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青春の罪  作者: 綾咲 彩希
10/12

青春の優しさ

「俺が殺っだ」

 鬼人は確かにそう言った。聞き間違いでも言い間違いでもない。確かにそう断言した。

 鬼人は小体を離すと、迷わずこちらに向かって走り、拳を振った。

「ッ!!」

「番人逃げろ!!」

 俺と番人は間一髪で避ける。駄目だ。鬼人の一撃だけは食らってはいけない。

 鬼人の一撃は打撃武器そのもの。

 掠りでもすれば、骨にヒビが入り。

 直撃でもすれば、骨は完全に折れるだろう。

 俺の身体は俺が暴走した際に、何度か鬼人に殴られている。きっと、鬼人が本気で俺を殴っていたのなら俺の身体の骨は粉々に砕けていただろう。

 唯一、鬼人との喧嘩に勝てたのは詩人だ。だが、詩人もただでは済まなかった。左腕一本犠牲にしてやっと勝てた程だ。

「お前が犯人なのか!!」

「違う゛」

 鬼人は断言する。何が違うのだろうか。今、お前は俺たちを攻撃。否、殺しにかかっているだろう。

「なら、何故俺たちを攻撃する!!」

 鬼人の拳は速くて重い。逃げることが俺に出来る精一杯の抵抗だった。番人は呆然と見ている。何をしてる。早く逃げてくれ。

「おまえ゛達はおでを疑っでいる。おではまだ、じにだくない!」

 そうか、俺たちの手には鎌がある。それを恐れているんだ。俺は、鎌を投げ捨てた。鬼人の拳が止まる。番人も鎌を足元に置いている。

「何があったのか話してくれ。鬼人。俺たちは敵じゃない」

「・・・」

「番人。後ろを向いててくれ。」

「?。分かったわ」

 番人が後ろを向くと俺は、徐に服を脱ぎ始める。上着、Tシャツ、ズボン。パンツ以外総てを脱ぐ。体には包帯が巻かれており、余り恥ずかしくはない。

「これでいいか?俺はお前の敵じゃない。何があったのか。話してくれ。」



 俺は元々こんな枯れた声はしてなかった。

 こんな声になってしまったのは、親のせいだった。

 毎日の暴力。それは俺にとって当たり前の日常。殴られ、撲られ、蹴られ、踏まれ、打たれ、切られ、絞められ、逃げ出すことが出来ない。俺には大切な「妹」が居たから。まだ三歳になったばかりの可愛い「妹」

 「妹」が居なければ、俺はとっくの昔にここを逃げ出して居ただろう。いや、俺は逃げ出しても生き残れなかった。

 「妹」が居ない。「妹」が居なければ俺は存在意義がなくなってしまう。誰も俺を必要としてくれない。

 誰にも必要とされない。俺は知っている。

 独りは寂しい。独りは悲しい。独りは寒い。独りは、独りはッ!!

 「妹」が居ればそれだけでいい。「妹」はいつも無理に笑って、俺に言う。

「にぃちゃん、ありがとう」

 それだけで、救われた気がした。俺は誓った。何があっても妹を守ろうと。



「それ、どっかに棄ててきて」

 親から発せられた言葉。親が指差すは大きめの黒いゴミ袋。その中に入っていたのは、「妹」

 時が止まった様に思えた。いつもは休まされる学校に親から行けという命令が出た。これに従わなければ自分が、いや「妹」が酷い目にあってしまう。「妹」には、何かあったら逃げろと言っておいた。それが、これだ。

 そこ数時間で目を離した隙に「妹」が死んで、殺されている。

 実の親から殺された。実の兄から助けてもらえなかった。

 妹は恐らく叫んだだろう。

「にぃちゃん助けて」

 助けて

 助けて、助けて

 助けて、助けて、助けて

 助けて、助けて、助けて、助けて

 助けて、助けて、助けて、助けて、助けて

 妹を殺したのは紛れもない。俺だ。

 どうか許してくれ。「助けて」。

 俺はお前を殺した親ですら殺せない「助けて」

 半殺し、死ぬ寸前までにしか出来ない「助けて」

 血に塗れた拳を振り下ろそうとするが「助けて」

 あと一発。あと一発殴れば必ずこいつらは死ぬ「助けて」

 顔の形も変えた。腕もへし負った。足なんて粉々にした「助けて」

 助けるから。こいつらを必ず殺すから。だから、お願いだ「助けて」

 耳元で囁かないでくれ。「助けて」

 「助けてよ。ねぇ、お・にぃ・ちゃ・ん」

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 俺は、拳を振り下ろした。


 

 話を聞くだけでは信じられなかった。友達と思っていた。性格は悪かったが悪い奴じゃなかった。

「奇人を殺したのは小人なのか?」

 鬼人は全てを語ってくれた。自分が知る真実。起こってしまった現実。そう教えてくれる事実。

 俺は奇人の首元に近づく。幸い、奇人の奇体は、小人の小体の血が付いていない。首元に鎌の握る部分を照らし合わせて見る。ピッタリだ。信じられないくらいピッタリだ。

「小人ば、なぐざめるフリをじで奇人に近づいだ。最初ば、普通に話をぎいでいるだげだった。だげど、奇人が、詩人のようになりだかっだ。ボグが詩人に相応じいと言っだら小人は色仕掛けずるように鬼人に跨っだ。腕にあじを置ぎ、身動ぎが取れないように。」

「そこで貴方は止めなかったの?」

 番人が話に割って入る。確かに止めることも出来たはずだ。鬼人なら小人を止めるなんて些細なことだ。

「ほんどうにセッグスすると思っだ。だから、おで教室の外で待った。」

 確かに鬼人ならあり得るだろう。俺が保健室で番人と話している時も廊下で寝て待っててくれた。

「教室でバタバタどいう、音がきごえた。だげど、三十秒ぐらいだった頃、ひどが苦じむ声がぎごえた。でも、覗くの悪いど思っで覗がながっだ。一分ぐらい経づど、小人が出て来だ。教室を除ぐと奇人が死んでいた。小人はおでに言っだ。」

「皆には黙ってて。お願い。貴方は、私と一緒に教室を見たら奇人が死んでいた。そう言って。」

 鬼人はその時、小人の怒りや悲しみの篭った目を見て悩んだらしい。だが、鬼人の心を固めたのは小人の

「助けて」という漢字なら三文字。平仮名にすると四文字だった。

「あり得ない話ではないな。」

 鬼人は誰よりも優しい。俺は鬼人より優しい奴を知らない。誰よりも優しくて心強い。俺はこいつが嘘を付くとは思えない。演技が出来るとは思えない。鬼人は優しい奴だ。誰でも助けてしまう。お人よしなんだ。

「小人を殺した理由は私達を殺そうとした。間違いないわね?」

「あぁ」

 番人も何か悩んでいるらしい、もし、これが嘘なら犯人は鬼人となるからだ。番人も鬼人の事は全面的に信用しているはずだ。疑ったりしないだろう。

「なぁ、番人もっと詳しく知りたいから小人との会話を教えてくれないか?出来れば正確にだ」

「やっぱりおでを」

「違う。違う。早とちりするな。犯人はこの中に居る。俺たちの中に犯人は居る。それがメッセージだ。なら、小人が殺した奇人なのかも知れない。お前が殺した小人なのかも知れない。俺かも知れない、番人かも知れない、鬼人お前かも知れない。」

「もじ、小人や鬼人だったどして。なんで、ゲームは終わらない」

「多分だ。罪と命を刈り取ってないからだ。俺たちはまだ罪ってのを理解していない。そうだろう。」

 鬼人は疑心暗鬼になっている。あの優しい鬼人がここまでなるなんて想像も付かなかった。疑心暗鬼を生まれているのなら、それを殺せばいい。鬼人が抱えている疑いを全て取り除けばいい。

「些細なことに聞こえるかもしれないが、重大なことだ。俺らの会話、お前たちの会話にその罪が隠されているかも知れないだろ?もし、罪が分かれば何らかの形で刈り取ることが出来る・・・多分」

「わがった。ずまない。ありがとう。」

「いいんだよ。分かってくれれば。友達だろ?俺たちは。」

「あぁ、友達だ。」

「男同士の友情に置いてきぼりにされる、番人であった。」

 番人は自分でナレーションをしている。どこかいじけている様に感じた。


 俺は「妹」の死体を抱いて橋の下で眠った。妹は冷たく、血がゴミ袋の中に溜まってタプタプしている。絶対に離さない。一緒に居よう。そんな冬の真夜中の出来事。

「おやおや、こんな所に居たんだね。探したよ?××君」

 突然話しかけられ、俺は警戒する。服装からして警察ではなく学生。その学生服には見覚えがある。俺が通っている学校と同じ物だ。顔も見たことあるが名前が分からない。

「お前は?」

「申し遅れたね。すまない。ボクの名前は詩人。君と同じクラスの詩人だよ?××君」

「何をじにここに来た。」

「君を登校させる為だよ?校長の娘さんがどうしてもクラス全員登校させたいという気持ちでね。友人となった友人の願いの元。君を登校させにやってきた。君の他にも一~二~三~。うん、三人居るね。」

 詩人は笑顔で指を四本立てこちらに見せてくる。

「説明は以上だ。なにか質問はあるかな?」

「おで、学校に行がない」

 詩人はきょとんとした顔をした。

「おや、それはなんでだい」

「おでは、「妹」から離れない」

「「妹」?ボクには「妹」さんは見えないよ?あぁ、忘れてたよ。」

 うっかり、うっかり

「ご両親が四肢を外し、顔をハンマーで殴り潰した「妹」さんのことだね。でも、おかしいね。「妹」さんは既に死んでいるというのに」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 俺は詩人に殴かかった。

「おっとッ。危ないじゃないか。」

 詩人は躱す。まるでひらひら舞う蝶の様に。攻撃が当たらない。

「昔から、避けるのだけは得意なんだよ?ボクは。でも、君の拳は速いね。避けるのが精一杯だよ」

 詩人は避けながら会話を続けた。

「ご両親は一命を取り留めたよ。でも、「妹」さんの殺害。君の虐待が警察にバレて晴れて刑務所行きだ。」

「助けて」

また、聞こえて来た。

「一つ聞こう。」

 詩人は冷たい声で発した。

 なんで、ご両親を殺さなかった。

「助けて」「助けて」

「怖くなった?ビビった?面倒になった?つまらなくなった?諦めた?懺悔された?後悔した?幻滅した?面白くなくなった?気持ちよくなかった?楽しくなかった?殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴り倒して。別にね?ただ、理由が知りたいんだよ。君が何を思ってご両親を殺さなかったのか。」

「助けて」「助けて」「助けて」

「聞こえるんだ。声が」

「声?」

「助けで、助げで、だずげで。っでずっど、頭の中に響ぐんだ。死んだら、人の耳元でざざやぐんだ。助けでっで。あいつらを殺じたら、三人の助げでが聞こえる。それは嫌だ。」

「一人死ねば「助けて」は一回。二人死ねば、いや、この場合は一人殺せば「妹」さんの分を合わせて「助けて」が二回。二人殺さば「妹」さんの分を合わせて「助けて」が三回。一秒間聞こえると想定して、一秒間に三回の「助けて」」

「分かるが‼俺のぐるじみが」

「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」

 詩人はにっこり笑う。

「なんで、ボクが君の苦しみを理解しないといけないんだい?」

 空気が凍り付いた。え?

 俺は足を払われ転ぶ。鳩尾を踏みつける詩人。苦しい

「なら、問おう。君。ボクの苦しみが分かるかい?」

 狂気。

「「妹」さんが死んだ。それは「悲しい」ことなのだろう。だけど、君の「妹」であってボクの「妹」ではない。この違いなら分かるね。理解出来るね。君の間違いを二つほど指摘ならぬ、詩的してあげよう。」

 一つ、ボクに苦しみを理解させようと押し付けた。

 一つ、ゴミを「妹」さんと呼んだことだ。あれは、ゴミだ。「妹」ではないよ。君の「妹」さんは死んだ。あれは単なる死骸だ。

 人は死んだら、何者でもなくなるんだよ??

 詩人はポケットからライターを取り出し、火を点けると「妹」に躊躇なく妹に投げた。

 「妹」に火が付き燃える。焼けている。俺は、力任せに詩人の足を退ける。だが、

「今日可燃ゴミの日だったかな?」と言って詩人が行く手を阻む。

 俺は渾身の一撃を振るう。

「グッ!!」

 詩人は左腕で拳を受け止めた。ボキッという骨が折れる感触が拳に響く。

「一つ聞いていいかな」

「どけ‼」

 こうしている間も「妹」が燃えている。焼けている。

「邪魔だ‼」

「「助けて」は聞こえるかい」

 え?

 耳を澄ます。が聞こえない。

「君は臆病だね。現実から逃避し、事実から耳を塞ぎ、真実から顔を反らす。」

 詩人はポケットの中から紙を出す。くしゃくしゃになった紙を

「これは、現場にあった「妹」さんの遺書だ。血で書いてある。きっと、本当に力を振り絞って書いたんだろうね。」

 詩人から手紙を受け取る。そこには血で書いてある「妹」からの最後の手紙だった。

「ありがとう。にぃ」

 手紙は途中で途切れている。本当に力を振り絞って書いたんだろう。

「「妹」さんが伝えたかったことは「助けて」ではなく。「ありがとう」じゃなかったのかな?理由は分かるね?」

 俺は膝から崩れ落ちた。喉が引き裂かれるぐらい叫んで泣いた。悲しみが爆発した。涙が止まらなかった。雨が俺を打ち付けた。

 雨が上がった後には、泣き疲れ寝た俺と「痛い」と囁く詩人と「妹」だった灰が残っていた。


「これと言ったものはなかったな。」

 俺は服を着ながら言った。共通の言葉という言葉はなかった。

「ねぇ、図書室に行ってみない?」

「何故図書室に?」

 今何故図書室に行く必要がある?

「考えたの。私達は罪について何もヒントを貰ってない。現に友人の腕と手紙がないでしょ?」

 確かに言われてみればない。いつもなら存在するはずの腕と手紙がない。奇人の時は、鬼人を眠らせて置けたとしても今は俺たちが居る。

「私達が図書室に行っている間に犯人も置いてくれるでしょ?それに私達全員が図書室に行けば、私達の中には少なからず犯人は居ないでしょ?東棟と西棟は離れているから、私達が片時も離れず一緒に居て、教室に腕と手紙があれば私達のアリバイは完璧よ。それに、罪という単語がどこかの本から引用されていてそれを探し出せれば一石二鳥よ。」

「確かにな。」

 俺は教室に置かれた。小体、奇体、両足、左腕を見る。ここに右腕が加えられる。両手両足が揃っているなら次はどこだろうか?

 頭?胴体?下半身?

 どこでもいい、友人を返せ。

「なら、行こう。図書室に」

 犯人絶対俺はお前殺す。必ずだ。

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