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エマージェンシー!

 

 あれから、1年が経った。


 私は、あの日から金髪メイドさんのサリアさんと一緒に住んでいる。

 そういえば、サリアさんはあのゲームのサリアさんと同一人物らしい。前にゲームデータを見せてもらった後、一緒にパーティーを組んで遊んだ。

 そしてまた、肩羽もあのシューさんで、3人集まって(主に肩羽は泊まりで)ゲームしたりする事も多くなっていた。

 そんなある日のことだった。

「それじゃ、買い物行ってきますから、お留守番お願いします」

「あ、あの〜、マスター?私が行くんで大丈夫ですよ?」

「病人が何言ってるんですか…。休んでちゃっちゃと治してください」

「…すいません、お願いします」

「はーい、行ってきます」

 そう、サリアさんが風邪を引いてしまったのだ。いつもはサリアさんが買い物好きだとかで一人で行って三、四時間して帰ってくるのだが。

 それと、サリアさんはいつも私の事をマスターと呼ぶ。前の主人もそう呼んでいたのだとか。

「はやく…帰ってきてくださいね」

 どの口がいうか!と言いたかったが、病人を怒鳴るほど私も鬼ではない。

「わかりましたから…寝ててくださいよ」

 そう言って私は家を出た。


「…買い物行くの久しぶりだなぁ」

 いつも任せっきりだった事を思い出す。

 洗濯も、風呂掃除も、ご飯も、その他家の家事はサリアさんが全てやってくれていたのだ。

 いざ、自分でやろうとすると上手くいかないし、どれだけ助けられていたのかを実感した。

 ただ、それを実感すると同時に、お母さんも同じことをしてくれていたのだと思う。何故だか、急に寂しさを感じた。

「はやく帰ろう。うん、それがいいや」

 そう一人で喋りながらデパートへ向かった。


 デパートに着いた。

 買い物メモを見て、何を買うか確かめてから食品売り場へ向かう。

 正直、ゲームセンターにでも行っていろんなゲームを堪能したかったのだが、はやく帰ってきてほしいと言われているのにゲームをのうのうとしてられるほど空っぽな人間ではない。

 とりあえず、食品売り場でどの食品がどこにあるのかを探すところから始まった。

「卵…はないなぁ。あ、チーズあった。買っちゃえ。んー、ここはパン売り場?あ、お菓子ある。野菜はさっきカゴに入れたから…あとは肉と卵だけかな。いや違う。ゼリーとかプリンとかスイーツがない」

 探す事に楽しみを感じているが、時間がかかりすぎである。普通三十分もかからないだろうけど、もう一時間は経っていた。

「卵どこだ、卵たーまーご」

 見つからない卵を探し求めて歩いていた。

 そう、本当にただ歩いていただけだったのに。


「…見つけた」


 不意に聞こえた声。

 そちらを振り返ると、ある男性がこちらを見ていた。

「…?」

 一体どうしたのだろうか。

 もしかしたら、私の代わりに卵を探してくれたのだろうか。

 そう思っていたら、男性はこちらへ走り出して────


 ───抱きしめてきた。


「⁉︎」

 勿論、私はこの人のことなんて知らない。急に知らない人に抱きしめられたのだ。

「会いたかった…どこに行ってたんだよ…千織…」

 その名前を聞いてさらに体が強張った。気がつくと、私はその人を思い切り突き飛ばしていた。

「な、何すんだよ!」

「そっちこそなんで…姉の名を知って…?」

「…姉?ってことは、お前千織の妹なのか?」

 墓穴。

 姉とか言わなきゃよかった。

「おい、千織はどうなったんだ⁉︎」

 ガッと肩を掴まれる。

 そこで、私は周りが私達に注目していることに気づいた。

「ーあの、周りの人が見てるんで、別のとこ行きませんか?」

「…逃げんじゃねぇだろうな」

「そんなことしませんよ。とりあえず…」

「?」

「卵の場所教えてください」

「────は?」




 無事卵を買う事ができたのは嬉しいのだが、まだ問題は解決していなかった。

 相手の名は‘‘烈溪”と言うらしい。姉の同級生で、友達だったとか。

 いや、そんな事はどうでもいい。

 どうすればこの状況を回避できるかを考えていた。

 この状況はまさに緊急事態…エマージェンシー!どうすればいいんだ!

 と、そんな事を考えている間にも家に着いてしまった。

 まだこの人が安全な人なのかどうかわからないのに、なんでわざわざ自分の家を話し合いの場に選んでしまったのだろうか…。

 ただ、自然と危ない感じはしないのだ。本当に姉の友達なら、どこかで会ったことがあるかもしれない。

「…お前、本当に千織の妹だったんだな」

「…へ?」

「家だよ、家。ここに俺何回か来たことあるから。お前に会ったことはねぇけどな」

 そこで私も、この人が本当に姉の友達だということを信じ始めた。

「…中、どうぞ。今は一人病人がいるので、静かに入ってください」

「おう、わかった」

 そうして私はこの人を招き入れた。


「…病人とやらはどこにいるんだ?」

「一階に居ます…ここのちょうど真下です」

 とりあえずリビングへ。

 客室は一階だったが、こちらもやらなければいけない事があるので、二階で話す事に決めた。

「案外広ぇな」

「ま、一軒家ってこんなものですよ」

「…そうか」

 なかなか、お互い触れたい内容に触れる事が出来ない。違う話をするばかりだ。

 そうしてる間にも時間は過ぎてゆく。

「……」

「………」

「…あのさ」

「?」

「今日は家族、帰ってこねぇの?」

 …その問いに答えることはできなかった。

「あいつさ…何も言わずに学校辞めちまっただろ。だから、何かあったのかと心配してたんだけど、家にあいつの教科書とかあって、引越したわけじゃなかったってわかって安心した」

 …それにすら何も言えない。


「…なぁ、あいつ今どこに居んの?」


 ドクン、と心臓の音が体全体に響く。

 震えそうになる体を必死に抑え込んだ。

「…ずっとおかしい気がしてた。病人が居るって言ったときだって、普通に家族の誰かが風邪ひいて寝てるって言えばいいだけの話だったのに、お前はあえて一人病人がいるのでって言ったろ?」

 心臓が煩い。

「家族以外の病人なんて、普通家に入れるわけないと思う。てか、普通親が許さねぇだろ。なのに、今普通に風邪ひいた他人を家に入れてる」

 …黙れ。

「なぁ、もしかしてさ」

 …黙れよ。


「家族なんてもうとっくに居ないんじゃねぇの?」


「黙れっ‼︎」


「お願いだから…もうそれ以上は聞かないで」

 嫌だ。

「じゃあ、はやく本当のこと教えろ」

 やめて。

「もう…やめてよ」

 聞かないで。

「聞かなかったら、ずっと俺は進めないままだ」

 だから何?

「それでいいじゃない…」

「よくねぇ。あいつは俺の…す、す…」

「す?」

「スゲェ大事な友人だ!」

「…」

「だから…頼む。本当のことを、教えてくれ。俺は、それがどんな結果であろうと、受け取るから。だから…頼む」

 その言葉に、さっきのような強引さは感じられない。私が辛そうにしてるのを見て、少しずつ熱が冷めたのだろうか。

 でも、私は…

「怖い…」

「…」

「思い出すのが、怖い。説明する度に、口に出す度に、あの風景が蘇ってたまらなくなる。それが怖い」

「…そうか。まぁ…その、なんだ。話したくなったら話してくれ。それまで、俺は待つから。大体は…わかっちまったしな」

 そう言うと、席を立ち、テレビの前でごろつき始める。

「…すいません」

「いいって。俺も悪かった。けど、頭ん中整理したいから、もーちょいとだけここに居てもいいか?」

「はい」

「サンキュ」



 そうして話が終わって、私はお粥作りを始めようと、水と米を入れ、さらにいろんなものをいれ、鍋を火で煮込もうとした。

「お、おいおい、ちょっと待て」

「何ですか?」

「お前、今何入れたんだよ⁉︎」

「え、フルーツですけど…」

 何を驚いているんだこの人は。

「…はぁ」

 溜息をつかれる。

「ちょい貸してみ」

「…どうぞ」

 そのまま場所を交代する。

 烈溪さんは慣れた手つきで卵を割ったりしている。

「…フルーツ粥なんて、日本じゃあんま聞かねえし、ご飯とフルーツと卵混ぜるとかまずねーよ」

 そして急な駄目出しをされた。

「ん、後は煮込めばいいや。適度に見て確認しろ」

「確認ってどうするんですか」

「知らねぇのに作ってたのかよ!」

「ほら、サイトとか見たら…」

「お粥って調べたときにフルーツ粥なんか出なかっただろうが!」

「え、栄養があって…いいかなと」

「すりおろしたらいいだろ!」

 そうしてぎゃあぎゃあ言ってる間にお粥は完成していた。


「…あれ、マスター帰ってたんですか…?」

「あ…サリアさん…」

 どうやら、うるさくしてしまったので、寝ていたはずのサリアさんが起きてしまったのだ。

「あれ、そちらは…」

 あ、これはまずいパターンだ。知らない人を家にあげた挙句、騒がしくしてしまったのだから。

「あ、えっと…これはですね…」

「たけちゃん⁉︎」

「え」

「ーっ、なんでお前がここに⁉︎」

「え?」

 なぜか前から知っていた感を出す二人についていけない。

「え、えっと…?」

「あ、マスター、すいません…。たけちゃんは中学の頃の友達で…」

「そうだったんですか⁉︎」

「病人って、お前だったのかよ…つい本気出してお粥作っちまった…」

「たけちゃんは料理上手だったからね〜」

「家事全般は得意だよ…クソ。てか、なんでちゃっかり世話になってんだよ…」

「あ〜、えっと…いろいろあったんだ、いろいろ」

「訳わかんねぇよ…もういい。俺は現実逃避する。さらば現実」

「そうやってゲーム始めるんだよねー。厨二病」

「うるせえ!」

 二人の会話のテンポについていけず、傍観者となってしまった。

 けど、サリアさんはいつもと言葉遣いが違うかったり、烈溪さんは会話で攻められてたり…新鮮な部分が見れて嬉しかったり。

 そんなことを考えてるときに、聞き覚えのあるメロディーが聴こえた。これって…

「colorful questのOP!」

「え、お前知ってんのか⁉︎」

「知ってるも何も、有名じゃないですか!最近はCMもやってるし…」

「いや、CMじゃOP流れてねーし…。んじゃ、プレイヤーか!」

「はい!あ、サリアさんもですよ」

「…お前もかよ」

「えへへ〜」

「…まぁ、いいや。んじゃ、お前らshortpurineも知ってるよな?」

 知ってるも何もそのギルドに所属してるギルドマスターですからと言おうとしたのだが、

「俺さ、そこの一位ギルドのメンバーなんだぜ!そこのギルマスの隊長ってやつにも頼りにされててよ〜」

 その言葉を聞いて、私とサリアさんは顔を見合わせる。

「shortpurineの…」

「メンバー…」

「おっ、驚きすぎだろ。まぁ、一位ギルドだもんな!」

「いや、そうじゃなくて…」

「…私です」

「…ん?」

「私です、隊長」

「………ん?」

「shortpurineのギルマスは私です」

「……………………あ、あー、そういう冗談はちょっとダメだと思うぞ」

 口で言っても信じてもらえないだろうから、スマホのアプリを起動する。

「…どぞ」

 そこに映っていたものは、自分のプロフィールと所属ギルド名。

「ま…マジかよ…。って、ことは、まさか…」

「…サリアっていうの、サリアさんですよ?」

「…自慢して言った俺馬鹿みてぇじゃねぇか…。あーもう」

「いつも馬鹿っぽいけどね」

「うるせえよ」

「え、結構静かな声で言ったよ?」

「声量の問題じゃねぇよ!」

「あ、あの!」

 このまま放っておいても、また口論が続くだけである。そう思い、二人の間に割り込み、烈溪さんへ手を差し出した。

「改めまして、古鐘千紗こと、shortpurineギルドマスターの隊長です。よろしくお願いします!」

「…古鐘じゃなくて、古能なんだろ、本当は」

「えっ、なんでそれを…?」

 私が疑問に思っているが、彼は構わず喋り出した。


「だから俺は古能って呼ばせてもらうぞ。さすがに外とかでは古鐘って呼ぶけどもな。んじゃ、こっちも改めまして、shortpurineギルドメンバーの‘‘タルト”だ。よろしくな」


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