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目が醒めれば、海賊船!?

「うっ……うぅ……はっ」

 ッと俺は目を覚まし……。

「うわっ!!?」

 とすぐさまに声を上げてしまった。

 それも当然だ。目を覚ました瞬間、見知らぬ少女が俺の顔を覗き込んでいたからだ。よく見れば見知らぬ天井に見知らぬベッドの上で横になっていた。

「あら。目が覚めた様ね。船長。彼、目を覚ましましたよ」

「そうか……」

 笑顔を浮かべながらが、後ろに控えていた人物に声をかけて俺の前を開けた。ゆっくりとした足取りでこちらに近づいてくるその人物は、俺より少し年上の少女だった。

綺麗な長い黒髪に女性である事を主張する豊満な膨らみ。引き締まった身体に黒と赤を基調とした裂け目が目立つ服を身に着けている。

「目が覚めたところで丁度いい。貴様は何者だ」

 目を細めて睨む金色の瞳。此方が何かすれば問答無用に押さえつけようと考えている。よく見れば、腰には使い古された銃と剣らしいものをぶら下げていた。もしあれが欲物なら……。

「おい。聞いているのか?」

「あっ、ああ済まない。それで質問の答えについてだが、何と答えれば良いかわからない。突然海の上に跳ばされたものでね」

「跳ばされただと? 誰がそんな事をしたか分かるか?」

「いや。やった犯人は解らない。いきなりの事だったし、それに多分俺以外にも跳ばされた可能性がある」

 あの状況下だと、俺以外にもこのような事態に陥っている可能性がある。完全に思い違いであってほしいが、最悪跳ばされても俺と同様の状況になっていない事を祈ろう。

 少々物思いに耽りながら、船長と呼ばれた黒髪の少女から幾つかの質問に幾つか受け答えをした。

 自分の名前について等大した事では何のはウソ偽りなく話したが、俺の正体については伏せさせてもらった。気のせいだと思いたいが、何故か一つの不安がよぎっていたからだ。

 あの校外の光。それにあの地震。もしかすれば小説とかにありそうな出来事な気がしてならないな……。もしかして……。

「俺に応えられるのはこの程度だ。差支えなければ其方の名前を教えてもらえないか?」

「そうだな、良いだろう。私の名前はベルベット。この海賊船、【ヴァルヘルシング号】の船長をしている。いうなれば此処の責任者だ」

 かっ、海賊船!? ってことはまさか……。

「えっと……まさかあなた方は……海賊ですか?」

「ああそうだ。運が良いのか悪いのか判断できないが、一応命がある分だけ問題はないだろう」 

 海賊という単語に青ざめながら震えている俺の顔を見て、腕を組んだまま不敵な笑みを浮かべるベルベット。少々性格が悪すぎる。

「それでお前の介護をしたそいつの名前はマリカ。この船の副船長だ。生憎と船医は夢遊病に耽っていて今は不在だ」

「初めましてヒロセさん。ご紹介に預かったマリカよ。よろしくね」

 彼女はベルベットとは違い、明るい表情を見せてくれた。容姿としては、バンダナを頭に付けた如何にも海賊らしいポロシャツにベルトを付けた短パンという格好をしていた。

「一応怪我の応急処置はしたけど、痛い所はないかな」

 彼女の言葉で、身体の一部に包帯が巻きつかれていた。痛みはないか確認してみると、これといった違和感はなかった。

「ええ。別に問題ないです。ありがとうございます」

 それを聞いて顔を綻ばせるマリカ。それを黙って聞いていたベルベットも、少し雰囲気が緩和していた。

「ではこれからの事について説明をした方が良いだろう。生憎私達はお前を元の場所に返す余裕は全くない。其処でだが、当分の間はこの船の船員として過ごしてもらう」

「え? 良いんですか? 自分で言うのもああれですが完全に怪しい人物ですよ?」

 思っても見ない事に、困惑した表情を浮かべながら自虐的なセリフを言うと、マリカが頬を引くつかせ、ベルベットは視線をそらして口元に手を添えられた。

「確かに自分で言うことではないわね。でも私達は海賊と言っても人助けを請け負っていたりもしているの。だから補給に立ち寄る予定の島に送り続けるつもりよ」

「だが、私達も無償で船に乗せるわけにはいかない。其処でこの船に乗っている間は私の部下として働いてもらう」

「ああそれで構わない。流石に無償で乗せてもらうのは気が引けるのでね。それに近くの島で下してくれるのならそれなりに助かる」

 島につけば欲しい情報が得られる可能性があるし、大陸なんかにたどり着ければ手掛のようなのも得られる。俺としては万々歳だな。

 断る理由もないので、俺は快く彼女が出した条件を飲む事にした。しかし今日一日はおとなしくした方が良いということで、船医室のベッドを一日中貸し切って横になっていた。

 翌日。副船長のマリカに案内をしてもらい、船内のとある一室の前にいた。

 船内は帆船という事で木製のだと思っていたが、中は結構整っていて所々機械仕掛けのようになっていた。

「此処が作戦室ね。此処には船員全員が来てるから、一応顔合わせをしてもらうわね。準備は良い?」

「ええ。構いません」

 ではと俺が前に出て作戦室への扉を開けて中に入った。中は思った以上に広く、右側には大きな黒板が垂れ掛けられていた。船長のベルベッドや他の船員達は既に集合して……

「すみません! 遅れ――」

 していなかった。

 急いで駆け込んでくる船員は、扉の前に俺が居る事に気づかずに突っ込んできた。だがそれぐらいなら別に問題はなかったが、それだけではなかった。

 ガクンッ。

「あれ!?」

「なっ! ゴフッ!!?」

 勢い余った所為でなのか、床の隙間に躓いてしまい思いっきり扱けた。だが駆け込んでいた勢いが増していき、そのまま俺の背中を直撃した。

 丁度背骨を直撃してしまい、あまりの激痛に悶絶して倒れた。あれ? 目の前にお花畑が……。

「ちょっ! ヒロセ君!?」

「あれ? 目の前に天使が……。此処は天国で……? あっ、亡くなったお婆ちゃんが手を振って……」

「意識をちゃんと保って!! 此処は船の上よ! その手に誘われないで!!」

 完全に意識が朦朧として来ている中、必死に声掛けをしてくれるマリカ。ぶつかった子は、思わぬ衝撃でその場に蹲っていた。

 完全に蚊帳の外となっていた船長と船員は、完全に呆けてしまっていた。見ていないで何とかしてくれ……。

 突然のハプニングにより、数分間は顔合わせが遅くなってしまっていた。何とか不意の攻撃から回復を果たした俺は、近くの柱に縋りながら立ち上がった。

「いやぁ~~~~。すみません。ちょっと昨日徹夜してたので遅刻してしまいました」

 俺にぶつかった張本人は、多少反省しているようで悪びれた態度を示しているが、へらへらと苦笑いを浮かべての反省姿勢に少しばかりイラッとしてきた。

 彼女は一見すれば美少女の分類に入る少女。オレンジ掛った短めの髪に、キラキラと好奇心に満ちた輝きを放つ瞳、更に首元にかなり長めのマフラーを巻いている。

「いい加減寝坊癖を直せエリ。これ以上遅刻をすれば調理番に降格させるぞ?」

「ええっ!? それは嫌ですよ船長!!」

「ではそうだな……。そうだ」

 おい。何故こちらを見る。こっちに視線を向けるな。

 エリの罰をどうしようかとしていた矢先、何故か俺の方に視線を向けてきた。何故だろうか。ベルベッドの目の色が少々危うさを感じさせた。

「エリ。お前には新団員であるヒロセの教育係に任命する。この船の掟や各場所の仕事場を案内して教え込ませろ。それが出来なければ調理係に格下げだ。良いな」

「アイアイサー!!」

「では今日はこれにて解散ね。ヒロセさん。少々嫌かもしれませんが、彼女が彼方の教育係なので、彼女の後に付いて来てくださいね」

「あっ、ああ……(俺、全く他の子と顔合わせろくに出来ていなかったような気がするんだが、気にしてたら駄目なのか?)」

 顔合わせの筈が、何故かそれらしいのが行われずに終わって仕舞った。マリカによって絞められ、船員達は各々の仕事場へと向かって行った。ベルベットとマリカはまだ話し合う事があるという事で、作戦室に残っていた。

「そんじゃあ先ずは自己紹介かな。私の名前はエリ。歳はピチピチの華の十六歳。趣味は妄想で好きな物は可憐な美少女だよ!」

 キラーンと片足を上げながら両手を翳す決めポーズをしながら自己紹介をするエリ。何だろう。この心の底から込み上げてくる黒い感情は……。彼女の行動が何故か一々癇に障る。

「俺の名前は広瀬弥奈。ヒロセと呼んでくれればいい。それで? 此れが行く事になっている仕事場って何処なのさ」

「まず最初は調理室かな。あそこが此処では最下層の仕事場になっているからね。まずは下の仕事から学ばないと!!」

「え? 調理係が? 普通は清掃とかが下の仕事じゃないの?」

 俺としてのイメージではあるが、下っ端が船の清掃に扱き使われているのではと思っていたので、彼女の言葉に首を傾げた。

「ああ。普通の船だったらそうだよね。でもこの船ではそうじゃないんだよ」

「普通じゃない? それってどういう……」

 彼女の言葉の意味が分からず、更に首を傾げていると、何かに躓いてしまった。思わず体勢が崩れて倒れそうになるが、何とか踏みとどまって事なきを得た。

「――っとと。危なかったな」

「ちょ、大丈夫? 何もない所で躓く何て珍しいわね」

「……それは君に言われたくないよ。でも何かが足元にあったような感覚があるんだが……」

 僅か数分前の彼女の事件を思い返しながらジト眼で睨み、流し目で躓いた足元を目にし、思わず驚きで見開いてしまった。

「ぐぅ~~~~」

 其処には、四つん這いの格好で廊下に伏せていた、妙に眠たそうな顔を浮かべた女性がいた。

 背格好は少し汚れが目立つ白衣を身に纏っており、無造作に纏められた髪。厚い隈で飾られた目。見るからに不健康そうな女性だった。

「おいエリ。この人大丈夫なのか? 見るからに具合悪そうなんだが……」

 意識しての事ではないが、蹴ったのと同様にも拘らず姿勢を保ったまま眠っている目の前の女性を指差しながら、エリに彼女の事について説明を求めた。だが……。

「ええっ? そんな人居ないよ? 何言ってるの?」

「え? だって目の前に居るじゃないか!!」

 何度も彼女がいる場所を指差すのに、隣に居るエリはまるで見えていないような平然な態度で返された。此れには流石に驚きを隠せなかった。

 どういう事だ? 彼女が見えないってのは不思議でならないし、もしかして俺の気の所為なのか? でもこうして眼前に居る事だし……。

 意味が分からず困惑していると、隣に居たエリが郷を煮やしてきた。

「もう何をやってるのよ! さっさと仕事場に行くよ!」

「えっ、いやちょっ!!」

「待ったは無し!」

 彼女に服を掴まれ、少女とは思えない力の強さで引っ張られながらその場から去る事になってしまった。角に曲がる間際、女性がいた場所を見ていると、彼女は一向に動く気配も見せずにその場に居た。


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どんな些細でもかまいませんので……。

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