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泣き虫男は俺様アイドル  作者: 陽芽子
9/24

転校生になりまして




















◇◆翌日◆◇




“7時起きだかんな”




昨晩、寝坊グセのある私は沖田さんに釘を刺されたが……




「寝れるワケないって…」




目覚めたのは6時。




上半身を起こしてベッドの上からハンガーに掛けられた制服を見る。




赤のリボンに、ピンクのシャツ。


紺のブレザーに、グレーのプリーツスカート。




前の学校とは違って可愛らしい制服なのに、今の私にはその制服が不安の塊でしかなかった。




「…はぁ~~~……」




深く溜め息を吐いて立ち上がると、制服を取って、部屋着を脱ぎ捨てた私。




前の学校に戻りたいな…


できる事なら、転校なんてしたくない…。




うな垂れるようにして、最後に襟にリボンを通すと、そのまま部屋を出た。




「…珍し。ちゃんと起きてるし。」




「寝れなかったんですよ。」




先にリビングに出ていた私を目にした沖田さんは、目を見張っている。





「アンタって繊細??

そんな風に見えねぇけど。」




「私を何だと思ってるんですかっ!!」




やや八つ当たり気味に言って、作った朝食を運ぶ。




「アンタが作ったのか??」




並べられた朝食を見ながら、沖田さんが言った。




「そうですよ。

今日は早起きしましたから。」




その問い掛けに難なく答えると、ジロジロと目玉焼きを見つめ、匂いを嗅ぐ沖田さん。




「うん。普通だな。」




「普通ですよ!!

てか、普通の物しか作れませんから!!!!」




相変わらずの毒舌。


沖田さんの嫌味。


彼が放つ文句。




不快に思っていたはずなのに、そんないつもの朝が、私の強張った肩を解してくれるような気がして、少しだけ沖田さんに感謝した。




いつも通りにしてくれてるんだよね。


口は悪いけど、なんだか和むなぁ。




自分で淹れた紅茶に、息を吹きかけながらそう思った。




















沖田さんが通っていると言う学校に着き、辺りを見回した私は、思わず興奮する。




右も左も、前も後ろも…




芸能人だらけぇ~~!!!!




「…アンタは、俺と同じクラス。」




沖田さんの背中に着いて行くのが精一杯な私は、その言葉を聞き逃す。




「え……??今…何と??」




「…だから、アンタと俺、同じクラス。」




面倒臭そうに答えた沖田さんは、足早に教室を目指して歩いて行く。




「待って下さいよ!!」




「アンタはあっち。

職員室へ行け。」




指を差された場所に視線を移している間に……




「おっ…沖田さん?!?!」




彼の姿はどこぞやに消えていた。




プラカードを目印にして、職員室の前まで歩いて行くと、肩を小さくしている私に声が掛かる。




「もしかして藤瀬さん??」




まさか自分に声が掛かると思っていなかった私は、呼び掛けられた背中に力を入れた。




「あ…ハイ。藤瀬です。」





振り向いた先には、教員らしき中年の男性。




「やっぱりね。

僕は、キミの担任になる秋本(アキモト)だよ。」




秋本先生か。


優しそうだなぁ。




笑った時の目尻のシワが印象的な、穏やかな感じの先生だった。




「よろしくお願いします。」




気を付けをして頭を下げた後、秋本先生に連れられ、私は教室へと案内された。










「藤瀬さんの席は、一番後ろね。」




緊張の紹介が終わって、指定された席に座る。




うおぉ~~……


私の隣に座ってるのって、大河ドラマの……




(ヒイラギ) 可南子(カナコ)

よろしくね。」




私が頭の中で名前を思い出すよりも早く、柊さんが挨拶してくれた。




「よろしくお願いします。」




戸惑いながらも一礼した私。




「そんなに畏まらないでよ(笑)

可南子でいいから♪」




わぁ……


キレイな笑顔だなぁ…。




「ハイ。分かりました。」




畏まるなと言われても、やっぱり畏まってしまう私だった。





それにしても…


この学校は、芸能人だらけ。


まさに芸能人パラダイス。




芸能人じゃない人の方が少ない。




机の横に掛けられているカバンは、みんな有名ブランドだし。


身に付けてる物だって、きっと高いんだろうなぁ…。


セレブの中に庶民が一人。


なんか…


こんな漫画があったような……




思いを巡らせながら授業を受けていると、ふと、離れた席に座る沖田さんと目が合う。




「……ぁ…」




小さく呟くと、彼は私に向かってノートを掲げた。




ん……??


なになに??




目を凝らして見ると……




【口開いてる】


【バカ丸出し】




二行に渡る、私への嫌味のカンペ。




こんな時まで嫌味か。


あの人、どれだけ暇なんだろう。




負けじとシャーペンを取った私は、沖田さんに仕返す。




【口の中を換気中です】




ドヤ顔でノートを掲げ、沖田さんを見た。




だが、彼も負けてはいない。





【アンタの口、臭いもんな。】




ドヤ顔をドヤ顔で返された。




匂った事ないクセにっ!!




【授業に集中しましょうよ】




そうノートに書いて掲げたが、彼はもう黒板に向かっていた。




自分からやり出しといて、スルーですか!!




マイペースな沖田さんに、授業中も振り回された私は、言うまでもなく、授業内容聞き損ねてしまったのだった。




“キーンコーンカーンコーン……”




そんな私にお構いなく、授業終了のチャイムが鳴り響く。




教科担当の先生が出て行くと、教室は一気にざわめきだした。




そんな中……




「流星と仲良しなんだね。」




左隣に座る柊さんが、私に向かって言葉を出した。




私と沖田さんの授業中のやり取りを見ていたんだろう。




「仲良しというか…

…マネージャーをさせてもらってて。」




曖昧に笑って言うと、柊さんは感慨深そうに頷く。




「そうなんだ。

前のマネージャーとは、喧嘩ばっかりしてたけどなぁ。」





頬に手を当てて、何度も頷く柊さん。




「沖田さんの前のマネージャーさんを知ってるんですか??」




何気なく聞くと、柊さんは困惑したように苦笑する。




「流星のマネージャーはコロコロ変わるから。

あたしが知ってるのは、流星と噂になったマネージャー。」




そこまで言うと、柊さんは言葉を切った。




「あの…それって……」




恋人疑惑が持ち上がったマネージャーなのかもしれないと、問い掛けようとしたが……




「チンチク莉子。」




頭の上から低い声が聞こえて、遮られてしまう。




「沖田さん。」




顔を上げると、仏頂面の沖田さんの顔と出くわす。




「コイツに余計な事言うな。」




沖田さんは私を指差し、柊さんに向かって言った。




「ごめんごめん。」




柊さんは、手のひらを合わせて、おどけるように沖田さんに謝っている。




余計な事って……


私に知られたくない事なのかな…




沖田さんの生い立ちに、沖田さんを変えた過去。


また私の中で、彼の謎が増えるのだった。





















◇◆昼休み◆◇




秋本先生に呼ばれ、私は再び職員室へ来ていた。




「場所を移動しようか。」




そう言われて、入ったばかりの職員室を出る。




「あの……私、初っぱなから問題起こしちゃいました??」




進路指導室で先生と二人、向き合って座る私は、躊躇いがちに問い掛けた。




「そうじゃないよ。」




目の前の先生は私を心配させないように、笑顔を向けてくれている。




「………??」




呼び出しを受けた理由が掴めず、私は小首を傾げた。




「沖田くん……もとい、田中 五郎くんの事だよ。」




先生は沖田さんの本名を出して、溜め息混じりに話を続ける。




「…キミは、田中くんのマネージャーだったね??」




「はい。」




コクリと頷くと、また一つ、先生の口から溜め息が漏れる。




「キミは…田中くんの事をどこまで知ってるのかな??」




そう問い掛けられた私は、思い出すように、進路指導室の天井を仰いだ。





沖田さんの事……??


彼は、アイドルで…


俺様気質で、緊張すると私に甘えて……


たまに優しくて、たいがいは私に意地悪で…


それと…


それと……




「すみません。

私は彼の性格くらいしか分かりません。」




私が言うと、先生は優しく笑う。




「謝る事はないよ。

知らないのなら、それでいい。」




先生は、進路指導室の戸を開けて、私に出るように促した。




「先生は…何か知ってるんですか…??」




小さく声を出すと、私の問い掛けは、曖昧な言葉で返される。




「んー……まぁ、それは生徒の個人情報だから。」




大人の返し方だなぁ。




そう思うものの、納得のいかない私は、先生が開けた戸を再び閉めた。




「………。」




無言で先生を見つめる。




「藤瀬さん??」




そんな私をキョトンと見る先生。




「…教えて下さい。

沖田さんの事……。

私は、彼のマネージャーですから。

守秘義務は絶対に果たしますから。」





訴えかけるように、真剣な眼差しを先生に向けると、“仕方ない”と言ったように、先生は一息吐く。




「座りなさい。」




本人じゃなくで、第三者から話を聞くのは間違っているかもしれない。




でも……




「はい。」




私が今頼れるのは、先生だけ。




…沖田さんの過去に何かあるのなら、私は彼の暗闇や痛みを知りたい。




「田中くんのご両親はね、彼が14歳の頃に亡くなってるんだ。」




「えっ……」




沖田さんに起こった不幸が、あまりにも痛々しすぎて、肩をすくめてしまう。




「…彼が5人兄弟なのは知ってるかな??」




「……はい。」




寝室にあった写真立てを思い出して頷いた。




「彼は、一番末っ子で、生活力がない上に、義務教育の真っ只中だろ??

…それで、最初は長男の一郎くんが田中くんを引き取ったんだ。」




沖田さんのお兄さんって、一郎(イチロウ)さんって言うんだ…。




もしかして…


二郎(ジロウ)三郎(サブロウ)四郎(シロウ)五郎(ゴロウ)??





……って、そんな事考えてる場合じゃないよ…。




その間にも、先生の言葉は続いていた。




「…だけどね、既に結婚していた一郎くんは家庭もあって、田中くんは肩身の狭い思いをしていたんだ。」




そうだよね…。


そんな状況だったら誰だって遠慮するよ…。




何となくながら、沖田さんの気持ちが分かる私は、首を縦に振って、先生の声に耳を傾ける。




「…義理のお姉さんとの折り合いが悪くてね。

田中くんは自ら一郎くんの家を出たんだ。」




沖田さんを哀れむように、先生は肩を下げた。




「義姉さんに……追い出されたんですか??」




私がぎこちなく口を開くと、先生はやんわりと答える。




「そう言っても過言じゃないだろうね。」




そんな…


だったら……


…沖田さんはどうやって生活してたんだろう。




私が心の中で感じている疑問を解決するように、先生が口を動かす。




「…田中くんの今の生活を提供したのは、キミの叔母さんなんだよ。」





先生の一言で、玲子ちゃんと沖田さんの繋がりがようやく分かった。




「そうだったんですか…」




「僕は、キミの叔母さんと古い仲でね。

…玲子さんからこの話を聞いた時、彼に手を差し伸べようとしたんだが……」




言葉を途切れさせた先生を、目に映す。




「拒否したんですよね。

沖田さんは……。」




先生の言葉の続きが何となく分かってしまい、口に出した。




「そうなんだ。

…だから、キミが事情を知ってるのであれば……そう思ったんだよ。」




薄く笑みを浮かべながら、私に話してくれた先生を見つめる。




玲子ちゃんに、先生も。


沖田さんを思って、心配してくれている人がいるのに……


どうして彼は、差し伸べられる手を振り払うんだろう…。




先生との会話を終えた私は、会釈をしながら複雑な気持ちで進路指導室を出る。




沖田さんと向き合って話したいけど…


一体どうすればいいんだろう…




そう考えている間にも、時間は止めどなく過ぎていった。





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