事はどないするつもりなん?って事やな』

 皆の視線が再び僕に集まってくる。アキラとリツも打ち合わせを止めてまで僕の方を見てきた。


 『それなんだけど…まずは、ここから説明するよ。【noir】は、NPCを雇ったのは知ってると思うけど、そのをNPCを通して、僕達プレイヤーも個人の依頼では無い、オリジナルのクエストを発注出来るんだよ。まぁ、僕も神殿でNPC雇用に関する説明を請けた時に知ったんだけどな』


 『『『『えっ!?…』』』』


 『…まさか、シュン…依頼じゃなくて、ゲーム内にプレイヤー参加型のクエストが作れるの?』

 まぁ、普通は驚くよな。他のゲームがどうかは知らないけど、この反応なら、オリジナルのクエストを作る事の出来るゲームは少ないんだろうな。


 プレイヤー自身が、採取や採掘の為の依頼を出す事は出来るが、プレイヤー自身が他の多くのプレイヤーを巻き込むクエストを作成出来るなんて、言ってみれば簡易のゲームマスター(GM)行為だからな。


 『そのまさかだよ。まぁ、発注するのは、僕個人(シュン)としてじゃなくて、【noir(ギルド)】としてなんだけど。内容的には、こんな感じにしようと思うんだけど、これを見て皆には何か意見が有ったら言って欲しいんだ』



ギルドの加入クエスト

発注者/【noir】

内容/自分で最巧だと思うアイテムの収集

受注条件/生産スキルレベル10以上の取得者に限定

報酬/ギルド【noir】への加入

評価方法/アイテムの価値・内容

評価者/【noir】の幹部



 『これ、ウチらはどう評価したらええん?』


 『そうだな…レア度とかは関係無くて、提出するアイテムにどれくらい気持ちを込めれるかが評価対象かな。多分、参加者の方も多くても【noir】の前で出待ちしていたプレイヤーの五倍…三百人くらいだろし、あの二人にもフェアで良いと思う。さっきは言ってなかったけど、《見破》スキルはアイテムに隠されているステータスを装備しなくても見れるんだよね。それに、製作した物なら僕達で性能や出来の確認が出来るからな。だから、フレイも頼むよ』


 『了解や、頼まれたるわ。その辺の鑑定に関してはウチに任せとき』


 『それは、面白そうなクエストですね。最後の評価者の項目ですが外部の方も入れた方がフェアになるんじゃないですか?』


 『それ、良いかも。あとは結果発表を随時発表する事にして、加入者…今回は合格者になるわけだけど、その合格者の最大人数をあらかじめ決めておいたらどうかな?それとクエストの内容に早い者勝ち感を少し醸し出しおいて、参加者達の心理や内面を見てみるとか…どう?』

 それも面白いかもな。最終的には全部を審査してから決めるけど、その心理を試すのは良い案かもな。


 『人数制限はええな。それと、これはウチの個人的な意見で申し訳ないんやけど、ギルドメンバーがあんまり増えすぎるのは嫌やな。工房も一ヶ所につき三人作業するのが限界やと思うし。それにや、ウチらみたいなソロ気質やと大人数のギルド運営は難しいと思うわ』


 『なるほどな』

 工房に関しては増改築すれば良いだけなので問題ではないのだけど、確かに大人数のギルド運営どころか、小規模の運営でも怪しいだろう僕達は、自分の見える範囲を維持するだけでも精一杯だろう。


 『それと、アイテムは揉め事を無くすために、あとで返却したらどうですか?あっ!それよりも、期間限定のレンタルにすると期限を過ぎると自動返却扱いになるので手間もトラブルも無くて良いとも思いますよ』

 皆が次々とアイディアを出してくれる。まぁ、提出されたアイテムは最初から返却する予定だったけど、期間限定のレンタルは良い案だよな。


 『今の意見は、全部採用させて貰うぞ。それと、もし良かったらガイアとリツも評価者に加わってくれるか?』


 面白そうと言う事で二人に了承を頂いた。その結果、このクエストはこの場にいる五人で評価する事になった。


 『じゃあ、早速NPCから発注して貰うとするよ』



ギルドの加入クエスト

発注者/【noir】

内容/自分で最巧だと思うアイテムの収集

受注条件/生産スキルレベル10以上の取得者に限定

報酬/ギルド【noir】への加入 ※最大五名

評価方法/アイテムの価値・内容

評価者/【noir】の幹部+外部委託者数名

期間/七月十五日まで

備考/結果発表は、合格者の番号のみを合格者が出た時点で【noir】のホーム前に設置する簡易掲示板で発表していきます。なお、提出して頂いたアイテムは全て返却致します。納品時は七月二十日まで限定のレンタル状態にしてご提出下さい。



 【noir】から、トリプルオー内で初めてプレイヤー主導のクエストが発行された日の夕方には、黒の職人さん効果か…はたまた【noir】の知名度か…かなりのプレイヤーに知れわたっていた。当然、カゲロウくんとヒナタちゃんの二人にもメールでギルドの前で直接内容を確認してくれと伝えて、ヒナタちゃんとの仮フレンド登録は破棄している。


 僕達の方は、期末テストも始まるので一週間はログインする事が出来なくなるだろうな。その期間を利用して、このクエストを仕込む。


 はてさて、最初の締め切りまで約一週間。どうなることやら…生産系の職人としては、皆がどんなアイテムを作ってくるか楽しみでも有るからな。勿論、他のプレイヤーの製作物の丸パクリはしないけど、オマージュやリスペクトはさせて貰うつもりだ。


 次のログイン日をお互い確認していると、フレイはテストの終わる日は同じだが始まる日が一日早いらしい。なんか、ちょっとだけ羨ましいよな。一日長いと言うのは一日あたりのテスト教科が少ない言う事なのだから…試験後は、試験休みと言う先生方の採点日と土日が重なり【noir】の三人共が三連休になるらしい。


 ちなみに、ガイア達も学生らしいけど、僕達の指定日で問題は無いらしい。


 『皆、テスト頑張ろうな』

 皆を励ましておこうか。無事、元気な状態で再び会いたいからな。





 僕達のテストは、ほぼ(・・)順調に終わった。まぁ、ここでも蒼真以外(・・・・)はと付け加えておく。


 蒼真はトリプルオーのやり過ぎで、テスト勉強をしなかったらしい。追試が最低でも二つは有りそうだな。正確には、二つで済めば良いと言う方が正しいのだけど…少なくとも数学二科目はアウトだろう。今回は自業自得なので追試の手伝いは致しません。悪しからず…


 僕と純は全く問題が無い。頭の出来だけが姉弟で似ていて、得意教科に違いは有るけど大概いつも同じくらいの成績だ。順位にして二つか三つ、どっちにしても二十番台になる事はないだろう。


 晶は数学が一番苦手らしいが、追試になる事は無いそうだ。まぁ、それでこそ、わざわざ僕と純がテスト勉強に付き合った甲斐が有ると言うものだけど。フレイ達も大丈夫だと良いんだけどな。


 そんな事を考えながら、束の間の幸せを味わう為にも、ホームで紅茶を淹れる。やっぱり、久し振りにホームで飲む紅茶は最高の一言に尽きるな。


 『おっと…』

 そろそろ、皆との待ち合わせの時間だ。少しゆっくりし過ぎたかもな。


 昨日の時点で、加入クエストの最初の締め切りは終わっているはずだ。皆が来る前に、少しずつでも集まったアイテムを評価しておこうか。


 ギルドの受付に提出されたアイテムは、現在は使っていない倉庫に保管するように設定して有る。アイテムは提出と同時に、提出したプレイヤーにナンバーを書いたカードをNPCが自動で渡す設定にしてある。当然、偽造防止の加工も施してあるし、NPCにナンバーの控えを管理してもらっている。非常に優秀なNPC(AI)で、かなり助かっているよな。


 『えっ!う。嘘だろ、うぉ~~~』

 僕が倉庫の扉をを開けると同時に大量のアイテムが溢れて出てくる。次々と溢れ出てくるアイテムに、僕は完全に埋もれてしまった…





 『…う、うん!?こ、ここは…お、おい、嘘だろ?まさかまさかの神殿か?』

 何故だ?さっきまで僕はホームに居たはずだ。そこは絶対に間違いない…と言う事は、おいおい、まさかな。流石に、そんなことは…


 『は、恥だ…』

 頼む。誰でも良いから、誰か僕に優しい言葉で(ドッキリ)だと言ってくれ…リアクションの撮れ高は充分だと思うんだよ。



称号成長

〈トラウマの殿堂〉

三度のトラウマを得た者への称号/成長称号



 はい、完全に理解出来ました。僕はどうやらアイテムに押し潰されて死亡したらしい。


 どこかの安売りの何でも屋みたいな名前の称号のお陰で理解は出来たけど、納得出来るかは別問題だ。だから、一言だけ言わせて欲しい…


 『り、理不尽だ~~~~!』

 場所を弁えずに叫んでしまった。


 取り敢えず、さっさとゲートからホームに戻るか。僕が死んだあとのホームの惨状も気にるのだから。


 そこには、ちょっとした地震よりも酷い状況が…


 『くっ、これは酷いな…』

 本当に加入希望者は、そんなに【noir(僕達のギルド)】に入りたいプレイヤーいるのだろうか?中には、冷やかしや冗談半分のプレイヤーがいるとしても、大幅に予測を誤ったらしいな。一体どれくらい有るんだ?この倉庫の中には…


 改めて倉庫のアイテムを確認してみると、その数は四百や五百で利きそうにないくらいのアイテムが収納されている。まぁ、そのアイテムの半分以上が倉庫から通路へと溢れ出てきているんだけど…取り敢えず、片付けるよりも先に僕は倉庫に収納されていたはず(・・・・・・・・・)のアイテム数を確認してみた。


 『はぁ~』

 僕の見間違えでは無いよな。何度、確認しても千五百種類以上、合計で千六百九十二個のアイテムが有る。たった四桁なので桁の見間違えはない。言葉にするとたったの四桁。だがそれは、桁で有って連番の数字ではない。千六百九十二個って何よ。


 『うわっ!?これって、かなりレアなアイテムじゃないのか?こっちはレア素材だよな?はぁ~あ』

 思わず溜め息が漏れた。


 このクエストを思い付いた時は、内容的にも面白いと思ったけど結果的には大失敗だったのかもな…僕の考えが確実に甘かった。溢れんばかりの角砂糖が入った紅茶以上に甘い。過去に戻れるなら、三百~五百人程度と甘い予測を立てた僕を(はた)きたい気分だな。


 今から僕は軽く現実逃避致します。




 『シュン、お待たせ…って、あれ?何か有ったの?何か微妙に疲れてない?大丈夫?』

 ログインしてきたばかりのアキラをチラッと一瞥して、僕は無言で紅茶を飲みながら倉庫の方を軽く指差した。


 『うわっ~!?』

 倉庫を見に通路に出た瞬間のアキラの第一声がこれだ。まぁ、誰が見てもその反応になるのだろうな。


 『シュン、あれって正気(マジ)なの?』

 急いで戻ってきたアキラが訪ねてくる。僕が頷くとアキラは一際長くて重い溜め息をついて、僕の差し出す紅茶を受け取った。


 



 『もう割り切って、さっさと仕分けしよう。少しでも片付けないと通路は足の踏み場も無いよ』

 紅茶を飲み終えて落ち着きを取り戻したアキラが、急に立ち上がって宣言する。


 久し振りに男らしい判断をする格好良いアキラを見た気がする。まだ決心のつかない僕とは大違いだな。


 『まぁ…そうだよな。うん、やるか。その前に、ちょっとホームの拡張してくるわ。あれを片付けるにも大きめの作業スペースが有った方が良いからな』

 取り敢えず、今の倉庫では仕分けし難い、と言うか全く出来ないだろうし、あとから来る三人を合わせて五人だと片付け作業も出来るとは全く思えない。


 『了解。私は、この辺りを少しずつでもできるところから片付ていくよ。それに誰かがフレイ達を待ってないとダメだからね』


 僕は、再び神殿に戻り、ホームの拡張の手配をした。|小さな体育館《バスケットコート一面分》くらいのスペースを持つ大きな部屋とその半分くらいの倉庫を五部屋追加した。ついでに、あの辺で残っていて【noir】のホームに隣接している土地も買い占めた。その結果、土地だけを見たなら【シュバルツランド】では、お城以外のどの物件より広くなった。


 まぁ、それもそうだろうな。【noir】の土地は今僕のいるプレイヤーが入れる一番最大の建物である神殿よりも広いのだから。



 『ただいま』


 『シュン、お帰り。皆、揃ってるよ。ドン引きだけどね。それと、ホームはかなり拡張したみたいだね。倉庫の中身は一番大きな部屋に移してあるからね』

 どんなに凄い拡張をホームに繰り返しても、【noir】の運営資金残高を知っているアキラにお金の心配をされる事は無い。


 少し寂しい気もするが、手間が省けるのだから、そこは良しとしよう。まぁ、実際のところ僕達二人はトリプルオー内での金銭感覚が麻痺しているんだと思う。あまり良くない傾向だけどな。


 『今は、フレイを中心に仕分け作業中。私達も行こっか』

 さて、今からが本当の勝負だな。


 『皆、本当にすまない。色々と迷惑をかけるな。それと、手伝ってくれてありがとう』

 全然全く気休めにはならないけど、言葉に出しておくのは必要だと思う。今の状況が状況なだけに…余計にな。


 『それで、今は何をしてるんだ?』


 『今か?今は新しい倉庫の機能をフルに使って、レア度の高い順にアイテムを並び替えたところやな。ウチらが期待してるのはやる気でしょあって賄賂ちゃうねんから、NPCから買えるアイテムや素材はレア度や値段がいくら高くても今回の審査からは除外や。次は製作アイテムを種類や用途に仕分けしてる最中やな』

 僕に説明しながらも、器用に倉庫の機能でアイテムを仕分け簡単な評価を済ませていくフレイ。


 『シュンは、念の為に除外したアイテムのステータスを《見破》で見直しやな。機械的な機能は見落としが有るのは付き物やし。リツは、シュンが見直したアイテムを隣の倉庫に移動させたって。それも、倉庫のメニュー項目からなら一発やから簡単やで。ウチとアキラは各々が専門のアイテムの評価や。一つ一つ丁寧に見るのも大事やけど、今回は選別の早さも(キモ)や。ちゃっちゃと終わらしてまうで。最後にガイアやけど、レアアイテム関係で入手の難しさや手間が掛かる物を上から五個くらい選んだって。今やってるのは、あくまでも本選前の予選会や。キビキビいかな、終わるもんも終わらんからな』

 流石は関西人と言うか…フレイは、かなり取捨選択が早かった。


 どうにかして、大掃除の時に家に来てくれないかな。特に純の部屋を見て欲しいん。きっと、室内の物が半分くらいになるから。


 『了解だ』


 皆が、割り当てられた作業に没頭していくが、時間が経つに連れて、どんどんアイテムが増えている気がする…いや、気がするだけでなく実際にも増えている。これでも、まだ最終期限まで数日が有るのかと思うと先が思いやられるのだけど…


 『おぉ~!このアイテム凄いですよ』


 『えぐいアイテム作りよるな。この発想は無かったわ』


 『これはダメですね。これは他者の製作アイテムですよ。姑息なのはダメです。姑息なのは』


 『おやおや、凄いレア発見。う~む、これの入手方法が知りたいよ』


 『う~ん、見たことないアイテムだね』


 『これは、なかなか頑張ってますね』


 『あざとい奴もおるな。シュンの作った鞄まであるで』


 …等々、ところかしこから歓声に似た称賛や比況なやり口に対するダメ出しが聞こえてくる。皆かなり集中して没頭していたのだろう。僕が気が付いた時は、すでに遅い時間になっていた。


 『そろそろ、終ろうか?出来たら明日も同じ時間からお願いします』

 僕は、まだまだ確認していかなければ終われなけど、手伝ってくれている皆は今日の分の終わりが見えている…こんな事で、あまり無理をさせる訳にはいかない。


 僕も、皆に気を使わせない為に、皆がログアウトするのタイミングに合わせて、食事の為に一度度ログアウトした。





 再びログイン出来たのは、夜の十一時過ぎくらいだった。


 『さて、続きをやりますかね』

 大きくなったホームに、僕一人しかいないのは寂しく感じるが、ホームの中は明るいので怖くはないはずだ。


 フレイ達に除外されたアイテムの中にも、新規のプレイヤーが一生懸命作ったのだろうか?頑張った感じの見受けられる物が少量ながら有る。これなんか、見た目は店で買える回復アイテムと同じ物だけど、回復量と性能が少し良い。市販品を見本にして製作したに違いない。


 『こう言う頑張りは、僕的には結構好きなんだよな』

 このクエストでは、こう言うアイテムを見逃す訳にはいかないよな。取り敢えず、候補としては残しておこうか。


 ずっと《見破》を使い続けているので、スキルレベルの上昇がいつになく激しい。スキルレベルが20を越えた辺りからか、アイテムに込められたプレイヤー(製作者)の想いまで見れるようになっている。当然、良い感情だけでなく、悪意や敵意やイタズラ等が一目で判別出来る。これ、このクエストに限っては、かなり便利かもな。もしかして…これが《見破》の本来の使い方なのか?


 そんな事を思いながら仕分けを続けて…


 『シュン、お疲れ様。やっぱりいたんだね』

 振り返るとそこには、アイスティーを持ったアキラがいた。


 『これ飲んで。少しは休憩しなよ。私は手伝えなくてゴメンなんだけどね』

 それは仕方が無いだろう。


 インターハイの予選会が近いアキラは明日も朝から部活がある。それに、アキラが僕を心配してくれてログインしてきてくれたのは《見破》で見えているからな。そもそも、僕の甘い考えから始めたクエストなのだから、僕には最後までしっかりと責任を持つ必要も有るからな。


 『大丈夫。ありがとな。気持ちだけでも嬉しいよ。アキラも早く寝て、明日も頑張れよ』

 有り難くアイスティーを頂いた。たまには、冷たい紅茶も良いな。疲れた身体に染み渡っていく。まぁ、飲んだ時点で実際に回復もしているんだけど。《見破》のお陰で飲む前から分かってしまったが、この場合に限って身体に染み渡ったのはアキラの気持ちの部分が大きいだろう。


 『うん。じゃあ、おやすみ。無理しないでね』

 アキラは、再びログアウトしていった。


 今のアイスティーで、やる気が再び充電された気がする。まだまだ頑張れるだろう。


 いくら《見破》で評価をするのが早くなったと言っても、ほとんどのアイテムを確認して終わると…


 『…朝か』

 時間は、午前七時になっていた。集合時間は午後一時にしている。それまでは寝よう。流石に眠たい…





 午後からログインしたのは、僕が最後だった。


 『お待たせ。今は何をしてるんだ?』


 『シュンが、残りを評価してくれたんやろ。今は選ばれたアイテムを順位付けしとるところやな。もう、終わるから少し休んで待っとき』

 僕がログインした時には、ほとんどのアイテムは失格()になっていた。


 残っているのは十個。充分な気持ちが込められていたり、丁寧さや努力が見られる物しか残ってない。今回のクエストで提出されたアイテムの中には、強い魔物のレアドロップやレアなドロップ武器等も有ったのだけど、最終的に選ばれたのはプレイヤーが製作したオリジナルアイテムが大部分を占めてしまった。まぁ、中にはとびっきり(・・・・・)の例外も有るには有るのだけど…


 『シュン、こんなところじゃないかな』

 アキラが、代表して皆が選んだアイテムを持ってくる。


 『うん。十分過ぎるよ。でも、中に重複してるプレイヤーいるよな』


 『そうなんだよね…この中に同じプレイヤーのアイテムが五個有るんだよ。凄いアイテムを造ったプレイヤーだから、特別に贔屓したとか、そう言うのじゃないんだけどたまたまね』

 この五つのアイテムを提出してきたプレイヤー(実際には七つ提出しているが、二つは落選している)からは、かなりのやる気が見受けられる。今のところ加入に一番近いプレイヤーだろう。製作した武器は性能だけでなく、見た目のセンスも良い。こちらはセンスの低い僕ではなく、フレイのお墨付きである。


 『アキラ、こうなるとですよ。この六人の中から五人を選ぶとするなら、公平を期して最終的には面接した方が良いのではないですか?』

 リツが至極当然な事を言い出した。確かに、アイテムだけで判断するには、今回は量が多すぎて時間が足りなかったな。


 『それもそうだよね。残っているアイテムは、全部が甲乙付け難いたもんね』


 残ったのは最大合格人数+一人の六人。この時点でほぼ当確ではある。心情としては、面接無しで六人全員を合格にしてあげたい。だが、一度クエストとして発表した限りは一人は確実に落とさなければならないんだよな。そこが心苦しいところだ。


 『それもあるんやけど、ウチとしては一応性格も見ておきたいんや。出来るなら、新しい子とも仲良くしたいやん』

 だが、確かにフレイの言う可能性も一理有るよな。僕達三人の中で誰とも性格が合わないのは、後々に問題が起きそうだし、その子にとっても不幸な事かも知れないよな。


 『じゃあ、残った六人を面接するか?《見破》のスキルレベルが上がってるから、プレイヤーの気持ちも大まかにだけど分かるようになってるからな。隠し事程度なら見抜けるぞ』


 『『『『えっ~~~!?』』』』

 皆が一斉に驚く。中には顔を真っ赤にしている人も数人いる。


 『うん?どうかしたか?』

 僕は不味い事でも言ったのだろうか?


 『シュンくん、正直に答えてね。今言った気持ちや隠し事って、どの程度分かるものなのかな?私としては、凄く知りたいな』

 アキラさん(・・)を筆頭に皆さん凄く怖いですよ…


 僕は、思わず後退(あとずさ)ってしまった。僕が後退るのに合わせて、一歩また一歩と進んでくる女性陣四人。かなり怖いんですけど…例えるなら、最初に出会っ時のレクトパスと同等くらいには…


 『えっと…ですね。好意や悪意とかはほぼ完全に分かります。他にも人が付いたウソとかイタズラも簡単に見破れそうですね…はい。勿論、皆には使ってないですから許して下さい』

 もし、彼女達四人が僕に対して何かしらのイタズラを仕掛けるつもりなら甘んじて受ける覚悟が僕には有る。わざと引っ掛かる事についてバレないと言う確固たる自信は無いのだけど…


 それと、昨日の夜にアキラがアイスティーを持って来てくれた時に無意識の内に使ってしまった事は、絶対に墓場まで持っていこう。


 『シュン、このホーム内では《見破》スキル禁止。絶対、絶対禁止だからね。もし、使ったら…』

 皆、僕に嘘を付いている事でも有るのだろうか?それは、ショックなのだけど…それとも、そんなに僕にイタズラをしたいのだろうか?一応、さっき思い付いたのは冗談なんですよ。ダレカタスケテクダサイ…


 心の声がカタカナになるくらい動揺の隠せない僕の答えは、当然…


 『はい。分かっております。絶対に使っておりませんし、今後も使う事は有りません』

 男らしく堂々と頭を下げた。これしかないだろう。これでこの話は終わるはずだ。





 最終的に残った六人のアイテムの中には、カゲロウくんとヒナタちゃんのアイテムも入っていた。本人達が言っていたように【noir】で生産系を頑張りたいと言う気持ちは十分に伝わってきている。


 『あの二人も、なかなか頑張ってたよね。ここまで残ってるんだもん』

 僕達がアイテムを評価していた時は、製作したプレイヤー名が分からないようにして有ったので、カゲロウくんとヒナタちゃんの二人は贔屓無しの完全な実力で面接まで残ってきていた。そこは、素直に評価出来るポイントだと素直に思う。口だけで入りたいと言っているプレイヤーとは、その辺りの心構えが違っているのだから。


 だからこそ、ここから先はちょっとした知り合いではなく他の参加者と同じように呼び捨てで進めさせて貰おうか。


 『じゃあ、最終的な面接は僕達三人でやろうか。ガイアとリツは、ここまで本当にありがとう。本当に助かったよ。審査員の報酬の件だが、ガイアには依頼の鞄代を無料(タダ)にしたい。リツには個別で百万フォルムを支払いたい。どうかな?』


 『『ち、ちょっ…』』


 『うん?これだけだと少な過ぎて不満だったか?もう少し足そうか?』


 『い、いいえ、違い…』『ぎゃ、逆です。多過ぎ…』


 『【noir】としては、当然それぐらいはしたいよね。色々と迷惑も掛けたし、これからも掛けると思うから、前払い分も含めて二人共が貰ってくれたら嬉しいな。ねっ、フレイ』


 『そやな。【ワールド】のギルドマスターと幹部の二人を長い間束縛してもうたからな。これくらいは、当たり前やな』

 ガイアとリツの二人は即行で断ろうとしてきたが、アキラとフレイの連繋での援護射撃で断りきれなくなっている。個人的にもナイスな援護だと思う。


 『あとは、そうだな…新人が入って来たら歓迎会には参加して欲しいくらいかな。たくさん料理とかも用意しようと思ってるから、期待してくれて良いぞ。これで、足りるかな?』

 こう言う場合は、有無を言わす隙を与えてはダメだ。《見破》を使わずとも、ガイアとリツが提示した報酬に不満を持っておらず、それどころか報酬を本気で断ろうとしているのも分かっているけど、こんなに手伝って貰っておいて断らせる言葉を言わしてはダメだろう。


 僕達三人からの笑顔と言う無言の圧力。


 『うぅ、本当に仕方のない方々ですね。今回は、その好意は有り難く貰っておきますね。ありがとうございます』


 『私もありがとうございました。今回は、頂いておきます。あくまでも今回()ですよ。でも、貰い過ぎだとも思ってますので、何か有ったら、いつでも呼んで下さいね』

 これで、ガイアとリツの二人にお礼をする事も出来た。


 あとは面接と言うか、直接話を聞いてみて決めようと思う。変なプレイヤーは嫌だ。ギルドの掲示板に六人のナンバーを表示して、後日ギルドの加入について軽く面接をする事も表記した。


 一体、どんなプレイヤーが来るのかな?少し楽しみだな。





 面接当日になって一人が辞退してきた。他のギルドに誘われて、そのギルドに加入を決めたらしい。内心は僕達全員が期待していたプレイヤー(生産者)だっただけに非常に残念なのだが、わざわざ丁寧にギルドまで直接謝罪と断りにやって来てくれた心意気や気遣いは素敵だと思う。僕も同じような立場になったら真似させて貰いたいよな。


 だが、これで最大合格人数の五名になってしまった。まぁ、どっちにしても面接はするのだけど…


 その他の五人は、集合時間の少し前にホームのリビングに集まっている。この時点では全員合格かな。人を待たせないのは、人としての最低条件だからな。正式可動初日にやらかしてしまった僕がそれを言うかって話になるんだけどな。


 【noir】のリビングは、本日のみ面接仕様になっている。この面接以外での使用用途が有るか分からない妙に安っぽい長机やパイプ椅子も、フレイ主導で準備されていた。彼女曰く、面接なら妙に安っぽい長机とパイプ椅子は絶対譲れないところらしい。


 ちなみに、僕達三人はフレイ製作の仮面で顔を隠している。評価の高いアイテムを製作した職人の中には、多分悪い事をするプレイヤーはいないと思うけど、万が一面接で落ちたプレイヤーに顔がバレるのだけは避けたいからだ。アクアやジュネが教えてくれた事だけど、このクエストの結果はサイトでかなり噂になっているらしい。参加者だけでなく、非参加者も含めて…


 『それでは、今から面接を始めさせて貰うね。一応面接と言う事で一切の贔屓は無しで、皆の事も呼び捨てで呼ばして貰うけど良いかな?』

 皆の意思を確認して、アキラは続きを話始めた。


 『あっ、そんなに緊張しなくても気軽に答えてくれたら良いから。それと、あとで分かる事だから最初に言っておくけど、朝の時点で一人辞退者が出たので今日集まってくれた五人は基本的に(・・・・)合格だと思って貰って大丈夫だからね。あとは、私と話してみて入るかどうかを決めてね。ちなみに、この仮面は皆が正式に加入してくれた時に外すからね』

 アキラ主導での面接が始まった。


 僕とフレイは、主人の背後に控えるメイドと執事みたいな感じでアキラの背後に待機している。知らない人から見ればNPCにしか見えないだろう。職人の目線でフレイ、人柄を見るのが僕の担当だ。カゲロウとヒナタは、フレイと僕の声を(じか)に聞いて知っているので、こんな配置になっている。


 勿論、僕達の衣装もフレイ発案でアキラ製作のメイド服や執事服になっていて、面接官役のアキラは女性用のスーツっぽい服装に変更すると言う変な拘りを見せていた。まぁ、この場所には僕達に会った事のある参加者が二人いるので、その処置も仕方が無いだろう。本当は恥ずかしいのだけど、必要悪だと思いたい。


 五人はアキラが合格と言った瞬間に心の底から歓喜して、肝心な部分を聞き逃している。肝心な部分を聞き逃した事は《見破》を使って分かった事だけどな。まぁ、無邪気なはしゃぎようだ。使ってなくても分かったんだろうけどな。


 『まずは、自己紹介を兼ねてギルドに入りたかった理由とこれから【noir】で何をしたいか教えて貰えるかな?【noir】は、メンバーの数こそ少ないけど、お金だけは他のギルドよりも有るから、やりたい事は何でも出来るし、させてあげれる力もあると思うよ。じゃあ、右端の君から順にお願い』


 『それでは俺から、俺はマーク。牙狼族(がろうぞく)の《斧士(アクサー)》だ。理由は生産系のギルドに入りたかったから。それに、【noir】は今一番有名な生産ギルドだからだ。これから先は、俺の力でギルドをもっと大きく有名にしたいし、《鍛冶》で凄いレアな武器も作りたい』

 最多五個のアイテムが評価されたプレイヤーだ。中には、強力な武器や珍しい形の武器が有る。フレイが一番推していたプレイヤーだな。


 『マークの提出したアイテムは全部凄かったよ。目標も高いね。頑張ってね』

 アキラに誉められたマークは上機嫌になる。


 だが、その反面一番推していたはずのフレイの機嫌が悪くなった気がするな。僕も、マークはちょっと好戦的な気もするけど、そこまで悪い奴では無い気もしている。今のところはだけどな。


 『私は、エルフのヒナタと申します。《魔術師》をしております。鞄事件の時の黒の職人さんを始め、【noir】の皆様方の心意気に憧れました。海のエリアも有るみたいなので取得している《木工》を生かして船とかも作ってみたいです』

 ヒナタは自分用に製作(カスタマイズ)された杖を提出していた。細かな所まで丁寧な作業で、至るところに僕達も驚くような創意工夫が施されていた。


 『船かぁ~素敵だね。完成したら皆でクルージングとかもしたいよね』

 皆がアキラと同じように、クルージングする自分をを思い浮かべたのだろう。皆が同じ様な笑顔を浮かべている。そこは審査する側の僕とフレイを含めて。


 『ハーフエルフの《剣士(ブレイダー)》をしております。エリシラとお呼び下さい。ここは、(わたくし)に相応しいギルドだと思っています。ホームの外観が壮観ですからね。私は、このホームに相応しい美しいアクセサリーを作りたいですし、店舗の運営もしみたいですね』

 エリシラは、既存のアクセサリーを改造して提出している。僕達は製作は一から作るのが当然だと思っていたけど、既存のアイテムも生産スキルを使って改造する事が出来る事を知って驚いたからな。


 『うんうん。女の子にとってアクセサリーは大事だよね。工房も拡張してあるから自由に使ってね。改造アクセサリーとっても素敵だったよ』


 『俺は、ダークエルフのカゲロウ。《防衛士》だ。ヒナタと同じで、あの時の黒の職人さんに憧れた。あれを見て俺も他人に優しくなりたいと思ったんだ。これからは、《調合》で冒険に役立つポーションや道具を作って皆の冒険を援護したい。あとは…この前、たまたま助けてくれた人達みたいに困っているプレイヤー肝心な居たら手助けしたい。今のレベルでは、まだまだで、とても偉そうな事は言えないけど…だけど、いつかは、きっと…』

 カゲロウとヒナタには、この前会っているから理由は知っていたけど、この二人のやりたい事は僕達には無かった発想だから面白そうだな。


 ちなみに、カゲロウは自作したポーションセットを提出している。どれも市販の物より効果が少しずつ高いし、誰にも使い易くする為に容器等にも工夫がされていた。


 《調合》の一貫として容器も作れる事は知っていたが、実際に作った容器を見るのは初めてだった。それに、この事は生産系を取得しているプレイヤーにしか分からないけど、市販されているアイテムと同じ物を市販されているアイテム以上の性能で作るのは、なかなか根気がいる作業で難しいのだ。そんな事をするくらいなら、新規でニタヨウナアイテムを作る方が簡単で低コストにはなるだろう。


 『とある理由から、【noir】は《調合》系が、弱いから期待してるよ』

 声に出さなくても、カゲロウが張り切っているのが分かるな。このとある理由は改めて説明する必要は無いだろう。


 『私は、ケイト・ラビューン。ケイトと呼んで下さいです』

 ケイト・ラビューン…


 ケイトラビューン…


 軽トラ、びゅ~ん。


 おっとりした見た目や話し方と違って、凄く早そうな名前だな。トータルのイメージとしては、真っ白な軽トラで穏やかな農道を爆走しそうな…


 『私は月兎族の《回復士》をしてますです。えっと、私はクエストを通して人のお手伝いするのが好きです。このクエストに参加したのは、ギルドに加入する為だけのクエストって面白いなと思って挑戦しましたです。日本製のMMOは、始めてだから色々頑張りますです。あっ、私は《家事》持ってますよです』

 名前とのギャップか?おっとりした性格がよりいっそう際立って見える。まぁ、見た感じとピッタリな印象だな。


 それとは別に、《家事》を取得しているのは僕の中では高ポイントだ。トリプルオーの中で初の《家事》仲間だからな。


 合格者の中で唯一彼女だけが、提出してきたアイテムがオリジナルの製作品ではなく、街のNPCから依頼されるクエストを多数こなす事で貰える記念品だった。



【記念品・頑張ったで賞】

規定の期間内で、数多くのお手伝いクエストを終了させた事を、ここに証します。



 NPCからのお手伝いクエストは、手間と時間が掛かるだけの単純で簡単なものが多く、小遣い稼ぎ程度の報酬にしかならないものばかりだけど…それを何度も繰り返して、やっと入手出来る【記念品】を貰ったプレイヤーは始めて見た。


 僕達も、実際に実物を見るまでは【記念品】が貰える事は公式で発表している事実にも関わらず単なる噂だと思ってたからな。まぁ、実際に名前通りの記念の品で効果は全く無いのだけど、そんな事は関係無いからな。


 『ケイトは、クエストの【記念品】を提出してたよね?それは何で?』


 『あれは、私が街で街の皆さんのお手伝いをいっぱい頑張った結果で、一番大切なアイテムになりますです。私の事を知って貰うには一番だと思って提出しましたです』

 マークはケイトの話し方や《家事》スキルと【記念品】と言ったところでクスクスと笑っている。本人は堪えようとしているのかも知れないが、僕達からするとバレバレだよな。


 アキラは、しばらく色々な質問を繰り返したり、普通に会話を楽しんだりしていた。端から見れば、結構アットホームな面接になっているだろう。まぁ、それは五人がこれを最終的な面接だと思ってないからでもあるのかな?掲示板には、キチンと書いたはずなんだけどな。アキラの最初の『合格』と言う言葉で、その前にさりげなく付けた『基本的に(・・・・)』って言葉への注意や観察力が足りない気がするな。


 決して言葉や態度を表に出さずに、僕達も紅茶やお茶請けを自然な形で出したりしている。僕達をメイド(NPC)と勘違いして、当然のように受けとる者や丁寧にお礼を言う者など様々だった。





 『じゃあ、最後にギルドメンバーの共通アイテム【ノワールの証】を配ります。これが有ればギルド内の施設は自由に出入りが出来るし、ホームの中にある様々な物も使えるので絶対に無くさないでね。ちなみに、シリアルナンバー入りだから。個人の見分けもつくと思うよ。じゃあ、まず3番、ヒナタ。次は4番、カゲロウ。次は5番、ケイト。皆これからヨロシクね』

 アキラはヒナタ、カゲロウ、ケイトの順に一人一人に『おめでとう』と言いながら手渡した。勿論、後ろに控える僕達の拍手付だ。


 面接中にパーティーチャットを使って線香を済ませているので、今さら合格者の確認に時間を取る必要はない。


 『お、俺のは?』


 『私も、まだ貰ってませんわ』

 マークとエリシラが、まだ自分達は【ノワールの証】を貰って無いことを必死にアピールする…だけど、この時点で気付けていないのは致命的だよな。


 『あっ!そうそう、忘れてた。マークには特別にこれをプレゼントするね』

 特別と聞いて、マークは『当然だろ』みたいな感じで受け取りにきた。


 『えっ、これって…』


 マークに渡されたカードには、『お疲れ様です。貴方の今後の活躍を【noir】は離れた場所からお祈り致します。お帰り下さい』


 …と大きな文字で書かれている入社試験の不合格通知のようなメッセージカード。絶対に読み間違えないようのない大きな文字で、ご丁寧な事にルビまで振ってある手の込んだ逸品だ。これは、事前に万が一の為に僕が用意していた物だ。まぁ、役立って良かったのか、悪かったのかは分からないけどな。


 ちなみに、まだ学生の身の僕が不合格通知メールの存在を知っていたのは親の影響である。


 『【noir】にはね。人の仕草を笑ったり、バカにするプレイヤーは必要ないんだよ。だから、さっさとお帰りください』

 口調は優しいが、珍しくアキラが怒っている。この点については僕とフレイも同様なんだけど。この場合は誰が言うかの違いだろう。今回は、たまたまアキラが言っただけだ。まぁ、損な役回りをアキラに押し付けて悪いと思ってるけどな。


 『《家事》とか【記念品】って、どう考えても生産系ギルドでおかしいだろ。普通に笑うだろ』

マークがアキラに喰ってかかる。止めに入るか?いや、もう少し様子を見るか………


 『そんなに、《家事》を取得しているのがおかしい事かな?マークは、【noir】のギルドマスターの通称黒の職人さんも《家事》を高レベルで取得しているの知ってる?それに【noir】は生産系ギルドと言う面だけでなく、陰ながらプレイヤーを支援すると言った支援系ギルドを目指しているって知らないのかな?』

 まぁ、前者はともかく、後者は本当に陰ながらなので、表立ってプレイヤーの手助けはしないんだけどな。あくまでも、陰ながらがポイントなのだから。


 『えっ、なっ、マジ…で?』

 マークは、それ以上の言葉を無くしてしまったようだ。一人静かにホームをあとにしていく。


 『私は、人を笑ったりはしていませんよ。そんな見苦しい事をこの私がするはずが有りません』

 続けて、エリシラからの必死な抗議が始まる。ここからは、僕の出番だな。


 『確かに、マークくんみたいに笑っては無いけど。そこの…えっと…エリシラさんだっけ、僕達のギルドは小さな事にでも感謝ができない人も要らないんだよ。それが、例えNPC相手でもな。お帰りは、あちらからどうぞ』

 僕は、笑顔で出口に案内した。まぁ、仮面のせいで顔はエリシラには見えないんだけどな。


 『くっ、お…覚えてなさい』

 エリシラには、捨て台詞が凄く似合うな。絵になるくらいに…まぁ、惜しまれる事は、僕に覚える気が全く無い事だけどな。違う場所で会っても名前は出て来ないだろう。


 『ケイト、さっきから嫌な思いさせちゃって本当にゴメンね。もっと早くに注意して追い出したかったんだけど、これ本当に最終面接も兼ねてたんだよね』

 アキラの謝罪に、僕達三人は仮面を外して顔を出しケイトに頭を下げた。


 『大丈夫です。気にしてないよです。それよりも、私はそんな皆さんのギルドに入れて嬉しいよです。こちらこそ、本当にヨロシクお願いしますです』


 『『えっ~~!?』』

 残りの二人は、かなり驚いているようだな。だが、本当に今の今まで気付いてなかったのだろうか?


 『カゲロウくん(・・)とヒナタちゃん(・・・)には悪かったな。あくまでもフェアに決めたかったから正体を偽らせて貰った。僕が【noir】ギルドマスターの一人、シュンだ。改めてヨロシクな』


 『ウチも【noir】のフレイや。ちなみに、ウチはギルドマスターやあらへんで。《鍛冶》《細工》担当しとるから、仲良うしたってな』


 『最後に、私が【noir】のもう一人のギルドマスターでアキラって言います。《裁縫》を担当してます。改めてヨロシクね』


 『その他、多くの生産系は主に僕が担当してる。今のところ《裁縫》以外の基本的な生産系は持ってるからな。ケイトは、もし良かったらだけど《家事》以外の生産系スキルも取得してみて。まぁ、蓋を開けれてみればメンバーが三人だけの超が付きそうな零細ギルドな訳だけど、僕達は君達を歓迎するぞ』

 二人共が呆気にとられているようだ。まぁ、それも仕方の無い事だろうけど…


 『お~い、二人共、そろそろ戻ってこい。ホーム内の設備について説明するぞ』

 しばくして、二人が戻ってきたところで説明を続ける。


 『まず、ホーム内に有るゲートについてだが、各自が登録したゲートに繋がる設定になっている。登録は個人でしなければならないから、新しく街に行ったら各自で登録してくれ。それから、今後のログイン設定もこのホームで登録して良いからな。次に、倉庫の事だけど、各個人用の小さな倉庫とギルド共通の大きい倉庫が各々複数有る。自分の装備やレアアイテムは個人用の倉庫で管理してくれ。空いている個人用の倉庫から、好きな場所を選んで使ってくれて大丈夫だ。分配が面倒な狩りや採取、採掘で得たアイテムは共通倉庫でまとめて管理しているから、必要な物は自由に使ってくれて構わないぞ。続いて工房設備については面接の時にアキラが言ってたけど、これも自由に使って欲しい。新しくスキルを覚えたり、スキルレベルが上がったりして工房の設備を拡張したかったら、僕達三人の内誰でも良いから相談してくれ。すぐにお金を準備をするからな。最後になったが、僕達は基本的にソロ活動がメインだ。たまには、他のギルドとパーティーを組む事も有るが、それは稀なんだ。それでも、今日から僕達はギルドの仲間だ。仲間としての活動も必要だと思う。それで、新生【noir】最初の活動は、まだ見ぬ洞窟ダンジョンを越えて港湾の街【ポルト】まで一緒に行って、一緒に海を見る事にしたいと思っているんだけど、どうだろうか?トリプルオーの世界なら、きっと壮大な景色を見れると思うんだよ』

 三人が目をキラキラさせて話を聞いている。これは、決まりかな?


 『うん。決まりだね。皆、嬉しそうだからね。でも、私はしばらくの間はログイン出来ないよ』

 アキラは、まもなくインターハイ予選が始まるので部活が優先になる。それは、仕方の無い事で、もともと決まっていた決定事項だからな。


 『大丈夫、分かってるよ。【ポルト】に行くなら洞窟ダンジョンを通らなければならないからな。それには、新入り達三人は、まだまだレベルが低いとも思う。だから、しばらくはレベル上げが必要だな。それとは別に、僕とフレイは鉱山ダンジョンにも行く予定も有るからな』

 今度は、三人が揃ってガッカリしているな。この三人の様子を見てるだけでも面白いな。良いチームになりそうだ。


 『そやな。ウチは鉱山に籠るで。これ以上は待てへんねん』

 すでに、フレイの予定はかなりずれ込んでいるからな。フレイがやる気に満ちているのも当然だろう。


 『はい。シュンさんの仰る通りで、私達にはスキルレベルの向上が必要ですね。あと私の事は面接の時と同じように呼び捨てでお願いします』

 ヒナタちゃんの言葉にカゲロウくんとケイトちゃんの二人も頷いた。


 『それで相談なんですが…ケイトさん、もし良かったら私とカゲロウと一緒にパーティー組んで冒険しませんか?』

 ヒナタには、お姉さん気質が有るみたいだな。アキラみたいに良きパーティーリーダーになれるだろう。


 『私で良いのですか?です。トリプルオーでは、パーティーを組んだ事が有りませんです。レベルも低いので皆さんの足を引っ張りますよです。それでも良いのですか?です』


 『勿論だ。俺とヒナタの二人パーティーよりも、三人の方が格段に出来る事も増えるからな。それに、もう俺達はギルドの仲間だろ。足りない部分を皆でカバーすれば大丈夫だ』

 ナイスフォローだカゲロウ。これなら仲良く出来るだろう。僕達三人を含めて、六人全員がな。


 『はいです。よろしくお願いしますです。あと、私の事はケイトでいいですよです』

 前衛(カゲロウ)後衛(ヒナタ)回復(ケイト)とバランスが取れたパーティーになるだろう。頑張って楽しんで欲しいな。


 『じゃあ、三人共頑張れよ。もう、フレンド登録してるんだから困った事が有ったら、いつでも気にせずにコールかメールしてくれて構わないからな。僕達も大抵はホームに居るし。あっ、一つ大切な事を忘れていたが、加入祝いに僕のオリジナル鞄をプレゼントするから、リクエストをメールしてくれよな』


 後日、僕が三人にプレゼントした鞄にドン引きされるのは別の話…

装備

武器

【デルタシーク】攻撃力30〈特殊効果:なし〉×3丁

【銃弾2】攻撃力+10〈特殊効果:なし〉

【銃弾・毒2】攻撃力+10〈特殊効果:毒Lv2〉

【魔銃】攻撃力40〈特殊効果:なし〉

防具

【ノワールブレスト】防御力25〈特殊効果:なし〉〈製作ボーナス:重量軽減・小〉

【ノワールバングル】防御力15〈特殊効果:回避上昇・小〉〈製作ボーナス:命中+10%〉

【ノワールブーツ】防御力15〈特殊効果:速度上昇・中〉〈製作ボーナス:跳躍力+20%〉

【ノワールクロース】防御力20/魔法防御力15〈特殊効果:なし〉〈製作ボーナス:耐火/重量軽減・小〉

【ノワールローブ2】防御力15/魔法防御力20〈特殊効果:回避上昇・中〉〈製作ボーナス:速度上昇・中/〉

アクセサリー

【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉

【ノワールホルスター】防御力10〈特殊効果:速度上昇・小〉〈製作ボーナス:リロード短縮・中〉

【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉



《双銃士》Lv7

《魔銃》Lv6《双銃》Lv4《拳》Lv31《速度強化》Lv49《回避強化》Lv47《風魔法》Lv44《魔力回復補助》Lv49《付与魔法》Lv53《付与銃》Lv23《見破》Lv28


サブ

《調合》Lv14《鍛冶》Lv24《家事》Lv42《革職人》Lv44《木工》Lv21《料理》Lv22《鞄職人》Lv47《細工》Lv16《錬金》Lv16


SP 12


称号

〈もたざる者〉〈トラウマの殿堂〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈自然の摂理に逆らう者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉

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