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泣き虫男は俺様アイドル  作者: 陽芽子
8/24

失敗に終わりまして























「…巻き込むなっつっただろーがっ!!!!」




「仕方ないでしょ!!!!

あぁするしかなかったのよっ!!!!」




「その結果がこれだろうがよ!!!!」




怒号と怒号がぶつかり合っているのが聞こえて、目が覚めた。




上半身を起こして最初に思ったのは、なぜ今自分がここにいるかだ。




記者会見場からの記憶がない私は、怒号が聞こえる方へ体を動かす。




そこには、互いに一歩も譲らない玲子ちゃんと沖田さんがいた。




「あの……」




小さく声を出すと、それに気付いた二人が、ピタリと言い合いを止める。




「莉子ちゃん!!」




「気づいたか。」




玲子ちゃんは、私と目が合うと、ギュッと私の体を抱き締めた。




「ごめんね!!ごめん!!

ごめんなさいっ!!!!」




「く……苦しいよ……

玲子……ちゃん…」




窒息死する程の腕力だったので、私は玲子ちゃんの腕をタップする。





「やっぱり……初仕事にしては荷が重かったわよね…」




腕を解いてくれた玲子ちゃんが、うな垂れるように言った。




「だから言っただろ。

最初っから俺が一人で、会見すりゃあ良かったんだよ。」




こうなる事を察知していたように、沖田さんは溜め息混じり。




「会見は……どうなったんですか。」




そんな私の疑問は、消えるどころか、不安を与える。




「…莉子ちゃんは見ない方がいいと思うけど……」




玲子ちゃんは言いながら、DVDディスクを取り出すと、慣れた手付きでデッキへと入れて再生ボタンを押した。




テレビの液晶画面には、体力を使い果たしたような私の姿と、それを心配して肩に手を置いている沖田さんの姿。




この後の事は、自分でも想像がついた。


案の定、会場はパニックを起こし、画面が真っ白になる程のフラッシュが焚かれている。




『撮るな!!!!

撮るんじゃねぇ!!!!』




そこで聞こえてきた一つの声が、フラッシュを遮った。





必死に私を庇うように立って、沖田さんは両手を広げている……




その後……




「…え……」




私が息を飲んだ理由……


それは……




「……まるで、王子様とお姫様ね。」




玲子ちゃんの言葉を受けて、画面と沖田さんを交互に見た私。




「……ったく。

迷惑極まりねぇ。」




沖田さんにお姫様抱っこをされた私は、そのまま会場を出ていた。




「…そんな……」




これじゃあ、元も子もない。


疑惑を晴らす為の会見が、余計に大きな疑惑を呼ぶ事となった。




「今後の対策は事務所内で考えるわ。

連絡があるまで、二人はここから出ないで。」




玲子ちゃんはそう言って、部屋を出て行った。




そう。


私は、今沖田さんの自宅にいる。


何も記憶がないまま、このマンションに帰って来ていたのだ。




黙って彼を窺うと、その顔は不機嫌そのもの。




「何で俺に言わなかったんだよ。」




「……それは…」





玲子ちゃんに口止めされていたからと言っても……


沖田さんの事を思って、黙っていましたと言っても……


どの道、怒られるに決まってる。




八方塞がりの私は、口をつぐんでしまった。




「…アンタ、自分がした事の大きさ、分かってんの??」




分かってる。


充分過ぎるくらい。




だけど……




「………。」




何も言えない…。




唇を噛み締める私。


そんな私に、沖田さんの諦めたような声が耳に付く。




「まぁ……気にすんな。

これで俺も暇になる。」




それって……


仕事が来なくなるって事だよね…??




「…暇になったらダメなんじゃ……」




「ずっと忙しかった自分への褒美だって、そう思えばいいし。

あそこでアンタに死なれたら……

それこそ後味悪りぃよ。」




私の言葉を遮って、沖田さんは寂しげに言った。




彼にかけてあげる言葉が見つからず、見つかったとしても、私から言うべき言葉じゃない。





「………。」




否が応でも私は黙るしかなかった。




「………。」




沖田さんも黙り込んでしまい、重い沈黙が部屋を包み込んでいる。




「沖田さん……」




私は、ある決心をして、彼の名前を呼んだ。




「……ん??」




短く返事をした沖田さんは、私の目を見る。




「……私を…クビにして下さい。」




言いたくなかった。


だけど、言わざるを得ない。




「散々迷惑かけといて、トンズラかよ。」




「……え??」




おいそれとクビにされるかと思いきや、私を引き止めるような沖田さんの言葉に唖然としてしまう。




「何も解決しねぇまま、逃げんのかよ。

…アンタ、人間としても最低だな。」




胸を貫く程深く、沖田さんの正論が伝わった。




「そうですよね…。

私…最低です。

この件が解決するまで、沖田さんのマネージャーでいさせて下さい。」




懇願するように頭を下げる私。




「アンタをクビにするかどうかは、俺が決めるから。

自分からクビにしてくれとか、もう二度と言うなよ。」





優しさとも取れる沖田さんの言葉。




「はい。」




私はそれに、頷きながら答えた。




沖田さんの言う通りだ。


このままマネージャーを辞めたら、私は逃げる事になる。


そんな事、絶対にしたくない。


私が後悔する事を見越して、沖田さんは気付かせてくれたんだ。




「しかし……連絡って、いつまで待ちゃあいいんだよ。」




「そうですね……。

社長次第じゃないでしょうか…。」




目の前にある問題の大きさに、私も沖田さんも、なすすべを失うように溜め息を吐いた。




今は、玲子ちゃんからの連絡を待つしかない。




マネージャーでありながら、待つ事しかできない歯痒さで、どうしようもなかった。




「…アンタも動けねぇんじゃ、マジで当分二人きりだな。」




「そうですねぇ。」




相槌を打ちながら彼を見ると、何か企んでいるような面持ちで私を直視している。




「男女が二人きりねぇ。」




「沖田さん??」





「アンタ、俺にヤラシイ事すんなよ。」




「……それは普通、私のセリフですよね??」




「はぁ??俺がアンタみたいなツンツルテンに発情すっかよ。」




沖田さんが上から下まで私の体を指差して言った。




「つ……ツンツルテン??」




「アンタの体、凹凸なさ過ぎなんだよ。」




チンチクリンの次は……


ツンツルテンですか…。




酷い言われように落ち込んでいると、どちらかのケータイのバイブ音が、着信を知らせる。




「…沖田さんのケータイじゃないですか??」




「違う。アンタの。」




なぜかリビングのテーブルにある私のケータイが光っている。




「ホントだ。」




一言呟いてからケータイを取ると、ディスプレイは、玲子ちゃんからの着信を示していた。




《もしもし??》




「玲子ちゃん??」




沖田さんの部屋を出てからまだ間もないというのに、連絡があったという事は、解決策が見いだせたのかもしれない。


期待と不安との狭間で、私は玲子ちゃんの言葉を待った。





《手は尽くしたんだけどね……》




玲子ちゃんのその一言で期待は裏切られたと確信した私。




「やっぱり……」




《……うん。

…決まりかけてた映画の吹き替えも、CMも流星主演のドラマも全部パー。

スケジュールは白紙よ。》




厳しい現実を聞かされ、ケータイを持つ手にすら力が入らない。




「……沖田さんの芸能生活は…

…これからどうなるの??」




1秒毎に増す不安を抱えながら、なんとか問い掛けた。




《ただ一つだけ……

雑誌の取材は、オファーが来てるの。》




「本当に?!?!」




明るい兆しが見えてきたと思ったら、再び奈落の底に突き落とされる。




《でも、そのオファーは、こっちから手を引いたわ。》




「え……どうして??」




せっかく来たオファーを断るなんて……




その理由がなぜなのか、私には想像も付かない。


……と、言うより、想像できないでいた。




オファーを断ってしまったら、沖田さんの仕事は一つも無くなるじゃない…。





《雑誌の取材ともなれば、十中八九莉子ちゃんの話になる。

だから、断ったのよ。》




そうか……




納得した私は、目を伏せて頷く。




「…沖田さんの芸能界の復帰は……??」




《今のところ難しいわね。

てなワケで、明日二人で事務所に来て♪》




こんな状況だと言うのに、玲子ちゃんの最後の言葉が明るく聞こえた。




耳を疑った私は、驚きの声を上げる。




「えっ??」




《待ってるからね~♪》




「れっ……いこ…ちゃ…」




私の呼び掛けも虚しく、電話は切られてしまった。




ケータイを耳から離した私を見て、沖田さんから声が掛かる。




「女社長だったんだろ??

何だって??」




言い辛い……


だけど…


ちゃんと言わなきゃ…


……これも、仕事のうちだから。




「沖田さんのお仕事……全部無くなっちゃいました…。」




言えた。


でも……


沖田さんの顔が見れない……。




「あっそ。」





意外にも沖田さんの反応は薄く、私の方が動揺してしまう。




「ふっ…不安じゃないんですか……??」




「…別に。仕事がないんなら、アンタが仕事取って来りゃいいだろ。

アンタは俺のマネージャーなんだし。」




そうなんですけど…


そうなんですけどね??


私まだ見習いですから!!




他人事のように言った沖田さんは、素知らぬ顔。




「なるべく…頑張ります。」




…沖田さんの期待に応えられるかどうかは分からないけど……


今は、やるしかない。




「“なるべく”って何だよ。

必死こいて頑張れ。」




言葉は素っ気ないけど…


沖田さんが励ましてくれているのが分かった。


私を見る目は優しくて…


その表情はとても穏やかで…


だから私は、こう答えるしかない。




「必死で頑張ります。」




「それでヨシ。」




私の肩をポンッと叩いた後、沖田さんは、寝室へと歩き進む。




その後ろ姿は…


希望を完全に失っているようには見えなかった。





















◇◆翌日◆◇




不安でなかなか眠れなかった私はというと……




「ゲッ!!もうこんな時間じゃんっ!!!!」




目覚めたのは、なんと…お昼前。




時計を見て、バネのように飛び起き、部屋を出る。




「ネボスケ。

…どんだけ寝りゃあ気が済むんだよ。」




扉から一歩踏み出した所で、沖田さんの不機嫌な顔と鉢合わせた。




「すみません…。」




謝りながらも、彼の顔をまじまじと見ると……




「何だよ。」




「…沖田さんも、何だか寝ぼけナマコですね。」




沖田さんの目の下には、うっすらとクマがあるように見えた。




「寝ぼけ眼だろ。

俺の眼はナマコじゃねぇ。」




「ぁ…ごめんなさい。」




朝から余計に不機嫌にさせてしまった事を痛感した私。




怒らせるつもりじゃなくて、心配して言ったのになぁ……




思いながら、洗面所へと向かっていると…


ふと、ある事を思い出す。





「沖田すゎんっ!!!!」




慌てた私の呼び掛け。




「スワン??

俺は白鳥じゃねぇぞ。」




「そうじゃなくてっ!!

社長が事務所に来るよう言ってました!!」




そう。


その事を、沖田さんに、スッカリ伝え忘れていた私。




「アンタの意識の低さ、どんだけ??

注意力散漫もいい加減にしてくれよ。」




「嫌味は、車の中で聞きますからっ!!!!とにかく、さっさと用意して下さい!!!!」




「“さっさと”だと??

嫌味でも何でもねぇだろ。

元々アンタが言い忘れたんだろが。」




「いいから早くっ!!!!」




















支度を終えた私たちは、専用の車に乗り込む。




「……ったく。」




車が走り出して間もなく、沖田さんは不機嫌な息を吐いた。




「すみません…。」




反省して頭を下げると、お決まりの嫌味がぶつけられる。




「アンタの得意な事って何なワケ??

俺、アンタのお粗末な所しか見てねぇんだけど。」





確かに…。


私は、出会ってから沖田さんに良い所を見せていないかもしれない。




「でも、沖田さんの緊張を解すのは私が一番上手いと思いますよ??」




記者会見の前に、ホテルの一室で沖田さんの頭を撫でた事を思い出しながら言った。




「うっせ。」




沖田さんは、短く言葉を切ると、窓の出っ張りに頬杖をついてソッポを向く。




「照れてます??」




彼の表情が分からない私は、窺うように身を乗り出して問い掛けた。




「そんなんじゃねぇし。

つか、近寄るな。」




沖田さんに肩を押され、元の位置に戻った私。




照れてるな。


うん。


絶対照れてる。




声に出さずに、心の中で呟いては、笑いを堪える。




きっと…


子供のように甘える沖田さんが、本当の沖田さんで。


仕事中の彼は自分を強く見せようとしてるんだ…。


それって影の部分の努力なんだろうなぁ…。




そんな事を思いながら、車に揺られる私だった。











事務所に到着して、例のごとく社長室で玲子ちゃんを待つ。




「お待たせぇ~♪」




数分後、会議を済ませた玲子ちゃんが、明るい声で入って来た。




「何なんだよ。

そのテンション。」




そんな玲子ちゃんを見た沖田さんは、呆れ気味に肩をすくめた。




「流星の仕事がなくなっちゃいましたぁ~!!

アッハッハッハッ(笑)」




元気に笑い、豪快にソファーに座った玲子ちゃん。




どうしてそんなテンションでいられるのかは分からないが、それもこれも自分の責任なので、私は口が出せない。




「…可笑しくもねぇのに何笑ってんだよ。

気持ち悪りぃ。」




沖田さんは容赦なく玲子ちゃんに悪態を突いている。




「てなワケで、二人には高校生に戻ってもらいまぁ~す♪」




ニコニコと目を細めて言い放った玲子ちゃんに、私は問い返す。




「学校に行くって事?!?!」




「うん♪莉子ちゃんも、流星の通ってる学校に行ってもらいます♪」





首を横に傾けて、お茶目に笑う玲子ちゃんだが、私はそれが解せない。




「ちょっと待って!!

私、前に行ってた学校が……」




「大丈夫♪♪♪

手続きはしといたから♪」




私の言葉を遮った玲子ちゃんは、満足げに親指を立てた。




いや……


そうじゃなくて。


私…転校するんですか?!




「やめとけ。抵抗しても無駄だ。

アンタも知ってんだろ??

あの女社長の強引さ。」




私を制した沖田さんが、玲子ちゃんを顎で差す。




「そうですけど……」




その後に続ける言葉を探していると……




「ハイ♪これ、莉子ちゃんの制服ね♪

明日からファイト♪」




「えぇっ?!?!

明日からっ?!?!」




心の準備もできないまま、真新しい制服を手渡された私。




「こういうのは、早い方がいいのよ♪」




人の気も知らない玲子ちゃんは、“バチン”とウインクをして言った。




「学校とか久々だな。」




沖田さんは、動揺している私を無視して、学校に思いを馳せている。





















事務所からの帰りの車の中。




「………。」




重苦しく、どんよりとした空気が、私を包んでいた。




「どうしたんだよ。

大人しいじゃん。」




事務所を出てから何も話さない私を察したのか、沖田さんが口を開いた。




「……何でも…ありません…。」




笑顔を作って言おうとしたものの、それに失敗してしまう私。




「…何でもねぇんなら、その負のオーラを何とかしろよ。

辛気臭せぇな。」




そんな嫌味もスルーできる程、今の私は困惑していた。




新しい学校か……


うまくやれるかな…




幼稚園から高校まで地元だった私は、新しい土地と言う、言い知れぬ不安に襲われている。




東京の学校って、めちゃくちゃ都会チックなのかなぁ……




不安は期待に変わる事はなく、何とも言えない気持ちで、一日が過ぎて行った。





















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