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泣き虫男は俺様アイドル  作者: 陽芽子
7/24

初仕事でして





















◇◆翌日◆◇




慌ただしく身支度を済ませ、私は今、沖田さんと車で記者会見場に向かっている。




昨夜の沖田さんの冷たい態度に、私は言わずもがな気まずさを感じていた。




何か喋った方がいいのかな……




そう思った時、沖田さんにまだ伝えていない言葉があるのを思い出した私。




「沖田さんっ!!!!」




「何だよ。車ん中、狭いんだから。

デケェ声出すな。」




しまった……


つい、力んじゃって…




「…すみません。

あの…お洋服、ありがとうございました。」




緊張感からか、膝の上で握った拳を見ながら頭を下げた。




「………。」




だが、いくら待っても、沖田さんの反応がない。




「あの……」




気になって顔を上げると、それと同時に、彼は何かに弾かれたように顔を背ける。




「ベラベラ喋りやがって。

……あの女社長め。」




「………??」




沖田さんの呟きは、私の耳に届く事はなかった。





―――暫くして。




「お疲れ様でした。」




運転手のその言葉を合図に、私は車を降りて、反対側のドアに回る。




「沖田さん!!

ホテルに着きました!!

起きて下さい!!」




ドアを開けると、沖田さんの体を揺らして呼びかけた。




「……ん??」




車中、沈黙が続いていたかと思ったら、沖田さんはいつの間にか眠っていたのだ。




「着きましたよ!!」




私がもう一度言うと、彼はハッとして目を覚ます。




「爆睡してた……。」




今から記者会見だというのに、爆睡できる沖田さんの神経の図太さを分けて欲しい。




「行きますよ!!」




車から降りるように促して、ホテル内に入った。




すると、瞬く間に周りが騒ぎ立てる声が聞こえてくる。




「見て見て!!」




「沖田 流星じゃん!!」




「マジ?!?!」




「本物?!?!」




ヤバイ……


パニックになりかけてるよ……




どうしたものかと視線をさまよわせていると……





「莉子ちゃん!!」




ロビーで、私たちを待ちかねた玲子ちゃんが手招きしていた。




「沖田さん。

あちらに社長がおりますので……」




「見りゃ分かるっつの。」




伝えたものの、アッサリとかわされてしまった。




「二時間後に、大広間で記者会見よ。

遅れないでね。

それまで流星はホテルの部屋で休むように。」




「ラジャー。」




玲子ちゃんからの、連絡事項に軽く答えた沖田さんは、一人ホテル内のエレベーターに足を向けて進む。




私はと言うと、何をすればいいのか分からず、そのまま立ち尽くしていた。




「莉子ちゃんは、流星に付いててあげて??」




玲子ちゃんの声がして、沖田さんの背中から玲子ちゃんに視線を変える。




「……え??」




「アイツ、多分緊張してるから。」




苦笑気味に言った玲子ちゃんを見て、やっぱり凄いなぁと思う。




サングラスをかけて平然としているように見える沖田さんの表情も、玲子ちゃんは見抜いているんだ……。





そのまま沖田さんを追いかけて、同じエレベーターに乗った。




「何で着いてくんの。」




エレベーターと言う狭い箱の中で、いつもよりも大きく沖田さんの声が響く。




「社長命令です。

沖田さんに付いてるようにって。」




沖田さんを見ないまま、エレベーターのボタンに向かって言った私。




「あっそ。」




そう言っている間にも、エレベーターは指定された階で動きを止めた。




「1006号室です。」




「言われなくても分かってるって。」




沖田さん……


いつにも増してイライラしてるような…




嫌な動悸が胸を打つ中、部屋へと移動していると……




「……沖田 流星さんですよね??」




ファンとも取れる女の人の声に、私と沖田さんの足が止まる。




「そうですけど。」




沖田さんが言い迷う事なく答えると、女の人が沖田さんと距離を詰めた。




「サインもらえますか??」




「喜んで。」




純度100%の営業スマイルで、女の人にサインを書き渡した沖田さん。





「ありがとうございました!!」




女の人は、そのサインを胸に抱え、照れ笑いを浮かべながら去って行く。




それを見送った後、沖田さんは顔を歪めた。




「面倒臭せぇ。」




ファンの夢を平気で壊す人だな。


二重人格にも程がある。




「沖田さん、行きましょうか。」




「あぁ。」




そうして……


ようやくホテルの部屋へ入室したのだった。










部屋へ入ってすぐ、沖田さんは今日読み上げるのであろう原稿に目を通している。




「何か飲み物、お持ちしましょうか??」




「いらね。」




短く答えて、またブツブツと口を動かす沖田さん。




手持ち無沙汰で、何もする事がない私は、ホテルの天井を仰いでいた。




一泊、ウン十万円もする高級ホテルのスウィートルームなのに……


沖田さんともなれば、ただの休憩室なのか……




関心していると、疲れきったような彼の声が飛んでくる。




「…やっぱ、お茶持ってきて。」





“はい”と返事をするより先に、私は冷たい麦茶を沖田さんに差し出した。




「どうぞ。」




無難に麦茶を選んだものの、沖田さんの眉は、寄せられている。




「麦茶じゃなくて緑茶。」




不機嫌に言われて、肩を強ばらせながら緑茶を用意するが……




「はい、どうぞ。」




「やっぱり紅茶。」




「………。」




飲み物だけで、どんだけ私を振り回すんだ。




「早くしろ。」




「ハイ。紅茶です。」




「やっぱりコーヒー。」




「………。」




この人……


絶対私で遊んでる。




「お待たせしました。

コーヒーです。」




「やっぱ麦茶。」




一周回って麦茶じゃないかっ!!!!




「いい加減にして下さいよ沖田さんっ!!!!」




私が大声を張り上げると、沖田さんが歯を見せて爽やかに笑う。




「いつツッコむかと思ってた(笑)」




そんな風に笑われたら…


怒る気もなくなるよ…


沖田さんはズルイ。





「……もぉ。」




頬を膨らませていると、沖田さんが麦茶を受け取ったと同時に、彼の手が私の手に触れる。




うひょっ!!!!




心の中で、情けない声を上げた私。




こんな事で一々動揺していたら、身が保たない事は分かってる。




分かってるのに……




「アンタのお陰で、緊張がほぐれた気がする。」




その後の優しい言葉は、反則だ。




「よよよ良かったです。」




目線を床の一点に絞って言うと、私の動揺の言葉を聞き逃さなかった沖田さんが、私に近付いて来る気配がする。




「…今度はアンタが緊張してる??」




その声を聞くより早く、彼の足元が視界に入った。




「そりゃ…緊張します。

初仕事ですし……。」




視線を上に向ける事なく声を出すと、沖田さんに両頬を手のひらで包まれて、上を向かせられる。




「…本当は……俺も昨日寝れなかった。」




そう言っている沖田さんの瞳が、ユラユラと揺れているのが分かった。





それから暫くの間、時間が止まったように、お互いに見つめ合う。




「………。」




「………。」




はっ!!!!


いかんいかん!!


何をムードに流されているんだ私っ!!!!




「…沖田さんなら大丈夫ですよ。」




やっとの事で声を出し、私の頬に触れる沖田さんの手を取った。




「莉子……。」




彼は私の名前を息吐くように呼ぶと、名残惜しそうに手を離す。




てか……今…


“莉子”って言った??


“チンチク莉子”じゃなくて??




呼び方が変わっただけで、心臓が口から飛び出しそうになる。




「大丈夫です。

自信を持って下さい。

何かあったら、ちゃんとフォローしますから。」




いつも横柄な沖田さんの姿が、今だけは小さく見える気がした。




「カッコ悪りぃ。

誰にもこんな姿見せた事ねぇのに……」




え……


じゃあ…


こっちが本物の沖田さんなの…??




いくつものスキャンダルをかいくぐっているはずの沖田さんが、急に弱気になっていく。





「弱いのはカッコ悪い事じゃありませんよ。」




「え??」




頭を垂れている沖田さんが、私の言葉に顔を上げた。




「今の沖田さんの方が、人間らしい気がします。」




笑顔を向けて言うと、彼の表情が柔らかくなる。




「頭撫でて??」




「へっ??」




沖田さんらしからぬ発言。




「もっかい…大丈夫だって言ってよ。」




「おっ沖田さん?!?!」




「お願い。」




今まで、命令口調の彼としか接した事がない私は、この上なく困惑する。




沖田さんにお願いされるとは……




心の中で呟きながら、震える手で沖田さんの髪に触れる。




「大丈夫ですよ。

沖田さんは一人じゃないです。」




見た目通りの、彼の柔らかい髪の毛が、私の指に絡んだ。




「ありがと。」




やだ……


そんな上目遣いで言われたら……




ズキューーーン!!!!




私の心臓は、一発の恋の銃声で射抜かれるのだった。











「そろそろ移動しますよ。」




散々沖田さんに頭を撫でさせられた私は、腕時計を見て彼に時間がきた事を告げた。




「分かったよ。急かすな。」




切り替え早っ!!!!


もう、いつもの沖田さんだ……。




部屋を出て、大広間までの廊下を歩く。




「…もう緊張してませんか??」




私より遥かに高い位置にある沖田さんの顔を見上げて、問い掛けた。




「緊張してるように見えるんなら、アンタの目は節穴だな。」




さっきまでの沖田さんはどこへやら。


この人、本当に二重人格なんじゃないの??


この私のプライスレスなときめきを返せっ!!!!




やがて、大広間に着いて、いよいよ緊張が高まる私。




「着きました。」




「一々報告すんな。

デカデカと“大広間”って書いてあんだから馬鹿でも分かるだろ。」




うん。


この調子なら大丈夫。




沖田さんの態度を見て、言うまでもなくそう思った私だった。





大広間に入ると、それはそれは沢山のカメラのフラッシュが、沖田さんに向けられる。




それに全く動じる事なく椅子に座った沖田さんに、雑誌社や報道関係の質問がわんさと飛んだ。




「動画に映っている女性との関係は?!」




「沖田さんが、無理矢理連れ去ったように見えますが!!」




「無理矢理連れ去って、どうなさるおつもりだったんですか?!」




そんな中……




「ただいま、事実関係をお話しますので、質問は後にお願いします…。」




社長である玲子ちゃんの声が、マイクを通して響いた。




沖田さんはマイクを片手に取ると、冷静な口調で話し出す。




「今回、皆様をお騒がせしましたが……

…僕と彼女の関係は…

…あくまで、タレントとマネージャーの関係です。」




背筋をピンと伸ばして、周りを一巡しながら言った沖田さん。




そんな沖田さんの言葉を、信じられないと言った様子のマスコミから、次々と声が上がる。





「マネージャーさんと、沖田さんの間で何があったんですか?!」




「手を繋がなければいけなかった事情とは?!」




「本当はお付き合いされているんじゃないんですか?!」




すると、玲子ちゃんは私に目配せをする。




こっ…このタイミングでか…。


…分かってはいたけど、物凄く緊張する。




玲子ちゃんの目配せを受けた私は、沖田さんの隣に座った。




大丈夫。


昨日一杯練習したし。




「……っ?!?!」




沖田さんは、驚くように肩を揺らして私を見ている。




それもそのはず。


今日私が記者会見の場で顔出しする事を、沖田さんは知らないから。




私は、意を決して沖田さんからマイクを取る。




そして……




「どうもこんにちは。

沖田 流星のマネージャーの、藤瀬と申します。」




報道陣に向かって一礼した。




頭を上げて、そのまま話し続ける。




「動画に映っているのは、紛れもなく、私です。」





私が言うや否や間髪入れずに、次々とカメラのフラッシュが私に向けられた。




「いつからマネージャーになられたんですか?!」




丁寧に答えていたらキリがない質問。


おまけに、照明の熱さや、カメラのフラッシュで、目が回りそうになる。




「えっと…マネージャーになったのは……先週……からでして…」




目を虚ろにさせながらも、何とか答えた。




「本当に、沖田さんとの男女関係はないんですか?!」




「ありま……せん。

…私は……見習いの……マネージャーで…

……仕事で…パニックを起こして…しまい……」




あれ……??


この後……何て言うんだっけ……。




考えるが、思考が途切れてしまう。




「おい。」




隣で小さく沖田さんが私を呼ぶ。




「………。」




あんなに近くで聞こえていたカメラのシャッター音が、遠のいていく……




そう思った次の瞬間……




私の視界は真っ暗。




自分でも、何が起こったのか分からなかった。





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