始まりは唐突に……海に落下中
「~~~~ぁぁぁぁぁぁああああああっ!!?」
突然の出来事に対応もできず、俺、広瀬弥奈は自分らしくない位の悲鳴を上げながら、かなり高い高度から大海原に向かって真っ逆さまに落ちていった。
完全に油断によるものではあったが、まさか海に落とされるとは夢にも思わなかった。上下左右の全てが反対に見えており、眼前は地平の向こうまで続いているであろう広大な海、足元は雲一つない晴天の空。目算ではあるが、約十五秒ほどで海面にぶつかる。
その間俺は、此処に飛ばされるまでの事を思い返した。あえて言わせてもらうが、これは決して走馬灯ではない。
俺は特にこれと言って違和感なく学校の教室にいた。クラスメイトに挨拶を交わしてから席についていき、HRの時までジッとしていた。そして教師が教室にきてHRが始まると同時に、ある異変が起こった。
突如晴れていた窓の向こう側は、暗幕が掛けられた様に真っ暗になっていった。それに合わせ、校舎全体が激しく揺れて行った。最初は地震だという事で、ほぼ全員が咄嗟に机に身を屈めた。地震が徐々に激しくなって行き、もしや崩れるのではと不安に感じたが、次の瞬間窓から眩しい光が迸った。そして気が付けば、現在進行形で海に真っ逆さまに落ちていた。
「不味い! これは流石にまずい!!」
これ程の高度から落ちたら少々不味い! もし五体満足であっても陸地がないんじゃあ確実に力尽きで溺れ死ぬ! そんな死に方は心の底から避けたい!!
如何にかしようともがいてみるが、やはりそう簡単に避けられるわけでもなかった。空中でジタバタをしてみるが、単に空を切るだけでこれといった事は何も起こらなかった。
あっ、終わった……。
もはや打つ手なし。そう確信した俺は、顔を青ざめながら海面へと視線を向けた。これ以上暴れても意味がないだろうと察する事が出来たからだ。
「困難で死ぬとか……。俺としても運がなかったというわけか……。はぁ……。学校の教室からいきなりこんな所に跳ばされて死ぬだなんて……。ごめんなさいお婆ちゃん」
唯一心を許していた家族であるお婆ちゃんに別れの言葉を述べ、自然体のままで落下していった。その際、思わず瞳に温かい液体が垂れ落ちていく。
その事がきっかけなのか、脳内から今までの事が鮮明になって振り返ってきた。此れが死に際に見るという走馬灯なのだろう。
「あぁ……。まだ短い人生だった……。ん?」
涙目になりながら自虐的なセリフを言って海面を見続けていた。焦点が定まらずに見えていなかったのか、落下地点と思わる場所に何かがあった。
気になって目を凝らすと、其処には一隻の船が停泊していた。もしや助かるのではと思ったが、このままでは船に直撃した瞬間真っ赤な花を咲かせる事となってしまう。
はぁ……もう助からないか……。あれ? なんだが意識が遠のいて……。
緊張の糸が切れたように身体に力が入らなくなってきた。それと同時に意識が薄れて気を失ってしまった。
「まったく……まさかこんな所で立ち往生する羽目になるなんて……」
この辺りの海域に入ったのと同時に、風がピタリとやんでしまった。それに合わせて海も波一つ立たなくなってしまっていた。その所為で、この船も動かなくなってしまっている。
こんなことは今までなかった。一体何が……。
「ベルベット船長。整備班からの連絡ですが、動力炉はどこにも異常がないようです。風術師の方でも探らせていますが、風が止んでしまっている原因は未だわかっておりません」
「わかった。帆を畳んで手動で動かす。オールの準備と急がせろ! 急いでこの海域から脱出する!」
部下に指示し、船を手動に切り替えさせた。船員達は、テキパキと慣れていた行動に移してもらっていた。即座に支柱から帆が仕舞われていき、船内から全長二メートル程の長いオールが生えてきた。
本来は魔石の結晶体を動力源とした動力炉で動いていたが、それがピタリと停止してしまった。此れもこの海域に入ってきてからの異常だ。
ようやくあいつの居場所が分かったという矢先に、これでは私の目的が……私の長年の……。
思わぬ所による足止めに、私は顔を顰めて苛立ちを募らせていた。ようやく探していたものが眼前にいる。それが解っている分、無駄だと解っても感情を抑えられなかった。
そんなヤキモキとした気持ちをしていると、パチンッと後ろから何かで叩かれてしまった。
「クッ、なんだ!!」
怒声を上げながら振り返ると、其処には悪びれた様子もない副船長のマリカの姿があった。彼女の手には、数枚の書類を丸めたのを手に持っていた。それで私の頭を叩いたのだろう。
「はいはい。そんなにギクシャクしなくても良いじゃない。それに安易に背中を取られるんじゃあダメでしょ?」
「だがマリカ。お前にならわかるだろ? ようやく彼奴の後を追えられる。それなのにこんな場所で立ち往生だなんて……」
「それもわかってるわ。でも船長である彼方が焦ったら部下のあの子達にまで影響が出るわ。だから落ち着いて……ん? 何かしらあれ」
私と話をしている最中、不意にマリカが空を見上げた。どうしたのかと思い、彼女の視線をなぞりながら見上げると――。
「なんだ。何かが此方に来ている?」
此処から遥か上空。雲一つとしてない綺麗な空の中で、一つの黒い点のようなのがあった。それが何なのかと思い目を細めると、それが次第に近づいてきているのがわかった。
しっかりと目に捉えられる所まで近づいてくると、それの正体を目にして驚きを隠せなかった。
「あれってもしかして人!?」
「クッ、次から次へと……」
性別といった細かな所はまだ定かではないが、どうやら落ちてきているのが人間であるという判別は出来た。
あのままの速さじゃあこの船も無事じゃ済みそうもない! だがすぐに回避行動に出られるわけじゃない。
「こうなったら……」
焦る気持ちを抑えず、右手を落下してくる人間に向けて掲げる。肌が露出しないよう、包帯を入念に巻いている右手。私はその手に意識を載せていき、ある言葉を口に出そうとした。しかし、其処でマリカが止めに掛かってきた。
「やめなさいベルベッド! そう何度もそれを使ったら危険よ。それにそれを使ったらあの人は死ぬわよ!」
「ではどうする。あのような速さで船に直撃でもすれば唯では済まされないんだぞ! それにあそこからの高度では魔法でも助けられ――」
ないぞと最後まで言おうとし、やめた。
こちらへと落ちてきている人影が、一瞬で消えたからだ。目を離さないようにしたにも関わらず、それを見失ったのだ。それには私とマリカも驚きを隠せなかった。船員が居なかった事が唯一の救いだろう。このような顔をあいつ等には見せられない。
一体何処に行ったんだと周囲を見渡すが、意外と早く見つける事が出来た。それも意外な所で……。
ズガァァァァァンッ!!
「なっ!」
突然甲板の方か大きな音が聞こえた。気になって其方を向くと、其処には深々と船を貫いている人間の下半身がそこにあった。
「もしかして上にいた奴か!」
「急いで引き抜きましょ!」
私達は、急いで甲板で刺さっている人間へと近づき、急いで引き抜きに掛かった。大きな音に驚いた船員達が、船内から姿を見せてきた。
彼女達にも協力をあおって何とは引き抜くと、其処から若い男性の姿が現れた。
傷は此れと言って目立つようなのはなく、頬の掠り傷しか見受けられなかった。あれ程の高さから落ちてきたにしては、傷が少なすぎる。
まったく……今度は一体何が起こるというんだ?
一応駄作です。
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