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ヒナヒナくじら〜another story〜

 


 …さて、俺、烈溪猛は、今猛烈にパニック状態に陥っている。

 何故か?

 そんなことは聞かないでくれ。

 まさか、千織の妹…古能とあいつが俺と同じギルドに居たなんて、冗談にも程があるだろ?

 いや、百歩譲って古能はいいとしよう。なんであいつも同じギルドなんだ。

 あいつには、もう関わるつもりなどなかったのに…。


 古能達と出会う前…

 約一年前のことだろうか、俺はサリアこと長瀬里愛と一緒に住んでいた。そん時は、今みたいな金髪じゃなく、黒髪だったのだが。まぁ、その、そういういかがわしいやつとかではなく、メイドとして雇って、ということだ。

 まぁ、雇ったりするところからわかるとおり、俺ん家は俗に言う金持ちである。

 なんで里愛を雇ったのか?

 それは、俺がコスプレ趣味があるとかそういうのじゃなくて…。

 里愛の家庭がちょっと、いやかなり複雑な状況にあったらしく、一人暮らしでもしようと考えていたが、住むところも仕事するところもアテがないと言っていたときのことだった。

「んじゃ、お前俺ん家で働くか?俺ん家に住み込みで働けるし、両方の願いが当てはまるだろ」

「…!うん、ありがとう!」

 そうしてあいつは高校に行かず、俺ん家のメイドになったわけだが。

 …正直、ここまでならばいい話だと思えるのだろう。だが、話はここでは終わらない。


 彼女がメイドになって約一年。五月十日の話である。

「今日も買い物?」

「いろんな部品が足りてないんだよ」

「ま〜た変なもん作って…」

「変なもんじゃねぇ!」

「あーほら、行きますよ、買い物」

 そうやって俺と里愛は二人で買い物に向かった。

 ただ、デパートへ行く道を歩いていただけだった。

「今日は楽しもうね!」

「ゲーセン巡りがしたい!」

「も〜またまたぁ」

 そう騒ぐ声が聞こえて振り向いてみる。

 その中に、見たことのある人がいた。いや、あれは…。

「…千織……?」

「…へ?」

「悪りぃ、里愛、先行っててくれ」

「え、どうしたの?」

「いいから!」

「え…ちょっと待って」

 里愛の制止も聞かずに俺はそいつを追いかけた。

 実は、千織とは一週間前から連絡が取れずにいた。それが何故なのかはわからないが、そのときから学校も来なくなっていたのだ。

「っ、はぁ…クソ、運動不足だ…」

 俺はあまり運動を好まない。だから走ったりする運動の時はいつも上手くサボるのだが、それが仇になったらしい。

 結局、追いつくことなく途中でばててしまった。

 それを後ろから里愛が追ってきた。

「お…前…足、速ぇな……」

「そう?これでも遅いほうだと思うけど…」

 その言葉がグサッと刺さる。

 俺はお前より遅かったんだが…。

「ほら、何がしたかったのかはよくわからなかったけど、早く買い物行こうよ。遅くなったらしんどいし…ね?」

「…わかったよ…」

「うん、じゃ行こっか!」

 そうして俺は息を整える暇もなく無理やりデパートまで連れていかれたのだった…。


「あ〜、疲れたぁ!」

「その割には楽しそうじゃねぇか…」

 正直疲れたのは俺の方だ。

 女ってのは何でこんなにも買い物が長いんだ。

「さ、帰ろっ!」

「…おうよ」

 そうして帰り道を歩いていた時だった。目の前の知らない人がずっとこっちを見ていたのだ。

「…誰だ、あれ」

「知らないよ…私」

「俺もだよ」

 俺たちが喋ってる間に、その人はどんどんこちらへ近づいてくる。

「ーっ、逃げるぞ!」

「えっ」

「いいから!」

 俺は里愛の手を引いて走り出した。

 嫌な予感がしたのだ。

 フードからチラリと見えたその顔は…確かに笑っていた。

「ちょ、たけちゃん⁉︎」

「話は後だ!とにかく、人気のあるところへ…」

「い、意味わかんない…」

 俺は無我夢中で走ることに全力を注いだ。多分、人生で一番速かったんじゃないだろうか。人間、死と直面したら、意外と走れるんだなとか考えたり。

 だが、そんな俺でも限界はくる。はやく、限界が来る前に…!

 しかし、その人は途中で止まったのだ。チャンスだと思い、俺はさらに加速して走る。

 このとき、俺はその人が何故止まったのかを考えていなかった。それほど焦っていたのだ、俺は。

「たけちゃん、危ない!」

 そう言って無理やり里愛が突き飛ばしてくる。

「おい、何すんだ⁉︎」

 俺の言葉の後に────




 ───────銃声。


 俺の視界には、身体を撃ち抜かれて倒れてくる里愛と、撃ち抜かれたとこから出てくる鮮血。そして、里愛を撃ち抜いた奴。

「…は……?」


 意味が、わからねぇ。


「は、ははは…自分から奴を庇うとは馬鹿だ。馬鹿すぎる!何故庇ったのだ!本当に撃たれるべきなのはお前ではないのに!」

 奴が言い放つ。

 …待て。今、なんて言った?

「おい…お前、今何て?」

「…お前は耳も悪いのか?言っただろ!こいつではなく撃たれるべきなのはお前だと!だってお前は*****だろ」

「…ふざけんなよ。俺は*****じゃねぇ」

「何を言うか。さっきだって**に関わろうとしてただろうが」

「ーっ、だからって、撃つことねぇだろ!」

「こうでもしないと、お前は*****のままだろ。そうなると、こちらが面倒なものでな」

「…どういうことだ」

「まぁ、せいぜい考えろ。…*****」

「まて、何処に行く⁉︎」

「その女は別にいらない。欲しいものは手に入らなかったが、違うものを得ることができた。…じゃあな」

「なっ…おい⁉︎」

 そう言ってそいつは忍者のように消えていった。


「…どうしろって言うんだよ」

 俺は、とても怖くなってしまった。

 こいつは、里愛は、もう助からないんじゃないだろうか。こいつが目覚めたとき、俺は何てこいつに声をかけたらいいのかわからない。

「…畜生」

 俺に、もっと、力があれば。

 こいつを、助けることが、出来たのか?

「…畜生ぉぉぉぉっっっ‼︎」


 俺はそう叫んだあと、救急車を呼んだ。

 そして、その場を去った。

 この行為が許されるなんて思ってない。けれど、今の俺がここにいることなど出来る心理状況ではなかった。

「……」






 ─────そうして、俺はその後里愛と会うことなく、普通に日常を過ごしていた。

 そんな時のことだ。

 インターホンが鳴り、メイドがそちらに向かう。こんなの日常茶飯事でしかないのだが、そのときは違った。

 小さなお客さんが二人。

 一人はピンクの髪のやつ。

 もう一人はくせ毛が目立つ奴だった。

 誰だ?と俺は思っていたのだが、どうやら他のメイドの知り合いでもないらしい。

「あ、あの、お願いがあります!僕らを一晩泊めてくれませんか⁉︎」

 くせ毛の方が喋る。

「そうは言われましても…ここはホテルではなく…」

「あの、前にここのメイドさんが言ってくれたんです!困った時は来るといいって!」

「でも…ここのメイドの方は皆あなたのことを知らないと仰っていますよ?」

 俺はそこで、そのここのメイドというのは、多分あいつだろうと思った。あいつはお人好しだから、そういうことを言うだろう。ここの当主である俺に何も聞かずに。

 まぁ、あいつらしいか。

「おい」

「⁉︎」

 俺はそいつらに話しかけた。

「お前、行くとこねぇのか」

「あ…うー、そうです…」

「そうです」

「そうか。だったら、一室空き部屋があるから、そこを使うといいだろう。まぁ、そっちのくせ毛は俺の部屋でも使っとけ。それでなんとかなる。おい、一室空き部屋があるところにベッド用意しとけ」

「わ、わかりました」

「えっ、泊めてくれるんですか⁉︎」

「あぁ。うちのお人好しなやつがそう言ったんだろ?だったら構わねぇさ」

「ありがとうございます!えっと…僕の名前は津久見憂露です!」

「ういろ…って言うのか?名前。なんか珍しいのな」

「結構気に入ってます!」

「んで、そっちは?」

「…ぼ……くは…ひなみ…」

「ひなみ…か。よろしくな」

「うん…」

「んじゃまぁ、案内するわ。俺ん家広いし」

「猛様、私どもが案内を致します」

「いや、いい。俺がやっとくから、お前らは部屋の準備を頼む」

「かしこまりました」

「おう。んじゃ行くぞ」

「はいっ!」

「うん…」

 そうして俺はこいつら二人を連れて、とりあえず俺の部屋に向かった。


「…そういや、お前らのポケットの中に入ってるそれ、何なんだ?機械みたいな…」

「あぁ、これ、ゲーム機なんです。今有名で巷を騒がせているっていう…」

「colorful questっていうゲームをやってるの」

「あぁ〜、俺もやってるわ。お前ら何位のギルドにいるの?」

「ふっふっふ…聞いて驚かないでくださいよ?」

「驚かねぇよ」

「な・ん・と…一位です!」

「は?」

「あ、驚かないって言ったのに驚いてるじゃないですか!名前はくじらでやってるんですけど…」

「私はヒナヒナでやってる…」

「…マジかよ」

「どうかしたんですか?」

「俺…そこのギルドのさ…タルトなんだけど」

「「えっ」」


 そうしてこいつらが同じギルドとわかった後は、夜中までパーティーを組んで遊んだりした。

 楽しいことばかりで、あの時起こった悲劇なんて、忘れかけていたのに。

 何故神様はこんなにも意地悪なのだろうか。





「ーっ、なんでお前がここに⁉︎」




 …そうして現在に至るのだが。

 ただ、俺の記憶だと古能と里愛は知り合いだったはずなのだが、何故サリアと名乗っているのかがよくわからない。

 まぁそこに触れてはいけない気もするので、今はサリアと呼んでおくが。

 それに、里愛が俺のことをどう思っているのかもわからない。多分、許してはいないだろう。というか、俺みたいな人間は許されなくて当然なのだが。

 けれどあいつが俺に向けて笑うとき、俺はすこしだけ、許されたような気分になってしまうのだ。

「…はぁ……」



 今日も空は、雲がかかって見えない。

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