月日は流れました
◇◆3年後◆◇
月日の経過とは早いもので、高校を卒業した私は、東京に出て一人暮らしを始めた。
今の仕事はと言うと……
「そこのCD並べといて。」
「はい。」
「それが終わったら売り場の整理と掃除ね。」
「はい。」
「店頭の掃除もよろしく。」
「分かりました。」
都内のCDショップで、アルバイトをしている。
いわゆる、フリーターだ。
でも、仕事は楽しい。
沖田さんのCDが出る度に、お店にお客さんが集まる。
彼のCDを手にして笑顔で帰って行く人たちを、何人も見てきた。
来月は、沖田さん初の、音楽DVDが出る。
私は、店頭に告知してある、沖田さんの大きなポスターを見上げた。
予約だけでも凄い数だったなぁ……
遠くで彼を見守ると決めた私。
このCDショップでアルバイトを始めたのも、沖田さんを応援したい気持ちからだった。
仕事を忘れ、色んな思いを巡らせながら、ポスターを眺めていると、私の後ろで誰かが立ち止まった気配がする。
「あ……すみません。
すぐに退きますから。」
反射的に、自分が邪魔になっているんだと思い、掃除道具を持ち直した私。
すると、私の背後にいたサングラスの男性が声を放つ。
「キミって、沖田 流星のファンなんだ??」
私に掛けられた声のような気がして、ふと立ち止まった。
「えっと……ファンっていうか……
まぁ…ハイ。
そんな感じです。」
愛想笑いで答えて、店内に踵を返そうとすると……
「俺、沖田 流星に似てるって言われるんだよね。」
「……えっ??」
軽く受け流すつもりだった会話なのに、男性のその一言につい反応してしまう。
再び振り返って見ると、そこにいたのは……
「気付けよバァーカ。
これだからチンチク莉子は。」
私を“チンチク莉子”と呼ぶのは、あの人しかいない。
ずっと会いたかった人。
会いたくても会えなかった彼。
「……おっ?!?!
おきっ……?!?!」
サングラスを外して、私に笑いかけている彼。
驚きで名前も言えない。
「…相変わらずデケェ声だな。」
ハッとして周りを見ると、私は注目の的。
「ぉおっ…おっきなハエが!!!!
ははは(笑)
なんちゃって……」
「余計目立ってんだろが。」
取り繕うとした私の手を取った沖田さんは、もう片方の手でサングラスをかけ直すと、グイグイと私を引っ張った。
「ちょっ!!私、バイト中なんですけどっ!!!!」
「ギャーギャー煩い。」
腕が千切れるんじゃないかと思うくらいに強く引かれ、私はされるがまま。
気付けば、薄暗い地下の駐車場に連れられていた。
「お……沖田さん??」
「乗れよ。」
そう言って、沖田さんは運転席に乗り込む。
「子供が運転しちゃダメだって!!」
「アホっ!!もうすぐ俺はハタチだハタチ!!」
あ……
そっか。
あの時から、彼との時間は止まったままで……
「…お邪魔します。」
「ん。」
もう私たちは…
お互い二十歳になるんだ。
ドキドキしながら助手席に乗ると、彼の匂いがして、懐かしい気持ちになる。
「免許、いつ取ったの??」
「先週。」
「へっ??」
「人乗せんの、アンタが初めて。」
「ウソっ?!?!」
「嘘偽りナシ。」
「危ないんじゃ……」
「出発進行。」
「ぎゃあぁぁああ!!!!
絶対事故るぅううぅ!!」
「縁起でもねぇ事言うんじゃねぇ!!」
―――沖田さんの運転は、意外に快適で、私たちは難なく移動する事ができた。
「ここは??」
車から降り立って、見上げた先には、それはそれは豪華な一軒家が…。
「俺ん家。」
サラリと答えた沖田さん。
私の心中は驚愕で、声も出なかった。
家の中に入って、辺りをキョロキョロ見回す私に、沖田さんは“落ち着きねぇな”と言って軽く頭を小突く。
「スゴイとこに住んでるんだね。」
関心の気持ちをそのまま言葉にした私。
「去年買ったんだけど…
ほとんど帰ってきてねぇ。」
「そうなんだ。」
…って事は……
忙しい仕事の合間に私に会いに来てくれたのかな……。
そんな事聞いたら、絶対に“自惚れんじゃねぇ”とか言われるんだろうな…。
頭の中で回想していると、沖田さんがテーブルにお茶を出す。
それを見受けた私は思わずギョッと目を見開いた。
「何だよ。
…俺だって客に茶くらい出すっつの。」
私の態度が気に食わなかったのか、沖田さんは不機嫌に眉をひそめている。
「いや…沖田さんが私にお茶なんて……」
言葉の先に詰まっていると、沖田さんがティーカップを引っ込めた。
「いらねぇなら飲むな。」
「飲みます飲みます!!
…相変わらず短気だなぁもぉ。」
お茶を飲みながら、静かな時間を過ごす私と沖田さん。
「あのさ……」
沈黙に耐えきれないと言った様子の沖田さんが、口を開いた。
「……??」
声に反応して沖田さんを見ると、私を見ずに彼は話を続ける。
「アンタ、あの店で何してんの??バイト??」
唐突に尋ねられて、私は視線を泳がせた。
「ぅ…うん。」
就職も進学もしないで、バイトしていますとは、胸を張って言える事じゃない。
「あっそ。」
だが、彼は気に止める事なく、気のない返事をした。
「そっ、それだけ??」
もっと馬鹿にされると思ってたのに……
「別に。俺だって芸能界に入ってなかったら今頃どこで何やってるか分かんねぇよ。」
何気ない会話だけど、こういうのが本当に嬉しい。
もっと彼と話がしたい。
三年分を埋めるような…
そう思わせるような一時だった。
嬉しい事や、楽しい事、幸せな事が多ければ多い程、その分の思い出は大きな痛手になる。
だけど…
私は今日彼に再会して思った。
私は、あの時の痛手を、ちゃんと乗り越えているんだと。
―――図々しい事に夕食までご馳走になった私は、そろそろ帰ろうとしていた。
「お邪魔しました。」
「はぁ??」
え……??
この場合の挨拶って…
…“お邪魔しました”で間違ってないよね??
キョトンと沖田さんを見つめ返すと、質問が飛んでくる。
「…アンタ、その格好で帰んの??」
上から下まで私を直視する沖田さん。
「あ……。」
…バイト先の制服のまま来ちゃったんだった……
しかも、財布もケータイもない…。
「バァーカ。」
「う゛っ……」
私って…
何年経っても変わらないなぁ……。
沖田さんも絶対そう思ってる……
「泊まってけ。」
……って…
「えぇぇええっ?!?!」
この人は…
また私がドキドキするような事を…
「驚くツボが分かんねぇんだけど。
つか、何か変な妄想とかしてるワケ??」
「しっ…してないっ!!!!」
うぅ……
この状況、久しぶりだから動揺しちゃう…
「どうすんの。
帰んのか泊まんのか。」
でも、優越感に浸る彼を見ていると、悔しくなるのもまた事実。
「自力で帰ります。」
「…本物の馬鹿だろ。
アンタのバイト先まで、何駅あると思ってんだよ。」
「それでも帰るもん!!」
「…道に迷うのがオチだ馬鹿。」
「馬鹿馬鹿言うな!!」
「アンタに一番お似合いの言葉だろ。」
玄関に続く廊下で、二人して押し問答をしていると……
「あらあら。仲良しさんねぇ。」
嫌味を含んだ女性の声がして、沖田さんと同時に相手を見た。
「女社長!?!?」
「玲子ちゃん?!?!」
沖田さんと私は、見事にピッタリと声を重ねてしまう。
「玄関開いてたわよ。
戸締まりくらいちゃんとしなさい。」
玲子ちゃんは何事もなかったように、家の中に入って来た。
「…オイ。玄関開いてるからって、入って来んなよ。
不法侵入者め。」
沖田さんは、ズカズカと入って来る玲子ちゃんに諦めた様子。
「この家の頭金を出したのは誰??
このアタシよ。」
玲子ちゃんはソファーに腰を落ち着けると、フッと勝ち誇った笑みを見せた。
「…その金はもう返したろーが。」
「誰かサンと一緒に住みたいって泣きついてきたクセに(笑)」
「ベラベラ喋んじゃねぇよ。
……テメェみてぇのを、口から先に生まれたっつーんだよアホんだら。」
そうかぁ…。
沖田さんも、一緒に住みたい人ができたのかぁ。
「ヒドイ言われようなんですけどぉ。
莉子ちゃん、どう思う??」
拗ねた口調で、玲子ちゃんが私に話を振った。
「え??…あぁ。
沖田さんのあの言い方は、今に始まったワケじゃないし…」
少し遠慮がちに言ってはみるものの、沖田さんはギロリと私と玲子ちゃんを視線で突き刺す。
沖田さんの痛い視線にはお構いなく、玲子ちゃんは明るく笑って言った。
「愛の巣っていう響き、いいわねぇ♪
若さとエロスが満ち溢れてるわ♪」
若さは良しとして…
エロスはどうかと…
玲子ちゃんに、ツッコミを入れようかどうかを迷っていると、沖田さんがボソリと呟く。
「愛の巣に別の鳥が来てんじゃねぇよ。」
「え??」
聞き取れなかった私は、短く問い返しながら彼の方に視線を移す。
「……何でもねぇ。」
少しの間を置いてから、彼はそう言って、ソッポを向いてしまった。
そんな彼の背中を見つめていると、急に玲子ちゃんが騒ぎ出す。
「流星ぇ~~!!!!
ワイン出せぇ~!!!!」
「はぁ?!んなモンねぇよ。」
「んじゃ、買って来い!!」
「おいコラ。俺ぁ未成年だぞ。
…つか、アンタのパシリとかすんのヤダ。」
沖田さんが拒否の意志を示すと、玲子ちゃんの口の端が、片方だけニヤリと上がる。
「そんな事言っていいのかなぁ??
莉子ちゃんのバイト先…」
「あぁーあぁーあぁー!!
分かったよ!!
行ってくるから!!」
私の名前が出た途端に、玲子ちゃんの言葉の先を言わせまいとした沖田さん。
彼は、そのまま車のキーを持って、家を出て行ってしまった。
玲子ちゃんと二人きりになった私は、ちょこんとソファーに座り、玲子ちゃんを窺う。
すると……
「はっはっはっ(笑)!!
何だかんだ言って、流星も子供よね(笑)」
吹き出すように笑う玲子ちゃん。
「………??」
玲子ちゃんが笑っている意味も、言葉の意味も掴み損ねている私は、首を捻るばかり。
「ここだけの話よ??」
玲子ちゃんは、人差し指を自分の唇の前に立てると“バチン”とウインクをして見せた。
「え??……うん。」
“ここだけの話”に緊張する私は、やっぱり沖田さんと初めて出会った頃と変わらない。
「莉子ちゃんのバイト先ね、流星に教えたのは、アタシなの。」
なんだ。
緊張して、ちょっと損したかも。
「だからかぁ。
沖田さんが知ってるはずないのに、バイト先に来てビックリしたよ。」
緒方さんの時みたく、私を必死に探してくれてたワケじゃないんだ。
そう思うと、体の力が、スッと抜ける。
「驚かないの??」
緊張から解放された私に、玲子ちゃんは丸い目で私に問い掛けた。
私も同じように目を丸くして、言葉を返す。
「…驚く要素なんてないじゃん。」
それを聞いた玲子ちゃんは、“言葉足らずだったわね”と言って、溜め息を吐いた。
暫しの沈黙の後、玲子ちゃんが言葉を発する。
「今日ね、流星が土下座してきたの。
あのプライドの高い流星が。」
「ほえぇ~。」
よっぽどの事なんだろうと、私は驚く反面、関心して、玲子ちゃんの話に頷く。
「“莉子の居場所を教えて下さい”って、慣れない敬語まで使ってね。」
私の居場所を……??
……沖田さんが??
放心してボォーッとしていると……
“ガチャ……”
リビングの外から聞こえた物音と共に…
「たでぇーまぁ。」
沖田さんが帰って来た!!
彼の声を聞くと、体中の体温が、一気に頬に集中する。
肩を上げて視線をさまよわせる私を見るなり、沖田さんは怪訝に玲子ちゃんを見た。
「…変な事、莉子に吹き込んでねぇだろーな。」
沖田さんのその言葉を、玲子ちゃんは素知らぬ様子で返す。
「変な事って何??
別に、アンタの話なんてしてないわよ。」
玲子ちゃんが“フン”と鼻を鳴らすと、沖田さんは息を一つ吐いて、買ってきたワインを取り出す。
「これ飲んだらとっとと帰れよ。」
沖田さんがコルクを開けようとしたところで、玲子ちゃんは立ち上がった。
「やっぱり帰ろっと。」
“ポンッ”
玲子ちゃんが帰ると宣言した後、ワインのコルクがタイミング悪く、音を立てて開いてしまう。
「コ゛ル゛ァ゛!!!!
この自己中女が!!」
今にも血管が切れそうな沖田さんが、玲子ちゃんの勝手加減に怒鳴り散らした。
「じゃぁね♪」
玲子ちゃんは、何食わぬ顔で去って行く。
“バタン……”
玄関の閉まる音がした後、沖田さんは深く溜め息を吐いた。
「…あのババァ、何しに来たんだ。」
嵐のようにやって来て、嵐のように去って行った玲子ちゃんに、私も言わずもがな唖然とする。
「………。」
声を発する事もないまま、私は玲子ちゃんが去ったばかりのリビングの扉をジッと見続けた。
「ま、いっか。」
沖田さんは、思い直したように言って、真っ白なソファーにドッカリと座る。
どうすればいいのか分からず、私は立ったままで沖田さんの姿を目に映した。
「何泣きそうな顔してんだよ。」
不安が顔に出ていたのか、沖田さんが私を見て、困ったように少し笑っている。
「本当に……泊まってもいいの??」
静まらない鼓動を抑えるように、胸に手を置いて問い掛けた。
すると、沖田さんは一拍置いて言う。
「…泊まるのが嫌なら、ここで暮らせば??」
「えっ……」
私がその言葉を理解する前に、彼が私の真ん前に立つ。
「変わってねぇな。
そのキョトン顔。」
私の頬に手を置いて……
「………っ!!」
それは、一瞬の出来事だった。
「やっと手に入れた。」
沖田さんの囁きを耳元で聞いて、諦めていた気持ちと感情が、一気に戻ってくる。
「今……何…した??」
だけど……
私の記憶は曖昧で…
彼の腕の中で、必死に唇の感触を辿る。
「思い出させてやるよ。
今度は忘れらんねぇくらいにな。」
彼は、こんな私のどこを好きになったのか分からない。
聞いても答えてくれない。
けれど私は彼に嫌と言う程愛されているのが分かる。
それだけでいいって素直にそう思えるんだ。
◇◆数日後◆◇
昼下がり。
私は昼食後の食器を洗っていた。
もちろん、二人分。
「莉子ぉー。ゴリゴリ君取って。」
ソファーに座る彼から声が掛かり、いつものように返事をする。
「はいはい。」
私は食器を洗う手を止めて、冷凍庫からアイスを取り出し、そのまま彼に手渡した。
「さんきゅ。」
意外にも、この顔で好物がアイスだという彼は、冷凍庫にゴリゴリ君を常備している。
本当に好きだなぁ。
微笑ましい気持ちで彼を見てから、またキッチンに戻った私。
スポンジを手にしていると……
“トントン”
無言のまま、彼が私の肩を叩いた。
「………??」
振り返ると、アイスを口に含んだ彼が、私の首を引き寄せる。
ワケが分からないまま、そのまま彼の顔が近付いて来て……
彼の口の中にあったアイスが、私の口に移動した。
こっ…これはっ……
口移し?!?!
真っ赤になっている私をよそに、彼は平然としている。
「あぁー冷たかった。」
アイスは冷たいやろ!!
冷たくなかったら美味しくない食べ物やろ!!
「ひょっほ!!(←ちょっと)」
一々ドキドキしてるのは私だけですかっ?!?!
いえいえ。
まだまだこれは、序の口なんだろうと思う。
もっともっとドキドキして……
もっともっと彼を好きになって……
ずっとずっと……
私は、一生アナタに恋をする。
これからも……
アナタの人生で、たった一人のマネージャーでいさせて下さい……☆
【end】
どうも、作者の陽芽子です。←ペコリ
此方のサイトでは、
『泣き虫男は俺様アイドル』
が第一作品目となりますが、まず初めに。
ここまで読んで下さった読者の皆様、
本当にありがとうございます。
私の稚拙な小説にお付き合いいただき、
感謝感謝、ただひたすら感謝です。←土下座
今回は、“アイドル”と“マネージャー”
という設定で書いてみましたが、
いやぁ、なかなか難しかったです。
それ故に、矛盾している点があるかと思いますが、
温かく見守っていただけたら幸いです(笑)
勿論、ご意見ご感想なども受け付けておりますので
こんな私で宜しければ、ジャンジャン下さい(笑)
すこぶるやる気出しますので(笑)
最後になりますが、
もう一度言わせて下さい!!
この度、私の小説を読んで頂いた読者様、
興味を持って頂いた皆様、
本当にありがとうございます。
これからも、皆様の期待に沿えるような
作品づくりをしていきたいと思いますので、
応援していただけたら嬉しい限りです。
早速二作品目に取り掛かろうと企んでますので、
そちらにも宜しければ遊びに来て下さい。
では、また皆様にお会いできる事を祈りまして…
2014・09・13 ♪♪♪陽芽子♪♪♪




