Bad BirthDay
もう、間に合わないのだろうか。
私はまた、間違いを犯してしまったのだろうか。
もし、もう一度戻れるのなら…
時を、還して。
…朝、目が覚めて部屋を見渡す。時計の針は朝の8時を指していた。
「…あれ、今日って何曜日だっけ…」
たしか、昨日はゲームをしていて、短針が4を少し過ぎたところで終わらせたはずだったのだが。
「充電器さしっぱなしだし…」
どうやら、そのまま寝てしまっていたのだろう。充電していたからかバッテリーは100%だ。もちろん、画面もつきっぱなし。プレイ時間だけが過ぎていた。
ゲームを起動していたスマホの電源を切り、充電器を抜く。そうして、ある違和感に気づく。
「今日、用事あったような…あ」
バッとベッドを飛び上がり、スケジュール帳に手をかけた。
先ほど見たスマホに映し出されていた日付と、スケジュール帳の日付を照らし合わせた。
5/10
9時〜10時→ギルイベ
10時〜19時→遊び!
「おおおぅおぅ⁉︎」
完全に起きる時間を間違えた。いや、まだ遊びまでは2時間あるから大丈夫か。
「って、そうじゃない!」
本日は日曜日。朝は誰も起きてこないし(父は起きているが散歩)、朝ご飯がいつも通り用意されてるわけでもなく…。
「ーっ、コンビニ!」
とりあえず電子マネーのカードだけもって外へ飛び出し、コンビニで朝ご飯を買って猛ダッシュで帰った。
「とりあえず、今の時間は八時二十分!行ける!」
口に食べ物を含みながら、階段を駆け上がって三階へ。タンスの中の服を漁って適当に服を着替えた。
口の中の食べ物がなくなったところで、次に階段を駆け下りて二階へ。洗面所で髪をくくり、顔を洗う。それが終わったところで八時四十分。残り二十分。
「はぁー…疲れた」
やっと椅子に座ってゆっくりと残りの朝食を摂る。
焼きそばパンを口にくわえて、右手でスマホの電源を入れる。とりあえず、スマホに入っているアプリを次々とログインしていく。ログインボーナスでそれぞれガチャを回すために必要な石とかを手に入れていく。それだけでも時間は二十分かかった。
「よし九時!」
思い切ってアプリにログインした。
私が九時からギルイベがあるとスケジュール帳に記録していたアプリがある。
その名は‘‘colorful quest”
アクションゲームだが、その中にはパズルゲーム要素やモンスター育成&バトル要素が含まれている、現在最も遊ばれているアプリNo.一を誇っている。
そして、私が創立したギルド‘‘shortpurine”は、ユーザー約五千万人、ギルド約三百万個の中で、一位のギルドである。
他にもいろんなギルドがあるのだが、大体はゲーム内でパーティーを組んだ人達をギルドに誘い、ギルドメンバーを増やしていくのだ。
私のギルドも、顔を見たことのない人達…つまり他人と結成してできたギルドだ。…あの時まではそう思っていた。
…さて、前置きが長くなってしまったが、こんなところだろう。
そして、今回のギルイベはモンスターバトルだった。みんなで協力して一体のモンスターを倒して、次の階に上がる…といった仕様である。
しばらくして、ピコン!と音がなる。
どうやら、ギルド掲示板からだ。
サリア『隊長、今から討伐行きますね!』
タルト『勝手に行ってこい』
シュー『頑張って〜』
サリア『シューさん、ありがとうございます!』
タルト『無視すんなおい』
[サリアが1階BOSSに挑戦しました!]
どうやら、私が挑む前にサリアさんが挑んでいたらしい。
サリアさんはギルドメンバーの中でも回復重視の人なので、初めの方に挑んでおかないと、一人でBOSSを倒すのは難しくなってしまうので、うちのギルドでは大体サリアさんが一番に行く。
[サリアが1階BOSSに勝利しました!]
そう言ってる間に、勝利したらしい。
ちなみに、階が上がるごとに難しくなっていく。
サリア『勝ちました!次お願いします!』
シュー『んじゃ、僕行きますね』
タルト『ま、負けねぇようにな』
シュー『わかってます!』
[シューが2階BOSSに挑戦しました!]
待っているのも暇なので、狩りをしに行こうと思い、皆にこう告げた。
隊長『お疲れさん』
そして、イベントに二、三回参加したところで、いい時間になったので、ログオフしておく。
そこらに放っておいたリュックを背負い、鍵を閉めるよう姉に言ってから外へ出て、約束の場へ行った。
「もー、千紗遅いよー!」
「古鐘っちお久〜」
「久しぶりだね和、雪乃」
そう、今日は友達の和と雪乃と買い物に行こうと話をしていたのだ。それをすっかり忘れてしまって昨日(明け方?)はゲームに没頭してしまっていたのだが…。
そして、私こと、古能千紗は、皆に古能千紗と名乗らず、古鐘千紗と名乗っている。何故なのかというのは、また別の時に語ろう。
「そうだっ、千紗誕生日おめでとー!」
「おめでと〜っ」
「ーっ、ありがとっ‼︎」
今日は自分の誕生日。日曜日が誕生日なんて憂鬱だと言った私の言葉を聞いて、二人が遊びに誘ってくれたのだ。
「今日は楽しもっ!」
「ゲーセンとかも行こうよ〜」
「うん!」
そうして、私は二人と一緒に遊びに行った。
「────あーっ、楽しかった!」
「それじゃ、僕はこっちだからまたね〜」
「うん。あ、あのさ…」
「「?」」
和と雪乃が首をかしげる。
「…二人とも、今日はありがとね」
改めてお礼を言うと、二人は顔を見合わせて少し笑った。
「そんなのいいって!じゃあねー!」
「また、一緒に行こうねっ」
「うん、うん、それじゃあね!」
そうして私たちはそれぞれ家へ向かって歩き出した。
家では誰かがパーティーの準備をしてくれてるのだろうか。
大きなキャラクターケーキが机の上に乗ってて、その周りには私の好きなご飯が並んでいるだろうか。
プレゼントはあるだろうか。
…と、そんなことを考えているうちに、家へ着いた。
鍵は持ってきていないので、インターホンを押す。
ピンポーン───…
大体は1度押せば開くのだが、パーティーの準備をしていて気づいていないのだろうか?
そう思い、もう一度押してみる。
ピンポーン───…
それでも返事は返らない。
流石におかしいと思い、スマホで連絡を入れて待ってみるが、二十分待っても既読すらつかなかった。
「…どうしたんだろう」
もしかしたら、買い物に行ってるかもしれないと、立ち上がってデパートへ行こうとした時だった。
ガチャ
「⁉︎」
右手が引っかかってしまい、ドアが開いてしまったのだ。
普通だとありえないのだ。閉まっているはずのドアが開くなど。
思わずドアを閉めてしまったが、開けないことには何も始まらない気がする。
正直、困惑と恐怖しかないが、覚悟を決めて開けた。
そこには、
深紅に染まる見覚えのある玄関があった。
「──────────っひぃっ⁉︎」
思わず後ろに仰け反って尻餅をついてしまう。でも、そんなことはどうでもよかった。
目の前に広がる紅から目を離せない。
恐怖と共に湧き上がる、懐かしい感じが、さらに私を怯えさせる。
「一体…なんなんだよ…⁉︎」
一人自問自答を繰り返すも、答えは分からないというばかり。
人気がないことを確認して、二階、三階へと上がっていくが、どこも血塗れの状態だった。
そして、不思議なことに死体すらないのだ。
誰かが持ち去ったのであろう、残ったものは綺麗に飾り付けされていたケーキなどに血がトッピングされたものだけだった。
それから、どうしたのかは自分でもあまり覚えていない。
警察の人を呼んで、そのままそこでジッとしていたのか、あるいは、どこかを歩いていたのかも分からない。
周りには、人だかりができていた。
皆、可哀想にだとか、誰が引き取るんだとか、本当はアイツがやったんじゃないだろうかとか、次々に口走っていく。こっちの思いも知らずに。
しばらくして、警察の人の問いに答えるべく警察署に向かうことになりかけたのだが、今日は休みたいという私の意見を聞いてくれた警察の人が、わざわざホテルを一室借りてくれた。
ありがとうございますとだけお礼をいい、家の前の玄関で座り込む。
歩きたくても、足が前に進まない。
疲れた。
なんで。
今日は私のbirthdayだったはずなのに。
「こんなのまるで…Bad BirthDayじゃないか」
悲しさも怒りも混ざってぐじゃぐじゃになった感情をどうすればいいのかわからず、そこに無表情で座っていた時だった。
「古鐘…さん?」
そこに立っていたのは、同じクラスの肩羽という男子だった。
「何か…あったの?」
「…ほっといてよ。あんたに関係ない」
「そうかもしれないけど、苦しそうに見えたから」
「あんたに私の何が分かるっていうの⁉︎」
思わず叫んでしまうが、周りの視線などもうどうでもよかった。そのくらい私は我を忘れていたのだろう。
「確かに…僕は何も分からないけど」
「…じゃあっ!」
「力になれるならなりたいから!」
肩羽も叫ぶ。
「僕は古鐘さんに、何度も助けられたことがあるんだよ。だから、今度は僕が古鐘さんを助けたい」
「…馬鹿じゃないの…そんなの忘れた」
「僕は覚えてる。だから、大丈夫」
何が大丈夫なのかもわからない。
けれど、少しだけ、少しだけ…
「…うん」
安心した。
「落ち着いた?」
「ま、まぁまぁ?」
「なにそれ」
ははっと笑う肩羽に笑って答えることが出来ればいいのだが、そう簡単にはいかなかった。
「…あの…」
私でも肩羽でもない、誰かの声が聞こえ、そちらの方に振り向く。
「こ、こんにちは…」
「こんにちは?」
「古鐘さんの知り合い?」
「…いや、違うと思う。多分」
そこに立っていたのは、金髪メイドさん。
私の知り合いにすごく似ていた。性格も。
「あの…お、お困りでしゅかぁ⁉︎」
(噛んだ)
(噛んだね)
二人心の声を合わせた。
「あ、怪しいものではなくて…えーっと…」
「あーもう、いいです、分かりましたから。一緒に住んでくださるメイドさんですよね」
「え、なに言ってるの古鐘さん」
「ーっ、はいっ!」
「え、えぇっ」
「明日からお願いします」
「まっかせてくださいっっ!」
もうどうにでもなってしまえと投げやりになってしまっていたからこそ、こんな判断をしてしまったのだろう。
そして、この判断がのちにいろんな事を引き起こすことを、私はまだ知らない。