脱出
月は脱出の提案を持ちかけてきた。
先程から状況の整理が追い付かない上にこのような提案を持ちかけられた。
世界はなんて忙しいのだろうか。
「脱出ですか? そんなことできるんですか?」
「ここはルークタウンの地下深くにある。 天井を掘り進めばいいだけだ。」
「そんな、何年かかるんですか?」
「常人ならまず死ぬ方がはやいだろう。 だがな、お前はアンドロイドだ。 常人にはない優れた能力を持っている。」
「でも今まで能力なんて感じませんでした。」
「アンドロイドといえど自力で能力は使えない。 特殊な信号を脳に送ることで能力を使うことができる。」
「どうやって信号を送るんですか?」
「詳しい説明は長くなるから省くが、身体への指令を行うところに指令を乱す電波を送る。 この電波は人間には影響がないが、改造実験で脳を弄られたアンドロイドには効く。」
「でも電波はどうやって?」
「電波を起こすには機器が必要だ。 でもここはスレブタウン、機器などあるわけがないさ。」
「じゃあ、脱出なんて無理じゃ・・・」
「話は最後まで聞け。 機器がないから通常の方法では能力を使えない。 だが機器を使わずとも能力を使わせることができる。 この"俺"を使ってな!」
「え?」
「俺はその電波を体内で作り出しお前に送ることができる。」
「その・・・どういうことですか?」
「俺の一族に代々伝わる謎の力だ。 といっても俺も一族もその力を全く知らなかった。 まぁ、そのよくわからない力を奴らが分析してアンドロイド活性化の鍵にしたんだろうな。 その力のお陰でアンドロイドを活性化できたのかもしれないがな。」
「ところで何でそんなにアンドロイドに詳しいんですか?」
「俺は一族が殺された時、かろうじて生き延びていた。 一族を殺したやつらの後をつけた。 そしてやつらの本拠地を突き止めた。 そこが、アンドロイド実験場だったわけさ。 俺はそこに潜入した。 そして実験のデータを見た。 今話したことはそのデータのお陰でわかったことさ。 で、そのデータ見てたら捕まってスレブタウンに来たんだけどな。」
「そうだったんですか・・・」
「話は済んだ。 では早速能力を使えるようにしてやる。」
そう言って、月は弥生の額に手を当てた。
「能力は一回につき5分使える。 俺が合図し次第、天井を掘れ。 わかったか?」
「はい。」
体に異変を感じた。
熱い何かが体の中をうごめいているかのようだ。
景色が歪み、凄まじい轟音が耳を襲う。
全身のありとあらゆるところに激痛を感じる。
体から滝のような汗が出て、それが瞬時に蒸発する。
「さぁ、行け!」
「はい。」
元の姿をまるで留めていない人間いや、アンドロイドがそう返事をした。
アンドロイドが天井まで跳ぶ。
そして天井に拳をぶつける。
天井に亀裂が入り、崩れた。
スレブタウンの奴隷達が悲鳴をあげる。
「天井が崩れたぞー」
「天井が・・・降ってくる!」
土砂がスレブタウンを襲う。
「俺たちを生き埋めにする気か!」
「脱出どころじゃねぇ!」
月が言った。
「お前ら、少しは黙ってろ。 おとなしくシェルターに籠ってろ。」
スレブタウンには、天井崩落の際のシェルターが用意されていた。
「光が見えたぞ!」
天井が崩落しきって地上の光が見えた。
「弥生! 俺を乗せて跳べ! 他の奴隷も弥生にしがみつけ!」
月とたくさんの奴隷がアンドロイドにしがみついた。
そして、アンドロイドは跳んだ。
「さぁ、行くぜ! ルークタウンへ! スレブタウンあばよ!」