青春の終わりの始まり
綺麗に切断された右足。職員室と放送室を繋ぐ廊下。消えた身体。友人と白人を襲った誰か。限られた時間。何もない放送室。
これは俗に言う不可能犯罪と言われるものだね。さて、君達の事だ。犯人はとっくに分かっているね?
え?トリックが分かってない?いいんだよ、それで?このゲームはね。犯人を見つけるゲームだ。トリックを暴くゲームではないよ?さぁ、探して犯人を。その為のゲーム。物語だよ。
さぁ、眠る時間だよ。お休みなさい。
嘆かないでください。貴方が泣くと私は悲しいです。
嗤ってください。まるで髑髏のように嗤ってください。
怒らないでください。怒りなんて似合わない。
あぁ、愛おしい友人。私は貴方に――されたい
by
放送室は至ってシンプルだ。椅子があり、机があり、機材がある。その他に隠す場所がない。奇人の推理は外れたのだ。これで、俺の無実が証明されたのだ。犯人は二人。最低分かっていることはこれだけだ。でも、これだけ分かったのだ。成果としては充分だ。
「ま、待ってくれ。きっと床か何かに隠し扉があるはずだ。」
「なら、自分で探せばいいじゃない。」
番人の冷たい声が放送室に響く。まるで、氷のようだ。
「貴方も分かっているでしょう。貴方の負けよ。おおかた、この放送室にかけていたんでしょう?だけど、死体も証拠もどこにもない。いい加減認めなさい。」
奇人は唇を噛みしめた。唇からは血が流れている。余程、悔しかったのだろう。だが、これは俺の人生の分岐点の一つだったんだ。ここで、お前に勝ちを譲ったら俺は殺されていただろう。死にたくはない。それだけは絶対に嫌だ。特に、番人にだけは殺されたくない。しかし…これではマズい。奇人が孤独になってしまう。もう、皆の中で俺は無実だろう。例え、容疑者から離れていないとしてもこれは充分な成果だ。印象が全く違う。それは、これから俺が生きて行く上でとても大事なことだ。でも、奇人はどうなる?推理は外れ。その推理され分の悪い賭けだった。番人が保健室で話してくれた通り奇人は大見得を切っているらしい。信用はガタ落ちは避けられない。そうなるとどうなる。きっと奇人は自殺を選ぶか単独行動を取り初めてしまうだろう。そうなれば犯人の思う壺だ。なら、どうする。俺が取るべき行動は一つだった。
「何をしてるんだい。」
「何って?」
「ふざけているのか?ボクを侮辱する気なのか。」
「侮辱なんてしてない。」
「なら、なんで。なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで。膝をついて床なんて調べてんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
奇人は叫ぶ。それはまるで悲鳴に近かった。でも、俺は立ち上がらない。地べたを這いつくばる芋虫の様に扉を探した。もし、本当にあったら俺の立場は危うくなってしまう。でも、それだけの価値がここにあると思った。
「なんで?探してるんだ。お前の言う、隠し扉を」
「そ、そ、それが侮辱だと言うんだよおおおおおおおおおおおおお」
「お前は俺を疑ってるんだろ。なら、言え‼お前の考えを‼推理を‼全部‼全部‼全部‼全部‼俺が論破してやる。証明してやる‼お前の推理という推理を全部解いてやる。そして、もう絞り尽くしたらそしたら、俺を信用してくれよ。」
それが、俺の考えだ。誰も欠けてはいけない。信用がなければ生きていけない。覚悟なければ死んでしまう。どれか一つでも失ってはいけない。
「信用なんか出来るか。ボクが用意した推理はこれだけだ。ここだけだ。お前らもおかしいと思ったんだろ。袋なんて都合よくあるか‼血を袋の外に付けないように入れることなんて可能なのか‼お前ら全員心の中でボクを馬鹿にしてたんだろ?そうだろ‼
なぁ、小人。
なぁ、鬼人。
なぁ、番人。
お前もだろ。白人。
「違う。確かに聞いてておかしいとは思った。だが、お前の推理のおかげで内側の扉や窓が開くことは分かった。それはお前の手柄だ。」
「嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ‼」
お前も俺を馬鹿にしてるんだろ。また、そうやって裏切るんだろう。
奇人はそう言い残し、放送室を飛び出していく。やばい。今単独行動は危険すぎる。追いかけようとする俺を小人が止める。
「待ちなさい。今、貴方が行った所で逆効果よ」
「でも」
「私が行くわ」
「危険すぎる」
犯人は最悪二人は居る。小人一人ではあまりにも危険すぎる。
「大丈夫よ。鬼人ついて来なさい」
鬼人はこくりと頷く。
「これで大丈夫よ。西棟に向かったから教室のどこかにはいるわ。」
「・・・」
「男を慰めるのは女の役目よ」
「分かった。犯人に遭遇した大きな声を出してくれ」
「分かってるわよ。だから、ちゃんと来てよね」
そう言い残して、小人と鬼人は放送室を後にした。
ボクの話をしよう。ボク奇人の話だ。
ボクの家は金持ちだ。欲しいものはなんでも手に入った。ボクはボクの立場を疑わなかった。ボクはこの家を継ぎ、一生遊んで暮らすつもりだった。父からもその話をして一年前には後継者に選ばれた。その為になら友達なんて要らない。あの時までは。
弟が産まれた。弟はまだ零歳。だが、父は後継者を弟に移した。理由を問いただせば、父の口から出てきた言葉はおおよそ自分の子に言う言葉ではなかった。その言葉の中でひときわボクの胸を。いや、心を砕いた言葉「失敗作」
死んでしまおうと思った。死のうと思った。死のうとした。どうせなら無残に死のう。迷惑をかけて死のう。ボクが実行しようとしたのは首吊りだった。首吊りは、苦しい死に方の一つだ。だけど、眼は飛び出る。口から涎が垂れる。首の骨は折れる。股間からは尿が漏れ、肛門からは糞が出る。そんな死体を人の目が付くところで行い、遺書を置けば。ボクの小さな復讐が完成する。ボクの人生の完成。
そして、完成する直前。詩人が現れた。
「おや、自殺かい。くだらないね。」
ボクは詩人に殴りかかった。結果は返り討ち。ボクはフルボッコになった。
「八つ当たりは止めてくれるかな。ボクはこう見えてもか弱いんだから。」
なにがか弱いだ。ボクは詩人に一発も拳を入れられてない。
「で、なにがあったのかな」
「お前には関係ないだろう」
小指を折られた。
「で、なにがあったのかな」
「誰がお前に」
腕を折られた。
「で、なにがあったのかな」
「・・・」
「次は足かな?」
詩人はにっこり笑う。ボクは全てを吐いた。お腹の底にあった何かを。詩人は黙って聞いてくれた。ボクの鬱憤を不満を憂鬱を不安を黙って聞いてくれた。話している中で涙が溢れた。父の言葉の前ですら泣かなかったはずなのに。他人の前で泣いているのだろう。話し終えると、詩人は独りごとのように呟く。
「いいかい?人の中には人の死を嘆かない人が居る。例え、自分のせいで死んだとしても泣かない人が確実にこの世には居る。そこはボクが保証しよう。君の父もその類だろうね。ニュースで見たことないかな?生徒は死ぬとは思いませんでした。悪気はなかったんです。遊びのつもりだったんです。先生は、生徒はいつも通りでした。気付きませんでした。見て見ないふり。彼らが後悔や懺悔をする姿が君に出来るかい。この場合、君の父だね」
「・・・」
「出来ないね。でも、君の目的は父の立場の失墜。でも、君はそれを見れないね」
「な、なんで」
「死んでるからだよ。あの世から見れるとでも思って居るの?君たちは本当に面白いね。天国も地獄も見たことないのに、それを信じてる。天国も地獄も人間が作った概念だ。信じれは実在すると言うけど?君は信じているのかい。神話も何もかも全て誰かが作った話だ。なら、それは本と同じだ。君はライトノベルとか信じているかい?主人公が居てヒロインが居て悪役が居て、特別な力に目覚めて、人類以外の種族が居て、ヒロインを守る為に仲間と力を合わせて戦って、時には傷ついて死にかけて仲間を失って、また、特別な力に目覚めて悪役を倒す。君たちが信じてるのはライトノベルと同じ内容だよ。そんなものを信じて死にたい?」
「なら」
「ん?」
「なら、どうすればいいんだ‼」
詩人は笑う。そして淡々と述べる。
「簡単だよ。生きるべきだ。」
「簡単だよ。君は父親から離れるべきだ」
「簡単だよ。君が父親より上にいけばいいんだ。」
「簡単だよ。上に行けば君の父を見返せるだろう。」
「簡単だよ。そして、君は君の父親を土下座させ頭を踏んずけ言うんだ。」
「「この出来損ないはここまで来ました。貴方の失敗作は今や貴方の上に居ます。どうですか?どんな気持ちですか。失敗作に頭を踏まれる気分はどうですか。」
「とね、君の父親はさぞ悔しがるだろうね。君の父親は聴くにプライドの高い人間だ。きっと顔を歪めて泣き崩れて自殺をしてくれるだろう。」
詩人はボクを見下ろす。いや、見下す。
「君は、そこで笑えばいいさ。嫌いな人間に死ねを思うのは、人として正常だよ?」
そうだろう?失敗作君?
そうして、ボクは自殺を辞めた。ボクは詩人を憎み憧れた。口調を真似したりもした。必死に勉強をした。喧嘩には弱かったが。
詩人が死んだとき、笑おうと思った。だが、笑えなかった。詩人ならここで笑うはずだ。笑え、笑え、笑え。ボクは吐いた。泣いた。嘆いた。だから、せめて敵を取りたかった。そして、ボクが詩人になろうと思った。だが、結果はどうだろうか。このありさまだ。詩人。ボクは何を間違えた。ボクはボクなら君を出来る君になれると思った。この出来損ないは、どうすればいい。いや、失敗作か。




