★初めてのMMORPG
ゴールデンウィークの始まる四月二十九日午前十時…
先月末に約半年間(まぁ、初回のテストから含めると二年近くにもなるらしい)と言う長きに渡って行われていたβテストを終え、次世代VR技術を用いたMMORPG【Original Objective Online】通称OOO の正式稼働までニ時間を切っていた。
普段、殆どゲームをする事のない僕が、トリプルオー専用のヘッドギアを被って初期設定含むキャラメイクにせかせかと勤しんでいるのは、双子の姉と幼馴染みのお陰なんだろう。
ある意味では陰謀とでも言った方が正しいのかも知れないよな。いや………それも違うか、一応は感謝した方が良いのだろうな。
正式稼働までの準備期間に約一ヶ月と言った十分な日にちが有ったのにも関わらず、正式稼働当日の、それもニ時間前になってまで僕が慌ててキャラメイクをしているのかと言うと、それはほんの一時間前に遡る事になる………
「駿、おはよ。今日も絶好のゲーム日和。さぁ、準備。急いで」
僕には全く意味の分からない事を喋りながら、ノックもせずに僕の部屋へと入ってくる人物によって、僕の安眠は崩された。まぁ、彼女は生まれてこの方ノック等した事が無いのだけど…
僕は、何が起こったのかが全く分からないので、布団を深くかぶり直し現在進行系で二度寝を決め込む事にした。これは僕に残された当然の権利だろう。
「…おやすみなさい」
どうせ、まともに取り合ったとしてもろくな事にならない事が長年の経験で分かっているのだから、放置するのが吉だよな。
誰にもこの安眠を邪魔されてなるものか。
だが、僕のささやかながら精一杯の抵抗は全くの無駄に終わる。二度寝を決め込もうにも、既に僕の上には掛け布団は無かったのだから。
普段は無口でおとなしい姉が、こうやって饒舌に喋り張り切る時には、あまり良い思い出が無い。少なくとも過去数年間は…
姉の事を知らない人には、「えっ!これで本当に饒舌なの?」と思われるかも知れないが、双子としてほぼ同じ時間(まぁ、約一時間程度の微々たる誤差は有るのだけど)を過ごして来た僕には、これが十分に饒舌だって分かるんだよな。
僕が、安眠と言う言葉に後ろ髪を引かれる思いで目を開けると、目の前にはトリプルオー専用のヘッドギアを高らかに掲げて、無い胸をこれでもかと目一杯張る姉の姿が有った。
「えっ」
思わず二度見をしてしまう僕。
では何故、普段ゲームをしないこの僕がヘッドギアを一目見ただけで、それも眠たい眼の状態にも関わらずトリプルオー専用の物だと理解出来たかと言うと、双子の姉と隣に住む幼なじみの二人がトリプルオーのβテスターとして、かなりの時間を費やしてトリプルオーと言うゲームにハマっていたからだ。
そして、ことある毎にプレイの素晴らしさや新しいVRを通して見るゲーム内の景色を自慢気に話していたからでもある。これだけされて、いくらゲームに興味が無いと言っても、興味自体を持たない奴がいるなんて絶対に嘘だよな。
まぁ、今回に限っては二人に自慢されただけでなく、幾度となくテレビCMで流された次世代のVRMMOの素晴らしさと、トリプルオーの謳い文句でも有る独自の目的にならい現実の世界に有るモノでも、全く存在しない架空のモノでも作る事が出来る自由気儘な生産システムと現在では絶対に体験出来ない事を誰もが気軽に体験出来ると言う事に大きな魅力を感じていたと言うのも有るんだけどな。
自分専用オリジナルの武器や防具が作れるのは勿論、研鑽を重ねる事でゲームの初期仕様を越えるオリジナルの技を編み出したりも出来る事や僕みたいなVRゲーム初心者でも安全かつ、身体にも優しい睡眠誘導タイプに引かれたと言うのもあって、テーマソングを聞くだけで流れているCMの内容を思い出すくらい気にはなっていた。
だけど、一台十万円プラス税の十二万円(現在の消費税は二十一世紀中期の10%・15%を経て20%まで上昇している)と普通の高校生として生きる僕にはかなり高価な品となっており、尚且つ現在は初期生産ロットと言う事も重なり、高価かつ貴重な物なので初回分の入手は諦めていた。
ちなみにだが、双子の姉と幼馴染みの二人はβ版からのテストプレイヤーの報酬と言う名目で一桁のシリアルナンバー入りの専用のヘッドギアを、トリプルオーのリリースと共に社名を株式会社幻想から株式会社トリプルオーにわざわざ変更したトリプルオー社からプレゼントされている。
こんな貴重な物を、メーカーから直接プレゼントされている理由の一部には、ただ単に二人が日本でも有数のゲーマーだったからだ。
僕の姉である颯馬 純は、僕でも知っているメジャーな某オンラインゲームのトッププレイヤーらしい。自分の姉の事にも関わらず、不確定な感じで語尾にらしいをつけているのは、僕自身がゲームに全く興味が無い事もあるが、その情報自体を幼馴染み伝手に聞いたからでもある。
その幼馴染み、水野 蒼真はVRを使った格闘ゲームとスポーツゲームの世界ランカーにしてプロゲーマーだ。こちらの方は、TVのニュースでも紹介されていたので知っていた。ちなみに、この世の大人を含めても低くはない賞金も稼いでいたりもする。全くもって羨ましい限りだよな。
さらに、もう一言付け加えるとすれば、二人共に容姿が端麗な為にテストプレイヤーとしてもモデル(モルモットと称した生け贄)としても目立つ、かなり目立つ。なので、二人のプレイ動画を見てからトリプルオーに興味を持った人も少なからずの人数がいるのだろうな。ちなみに、二人は現実でもかなりおモテになる。主に一目惚れの類いだが…
そして、僕こと颯馬 駿は、純と双子なのに美人の姉には余り似ておらず、容姿は良いところで普通よりマシな感じだと思っていたい。ここだけは切実に…
そんな二人が私生活において四六時中一緒にいる環境なので、生まれてこの方僕には色んな苦労が付きまとっていた。主に他人からの恋愛に関する嫉妬関係を一手に引き受けると言った感じで、その辺りは言わずとも察して頂きたいものだ。深く考えると余計に凹むのだから。
ちなみに、僕達三人は同じ高校に入ったばかりの十五才で、家が隣通しで尚且つ親同士が非常に仲が良い事も有り、家族ぐるみでの付き合いが有る。生まれてから現在に至るまでは兄弟同然に過ごしてきている。正確に言うならば、僕達が一才の時に水野家が颯馬家の隣に引っ越してからの関係だけど…(なので、蒼真の名前は僕達の名字とは全く関が係無い)
まぁ、呼び名がややこしくても水野家と颯馬家の関係にはこれからも今までと同様に変わらない話なのだけどな。
話を元に戻すと、トリプルオーをプレイするには十分なネット環境は勿論の事、専用のヘッドギアも必要になる。前評判の良さによりヘッドギアの次回生産分までが予約抽選販売になっていたので、初回参入分からのプレイをヘッドギアが手に入らない僕としては諦めていた。まぁ、軽めの抵抗としてオンラインショップ巡りや近くのお店くらいは見に行ったんだけどな。当然、全てが空振りに終わっていた。
だけど、その僕の目の前には入手困難なヘッドギアを持ちながら…
「設定、設定」
意味不明な事を連呼する姉がいるのだ…容姿が素敵なだけに、残念で仕方が無いよな。
「それは、駿の為に俺達が用意したんだぞ」
部屋の入口で、いつのまにか現れた蒼真が喋る。
と言うか、僕の部屋に入る人間はノックと言う言葉を知らないのだろうか?
「はぁぁ~?一体どうゆう事なんだ?そのヘッドギアは追加生産待ちでネットでも最低五~六倍のプレミア価格。それだけ払っても簡単には買えないってニュースで言ってたんだぞ…って言うか、そのニュースを教えてくれたのが、一週間前のお前だろう?」
「確かにそうだな。だが、そこは俺達とお前の日頃の行いの差だ。そいつも懸賞で頂いたからな」
偉そうな蒼真と無い胸をよりいっそう突きだす残念な双子の姉。
「………」
おいおい、懸賞って………簡単に言ってくれるけど、そこは僕も全く考えなかった訳ではないんだぞ。そもそもの話、ヘッドギアが当たる懸賞自体が少ないし、当然確率も低くなかったはずだぞ。それを簡単に頂いたと言ってのける蒼真に全力で引く僕。
結果だけを聞くならば、二週間前に予想当選確立が百万分の一の某雑誌プレゼントに当たってしまったと言う事らしい。まぁ、当てたのは偉そうに語っていた蒼真ではなく、その隣の僕の残念な姉の方らしいけどな。
こう言うところでも、僕とは違って無駄に運が良い。二人は日頃の行いの差と言ってはいるが、日頃の行いだけは絶対に僕の方が良いだろう。確実に…
「まぁ、俺が懸賞が当たった事を聞いたのは先週だけど、物自体は二週間前には純の手元に有ったみたいだぞ」
はっ?蒼真の言った事の意味が分からない…と言うか、隣にいるどや顔の純を見ると理解したくなくなるんだけど。
「ギリギリまで、秘密に、サプライズ」
ポカーンとしている僕を後目に、無い胸をさらに張って偉そうにしている。サプライズとしては確実に成功なのだろうけど、微妙に感謝しづらい気がするな。
まぁ、これもあとから分かった事なのだけど、僕を含めた三人でトリプルオーを遊ぶ為に数ヶ月前から姉と蒼真が二人して様々な懸賞に応募しまくっていたらしい。その点だけは感謝したいよな。
…と、まぁ、そんな感じでなし崩しが時間が流れ、冒頭に至っている。今となっては、はっきり言って前言は撤回したい。全力で。せめてもの話、蒼真と同じく先週の時点で知らされていたら、こんなに慌てなくても済んだはずなんだけどな。
設定に入る前に、予め二人から簡単にシステムやスキル等の説明とβテスト時の二人がプレイして決めたキャラの種族やジョブ、スキル等の方向性は聞いているし、興味が有った僕自身も少しは調べている。
純はいつも通りの純粋な後衛系。それも魔法に特化したキャラ構成らしい。種族は魔力が一番強く成長するエルフで、ジョブは《魔術師》。純には、どんなゲームをプレイしても前衛よりも後衛を選ぶ傾向が有るからな。この選択も納得なんだよな。
初期で選べて装備する事の出来る十個のスキルも全てが魔術に関するものになっている。そして、何よりも僕が驚いたのは、貴重な十個のスキル枠の内の六個を使って《火属性》《水属性》《風属性》《雷属性》《氷属性》《地属性》の選べる六属性を全て選んでいた事だ。
その代わり物理面は、攻撃も防御も壊滅的な状態らしいのだが…何故、そうなる事が分かっていて、そんなピーキーな仕様にするのか疑問で仕方がないよな。
反対に蒼真は完全な物理万能キャラで、魔術に関するの要素は属性を含めてからっきしだが、前衛なら壁役から遊撃役まで幅広くこなせるスキル構成だと自画自賛していた。
種族は人間。これについては物理や身体系に強い補正が掛かる獣人種系と迷ったそうだが、装備出来る物に対しての種類が幅広い人間にしたそうだ。
それで、やっぱりと言うか当然と言うか、ジョブには《騎士》を選択。スキルは物理系オンリーの構成になっている。ラノベ好きの蒼真曰くファンタジーを遊び尽くすなら剣で魔物を倒すのがお決まりの事らしい。だけど、回復する手段が手持ちのアイテムだけと言うのは、初心者の僕からすると「大丈夫なのか?」と疑ってしまうけどな。
まぁ、本人達はβテストから、一貫してその仕様らしいから問題は無いのかも知れないし、それで本人達がゲームを楽しめるなら良いとも思うけどな。まぁ、初心者の僕としてはゲーマー達の考えを理解するのは到底無理な話しだけど…
そうなると、だ。初心者の僕が二人と一緒に遊ぶ事を前提とするならサポートメインの方が良いのかな?等と考えながら種族やジョブを選ぶ事にした。
まぁ、基本的にゲーマー達のプレイには着いていけないと思うので、まったりゆっくりプレイが出来て、たまに一緒にパーティーも組めれば良いかな。
ちなみに、初期設定で決定した種族はゲーム中に変更は出来ないが、ジョブやスキルは変更可能でレベルによってランクアップも出来るらしい。まあ、複数のジョブやスキルをマスターすればレアなジョブやスキルも選択可能になるって事かな。
トリプルオーでは、コンセプトを独自の目的と謳っているだけに、ジョブによる縛りが少ない。極端な話、《騎士》が弓や杖を装備して無双する事も可能だ。縛りの有る項目は一部の武器スキル系だけで、それもそのほとんどがステータスの成長補正の選択みたなモノだと思って貰えば、少しは分かり易いかも知れない。
『うわっ!』
選べる種族だけで十種も有るんだな。これを見ただけでも軽く引ける。
ジョブは初期選択にも関わらず、ざっと見ただけでも二十種以上は存在している。スキルに至ってはパッと見ただけで数えるのを早々に諦めた。軽くスクロールしてみても終わりが見えなかったので賢明な判断だと思う。
これだけ聞くと、かなり悩まされそうな感じがするのだが、僕の初期設定は意外にあっさり決まった。
僕の選んだ種族は、獣人種の一種で速度に一番優れている天狐族。ケモミミ・尻尾のモフモフに一目惚れだ。やっぱり、自分に無いものには憧れるからな。まぁ、動物嫌いの両親の影響で家では飼えないと言う事への反動も有るかも知れないけどな。
ジョブは中衛・遊撃向けの《銃士》を選ぶ。響きが良いし、銃系の武器スキルは銃士限定と言う事が素敵すぎるからな。特に限定と言う言葉に…
キャラメイク等は、そこまで細かく設定していく時間が残されてないので脳波スキャンによるオート作製に任せる事にした。普段の僕を天狐族風に自動で変換してくれるらしい。時間の無い僕には全くもって便利な機能だ。当然、髪や目も黒髪・黒目だ。日本人としてこの部分だけは譲れない。
普通は、細かいヶ所まで変更可能で、拘る人の中には見た目が完全に別人な理想の自分を作り上げる人もいるらしい。まぁ、拘った分相応に時間は掛かるのだけど。
それで、僕のスキル構成はと言うと…
・武器系 《短銃》
・身体系 《速度強化》《回避強化》
・魔法系 《風魔法》《魔力回復補助》《付与魔法》
・生産系 《調合》《鍛冶》
・万能系 《探索》《家事》
《短銃》は、《銃士》を選んだのなら必須と言っても過言では無い武器系スキルで、命中率や弾の詰め替え作業に補正が掛かる。他にも初期で選べる銃関係のスキルは、《狙撃銃》《砲》等も有るが、使い易さの観点から僕は《短銃》を選んでいる。まぁ、最初に選ぶ十個のスキルの中に武器系のスキルを最低限一つ選ばないといけないのはルールだから仕方が無い。
《速度強化》は、速度ステータスの成長や移動時間短縮等メリットが高いらしい。
《回避強化》は、文字通り回避に補正が掛かる。《魔術師》程ではないが、防御力面に不安がある《銃士》としては押さえておきたいスキルの一つだろう。
《風魔法》は、《水魔法》同様に攻撃・回復両方使えるのが魅力だな。
《付与魔法》は、各種ステータス上昇のエンチャントが使用が出来る。低い防御力を補ったり、高い速度をより生かしたいからな。
《魔力回復補助》は、自然の魔力回復能力に数%の補助が掛かる。初めは+5%と微々たるものだが、スキルレベルを上げれば最大+100%…すなわち魔力回復能力が倍になるのだ。魔法を使うキャラ必須のスキルになる。当然、純も選択している。
《調合》は、自分で銃弾用の火薬やポーション等の液体類の調合が出来たら良いなと思っての選択だ。弓や銃は矢や弾の消費が有るので、相対的に費用対効果が悪いと思う。少しでも自分自身で補う事が出来たら助かるだろう。ついでに、回復アイテムを作ってお小遣いも稼ぎたいところだよな。
《鍛冶》は、自分の武器を自分で造るって言う事に憧れたから選んだ。まぁ、銃を作れるかは分からないんだけど。
《探索》は、罠や隠されたモノの発見や敵を察知してくれるサポート系のスキルらしい。純達とパーティーを組むなら、有っても損にはならないだろうな。
《家事》は、今までプレイした数少ない他のゲームでは、見た事がなく珍しかったので選んだ…あとで変更も可能らしいし、こう言うお遊び的な物が一つ有っても良いよな。しかも、洗濯や料理は勿論の事、なんと!自分のホームを持つと掃除も出来る。当然、専門スキルの《料理》や《掃除》に比べてスキル成長は遅いのだけど…綺麗は正義。万能は魅力。
…と言うか、《掃除》スキルは何を目指した人が取得するんだろうな。僕には分からないな。
以上が僕が選んだ渾身の十種だ。
急場しのぎで選んだわりには、万能なキャラに出来たのではないかと自画自賛を込めて笑みが溢れる。なかなか満足出来る選択をしたとも思っているからな。
「ふぅ~~なんとか間に合ったな」
初期設定から現実に戻ると正式稼働の正午まであと二十分。既に二人の姿は僕の部屋から無かった。
先に昼ご飯を済ませようとリビングに行くと、純にログインしてからの集合場所を告げられた。どうやら遅刻は厳禁らしい。
軽く昼ご飯を食べてから、ログインをする為の準備を済ませようか。
………5………4………3………2………1………0
Original Objective Online正式稼働
〔ようこそトリプルオーの世界へ。この世界を貴方様のご自由にお楽しみ下さい〕
ありがちな内容の音声案内と共に僕の視界が徐々に晴れて行く…
『うわっ、すっげ~~~!これが、本当にゲームの中なのかっ?』
僕の目の前に現れたのは、TVで見た事の有る中世ヨーロッパを模した街並み。それが360度全ての方向に広がっていて、少し離れた場所にはお城まで見える。
近くの建物には透き通った窓ガラス。そこに反射してた写っているのは…
『ぼ、僕か?これが僕なのか』
現実の僕に耳と尻尾が付いただけだが、不覚にもその姿に感動して呆然とその場に立ち尽くしてしまった。
キャラメイクを脳波スキャンに任せて正解だったかもな。
『うぉっ!』
しばらく窓ガラスを鏡に見立て自分の姿を確認して、近くの壁にも触れてみた。少しひんやりとした湿った石壁の感覚や、そこに生えている緑色をした苔の感触までが正確に僕へと伝わってくる。
続いて、足元に落ちていた小石を拾ってみた。そして、再び驚かされる僕。物の感触だけでなく、物を掴む感覚までがいちいちリアルのそれだ。その小石を手持ちの鞄に入れてみると、その石ころがアイテム欄に追加されていた。
どれをとっても、本当に凄い。強いて気になる場所を上げるとすれば、音声に若干のノイズが走る事くらいか?まぁ、取り立て気になるほどの事でも無いくらい微妙なノイズ。これくらいだと少し時間が経てば慣れるだろう。
『これは、純達がハマる訳だな』
二人の事を考えていると、ログイン前にした約束を思い出した。
『…えっ~と』
確か、純の話では街の東の方に教会みたいな大きな神殿が有るんだったよな。
辺りをキョロキョロ見回していると、僕みたいに立ち尽くしているプレイヤーも多く見られる。既にパーティーを募集したり、街の外へと向かっているのはβテスター達かな?
いや、そんな事を考えている場合では無いよな。とにかく今は神殿を目指さねば。
『自分、さっきからキョロキョロしとるけど、何か探してとるんか?』
急に掛けられた背後からの声に反応して振り返ると、そこには多分僕と同じ天狐族の関西弁を喋る女性がいた。ただし、向こうは僕とは違って本物の狐っぽい金色の毛並みをしているけどな。
『あっ、えっ~と、知り合いと待ち合わせをしてまして、神殿を探しています』
『そらならウチと一緒に行かへんか?ウチもチュートリアルを受ける為に神殿に行くとこやから、そこまでなら案内すんで』
いきなり優しそうな人に出会えるとは僕にしては幸先が良いな。
『良いんですか?助かります。ありがとうございます。あっ、僕はシュンって言います』
『かまへん、かまへん。ウチはフレイや。よろしくな』
フレイさんはβからのプレイヤーで《格闘士》。メイン武器はトンファーらしい。プレイのメインは生産系の《鍛冶》で素材を集める為に冒険をするらしい。僕も鍛冶のスキルを取っている事を伝えると、それならば時間が合えば一緒に素材を取りにいこうとフレンド登録する事になった。本当に幸先の良い出会いに感謝だな。
フレイさんにお礼を言って別れ、二人との待ち合わせ場所に行くと…若干、髪型や目の色や耳の形が違うが、見慣れた二人が…かなり目立っていた。
何故か?いつもより目立って見えるな…と言うか、かなりの人混みの中で色々な人に勧誘されたりもしている。純っぽい女エルフは男性の集団に、反対に蒼真っぽい男は女性の集団に…どうやら、少し待たせてしまったみたいだけど、あの中に普通の僕が割って入るのは勇気がいるよな。
改めて時間を確認すると、待ち合わせ時間を二十分は過ぎている。
『悪い、また…
『遅刻』
『遅いぞ』
お、お待たせ致しました』
僕が喋り終えるまでに、二人に突っ込まれてしまった。まぁ、二十分以上も待たせているので仕方の無い事だけど。
『本当に、すみませんでした』
『もう良い。とりあえず、先にチュートリアルだけは三人一緒に済まそうぜ』
『うん。説教は、そのあと』
『り、了解しました』
この蒼真の言うチュートリアルは、受けても受けなくてもゲームを進める事が出来るらしいが、約一時間のチュートリアルを受ければジョブレベルが5まで上がり、戦闘の仕方や街の施設の説明を受けれる。チュートリアル中は、身体の動かし方を覚えるのがメインだが、スキルも上がり易いのも魅力の一つなんだそうだ。
さらに、チュートリアルのクリア特典として、初期の装備を一つ貰えるのでお金の無い大抵の初心者プレイヤーはチュートリアルを受けるらしい。初心者の僕には特に嬉しい特典だな。
まぁ、特に時間が掛かる訳でもないこのチュートリアルを受けないのは、誰よりも最前線を攻略したい、通称攻略組の皆さんだけらしい。
チュートリアルが終わって、すぐに…
『それでは、被告人シュン。君の言い訳をきこうか?何か弁明は有るのか?』
急に裁判らしき物が始まってしまった。
『シュンくん、何故?』
僕は怪訝な顔をした二人に詰め寄られる。
まだ遅刻の事を怒っているのか?確かに悪かったとは思うけど、初心者の迷子は仕方が無いと思うんだよな。まぁ、僕が悪いので謝るんだけどな。
『純、蒼真、すまない。遅刻したのは、トリプルオーの世界が凄過ぎて呆気にとられて迷子になってたからなんだ。本当にごめん』
『違う』
『いや、まぁ、それも有ると言えば有るんだが、俺達が聞きたいのは何故そんなジョブとスキルを選択したのかだ』
『………?』
蒼真は何を言っているんだろう?
『《銃士》は死に職、不遇の固まり』
『………ほぇ?』
純からの有り難くないご指摘に泣きたくなってくる。まぁ、実際に左目からは涙が一粒出ているのだけど。
『シュン、ログアウトして攻略サイトや情報サイトを見たらすぐに分かる事だからここでの説明を省くが、βの時で判明している限りでは《銃士》の銃を使用するアーツに属性系攻撃が存在しない。他のゲームでは、不遇武器の代表格と言っても過言ではない弓でさえ〈火の矢〉や〈氷の矢〉等の属性系のアーツがあるのにも関わらず、だ。実際に援護がメインになる中・遠距離の武器で物理的な威力しかないのは、かなり不利になるんだ。次に、これはさっきのチュートリアルの戦闘で気付いたかもしれないが、《短銃》は対象から離れれば離れるほど攻撃力が低下する。《短銃》とは逆に遠距離で攻撃力が増える《狙撃銃》《砲》を使っていたプレイヤー達も威力と命中率の問題で少し強いモブ相手には、アーツをフルに使用してギリギリ倒せるぐらい。ちなみに命中率は、どの銃も離れるほど低下する。そして、最後に銃弾に対する費用対効果が悪い。βテスターも最初期には《銃士》もいたのだが、一週間もすれば軒並みジョブチェンジしているか、魔法系のスキルを取りなおしていた。唯一、ステータスの上昇が悪くないのが救いだっただけなんだぞ』
βテスター達にして、唯一の利点がステータスの上昇なのか…聞きたくなかった情報だよな。
『…一応最後の費用対効果については、僕も考えていて《調合》《鍛冶》のスキルは取得済だぞ』
『何?…今何て言った?おい、シュン、一度スキルを、取得した全てのスキルを教えてくれないか?』
蒼真が驚いているので許可してスキルを提示する。スキルを見た瞬間に二人は、何も言う事が出来ずに固まっている。
『シュン、一体お前は何を目指すんだ』
『シュンくん、目的は何』
そう言われても困るよな。僕としては、楽しくプレイする事を目指した結果なんだけどな。
純と蒼真曰く、《風魔法》の回復は同じ回復系の《水魔法》と比べても微々たるものらしい。攻撃魔法は《風魔法》よりも高威力の物が有るには有るらしいのだが、消費の多さと呪文の詠唱が長い為、属性魔法では範囲攻撃で自滅しそうな地属性と並んで不遇扱いになるらしい。《風魔法》の唯一と言っても過言ではない利点は高レベルで習得できる〈風の加護〉ぐらいらしい。
《付与魔法》は前衛壁キャラにはステータスの上昇が好まれてはいるが、他者に対しての使用効果範囲が二メートルと狭い為、サポートを目的とした中衛・後衛キャラには向いてないらしい。
生産系スキルは、最初から生産活動をメインとしているキャラ以外は装備出来るスキル枠が十枠しかない事もあって取得しても一種類で、初期でのニ種類は負担にしかならないとの事…
それで、一番の問題は《家事》らしいのだが、一言で言ってメリットが無いらしい…と言うか、βでもまともに使っているプレイヤーを見た事が無いらしい。ホームの掃除・洗濯等はNPCに委託できるのでβテスターでスキルの検証していたプレイヤー達ですら、利点が料理をする事も出来るしか思い付かなかったクソスキルらしい。
何か解説を聞けば聞くほど切なくなってくるのは、僕の気のせいだろうか…
まぁ、全部が全部ダメだった訳ではなくて、僕の選んだスキルにも救いは有る。《速度強化》《回避強化》《探索》の三つは優秀なスキルらしく、取得者も多いらしい。
遂に、潤んでいた右目からも一筋の涙が溢れた…
悔し涙も出るのかと、ちょっとした感動を味わったのはここだけの話だ。その感動だけが唯一無二の利点だったのかも知れない。
『悪い事は言わないから、早めにスキルレベル上げて新規で使い勝手の良いジョブやスキルを取得を薦めるぞ。スキルレベルを10上げる毎にSPが1~5ポイント貰えるから、それを使えばすぐに変更出来る。不人気スキルほど多く貰えるはずだから、シュンのスキル構成なら問題は無いだろ』
SPはスキル毎に上がるSPが違うらしい。不遇と呼ばれる不人気スキルほど貰えるSPが多いのは救いかも知れない。
『それとゲーム内での俺の名はアクアだ。だから、気軽にアクアと呼んでくれ!くれぐれも本名で呼んでくれるなよ』
『私はジュネ』
アイデンティティーと言うのか、自分達の呼び名を強調してくるアクアとジュネ。
『了解だ』
無論、僕に異論はなかった。
『じゃあ、二人共フレンド登録ヨロシク。このあとβからの仲間と待ち合わせだから俺は行くわ。そのうち紹介する』
『登録完了、私もこのあと予定』
『こっちも完了だ』
『じゃあ、またな。シュン、ジュネ』
『うん、また』
『またな』
さてと、これからどうしたものかな?こんな場所に初心者一人を残されても困るんだけどな。
『う~ん』
とりあえず街ブラをしながら、必要なアイテムの購入、あとはアクアのアドバイス通り早めにスキルを変えたいところからスタートだな。
最初に選んだ武器スキルの中から最低限の武器が一つと粗悪な防具は支給されているので…あとは、回復用アイテムとチュートリアルで使った弾の補充と《調合》用のキットと《鍛冶》用のキットか、意外と買う物が有るよな。
現在の所持金はチュートリアルで得た分と初期資金を合わせて五千フォルム弱。これで足りると良いのだけど。
他には、気の良い仲間探しも魅力的なのだけど…
これに関しては、周りを見回しても銃を装備しているプレイヤーがいない…むしろ、若干引き気味でこちらをチラ見しているプレイヤーが多数だ。
うん。いつか僕にも仲間が出来たら良いよな。そんな感じで気楽に考えるのも有りかも知れないな。最悪はソロプレイになるけど…まぁ、他人の事を気にしなくてもいいソロは有る意味では素敵かも知れないよな。一人だと自由気儘に過ごせるのだから。これは、決して負け惜しみだけでは無いはずだ。
僕は、チュートリアルの最中に二人から受けた簡単な説明内容を思い出していた。
このトリプルオーの世界では現実の八時間で一日が経過する。割合としては日中が五時間分・夜が三時間分に該当すららしい。つまり、現実での一日がトリプルオーの中では三日分になる計算だな。体感時間は現実と変わらなく感じるが、実際には三倍の早さで動いている事になってるんだよな。まぁ、どう言うシステムや技術なのかは分からないんだけど、遊ぶ側としては全く問題が無いから良いんだけどな。
ちなみに、蒼真達に言わせると「むしろ、ウェルカム」らしい。
これは、日中と夜では出現する魔物が違う為、ログインする時間が固定しないプレイヤーに対する運営側の配慮だ。これには素人の僕も納得出来るよな。二十四時間が一日だと大抵の学生や社会人は夜時間帯しかプレイ出来なくて、日中に起こる様々なイベントに参加する事が出来なくなるからな。
ちなみに、二十四時間表記で四時~九時・十二時~十七時・二十時~一時が日中で、それ以外の時間が夜にあたる。中途半端な時間になっているのは、正式稼働の正午を基準にした為らしい。
そして、夜の方が魔物の数も多く、出現する魔物のレベルも高く凶悪になるらしい。僕としては夜の行動はなるべく避けたいところだな。
次に、死亡時の復活は蒼真…アクアとジュネと待ち合わせた神殿になる。それに伴って、多くの露店は神殿付近に点在している。この辺りは効率が良さそうだな。
このゲームの死亡の罰則、通称デスペナは魔物に倒された場合、ゲーム内時間で一時間のステータス半減と戦闘系スキルの一部が使用不可になる。
これは、他のゲームより若干優しい程度の設定らしいのだけど…プレイヤーVSプレイヤー、通称PVP以外でプレイヤーに倒されるプレイヤーキル行為、通称PKの場合は少し状況が変わってくる。
倒された………PKをされたプレイヤーは所持金の半減(僕としては、これでも普通に痛いと思うのだけどな)のみなのだが、倒したプレイヤーには現実時間でニ時間のステータス半減と制限時間内の全スキルの使用不可と言う、かなり凶暴かつ厄介なペナルティーが待っている。
それだけの行為を覚悟して得られるモノが、ただの所持金と個人の満足だけなのだから、トリプルオー内でのPK確率は、かなり低くなるのだろうな。まぁ、こう言う事は運営側がどう頑張って規制しても完全に無くなる訳では無いとも思うけどな。
僕が買おうとしていた道具の方は、幸いにもNPCの露店で一通りを揃える事が出来た。
調合と鍛冶用の入門キットが各千五百フォルム。
回復用のポーションが一本百フォルムを十本。
短銃用の銃弾が一つのマガジンが十発入りで五十フォルム。それを十セット。
所持金の残額は、既に五百フォルムを切っている。確かに、僕のキャラは蒼真…アクア達の言う通りで、使い勝手が悪いのかも知れないよな。
…と言うか、蒼真をアクアと呼ぶ事に慣れないな。僕にとって蒼真は颯馬以上に蒼真なのだから…
装備
武器
【ハンドガン】攻撃力15〈特殊効果:なし〉
【銃弾】攻撃力+5〈特殊効果:なし〉
防具
【布製の服】防御力5〈特殊効果:なし〉
【リストバンド】防御力3〈特殊効果:なし・チュートリアルをクリアした証〉
《銃士》Lv5
《短銃》Lv3《速度強化》Lv2《回避強化》Lv2《風魔法》Lv1《魔力回復補助》Lv1《付与魔法》Lv1《調合》Lv1《鍛冶》Lv1《探索》Lv1《家事》Lv1
正式稼働からある程度の時間も経ち、神殿の周りにもソロのプレイヤーは少なくなっている。既に多くのパーティー募集等を終えているみたいだな。
『取り敢えず、外に行って色々と確認してみましょうかね』
当然、ソロの僕に誰からも返事は無かった。なので、言葉に出さないとテンションの維持が難しい。
この街には、北・西・南に門が有る。北には大きな森が広がっており、その森の中は魔物の出現率が高い為、初心者パーティーでのレベル上げに向いているらしい。また、薬草や木材の収集にも向いている為、北へ向かう《調合》や《木工》系の職人らしいプレイヤー達も多く見られている。
西には草原や湖が有り、その湖の周りで出現する魔物から、初期にしては少し良いランクの素材が出るらしく、βからのプレイヤー達やある程度レベルが上がったら目指す場所になっている。
南の少し進んだところに有る川には大きな岩がゴロゴロしており、その岩場には採掘ヵ所が有るらしい。岩は身を隠す事にも向いている為、《鍛冶》系の職人やソロプレイヤーに人気が高い。
まぁ、知った風に語っていたけど、今のは全てチュートリアルとアクアとジュネの受け売りだ。
取り敢えず、初心者ボッチの僕としては南の門を出て《探索》を使いながら魔物やプレイヤーがいない場所を探して、チュートリアルでも習った動作の確認と他のスキルの練習でもするか。特に攻略を急いでない僕は、慣れるまでは無理をするつもりは無いからな。まぁ、慣れても無理だけはしないと思うけどな。
同じやるからには出来るだけ効率良くスキルを上げたいので、魔法、魔力回復中に銃、魔法のローテーションで訓練を始める。
今、僕が使える魔法やアーツは《付与魔法》の〈攻撃力上昇〉と〈魔法攻撃力上昇〉・《風魔法》の〈ウインドカッター〉だな。
取り敢えず、遠距離攻撃用の〈ウインドカッター〉を練習して、魔力回復後に《付与魔法》の練習と上昇率を確認する事にした。
魔力の回復中に《短銃》の練習を兼ねて射程や命中率を検証すれば効率も悪くないだろう。幸いな事に、この場所は的となる木や岩にだけは困らないし、仮に的を大きく外したとしても誰もいないのだから。
まずは、木に向かって魔法を放つ。
『う~ん』
詠唱に少し時間が掛かるのと少し恥ずかしいのが欠点だけど、五十センチほどの風の刃が真っ直ぐに飛んで行く。これなら多少狙いが甘くても的に当てれるかな。
詠唱する呪文は、いちいち覚えなくても勝手に頭に浮かんでくる。個人的には、カラオケで画面の下に流れる歌詞みたいな感じだったのも大きいところだ。この仕様は製作者様に感謝です。まぁ、恥ずかしいのには代わりが無いのだけど…
ちなみに、何でも出来るが売り文句であるトリプルオーでは、他のMMOでは有りがちな魔法やアーツを使用した際の待機時間は存在しない。つまり、MPが尽きるまで撃ち放題のやりたい放題。勿論、これは相手側にも平等に作用する。
しばらく魔法を放ってみて、射程は二十メートル前後で多少のホーミング補正(感覚的には左右に約二メートル程度)が有る事も分かった。
あと、魔法名だけでも威力は三割ほど下がるが詠唱可能らしい。これは〈詠唱破棄〉という特殊なアーツらしく、これを取得出来たのは本当に偶然で、魔法を放つ動作を少しでもシンプルかつ格好良く見せようと練習していたら、たまたま発動してしまった。
単純に魔法の名前を言ったり叫んだりするだけでは発動しなかった事も有り、どうやら発動しようとする意志や動作が重要らしい。地味に便利だよな。今後覚えた魔法でも確認していきたいところだな。
〈詠唱破棄・初級〉
魔法名のみで初級魔法を短縮詠唱できる
ただし威力は通常の30%減少
習得条件/意識的(動作を含む)に魔法名のみで初級魔法を放つ
魔力が尽きたので、魔力回復中に《短銃》の練習に切り替える。
まずは、二十メートル離れたところにある木を狙って【ハンドガン】を構える。チュートリアルでも思った事だが、射撃時には反動がしっかりと有るので狙いを定めるのが難しい。だからと言って二十発撃って五発しか当たらないのでは話しにならない。
しかも、二十メートルでは当たったとしても、木の表面にはかすり傷ぐらいしか残ってないからな。
『マジですか?』
低い、流石にこの攻撃力は低すぎでしょ。この距離では相手の動作への牽制くらいにしか使えないよな。まぁ、この威力なら当たったとしても無視できるようなダメージだと思うけど…
十五メートル・十メートルと近寄りながら撃ってみて、十五メートルで十発中六発。十メートルで十発中八発。威力の方も聞いていた通り、近寄れば近寄る程に上がった感触は有る。
ここで、少し僕には気になる事が浮かんだ。「この威力の上昇は、どこまで効果が有るのだろうか?」だ。
一メートルずつ近寄りながら射撃をしていく、木までの距離が三メートルくらいになってからは威力の上昇値が今までに比べると異常な感じになっている気がする。
残り一メートルになって遂に木自体を貫通してしまった。
試しに十センチくらいからも撃ってみる…
『…はぁ~ぁ』
僕は、今起きた現象に対して自分の目と耳を疑ってしまった。
結果だけを簡単に述べるなら、目の前の木は激しい音を立てて砕けた。折れたのでも倒れたのでも無く木っ端微塵に欠片だけを残して砕けたのだ。
ステータスを確認しても特に目立った変化はない。多少の練習でスキルレベルの若干の上昇は有るけど…
『うん?これが原因かな』
よくステータスを確認すると先程までは存在しなかったアーツが追加されている。
〈零距離射撃〉攻撃力×10/消費MP 0
標的の十センチ以内で射撃する・自動発生
他の銃スキルでも使用可能/連射不可/他のスキルと併用可能
習得条件/《短銃》スキル所持者が、マガジンのラストの弾で十センチ以内での標的を撃ち抜く
『攻撃力×10倍!?…消費MPが0で!?…えっ!極めつけが自動発生!?おいおい、これ内容が無茶苦茶強力過ぎるよな。でも、まぁ、十センチ以内からの射撃は、実戦だとかなり無理過ぎるような…気もする。いや、いや、それでもな…』
改めて習得条件を確認して、僕が習得出来たのが偶然だと言う事が分かった。
蒼真からは得られなかった情報なので、もしかしたらβテスターさんも知らないのでは?ないかと思ってしまう。もし、知られていたならば使い方によっては不人気はともかく不遇とまでは、言われてない気もするからな。あとで情報サイトを見てみようかな。
僕の防御力が薄い為、魔物にそこまで接近して撃つのは、かなり難しい。SPが溜まったら、このアーツを活かす為の不意討ち系や陽動系のスキルが欲しくなるな。
しばらく、色々な距離からの射撃を練習する。感覚的には、十メートル以内なら、ほぼ狙って当てれるようになった。まぁ、相手は木なので一ミリたりとも動かないのだけどな…
マガジンのストックが無くなったので、また魔法の練習に切り替える。
完全に魔力が回復しているのを確認して、〈魔法攻撃力上昇〉をかける。それと同時に右腕に黄色の光の輪が出来る。これを見た瞬間、全身が光らなくて良かったと心の底から思ったのは秘密だ。
二十分経過して効果が切れたのを確認して〈攻撃力上昇〉を掛ける。今度は、赤色の光の輪だ。どうやら光の輪の色で効果の判別出来るようだな。続けて再び〈攻撃力上昇〉と〈魔法攻撃力上昇〉を掛ける。〈魔法攻撃力上昇〉は掛ける事は出来たが〈攻撃力上昇〉は発動しなかった。
同じ《付与魔法》の重ね掛けは出来ないらしい。少なくとも現時点では。当然MPの消費も無かったけどな。これなら無駄なく魔法を掛けれるので大変嬉しい設定だな。
ちなみに、あとで分かった事だが《付与魔法》は〈攻撃力〉が赤色。〈防御力〉が青色。〈魔法攻撃力〉が黄色。〈魔法防御力〉が水色。〈速度〉が緑色。〈回避〉がオレンジ色。右腕が上昇で左腕が減少となっているので誰に対しても分かり易い。
MPが無くなるまで《付与魔法》の練習や性能チェックをしてみた。結果としては〈攻撃力上昇〉と〈魔法攻撃力上昇〉での上昇率は5%。今のスキルレベルでは、どれも上昇率5%ぐらいなの?かな。スキルのレベルによってパーセンテージが上がるのかは今後確認していきたい項目だな。
MPが回復するのを待っていたら、ログインから既に四時間以上が経過しているのに気が付いた。
『あっ、そろそろ夜になるんだよな』
夜は魔物が強いらしいので街に戻ることにする。初心者の僕にはソロの初戦闘(戦闘自体はチュートリアルのパーティー戦を軽減済み)が夜時間は怖いからな。
僕は、辺りに散らばっている木材や木片をまとめて回収した。木に関するスキル《木工》だったかな?が無いので、どうやら鑑定?が必要なようだ。回収出来たのは木材が五個と木片が二十四個。これは街で売れたら売る事にしよう。
それにしても、今日は初ログインだと言うのにチュートリアル以外でまともな戦闘をしていないよな。まぁ、こんな事を考えていると魔物に出会うフラグが立…
《探索》スキルに魔物を示す反応がある。
…った。少し予想通り過ぎる気もするな。
幸い近くにいる魔物は一匹。まだ時間帯もギリギリで昼時間。何よりも相手はチュートリアルでも戦った最雑魚魔物のミニボアだ。まぁ、チュートリアルはパーティーで戦ったけど、僕も少しはレベルも上がっているし…一人でも大丈夫だよな。
『よしっ!行くか』
しばらく自問自答した僕はミニボアに挑む事にした。
初戦闘。その結果は、全く大丈夫じゃなかった。
戦績としては完全な敗北。何も出来ずに神殿への死に戻りと言えば伝わるだろうか。
内容はこうだ。
僕が先制しようと〈攻撃力上昇〉と〈速度上昇〉を使って、 背後から静かにミニボア近づき【ハンドガン】を構えて射撃をした。そこまでの行動は完璧だったのだが、【ハンドガン】からは弾が全く出なかったのだ。
死んだあとで思い出した事だが、マガジンは練習で空になっていた。そして、焦っているところをミニボアに気付かれ、逆に先制されてしまったのだ。あとは僕個人の防御力の低さも有り、一方的な蹂躙である。焦りまくった状況では魔法を使うという発想も余裕もなかった。
デスペナ中で、さらにテンションが落ちたという事も有り、ステータスを確認してログアウトする事にした。ログインする時はホームやギルドがない限り中央広場固定なのだが、ログアウトは街中ならどこでも可能らしい。こう言う気分の時は凄く助かるよな。
装備
武器
【ハンドガン】攻撃力15〈特殊効果:なし〉
防具
【布製の服】防御力5〈特殊効果:なし〉
【リストバンド】防御力3〈特殊効果:なし・チュートリアルをクリアした証〉
《銃士》Lv8
《短銃》Lv11《速度強化》Lv6《回避強化》Lv2《風魔法》Lv6《魔力回復補助》Lv5《付与魔法》Lv5《調合》Lv2《鍛冶》Lv1《探索》Lv8《家事》Lv2
SP 2
newアーツ
〈必射・短銃〉攻撃力×1/消費MP 5
クリティカル補正+10%
命中率を無視して必中の射撃をする
習得条件/《短銃》スキルLv10
new称号
〈もたざる者〉
初めての戦闘で仲間も、攻略する手段も、心構えすらも、何かも持ってなかった者への称号
取得条件/最初の戦闘でのノーダメージ敗北・ソロ限定
〈勝てなかった者〉
初めての戦闘での敗北者への称号/成長称号
取得条件/最初の戦闘での敗北
『ゲッ!』
かなり不本意な称号を初敗北のオマケとして与えられてるよな。
銃弾が無くなった《銃士》はMPの無い《魔術師》と同じくらい辛い。やっぱり、このまま《銃士》で進めるなら弾切れ時に使えるサブ武器ウエポンも必要になってくるよな。
《銃士》ってサブ武器は、何が使えるんだろう?あとで蒼真にオススメでも聞いてみるか。アイツなら、その辺りも詳しいだろう。
僕がログアウトした時は、まだ純はログアウトしていない。朝のバタバタでヘッドギアのお礼を言えて無い事を思い出した。お礼代わりに晩御飯は純の好きなオムライスでも作ろうか。でも、冷蔵庫に鶏肉は無かったような…仕方が無い、買いに行くか。
「今日は本当に悪かった。すまん」
僕が夕食の買い物から帰ってくると蒼真が玄関の前で待っていた。
「は?い?」
「いや、そのなんだ。木自体初めてプレイする駿にだな、好きなようにプレイさせず、ろくな説明もしていないのに選んだジョブやスキルを不遇とか不人気とか気分を悪くする様な事を言って本当に悪かった。本当にすまん。反省してる。だから、辞めるとか言うなよ。なっ」
どうやら、僕がログアウトしているのに気付いて蒼真もログアウトしてきたみたいだな。しかも、大きな勘違いをして。
「今日は、色々とありがとな。晩飯食べてくだろ」
「えっ…怒ってないのか?」
「当たり前だ。あれは僕の事を思ってアドバイスしてくれたんだろ?感謝はしていても怒る理由がないからな。だから、そんな所に突っ立っていないで早く中に入れよ」
と言うか、僕はそんなに心が狭いと思われているのだろうか?その方がショックなんだけどな。
「あ…あぁ」
「僕が、ログアウトしたのはデスペナ中だからだ。それに、どのみち夜時間帯のソロプレイはまだ無理だからな。伊達に不本意な称号を貰ってないぞ」
「おい、駿。お前、もう死んだのか?」
蒼真が驚く。まぁ、あんな不本意な称号を貰うくらいだから、知らない人に驚かれるのも無理は無い。
「まぁ…な。結果だけを言うなら最初の戦闘で死亡した」
「ほっうぇえぇ…」
今度の驚きは、まともな言葉にならなかったようだ。
僕は、蒼真にチュートリアル後に有った事を簡単に説明した。
どちらかと言うと、蒼真は僕が死んだ事よりも、その時に獲得した不本意な称号に興味を示していた。全く見た事も聞いた事も無い称号らしい。
まぁ、それはそうだろうな。普通は、どんなゲームでも最初の戦闘では死なないし…僕自身も最弱の魔物一匹相手に死ぬ勇者がいるのなら会ってみたいからな。
三人分のオムライスを手早く作りながら話をする。
僕の家は、両親がイベントを運営する会社を経営している。両親は残業で遅くなる事も多いし、休みは不定期だ。当然、ゴールデンウィーク等のイベントが多い時に休みは無い。
蒼真の家は、親父さんの仕事の関係で両親が二人共に海外に赴任中だ。蒼真も両親と一緒に行けば良いのだが、最新のゲームの普及が遅い国には行きたくないらしい。全く蒼真らしい理由だよな。したがって、蒼真一人を残している為、蒼真自身はほぼ毎日晩御飯は自分の家同然な僕の家で食べている。まぁ、晩御飯だけでなく朝御飯と昼の弁当もだけどな。
ちなみに、純と蒼真は料理が出来ない。いや、正確に言うと違うんだよな。あれは、料理をする気がないだけだな。
そんな蒼真にサブ武器の事を相談すると、《銃士》で選択可能なおかつオススメの武器は《小盾》《短剣》《細剣》《爪》《小太刀》《片手斧》の六種類らしい。
《小盾》盾としての効果はもちろん、近接打撃も可能。
《短剣》速度に依存しやすく、小回りがきき扱いやすい。
《細剣》切るよりも突きに特化した剣。
《爪》腕全体を覆っている物が多いので、攻撃だけでなく防御も可能。
《小太刀》攻撃よりも牽制や防御向きの刀。
《片手斧》比較的軽く取り回しが良く、威力も高め。
紙装甲な為、少しでも防御力が上昇するのなら《小盾》に魅力を感じるけど、基本的に僕自身が対象から離れて攻撃を回避する事を重視している為、速度に依存する《短剣》にも心を奪われそうになる。
まぁ、もう少しSPが溜まってからの話なので、とりあえず候補としてゆっくりと考えるか。
既に、蒼真は武器スキルをレベル三十まで上げて上位に派生したらしい。一体どんなスピードでレベルを上げたら、たった半日たらずでそんな事が可能なのかを小一時間問い詰めてみたいところだな。
派生した恩恵で二刀流も可能になったらしい。僕も二刀流と言う響きには心が引かれる。銃も二丁持ちで攻撃したいです。幾ら《銃士》が不遇扱いされていても銃の二丁持ちは出来るよね?本当に頼むよ。
蒼真にオススメの狩り場を相談して、あとでパーティーを組む約束をしていると純もログアウトしてきた。三人で夕食を食べた結果、晩御飯後は三人でパーティーを組むことになった。
洗い物を済ませてログインして待ち合わせ場所に急行すると、昼間とは全く違う装備をした二人が待っていた。
『悪い。露店に寄るから、少し待ってて』
『いや、露店なら俺らも一緒に行くぞ。買いたい物も有るからな』
二人は顔を見合せながら答えて付いてくる。
昼間取れた素材を売ったら、意外とお金になったのは嬉しかった。今度は、マガジンを二十セット買うか。弾切れだけは、もうご免なのだから。
『お待たせ、それでどこに行く?』
『三人だから、南の川方面、色々とお得』
『そうだな。シュン用の素材も取れそうだし…今日はそうするか』
悪気は無いのだろうが、二人についさっき負ったばかりのトラウマを軽く抉られた気分だ。
『…了解だ』
街の南に有る川に着くまでに数回の戦闘をこなしたが、はっきり言って僕以外の二人が頼もしすぎた。
アクアの前衛での安定感と安心感。ジュネの後衛から放たれる魔法の全てが絶妙なタイミングで魔物に命中する。その中に初心者の僕が混じっても連携が乱れなかったのだから。戦闘連度が僕とは全然違うよな。かなり見習わなければならない事が多いな。
称号成長
〈初めて勝てた者〉
苦労を経て初めて勝利した者への称号/成長称号
取得条件/最初の戦闘での敗北
『シュン、採掘してくんだろ?』
『しても良いのか?』
『経費、削減』
そう言って、ジュネは良さそうな採掘ポイントを探してくれる。
採掘ポイントは、いくつかは隠されていたが、《探索》スキルを持つ僕だけは隠されたポイントを見付ける事が出来た。多くの鉄鉱石の中に多少質の良いの銅鉱石や宝石も出る。しばらく採掘に勤しんでいると…
『視認で三、水精霊だ。戦闘準備』
僕は、鉱石の採掘にテンションが上がり、索敵を怠っていた。なので、アクアが魔物を発見するまで僕は気全く付かなかった。
『素材、魅力的』
『すまない。僕はアクアどう対処すれば良い?』
『俺が壁になる。ジュネとシュンは魔法で攻撃を頼む』
なるほど。アクアが真っ先に攻撃をしないところと指示の内容からして、精霊系には物理攻撃が効きづらいらしいな。
取り敢えず、ジュネと僕に〈魔法攻撃力上昇〉の《付与魔法》を掛けて、《風魔法》の〈ウインドカッター〉で水精霊を攻撃していく。ジュネの放つ《雷魔法》は、水精霊達と属性の相性が良いらしく一発で蹴散らす。
『くそっ、追加五体。増援だ』
休憩を挟む暇も無く、水精霊の増援が追加される。
『範囲魔法、時間稼いで』
『了解。〈ウインドカッター〉…』
僕の背後に隠れながら魔法の詠唱に入ったジュネを庇いつつ、僕はハンドガンで牽制しながら、詠唱破棄で〈ウインドカッター〉を連発していく。
『………?』
『………!?』
僕は、MPが尽きるところまで魔法を撃ち続け、アクアに近付く二匹の進行を抑えたところで…
『追加で四。すまない、カバーしきれ…』
『準備完了、離れて』
その言葉でアクアが離れ、それと同時に十一体の精霊を巻き込んで範囲雷魔法が放たれた。
『〈サンダーストーム〉』
ジュネから放たれた範囲魔法の結果、この辺り一帯に魔物は影すらも残らなかった。
『すっげ~!すっげ~な、おい。流石は《魔術師》の魔法、威力が半端ないな』
先程の失敗を生かして、戦闘終了後すぐに《探索》スキルを使い周辺の確認をする。どうやら増援も終わったようだ。少し魔力を回復する為に休憩を取った方が良いかもな。
『シュン、お前に確認したい事が有るんだが…何故、お前は高レベルスキルの《無詠唱》が使えるんだ?』
『《無詠唱》?それは違うぞ。今のは〈詠唱破棄・初級〉と言うアーツだ』
僕は二人に簡単に〈詠唱破棄・初級〉の内容と習得条件を説明した。
『そのアーツ、知らない』
ジュネも知らなかったらしい。すぐさまジュネも試してみると簡単に習得できる。しかも、ジュネは一気に初級を飛び越え一気に中級まで習得できた。
僕としては、一気に中級を覚えた事よりも今日から正式稼働なのに、すでに中級魔法を習得してる事の方に驚かされる。この人達には引くよね、マジで。
ちなみに中級は魔法の威力が約40%減少するらしい。
『これ、便利』
まぁ、喜んでいるみたいだからな。そこは、良かったな。
『その習得条件なら、他にも使えるプレイヤーは絶対にいるな。威力は減少するが《無詠唱》より習得が楽なのが便利すぎる。これは知ってて黙ってるヤツがいるぞ』
『やっぱり便利だよな。アーツには応用出来ないのか?』
『溜め系のアーツなら、出来るかもな……って、シュンは試してないのか?』
『残念ながら、今思いついた事だからな。それに僕の《短銃》のアーツで習得してる分に溜め系アーツが無い』
『あ、あぁ、メインは《短銃》だったな…何と言うか、空気が読めなくて、すまん』
もう僕の《短銃》の存在を忘れられていた。
『まぁ、試してみるわ』
…結果的に簡単に出来てしまったみたいだ。
〈起動破棄・初級〉と言って、溜めて放つアーツの溜め時間が要らなくなるらしい。結果だけを見ると魔法以上に便利だった。取り敢えず、これは仲間内でも秘匿する事にする。これ系のアーツが普及すると魔法系のプレイヤーが無双状態になりうる可能性があるからだ。
かなりの量の鉱石が得られたので、レベル上げに切り替える。二人が、さっき習得したスキルのおかげでサクサク戦闘が進む。それによって、僕の空気感も進んで行く気がするな。
その後の二十回ぐらいの戦闘で初めて見る魔物も多くいたが、一番印象に残ったのは、敗北を味わったミニボアにソロでリベンジ出来たのは事だ。これは、かなり嬉しかった。
川の側と言う事も有って水系の素材がたんまりと手に入った。一人では、ここまでの成果は絶対に望めないからな。このパーティープレイは成功だったみたいだな。そして、ジュネやアクアよりレベルが低かった事も有り、僕が一番美味しかったな
『それでは恒例の取得物の分配しようぜ。そして、魔物のドロップ素材以外は、シュンが全部持ってけ。以上だ』
僕らは街に戻って、戦利品の分配を始めた。
『魔物の素材、三等分』
『それは、助かるけど…それで良いのか?』
二人が同時に頷く。
『アーツの、お礼』
『生産系スキルの無い俺達では売り物にしかならないんだ。それならば、シュンに使って欲しい』
『おっ、おう、ありがとう』
『それと、だ。色々と聞いた俺達が今更言うのもなんなんだけど、スキル構成や習得条件がレベル以外のアーツの情報は、あまり言わない方が良いぞ。自分の努力と言うか、アドバンテージがなくなるからな』
アクアに教えられ納得する。それに、やっぱり自分が努力してで見付けた時の方が嬉しいし楽しいからな。
鉄鉱石四十二個、銅鉱石十二個、宝石三個、水精霊の核十八個、水精霊の雫一個、亀の甲羅五個、亀の血八個、ミニボアの肉ニ個、石ころ七十八個。今回の戦果では、かなりのアイテムを得た。
しかも、ドロップの中には、水精霊の雫というレアドロップも含まれていた。
『最後に確認だ。レベルはしっかり上がってたか?途中でやってた採掘でも《鍛冶》のレベルも上がってるはずだぞ』
アクアに言われて、すぐにステータスの確認をする。
《銃士》Lv13
《短銃》Lv19《速度強化》Lv11《回避強化》Lv7《風魔法》Lv12《魔力回復補助》Lv10《付与魔法》Lv11《調合》Lv2《鍛冶》Lv3《探索》Lv15《家事》Lv5
SP 9
称号成長
〈トラウマを乗り越えし者〉
トラウマを克服した者への称号/成長称号
取得条件/最初の戦闘での敗北
『十分過ぎるな。さりげなく称号も成長してるし…うん?なぁ、一つ聞いても良いか?何もしてないはずの《家事》のレベルがちょいちょい上がるんだけど、何故か分かる?』
『《家事》?良くは知らないけど、多分採取や採掘している時の作業で周りの片付けが掃除に割り与えられてるとかじゃないのか?』
確かに言われてみれば、端から見れば周囲を綺麗に片付けている様にも見えなくもないよな。
『それでだ、このあとはどうするんだ?』
『もうかなり、良い時間』
確かに日付が変わりそうだ。明日も休みなのでまだログインしていられるのも事実…
『僕は大丈夫だけど?』
『だったら、三人で北の森にも行って見ないか?』
『何か有るのか?』
『そこに出るはずの魔物のドロップ素材にちょっと欲しい物が有って、時間が有るなら手伝って欲しい』
『オケ』
『森の中で採取もしていいなら、僕も良いよ』
『サンキュ、助かるわ』
三人で、北門をでて森を目指す事になった。
『それで、どんな魔物を狩るんだ?』
北の方には行った事がないので、先輩達からの情報が欲しいからな。
どうやら、アクアは森にいるウルフ系のレアドロップが欲しいらしい。出現率自体そのものが低いらしく、昼間もβ時代から仲良くしていたパーティーと狙ったが、出会う事も出来なかったらしい。
森には当然初めて入ったのだが、採取ポイントが多く存在していたので、薬草や状態異常になりそうな名前の各種毒草等をごっそりと回収させて貰った。明日は《調合》や《鍛冶》のレベルを上げようかとも思う。
三時間ほど戦闘と採取を繰り返したが、結局は通常のウルフやミニボアの親のオヤボア等しか出て来なかった。まぁ、かなりの数は狩れたのだけどな。
しかも、《探索》と《短銃》スキルが地味な活躍を見せた。魔物を《探索》で見付けて、背後からハンドガンで強襲、魔物を引き付ける事でパーティーの役に立てた。森は障害物が多いので、中距離はともかく遠距離の魔法は、余り役に立たなかったのも大きい。森の中での戦闘では、ちょっとだけジュネに対して優越感が得られたのはここだけの話だな。本当にちょっとだけだけど
『《銃士》も噂ほど悪くないのかもな』
アクアがさりげなくボソボソと呟く、本当にさりげなかったから余計に嬉しかった。これは、僕自身が誉められるより嬉しいな。
僕達は街に戻り、恒例となったドロップの分配をして解散し、ログアウトした。
『そうだ、明日は昼までは寝よう』
多分、ログインは午後からになるだろうな。
装備
武器
【ハンドガン】攻撃力15〈特殊効果:なし〉
【銃弾】攻撃力+5〈特殊効果:なし〉
防具
【布製の服】防御力5〈特殊効果:なし〉
【リストバンド】防御力3〈特殊効果:なし・チュートリアルをクリアした証〉
《銃士》Lv18
《短銃》Lv25《速度強化》Lv16《回避強化》Lv13《風魔法》Lv15《魔力回復補助》Lv13《付与魔法》Lv14《調合》Lv4《鍛冶》Lv3《探索》Lv20《家事》Lv8
SP 13
newアーツ
〈曲射・短銃〉攻撃力×1 /消費MP 20
クリティカル補正+20%
銃弾が曲線を描く・障害物を回避する
習得条件/《短銃》スキルLv20
new魔法
〈ウインドヒール〉回復率10%/1人/消費MP 20
習得条件/《風魔法》スキルLv15
称号
〈もたざる者〉〈トラウマを乗り越えし者〉